説明

ガスセンサのセンサ素子検査法

【課題】製品を破壊することなく効率的に亀裂の存在を電気的に検知できるガスセンサのセンサ素子の検査方法を提供すること。
【解決手段】有底空間部2aを有すると共に少なくとも一部に固体電解質体5を備えた筒状絶縁性センサ素子体2と、空間部2a側において固体電解質体5に接触して配設された基準ガス側電極3と、センサ素子体2の外部側において固体電解質体5に接触して配設された被測定ガス側電極4とを備えたセンサ素子1を有するガスセンサの固体電解質体5に発生する亀裂5aを検出する検査法であって、空間部2a内及びセンサ素子体1の外側領域内の少なくとも一方に水とエタノールの混合液である検査液Dを注入し、両電極間3、4に500Vの電圧Vを印加して両電極間3、4における固体電解質体5の絶縁抵抗値Rを測定し、その絶縁抵抗値Rによって良否を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガスセンサのセンサ素子検査法に関するもので、排ガス中の酸素濃度を検出する酸素濃度センサの検査に好適である。
【背景技術】
【0002】
ガスセンサのセンサ素子の構造は、酸素マイナスイオンを透過させるジルコニア等の固体電解質体からなり内部に外気と連通する有底の空間部を有するセンサ素子体と、このセンサ素子体の空間部に接触して配設された基準ガス側電極と、センサ素子体の外側に接触して配設された被測定ガス側電極とを備えている。
【0003】
このセンサ素子体と一対の電極とを備えたセンサ素子には、固体電解質体のセンサ素子体がコップ型を呈しているコップ型センサ素子や、センサ素子体を固体電解質体層とアルミナからなる保護層で構成し、固体電解質体層とアルミナ保護層との間に外気と連通する有底の空間部を形成し、固体電解質体層の空間部側に基準ガス側電極を配設し、固体電解質体層の外側側に被測定ガス側電極を配設し、これらを積層して形成した積層型センサ素子が使用されている。
【0004】
これらのセンサ素子はその製造過程において、センサ素子として機能上重要な役割をなすセンサ素子体の固体電解質体に亀裂等の欠陥が発生することがある。この亀裂は固体電解質体の内側(空間部側)から発生する場合や固体電解質体の外側から発生する場合がある。特に積層型センサ素子の場合は製造過程において、固体電解質体層が非常に薄く且つ空間部に面しているため固体電解質体層の支えがなく固体電解質体層は空間部内に反る(落ち込む)。そのため固体電解質体層は空間部側に面している側すなわちセンサ素子体の空間部側に亀裂が発生する。
【0005】
固体電解質体に発生する亀裂の有無や程度を検査する方法としては、染色液内にセンサ素子を浸漬させ、固体電解質体に発生した亀裂内に侵入する染色の有無や程度で亀裂の外観検査をしている。この染色外観検査法では、亀裂が固体電解質体の外側に発生した場合や亀裂が固体電解質体の内部から外側に派生した場合には亀裂の発生を検知できるが、亀裂が固体電解質体の外側に派生しない場合は検知できない。すなわち固体電解質体の空間部側に発生し留まっている亀裂を検知できない。特に上述した積層型センサ素子においては、亀裂は固体電解質体の内側から発生するので、染色外観検査法では検知できない。更にセンサ素子が積層型の場合、固体電解質体層がアルミナ保護層に周囲を包囲された構造のものでは、染色液が固体電解質体層の外側に浸漬(接触)しないので、このような構造の積層型センサ素子の亀裂検査はできない。
【0006】
また、この染色外観検査法は、染色物が亀裂内に滞留しその除去処理が困難であるため製品に使用することが困難で、染色物の除去に熱処理等を行うが染色物の分解に伴い素子に亀裂等の欠陥を生じる可能性があり、また、外観検査であるため検査効率が悪く製造工程内に組み込む検査法には不向きである。そこで発明者らは固体電解質体に発生する亀裂の有無や状態を電気的に検知する検査法を見出した。
【0007】
なお、下記特許文献1には圧電セラミックからなる圧電振動板の表面上に内部電極及び圧電体層が積層され、圧電体層の表面に複数の表面電極を配列して表面電極ごとに変位素子を形成し、表面電極のそれぞれに独立して駆動電圧を印加することにより変位素子を変位させるようにした圧電アクチュエータの検査方法であって、内部電極をグランド電極とし、圧電振動板の裏面を液体と接触させ、液体に電圧を印加したとき、液体とグランド電極との間に流れる電流値を測定する圧電アクチュエータの検査方法が記載されている。この検査方法は圧電アクチュエータにおいて内部電極と圧電振動板との剥離耐久性を検査する技術である。
【特許文献1】特開2007−144911号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の点に鑑みてなされたもので、センサ素子体の空間部及び外側領域の少なくとも一方に導電性の検査液を注入し、センサ素子体の固体電解質体に発生した亀裂内に導電性の検査液を浸漬させ、基準ガス電極と被測定ガス側電極間に所定の電圧を印加して前記両電極間における前記固体電解質体の亀裂発生部の絶縁抵抗値を測定することにより、亀裂が発生した部位の前記固体電解質体の絶縁抵抗値が小さくなるのを電気的に検知でき、製品を破壊することなく効率的に亀裂の存在を電気的に検知できるガスセンサのセンサ素子検査法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明では、内部に長手方向に沿った有底空間部を有すると共に少なくとも一部に固体電解質体を備えた筒状絶縁性センサ素子体と、前記センサ素子体の空間部側において前記固体電解質体に接触して配設された基準ガス側電極と、前記センサ素子体の外部側において前記固体電解質体に接触して配設された被測定ガス側電極とを備えたセンサ素子を有するガスセンサの前記固体電解質体に発生する亀裂を検出するガスセンサの検査方法であって、
前記センサ素子体の空間部内及び前記センサ素子体の外側領域内の少なくとも一方に導電性検査液を注入し、前記両電極間に所定の電圧を印加して前記両電極間における前記固体電解質体の絶縁抵抗値を測定することを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、既設の基準ガス側電極と被測定ガス側電極とを利用し当該両電極で固体電解質体の絶縁抵抗値を測定し、当該絶縁抵抗値の値によって固体電解質体に発生する亀裂の有無、派生状態を電気的数値で把握できるから、製品を破壊することなく効率的に亀裂の存在を検知できる。また、染色物を使用しないためガスセンサの製造工程内に当該検査法を容易に組み込むことができ、一貫した製造ができる。
【0011】
請求項2に係る発明では、前記検査液を水としていることを特徴とする
【0012】
上記構成によれば、検査液を水とすれば導電性液体として極めて容易に入手でき、安価である。
【0013】
請求項3に係る発明では、前記検査液は導電性浸透性液体を含有していることを特徴とする。
【0014】
上記構成によれば、検査液としての亀裂内への浸漬性を確実に得ることができる。
【0015】
請求項4に係る発明では、前記浸透性液体はエタノールであることを特徴とする
【0016】
上記構成によれば、検査液としての浸漬性を確実に得ることができるとともに容易に入手できる。また、揮発性を持っているから、亀裂内に残留せず、検査後の後処理が容易である。
【0017】
請求項5に係る発明では、前記検査液を水とし、浸透性液体をエタノールとし、前記水に対する前記エタノールの含有量を10〜25重量%にしていることを特徴とする。
【0018】
上記構成によれば、検査液としての浸透性が良好であり小さな亀裂内への浸漬を確実に行えることができると共に、入手も容易で安価である。
【0019】
請求項6に係る発明では、前記注入した検査液に加圧及び減圧の少なくとも一方を行っていることを特徴とする。
【0020】
上記構成によれば、注入した検査液を加圧することで亀裂内に検査液を強制的に浸漬でき、減圧することで亀裂内の空気を排除して検査液の浸漬を容易にでき、検査液の小さな亀裂内への確実な浸漬を可能にする。
【0021】
請求項7に係る発明では、前記両電極間の印加電圧は500Vに設定していることを特徴とする。
【0022】
上記構成によれば、検査液の特性をほとんど変動させることなく亀裂発生部位における前記固体電解質体の電気絶縁抵抗値を確実に測定できる。また、高圧では無いので検査作業上安全であり、電源装置も安価な小容量で済む。
【0023】
請求項8に係る発明では、前記センサ素子体の空間部内及び前記センサ素子体の外側領域内の少なくとも一方への導電性検査液の注入は前記筒状センサ素子体を鉛直状態にして行うことを特徴とする。
【0024】
上記構成によれば、検査液を注入する際、前記センサ素子体の空間部内及び前記センサ素子体の外側領域内の空気が検査液の注入に伴って排除でき、検査液の浸漬を確実に行うことができる。
【0025】
請求項9に係る発明では、前記センサ素子は積層型センサ素子であることを特徴とする。
【0026】
上記構成によれば、亀裂が固体電解質体の内側から発生し当該亀裂の検知が困難な
積層型センサ素子であっても、容易に亀裂の存在を検知できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図に基づき本発明検査法を説明する。図1、図2は本発明検査法の第1実施形態の説明に供するもので、図1は検査対象となるガスセンサのセンサ素子の縦断面図、図2は図1のX−X線矢視断面図である。
【0028】
先ず始めに本検査法の対象製品となるガスセンサのセンサ素子1の構造を説明する。センサ素子1は内部に長手方向に沿った有底空間部2aを有する筒状絶縁性センサ素子体2と一対の基準ガス側電極3及び被測定ガス側電極4を備えている。また、センサ素子体2は酸素マイナスイオンを透過させるジルコニア等からなる絶縁性固体電解質体5とアルミナからなる複数の保護層6、7を層状に積層した積層体構造をしており、固体電解質体5と一つの保護層6との間は上記空間部2aを形成している。この空間部2aは下方が閉塞した底部2bを有し上方は開放状態を呈し、この空間部2aは外気に連通している。
【0029】
固体電解質体5の空間部2a側には上記基準ガス側電極3が固体電解質体2と接触して配設してあり、固体電解質体5の外側すなわち空間部2aの反対側には被測定ガス側電極4が固体電解質体5と接触して配設してある。
【0030】
固体電解質体5と被測定ガス側電極4が接触している部位において、被測定ガス側電極4の外側に多孔質の拡散層8が設けられており、被測定ガス側電極4と拡散層8との間には空間室9が設けられている。本例におけるセンサ素子1はこの空間室9を設けている構造であり、空間室がなく被測定ガス側電極4を直接拡散層8で覆っている構造もある。拡散層8はガスセンサが排気管に取り付けられた際、排ガスが取り込まれ排ガス流を拡散して安定化させるためのものである。拡散層8により拡散安定化した排ガスは空間室9内に貯蔵され、排ガス中の酸素がマイナスイオン化される。
【0031】
保護層6、7は絶縁部材であるアルミナをシート状にしたものを積層して形成されている。この保護層6内には固体電解体5が酸素マイナスイオンを透過させる機能を発現できるように加熱するための加熱用電極10が埋設されている。また、固体電解体5と被測定ガス側電極4との間、被測定ガス側電極4と保護層7との間、固体電解体5と保護層7との間にはそれぞれペースト状アルミナからなる絶縁材が充填しあり、それぞれ充填層11、12、13を成している。そして、この充填層11、12、13により固体電解質体5の空間部2aの反対側は完全に覆われる構造になっている。すなわち固体電解体5の空間部2aの反対側は拡散層8を除いて密封閉塞状態になっている。
【0032】
上記のようにセンサ素子1は、固体電解質体5と保護層6、7、充填層11、12、13を備え、内部に長手方向に沿い底部2bを有する空間部2aを有する筒状の絶縁性センサ素子体2と一対の基準ガス側電極3、被測定ガス側電極4を備えた構造であり、ガスセンサの図示しないハウジング内に取り付けられ、空間部2aは外気と連通し、両電極3、4は図示しない外部リード線に電気的に接続されるようになっている。
【0033】
また、上記構造のセンサ素子1は、固体電解質体5の空間部2a側の面に亀裂5aが発生する可能性がある。これは固体電解質体5の一面が空間部2aに接し、他面が充填層11、12、13、保護層4の固体層に接しているため、製造の積層過程において固体電解質体5が空間部2a側へ反り固体電解質体5の空間部2a側に亀裂5aが生じる。従って、固体電解体5の空間部2aの反対側は密封閉塞状態で亀裂5aが固体電解質体5の空間部2a側から発生する構造のセンサ素子1においては、亀裂の存在を外観的に検知する検査では困難である。また、亀裂5aが固体電解質体5の拡散層8と対向する領域に生じるとセンサ素子1のセンサ機能に大きな影響を与える。本発明は固体電解体5の空間部2aの反対側は密封閉塞状態でセンサ素子体2を構成する固体電解質体5の空間部2a側に発生する亀裂5aの存在や派生程度を検知する検査法とし特に効果を発揮する。
【0034】
以下、検査の要領を説明する。センサ素子1をセンサ素子体2の空間部2aの長手方向が鉛直方向にほぼ一致するようにセットする。次にセンサ素子1の上端部に樹脂やゴム等の弾性材封止材Aを装着し空間部2aを閉塞する。そして検査液注入パイプBと空気抜きパイプCの2本の細いパイプを封止材Aの外から空間部2a内へ挿通する。予め封止材Aに検査液注入パイプBと空気抜きパイプCを挿通した状態で封止材Aをセンサ素子1の上端部に装着してもよい。
【0035】
次に検査液注入パイプBから導電性を有する検査液Dを空間部2a内に注入する。検査液Dが注入されるに従い空間部2a内の空気は空気抜きパイプCから外部へ排除され、空間部2a内は検査液Dで充満される。検査液Dが空間部2a内に充満されることにより、検査液Dは亀裂5a内に浸漬すると共に基準ガス側電極3全体にも浸漬し、検査液Dと基準ガス側電極3は電気的に一体的になり、基準ガス側電極3は電気的には亀裂5aの先端に配設された状態となる。
【0036】
検査液Dの空間部2a内への注入に際しては、検査液Dが亀裂5a内に確実に浸漬するように空間部2a内に注入した検査液Dを加圧、減圧、あるいは加圧・減圧の繰り返しを行う。加圧は亀裂5a内に検査液Dを強制的に浸漬させる作用をなし、減圧は亀裂5a内の空気を排除して検査液Dを浸漬させる作用をなす。これは検査液Dを注入したセンサ素子1を図示しない加圧容器内にセットして行う。本例では加圧力は0.2MPa、減圧力は−0.09MPaであり、加圧作用時間は2〜5分である。
【0037】
次に基準ガス側電極3と被測定ガス側電極4との間に所定の直流電圧Vを1〜2秒印加させ、亀裂5aが発生した部位における個体電解質体5の電気絶縁抵抗値Rを測定し、この電気絶縁抵抗値Rの大きさによって、亀裂5aの有無、派生の程度を検知し、センサ素子1の良否を判定する。このように本検査法では、亀裂5aの検知を短時間に電気的に行うことができ、検査効率が向上する。また、本検査法では、亀裂5aが固体電解質体5の拡散層8と対向する領域以外に発生した場合でも検知できる。
【0038】
その後は封止材Aを取り外し、空間部2aの検査液Dを例えば検査液Dを吸引あるいはセンサ素子1を上下反転させるなどして排除する。更にセンサ素子1の外部に露出している基準ガス側電極3、被測定ガス側電極4、加熱用電極等にエアーを吹き付け、検査液Dや埃等を除去し検査工程を終了する。
【0039】
ここで上記本検査法における検査液Dの組成、好ましい条件等について述べる。本検査法において使用する検査液Dは通常使用する水を使用している。通常の水は導電性を有しているので本検査法においては電極3、4と電気的に一体構造となり、亀裂5a内へ浸漬した水は電極となり得る。水は入手が極めて容易であり、且つ安価であるので、検査液Dに好適である。検査液Dは水以外の導電性を有する液体であってもよい。
【0040】
本検査法においては、検査液Dは小さな亀裂5a内への浸漬性を向上させるために導電性で浸透性を有する液体を含有(添加)させることが望ましい。また、含有させる液体は検査後の検査液Dの除去に際し、容易に除去でき、残留しない液体で入手が容易な液体が好ましい。このような添加液体としては揮発性のあるアルコール系液体が好ましい。本例の場合、毒性等の作業環境を考慮し、検査液Dとしての水に導電性で浸透性を持つエタノールを含有させている。このエタノールは入手も容易で比較的安価である。
【0041】
水とエタノールの混合液体は、その表面張力と粘度において図7に示す特性を持っていることが知られている。水に対するエタノールの含有割合(重量%)を増やして行くと、水とエタノールの混合液としての検査液は、その表面張力はエタノール混合割合が増えるに従い急激に小さくなり、更に混合割合を増やしていくと鈍化しながら小さくなる。一方、粘度については、エタノール混合割合が増えるに従い粘度は大きくなり、含有割合40〜50重量%でピークをなり、更にエタノール混合割合が増えると粘度は小さくなって行く。エタノール混合割合が60重量%を超えると粘度が低下するものの、エタノールの占める割合が多くなるためエタノールの揮発量も多くなり、検査液Dの特性が変動(エタノール混合割合が小さくなる方に変動)し、表面張力、粘度とも大きくなる特性方向に変化する。
【0042】
そこで本例では、検査液Dとして水にエタノールを混合させているが、水とエタノールの混合液体はエタノールの含有割合によって上記のような特性を有しているので、表面張力と粘度とを勘案して水に対するエタノールの含有割合を10〜25重量%に設定している。エタノールの含有割合が10〜25重量%であれば、導電性が有り、浸透性を有する水とエタノールの検査液Dとしての混合液となり、作業環境上においてもより好ましい検査液Dが得られる。
【0043】
また、エタノールの含有割合が10〜25重量%である検査液Dでは、水に対してエタノールの量が少ないので、安価となり、また、エタノールの揮発が検査液D全体の特性に及ぼす影響も小さい。
【0044】
なお、検査液Dの組成をエタノール100%すなわち検査液Dをエタノールのみであってもよい。
【0045】
上記第1実施形態におけるセンサ素子1は、固体電解質体5の空間部2aの反対側が充填層11、12、13と保護層7で密封閉塞状態になっている構造の積層型センサ素子1であり、このような構造の積層型センサ素子1においては、検査液Dを空間部2a内に注入する上記第1実施形態で説明した検査法が効果を奏する。
【0046】
また、本実施形態において、両電極3、4間に印加する電圧Vは500Vであり、良否の判定基準となる電気絶縁抵抗値Rは1GΩ(ギガオーム)で行っている。印加電圧、良否の判定基準となる電気絶縁抵抗値Rは、センサ素子1の構造に応じて設定すればよい。印加電圧については電圧を高くすれば電気絶縁抵抗値Rの測定精度は向上し、小さな亀裂5aの発生状態であっても検知できる。一方、印加電圧が高いと検査液Dの特性が変動し易く、また、検査時の安全性の観点から高すぎるのは好ましくない。そこで本例ではこれらを勘案して印加電圧を500Vに設定している。また、500V程度の電圧では電源装置は小容量であり従って安価である。
【0047】
次に図3により本発明検査法の第2実施形態を説明する。被検査の対象となるセンサ素子は図1、2で説明した第1実施形態のセンサ素子1と同じであるので、その構造の説明は省略する。
【0048】
センサ素子1をセンサ素子体2の空間部2aの長手方向が鉛直方向にほぼ一致するようにセットする。第2実施形態ではセンサ素子体2の空間部2aの上端部を開放状態にし、検査液注入パイプBを空間部2aの上端部に挿し込み、この検査液注入パイプBを通して検査液Dを注入する。検査液Dの注入に際しては検査液Dが空間部2aから溢れ出ないよう検査液Dの空間部2a上端部付近の這い上がり状態を監視する必要がある。検査液Dの注入後の検査要領は上記第1実施形態の場合と同様であるので省略する。
【0049】
第2実施形態においては、第1実施形態で使用した封止材A及び空気抜きパイプCを使用しない検査法であるので、センサ素子体2の空間部2aの上端部における検査時のセット構造が簡単である。
【0050】
次に図4、5、6によりセンサ素子1がコップ型形状の場合の検査法について説明する。このコップ型センサ素子1は全体が固体電解質体5で形成され内部に長手方向に沿い底部2bのある空間部2aを有する筒状絶縁性コップ型センサ素子体2と、固体電解質体5に接触して配設された一対の基準ガス側電極3、被測定ガス側電極4を備えている。空間部2aの上端部は開放状態であり、基準ガス側電極3及び被測定ガス側電極4は上端部が分割された環状を呈し、コップ型センサ素子体2としての固体電解質体5の空間部2a側に設けられた基準ガス側電極層3a及び外側の面に設けられた被測定ガス側電極層4aは電気的に接続されている。また、基準ガス側電極層3a及び被測定ガス側電極層4aは固体電解質体5の空間部2a側及び外側の面の所定領域全周に亘って設けられている。そして図4、5、6におけるコップ型センサ素子1の構造はいずれも同じである。また、検査液Dの組成、エタノールの含有割合も上記第1、2実施形態の場合と同様である。
【0051】
図4に示す第3実施形態は、固体電解質体5からなるコップ型センサ素子体2の空間部2aの長手方向が鉛直方向にほぼ一致するようにセットし、コップ型センサ素子体2の空間部2a内に検査液Dを注入して上記第1、2実施形態の場合と同様の要領で検査する例である。この第3実施形態では検査液Dを空間部2a内に注入しているから、絶縁抵抗値Rが所定値より小さく亀裂発生による不良と判定した場合、亀裂5aは固体電解質体5の空間部2a側に発生したことを検知できる。
【0052】
図5に示す第4実施形態は、固体電解質体5からなるコップ型センサ素子体2の空間部2aの長手方向が鉛直方向にほぼ一致するようにしてコップ型センサ素子体2を容器E内にセットし、次に容器E内すなわちコップ型センサ素子体2の外側領域内に検査液Dを注入して上記第1、2実施形態の場合と同様の要領で検査する例である。この第4実施形態では検査液Dをコップ型センサ素子体2の外側領域内に注入しているから、絶縁抵抗値Rが所定値より小さく亀裂発生による不良と判定した場合、亀裂5aはコップ型センサ素子体2すなわち固体電解質体5の外側に発生したことを検知できる。
【0053】
図6に示す第5実施形態は、固体電解質体5からなるコップ型センサ素子体2の空間部2aの長手方向が鉛直方向にほぼ一致するようにしてコップ型センサ素子体2を容器E内にセットし、次にコップ型センサ素子体2の空間部2a内及び容器E内すなわちコップ型センサ素子体2の外側領域内に検査液Dを注入して上記第1、2実施形態の場合と同様の要領で検査する例である。この場合、センサ素子体2の空間部2a内の検査液Dとセンサ素子体2の外側領域内の検査液Dは互いに電気的に絶縁分離されている。この第5実施形態では検査液Dをコップ型センサ素子体2の空間部2a内と容器E内すなわちコップ型センサ素子体2の外側領域内の両方に注入しているので、絶縁抵抗値Rが所定値より小さく亀裂発生による不良と判定した場合、亀裂5aはコップ型センサ素子体2すなわち固体電解質体5の空間部2a側あるいは外側あるいは空間部2a側と外側の両方に発生したことを検知でき、亀裂5aがコップ型センサ素子体2のどこかに発生したことを検知できる。
【0054】
なお、上述したように検査液Dについては、センサ素子1の積層型あるいはコップ型構造の特徴や固体電解質体5に発生する亀裂5aの発生場所の特異性等を考慮してセンサ素子体2の空間部2a内あるいはセンサ素子体2の外側領域内あるいは双方内に注入するようにすればよい。
【0055】
以上、第1〜5実施形態で説明したように本発明検査法は、空間部2aを有し一部に固体電解質体5を備えたセンサ素子体2と、固体電解質体5の空間部2a側と外側にそれぞれ配設された一対の基準ガス側電極3、被測定ガス側電極4を備えたセンサ素子1において、センサ素子体2の空間部2a内とセンサ素子体2の外側領域内の少なくとも一方に導電性の検査液Dを注入し、検査液Dを固体電解質体5に発生した亀裂5a内に浸漬させ、両電極3、4間に所定の電圧Vを印加して亀裂5aが発生した部位の固体電解質体5の電気絶縁抵抗値Rを測定し、その電気絶縁抵抗値Rに基づいてセンサ素子1の良否を判定しているから、従来の染色外観検査法に比べて確実に良否を判定できる。また、本発明検査法は電気的に検査しているから、被検査物であるセンサ素子1に支障を与えず短時間に全数検査ができ、従ってセンサ素子1の製造工程内に本検査法の検査工程を組み込むことができる。
【0056】
また、本検査法においては、検査液Dを水としているから、導電性液体として極めて容易に入手でき、安価である。
【0057】
また、本検査法においては、検査液Dに導電性浸透液体を含有させているから、検査液としての亀裂5a内への浸漬性を確実に得ることができる。
【0058】
また、本検査法においては、前記導電性浸透性液体をエタノールとしているから、検査液D5としての浸漬性を確実に得ることができるとともに容易に入手できる。また、揮発性を持っているから、亀裂内に残留せず、検査後の後処理が容易である。
【0059】
また、本検査法においては、前記検査液Dを水とし、導電性浸透性液体をエタノールとし、前記水に対する前記エタノールの含有量を10〜25重量%にしているから、検査液としての浸透性が良好であり且つ小さな亀裂5a内への浸漬を確実に行えることができると共に、入手も容易で安価である。
【0060】
また、本検査法においては、注入した前記検査液Dに加圧及び減圧の少なくとも一方を行っているから、検査液Dを加圧することで亀裂5a内に検査液Dを強制的に浸漬でき、減圧することで亀裂5a内の空気を排除して検査液Dの浸漬を容易にでき、検査液Dの小さな亀裂5a内への確実な浸漬を可能にすることができる。
【0061】
また、本検査法においては、前記両電極3、4間の印加電圧を500Vに設定しているから、検査液Dの特性を変動させることなく亀裂5a発生部位における前記固体電解質体5の電気絶縁抵抗値Rを確実に測定できる。また、電源装置も安価な小容量のもので行うことができる。
【0062】
また、本検査法においては、前記センサ素子体2の空間部2a内及び前記センサ素子体2の外側領域内の少なくとも一方への導電性検査液Dの注入を前記筒状センサ素子体2を鉛直状態にして行っておるから、検査液Dを注入する際、前記センサ素子体2の空間部2a内及び前記センサ素子体2の外側領域内の空気が検査液Dの注入に伴って排除でき、検査液Dの浸漬を確実に行うことができる。
【0063】
また、本検査法においては、検査対象のセンサ素子1を積層型センサ素子に適用しているから、亀裂5aが固体電解質体5の内側から発生し当該亀裂5aの検知が困難な積層型センサ素子であっても、容易に亀裂5aの存在を検知できる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明検査法の第1実施形態の説明に供する縦断面図である。
【図2】図1のX−X線矢視断面図である。
【図3】本発明検査法の第2実施形態の説明に供する縦断面図である。
【図4】本発明検査法の第3実施形態の説明に供する縦断面図である。
【図5】本発明検査法の第4実施形態の説明に供する縦断面図である。
【図6】本発明検査法の第5実施形態の説明に供する縦断面図である。
【図7】本発明検査法の説明に供するもので、水とエタノールの混合割合に対する表面張力及び粘度の特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0065】
1 センサ素子
2 センサ素子体
2a 空間部
2b 空間部2aの底部
3 基準ガス側電極
4 被測定ガス側電極
5 固体電解質体
5a 亀裂
6、7 保護層
8 拡散層
10 加熱用電極
11、12、13 充填層
D 検査液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に長手方向に沿った有底空間部を有すると共に少なくとも一部に固体電解質体を備えた筒状絶縁性センサ素子体と、前記センサ素子体の空間部側において前記固体電解質体に接触して配設された基準ガス側電極と、前記センサ素子体の外部側において前記固体電解質体に接触して配設された被測定ガス側電極とを備えたセンサ素子を有するガスセンサの前記固体電解質体に発生する亀裂を検出するガスセンサのセンサ素子検査法であって、
前記センサ素子体の空間部内及び前記センサ素子体の外側領域内の少なくとも一方に導電性検査液を注入し、
その後前記両電極間に所定の電圧を印加して前記両電極間における前記固体電解質体の絶縁抵抗値を測定することを特徴とするガスセンサのセンサ素子検査法。
【請求項2】
前記検査液は水であることを特徴とする請求項1記載のガスセンサのセンサ素子検査法。
【請求項3】
前記検査液は導電性浸透性液体を含有していることを特徴とする請求項1又は2記載のガスセンサのセンサ素子検査法。
【請求項4】
前記導電性浸透性液体はエタノールであることを特徴とする請求項3記載のガスセンサのセンサ素子検査法。
【請求項5】
前記検査液は水であり、前記導電性浸透性液体はエタノールであり、前記水に対する前記エタノールの含有量は10〜25重量%であることを特徴とする請求項3又は4記載のガスセンサのセンサ素子検査法。
【請求項6】
前記注入された検査液は加圧及び減圧の少なくとも一方が行われていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載のガスセンサのセンサ素子検査法。
【請求項7】
前記両電極間の印加電圧は500Vに設定されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載のガスセンサのセンサ素子検査法。
【請求項8】
前記センサ素子体の空間部内及び前記センサ素子体の外側領域内の少なくとも一方への導電性検査液の注入は前記筒状センサ素子体を鉛直状態にして行うことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載のガスセンサのセンサ素子検査法。
【請求項9】
前記センサ素子は積層型センサ素子であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一つに記載のガスセンサのセンサ素子検査法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−264998(P2009−264998A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−116792(P2008−116792)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】