説明

ガスタービン操作方法

【課題】軸の固有振動数と一致する失速状態により軸のアンバランスが生じた際に起きる大きな振動を低減又は解消することが可能なガスタービン操作方法を提供すること。
【解決手段】ガスタービンの停止作業中における該ガスタービンの操作方法において、コンプレッサを減速するとともに、最大振幅が生じる軸速度より少なくとも5%大きな軸速度において前記コンプレッサのインレットガイドベーン1の閉鎖を開始し、該閉鎖を1秒間に5〜10°の割合で15〜35°の範囲で行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービン発電所の操作方法に関するものであり、特に、多段の軸流圧縮機の静翼を制御することにより発電所を停止する際のガスタービンの操作方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンの停止作業時には、コンプレッサに不安定が生じ得ることが一般に知られている。特に、コンプレッサが一度低速に陥ると、失速が起こり得る。このような失速は翼や軸の振動を引き起こし、寿命を短縮させたり、コンプレッサの損傷につながるおそれがある。
【0003】
例えば、特許文献1にはコンプレッサの失速状態とこのような状態を静翼の様々な配置によって防止することが開示されている。しかし、翼の配置の設定をロータ回転速度の関数として保持することによって満足し得ない操作が生じてしまう。このようなことは、特にコンプレッサのバイパスバルブの制御と共に静翼の位置を設定する方法において生じる。なお、この方法は、コンプレッサの圧力比に基づくフィードバック制御を含むものであり、圧力比が基準圧力比と比較されるものとなっている。この方法は、特に閉ループ制御又は開ループ制御による航空用エンジンに直接応用されるものである。
【0004】
また、部分負荷におけるガスタービン操作方法が記載された特許文献2には、2つの燃焼室への燃料の流れを制限することと、定格負荷の50%までの負荷低下開始時にコンプレッサの案内翼の角度を調整することとが記載されている。そして、定格負荷の50%となった時点では、燃料の流れはその質量流量及びタービン入口温度に応じて制御される。
【0005】
また、ガスタービンの停止作業時のコンプレッサの減速による不安定は回転の失速を含んだものであり、1つ又は複数のコンプレッサがこれに隣接するコンプレッサよりも早く失速することになる。そして、この状態によって、軸の回転方向に対して反対方向への翼の失速及び軸の回転方向への翼の加速が生じ得る。これにより、最高軸速度の約50%での回転が生じ、軸の固有振動数と一致する失速状態により軸のアンバランスが生じた際に起きる大きな振動が起こり得る。
【特許文献1】米国特許第5,042,245号明細書
【特許文献2】米国特許第5,634,327号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的とするところは、軸の固有振動数と一致する失速状態により軸のアンバランスが生じた際に起きる大きな振動を低減又は解消することが可能なガスタービン操作方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、
1)ガスタービンの減速に伴いコンプレッサを減速するとともに、軸の固有振動数と一致する失速状態により軸のアンバランスが生じた際に起きる最大振幅が生じる軸速度より少なくとも5%大きな軸速度において前記コンプレッサのインレットガイドベーンの閉鎖を開始し、
2)前記閉鎖を15〜35°の範囲で行う
ことを特徴としている。
【0008】
上記本発明による方法によれば、回転の失速を減少させ、コンプレッサに損傷が生じるおそれがないレベルを達成することが可能である。
【0009】
また、本発明によれば、ガスタービンの停止作業時に、コンプレッサの翼によって軸に制動作用が生じ、これによりコンプレッサ圧力が翼を横断する形で上昇する。この際、ガスタービンの軸の回転エネルギーによりコンプレッサが動作すると効果的である。そして、ガスタービンの停止作業時、すなわち上記1)及び2)のステップによるインレットガイドベーンの閉鎖動作時の流体力学的な制動力の減少によって、翼を横断する圧力の入口圧力と出口圧力の一時的な比が減少することになる。
【0010】
その結果、コンプレッサにおける回転失速が生じうる危険域である前面段への流体力学的な負荷により、失速の危険が大きく減少する。これにより、翼の失速に対する影響が減少し、失速に関連して生じるコンプレッサの流れ領域内における大きな非対称性によって誘起される軸振動も減少することになる。
【0011】
また、本発明による方法によれば、インレットガイドベーンをガスタービンの停止作業中に比較的長く開放していることによる比較的大きな質量流量により、流路及び金属部材(特にタービン翼)の対流冷却が促進されるという効果が得られる。さらに、同様に振動も低減される。
【0012】
また、本発明の一実施形態は、インレットガイドベーンの閉鎖を1秒間に5〜10°の割合で行うことを特徴としている。ここで、本発明によるインレットガイドベーンの閉鎖開始時期及び閉鎖角度は失速の危険性を減少させるものであり、閉鎖割合(°/秒)がこの効果を更に高めるようになっている。
【0013】
また、本発明の一実施形態は、最大振幅が生じる軸速度より5〜10%大きな軸速度においてインレットガイドベーンの閉鎖を開始することを特徴としている。
【0014】
さらに、本発明の一実施形態は、最大振幅が生じる軸速度より10〜15%大きな軸速度においてインレットガイドベーンの閉鎖を開始することを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、軸の固有振動数と一致する失速状態により軸のアンバランスが生じた際に起きる大きな振動を低減又は解消することが可能なガスタービン操作方法を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0017】
本実施の形態においては、ガスタービンが最大速度から減速し、最大振幅が生じる軸速度より5%、特に10%大きな軸速度においてインレットガイドベーン1の閉鎖が開始される。このインレットガイドベーン1の閉鎖が開始される軸速度は最高軸速度の44〜60%の範囲となっているが、実際の上記軸速度は、周囲の空気温度及びガスタービンのタイプに依存し、例えば最高軸速度の48%である。
【0018】
また、インレットガイドベーン1の閉鎖開始は、失速が生じる前におけるできる限り遅い時点に設定されるのが好ましい。この際、インレットガイドベーン1の閉鎖を、軸速度が失速の起こり得る危険速度へ至る前に完了させるのが効果的である。
【0019】
そして、インレットガイドベーン1の閉鎖を行うために、コンプレッサの第1段におけるインレットガイドベーン1を、ロータの減速が開始される前にその初期位置から翼弦角度が増大する方向へ回転させる。ここで、「翼弦角度」とは、インレットガイドベーン1の前端部2と後端部3を結ぶ線とタービンの軸中心線とがなす角度である。初期位置において、この翼弦角度は例えば−45°であり、閉鎖状態においてはこれが例えば−60°となる。なお、本実施の形態において、閉鎖角度は例えば35°であり、最終的な翼弦角度は−75〜−80°となる。
【0020】
図1a及び図1bには、矢印Aで示すコンプレッサ回転方向へ並べられたインレットガイドベーン列が示されている。なお、矢印Bはコンプレッサを通過して流れる空気流の方向を示している。
【0021】
しかして、各インレットガイドベーン1は前端部2及び後端部3を有しており、この前端部2と後端部3を結ぶ線とタービンの軸中心線とがなす角度が翼弦角度αとなっている。図1aには例えばα=45°で配置されたインレットガイドベーン1の初期位置が示されており、図1bにはΔα=15°の閉鎖角度で閉鎖され、翼弦角度α=60°となったインレットガイドベーン1が示されている。なお、この閉鎖角度は、コンプレッサのタイプに応じて1つの1段目、2つの1段目又は3つの一段目に適用される。
【0022】
また、回転失速の危険を更に低減するために、従来の方法に比して閉鎖割合を高めるようにしている。閉鎖動作は、機械的な限界の範囲内においてできる限り迅速に、例えば1秒間に5〜10°の範囲、特に1秒間に8〜10°の範囲で行われる。失速直前(最大振幅が生じる軸速度より約5〜10%大きな軸速度において)に行われるこのようなインレットガイドベーン1の迅速な閉鎖により、軸の固有振動数と一致する失速状態により軸のアンバランスが生じた際に起きる大きな振動(共振)を低減又は解消することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1a】本発明の一実施形態における初期状態のインレットガイドベーン列を示す図である。
【図1b】閉鎖状態における図1と同様なインレットガイドベーン列を示す図である。
【符号の説明】
【0024】
1 インレットガイドベーン
2 前端部
3 後端部
A コンプレッサ回転方向
B 空気流の流通方向
α 翼弦角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスタービンの停止作業中における該ガスタービンの操作方法において、
コンプレッサを減速するとともに、最大振幅が生じる軸速度より少なくとも5%大きな軸速度において前記コンプレッサのインレットガイドベーン(1)の閉鎖を開始し、該閉鎖を1秒間に5〜10°の割合で15〜35°(Δα)の範囲で行うことを特徴とするガスタービン操作方法。
【請求項2】
前記インレットガイドベーン(1)の閉鎖を、最大振幅が生じる軸速度より10〜15%大きな軸速度において開始することを特徴とする請求項1記載のガスタービン操作方法。
【請求項3】
前記インレットガイドベーン(1)の閉鎖を1秒間に8〜10°の割合で行うことを特徴とする請求項1記載のガスタービン操作方法。
【請求項4】
前記インレットガイドベーン(1)の閉鎖を、−45°の角度(α)から−60°の角度(α+Δα)まで行うことを特徴とする請求項1又は2記載のガスタービン操作方法。
【請求項5】
前記インレットガイドベーン(1)の閉鎖を、−45°の角度(α)から−75〜−80°の角度(α+Δα)まで行うことを特徴とする請求項1又は2記載のガスタービン操作方法。
【請求項6】
前記インレットガイドベーン(1)の閉鎖を、最大振幅が生じる軸速度より5〜10%大きな軸速度において開始することを特徴とする請求項1又は2記載のガスタービン操作方法。
【請求項7】
前記インレットガイドベーン(1)の閉鎖を、軸速度が最高軸速度の44〜60%の範囲で開始することを特徴とする請求項1又は2記載のガスタービン操作方法。
【請求項8】
前記インレットガイドベーン(1)の閉鎖を、軸速度が最高軸速度の48%の時点で開始することを特徴とする請求項7記載のガスタービン操作方法。
【請求項9】
最大振幅を生じる軸速度に到達する前に前記インレットガイドベーン(1)の閉鎖を完了することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のガスタービン操作方法。

【図1a】
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【図1b】
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【公表番号】特表2009−531592(P2009−531592A)
【公表日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−501999(P2009−501999)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際出願番号】PCT/EP2007/052183
【国際公開番号】WO2007/110308
【国際公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(503416353)アルストム テクノロジー リミテッド (394)
【氏名又は名称原語表記】ALSTOM Technology Ltd
【住所又は居所原語表記】Brown Boveri Strasse 7, CH−5401 Baden, Switzerland
【Fターム(参考)】