説明

ガスケット

【課題】
水道機器、食品加工装置、医薬品製造装置などに使用される複合シール材であって、耐熱性、耐薬品性に富み、また、着香する虞もなく、さらには、締め付け面圧もそれほど高くしなくて良く、しかも、一度締め付けを行ったのちの繰り返しの使用が可能な複合シール材を提供する。
【解決手段】
環状で内部に同心円状の開口が形成され、さらにこの環状体と同心円状に円板部上下両面にそれぞれ凸部を有するように形成された複合シール材2であって、
環状で内部に同心円状の開口8が形成され、さらにこの環状体と同心円状に円板部上下両面にそれぞれ凸部10を有するように形成されたゴム製の中芯部材4と、
前記中芯部材4の外表面を覆うように装着されるフッ素樹脂製の外側部材6と、から構成されていることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合ガスケットに関し、詳しくは、水道機器、食品加工装置、医薬品製造装置などに使用される複合ガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、食品や飲料製品の加工プラントでは、より大型化、複雑化が進むことに伴って、その消毒や洗浄方法は、装置全体を分解した状態で滅菌洗浄するという従来の方法に代わって、近年では、装置、設備の分解を行わずに、内部の自動洗浄・自動滅菌を可能とする、CIP(Cleaning in Place)システムが導入されている。
【0003】
通常CIPシステムは、NaOHによるアルカリ洗浄プロセス、HNO3やNaClO
による酸洗浄プロセス、高温スチームによる洗浄プロセス等からなり、こうしたシステムに使用されるシール材は、従来以上に過酷な環境に晒されることになる。
【0004】
このため、このような洗浄システムに使用されるシール材は、これまで使用されてきた通常の合成ゴムなどでは、耐薬品性や耐熱性の点で不十分で、さらに高い耐熱性、耐薬品性のあるシール材の実現が望まれている。
【0005】
また、例えば、ジュースなどの飲料製造ラインでは、複数種類の製品(ジュース等)を同じ製造ラインを用いて生産するため、前の工程で製造された果汁成分等の臭いがゴム製のシール材に付着(以下、「着香」現象という)し、ゴム製シール材を介して、次の製品に移ってしまい、品質を低下させてしまう虞があった。
【0006】
したがって、このような製造ラインで使用されるシール材は、着香しないことが求められている。
一方、医薬品製造分野では、従来から、配管用フェルール部のシール材として、異物や不純物混入の防止や、過酷な滅菌処理に対応できるように、耐薬品性、耐熱性に優れたポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂からなるガスケットが採用されている。
【0007】
しかしながら、PTFEは、樹脂であり硬度が高くて弾力性に乏しいため、シール材として使用する場合は、高い締め付け面圧を付与しなければならず、しかも、PTFEのクリープによりシール性が損なわれていくという問題があった。さらに、PTFE樹脂は、一度締め付けを行って使用したものは、塑性変形してしまうため、再度使用することが困難であった(特許文献1)。
【特許文献1】特開平5−99343号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、例えば、水道機器、食品加工装置、医薬品製造装置などに使用される複合シール材であって、耐熱性、耐薬品性に富み、また、着香する虞もなく、さらには、締め付け面圧もそれほど高くしなくて良く、しかも、一度締め付けを行った後の繰り返しの使用が可能な複合シール材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る複合シール材は、
環状で内部に同心円状の開口が形成され、さらにこの環状体と同心円状に円板部上下両面にそれぞれ凸部を有するように形成された複合シール材であって、
環状で内部に同心円状の開口が形成され、さらにこの環状体と同心円状に円板部上下両面にそれぞれ凸部を有するように形成されたゴム製の中芯部材と、
前記中芯部材の外表面を覆うように装着される多孔質性フッ素樹脂製の外側部材と、から構成されていることを特徴としている。
【0010】
係る構成による本発明の複合シール材は、ゴム製の中芯部材により、十分な弾力性を確保することができるとともに、フッ素樹脂からなる外側部材により、香りの強い配管ラインに用いても、シール材に着香する虞れがない。
【0011】
さらに、本発明は、前記中芯部材は、前記外側部材から外周端部が露出されるように、前記外側部材よりも大径に形成されるとともに、前記外側部材の外周端部は、径外方に向かって開放されていることが好ましい。
【0012】
このような構成であれば、中芯部材と外側部材との一体化が容易である。
さらに、本発明では、前記中芯部材を構成しているゴムは、不純物等の少ないEPDM(エチレンプロピレンゴム)、シリコンゴムなどが好ましい。
【0013】
また、本発明では、前記外側部材の上下板部を構成しているフッ素樹脂は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)であり、これらのフッ素樹脂からなる上下板部は径内方側でPFA(ポリテトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルエーテル共重合体)の溶接により一体化されていることが好ましい。
【0014】
このような構成であれば、2枚のPTFEの板体同士をPFA溶接により、一体化することができる
さらに、前記PTFEから形成された外側部材は、多孔質体であることが必要である。
【0015】
このような構成であれば、外側部材にも弾力性、柔軟性が具備されることから、シール部分での相手部材とのなじみ性が良好になる。したがって、低い締め付け面圧でもシールすることが可能になる。また、中芯部材のゴムの弾性に加えてPTFE自身にも弾力性を具備させることができるので、シール部からの取り外し、取り付けを繰り返し行ったとしても、十分なシール性を発揮させることができる。また、これにより、繰り返しの使用が可能になる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る複合シール材によれば、内芯部材のゴムにより十分な弾力性を確保することができるので、締付け力を弱く設定することができる。また、接液部分は、例えば、PTFEのフッ素樹脂により構成されているので、臭いの強い配管ラインに用いても着香する虞がない。したがって、例えば、香りの高いジュースなどの食品製造ラインに用いた場合に、他のジュースを製造する工程で、臭いが他のジュースに移ることもない。さらには、外側部材が多孔質体のPTFEであれば、柔軟になり、相手部材とのなじみ性が良好になる。これにより、締め付け圧を小さくすることができる。
【0017】
また、本発明による複合シール材では、中芯部材に十分な弾力性が具備され、かつ外側部材にも弾力性が具備されるので、シール部から一旦取り外したとしても繰り返して使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明の一実施例について説明する。
図1は本発明の一実施例に係る複合ガスケット2を示したものである。
この複合ガスケット2は、ゴム製の中芯部材4とフッ素樹脂製の外側部材6との2部材
から構成されている。
【0019】
中芯部材4は、環状で同心円状の開口8が中央部に貫通して形成され、さらに円板部の上下両面に凸部10がそれぞれ形成されている。この凸部10は、上下対称の位置に形成され、凸部10の頂部は略円弧状に形成されている。また、中芯部材4の外周部は、内周部に比べて両側に厚さが厚く、両面に段部d、dが形成されている。このような中芯部材4はゴムからなり、詳しくはEDPM(エチレンプロピレンゴム)、シリコンゴムなどの加熱流動性のあるゴムにより、形成されていることが好ましい。本実施例では、不純物の含有、あるいは不純物の溶出などが少ないことからEDPMが採用されている。
【0020】
中芯部材4がこのような材質から形成されていれば、適宜な弾力性が得られるともに、金型による成形が容易である。
一方、外側部材6は、主として、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)から形成されている。すなわち、外側部材6は、上側板部12と下側板部14とこれら2枚の板部12,14間を内周側で連結する軸部分16とから構成され、両側の板部分12,14がPTFE製で、軸部分16によるPFAの溶接により連結されている。
【0021】
このようにして、外側部分6では、上側板部12と下側板部14とは、径内方側で連結されている。また、径外方側は、連結されておらず、開放されており、この開放端部は、段部d、dで内芯部材4と面一に接着されている。
【0022】
したがって、このように中芯部材4と外側部材6との2部材から構成された複合ガスケット2は、ゴム製の中芯部材4がPTFE製の外側部材6で覆われるため、圧縮変形された場合に、中芯部材4による適宜な弾性変形力が発揮される。また、PTFE製の外側部分6には、仮に臭いの強いジュース製造ラインなどに使用されたとしても、その臭いが着香してしまうことはない。
【0023】
さらに、本実施例では、外側部材6のPTFEが多孔質に形成されている。このように外側部材6が多孔質に形成されていれば、このPTFE製の外側部分6が柔軟になるので、相手部材となじみやすく、低い締め付け力で、シール機能を持たせることが可能になる。
【0024】
本実施例では、PTFEからなる外側部材6が、例えば、本出願人による特許第2780113号に詳述されている方法により、多孔質にされている。
すなわち、この特許方法では、懸濁重合法により得られるポリテトラフルオロエチレン粉末を圧縮成形して予備成形体を調整し、この予備成形体を融点以上の温度で焼成して成形体を作成し、次いでこの成形体を融点以下の温度にて1軸または2軸方向に延伸した後、得られた延伸成形体を少なくとも3%以上収縮させ、次にポリテトラフルオロエチレンの融点未満の温度で少なくとも1回以上1軸または2軸に延伸する方法により、PTFEの多孔質体を製造している。
【0025】
本実施例では、このような特許方法により、PTFEの外側部分6を多孔質体とすることにより、気孔率を高め、しかも熱的に安定性、機械的強度に優れた、柔軟なPTFEの多孔質体が得られている。これにより、外側部材6は、シールすべき相手部材とのなじみ性が良好にされ、また、樹脂でありながら弾力性が具備されている。
【0026】
さらに、本実施例による外側部材6は、例えば、本出願人による特公平7−68381号公報に開示されている内周面処理方法により、その内表面にいわゆる濡れ性が付与されている。
【0027】
すなわち、この方法は、PTFEは、そのままでは非粘着性であることから、ゴムとの接着性が悪いため、この接着性を改善している。簡略してこの方法を説明すれば、PTFEの表面に存在するフッ素原子を飛ばして、カーボン層を露出させ、粗面とし、これにより中芯部材4との接着性を改善しようとする処理方法である。
【0028】
外側部材6はこのような処理が行なわれることにより、柔軟性と相手部材とのなじみ性が向上されている。
一方、本実施例では、EPDMにより、中芯部材4が成形される。
【0029】
このようにして、中芯部材4と外側部材6とが別々に用意されたら、図2に示したような、金型装置30にセットされる。そして、加熱状態で2部材が圧着され、図1に示した複合ガスケット2を得ることができる。
【0030】
すなわち、この金型装置30は、上金型32と下金型34とから構成され、両者の間にキャビティ36が画成されている。また、上金型32におけるキャビティ36の近傍には、食い切り用の溝38が環状に形成されている。さらに、この食い切り用の溝38の外方には、液溜まり用のバリ溝40が形成されている。
【0031】
そして、このように形成された金型装置30を型開きした状態で、先ず、外側部材6と中芯部材4とをキャビティ36内にセットする。また、中芯部材4と外側部材6との間には、適宜な接着剤を塗布する。その後、未加硫のゴムをキャビティ36内に充填し、例えば170度以上の温度で外側部材6と中芯部材4とを加硫接着する。充填された未加硫のEDPMは一部、キャビティ36から食み出して外方に流出するが、流出したゴムはバリ溝40内に流れ込む。そして、型開きすれば、これらを一体化することができる。なお、外側部材6の内表面は予め表面処理がなされて粗面化されているので、ゴムとの一体化が速やかになされる。そして、型開きすれば、食い切り用の溝38からバリ溝40内の余剰部分が離反して、製品素材である複合ガスケット2を得ることができる。また、金型装置30から取り出された製品の耳部などを切除すれば、完全な製品部分を得ることができる。
【0032】
このように本実施例で得られた複合ガスケット2は、芯材である中芯部材4は、ゴム製であるため、適宜な弾性力を得ることができる。
また、実際にシールする部分は、ゴムではなく、PTFE製の外側部材6で接触するため、仮に臭いの強いジュースなどの製造ラインに用いたとしても、前の工程で製造したジュースの臭いなどが着香することはない。さらに、シール部分はPTFEであるため、耐薬品性,耐熱性にも十分で、かつ不純物などが付着してしまうこともない。
【0033】
また、一度締め付けたシール部材の締め付け力を解除して、再び使用するとしても、PTFEは、多孔質で適宜な柔軟性が具備されているので、塑性変形が少なく、また、中芯部材の弾力性により、再び締め付けてもシール性を発揮させることができる。
【0034】
以上、本発明の一実施例について説明したが、以下に、本発明の複合ガスケットにおけるシール性についての実験結果について、以下説明する。
まず、外側部材6のPTFEを多孔質とすることによる効果を調べるために、多孔質にしていないPTFEの外側部材との違いを調べた。
【0035】
試料として、多孔質の外側部材と、多孔質でない外側部材を用意し、これを同じ材質の中芯部材に一体的に接着して、実施例の試料と、比較例の試料を作成した。
試験方法:フランジ部に実施例の試料および比較例の試料を順番に挟み込み、所定の締め付け圧を加えて漏れを調べた。検査方法は、シール部分に石鹸水を塗布し、内圧を加え石
鹸水のあぶくを確認することによって漏れがあるか、ないかを確認した。
締め付け圧はを0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0MPaと段階的に変化させて、シール試験を行った。
この結果は、表1の通りである。
【0036】
【表1】

【0037】
表1からわかるように、多孔質性のフッ素樹脂(PTFE)を用いた場合は、シール圧が低圧でも、十分なシール効果が得られるのに対し、多孔性でない通常のフッ素樹脂を用いたものでは、低圧では、シール性が十分でないことがわかった。
【0038】
この実験により、内部に多数の孔を設けて多孔性とすることにより、シール面圧を小さくしても確実なシールをできることが確認された。
以上、本発明の一実施例について説明したが、本発明は、上記実施例に何ら限定されない。
【0039】
例えば、上記実施例では、食品の製造ライン、例えば、ジュースの製造ラインを例にして説明したが、これに変え、医薬品製造装置、水道機器などにも有効に適用することができる。
【0040】
また、PTFEに多孔性を持たせる方法あるいは、内面を粗面化する方法などは上記実施例に何ら限定されず、他の方法を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1は、本発明の一実施例に係る複合ガスケットを一部破断して示した斜視図である。
【図2】図2は、本発明の一実施例による複合ガスケットを金型で製造するときの金型装置の断面図である。
【符号の説明】
【0042】
2 複合ガスケット
4 中芯部材
6 外側部材
8 開口
10 凸部
12 上側板部(PTFE)
14 下側板部(PTFE)
16 軸部分(PFA)
30 金型装置
32 上金型
34 下金型
36 キャビティ
40 バリ溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状で内部に同心円状の開口が形成され、さらにこの環状体と同心円状に円板部上下両面にそれぞれ凸部を有するように形成された複合シール材であって、
環状で内部に同心円状の開口が形成され、さらにこの環状体と同心円状に円板部上下両面にそれぞれ凸部を有するように形成されたゴム製の中芯部材と、
前記中芯部材の外表面を覆うように装着される多孔質性フッ素樹脂製の外側部材と、から構成されていることを特徴とする複合シール材。
【請求項2】
前記中芯部材は、前記外側部材から外周端部が露出されるように、前記外側部材よりも大径に形成されるとともに、前記外側部材の外周端部は、径外方に向かって開放されていることを特徴とする請求項1に記載の複合シール材。
【請求項3】
前記外側部材の上下板部を構成しているフッ素樹脂は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)であり、これらのフッ素樹脂からなる上下板部は径内方側でPFA(ポリテトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルエーテル共重合体)の溶接により一体化されていることを特徴とする請求項1に記載の複合シール材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−29376(P2006−29376A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−205605(P2004−205605)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(000229564)日本バルカー工業株式会社 (145)
【Fターム(参考)】