説明

ガスケット構造体

【課題】安定した接着性及び優れた接着耐久性を備えたフッ素ゴム組成物からなるガスケットを備えたガスケット構造体を提供することを目的とする。
【解決手段】シール対象基材2の所定部位に接着剤層4を介して加硫成型されたゴム製ガスケット3が一体固着されたガスケット構造体1であって、上記ガスケットは、フッ素ゴム組成物からなり、上記ガスケットの上記シール対象基材との接着部位3aは、表面粗さをRa0.05μm〜10.0μm又はRz0.1μm〜50μmとする粗面化処理がなされ、その状態で上記シール対象基材に一体固着されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加硫成型されたゴム製ガスケットが接着剤層を介してシール対象基材に一体固着されたガスケット構造体に関し、詳しくはフッ素ゴム組成物からなるガスケットがシール対象基材に後接着されたガスケット構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車部品、電子機器、燃料電池部品などのシール部に、ゴム製ガスケットが接着剤層を介してシール対象基材に一体固着されたガスケット構造体を介装させ、上記シール部をシールすることがなされている。
このようなガスケット構造体の製造方法としては、主に2つの方法があり、ガスケットを所望する形状に加硫成型した後にシール対象基材にガスケットを接着する後接着による製造方法と、シール対象基材の所定部位に未加硫のゴム材を直接注入して一体加硫成型する製造方法とがある。後者の一体加硫成型による製造方法によれば、シール対象基材とガスケットとを強固に一体固着させることができるが、前者の後接着による製造方法の場合は、シール対象基材とガスケットとの接着性が劣る点が問題となっていた。
【0003】
近年開発がなされている燃料電池用のガスケット構造体におけるガスケットとしては、ガスシール性、耐冷媒性、耐酸性、低温性、耐圧縮永久歪性に優れた物性を有するフッ素ゴム組成物からなるものが好適として用いられるが、後接着による製造方法において接着性が劣る要因としては、加硫成型されたガスケットの表面に、成型金型に塗布された離型剤が付着するため、シール対象基材との接着性を阻害することが考えられる。しかしながら、離型性が悪いと生産性が悪くなるため、成型金型で成型する際に、離型剤を塗布する工程を省くことができない。
またフッ素ゴム組成物の中に加工性を改良する目的で加工助剤が配合されている場合は、加工助剤が加硫成型されたガスケットの表面層に析出しやすく、これが接着性を阻害していることも考えられる。
そこでフッ素ゴム組成物からなるガスケットを備えたガスケット構造体が自動車用の燃料電池のシール部に用いられる場合は、過酷な環境下で使用されるため、後接着による製造方法であっても強固な接着性及び長期間良好に接着可能な接着耐久性を有するガスケット構造体の開発が望まれていた。
【0004】
以下、下記特許文献1、2には、紫外線などをレーザー照射し、ゴム材を粗面化してシール対象基材との接着性を向上させたものが開示されている。
下記特許文献1には、100〜400mμの波長の紫外線を200〜8000μwhr/cmの照射量となるように照射して表面が粗面化された加硫ゴムシートを合成樹脂含浸積層シール対象基材に接着させたものが開示されている。
下記特許文献2には、紫外線照射により表面処理された加硫ゴムの被処理面に水、アルコール、カルボニル化合物、アミン又は硫黄化合物を塗布し、乾燥後、接着剤を介して他材料を接合するものが開示されている。
下記特許文献3には、シール対象基材(セパレータ)に接着剤を塗布しなくても、ガスケット(ゴム)を強固に固定することができる燃料電池用ガスケットが開示されており、上述の後者の製造方法(一体加硫成型による製造方法)に該当するものが開示されている。ここにはシール対象基材を構成する金属薄板において、メッキが施されていない部分の表面粗さを1μm〜100μmとすることにより、ガスケットの接着強度が確保できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭54−108885号公報
【特許文献2】特許第3661723号公報
【特許文献3】特開2001−332275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1、2には加硫ゴム材を粗面化処理する点は開示されているが、レーザー照射により加硫ゴム材をどの程度粗面化するのかについては記載されていない。よって粗面化することにより、接着剤との楔効果は期待できたとしても、金型成型された加硫ゴム材の表面に付着した離型剤や加硫ゴム材の表層に析出された加工助剤が付着したままであれば、安定した接着性、接着耐久性は確保できないと考えられる。
上記特許文献3は、接着剤を塗布しなくても接着強度を確保することを狙ったものであるが、過酷な条件下においてガスケットの安定した接着強度を長期に亘って確保するには、やはり接着剤が必要となることが考えられる。またシール対象基材へガスケットを直接成型するため、シール対象基材の強度が弱い場合は、シール対象基材がダメージを受けてしまうおそれがある。更にシール対象基材の表面を所定の表面粗さ(0.1μm〜100μm)とするものなので、上述のガスケットをフッ素ゴム組成物とした場合の特有の問題を解決したものではない。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、安定した接着性及び優れた接着耐久性を備えたフッ素ゴム組成物からなるガスケットを備えたガスケット構造体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明に係るガスケット構造体は、シール対象基材の所定部位に接着剤層を介して加硫成型されたゴム製ガスケット構造体が一体固着されたガスケット構造体であって、上記ガスケットは、フッ素ゴム組成物からなり、上記ガスケットの上記シール対象基材との接着部位は、表面粗さをRa0.05μm〜10.0μm又はRz0.1μm〜50μmとする粗面化処理がなされ、その状態で上記シール対象基材に一体固着されていることを特徴とする。
請求項2の発明に係るガスケット構造体のように、粗面化処理は、レーザー処理によってなされる。その他、粗面化処理は、研磨処理、ショットブラスト処理、化成処理によってなされるものとすることもできる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るガスケット構造体は、フッ素ゴムからなるガスケットのシール対象基材との接着部位が所定の範囲内の表面粗さに粗面化処理されているので、ガスケットの表面に付着した離型剤或いは表層に析出した加工助剤などシール対象基材との接着を阻害する物質を剥離し除去された状態とすることができる。よって、接着部位の粗面化による楔効果と相俟って、安定した強固な接着性及び長期間に亘って良好な接着性を確保することができる。
またこれによれば、上述のような接着性を確保できるので、ガスケット構造体が自動車用の燃料電池のシール部に用いられた場合であっても、過酷な環境下で耐え得るものとすることができる。更にガスケットがフッ素ゴム組成物からなるので、ガスシール性、耐冷媒性、耐酸性、低温性、耐圧縮永久歪性のあるガスケット構造体とすることができ、自動車用の燃料電池のガスケット構造体に好適である。そして、加硫成型されたゴム製ガスケットをシール対象基材に一体固着したガスケット構造体、すなわち後接着により形成されたガスケット構造体であるので、少ロット生産に対応することができる。
【0010】
上記接着部位の表面粗さがRa0.05μm又はRz0.1μmより小さいものとすると、上述の接着を阻害する物質(離型剤或いは加工助剤など)を完全に除去できないため、接着不良が発生する。表面粗さがRa10.0μm又はRz50μmより大きいものとすると、ゴム材の除去量が多くなり、ガスケットの寸法不良が発生する。
粗面化処理は、レーザー処理によって行うことができる。
これによれば、粗面化処理を行う部位が微細であっても、所望する箇所を精度よく且つ容易に粗面化処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のガスケット構造体を燃料電池のセパレータに適用した例を示す平面図である。
【図2】図1におけるX−X線拡大断面図であり、接着工程を示す図である。
【図3】図1におけるX−X線拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。
図中のガスケット構造体1は、自動車用燃料電池のセパレータであって、不図示の高分子電解質膜等と合体されて燃料電池構成用スタック(不図示)が構成されるものである。このガスケット構造体1としてのセパレータは、カーボンプレート或いはメタルプレート等をシール対象基材2とし、このシール対象基材2の所定部位に接着剤層(図3参照)4を介してフッ素ゴム組成物からなるガスケット3が一体固着されている。
シール対象基材2は、適所に冷媒、水素及び酸素等の媒体流通用の開口部2a・・・を複数備え、該シール対象基材2の全周囲及び開口部2a・・・の周りには環状溝(図2、図3参照)2bが形成されている。この環状溝2bの底部がガスケット3と一体固着される所定部位とされ、該環状溝2bに一体固着されたガスケット3によって、上記スタックの複数が締結合体されて燃料電池が構成された際に、上記媒体の漏出の防止が図られる。
【0013】
上記ガスケット3は、断面山形のビード状に成型金型によって予め加硫成型されており、シール対象基材2との接着部位3aは、図3に示すように後記する所定範囲の表面粗さに粗面化処理が施されている。
接着剤層4は、エポキシ樹脂接着剤或いはシリコーン系接着剤など接着剤からなるものとすることができ、熱硬化性を有したものとすれば、ガスケット3とシール対象基材2とを加熱圧着させることにより、より一層強固にこれらを一体固着することができる。
【0014】
ガスケット構造体1の製造手順としては、図2に示すように加硫成型されたガスケット3の接着部位に接着剤を塗布し、接着剤の塗布層4Aを形成した後に、シール対象基材2の環状溝2bの所定部位にガスケット3を載置して接着する手順が挙げられる。ガスケット構造体1の製造手順は、上述に限定されず、上記環状溝2bに接着剤を塗布して接着剤の塗布層4Aを形成した後に、シール対象基材2の環状溝2bの所定部位にガスケット3を載置して接着する手順としてもよい。
【0015】
粗面化処理は、レーザー処理などによって行われる。これによれば、粗面化処理を行う部位が微細であっても、所望する箇所を精度よく且つ容易に粗面化処理を行うことができる。粗面化処理する方法としては、レーザー処理の他、研磨処理、ショットブラスト処理、化成処理などが挙げられる。レーザー処理としては、ルビーレーザー、YAGレーザー、炭酸ガスレーザー、アルゴンレーザーなどによる処理が挙げられる。研磨処理としては、粉末状研磨材、ペースト状研磨材、研磨布、研磨紙、やすりなどを用いて研磨することができる。ショットブラスト処理としては、ドライブラスト、冷凍ブラスト、ウェットブラストなどによる処理が挙げられる。化成処理としては、過マンガン酸、クロム酸、ナトリウム系試薬などを接着部位3aに塗布して粗面化するものとしてもよい。
【0016】
上述の方法により、加硫成型されたガスケット3の接着部位3aを表面粗さ(JIS B0601に準拠)Ra0.05μm〜10.0μm、又はRz0.1μm〜50μmの他、Ra0.05μm〜10.0μm、且つRz0.1μm〜50μmとしてもよい。
接着部位3aの表面粗さが、Ra0.05μm又はRz0.1μmより小さいものとすると、上述の接着を阻害する物質(離型剤或いは加工助剤など)を完全に除去できないため、接着不良が発生する。また表面粗さがRa10.0μm又はRz50μmより大きいものとすると、ゴム材の除去量が多くなり、ガスケット3の寸法不良が発生する。
また上記接着部位3aの表面粗さをRa0.05μm且つRz0.1μmより小さいものとした場合も上述と同様に、接着を阻害する物質(離型剤或いは加工助剤など)を完全に除去できないため、接着不良が発生する。また上記接着部位3aの表面粗さをRa10.0μm、且つRz50μmより大きいものとした場合も上述と同様に、ゴム材の除去量が多くなり、ガスケットの寸法不良が発生する。
【0017】
上述の数値内に粗面化処理を行えば、ガスケット3がフッ素ゴム組成物からなり、離型性をよくするために成型金型に離型剤が塗布され、その離型剤がガスケット3の表面に付着していても、粗面化処理すると同時に離型剤の剥離処理もなされるので、接着性をよくすることができる。またフッ素ゴム組成物中に加工助剤が添加され、加硫成型によりガスケット3の表層に加工助剤が析出した場合であっても、この加工助剤も除去された状態とすることができる。よって、接着部位3aの粗面化による楔効果と相俟って、安定した強固な接着性及び長期間に亘って良好な接着性を確保することができる。
【0018】
またこれによれば、上述のような接着性を確保できるので、このようにガスケット構造体1が自動車用の燃料電池のセパレータに用いられた場合であっても、過酷な環境下で耐え得るものとすることができる。特にガスケット3がフッ素ゴム組成物からなるので、ガスシール性、耐冷媒性、耐酸性、低温性、耐圧縮永久歪性のあるガスケット構造体1とすることができ、燃料電池用のガスケット構造体1として好適である。そして、加硫成型されたガスケット3をシール対象基材2に一体固着したガスケット構造体1、すなわち後接着により形成されたガスケット構造体であるので、少ロット生産に対応することができる。
【0019】
尚、上記実施例では、ガスケット構造体1を自動車用の燃料電池のセパレータとした例について述べたが、これに限定されるものではなく、ガスケット構造体1の形状、構成もこれに限定されるものではない。またガスケット3はフッ素ゴム組成物からなるものに限定しているが、その他、ゴム組成物に適用できることはいうまでもない。更にシール対象基材2の材質も上述の例に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0020】
1 ガスケット構造体
2 シール対象基材
3 ガスケット
3a 接着部位
4 接着剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シール対象基材の所定部位に接着剤層を介して加硫成型されたゴム製ガスケット構造体が一体固着されたガスケット構造体であって、
上記ガスケットは、フッ素ゴム組成物からなり、
上記ガスケットの上記シール対象基材との接着部位は、表面粗さをRa0.05μm〜10.0μm又はRz0.1μm〜50μmとする粗面化処理がなされ、その状態で上記シール対象基材に一体固着されていることを特徴とするガスケット構造体。
【請求項2】
請求項1に記載のガスケット構造体において、
上記粗面化処理は、レーザー処理によってなされることを特徴とするガスケット構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−180919(P2010−180919A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−23288(P2009−23288)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【出願人】(000225359)内山工業株式会社 (204)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】