説明

カーボン・ナノチューブ・インク

噴射用のカーボン・ナノチューブ・インク溶液および方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノ粒子の堆積に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボン・ナノチューブ(CNT)の研究分野は、カーボン・ナノチューブ(CNT)の構造が電子顕微鏡法によって表された1991年以来、年々、飛躍的に成長している。カーボン・ナノチューブに対して多大な関心が寄せられたのは、その小さいナノメートルサイズの長さスケール寸法、および、非凡な化学的および物理的性質のためである。これらの独特な特性のおかげで、CNTは多くの潜在用途を有しているが、それらの用途はCNTの形成および施用方法によって制限される。ここ数年、さまざまな新しい合成手法が開発されてきた。加えて、多くの特性評価技術によっても、原子レベルにおけるその構造の分析が容易になってきており、その必然的結果として、CNTの構造−機能の関係が明らかになってきた。CNTの独特の機械的および物理的特性を裏付けるデータが存在し、非常に近い将来における多くの用途が、これらの研究から例証されている。これらの用途として、限定はしないが、走査型プローブチップ、計測器とディスプレイ用の電界エミッタ、センサー用途のためのナノ電極、および効率的な熱伝導体が挙げられる。
【0003】
その微小構造に基づいて、CNTは、2つのタイプ、すなわち、単層(single- walled)及び多層(multi-walled)のCNTに分けることができる。単層CNT(SWCNT)は、ベンゼン型の六員環の炭素原子で構成された、グラフェンシートを巻いた管状の殻である。多層CNT(MWCNT)は、中間層の厚さ(0.34nm)がグラファイトと等しい、同心円筒にグラフェンシートを巻いた束である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
CNTの研究分野は発展しているが、製造工程には、CNT用途を研究所から持ち出すにあたっての課題が存在している。CNTの量が調整された、大規模使用および高精密な堆積の方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一部の実施の形態では、有機成分、消泡剤成分、およびカーボン・ナノチューブを有するインクジェット溶液が記載される。溶液には、約0.008%未満の消泡剤成分が含まれる。
【0006】
一部の実施の形態では、カーボン・ナノチューブ層の形成方法が記載される。インクジェット溶液を基材上に噴射する。次に、その流体を溶液から蒸発させてカーボン・ナノチューブ層を形成する。
【0007】
溶液および方法の実施の形態は、次の特性を1つ以上含みうる。溶液は、さらに水を含んでもよく、ここで水は溶液の30%未満を構成する。有機成分は、ジオール、例えばプロパジオール、またはC1〜C6のアルコールなどのアルコールであって差し支えない。溶液は、約60〜80%の有機成分を含みうる。溶液は、約0.005%未満の消泡剤成分を含みうる。消泡剤成分は、非イオン化合物を含みうる。消泡剤成分は、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールなどの1種類以上のジオールを含んでもよく、その消泡剤成分は、有機成分とは異なる化合物である。溶液には、293Kにおいて、少なくとも1Pa・s(1000cP)の粘度を有する化合物も含めることができる。溶液は、5%未満のカーボン・ナノチューブ、または2%未満のカーボン・ナノチューブ、または約0.1%〜5%の範囲のカーボン・ナノチューブを含みうる。溶液は、約2〜4μN/m(約20〜40ダイン/cm)の表面張力を有しうる。溶液は、17.7℃で約1〜5μPa・s(約1〜5cP)の粘度を有しうる。溶液は、ポリマー、結合剤、樹脂、および粘着剤を実質的に含まない。溶液は、約40μmの平均直径を有する液滴の形態で噴射することができる。溶液は、ピエゾ式のドロップ・オン・デマンドのインクジェットプリンターから噴射させることができる。本明細書に記載される溶液および方法の有利な点には、次のうちの1つ以上が含まれうる。インクジェット印刷では、少量のCNTを各液滴に噴出することが可能なことから、ごく少量のCNTを使用することができる。本明細書に記載されるインクジェット方法は拡張可能であり、したがって、研究所のみならず、製造現場においても有用である。CNTフィルムが形成された後、そのCNTフィルムを有する基材を、ロール・ツー・ロール製造技術を含むさらなる工程に供することができ、あるいは、さらなる印刷された薄いフィルムを、CNTを含む組立体に追加してもよい。CNTフィルムは、電界放出用途、低出力X線管、ならびにセンサーおよび電子機器に使用されうる。CNTの層の形成により基材の強化を実現することができ、例えば、CNTの強靭な薄いコーティングを自動車の外装などの商品に加えることができる。CNTフィルムは、ポリマー、半導体、または金属など、幅広い基材に施用することができ、あるいは、有機層または生分子など、基材上の他の層に隣接させて施用することができる。基材へのCNTの噴射は、特に、化学蒸着などの他のタイプのCNT形成が、そのCNTを施用する組立体の基材または他の層に適合しない場合にも、さらに柔軟性を持たせたCNTフィルムの利用を可能にする。ごく少量の消泡剤の使用が、溶液を乾燥させた際の汚染が低レベルのCNTフィルムの形成を可能にする。
【0008】
本発明の1つ以上の実施の形態の詳細については、添付の図面および下記の記述において説明する。本発明の他の特徴、目的、および有利な点は、記述および図面、並びに特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】シリコン・ウエハー上の低密度MWCNTの電子顕微鏡写真。
【図2】シリコン・ウエハー上のCNTの電子分散分光。さまざまな図における参照記号等は元素等を表している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
インクジェット印刷を使用して、CNTの薄いフィルムを形成することができる。さらには、インクジェット印刷は、非常に正確に薄いフィルムを施用することができ、したがって、電界エミッタ、並びにセンサーおよび電子機器用のナノ電極などのCNT構造の形成に使用することができる。
【0011】
カーボン・ナノチューブを印刷するための溶液には、カーボン・ナノチューブのみならず、有機成分、および湿潤剤または消泡剤も含まれる。さらには、水も溶液の構成成分となりうる。有機成分は、エタノール、プロパノールなどのアルコールであって差し支えなく、例えば、イソプロパノール、プロパンジオール、ペンタノール、またはそれらの組合せが挙げられる。一部の実施の形態では、有機成分は、C1〜C6アルコールを含む。CNTは有機および疎水性であり、したがって、溶液のための弱い有機溶媒は、噴射溶液の3分の1を超える割合を構成しうる。実施の形態では、有機成分は、噴射溶液の少なくとも溶液の50%を構成し、例えば、60%〜80%であり、あるいは60%を超える、70%を超える、または溶液の80%を超える。
【0012】
消泡剤は、例えば2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールなどのジオール、直鎖アルコール、または非極性化合物などの非イオン化合物でありうる。消泡剤は、少量、すなわち、噴射溶液の約0.008重量%未満の量で使用することができ、例えば、噴射溶液の約0.007%、0.006%、0.005%または0.004%未満などである。消泡剤は、低極性でありうる。噴射溶液における泡の低減という利点の提供に加えて、消泡剤化合物はCNTの周囲を包み、溶液が遠心分離または超音波処理される間、消泡剤/CNTミセルを生じることにより互いに反発しあうと理論付けられる。低濃度の消泡剤は、溶液の表面張力を適切に調整すると同時に、噴射された層におけるCNTの汚染を低く保つことができる。低濃度の消泡剤は、汚染物質の除去に必要な任意の後処理の必要性を排除することができる。
【0013】
溶液に、溶液全体の粘性を増大させる成分を含めることもできる。このような成分は、293Kにおいて、1Pa・s(1000cP)を超える粘度を有していて差し支えなく、例えばグリセロールなどである。グリセロールは、溶液の約2〜40%を構成し、例えば、溶液の約5〜30%、7〜25%、10〜20%、または12〜18%などが挙げられ、例えば溶液の約15%である。
【0014】
随意的に、CNTの色素含有層が望ましい場合、色素を噴射溶液に加えることができる。色素がなければ、CNTの最終的な層は、人間の観察者には透明に見えるであろう。水は、溶液が完全に有機物およびCNTで構成されない場合に、溶液の均衡を補うことができる。一部の実施の形態では、噴射溶液は約30%未満の水を含み、例えば、約20%未満、または約10%未満などである。
【0015】
噴射溶液の表面張力は、22℃において約1〜5μN/m(約10〜50ダイン/cm)であって差し支えなく、例えば、約1.5〜4μN/m(約15〜40ダイン/cm)、1.5〜3.5μN/m(約15〜35ダイン/cm)、または約2.8〜3.3μN/m(約28〜33ダイン/cm)などである。粘度は、17.7℃において約0.001〜0.01Pa・s(約1〜10cP)であって差し支えなく、例えば、約2〜8μPa・s(約2〜8cP)、または約3μPa・s(約3cP)などである。溶液中のCNTは、多層または単層のCNTであって構わない。溶液は、約10%未満で含まれて差し支えなく、例えば、CNTの約5%、4%、3%、2%、1%、または0.5%未満などである。
【0016】
一部の実施の形態では、CNTは、DNAの塩基上に結合する。DNAの塩基上におけるCNTの結合により、らせん構造または二重らせん構造にしたがってCNTをアラインメントさせることができる。DNA塩基と比較したCNTの大きさに起因して、DNAの選択された塩基だけにCNTが結合しうる。ピリミジンまたはプリン塩基などの1つの塩基タイプに対してのみCNTが結合することにより、DNAにしたがってCNTが選択的な位置決めを可能にする。
【0017】
本明細書に記載の溶液は、米国カリフォルニア州サンタクララ所在のFUJIFILM Dimatix, Inc.から市販されているDMP−2800シリーズのプリンタのようなインクジェットプリンターを使用して噴射させることができる。DMP−2800は、すべての目的で参照することにより本明細書に援用される、2006年7月12日出願の米国特許出願第11/457,022号明細書「Fluid Deposition Device」にさらに記載されている。DMP−2800は、約21.5μmの有効径を有するノズルを備えた、ドロップ・オン・デマンドのピエゾ式プリントヘッドを用いて、約10ピコリットルの大きさおよび約40μmの直径を有するインク滴を印刷することができる。噴射溶液の成分は、ボルテックスによる混合または超音波処理などで混合することができる。次に溶液を基材上に噴射する。その後、基材上における噴射溶液の非CNT成分は、加熱または真空などによって除去することができる。40μm未満の厚さを有するフィルムなど、薄いCNTフィルムを形成することができ、例えば、約30μm、20μm、10μm、または5μm未満などである。
【0018】
随意的に、CNTを堆積後に、表面の接着処理を行なうことができる。CNTは、噴射溶液の操作、または自己会合過程などによって、能動的に操作されうる。例えば、CNTを適応させる方法として、基材の表面エネルギーの変更が挙げられる。あるいは、パターン化された親水性または疎水性の基材表面が噴射溶液をウィッキング(wicking)することによってCNTをアラインメントすることができる。アラインメントは、流体を噴射溶液から除去する前に生じさせることができる。CNTフィルムが形成された後は、CNTフィルムを有する基材は、ロール・ツー・ロール製造技術を含むさらなる処理に供することができ、あるいはCNTを含む組立体にさらなる印刷された薄いフィルムを追加することもできる。CNTの非接触堆積、すなわち印刷は、リソグラフィー、化学エッチング、およびレーザーアブレーションなど、他の製造技術と組み合わせることが可能な付加加工である。
【0019】
インクジェット印刷を用いると、少量のCNTを各液滴の形態で排出しうることから、非常に少量のCNTが使用されて構わない。本明細書に記載のインクジェット法は拡張可能であり、したがって研究所のみならず製造現場においても有用である。CNTフィルムは、電解放出用途、低出力X線管、並びにセンサーおよび電子機器に用いて差し支えない。CNT層の形成は、例えば、CNTの強靭な薄いコーティングを、自動車の外装などの商品に加えるなど、基材の強化を実現することができる。CNTフィルムは、ポリマー、半導体、または金属など、幅広い基材に施用することができ、あるいは、有機層または生分子など、基材上の他の層に隣接させて施用することもできる。基材へのCNTの噴射は、さらに柔軟性を持たせたCNTフィルムの利用、特に化学蒸着など、他のタイプのCNT形成が、CNTが施用される組立体の基材または他の層に適合しない場合における施用を可能にする。
【実施例】
【0020】
噴射流体は、約0.5〜2μmの長さを有する、Aldrich Chemicals社から入手したMWCNTを使用して形成した。エマルションを、1%のMWCNT、0.009%のSurfynol 104PA(Air Products, Inc.社製)、69%のプロパンジオール(Sigma Aldrich社製)および水を使用して調製した。エマルションを、高速で断続的にボルテックス混合することにより、室温で2時間混合した。エマルションは、2.88μN/m(28.8ダイン/cm)の表面張力を有し、17.7℃における粘度は3μPa・s(3cP)であった。エマルションを、FUJIFILM Dimatix, Inc.製のDMP-2800を使用して、シリコン・ウエハー上に噴射した。噴射後、シリコン・ウエハーを真空下に置き、プロパンジオールを除去した。図1を参照すると、電子顕微鏡写真は、シリコン・ウエハーの表面の低密度MWCNTを示している。図2を参照すると、電子分散形分光器は、シリコン・ウエハー上に堆積したCNTの比較的純粋な炭素および比較的純粋なシリコンの信号を与えている。低濃度の消泡剤が比較的純粋な炭素およびシリコンの信号を可能にしたと考えられる。
【0021】
本発明の多くの実施の形態について説明してきた。とはいえ、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、さまざまな変更がなしうるものと理解されよう。したがって、他の実施の形態も添付の特許請求の範囲内にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機成分と、
消泡剤成分と、
を含む噴射溶液であって、
前記溶液が、約0.008%未満の消泡剤、およびカーボン・ナノチューブを含むことを特徴とする、溶液。
【請求項2】
前記溶液がさらに水を含み、前記水が前記溶液の30%未満を構成することを特徴とする請求項1記載の溶液。
【請求項3】
前記有機成分がアルコールであることを特徴とする請求項1記載の溶液。
【請求項4】
前記アルコールがジオールアルコールであることを特徴とする請求項3記載の溶液。
【請求項5】
前記アルコールがプロパンジオールであることを特徴とする請求項3記載の溶液。
【請求項6】
前記アルコールがC1〜C6アルコールであることを特徴とする請求項3記載の溶液。
【請求項7】
前記溶液が消泡剤成分を約0.005%未満の量で含むことを特徴とする請求項1記載の溶液。
【請求項8】
前記消泡剤成分が非イオン化合物を含むことを特徴とする請求項1記載の溶液。
【請求項9】
前記消泡剤成分が、1種類以上のジオールアルコールを含み、前記消泡剤成分が、前記有機成分とは異なる化合物であることを特徴とする請求項1記載の溶液。
【請求項10】
前記消泡剤成分が、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールを含むことを特徴とする請求項1記載の溶液。
【請求項11】
前記溶液が、前記有機成分を約60〜80%の量で含むことを特徴とする請求項1記載の溶液。
【請求項12】
293Kにおいて少なくとも1Pa・s(1000cP)の粘度を有する化合物をさらに含むことを特徴とする請求項1記載の溶液。
【請求項13】
前記溶液が、前記カーボン・ナノチューブを5%未満の量で含むことを特徴とする請求項1記載の溶液。
【請求項14】
前記溶液が、前記カーボン・ナノチューブを約2%未満の量で含むことを特徴とする請求項13記載の溶液。
【請求項15】
前記溶液が、
約60〜80%の量の前記有機溶媒であって、プロパンジオールを含む前記有機溶媒と、
約0.001〜0.008%の量の前記消泡剤成分であって、2−プロパノールおよび2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールを含む前記消泡剤成分と、
約0.1〜5%の量の前記カーボン・ナノチューブと、
を含むことを特徴とする請求項1記載の溶液。
【請求項16】
前記溶液が、約2〜4μN/m(約20〜40ダイン/cm)の表面張力を有することを特徴とする請求項1記載の溶液。
【請求項17】
前記溶液が、17.7℃で約1〜5μPa・s(約1〜5cP)の粘度を有することを特徴とする請求項1記載の溶液。
【請求項18】
前記溶液が、ポリマー、結合剤、樹脂、および付着剤を実質的に含まないことを特徴とする請求項1記載の溶液。
【請求項19】
カーボン・ナノチューブ層を形成する方法であって、
請求項1記載の溶液を基材上に噴射する工程と、
前記溶液から流体を蒸発させて前記カーボン・ナノチューブ層を形成する工程と、
を有してなる、方法。
【請求項20】
前記溶液を噴射する工程が、約40μmの平均直径を有する液滴を噴射する工程を含むことを特徴とする請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記溶液を噴射する工程が、ピエゾ式のドロップ・オン・デマンドのインクジェットプリンターから液滴を噴出する工程を含むことを特徴とする請求項19記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−503243(P2011−503243A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−539442(P2009−539442)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【国際出願番号】PCT/US2007/085637
【国際公開番号】WO2008/140589
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(502122794)フジフィルム ディマティックス, インコーポレイテッド (73)
【Fターム(参考)】