説明

ガスシールドアーク溶接方法

【課題】溶接速度によらず、高速溶接においても、スパッタの発生を抑制することができると共に、止端部形状の揃いが良好で、幅広かつ平坦なビード形状が得られ、また、耐割れ性、耐ブローホール性等にも優れるガスシールドアーク溶接方法を提供する。
【解決手段】ソリッドワイヤを用いてパルス溶接を行うガスシールドアーク溶接方法において、ソリッドワイヤが、S、Si、Mn、C、Pを所定量含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、パルス溶接のパルスPにおけるパルスピーク電流(Ip)が350A以上、パルスピーク期間(Tp)が0.5〜2.0msecであり、さらに、シールドガスとして、Ar:75〜98体積%で残部がCOまたはOの1種以上である混合ガスを使用することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソリッドワイヤを用いてパルス溶接を行うガスシールドアーク溶接方法に係り、特に、高速溶接においても適用できるガスシールドアーク溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の産業分野では、コストダウンを目的として、溶接工程の高能率化、特に溶接時の高速化が望まれている。しかし、溶接を高速化すると、溶融池の流動が激しくなることによるビードの止端部形状の揃い(止端部揃い)の劣化や、アーク力の増大により、ビード幅が広がらず、ビード形状が凸の状態になるビード形状の凸化を起こすという問題があった。特に、ビード形状が凸になると、溶接線の狙い位置に対して狙いずれ(ワイヤ狙い位置ずれ)の許容範囲が小さくなり、溶接不良を起こしやすくなるという問題や、母材と溶接金属(ビード)の止端部の応力集中係数が高くなり、疲労破壊を起こしやすくなるという問題、溶接後のワークを組み合わせる時に、ビードが他のワークと接触しやすくなり、この場合は接触する箇所のビードを研削する必要が生じるといった問題があった。したがって、溶接を高速化しても、できるだけ止端部形状が揃っていて、幅広で平坦なビード形状が得られる溶接方法の開発が望まれていた。
【0003】
このような背景の中、高速性を高める溶接方法として、過剰なアーク力を避けるために電極を分割したタンデムアーク溶接方法が提案されている。
このタンデムアーク溶接方法においては、タンデムアーク溶接ロボットシステムにより、溶接を制御するもの(例えば、非特許文献1参照)や、ピーク電流通電時間、ベース電流通電時間およびパルス周期を所定の関係に規定し、第1の溶接ワイヤおよび第2の溶接ワイヤと被溶接物との間に2つのアークをそれぞれ発生させて溶接する2電極パルスアーク溶接制御方法(例えば、特許文献1参照)等、多数のタンデムアーク溶接の制御方法が開示されている。
【0004】
また、ワイヤ成分の調整によって高速性を改善した技術として、ワイヤ等に含まれる微量元素を所定範囲に規定することにより、短絡安定性を向上させ、溶接金属の粘性を最適化することで、幅広で平坦なビードを得る技術(例えば、特許文献2参照)や、アークを安定化させ、ビード形状を良好にする成分として、C、O、Mn、Ti、微小ブローホールの発生を防止する強脱酸成分として、Alを添加した高速ガスシールドアーク溶接用ワイヤが開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
さらに、ワイヤのS(硫黄)濃度を高めることにより、低融点化合物の生成効果、溶融金属の界面張力の調整効果等により、溶融金属の粘性と表面張力を低下させ、薄板におけるビード形状を良好にすると共に、高速性の向上等を図った技術が開示されている(例えば、特許文献4参照)。
そして、ビード幅を拡大させる技術として、シールドガスに窒素を適量添加することにより、アークの安定と共にビード幅を拡大させるガスシールドアーク溶接法が開示されている(例えば、特許文献5参照)。
【非特許文献1】「タンデムアーク溶接ロボットシステムの開発」(神鋼溶接技術がいど 2002年4月 No.384) p.6〜10
【特許文献1】特開2004−1033号公報(段落0018〜0030)
【特許文献2】特許第3808251号公報(段落0016〜0039)
【特許文献3】特開昭61−165294公報(第2頁左下欄11行目〜第3頁右上欄7行目)
【特許文献4】特開平5−305476公報(段落0009〜0016)
【特許文献5】特公昭63−27120号公報(第3頁左欄24行目〜第3頁左欄34行目)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のガスシールドアーク溶接方法では、以下に示す問題があった。
非特許文献1、特許文献1に記載のようなタンデムアーク溶接方法では、設備が大掛かりとなることから、高コストであるという問題があった。また、一般的な自動車部品では、熱変形を抑えるためのクランプをかいくぐって溶接トーチを動かす必要があるが、大きなトーチヘッドを持つタンデムアーク溶接方法では、一般的な自動車部品においては、適用性が低いという問題があった。
【0007】
特許文献2に記載のワイヤは、JIS Z3312の一般的なソリッドワイヤに比べ、Mn量を大幅に下げ、その他CrやTiを微量添加してアーク安定性を改善したものであるが、シールドガスとしてCOを用いたものであり、CO特有の多量のスパッタが発生するという問題があった。さらに、高速溶接に特化し、逆に1m/min以下の低速溶接では、ビード形状が劣化するという問題もあった。
【0008】
特許文献3に記載のワイヤにおいても、CO溶接のためスパッタ発生の問題が大きく、逆に低速域でのビード形状が劣化するという問題があった。また、高速化を達成する手段として、短いアーク長でのアークの安定化と微小ブローホールの発生防止に主眼が置かれ、ビード幅の拡大については、検討がなされていなかった。
【0009】
特許文献4に記載の技術は、ワイヤに含有されるSにより、幅広で平坦なビード形状が得られる効果は確かにあったが、この広いビード幅というのは、あくまで平均値であり、ビード幅の揃いが悪く、波打っており、外観的に劣るだけでなく、波打ちの各頂点部が応力集中のポイントとなることで、疲労強度が高くならないという問題があった。また、ワイヤ狙い位置ずれに対し、稀に溶込み不良を発生させることがあった。
【0010】
特許文献5に記載のガスシールドアーク溶接法は、シールドガスに窒素を適量添加したものであるが、窒素は炭素鋼を著しく脆化させる元素であるため、炭素鋼を脆化させる問題があり、また、この溶接法においては、50cm/min以下の低速溶接のみでしかビード幅を拡大させる効果がなく、高速溶接に適用できるものではない。
【0011】
また、従来のガスシールドアーク溶接方法では、ワイヤの成分組成によっては、割れや、ブローホール等が発生するという問題、通常の一般電源を用いた溶接方法においては、アークが不安定になりやすく、スパッタが発生しやすいという問題もあった。
【0012】
本発明はこれらの状況を鑑みて開発した技術であり、溶接速度によらず、高速溶接においても、スパッタの発生を抑制することができると共に、止端部形状の揃いが良好で、幅広かつ平坦なビード形状が得られ、また、耐割れ性、耐ブローホール性等にも優れるガスシールドアーク溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明者らは、前記課題を解決するため、以下に述べる事項について検討を行った。
前記したように、高速の溶接においては、ビード幅が十分に広がらないことや、ビード形状の凸化が問題となるが、ビードが幅広にならず、凸形状になる理由は次のとおりである。
【0014】
アーク直下では、溶融金属はそのアーク力により進行方向の後方に押しやられて盛り上がる。盛り上がった溶融金属は、液体が球形をなそうとする力である表面張力により、重力に反して出来るだけその形を維持しようとする。表面張力が高ければ高いほど、その形を維持しようとする力は強いので、下方(母材方向)に落ちてくる速度が遅く、溶融金属が広がりにくく、時間の経過と共に、溶融金属の温度が下がり、溶融金属が平坦になる前に凝固する。これが、ビード形状が幅広にならず、凸になる理由であるが、溶接速度が大きくなると、溶着量を高めるために必然的に電流も上昇させるため、アーク力は大きくなり、より強くアーク直下の溶融金属を後方に押し上げる。このため、溶接が高速になるほど、ビード形状は幅広にならず、凸になる。
【0015】
ここで、ビード形状をできるだけ幅広かつ平坦にするためには、盛り上がった溶融金属を速やかに下方(母材方向)に落ちるようにすれば良い。溶融金属の表面張力が小さいほど球体になろうとする力が小さいことから、溶融金属の表面張力が小さいほど、重力の影響を受けて下方に落ちてくる速度が速くなり、凝固前に下方(母材方向)へ落ちてきて、ビード形状が平坦になると共に、ビード幅が広がる。
表面張力を下げる具体的手段としては、溶融金属に含まれる酸素(O)濃度を高めることや、S濃度を高めることが有効であり、特にSはその効果が大きいことがわかっている。しかし、表面張力が小さいということは、簡単に外乱の影響を受けて波立ちを起こしたり、形状変化を起こしたりしやすいともいえる。
【0016】
ところで、通常の一般電源を用いた溶接方法では、薄板溶接の場合は電流が比較的低く、溶滴移行形態は「短絡溶滴移行」あるいは「グロビュール溶滴移行」と呼ばれる、アークの爆発的な点弧と短絡による消失を交互に繰り返す移行形態となる。この移行形態では、溶融金属面を必然的に揺らしてしまうことを避けることができず、これが原因で止端部揃いに影響を及ぼし、止端部揃いを劣化させることを本願発明者らは数々の実験と観察により見出した。
【0017】
また、疲労強度を改善させる、あるいはワイヤ狙い位置ずれを安定的に改善するためには、ビード幅を平均値として広げるだけでは不十分で、ビード幅の揃いも改善する、つまりビード幅は場所によらず広い幅で一定であることが必要であることがわかった。
【0018】
そこで、本願発明者等が鋭意研究した結果、これらの問題を解決させるためには、溶融金属の表面張力の大幅な低下と共に、溶融金属を揺らさないような静的な状態を作らせればよいと考えた。その結果、低電流でも所定のパルス(パルス波形)と組み合わせることで「スプレー溶滴移行」と呼ばれるアークの短絡消失が発生しない状態となり、極めて静的な溶融金属状態を維持し、止端部揃いが良好で、幅広かつ平坦なビード形状を得ることに成功した。なお、本発明におけるガスシールドアーク溶接方法においては、ビードを幅広にすることができるが、ここでの幅広は、ビード幅の揃いも良好なものである。
【0019】
すなわち、前記課題を解決するため、本発明に係るガスシールドアーク溶接方法は、ソリッドワイヤを用いてパルス溶接を行うガスシールドアーク溶接方法において、前記ソリッドワイヤが、S:0.040〜0.200質量%、Si:0.20〜1.50質量%、Mn:0.50〜2.50質量%、C:0.15質量%以下、P:0.025質量%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、前記パルス溶接のパルスにおけるパルスピーク電流(Ip)が350A以上、パルスピーク期間(Tp)が0.5〜2.0msecであり、さらに、シールドガスとして、Ar:75〜98体積%で残部がCOまたはOの1種以上である混合ガスを使用することを特徴とする。
【0020】
このような構成によれば、ソリッドワイヤのS含有量を所定範囲に規定することで、溶融金属の粘性・表面張力が低下し、パルス溶接のパルスにおけるパルスピーク電流(Ip)を所定範囲に規定することで、アークの短絡消失が発生しないスプレー溶滴移行となり、パルスピーク期間(Tp)を所定範囲に規定することで、パルス波形とワイヤ溶融の同期が取れる。そのため、安定な溶滴移行が持続し、アークが安定する。
【0021】
また、ソリッドワイヤが、所定量のSi、Mnを含有することで、溶融金属が脱酸され、耐ブローホール性が向上し、C、Pを所定量以下に抑制することで、高温割れの発生が抑制される。さらに、シールドガスの種類を所定に規定することで、スプレーアークとなり、アークが安定する。
【0022】
また、本発明に係るガスシールドアーク溶接方法は、ソリッドワイヤを用いてパルス溶接を行うガスシールドアーク溶接方法において、前記ソリッドワイヤが、S:0.040〜0.200質量%、Si:0.20〜1.50質量%、Mn:0.50〜2.50質量%、C:0.15質量%以下、P:0.025質量%以下を含有し、さらに、Ti:0.10質量%以下、Al:0.20質量%以下、Mo:0.50質量%以下、Nb:0.30質量%以下、V:0.30質量%以下、Cr:1.00質量%以下、Ni:1.00質量%以下のうち少なくとも一種を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、前記パルス溶接のパルスにおけるパルスピーク電流(Ip)が350A以上、パルスピーク期間(Tp)が0.5〜2.0msecであり、さらに、シールドガスとして、Ar:75〜98体積%で残部がCOまたはOの1種以上である混合ガスを使用することを特徴とする。
【0023】
このような構成によれば、ソリッドワイヤのS含有量を所定範囲に規定することで、溶融金属の粘性・表面張力が低下し、パルス溶接のパルスにおけるパルスピーク電流(Ip)を所定範囲に規定することで、アークの短絡消失が発生しないスプレー溶滴移行となり、パルスピーク期間(Tp)を所定範囲に規定することで、パルス波形とワイヤ溶融の同期が取れる。そのため、安定な溶滴移行が持続し、アークが安定する。
【0024】
また、ソリッドワイヤが、所定量のSi、Mnを含有することで、溶融金属が脱酸され、耐ブローホール性が向上し、C、Pを所定量以下に抑制することで、高温割れの発生が抑制される。さらに、ソリッドワイヤの成分において、Ti、Al、Mo、Nb、V、Cr、Niを所定量以下に抑制することにより、溶融金属の粘性・表面張力の上昇を抑制することができる。そして、シールドガスの種類を所定に規定することで、スプレーアークとなり、アークが安定する。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係るガスシールドアーク溶接方法によれば、低速溶接だけでなく、高速溶接においても、スパッタの発生を抑制することができると共に、止端部形状の揃いが良好で、幅広かつ平坦なビード形状を得ることができる。
また、止端部応力集中の緩和による継手疲労特性の向上や、ワイヤ狙い位置ずれに対する許容条件範囲の拡大、割れの発生やブローホールの発生の防止等の効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明は、ソリッドワイヤを用いて、パルス溶接を行うガスシールドアーク溶接方法に係るものである。
なお、ここでのパルス溶接とは、パルス型の電流・電圧波形で溶接を行うものをいう。
そして、前記ソリッドワイヤは、S:0.040〜0.200質量%を含有し、その他の成分として、Si、Mn、C、Pを所定量含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、パルス溶接のパルスにおけるパルスピーク電流(Ip)を350A以上、パルスピーク期間(Tp)を0.5〜2.0msecに規定したものである。さらに、使用するシールドガスの種類を所定に規定したものである。
【0027】
以下、各構成について説明する。
≪ソリッドワイヤ≫
一般に、溶接ワイヤには、針金状のソリッドワイヤと、中心部にフラックスを詰めたフラックス入りワイヤとがある。パルス溶接では、できるだけ均一なワイヤ溶融をしなければ、パルス波形との同期が崩れ、アーク不安定となるため、パルス溶接を行う本発明においては、ソリッドワイヤを使用することが必須である。なお、ソリッドワイヤには銅めっきを施しているものと鉄地のままのものがあるが、銅めっきの有無はビード幅や平坦性、止端部揃い等のビード形状には全く影響を与えないため、どちらを使用しても良い。
【0028】
次に、ソリッドワイヤ(以下、適宜、ワイヤという)の成分の限定理由について説明する。なお、ここでは、S、Si、Mn、C、Pを含有している。
<S:0.040〜0.200質量%>
ワイヤのS含有量を高くすることにより、溶融金属の粘性・表面張力を下げることができる。Sの含有量が0.040質量%以上であれば、表面張力の低下により、ビード形状を平坦にできると共に、ビード幅を十分広げることができる。なお、0.050質量%以上であれば、さらにビード形状を幅広かつ平坦にすることができるため、好ましくは、0.050質量%以上である。Sの含有量が0.040質量%未満では、表面張力を低下させる作用が不足し、ビード幅が十分に広がらず、また、ビード形状が凸(凸形状)になる。一方、0.200質量%を超えると、凝固割れが発生しやすくなるので、これを上限とする。
【0029】
<Si:0.20〜1.50質量%>
Siは、脱酸元素として作用し、耐ブローホール性、溶融金属の粘性・表面張力に影響を及ぼす元素である。Siの含有量が0.20質量%未満では、ガス組成によっては、脱酸不足でブローホールが発生しやすくなることがあるため、汎用性の点から0.20質量%以上とする。一方、1.50質量%を超えると、溶融金属の粘性・表面張力が上昇し、幅広かつ平坦なビード形状が得られない。なお、より好ましくは1.20質量%以下である。
【0030】
<Mn:0.50〜2.50質量%>
Mnも脱酸元素として作用し、耐ブローホール性、溶融金属の粘性・表面張力に影響を及ぼす元素である。Mnの含有量が0.50質量%未満では、ガス組成によっては、脱酸不足でブローホールが発生しやすくなることがあるため、汎用性の点から0.50質量%以上とする。一方、2.50質量%を超えると、溶融金属の粘性・表面張力が上昇し、幅広かつ平坦なビード形状が得られない。なお、より好ましくは1.50質量%以下である。
【0031】
<C:0.15質量%以下>
Cの含有量が多いと、耐割れ性が低下する。開先形状や溶接条件によっては高温割れが発生するため、0.15質量%以下とする。下限については、いくら低くても害はないため、技術的には、特に設ける必要はないが、Cの含有量を下げるほど、コストが高くなるので、工業的には、0.01質量%程度が現実的には下限値としてよい。
【0032】
<P:0.025質量%以下>
Pは、高温割れを著しく発生させやすくするため、Pの含有量はできるだけ低くしたほうが良い。しかし、0.025質量%以下であれば実用上割れを発生させることは無い。なお、好ましくは0.018質量%以下である。
【0033】
<残部:Feおよび不可避的不純物>
ソリッドワイヤは、前記成分を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるものである。
なお、不可避的不純物としては、例えば、O、Zr等を含有することが考えられるが、本発明の効果を妨げない範囲においてこれらを含有することは許容され、これらの含有量は、それぞれ0.050質量%以下が好ましい。
【0034】
また、本発明に係るガスシールドアーク溶接方法に用いるソリッドワイヤは、S:0.040〜0.200質量%を含有し、その他の成分として、Si、Mn、C、Pを所定量含有し、さらに、Ti、Al、Mo、Nb、V、Cr、Niのうち、少なくとも一種を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるものであってもよい。
【0035】
前記したTi、Al、Mo、Nb、V、Cr、Niの元素は含有しないこと(すなわち、0質量%)が好ましいが、本発明の効果を妨げない範囲においてこれらを含有することは許容され、本発明においては以下に示す含有量以下であれば問題なく使用することができる。
以下、Ti、Al、Mo、Nb、V、Cr、Niの含有量を制限した理由について説明する。
【0036】
<Ti:0.10質量%以下、Al:0.20質量%以下、Mo:0.50質量%以下、Nb:0.30質量%以下、V:0.30質量%以下、Cr:1.00質量%以下、Ni:1.00質量%以下>
Ti、Al、Mo、Nb、V、Cr、Niは、いずれも溶融金属の粘性・表面張力を上昇させる元素であり、幅広かつ平坦なビード形状が得られ難くなるため、少ないほうが好ましい。Tiの含有量が0.10質量%以下、Alの含有量が0.20質量%以下、Moの含有量が0.50質量%以下、Nbの含有量が0.30質量%以下、Vの含有量が0.30質量%以下、Crの含有量が1.00質量%以下、Niの含有量が1.00質量%以下であれば実用上問題ない。
【0037】
ガスシールドアーク溶接は、前記した成分を含有するソリッドワイヤを用い、パルス溶接を行う。これに関して、以下に説明する。
図1は、パルス波形の名称定義と溶滴移行状態を示す模式図、図2(a)は、通常の一般電源を用いた場合の溶融池(溶融金属)の状態を示す模式図、(b)は、パルス電源を用いた場合(所定のパルス波形)の溶融池(溶融金属)の状態を示す模式図である。
【0038】
≪パルス≫
パルスは、パルス電源を用いて作り出される電流・電圧波形であり、図1に示すように、矩形もしくは台形の形を繰り返す波形である(図1では台形)。基本的にはパルス形状(パルス波形)は電流・電圧によらず同一で、電流・電圧が高くなるとベース期間Bが狭まって周波数が高まる。つまり、一般的には周波数変調である。
ここで、図2(a)に示すように、通常の一般電源を用いた場合には、アーク3が不安定になり、スパッタが多く発生すると共に、溶融池(溶融金属)4の振動が激しくなる。そのため、ビードの止端部6の形状に影響をおよぼす。一方、図2(b)に示すように、パルス電源を用いた場合(所定のパルス波形)には、低電流でも非常にアーク3が安定し、極めて低スパッタで、アーク3直下に形成される溶融池(溶融金属)4を静的な状態に保つことができる。そのため、ビードの止端部6の形状が安定する。
【0039】
次に、ソリッドワイヤのSの含有量とパルスとの関係おけるビード形状に及ぼす影響について説明する。
ソリッドワイヤにおけるSの含有量は、前記のとおりであるが、ビード形状は、Sの含有量と、パルス溶接におけるパルスとの関係に影響をうける。
図3(a)〜(c)は、ソリッドワイヤのS含有量とパルス有無の組合せによるビード形状の影響を示す模式図(鳥瞰図)である。
図3(a)に示すように、パルスの有無にかかわらず、Sが0.040質量%未満では、表面張力を低下させる作用が不足し、ビード5aの止端部6aの揃いは劣化しないものの、ビード幅Waが十分に広がらず、凸形状になる。また、図3(b)に示すように、パルスが無い場合(パルス無)、Sを0.040質量%以上含有しても、ビード幅Wbが広がり、凸形状にならないものの、ビード5bの止端部6bの揃いが劣化する。しかし、図3(c)に示すように、パルスが有り(パルス有)、かつ、Sが0.040質量%以上の場合には、ビード5cの止端部6cの揃いが良好であると共に、ビード幅Wcが十分に広がり、凸形状とならない。
なお、ここでのパルス有というのは、以下に説明するパルスピーク電流(Ip)およびパルスピーク期間(Tp)が本発明の範囲を満たした場合をいう。
【0040】
次に、図1を参照し、パルスの波形と、ガスシールドアーク溶接との関係について説明する。
図1に示すように、ソリッドワイヤ1は、パルスピーク期間Tpに溶滴2を形成し、この溶滴2をベース期間Bに落下させる。
パルスピーク期間Tpに高電流で溶融して溶滴2を形成し、電流が低くアーク力の弱いベース期間Bに溶滴を落下させることで、低電流でもアークが安定し、スパッタの発生が抑制されると共に、溶滴移行が安定で、アーク直下に形成される溶融金属を揺らすことがなく、止端部揃いが良好となる。
【0041】
以上のとおり、本発明は、ワイヤ組成とパルス溶接を組み合わせるものであるが、パルスにおいては、パルスピーク電流(Ip)およびパルスピーク期間(Tp)を所定に規定することで、パルスを所定の波形に規定する。
【0042】
<Ip:350A以上>
パルスピーク電流(Ip)とは、パルスピーク期間Tp中の電流、すなわち、矩形もしくは台形の波形の上底の電流である。
一般に、パルス波形の一部は使用者により設定することができる。パルスピーク電流(Ip)が350A未満では、電流密度が不足し、スプレー溶滴移行とならないため、アーク不安定となってスパッタが多く発生し、また、溶滴移行が不安定で溶融金属を揺らしてしまい、止端部揃いが劣化する。上限は、溶滴移行の面では特に設ける必要はないが、600Aを超えると機械的に壊れやすくなるため、一般的には、溶接電源のハードウェアの限界として600A以下にするのが普通である。
【0043】
<Tp:0.5〜2.0msec>
パルスピーク期間(Tp)とは、ベース以外の期間Pにおける矩形もしくは台形の上底部分の時間である。ここで、ベース以外の期間Pとは、矩形もしくは台形の下底部分の時間をいい、パルス波形におけるベース期間B以外の期間をいう。なお、パルス波形が矩形であれば、「ベース以外の期間P=パルスピーク期間(Tp)」となる。
【0044】
パルスピーク期間(Tp)が0.5msec未満では、ワイヤ先端を溶かす時間が不足し、溶滴が成長しないため、ベース期間B中に溶滴を落下させることが出来ない。したがってパルス波形とワイヤ溶融(溶滴の形成と落下)の同期が取れず、アーク不安定となってスパッタが多く発生し、また、溶滴移行が不安定で溶融金属も揺らしてしまい、止端部揃いが劣化する。一方、パルスピーク期間(Tp)が2.0msecを超えると、パルスピーク期間(Tp)中にワイヤが溶融して溶滴を形成すると共に、この溶滴が自然落下をしてしまい、パルスピーク期間(Tp)中に次の溶融が始まってしまう。そして、この溶融中にパルスピーク期間(Tp)が終了し、ベース期間Bに移行してしまうため、パルス波形とワイヤ溶融(溶滴の形成と落下)の同期が取れず、アーク不安定となってスパッタが多く発生し、また、溶滴移行が不安定で溶融金属も揺らしてしまい、止端部揃いが劣化する。したがって、安定な溶滴移行を持続するためには、パルスピーク期間(Tp)は0.5〜2.0msecに設定する必要がある。
【0045】
次に、本発明に係るガスシールドアーク溶接方法に使用するシールドガスについて説明する。
≪シールドガス:Ar:75〜98体積%で残部がCOまたはOの1種以上≫
シールドガス組成は、パルス溶接においてスプレー溶滴移行となれば特に詳細に規定する必要はないが、常識的範囲としては、Ar75〜98体積%で残部がCO、Oの単体もしくはCO+O混合の酸化性ガスを使用する。Arが98体積%を超えると、シールドガス中の酸化性ガスの含有量が不足し、母材側に生成される酸化物が極めて少なく、酸化物の陰極点が形成されず極めてアークが不安定となって、スパッタが多く発生し、また、アークが蛇行して、ビード形状の揃いが不良となる。そして、止端部揃いも劣化する。さらに、溶接金属の酸素量も極めて少なくなることから、表面張力が高く、ビードが幅広にならず、凸状になる。ゆえに、アーク安定性確保と、溶融金属の表面張力抑制のため、酸化性ガスが2体積%以上必要である。一方、Arが75体積%未満では、酸化性ガス分子の分解に伴う吸熱反応でアークが冷却され、スプレーアークとならなくなる。スプレーアークとならなければ、アークの爆発的な点孤と短絡による消失を交互に繰り返す不安定な溶滴移行となり、低表面張力の溶融金属を揺らしてしまい、止端部揃いが劣化する。また、スパッタが多く発生する。
【0046】
以上述べたとおり、所定の成分組成を有する(特に、Sの含有量を適度に高めた)ソリッドワイヤと、溶滴移行が安定したスプレー移行となるようにパルス条件(Ip、Tp)を設定したパルス溶接を組み合わせることにより、スパッタの発生を抑制することができると共に、溶接速度によらずビード幅が広くて平坦な形状、かつ止端部揃いが優れる革新的な形状を呈するビードを得ることができる。そして、このような止端部揃いが優れ、幅広かつ平坦なビード形状を安定的に得ることができれば、高速溶接性の改善、止端部応力集中の緩和による継手疲労特性の向上、ワイヤ狙いずれに対する許容条件範囲の拡大等、短所無く様々な利点が得られ、その価値は大きなものとなる。
このように、ビード形状の制御において、溶接材料組成と電源波形を組み合わせることが極めて効果的であることを見出したことは、これまでに無い新たな技術的思想である。
【実施例】
【0047】
次に、本発明に係るガスシールドアーク溶接方法について、本発明の要件を満たす実施例と本発明の要件を満たさない比較例とを比較して具体的に説明する。
先ず、表1〜3に示す組成を有する1.2mmφのソリッドワイヤ(比較例60はフラックス入りワイヤ)を試作し、次に、このソリッドワイヤ等を用いて、所定のシールドガス組成、電源設定を組み合わせて試験条件とし、水平重ねすみ肉溶接を行った。
【0048】
図4は、水平重ねすみ肉溶接における開先形状とビード幅の関係を示す模式図である。なお、図4は、以下に説明する図5のX−X断面図である。
図4に示すように、板厚2.3mmの鋼板(熱延鋼板)Sを組み合わせ、溶接長140mm(図5参照)の水平重ねすみ肉溶接を行った。なお、Wdは、ビード幅であり、ルートギャップは0mm(なし)、重ね代は4mmである。同一溶接速度においては、ワイヤ送給量は全て一定とし、溶接速度の変化に応じて見合う送給速度に調整した。電圧は電源毎に最適値を選定した。
【0049】
この水平重ねすみ肉溶接を行うことにより、溶接金属(ビード)Mにおけるビード形状(平均ビード幅、標準偏差、平坦性)、スパッタ発生量、耐割れ性、ブローホールの発生等の官能評価を行った。これらの結果を表4、5に示す。
ソリッドワイヤの成分組成、使用したシールドガスの組成、電源設定を表1〜3に示す。なお、表2、3において、本発明の構成を満たさないものについては、数値等に下線を引いて示す。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
<ビード形状>
ビード形状については、平均ビード幅、標準偏差および平坦性の評価を行った。
(平均ビード幅)
図5は、水平重ねすみ肉溶接におけるビード幅測定箇所を示す模式図である。
図5に示すように、溶接長140mmの前後端10mmを除き、120mmとし、4mm毎に31箇所のビード幅(Wd1〜Wd31)を測定した。この平均値を算出して平均幅と定義した。平均幅6.0mm以上を合格(○)、6.0mm未満を不合格(×)とした。
【0054】
(標準偏差)
止端部揃いの指標として、ビード幅(Wd1〜Wd31)について標準偏差を統計処理した。標準偏差が0.50以下を止端部揃いが合格(○)、0.50を超えたものを止端部揃いが不合格(×)とした。
【0055】
(平坦性)
平坦性の評価は、ビード形状を目視にて観察し、凸形状とは認められなかったものを合格(○)、凸形状と認められたものを不合格(×)とした。
【0056】
<スパッタ発生量>
スパッタ発生量は、溶接時のスパッタの全量捕集を行い、1min換算した。1.50g/min以下を合格(○)、1.50g/minを超えたものを不合格(×)とした。
【0057】
<耐割れ性>
溶接金属の余盛を削除して割れの有無を確認した。割れがなかったものを合格(○)、割れが生じたものを不合格(×)とした。
【0058】
<その他>
その他の評価として、ブローホールや過剰なスラグが発生しなかったものを合格(○)、ブローホールや過剰なスラグが発生したものを不合格(×)とした。
【0059】
<総合判定>
前記すべてにおいて、合格(○)であったものを総合判定合格(○)、いずれか1つでも不合格(×)であったものを総合判定不合格(×)とした。
【0060】
【表4】

【0061】
【表5】

【0062】
表4に示すように、実施例No.1〜25は、ワイヤ組成、シールドガス組成が規定を満足し、パルスピーク電流(Ip)、パルスピーク期間(Tp)が規定範囲のパルス溶接と組み合わせていることから、ビード形状(平均ビード幅、標準偏差、平坦性)、スパッタ発生量、耐割れ性、その他すべてが優れており、総合判定合格(○)であった。
【0063】
一方、表5に示すように、比較例No.26〜31は、ワイヤのS含有量が下限値未満であるため、止端部の揃いは問題ないものの、ビード幅が狭く、凸形状であった。比較例No.32〜40は、ワイヤ成分は規定を満足し、溶融金属の表面張力が十分低下してビード幅の拡大およびビードが平坦になる効果が得られたが、電源は通常の非パルス波形であったため、スパッタが多く発生し、また、溶滴移行が不安定で溶融金属を波立たせ、止端部形状の揃いを劣化させた。すなわち、ビード幅が不均一であるため、標準偏差が大きかった。
【0064】
比較例No.41は、ワイヤのS含有量が下限値未満であり、電源は通常の非パルス波形である。そのため、止端部の揃いは問題ないものの、スパッタが多く発生し、また、ビード幅が狭く、凸形状であった。比較例No.42は、パルス波形ではあるが、パルスピーク電流(Ip)が下限値未満であるため、安定なスプレー溶滴移行とならず、アーク不安定となってスパッタが多く発生し、また、溶滴移行が不安定で溶融金属を波立たせ、止端部形状の揃いを劣化させた。
【0065】
比較例No.43は、パルス波形ではあるが、パルスピーク期間(Tp)が下限値未満であるため、パルスピーク期間(Tp)が、溶滴を形成することができる時間よりも短く、溶滴の形成と落下がパルス波形と同期しなかった。そのため、アーク不安定となり、スパッタが多く発生し、また、溶滴移行が不安定で溶融金属を波立たせ、止端部形状の揃いを劣化させた。
【0066】
比較例No.44と45は、パルス波形ではあるが、パルスピーク期間(Tp)が上限値を超えるため、パルスピーク期間(Tp)中に形成された溶滴が自然落下し、さらに次の溶滴が形成している途中にベース期間となるため、溶滴の形成と落下がパルス波形と同期しなかった。そのため、アーク不安定となり、スパッタが多く発生し、また、溶滴移行が不安定で溶融金属を波立たせ、止端部形状の揃いを劣化させた。比較例No.46は、ワイヤに含有されるSが上限値を超えるため、割れが発生した。
【0067】
比較例No.47は、ワイヤに含有されるCが過剰であり、割れが発生した。比較例No.48は、ワイヤに含有されるSiが過少であり、脱酸不足でブローホールが発生した。比較例No.49は、ワイヤに含有されるSiが過剰であり、表面張力が高いため、止端部の揃いは問題ないものの、ビード幅が狭く、凸形状であった。比較例No.50は、ワイヤに含有されるMnが過少であり、脱酸不足でブローホールが発生した。比較例No.51は、ワイヤに含有されるMnが過剰であり、表面張力が高いため、止端部の揃いは問題ないものの、ビード幅が狭く、凸形状であった。比較例No.52は、Pが過剰なため、割れが発生した。
【0068】
比較例No.53〜59は、それぞれTi、Al、Mo、Nb、V、Cr、Niが過剰であり、表面張力が高いため、止端部の揃いは問題ないものの、ビード幅が狭く、凸形状であった。比較例No.60は、フラックスを帯鋼で巻いて伸線されたいわゆるフラックス入りワイヤである。ワイヤ成分は所定の範囲を満足するものの、フラックス入りワイヤではパルス溶接の場合に溶滴離脱性が不規則となり(パルス波形との同期が崩れ)、アーク不安定となってスパッタが多く発生し、また、止端部形状の揃いを劣化させた。
【0069】
比較例No.61、62は、シールドガス組成について、Arが下限値未満であるため、アーク不安定となり、スパッタが多く発生し、また、止端部形状の揃いを劣化させた。比較例No.63は、Arが上限値を超えるため、シールドガス中の酸化性ガスの含有量が不足し、母材側に生成される酸化物が極めて少なく、アークが不安定となってスパッタが多く発生し、また、止端部形状の揃いを劣化させた。さらに、溶融金属の酸素が極めて少なくなったため、ビード幅が狭く、凸形状であった。
【0070】
比較例No.64は、ワイヤ成分は規定を満足し、溶融金属の表面張力が十分低下してビード幅の拡大およびビードが平坦になる効果が得られたが、電源は通常の非パルス波形であったため、スパッタが多く発生し、また、溶滴移行が不安定で溶融金属を波立たせ、止端部形状の揃いを劣化させた。比較例No.65は、パルス波形ではあるが、パルスピーク電流(Ip)が下限値未満であるため、安定なスプレー溶滴移行とならず、アーク不安定となってスパッタが多く発生し、また、溶滴移行が不安定で溶融金属を波立たせ、止端部形状の揃いを劣化させた。
【0071】
比較例No.66は、パルス波形ではあるが、パルスピーク期間(Tp)が下限値未満であるため、パルスピーク期間(Tp)が、溶滴を形成することができる時間よりも短く、溶滴の形成と落下がパルス波形と同期しなかった。そのため、アーク不安定となり、スパッタが多く発生し、また、溶滴移行が不安定で溶融金属を波立たせ、止端部形状の揃いを劣化させた。比較例No.67は、パルス波形ではあるが、パルスピーク期間(Tp)が上限値を超えるため、パルスピーク期間(Tp)中に形成された溶滴が自然落下し、さらに次の溶滴が形成している途中にベース期間となるため、溶滴の形成と落下がパルス波形と同期しなかった。そのため、アーク不安定となり、スパッタが多く発生し、また、溶滴移行が不安定で溶融金属を波立たせ、止端部形状の揃いを劣化させた。
【0072】
比較例No.68は、シールドガス組成について、Arが下限値未満であるため、アーク不安定となり、スパッタが多く発生し、また、止端部形状の揃いを劣化させた。比較例No.69は、Arが上限値を超えるため、シールドガス中の酸化性ガスの含有量が不足し、母材側に生成される酸化物が極めて少なく、アークが不安定となってスパッタが多く発生し、また、止端部形状の揃いを劣化させた。さらに、溶融金属の酸素が極めて少なくなったため、ビード幅が狭く、凸形状であった。比較例No.70は、Arが下限値未満であり、電源は通常の非パルス波形である。そのため、スパッタが多く発生し、また、止端部形状の揃いを劣化させた。
【0073】
以上、本発明に係るガスシールドアーク溶接方法について最良の実施の形態および実施例を示して詳細に説明したが、本発明の趣旨は前記した内容に限定されることなく、その権利範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈しなければならない。なお、本発明の内容は、前記した記載に基づいて広く改変・変更等することができることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】パルス波形の名称定義と溶滴移行状態を示す模式図である。
【図2】(a)は、通常の一般電源を用いた場合の溶融池(溶融金属)の状態を示す模式図であり、(b)は、パルス電源を用いた場合(所定のパルス波形)の溶融池(溶融金属)の状態を示す模式図である。
【図3】(a)〜(c)は、ソリッドワイヤのS含有量とパルス有無の組合せによるビード形状の影響を示す模式図(鳥瞰図)である。
【図4】水平重ねすみ肉溶接における開先形状とビード幅の関係を示す模式図である。
【図5】水平重ねすみ肉溶接におけるビード幅測定箇所を示す模式図である。
【符号の説明】
【0075】
1 ソリッドワイヤ
2 溶滴
3 アーク
4 溶融池(溶融金属)
5a、5b、5c ビード
6、6a、6b、6c 止端部
B ベース期間
M 溶接金属(ビード)
P ベース以外の期間
S 鋼板(熱延鋼板)
Wa、Wb、Wc、Wd ビード幅
Ip パルスピーク電流
Tp パルスピーク期間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソリッドワイヤを用いてパルス溶接を行うガスシールドアーク溶接方法において、
前記ソリッドワイヤが、S:0.040〜0.200質量%、Si:0.20〜1.50質量%、Mn:0.50〜2.50質量%、C:0.15質量%以下、P:0.025質量%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
前記パルス溶接のパルスにおけるパルスピーク電流(Ip)が350A以上、パルスピーク期間(Tp)が0.5〜2.0msecであり、
さらに、シールドガスとして、Ar:75〜98体積%で残部がCOまたはOの1種以上である混合ガスを使用することを特徴とするガスシールドアーク溶接方法。
【請求項2】
ソリッドワイヤを用いてパルス溶接を行うガスシールドアーク溶接方法において、
前記ソリッドワイヤが、S:0.040〜0.200質量%、Si:0.20〜1.50質量%、Mn:0.50〜2.50質量%、C:0.15質量%以下、P:0.025質量%以下を含有し、さらに、Ti:0.10質量%以下、Al:0.20質量%以下、Mo:0.50質量%以下、Nb:0.30質量%以下、V:0.30質量%以下、Cr:1.00質量%以下、Ni:1.00質量%以下のうち少なくとも一種を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
前記パルス溶接のパルスにおけるパルスピーク電流(Ip)が350A以上、パルスピーク期間(Tp)が0.5〜2.0msecであり、
さらに、シールドガスとして、Ar:75〜98体積%で残部がCOまたはOの1種以上である混合ガスを使用することを特徴とするガスシールドアーク溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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