説明

ガスタービンおよびその運転方法

本発明は、基準回転数で圧縮機のサージ限界に対して低減された余裕をもって運転可能であるガスタービン12と、このガスタービンを運転するための方法に関する。ガスタービン12は直接駆動される発電機18を経て、配電網21に電力を供給する。この発電機は運転周波数で交流電流を発生し、配電網21に周波数結合されて接続されている。周波数降下が起こる場合に、ガスタービン12の圧縮機13は調節可能な圧縮機案内羽根VGVを制御して急速に閉鎖することによって負荷解除され、それによって圧縮機のサージ限界に対する余裕を維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービン技術の分野に関する。本発明は、急速調整可能な調節可能圧縮機案内羽根を備えたガスタービンと、このようなガスタービンを運転するための方法に関する。本発明は特に、設計条件から逸脱する周囲条件でおよび電気エネルギーを供給する配電網の周波数降下時に、ガスタービンを運転するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンは電流を発生する発電機を駆動し、発電機は発生した電力を配電網周波数(例えば50Hzまたは60Hz)で配電網に供給する。このガスタービンは通常は、タービンの(機械的な)回転数と配電網周波数との間を固定結合している。その際、発電機の出力部は配電網接続部を介して、周波数を固定して配電網に接続されている。一方、発電機はタービンによって直接的に(1軸連結)あるいは機械的な変速装置を介して回転数結合式に駆動される。
【0003】
大型の消費部が配電網に接続されるかまたは発電所が配電網から分離されると、配電網の周波数が変動することになる。ガスタービンは周波数固定結合によってこの変動に追随しなければならない。これにより、ガスタービンの圧縮機の運転状態が危険になり得る。
【0004】
図1は、公知の種類の発電所10をきわめて簡略化して示す。この発電所は第1発電機18を連結したガスタービン12によっておよび第2発電機8を連結した蒸気タービン24によって、電気を発生し、配電網21に供給する。ガスタービン12と発電機18は共通の軸19によって連結され、軸連結体11を形成する。ガスタービンは最も簡単な場合、1個の圧縮機13を備えている。この圧縮機は空気入口16から燃焼空気を吸い込んで圧縮する。圧縮機13は互いに接続された複数の部分圧縮機からなっていてもよい。この部分圧縮機は圧力レベル上昇の際に作動し、場合によっては圧縮された空気の中間冷却を可能にする。圧縮機13内で圧縮された燃焼空気は燃焼室15内に達する。この燃焼室には、燃料供給部17から、液状燃料(例えば石油)あるいはガス状燃料(例えば天然ガス)が噴射され、燃料空気を消費しながら燃焼する。
【0005】
燃焼室15から出る高温ガスは後続のタービン14内で膨張して出力を生じ、圧縮機13と、連結された第1発電機18とを駆動する。タービンから出る際にまだ比較的高温である排ガスは、別個の水−蒸気回路25において蒸気タービン24を運転するための蒸気を発生するために、後続の廃熱蒸気発生器23に供給される。凝縮器、給水ポンプおよび水−蒸気回路25の他のシステムは図示を簡単にするために示していない。ガスタービン発電所と蒸気タービン発電所のこのような組み合わせは複合サイクル発電所と呼ばれる。蒸気タービン24はタービン14とは反対側で第1発電機18に連結可能である。その際、ガスタービン12と第1発電機18と蒸気タービン24はいわゆる「1軸パワートレイン」を形成する。しかし、蒸気タービン24は図1に示すように、別個の軸連結体上で固有の第2発電機8を駆動することができる。多軸設備についてはいろいろな組み合わせが知られている。
【0006】
図1の1軸−ガスタービンの場合、ガスタービン12の回転数は、発電機18内で発生する交流電圧の周波数に対して一定の比になっている。この周波数は配電網21の周波数と同じである。従って、ガスタービンの圧縮機を運転する機械的な回転数も設定されている。
【0007】
周波数範囲、ひいてはガスタービンを運転可能である最低機械的回転数は一般的に、配電網経営者によって定められる。さらに、地域の実状に依存して、周囲の運転範囲が定められる。全体として起こり得る周波数範囲と周囲運転範囲を確実に動作させることができるようにするために、ガスタービンの圧縮機はいわゆるサージ限界に対して余裕をもって設計および運転される。
【0008】
このサージ限界(Pumpgrenze)は、圧縮機によって上昇させなければならない圧力値が瞬間的な運転状態にとって大きすぎる状態であり、流れの剥離、逆流および圧力衝撃を圧縮機内に生じることになり得る。
【0009】
圧縮機の安全運転のための安全基準はいわゆる「空気力学的回転数」である。調節可能な圧縮機案内羽根のその都度の位置について、空気力学的回転数に依存して、圧縮機によって上昇させることができる最高圧力値が生じる。ガスタービンの安全運転を保証するために、このガスタービンは、サージ限界マージンとも呼ばれる、サージ限界に対する余裕をもって運転される。
【0010】
サージ限界に対する余裕がガスタービンの安全運転にとってもはや十分でないと、圧縮機の負荷を軽減しなければならない。これは圧縮機圧力値の低下あるいは調節可能な圧縮機入口羽根(Verdichtervorleitreihen)を閉鎖することによって達成可能である。
【0011】
この方策は出力を低下させることになり、最適化された発電所運転ではできるだけ回避すべきである。特に、他の対抗措置がなければガスタービン出力が配電網周波数に比例して低下する高い周囲温度の日に生じる周波数降下の際には、さらなる出力低下が配電網を一層不安定にする。
【0012】
さらに、ガスタービンは保護用負荷解除によって、特に負荷制限によって、配電網から外して、配電網に依存しないで回転数を制御してさらに運転可能である。しかしながら、ガスタービンが配電網に出力を供給しないので、これは配電網安定のために望ましくない解決策である。
【0013】
ガスタービンをサージ限界に対して十分な余裕をもって運転することの問題が知られている。全負荷運転時に全周囲運転範囲についてサージ限界に対する余裕をできるだけ一定に保つガスタービン運転方法は、特許文献1に記載されている。
【0014】
さらに、サージ限界に対する十分な余裕を実現するために、準静的運転中の低い空気力学的回転数時に、調節可能な圧縮機案内羽根を閉鎖するガスタービン運転方法が特許文献2で提案されている。その際、サージ限界は、機械的設計回転数時の基準位置に対して周波数が降下する際に、調節可能な圧縮機案内羽根を開放することができるような大きさに選定される。それによって、回転数に起因するガスタービンの出力低下が少なくとも部分的に補償され、配電網がより良好に補助される。
【0015】
従来のガスタービンの場合、サージ限界に対して大きな余裕を有する設計および運転は、正常運転時、すなわち周囲運転範囲内の定格回転数での運転時に、最適以下の圧縮機効率につながる。さらに、ガスタービンの出力ポテンシャルは広い運転範囲で完全には利用されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許第6226974号明細書
【特許文献2】米国特許第6794766号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の課題は、公知のガスタービンの欠点を回避し、効率が高いと場合に、ガスタービンの出力ポテンシャルを広い運転範囲で利用する、電源網に給電するためのガスタービン並びにその運転方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この課題は独立請求項の特徴全体によって解決される。本発明の重要な点は、調節可能な圧縮機案内羽根VGVの調整装置およびそれに関連する、調節可能な圧縮機案内羽根を調整するための方法にある。この調整装置は、不所望な周囲条件に関連して大きな周波数降下が起こる場合にも、調節可能な圧縮機案内羽根を急速に調整し、圧縮機の負荷を解除することによって必要な運転範囲において配電網周波数変化の影響を相殺することができる。そのために、周波数降下が起こる間に、圧縮機のサージ限界に対する余裕が保たれるように、調節可能な圧縮機案内羽根が急速に閉鎖される。
【0019】
ここでは、圧縮機の入口条件が周囲条件と呼ばれる。これは通常、発電所の環境条件に等しい。出力を高めるための吸い込み空気の冷却あるいは排ガスの再循環のような特別な方策によって、入口条件を環境条件とは相違するようにすることができる。
【0020】
相応して急速に設計される接続制御機器はコントローラまたはコンピュータと、調節可能な圧縮機案内羽根のアクチュエータと、調節可能な圧縮機案内羽根の角度位置のセンサと、配電網周波数またはガスタービン回転数の測定装置と、データ伝送装置とを含んでいる。
【0021】
制御を簡単化するために、空気力学的回転数

n*=nmech×1/√κRT

は機械的回転数nmechの項と、周囲限界条件を表す項に分けることができる。圧縮機の周囲限界条件は1と、等エントロピー指数κ、気体定数Rおよび圧縮機入口温度Tの積の平方根との商によって表され、周囲因子

a=1/√κRT

で要約される。それによって、空気力学的回転数は簡略化して

n*=nmech×a

と表すことができる。
【0022】
周囲条件、ひいては周囲因子aはゆっくりと変化し、そしてガスタービンの急速な動的プロセスに対して準静的である。それと異なり、機械的回転数nmechは周波数降下が起こる際に急速に変化する。
【0023】
最小限必要な機械的回転数は周囲条件に依存して定めることができる。この機械的回転数の場合、調節可能な圧縮機案内羽根のその都度の位置によって安全な運転が可能である。この回転数に対して、調節可能な圧縮機案内羽根の調整装置の応答時間中の想定される最悪の回転数低下のための余裕と、ガスタービン内の動的作用のための余裕とが加算され、それによって許容運転範囲の限界が定められる。これはガスタービンのコントローラに記憶されるかまたは適当な記憶媒体を介してガスタービンに供される。運転中、重要な周囲条件が測定され、関連する限界値が決定される。機械的回転数がこの限界値よりも低くなるや否や、調節可能な圧縮機案内羽根は急速に閉鎖される。
【0024】
ガスタービン内の動的作用はガスタービンの急速な過渡的現象中の運転状態の遅延である。これにより、圧縮機出口圧力または温度のような重要な値が、そのほかは同じ限界条件のときに、定常値からそれることになる。例えば、タービン内の容積が調節可能な圧縮機入口羽根の閉鎖時に圧縮機出口の圧力低下の遅延につながる。圧縮機、燃焼室およびタービンの容積のほかに、冷却空気系の容積を考慮しなければならない。この冷却空気系の容積は、特に冷却空気冷却器が配置されているときに、圧縮機内での圧力上昇の移動につながる。
【0025】
限界値は例示的な実施では、調節可能な圧縮機入口羽根の位置、圧縮機入口温度T、等エントロピー指数κおよび気体定数Rに依存して、多次元場として定められ、かつ記憶される。実際には、空気吸い込み式ガスタービンの吸い込み空気の気体定数Rと等エントロピー指数κの積が、例えば簡単化されて空気湿度の関数として定められる。その代わりに、等エントロピー指数κの変化を無視し、気体定数Rを空気湿度の関数として定めることができる。
【0026】
他の例示的な実施では、限界値が簡単化されて周囲因子aの一次元関数として定められ、記憶される。
【0027】
従来のガスタービンの全負荷運転時の安全な運転のためのサージ限界全体余裕のうちの、周波数降下に対処するために設けられる割合が重要である。この割合はサージ限界全体余裕の少なくとも10%、一般的には30%を超え、ガスタービンの設計不確実性と劣化のための余裕が無視できる場合には、50%またはそれ以上になる。提案された急速制御と、それに関連する制御コンセプトによって、この割合を実質的に放棄し、従って圧縮機を最適な効率に近い状態で運転し、そしてガスタービンの出力ポテンシャルを良好に利用することができる。
【0028】
重大な周波数降下が起こる場合には、配電網周波数を1Hz/秒よりも多く低下させることができる。極端な場合には、この分野の経験に基づいて重大な周波数低下の場合に観察されるような1.6Hz/秒を考慮することができる。設計のために、2Hz/秒またはそれ以上とすることができる。
【0029】
このような急速周波数低下を相殺するために必要である調節可能な圧縮機案内羽根の閉鎖速度は、圧縮機の特性に依存する。調節可能な圧縮機案内羽根の閉鎖速度は通常、秒あたりの角度°で表される。代表的な工業用タービンの場合、圧縮機の負荷解除については、閉鎖速度は少なくとも5°/秒である。安全な運転は例えば多くの場合、10°/秒の閉鎖速度で保証される。20°/秒以上の閉鎖速度は有利である。
【0030】
その際、制御装置は調節可能な圧縮機案内羽根をアイドル状態まで閉鎖せずに、配電網で要求される最低周波数で安全運転を実現するために必要であるような位置まで閉鎖する。このいわゆるVGV周波数降下位置は、ガスタービンと配電網要求に依存する。基準位置に対する例えば5°の、調節可能な第1圧縮機案内羽根の閉鎖で十分である。しかし、例えば約10°の閉鎖も必要であるかもしれない。極端な場合、調節可能な圧縮機案内羽根をさらに閉鎖しなければならない。その際、調節可能な圧縮機案内羽根の異なる列の角度変化の状態は圧縮機特有のものである。もし存在する場合には、調節可能な圧縮機案内羽根の第2列、第3列および後続の列は一般的に、第1列よりも動作が小さい。
【0031】
基準位置とVGV周波数降下位置との間の調節可能な圧縮機案内羽根の位置でガスタービンが運転される、ガスタービンの部分負荷運転については、本発明に係るいろいろな制御戦略が考えられる。第1の実施形態では、調節可能な圧縮機案内羽根がVGV周波数降下位置よりも広く開放している間は、調節可能な圧縮機案内羽根の実際の位置に依存しないで、許容運転範囲の限界が開放した圧縮機案内羽根のために適用される。第2の実施形態では、許容運転範囲の限界が付加的に、調節可能な圧縮機案内羽根の位置の関数として決定される。これは部分負荷時に、周波数降下に応答する限界を、低い機械的回転数に対してさらに移動させることを可能にする。他の実施形態では、許容運転範囲の限界がさらに、圧縮機到達圧力または圧縮機圧力比の関数として決定される。
【0032】
調節可能な圧縮機案内羽根の位置は急速な過渡的現象の場合、必ずしも調整装置を介して行う必要はなく、制御装置を介して実現することができる。そのために、急速な過渡現象中は基準調整が与えられるかまたは制御信号がオフセットとしての調整信号に加算される。
【0033】
調節可能な圧縮機案内羽根の位置の急速な変化に相応して、圧縮機の吸い込み流量が急速に変化する。これは、燃料流量を補正しないと、燃焼室内の化学量論的な比を大きく上昇させることになり、かつタービン入口温度を急に上昇させることになる。この上昇は、燃焼室とタービンの重大な損傷を回避する目的で、ガスタービンが保護用限界を越えて自動的に停止することのないようにするために、標準変動の範囲内に保つべきである。
【0034】
タービン入口温度は一般的に直接測定されないで、複数の測定値を組み合わせて間接的に求められる。その際、最も重要な測定値の一つはタービン出口温度のゆっくりした測定である。タービン出口温度測定がゆっくりしているので、急速過渡的現象の場合のタービン入口温度の決定は調整にとって最適でない。改善された過渡的運動を実現するために、燃料量調整のパイロット制御を行うことができる。このパイロット制御により、燃料流量を例えば吸い込み流量に比例して減らすことができる。
【0035】
次に、図に関連してかつ実施形態に基づいて本発明を詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】ガスタービンと後続配置の水−蒸気回路とを備えた従来技術の複合サイクル発電所を簡略化して示す回路図である。
【図2】周囲条件と機械的回転数に依存して運転限界を簡略化して示す。
【図3】急速VGV閉鎖の時間的な変化を示す。
【図4】いろいろな運転方法のための出力供給と周波数降下の際の回転数との時間的な変化を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
図2には、可能な運転範囲が示してある。特に、機械的な回転数の重要な限界が周囲条件に依存して示してある。この周囲条件は簡略化して周囲因子aでまとめてある。要求される許容周囲運転範囲27は最低周囲因子8と最高周囲因子9によって制限される。
【0038】
機械的な回転数は、設計回転数4から出発して、運転範囲内の運転コンセプトに応じて変化し得る。機械的な回転数範囲は最高機械的回転数5によって上側を制限されている。回転数は一般的に機械的な限界によって上側を制限され、空気力学的な限界では上側を制限されない。より高い回転数の方へ回転数範囲を広げるための方法は本発明の対象ではなく、周囲運転範囲の広がりがどのように行われるかについてはここではこれ以上説明しない。
【0039】
説明の対象は、より低い機械的回転数nmechの方への運転範囲の拡張である。対抗措置なしに重大な周波数降下に対して安全性を保証する、静的限界1と呼ばれる従来の全負荷運転範囲の制限は例えば、基礎運転範囲30と呼ばれる比較的に小さな運転範囲となる。然るべき方法による、本発明に係る急速な調整により、回転数制限ははるかに低い機械的回転数の方へ移動し、全負荷運転範囲31の拡張が実現される。その際、開放された調節可能な圧縮機案内羽根VGVと基準タービン入口温度による運転が全負荷と呼ばれる。
【0040】
従来の方法の場合には、全負荷運転範囲1の静的限界は厳しい限界であり、この厳しい限界の下方では全負荷運転は不可能である。ガスタービンは限界に達すると保護のために負荷解除されるかあるいは限界に達する前に準静的運転で負荷解除される。それによって、周波数降下が起こる前に適時に運転範囲を広げることができる。これにより、制約されない運転は配電網周波数内の小さな低下にしか保証されない。機械的な回転数nmechは全周囲範囲において第1回転数限界6までしか下げることができない。
【0041】
これと異なり、動的限界2と呼ばれる全負荷運転範囲の新しい制限は、運転範囲の大幅な拡張を可能にし、厳しい限界を生じない。本発明に従い、ガスタービン12はこの動的限界2まで全負荷で運転可能である。動的限界2を越えると、保護のために負荷解除されないで、調節可能な圧縮機案内羽根VGVを急速閉鎖させることになり、ひいては部分閉鎖された圧縮機案内羽根28によって運転範囲を付加的に拡張することになる。
【0042】
動的調整により、配電網周波数内のはるかに大きな低下について、制約されない運転を保証することができる。機械的な回転数nmechは全周囲範囲で第2回転数限界7まで低減可能である。
【0043】
周囲運転範囲27の枠内と、最小機械的回転数26による運転範囲の下側制限の枠内において、これは部分閉鎖された調節可能な圧縮機案内羽根29のための付加的な運転範囲になる。
【0044】
従って、基礎運転範囲30から出発して、全負荷運転範囲31と部分閉鎖された調節可能な圧縮機案内羽根29の運転範囲を拡張することによって、必要な全運転範囲で負荷運転を保証することができる。ガスタービン12の効率の制限は本例では、部分閉鎖された調節可能な圧縮機案内羽根29のための小さな運転範囲においてのみ甘受される。
【0045】
これまで、このような大きな運転範囲は圧縮機またはガスタービンの大幅な設計変更によってのみ実現可能であった。この設計変更は結果として効率と出力の著しい損失を伴うかまたは圧縮機寸法が大きいので設計コストが高くつくことになる。
【0046】
急速VGV周波数降下調整の時間的な変化は図3において直線的な閉鎖の例で示してある。機械的回転数nmechがVGV2開放時に運転範囲の動的限界を下回るや否や、調節可能な圧縮機案内羽根がVGV公称位置VGVから出発してコントローラによって閉鎖方向に動かされる。この時点は急速VGV周波数降下調整のスタートtと呼ばれる。調節可能な圧縮機案内羽根はVGV周波数降下位置VGVまで例えば一定の角速度で閉鎖される。このVGV周波数降下位置には圧縮機案内羽根はVGV周波数降下調整の閉鎖時点tに達する。
【0047】
従来の運転方法で運転される従来のガスタービンに対する利点が、図4において、全負荷を基準として決めた相対出力Prelの時間的な変化と、例示的な周波数降下に関する配電網周波数Fの時間的な変化に基づいて略示してある。機械的な設計回転数nmech=100%から出発して、時点t以降、配電網周波数Fは時点tで最小値に達するまで低下する。
【0048】
従来のガスタービン12に関する第1例では、ガスタービン12は時点tまで全負荷で運転され、配電網に出力Pを供給する。時点tで、機械的回転数nmechは配電網周波数Fの低下の結果回転数限界1を下回る。この回転数限界は周囲条件に依存して全負荷運転範囲を制限する。全負荷運転範囲の静的限界1を下回った後で、ガスタービン12は保護のために負荷解除され、もはや配電網に出力Pを供給することができない。
【0049】
従来のガスタービン12に関する第2例では、ガスタービン12は周囲条件から出発して、サージ限界に対して十分な余裕を保証するために、既に設計回転数での定常運転で負荷低減されている。ガスタービン12は要求された運転範囲ではもはや保護のために負荷解除する必要はなく、設計回転数での通常運転で、低下した出力Pを有する。
【0050】
本発明に係る方法は、出力Pdynを低下させずに全負荷運転範囲2の動的制限に達するまでガスタービン12を運転することを可能にする。時点「急速周波数低下調整のスタート」tで、配電網周波数Fの低下の結果として、機械的回転数nmechが周囲条件によって定められた全負荷運転範囲2の動的限界に依存して低下するときに初めて、ガスタービンが調節可能な圧縮機案内羽根の急速閉鎖によって負荷解除される。しかも、ガスタービンはそのときさらに出力Pdynを配電網に供給することができる。
【0051】
すべての例において、ガスタービンの出力に対する機械的回転数の直接的な影響が考慮されていないが、この影響は、圧縮機または燃焼室内における高温ガス温度の上昇または水噴射量の増大のような、出力を高めるための適切な手段によって相殺されると考えられる。調節可能な入口案内羽根VGVの位置と保護のための負荷解除の影響だけが概略的に示してある。
【0052】
本発明の可能な実施は、図示した例に限定されない。当業者には図示した例に基づいて、均等的な調整および方法を実現する多くの可能性が開けている。例えば、調節可能な圧縮機案内羽根29の急速閉鎖を、機械的な回転数nmechまたは配電網周波数Fの下方で周囲条件に依存しないで行うことが考えられる。例えば調節可能な圧縮機案内羽根29の急速閉鎖を常に一定限界値の下方で行うことができる。例えば基準配電網周波数の98%の下方で行うことができる。それによって、ガスタービンの制御が配電網周波数の関数としてのみ簡単化され、周囲条件に依存しないで実施可能である。
【0053】
さらに、適用は空気吸い込み式ガスタービンに制限されず、例えば排ガス再循環式ガスタービンのための、任意ガス混合式の閉鎖型または部分閉鎖型循環プロセスの場合にも可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 全負荷運転範囲の静的限界
2 全負荷運転範囲の動的限界
3 周波数降下VGVの場合の限界
4 機械的な設計回転数
5 最高機械的回転数
6 第1回転数限界
7 第2回転数限界
8 最低周囲因子a
9 最高周囲因子a
10 発電所設備
11 軸連結体
12 ガスタービン
13 圧縮機
14 タービン
15 燃焼室
16 空気入口
17 燃料供給部
18 発電機
19 軸
20 配電網接続部(周波数連結)
21 配電網
22 排気出口
23 廃熱高温蒸気発生器
24 蒸気タービン
25 水−蒸気−回路
26 最低機械的回転数
27 周囲運転範囲
28 部分閉鎖された調節可能な圧縮機案内羽根による運転範囲の拡張
29 部分閉鎖された調節可能な圧縮機案内羽根のための運転範囲
30 基礎運転範囲
31 全負荷運転範囲の拡張
aF 周囲因子
mech 機械的な回転数
VGV 調節可能な圧縮機案内羽根
、P 従来の調整における出力変化
dyn 全負荷運転範囲の動的限界による調整時の出力変化
rel 相対的出力
R 吸い込み空気の気体定数
T 圧縮機入口温度
周波数降下開始時点
全負荷運転範囲1の静的限界を下回る時点
全負荷運転範囲2の動的限界を下回る時点v
急速VGV周波数降下調整のスタート
最低配電網周波数に達する時点
VGV周波数降下調整の終了時点
VGV VGV基準位置
VGV VGV周波数降下位置
κ 吸い込み空気の等エントロピー指数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスタービン(12)によって直接駆動される、運転周波数で交流電流を発生する発電機(18)を具備し、この発電機が所定の配電網周波数(F)を有する配電網(21)に周波数結合されて接続されている、ガスタービン(12)において、
調節可能な圧縮機案内羽根(VGV)の調整装置が前記調節可能な圧縮機案内羽根(VGV)を十分な速度で閉鎖可能であるので、前記配電網(21)の周波数降下が起こる際に圧縮機(13)のサージ限界に対する余裕が維持されたままであることを特徴とするガスタービン。
【請求項2】
前記調節可能な圧縮機案内羽根(VGV)の調整速度が5°/秒よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載のガスタービン。
【請求項3】
前記調節可能な圧縮機案内羽根(VGV)の調整速度が10°/秒よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載のガスタービン。
【請求項4】
前記調節可能な圧縮機案内羽根(VGV)のアクチュエータが10°/秒よりも速く運転可能であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のガスタービン。
【請求項5】
10°/秒の角速度よりも速い調整のための前記調節可能な圧縮機案内羽根(VGV)の制御回路が、アクチュエータ、角度位置のセンサ、前記調節可能な圧縮機案内羽根(VGV)およびコントローラを備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のガスタービン。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のガスタービン(12)を運転するための方法において、
周囲条件に依存して、許容される機械的回転数(nmech)の動的限界(2)が定められ、この限界を下回るときに前記調節可能な圧縮機案内羽根(VGV)がVGV周波数降下位置(VGV)に移動させられ、この場合サージ限界に対する余裕が維持されたままであることを特徴とする方法。
【請求項7】
許容される前記機械的回転数(nmech)の前記動的限界(2)が前記調節可能な圧縮機案内羽根(VGV)の位置に依存して定められることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
許容される前記機械的回転数(nmech)の前記動的限界(2)が前記周囲条件に依存して定められることを特徴とする請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
許容される前記機械的回転数(nmech)の前記動的限界(2)が周囲因子(a)の関数として求められることを特徴とする請求項6〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記周囲因子(a)が、1と、等エントロピー指数(κ)、気体定数(R)および圧縮機入口温度(T)の積の平方根との商として計算されることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記周囲因子(a)が圧縮機入口温度(T)と吸い込み空気の相対空気湿度の関数として概算されることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記周囲因子(a)が圧縮機入口温度(T)の関数として概算されることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記調節可能な圧縮機案内羽根(VGV)の周波数降下位置(VGV)でのVGVの急速動作中または急速動作後の燃料流量がパイロット制御によって低減されることを特徴とする請求項6〜12のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−500362(P2012−500362A)
【公表日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−523402(P2011−523402)
【出願日】平成21年8月14日(2009.8.14)
【国際出願番号】PCT/EP2009/060577
【国際公開番号】WO2010/020595
【国際公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(503416353)アルストム テクノロジー リミテッド (394)
【氏名又は名称原語表記】ALSTOM Technology Ltd
【住所又は居所原語表記】Brown Boveri Strasse 7, CH−5401 Baden, Switzerland
【Fターム(参考)】