説明

ガスケット

【課題】加硫ゴム材料からなるガスケット本体と、該本体の表層部に一体形成される樹脂製の表皮層からなり、建物の外壁パネル間の目地に装着されるガスケットにおいて、ガスケット本体から表皮層へ硫黄分が浸透することによる黄変を防止する。
【解決手段】ガスケット本体4と、該本体4の表層部3に接着材層12を介して形成される表皮層5からなるガスケット11において、接着材層12がガスケット本体4から表皮層5に硫黄分の浸透を阻害する金属箔よりなる中間基材層と、その両側に被覆されるポリエチレンよりなる外層からなり、押出成形後の加熱により加硫されると同時に、ポリエチレンが溶融して中間基材層とガスケット本体4及び外層を接着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の外壁パネル間の目地に装着されるガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、従来のガスケットの一例を示すもので、柱部1と、該柱部1の両側より斜め上向きに突出形成されるリップ2と、柱部1の上端から両側方に突出形成され、目地装着時に目地の屋外側を向く表層部3からなり、シール(防水)を目的としたガスケット本体4と、表層部3の表面に一体形成され、耐候性及び意匠性を備えた表皮層5からなり、ガスケット本体4は多くがEPM、EPDM等の加硫ゴム材料から、表皮層5はオレフィン系又はスチレン系熱可塑性樹脂(TPE)、塩素系ポリエチレン(CPE)、EPDM等のゴム材料からなっている。またアクリル樹脂、ABS樹脂、AES樹脂等よりなる表皮材と、EPDMよりなるガスケット本体との接着性を向上させるために両者間にポリエチレン層を介在させたものも知られる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−90178号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図1に示す従来のガスケットは、ガスケット本体と表皮層とによりシール性と共に耐候性及び意匠性に優れるが、経年により加硫ゴム材料からなるガスケット本体から表皮層に硫黄分等が浸透し、表皮層を黄変させる懸念がある。この対策として架橋剤に硫黄や硫黄化合物に代えて有機過酸化物を用いることも行われているが、この場合、臭気が発生したり、加熱による架橋時において、介在する酸素により架橋阻害を来たして表面がネチャネチャとした状態の表面タックを来たすようになり、表面タックを回避するには架橋時に酸素を除去することができる専用の架橋炉が必要となる。
【0005】
ガスケット本体を硫黄を含まない熱可塑性樹脂材料で形成したものもあり、この場合、上述するような硫黄分による黄変の問題は生じないが、樹脂材料に含まれる可塑材(オイル)が表皮層に浸透し、外観劣化の懸念がある。
【0006】
本発明の目的は、ガスケット本体と、該本体の表層部に一体形成される表皮層からなるガスケットにおいて、ガスケット本体から表皮層へ架橋剤、架橋促進剤又は可塑材等の汚染懸念物質が浸透することによる外観品質の低下を防止しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、架橋した熱硬化性材料からなるか、或いは熱可塑性樹脂材料からなり、目地装着時に目地の屋外側を向く表層部を備えたガスケット本体と、該ガスケット本体の表層部に接着材層を介して形成される表皮層からなるガスケットにおいて、前記接着材層がガスケット本体から表皮層への架橋剤、架橋促進剤又は可塑材等の汚染懸念物質の浸透を阻害する中間基材層と、その両側に被覆され、ガスケット本体及び表皮層との接着性を有する外層よりなることを特徴とする。
ここで熱硬化性材料とは、熱により硬化反応が促進される材料であり、熱可塑性樹脂とは、熱により可塑化される材料をいう。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明のガスケット本体が硫黄により架橋した熱硬化性材料からなることを特徴とし、
請求項3に係わる発明は、請求項1又は2に係わる発明の中間基材層13は酸素透過度が120cc/m2・24hr・atm以下の材質であることを特徴とする。
請求項4に係る発明は、請求項1ないし3に係る発明の接着材層の外層がポリエチレンであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明のガスケットによると、シール性と共に耐候性及び意匠性を持たせることができること、ガスケット本体から表皮層への汚染懸念物質、例えば硫黄分や可塑材の浸透が中間基材層により阻害され、表皮層の黄変や変色等を防止できることなどの効果を有する。また中間基材層がアルミ等の金属箔よりなる場合、表皮層への汚染懸念物質の浸透を阻害する効果が大である反面、単層ではガスケット本体や表皮層との接着が困難であるが、接着性を有する外層で被覆することによりガスケット本体や表皮層との接着が容易となる。
【0010】
請求項2に係る発明のガスケットによると、押出成形後、加熱することにより加硫される。
請求項3に係わる発明のガスケットのように、中間基材層に120cc/m2・24hr・atm以下のフィルムを用いると、汚染懸念物質の浸透による色素の変化(移行汚染)を少なくすることができる。ここでcc/m2・24hr・atmとは、大気圧で24時間経過したときの1平方メートル当たりの浸透量(cc)を示す。
【0011】
請求項4に係る発明のガスケットによると、加熱することによりポリエチレンが熱融解して中間基材層とガスケット本体及び表皮層との接着が行われる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】従来のガスケットの断面図。
【図2】本発明に係るガスケットの断面図。
【図3】図2に示すガスケットの中間基材層の断面図。
【図4】試験片の断面図。
【図5】フィルムの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態のガスケットについて図面により説明する。図中、図1に示すガスケットと同一構造部分には同一符号を付してその説明を省略する。
【0014】
図2に示すガスケット11は、図1に示すガスケットにおいて、ガスケット本体4と表層部3との間に接着材層12を介在させたもので、ガスケット本体4は、例えば硫黄、硫黄化合物、有機過酸化物等を架橋剤として架橋したEPDM,EPM,ウレタンゴム、シリコーンゴム、天然ゴム等の熱硬化性材料により形成され、表皮層5は、例えばオレフィン系、スチレン系、ウレタン系、エステル系等の熱可塑性樹脂材料により形成される。また接着材層12は図3に示すように、汚染懸念物質である硫黄分や可塑材等の浸透を阻害する中間基材層13と、その両側に被覆され、中間基材層13とガスケット本体4及び表皮層5との接着性を有する外層14よりなり、中間基材層13は例えばアルミ箔等の金属箔、ナイロン、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等により形成され、外層14は例えば直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)により形成される。中間基材層13は、上述する材料に限定されるものではなく、硫黄分や可塑材の浸透を阻害するものであれば、どのような材料を用いてもよい。また外層14もガスケット本体、表層部、中間基材層を形成する材料と接着性を有すれば、直鎖状低密度ポリエチレン(LLPDE)に限定されることなく、どのような材料を用いてもよい。例えば中間基材層に塗布されるプライマー及び接着剤を用いることもできる。
【0015】
実験例1
図4に示すように、JIS A硬度70の硫黄を加硫剤として用いたEPDMよりなる厚さ2mmの下地材16上にフィルム層17を介してオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)よりなる厚さ1mmのカラー材18を重ね、プレス機で圧着して幅20mm、長さ50mmの試験片19を作成した。フィルム層17は厚み40μmのナイロンの両面にLLPDEを積層してなるものである。
【0016】
次に上記試験片19に対し、ダイプラウインテス社製の耐候促進試験機(メタルウェザーKU−R5CI−A)を用いて耐候試験を行った。
試験は試験片19に対し、下記表1に示す条件にて(1)紫外線の照射、(2)紫外線の照射を停止した暗闇の暗黒状態、(3)結露を各4時間ずつ(1)、(2)、(3)の順に繰返し計100〜500hr行った。
【0017】
【表1】


なお、上記(1)と(3)の処理では処理開始前の10秒間、ph6〜8、10Ω・cm以上の脱イオン水を散水した。
【0018】
上述の耐候試験後の試験片19について、カラーコンピュータを用いてJIS Z8729に規定されるL*、a*、b*を測定し、試験前と試験後の差ΔL* 、Δ*a 、Δ*bを求めて下記数1式により試験前と試験後の色差ΔE*abを求めた。その結果を以下の表2に示す。表中、100hrは上述の試験(1)、(2)、(3)を繰返し行った合計時間を示す。200〜500hrについても同様の合計時間を示す。
【0019】
【数1】

【0020】
実験例2
実験例1の試験片19において、フィルム層17を構成するナイロンを厚さ50μmのエチレンビニルアルコール共重合体EVOHとした以外は、実験例1と同じ材質の試験片を作成し、実験例1と同じく表1に示す条件にて耐候試験を行った。次に実験例1と同様の方法により100〜500hrでの色差ΔE*abを求めた。結果を以下の表2に示す。
【0021】
実験例3
実験例1の試験片19において、フィルム層17を図5に示すように、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)22の表面にアルミ23を蒸着(PETとの合計厚み12μm)して、その両面にLLDPEを積層したフィルム21層とした以外は、実験例1の試験片と同様の試験片を作成し、実験例1と同じく表1に示す条件にて耐候試験を行った。次に実験例1と同様の方法により100〜200hrでの色差ΔE*abを求めた。結果を以下の表2に示す。
【0022】
比較例1
実験例1の試験片19において、フィルム層17を除いた試験片、すなわち下地材16上にカラー材18を積層した試験片を作成し、実験例1と同じく表1に示す条件にて耐候試験を行った。次に実験例1と同様の方法により100〜500hrでの色差ΔE*abを求めた。結果を以下の表2に示す。
【0023】
比較例2
実験例1の試験片19において、フィルム層17を厚さ30μmのポリエチレン(PE)フィルムの単層とした以外は実験例1と同じ材質の試験片を用い、実験例1と同じく表1に示す条件にて耐候試験を行った。次に実験例1と同様の方法により100〜200hrでの色差ΔE*abを求めた。結果を以下の表2に示す。
【0024】
参考例
実験例1の試験片19のカラー材単体(全体をオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)で形成した試験片)に対し、実験例1と同じく表1に示す条件にて耐候試験を行った。次に実験例1と同様の方法により100〜500hrでの色差ΔE*abを求めた。結果を以下の表2に示す。
【0025】
【表2】

【0026】
表2に示されるように、TPOのみで作成される参考例の試験片は表面の変色が小であるのに対し、比較例1の試験片は耐候試験の結果、EPDMの硫黄分による汚染がTPOに浸透し、表面に析出して黄変する変色が大であった。また比較例1に示されるように下地材16とカラー材18との間にポリエチレンフィルムを介在させても汚染物質の移行防止効果はなく、表面の黄変が大となった。これに対し、実験例1〜3は、比較例1及び2に比べ、下地材16からカラー材18への汚染物質の移行防止効果が良好で、カラー材表面の変色が大幅に減少した。なお、実験例3はフィルムをアルミ蒸着PETとし、アルミ層とPET層の2層構造とするものであるが、アルミ単体又はPET単体でも充分な効果を達成することができる。
【0027】
表3は、株式会社日報により1999年4月1日に発行された「新・食品包装用フィルム」187頁・表8−1に記載され、JIS K 7126に基づいて求められた「各種プラスチックフィルムの酸素・水蒸気透過度」より抜粋された各種プラスチックフィルムの酸素透過度を示すものである。
【0028】
【表3】

【0029】
中間基材層にナイロン、エチレンビニルアルコール共重合体EVOH、アルミ蒸着ポリエチレンテレフタレートPETを用いた場合、表2に示すように色差ΔE*abが小さくなるが、これらのフィルムは表3に示されるように、エチレン・酢酸ビニル共重合体、低密度ポリエチレンに比べ、酸素透過度が大幅に低下しており、このことより酸素透過度の小さいフィルムは色差ΔE*abも小さくなる傾向となることが分かる。とくに酸素透過度が120cc/m2・24hr・atm以下の材質である、表中のポリエチレンテレフタレート、延伸ナイロン、エチレンビニルアルコール共重合体、アルミ箔積層フィルムは、他のエチレン酢酸ビニル共重合体・低密度ポリエチレンに比べ酸素透過度が際立って小さく、色差も格段に小さくなっている。
【0030】
なお、各種フィルムの酸素透過度は厚みによって多少変化する可能性はあるが、変化するにしても、エチレン酢酸ビニル共重合体やポリエチレンほど飛躍的に上がることはない、と考えられる。
【符号の説明】
【0031】
1・・柱部
2・・リップ
3・・表層部
4・・ガスケット本体
5・・表皮層
11・・ガスケット
12・・接着材層
13・・中間基材層
14・・外層
16・・下地材
17、21・・フィルム層
18・・カラー材
19・・試験片
22・・PET
23・・アルミ
24・・LLDPE


【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋した熱硬化性材料からなるか、或いは熱可塑性樹脂材料からなり、目地装着時に目地の屋外側を向く表層部3を備えたガスケット本体4と、該ガスケット本体4の表層部に接着材層12を介して形成される表皮層5からなるガスケット11において、前記接着材層12がガスケット本体4から表皮層5への架橋剤、架橋促進剤又は可塑材等の汚染懸念物質の浸透を阻害する中間基材層13と、その両側に被覆され、ガスケット本体4及び表皮層5との接着性を有する外層14よりなることを特徴とするガスケット。
【請求項2】
前記ガスケット本体4が硫黄により架橋した熱硬化性材料からなることを特徴とする請求項1記載のガスケット。
【請求項3】
前記中間基材層13は、酸素透過度が120cc/m2・24hr・atm以下の材質であることを特徴とする請求項1又は2記載のガスケット。
【請求項4】
接着材層12の外層14がポリエチレンであることを特徴とする請求項1ないし3記載のガスケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−24820(P2010−24820A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123780(P2009−123780)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(000196107)西川ゴム工業株式会社 (454)
【Fターム(参考)】