説明

ガスクラスターイオンビーム加工方法および加工制御プログラム

【課題】被加工物に対するガスクラスターイオンビームの照射位置を相対的に変化させながら加工する際における被加工物の加工精度を向上させる。
【解決手段】ノズル5から噴出するガス流から、タングステンフィラメント7、引出し電極8、加速電極9を用いてガスクラスターイオンビーム10形成し、アパーチャ22を介して姿勢制御装置13に保持された被加工物21に照射して微細加工を行うガスクラスターイオンビーム加工装置100において、加工中に、ガスクラスターイオンビーム10が出射される加速電極9から被加工物21の加工点に至る距離L(ガスクラスターイオンビーム10の飛程)を一定の距離L0に制御して、ガスクラスターイオンビーム10の飛程のばらつきに起因する加工量のばらつきを抑止し、被加工物21の高精度の加工を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスクラスターイオンビーム加工方法および加工制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、光学素子や光学素子成形用金型等のように、良好な面粗度を要求される被加工物に対しては、一般的に研磨加工方法が適用されている。
しかし、この研磨加工方法は、被加工物と研磨工具との摺動によって加工表面を機械的に除去するものであり、達成できる面粗さは、中心線平均粗さRa=3〜10nm程度が限界である。また、研磨工具や研磨砥粒のばらつき、塵等の混入により研磨面にキズが発生することもあり、加工安定性は決して高いとは言えない。
【0003】
より面粗さの小さい平滑面を得るための手段として、ガスクラスターイオンビームを被加工物に照射して固体表面を超精密研磨する方法がある。被加工物へ照射されたガスクラスターイオンビームは被加工物との衝突でクラスターイオンが壊れ、その際クラスター構成原子または分子および被加工物構成原子または分子とに多体衝突が生じ、被加工物表面に対して水平方向への運動が顕著になり、表面の凸部が主に削られ原子サイズでの平坦な超精密研磨ができるものである。
【0004】
このガスクラスターイオンビームを用いた加工技術として、特許文献1(特開2005−120393号公報)に開示された技術が知られており、図12、図13を用いて説明する。
【0005】
この技術では、被加工物200に対するガスクラスターイオンビーム202の照射位置を相対的に変化させる移動手段203を設け、照射位置毎に照射時間を制御することによって除去量を制御して被加工物200の形状を修正する。そして、移動手段203では、ガスクラスターイオンビーム202の入射方向に垂直な面内での移動及びガスクラスターイオンビーム202の入射方向と平行な1つの面内での旋回が可能となっており、曲面形状を有する被加工物に対しても、目的の加工位置に対してガスクラスターイオンビーム202を垂直に照射することが可能になっている。
【0006】
この特許文献1の技術では、照射時間は以下の関係式に基づいて決定されている。
照射時間=(照射ドーズ量×照射面積×電気素量e)/(検出イオン電流量)・・・(1)
一方、ガスクラスターイオンビーム202のエネルギー密度は、ガスクラスターイオンビーム加工装置201における加速電極204から出射方向への距離(飛程)が長くなるほど小さくなることが既に知られている。
【0007】
これは加速電極204から出射したガスクラスターイオンビーム202が発散することと、クラスターイオンと真空中の残留ガスとが衝突してエネルギーを失うためである。すなわち、ガスクラスターイオンビームによる加工では、被加工物のガスクラスターイオンビームの出射方向における位置によって加工量が変化することになる。
【0008】
上述の(1)式の関係はエネルギー損失がないものとして導かれた原理式であり、これに基づいてガスクラスターイオンビームの照射時間を決定している従来例においては、ガスクラスターイオンビームの出射方向における位置によって加工量が変化するため、計算上の加工量と実際の加工量との間に乖離が生じ、形状修正が困難となったり、または形状修正に多大な加工時間を要することになる。
【特許文献1】特開2005−120393号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、被加工物に対するガスクラスターイオンビームの照射位置を相対的に変化させながら加工する際における被加工物の加工精度を向上させることが可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の観点は、被加工物にガスクラスターイオンビームを照射して加工するガスクラスターイオンビーム加工方法であって、
加工中に前記ガスクラスターイオンビームの発生部と前記被加工物の加工位置との距離を一定に保つガスクラスターイオンビーム加工方法を提供する。
【0011】
本発明の第2の観点は、被加工物にガスクラスターイオンビームを照射して加工するガスクラスターイオンビーム加工方法であって、
前記被加工物の加工位置における加工量を決定する工程と、
前記加工位置における前記加工量に応じて前記ガスクラスターイオンビームの発生部と前記加工位置との距離を加工中に変化させる工程と、
を含むガスクラスターイオンビーム加工方法を提供する。
【0012】
本発明の第3の観点は、ガスクラスターイオンビームを生成する発生部と、
前記ガスクラスターイオンビームに対する被加工物の相対的な姿勢を制御する姿勢制御装置と、
前記姿勢制御装置を制御するコンピュータと、
を含むガスクラスターイオンビーム加工装置の加工制御プログラムであって、
前記コンピュータに、加工中に前記発生部と前記被加工物の加工位置との距離を一定に保つように前記姿勢制御装置を制御する機能を実現させる加工制御プログラムを提供する。
【0013】
本発明の第4の観点は、ガスクラスターイオンビームを生成する発生部と、
前記ガスクラスターイオンビームに対する被加工物の相対的な姿勢を制御する姿勢制御装置と、
前記姿勢制御装置を制御するコンピュータと、
を含むガスクラスターイオンビーム加工装置の加工制御プログラムであって、
前記コンピュータに、前記被加工物の加工位置における加工量に応じて前記ガスクラスターイオンビームの発生部と前記加工位置との距離を加工中に変化させるように前記姿勢制御装置を制御する機能を実現させる加工制御プログラムを提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、被加工物に対するガスクラスターイオンビームの照射位置を相対的に変化させながら加工する際における被加工物の加工精度を向上させることが可能な技術を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本実施の形態の第1の態様では、被加工物の目的の加工位置に対して、ガスクラスターイオンビームが垂直に照射されるように前記被加工物の姿勢を制御しながら行うガスクラスターイオンビームを用いた除去加工方法において、ガスクラスターイオンビーム装置の加速電極と前記被加工物の目的の加工位置との距離(ガスクラスターイオンビームの飛程)を、加工中一定に保つ。
【0016】
これにより、前記被加工物の加工範囲内における加工量を均等にすることができるため、前記被加工物の形状精度を維持したまま面粗さの向上が達成できる。
また、第2の態様では、被加工物の目的の加工位置に対して、ガスクラスターイオンビームが垂直に照射されるように前記被加工物の姿勢を制御しながら行うガスクラスターイオンビームを用いた除去加工方法において、加工前の前記被加工物の形状データと目標形状データとの差分から前記被加工物の各加工位置に対する必要除去量を算出し、前記必要除去量に応じてガスクラスターイオンビーム装置の加速電極と前記被加工物上の目的の加工位置との距離を、加工中に可変に制御する。
【0017】
これにより、被加工物の形状精度を効率良く向上させつつ面粗さの向上が達成できる。
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
[実施の形態1]
図1は、本発明の一実施の形態であるガスクラスターイオンビーム加工方法を実施するガスクラスターイオンビーム加工装置の構成の一例を示す概念図であり、図2は、本実施の形態のガスクラスターイオンビーム加工装置を構成する姿勢制御装置の構成の一例を示す斜視図である。
【0018】
図3、図4、図5は、本実施の形態のガスクラスターイオンビーム加工方法および装置の作用の一例を示す説明図である。
[構成]
図1に例示されるように、本実施の形態のガスクラスターイオンビーム加工装置100は、ソースチャンバー1とメインチャンバー2によって構成されている。ソースチャンバー1は排気ポンプ3によって差動排気された真空室となっており、同様にメインチャンバー2は排気ポンプ4によって差動排気された真空室となっている。
【0019】
ソースチャンバー1の中央部にはノズル5が設けられ、ソースチャンバー1とメインチャンバー2の境界には、このノズル5と同軸にスキマー6が設けられている。
メインチャンバー2の内部には、スキマー6に対して同軸となる位置に、タングステンフィラメント7、引出し電極8、加速電極9、アパーチャ22、が順に配置されてガスクラスターイオンビーム10の発生部を構成し、さらに、アパーチャ22の後方にはベース12に載置された姿勢制御装置13が設けられている。
【0020】
ノズル5にはガスボンベ11から、たとえば、0.6〜1.0MPa程度の高圧ガスを供給する。このガスは、例えばアルゴンガス、酸素ガス、窒素ガス、SFガス、ヘリウムガスの他、化合物の炭酸ガスあるいは2種以上のガスを混合することも可能である。
【0021】
このような高圧ガスが超音速でノズル5から噴出する瞬間に断熱膨張によってガスクラスターが生成され、次にスキマー6を通過してビーム径が整えられる。スキマー6を通過するときのガスクラスターイオンビーム10は中性ビームであるが、タングステンフィラメント7の熱電子の衝突によってイオン化され、引出し電極8にて引き出される。
【0022】
次にガスクラスターイオンビーム10は加速電極9にて加速される。加速電極9の先にはアパーチャ22が配設されており、ガスクラスターイオンビーム10がアパーチャ22の開口部22aの口径に切り出された後に姿勢制御装置13の側に出射される。
【0023】
ガスクラスターイオンビーム10の照射による加工面粗さは照射角度に依存することがわかっているため、被加工物21の形状に応じて、面粗さが悪化しない範囲にのみガスクラスターイオンビーム10が照射されるようアパーチャ22の開口部22aの口径が設定されている。
【0024】
さらに、上述のようにアパーチャ22の先には被加工物21が固定された姿勢制御装置13がベース12上に配設されている。
図2には回転軸対称形状の被加工物21の姿勢制御を行う場合の姿勢制御装置13が例示されている。
【0025】
この場合、姿勢制御装置13に保持された被加工物21は、凸曲面からなる被加工面21aの頂点Pに関して回転対称な形状を呈している。
旋回ステージ14は水平面内での旋回制御が可能であり、その旋回面は、アパーチャ22から水平方向に出射されるガスクラスターイオンビーム10の入射方向と平行となっている。
【0026】
旋回ステージ14の上にはガスクラスターイオンビーム10の入射方向に進退制御可能なZ軸ステージ15が固定されており、さらにZ軸ステージ15上には旋回ステージ14の旋回面と平行な面内でZ軸と直交する方向に進退制御可能なX軸ステージ16が固定されている。
【0027】
XZ平面と垂直な方向への進退制御可能なY軸ステージ18はY軸ステージブラケット17を介してX軸ステージ16に固定されている。
なおY軸ステージ18は、ガスクラスターイオンビーム10のビーム軸中心と、被加工物21の回転中心とのY軸方向の位置合せのために用いられるものであるため、手動ステージでも構わない。Y軸ステージ18にはスピンドルブラケット19が固定され、スピンドルブラケット19には被加工物21を自転可能とするスピンドル20が固定されている。
【0028】
また、これらの構成要素からなる被加工物21の姿勢制御装置13は、演算、加工制御プログラム103の作成等を行うパーソナルコンピュータ等の制御端末101に接続された制御部102により制御される。
【0029】
制御端末101には、加工制御プログラム103を作成する機能を備えたプログラム作成ソフトウェア101aが実装されている。
制御部102は、制御端末101にて作成された加工制御プログラム103を実行することで、姿勢制御装置13の動作を制御し、この姿勢制御装置13に保持された被加工物21の後述のような姿勢制御を行う。
【0030】
制御部102は、たとえば、図示しないマイクロコンピュータを備えた数値制御装置(NC装置)からなり、加工制御プログラム103は、たとえば、制御端末101にて作成された数値制御プログラムである。
【0031】
[作用]
本実施の形態における被加工物21は回転軸対称形状であるので、ガスクラスターイオンビーム10の照射位置が自転する被加工物21の被加工面21aの子午線上を相対的に移動し、かつ目標の加工点Qに対してガスクラスターイオンビーム10が常に垂直方向から照射されるように姿勢制御を行うものとする。
【0032】
また、予めガスクラスターイオンビーム10のビーム軸中心と、被加工物21の回転中心とのY軸方向の位置は調整により一致しているものとする。
また、本実施の形態の場合、姿勢制御装置13における旋回ステージ14の旋回中心Oと、加速電極9との間の距離L0(加速電極9から旋回中心Oまでのガスクラスターイオンビーム10の飛程)は一定不変である。
【0033】
次に、被加工物21上の加工点Qに対してガスクラスターイオンビーム10を照射する際の姿勢制御方法について説明する。
図4に例示されるように、具体的にはまず、旋回ステージ14、Z軸ステージ15、X軸ステージ16がそれぞれの原点位置にあるときの旋回ステージ14の旋回中心Oと被加工物21の加工面の原点(すなわち頂点P)とのX軸方向の距離Xe、及びZ軸方向の距離Zeを把握しておく。
【0034】
図3に例示されるように、被加工物21の形状を表す設計式より、加工点Qの径方向座標、回転軸方向座標及び傾斜角度(Xw,Zw,θw)を計算する。
そして、図5に例示されるように、姿勢制御装置13のX軸座標、Z軸座標及び旋回角度(X,Z,θ)を(Xe+Xw,Ze−Zw,θw)の位置に移動することによって、加工点Qは旋回ステージ14の旋回中心Oと一致し、加工点Qの法線はガスクラスターイオンビーム10のビーム軸と一致する。
【0035】
以上の座標計算を被加工物21の加工範囲全域において所望の間隔で行って加工制御プログラム103を作成し、この加工制御プログラム103を実行する制御部102の指令により姿勢制御装置13を制御して被加工物21の姿勢制御を行う。
【0036】
すなわち、この加工制御プログラム103の実行によって制御部102が、加工中に、姿勢制御装置13に保持された被加工物21の姿勢制御を行うとき、被加工物21上の加工点Qには常にガスクラスターイオンビーム10が垂直に照射され、かつ加工点Qは常に旋回ステージ14の旋回中心Oと一致しているため、ガスクラスターイオンビーム10の照射方向の加工位置(ガスクラスターイオンビーム10の飛程)は、加速電極9から旋回中心Oに至る距離L0で、一定不変に制御される。
【0037】
また、この加工制御プログラム103による加工中の姿勢制御装置13の制御において、被加工物21の移動(送り)速度、言い換えれば各加工点Qでのガスクラスターイオンビーム10の照射時間は、上述の(1)式に従って行う。
【0038】
被加工物21の被加工面21aの全面を均等に除去加工する際は、各加工点Qにおけるガスクラスターイオンビーム10の照射時間が一定となるように、加工制御プログラム103を作成して、姿勢制御装置13による被加工物21の送り速度を制御する。
【0039】
図6は、本実施の形態1の加工制御プログラム103を生成するために制御端末101で実行されるプログラム作成ソフトウェア101aの作用の一例を示すフローチャートである。
【0040】
まず、被加工物21の被加工面21a等の形状の設計データの入力を受け付け(ステップ151)、さらに、姿勢制御装置13の旋回中心Oと、姿勢制御装置13に保持された被加工物21の原点(この場合、頂点P)との距離Xe、距離Zeの入力を受け付ける(ステップ152)。
【0041】
その後、被加工物21の被加工面21aにおける任意の加工点Qを選択し(ステップ153)、この加工点Qをガスクラスターイオンビーム10に入射方向に正対させる加工位置への移動座標(Xw,Zw,θw)を計算する(ステップ154)。
【0042】
さらに、本実施の形態では、加工点Qが、加速電極9から距離L0の位置にある旋回中心Oに一致するように上述の移動座標を補正し、(Xe+Xw,Ze−Zw,θw)として出力する。同様に、当該加工点Qにおける照射時間(送り速度)の情報も出力する(ステップ155)。
【0043】
このステップ153からステップ155までの処理を、すべての加工点Qについて実行した後(ステップ156)、(Xe+Xw,Ze−Zw,θw)の加工軌跡を実現する加工制御プログラム103として出力する(ステップ157)。
【0044】
こうして生成された加工制御プログラム103は、制御部102に転送され、制御部102がこの加工制御プログラム103を実行して姿勢制御装置13を制御することにより、上述のように、被加工物21の任意の加工点Qを、加工中、加速電極9から一定の距離L0にある旋回中心Oに常に一致するように被加工物21の姿勢を制御する動作が実現される。
【0045】
[効果]
実施の形態1の形態によれば、加工中にガスクラスターイオンビーム加工装置100の加速電極9と被加工物21の加工点Qとの距離を距離L0で一定に保つことができるため、ガスクラスターイオンビーム10の被加工物21に対する飛程の変動に起因する照射エネルギー密度のばらつきが防止され、加工点Qでのガスクラスターイオンビーム10の照射エネルギー密度は、距離L0の飛程に対応した値で常に一定となり、被加工物21の被加工面21aは均等に除去加工されるため被加工物21の形状精度を維持しつつ、被加工物21の被加工面21aを高精度に平坦化する加工を行うことができる。
【0046】
すなわち、被加工物21に対するガスクラスターイオンビーム10の照射位置を相対的に変化させながら加工する際における被加工物21の加工精度を向上させることが可能となる。
[実施の形態2]
図7、図8、図9、および図10は、本発明の他の実施の形態であるガスクラスターイオンビーム加工方法および加工制御プログラムの作用を説明する線図である。
[構成]
本実施の形態2のガスクラスターイオンビーム加工装置100の構成は上述の実施の形態1と同様であるが、アパーチャ22の開口部22aの口径は被加工物21の形状に応じて、所望の面粗さが得られる範囲にのみガスクラスターイオンビーム10が照射され、かつ被加工物21の形状修正が可能なビーム径となるように設定されている。
【0047】
[作用]
この実施の形態2では、まずガスクラスターイオンビーム加工装置100の加速電極9と加工点との距離Lと、単位照射時間t当りの除去量rとの関係を予備実験により把握しておき、図7に例示されるようなL−rデータ110として、グラフ化、又は近似式化、又はデータテーブル化しておく。
【0048】
図8は、加速電極9と被加工物21との距離を変えたときの、被加工物21の加工量を実際に測定した際のデータ(L−rデータ110)をグラフにしたものである。
このときの照射条件は、加速電圧が20kV、イオン化電流が300mA、イオン化電圧が300V、照射時間が60分の条件で被加工物21の材質はシリコンであった。
【0049】
次に、被加工物21の子午線上の変位を測定し、測定値より目標形状との誤差データを得る。得られた誤差データ120の一例が図9である。
そして図7のL−rデータ110における最大除去量と最小除去量の差Δrが、誤差データ120のP−V値Δeよりも大きくなるように、照射時間(単位照射時間t)を調整して図7の除去量分布を相似倍(正規化)する。このときの単位照射時間をt’とする。こうして図7のL−rデータ110を正規化した結果が、図10(a)に例示される正規化L−rデータ110Aである。
【0050】
そして、図9の誤差データ120の符号を反転させたデータ(単位時間当たりの除去量(加工量)は距離Lに反比例するため)に、定数δを加算して、被加工物21を形状修正するために必要な各加工点(X)での除去量R(X)を算出し、誤差補正加工データ120Aとする。ここで定数δは、除去量R(X)の最大値emaxと最小値eminが、図10(a)の正規化L−rデータ110Aの除去量分布の範囲(Δr’)に収まるように設定する。
【0051】
こうして得られた誤差補正加工データ120Aが図10(b)である。この図10(b)の誤差補正加工データ120Aは、横軸に設定された被加工物21の半径方向位置(加工点(X))と、縦軸に設定された加工点(X)に対応した除去量R(X)との関係を示す曲線である。
【0052】
以上により、各加工点Xでの除去量R(X)が得られるときの加速電極9と加工点との距離Lが求められる。
すなわち、図10(b)の誤差補正加工データ120Aにおいて得られる任意の加工点(X)に対応した除去量R(X)から、図10(a)の正規化L−rデータ110Aを用いて、当該除去量R(X)に対応する距離L(ガスクラスターイオンビーム10の飛程)を決定することができる。
【0053】
以降は、ガスクラスターイオンビーム10のビーム軸方向の距離(飛程)(この場合、加速電極9と被加工物21の加工点(X)との距離)を、除去量R(X)に対応して上述のように求めた距離Lに制御しながら、各加工点Q(加工点(X))での照射時間がt’で一定となるように、被加工物21の移動(送り速度)を制御することによって被加工物21の被加工面21aの形状が修正される。
【0054】
この場合、被加工物21の加工軌跡は、加速電極9に対する距離Lを含むため、上述の実施の形態1の場合を踏まえると、被加工物21を保持した姿勢制御装置13のX軸座標、Z軸座標及び旋回角度(X,Z,θ)を、(Xe+Xw+(L−L0)・sinθw,Ze−Zw+(L−L0)・cosθw,θw)の位置に移動することによって実現される。
【0055】
図11は、本実施の形態2における上述の姿勢制御装置13の制御を実現する加工制御プログラム103を生成するために制御端末101で実行されるプログラム作成ソフトウェア101aの作用の一例を示すフローチャートである。
【0056】
L−rデータ110の入力を受け付け(ステップ161)、さらに誤差データ120の入力を受け付ける(ステップ162)。
そして、誤差データ120の範囲に応じてL−rデータ110を正規化し誤差データ120を生成する(ステップ163)。
【0057】
さらに、ステップ162で入力された誤差データ120について、符号反転および定数δの加算によって誤差補正加工データ120Aを生成する(ステップ164)。
次に、誤差補正加工データ120Aおよび正規化L−rデータ110Aを使用して、加工点X(加工点Q)の除去量R(X)に対応して距離Lを変化させる加工軌跡(Xe+Xw+(L−L0)・sinθw,Ze−Zw+(L−L0)・cosθw,θw)を実現する加工制御プログラム103を生成する(ステップ165)。
【0058】
こうして生成された加工制御プログラム103は、制御部102に転送され、制御部102がこの加工制御プログラム103を実行して姿勢制御装置13を制御することにより、上述のように、たとえば、一定の送り速度で、加工点X(加工点Q)の除去量R(X)に対応して距離Lを変化させるように被加工物21の位置を制御する動作が実現される。
【0059】
[効果]
実施の形態2の形態によれば、ガスクラスターイオンビーム加工装置100のガスクラスターイオンビーム10が出射される加速電極9と、被加工物21の加工点Qとの距離を、当該加工点Qでの必要除去量(R)に応じて可変に制御することによって、被加工物の形状を効率良く修正しながら面粗さの小さい平滑面を得ることができる。
【0060】
換言すれば、被加工物21の加工点Qにおける除去量Rに応じてガスクラスターイオンビーム10の被加工物21に至る飛程(距離L)を変化させて加工能力を制御することで、被加工物21の送り速度を比較的大きな値に一定に制御して加工することが可能となり、被加工物21の全体の加工所要時間を短縮することができる。
【0061】
以上説明したように、発明の各実施の形態によれば、ガスクラスターイオンビーム加工装置100において加速電極9から被加工物21の加工点Qに至るガスクラスターイオンビーム10の飛程(距離L)を、一定もしくは可変に制御することによって被加工物21における加工量を安定して制御することができるため、被加工物21において形状精度が高く、かつ面粗さの非常に良好な平滑面を得ることができる。
【0062】
例えば撮像用のレンズ等の被加工物21に用いた場合には、高画質化を図ることができ光学機器等の製品の品質の向上に寄与することができる。
なお、本発明は、上述の実施の形態に例示した構成に限らず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【0063】
ガスクラスターイオンビームの飛程の起点となる発生部としては、加速電極9に限らず、たとえば、アパーチャ22、引出し電極8等の他の構成要素でもよい。
また、ガスクラスターイオンビームに限らず、一般の荷電粒子ビームを用いた加工にも適用することができる。
[付記1]
被加工物の目的の加工位置に対して、ガスクラスターイオンビームが垂直に照射されるように前記被加工物の姿勢を制御しながら行うガスクラスターイオンビームを用いた除去加工方法において、ガスクラスターイオンビーム装置の加速電極と前記被加工物の目的の加工位置との距離を、加工中一定に保つようにしたことを特徴とするガスクラスターイオンビームによる加工方法。
[付記2]
被加工物の目的の加工位置に対して、ガスクラスターイオンビームが垂直に照射されるように前記被加工物の姿勢を制御しながら行うガスクラスターイオンビームを用いた除去加工方法において、加工前の前記被加工物の形状データと目標形状データとの差分から前記被加工物の各加工位置に対する必要除去量を算出し、前記必要除去量に応じてガスクラスターイオンビーム装置の加速電極と前記被加工物上の目的の加工位置との距離を、加工中に制御するようにしたことを特徴とするガスクラスターイオンビームによる加工方法。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の一実施の形態であるガスクラスターイオンビーム加工方法を実施するガスクラスターイオンビーム加工装置の構成の一例を示す概念図である。
【図2】本発明の一実施の形態であるガスクラスターイオンビーム加工装置を構成する姿勢制御装置の構成の一例を示す斜視図である。
【図3】本発明の一実施の形態であるガスクラスターイオンビーム加工方法および装置の作用の一例を示す説明図である。
【図4】本発明の一実施の形態であるガスクラスターイオンビーム加工方法および装置の作用の一例を示す説明図である。
【図5】本発明の一実施の形態であるガスクラスターイオンビーム加工方法および装置の作用の一例を示す説明図である。
【図6】本発明の一実施の形態であるガスクラスターイオンビーム加工方法および装置の作用の一例を示すフローチャートである。
【図7】本発明の他の実施の形態であるガスクラスターイオンビーム加工方法および加工制御プログラムの作用を説明する線図である。
【図8】本発明の他の実施の形態であるガスクラスターイオンビーム加工方法および加工制御プログラムの作用を説明する線図である。
【図9】本発明の他の実施の形態であるガスクラスターイオンビーム加工方法および加工制御プログラムの作用を説明する線図である。
【図10】本発明の他の実施の形態であるガスクラスターイオンビーム加工方法および加工制御プログラムの作用を説明する線図である。
【図11】本発明の他の実施の形態であるガスクラスターイオンビーム加工方法および装置の作用の一例を示すフローチャートである。
【図12】従来技術のガスクラスターイオンビーム加工装置の構成を示す概念図である。
【図13】従来技術のガスクラスターイオンビーム加工装置における被加工物の姿勢制御を示す説明図である。
【符号の説明】
【0065】
1 ソースチャンバー
2 メインチャンバー
3 排気ポンプ
4 排気ポンプ
5 ノズル
6 スキマー
7 タングステンフィラメント
8 引出し電極
9 加速電極
10 ガスクラスターイオンビーム
11 ガスボンベ
12 ベース
13 姿勢制御装置
14 旋回ステージ
15 Z軸ステージ
16 X軸ステージ
17 Y軸ステージブラケット
18 Y軸ステージ
19 スピンドルブラケット
20 スピンドル
21 被加工物
21a 被加工面
22 アパーチャ
22a 開口部
100 ガスクラスターイオンビーム加工装置
101 制御端末
101a プログラム作成ソフトウェア
102 制御部
103 加工制御プログラム
110 L−rデータ
110A 正規化L−rデータ
120 誤差データ
120A 誤差補正加工データ
L 加速電極9から被加工物21の加工点Qに至る距離
L0 加速電極9から姿勢制御装置13の旋回中心Oまでの距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物にガスクラスターイオンビームを照射して加工するガスクラスターイオンビーム加工方法であって、
加工中に前記ガスクラスターイオンビームの発生部と前記被加工物の加工位置との距離を一定に保つことを特徴とするガスクラスターイオンビーム加工方法。
【請求項2】
請求項1記載のガスクラスターイオンビーム加工方法において、
前記距離は、前記発生部を構成する加速電極と前記被加工物の前記加工位置との距離であることを特徴とするガスクラスターイオンビーム加工方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載のガスクラスターイオンビーム加工方法において、
前記被加工物の前記加工位置に対して、前記ガスクラスターイオンビームが垂直に照射されるように前記被加工物の姿勢を制御することを特徴とするガスクラスターイオンビーム加工方法。
【請求項4】
被加工物にガスクラスターイオンビームを照射して加工するガスクラスターイオンビーム加工方法であって、
前記被加工物の加工位置における加工量を決定する工程と、
前記加工位置における前記加工量に応じて前記ガスクラスターイオンビームの発生部と前記加工位置との距離を加工中に変化させる工程と、
を含むことを特徴とするガスクラスターイオンビーム加工方法。
【請求項5】
請求項4記載のガスクラスターイオンビーム加工方法において、
前記距離は、前記発生部を構成する加速電極と前記被加工物の前記加工位置との距離であることを特徴とするガスクラスターイオンビーム加工方法。
【請求項6】
請求項4または請求項5記載のガスクラスターイオンビーム加工方法において、
前記被加工物の前記加工位置に対して、前記ガスクラスターイオンビームが垂直に照射されるように前記被加工物の姿勢を制御することを特徴とするガスクラスターイオンビーム加工方法。
【請求項7】
ガスクラスターイオンビームを生成する発生部と、
前記ガスクラスターイオンビームに対する被加工物の相対的な姿勢を制御する姿勢制御装置と、
前記姿勢制御装置を制御するコンピュータと、
を含むガスクラスターイオンビーム加工装置の加工制御プログラムであって、
前記コンピュータに、加工中に前記発生部と前記被加工物の加工位置との距離を一定に保つように前記姿勢制御装置を制御する機能を実現させることを特徴とする加工制御プログラム。
【請求項8】
請求項7記載の加工制御プログラムにおいて、
前記距離は、前記発生部を構成する加速電極と前記被加工物の加工位置との距離であることを特徴とする加工制御プログラム。
【請求項9】
請求項7または請求項8記載の加工制御プログラムにおいて、
さらに、前記コンピュータに、前記被加工物の前記加工位置に対して、前記ガスクラスターイオンビームが垂直に照射されるように前記姿勢制御装置を制御する機能を実現させることを特徴とする加工制御プログラム。
【請求項10】
ガスクラスターイオンビームを生成する発生部と、
前記ガスクラスターイオンビームに対する被加工物の相対的な姿勢を制御する姿勢制御装置と、
前記姿勢制御装置を制御するコンピュータと、
を含むガスクラスターイオンビーム加工装置の加工制御プログラムであって、
前記コンピュータに、前記被加工物の加工位置における加工量に応じて前記ガスクラスターイオンビームの発生部と前記加工位置との距離を加工中に変化させるように前記姿勢制御装置を制御する機能を実現させることを特徴とする加工制御プログラム。
【請求項11】
請求項10記載の加工制御プログラムにおいて、
前記距離は、前記発生部を構成する加速電極と前記被加工物の加工位置との距離であることを特徴とする加工制御プログラム。
【請求項12】
請求項10または請求項11記載の加工制御プログラムにおいて、
さらに、前記コンピュータに、前記被加工物の前記加工位置に対して、前記ガスクラスターイオンビームが垂直に照射されるように前記姿勢制御装置を制御する機能を実現させることを特徴とする加工制御プログラム。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−190068(P2009−190068A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−34374(P2008−34374)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】