説明

ガスバリア層形成用組成物、その製造方法およびガスバリア性フィルム

【課題】短時間、低エネルギーでセルロース繊維の解繊を行なうことができ、湿度依存性や湿度による劣化がほとんどなく、高湿度下におけるガスバリア性に優れ、かつ環境負荷の少ないガスバリア層形成用組成物、その製造方法およびガスバリア性フィルムを提供する。
【解決手段】少なくともセルロース繊維および無機層状化合物を含むことを特徴とするガスバリア層形成用組成物。少なくともセルロース繊維、無機層状化合物、水を混合し溶液を調整する工程と、分散手段により、前記水溶液に含まれるセルロース繊維の解繊および無機層状化合物の剥離を同時処理する工程とを含むことを特徴とする前記ガスバリア層形成用組成物の製造方法。ガスバリア層形成用組成物を基材上に塗布後、乾燥してなるガスバリア性フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然資源を有効利用した環境負荷の少ないガスバリア層形成用組成物、その製造方法および前記ガスバリア層形成用組成物を用いて得られるガスバリア性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
食品をはじめとする包装材料では、内容物保護のため、酸素、水蒸気に対するバリア性(ガスバリア性)が求められている。従来、ガスバリア性を有する包装材料としては、アルミ蒸着フィルムや塩化ビニリデンコートフィルムが用いられてきた。しかし、環境負荷の低減が求められる近年、アルミ焼却時の残渣問題、塩化ビニリデン焼却時のダイオキシン発生などの環境汚染を招く材料の使用を控える動きが活発になってきている。そこで、同じ化石資源からつくられる材料であっても、アルミや塩素を含まないポリビニルアルコールやエチレンビニルアルコール共重合体材料への代替が進められてきた(例えば特許文献1参照)。しかしながら、これらを用いたフィルムは乾燥状態では高いガスバリア性を示すが、高湿度下においてはガスバリア性が著しく低下してしまう問題が生じる。
【0003】
そこで、問題を解決するため種々の方法が考案されている。例えば、ポリビニルアルコールと無機層状化合物との複合膜を作製する方法が検討されており、その効果も知られている。
【0004】
しかしながら、さらに近年、石油などの化石資源に依存した産業システムから再生可能なバイオマス資源を基盤とする循環型産業システムへの移行が重要な課題となってきている。このような経緯から、ガスバリア性フィルム用材料においても、石油由来材料からバイオマス資源を用いる流れとなってきている。中でも、バイオマス資源の一つであるセルロースが現在注目されている。セルロースは化石資源とは異なり再生可能なバイオマス資源であること、生分解性を有するため焼却処分する必要がないことなどから、新たなガスバリア性フィルム用材料として検討、開発が進められている。
【0005】
例えば、特許文献2では、N−オキシル化合物によりセルロース表面を酸化した後、溶媒(水や有機溶媒あるいはその混合物)中で分散力を加えることで得られる微細セルロース繊維の分散体が機能性材料として利用できる可能性を述べている。さらに、特許文献3,4では、微細セルロース繊維の分散体を用いたガスバリア性フィルムの検討をおこなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−164591号公報
【特許文献2】特開2008−1728号公報
【特許文献3】特開2008−306068号公報
【特許文献4】特開2009−57552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、セルロース繊維をガスバリア層形成用組成物として用いる際、セルロース繊維の絡み合いや相互作用が強いため特許文献2のようにセルロース表面を酸化し静電的な反発を生じさせても、解繊(分散)するのに多大な時間とエネルギーが必要となる。本発明ではガスバリア層形成用組成物中において、短時間、かつ低エネルギーでセルロース繊維の解繊をおこなうことを課題とした。
【0008】
また、セルロース繊維をガスバリア性フィルム用材料として用いる際の問題点として、セルロース繊維が水存在下あるいは湿度条件下で膨潤してしまい、セルロース繊維の有する優れたガスバリア性を発揮できないということがあげられる。本発明ではセルロース繊維の膨潤を抑え、高湿度下でも優れたガスバリア性フィルムの開発を課題とした。
【0009】
また、セルロース繊維を均一に解繊(分散)するためには、水溶液中のセルロース濃度を著しく低くしなければならない。しかし、セルロース繊維濃度の低い水溶液を塗工しても十分な膜厚のガスバリア層を得ることはできない。さらには、乾燥工程にかかるエネルギーも大きくなってしまう。そこで本発明では水溶液中のセルロース繊維濃度の増加をさらに課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、少なくともセルロース繊維および無機層状化合物を含むことを特徴とするガスバリア層形成用組成物である。
請求項2に記載の発明は、前記セルロース繊維を構成するセルロースの水酸基の一部がカルボキシル基およびアルデヒド基から選ばれる少なくとも1つの官能基に酸化されており、その総和がセルロースの重量に対し0.5〜3.5mmol/gであることを特徴とする請求項1に記載のガスバリア層形成用組成物である。
請求項3に記載の発明は、前記セルロース繊維が結晶性セルロースであり、かつセルロースI型の結晶構造を有することを特徴とする請求項1または2に記載のガスバリア層形成用組成物である。
請求項4に記載の発明は、前記セルロース繊維および無機層状化合物の重量比(セルロース繊維の重量/無機層状化合物の重量)が、95/5〜25/75の範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のガスバリア層形成用組成物である。
請求項5に記載の発明は、前記無機層状化合物の一次粒子の平均直径が、0.1〜2μmの範囲であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のガスバリア層形成用組成物である。
請求項6に記載の発明は、少なくともセルロース繊維、無機層状化合物、水を混合し溶液を調整する工程と、
分散手段により、前記水溶液に含まれるセルロース繊維の解繊および無機層状化合物の剥離を同時処理する工程と、
を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のガスバリア層形成用組成物の製造方法である。
請求項7に記載の発明は、前記解繊したセルロース繊維の数平均繊維幅が3〜50nmであることを特徴とする請求項6に記載のガスバリア層形成用組成物の製造方法である。
請求項8に記載の発明は、前記分散手段が、ミキサー処理、ブレンダー処理、超音波ホモジナイザー処理、高圧ホモジナイザー処理およびボールミル処理から選ばれる1または2つ以上を含むことを特徴とする請求項6に記載のガスバリア層形成用組成物の製造方法である。
請求項9に記載の発明は、請求項1〜5のいずれかに記載のガスバリア層形成用組成物を基材上に塗布後、乾燥してなるガスバリア性フィルムである。
請求項10に記載の発明は、前記ガスバリア層の膜厚が0.01〜3μmであることを特徴とする請求項9に記載のガスバリア性フィルムである。
請求項11に記載の発明は、前記ガスバリア性フィルムのヘイズが5%以下であることを特徴とする請求項9に記載のガスバリア性フィルムである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のガスバリア層形成用組成物の製造方法により、再生可能なバイオマス資源であるセルロース繊維と無機層状化合物とを水溶液中で同時に分散処理することで、無機層状化合物がセルロース繊維の解繊(分散)に寄与し、短時間、低エネルギーでセルロース繊維の解繊および無機層状化合物の分散をおこなうことができる。さらに、これにより製造したガスバリア層形成用組成物を基材上に塗布後、乾燥することで得られるフィルムは、無機層状化合物の存在により、湿度依存性や湿度による劣化がほとんどなく、高湿度下におけるガスバリア性に優れ、かつ環境負荷の少ないガスバリア性フィルムとなる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明について詳細に説明する。
【0013】
以下に、本発明のガスバリア層形成用組成物について説明する。
【0014】
本発明のガスバリア層形成用組成物は、少なくともセルロース繊維、無機層状化合物を含むことを特徴とし、通常、水をさらに含有する。前記セルロース繊維は、構成するセルロースの水酸基の一部をカルボキシル基およびアルデヒド基から選ばれる少なくとも1つの官能基に酸化されており、その総和がセルロースの重量に対し0.5〜3.5mmol/gであることが好ましい。前記官能基量の総和が0.5mmol/g未満であるとセルロース繊維の解繊が困難となるため適さない。また、3.5mmol/gを超えると水や水蒸気に対する膨潤性が増すため好ましくない。
【0015】
また、本発明のセルロース繊維は繊維状であれば、天然セルロース、再生セルロースどちらを用いても良いが、特にセルロースIの結晶構造を有する天然セルロースを用いることが好ましい。天然セルロースの原料としては、特に限定されるものではなく、例えば、木材、非木材パルプ、微生物生産セルロース、バロニアセルロース、ホヤセルロース等を用いることができる。
【0016】
また、本発明のセルロース繊維の結晶性はX線回折により測定することができる。I型の結晶構造であれば、2θ=15〜16°および12〜13°付近の二箇所に典型的なピークを得ることができる。II型の結晶構造であれば、2θ=15〜16°、19〜21°および21〜23°付近の三箇所に典型的なピークを得ることができる。測定サンプルとしては、セルロース繊維を乾燥させたもの、本発明のガスバリア層形成用組成物を乾燥させたものを用いることができる。
【0017】
また、天然セルロースにカルボキシル基およびアルデヒド基を導入する方法としては、天然セルロース原料に2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−N−オキシラジカルおよび臭化ナトリウム共存下で、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを用い、水系で処理することにより、セルロースミクロフィブリルと言われる結晶性を有する繊維最小単位の表面水酸基にカルボキシル基を効率よく導入することができる。この方法により、表面酸化したセルロース繊維は、負の電荷を有するカルボキシル基が繊維間に静電的な反発を与えるため凝集力が弱まり、さらに水溶液中で分散処理を施すことで、1本1本のミクロフィブリル単位にまで解繊した繊維となる。
【0018】
本発明に用いるセルロース繊維は、解繊後の繊維の数平均繊維幅(短軸方向の長さ)が3〜50nmであることが好ましい。繊維幅が小さいほど分散性に優れたガスバリア層形成用組成物を作製することができ、かつ膜化した際のバリア性も優れる。特に好ましくは、解繊後の繊維の数平均繊維幅が3〜20nmであり、ガスバリア性に優れた膜を得られる。前記繊維幅は、走査型電子顕微鏡(S−4800、日立ハイテクノロジーズ製)にて観察することにより求めることができる。
【0019】
上記方法により得られたセルロース繊維は、結晶性が高く、また膜化したときには繊維が緻密な絡み合い構造を有するため優れたガスバリア性を示す。しかしながら、高湿度下ではセルロース繊維の膨潤により高いガスバリア性を維持することはできない。
【0020】
また、本発明のガスバリア層形成用組成物に含まれるセルロース繊維の重量に対するカルボキシル基量およびアルデヒド基量(mmol/g)は以下の操作により求めることができる。まずカルボキシル基量(mmol/g)測定手順について示す。固形分濃度0.2%のセルロース水分散液100mlを調整し、塩酸を加えpH3とした後、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を用いて電気伝導度滴定をおこなう。滴定はpH11に達するまでおこない、その間消費された0.5N水酸化ナトリウム量X(ml)を次式に代入して求める。
官能基量(mmol/g)=0.5×X(ml)/セルロース繊維の重量(g)
求めたカルボキシル基量をA(mmol/g)とする。次に、アルデヒド基量(mmol/g) 測定手順について示す。セルロース繊維を酢酸でpH4に調製した2%亜塩素酸ナトリウム水溶液中でさらに48時間常温で酸化し、同様の操作により再び官能基量を測定する。ここで、求めたカルボキシル基量をB(mmol/g)とする。この酸化によって追加された官能基量(B−A)=アルデヒド基量を求める。
【0021】
一方、本発明の無機層状化合物は粒子が層状構造を有する結晶性化合物であるため優れたガスバリア性を示す。例えば、カオリナイト族、スメクタイト族、マイカ族に代表される粘度鉱物を用いることができる。具体的には、雲母、タルク、カオリナイト、イライト、バーミキュライト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スティーブンサイト、ノントロナイト、ベントナイト等、またはこれらの置換体や誘導体、あるいはこれらの混合物をあげることができる。市販品としては、スメクタイト系の粘土鉱物に属するサポナイト構造を有するスメクトンSA(クニミネ工業社製)、ソジウム型のモンモリロナイトであるクニピア−F(クニミネ工業)社製)、精製された天然ベントナイトであるベンゲル(豊順洋行製)等を用いることができる。
【0022】
また、本発明の無機層状化合物は有機化合物を複合化したものであっても良い。例えば、長鎖アルキル基を有する第4級アンモニウムイオンをイオン交換によって層間にインターカレートした複合体があげられる。第4級アンモニウムイオンとしては、ベンジルジメチルステアリルアンモニウムイオン、ジメチルジステアリルアンモニウムイオン等を用いることができる。市販品としては、ベントン27、ベントン38(エレメンティススペシャリティーズ社製)等があげられる。
【0023】
また通常、無機層状化合物は板状構造を有する一次粒子の凝集体として存在する。凝集体の平均粒子径は2μm以上であり、分散処理等を施すことにより一次粒子を得ることができる。本発明の無機層状化合物においては、凝集体を構成する一次粒子、つまり分散処理を施した後の無機層状化合物の平均厚さが0.1μm以下、かつ平均直径が0.1〜2μmであることが好ましい。平均厚さが0.1μmを超えると膜の透明性が低下してしまうため好ましくない。また、平均直径が0.1μm未満ではガスバリア性を十分に発現することができなく、2μmを超えると膜強度が低下してしまうため好ましくない。また、個々の粒子形状は上記の厚みおよび長径の範囲において板状構造をとっていれば、特に限定されず、角張っていてもいなくても良い。
【0024】
また、本発明のガスバリア層形成用組成物に含まれる無機層状化合物の一次粒子における平均長径および平均厚さは、それぞれ本発明のガスバリア性フィルムの表面および断面を走査型電子顕微鏡(S−4800、日立ハイテクノロジーズ製)にて観察することにより求めることができる。無機層状化合物の形状もこれにより評価することができる。
【0025】
また、本発明のガスバリア層形成用組成物に含まれるセルロース繊維および無機層状化合物の重量比(セルロース繊維の重量/無機層状化合物の重量)は、95/5〜25/75の範囲であることが好ましい。無機層状化合物の配合量が少ないとガスバリア性を十分に得ることができず、多すぎると無機層状化合物の薄片化が不十分となるため膜のガスバリア性に加え透明性も劣ってしまうため好ましくない。
【0026】
また本発明では、ガスバリア層の改質剤として、例えば、シランカップリング剤、レベリング剤、消泡剤、帯電防止剤、水溶性高分子、合成高分子、無機系粒子、有機系粒子、潤滑剤、紫外線吸収剤、染料、顔料あるいは安定剤等を用いることができ、これらはガスバリア性フィルムとしての性能を損なわない範囲内で組成物に添加でき、用途に応じてガスバリア層の特性を改良することができる。
【0027】
以下に、本発明のガスバリア層形成用組成物の製造方法について説明する。
【0028】
本発明のガスバリア層形成用組成物の製造方法は、少なくともセルロース繊維、無機層状化合物、水を混合し溶液を調整する工程と、分散手段により、前記水溶液に含まれるセルロース繊維の解繊および無機層状化合物の剥離を同時分散処理する工程とを含むことを特徴とする。分散手段としては、ミキサー処理、ブレンダー処理、超音波ホモジナイザー処理、高圧ホモジナイザー処理、ボールミル処理から選ばれる1または2つ以上を用いることができる。中でも、セルロース繊維および無機層状化合物を損傷させずに分散することができる超音波ホモジナイザー処理が好適である。
【0029】
前述の分散手段を用いることにより、水溶液中でセルロース繊維の解繊および無機層状化合物の薄片化を同時処理することができる。予めセルロース繊維、無機層状化合物を各自分散させた水溶液を混合しても、各材料が均一に混合されないためか、本発明のように透明性、ガスバリア性に優れた膜を得ることはできない。
【0030】
このようにガスバリア層形成用組成物に含まれる材料の分散状態は、膜化した際の透明性やガスバリア性等に多大な影響を及ぼす。特に、分散が不十分・不均一であると膜の透明性やガスバリア性が著しく低下してしまう。また膜表面の平滑性が失われてしまう等の問題も生じる。
【0031】
前述のとおり、セルロース繊維の分散(解繊)にはカルボキシル基による静電的反発を利用しているが、繊維同士の絡み合いや相互作用が非常に強いため、さらに物理的分散手段を施す必要がある。一方、無機層状化合物は、通常、板状構造をした一次粒子の凝集体として存在する。よって、ガスバリア層形成用組成物として用いる場合には剥離処理をおこない、薄片化した一次粒子を得る必要がある。しかしながら、無機層状化合物は表面積が大きく凝集力が強いため水溶液中で凝集体を薄片化し一次粒子を得ることが非常に難しい。機械的せん断力や衝撃力を与えても、凝集体が十分に剥離されず、液が白濁したり、場合によっては凝集体が沈殿してきてしまう。
【0032】
そこで本発明の製造方法を用いると、水溶液中でセルロース繊維の解繊および無機層状化合物の薄片化を同時処理することができる。さらには短時間かつ低エネルギーで分散処理を終わらせることが可能となる。これは、結晶性を有するセルロース繊維および無機層状化合物は硬い物同士であるため、分散処理中において幾度となく繰り返される衝突でセルロース繊維の解繊と無機層状化合物の剥離が、個別に分散処理するよりも遥かに多く生じるからであると考えられる。また無機層状化合物は、板状構造を有することから物理的に繊維の絡み合いを防止する働きもすると考えられる。以上のことから、セルロース繊維と無機層状化合物を同時分散させることで、各材料の分散性を飛躍的に向上させる効果があると考えられえる。このような製造方法により作製したガスバリア層形成用組成物を膜化して得られるフィルムは、透明性に優れかつ湿度によるガスバリア性低下がほとんど見られないことからも、均一な分散体を作製することがガスバリア性膜にとって非常に重要であると言える。
【0033】
さらに、これまでセルロース繊維を十分に解繊するためには組成物中のセルロース濃度を著しく低くしなければ均一で透明な分散体を得ることができなかった。しかし、本発明の製造方法を用い分散性の向上を図ることにより組成物中のセルロース濃度を増加させることができる。これにより、従来、厚膜化が困難であったセルロース繊維のガスバリア膜において、十分な膜厚の層を形成できると考えられる。
【0034】
以下に本発明のガスバリア性フィルムの製造方法について説明する。
【0035】
本発明のガスバリア層形成用組成物は、基材上に塗布後、乾燥させることでガスバリア層を形成することによりガスバリア性フィルムとすることができる。
【0036】
ガスバリア層の形成方法としては、公知の塗布方法を用いることができる。例えば、ディッピング法、ロールコート、グラビアコート、リバースコート、エアナイフコート、コンマコート、ダイコート、スクリーン印刷法、スプレーコート、グラビアオフセット法等を用いて塗布することができる。これらの塗布方法を用いて基材の少なくとも片面に塗布する。乾燥方法としては、自然乾燥、送風乾燥、熱風乾燥、UV乾燥、熱ロール乾燥、赤外線照射等を用いることができる。
【0037】
基材としては、シート状あるいはフィルム状のものを用いることができる。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステルフィルム、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンフィルム、ポリスチレンフィルム、66−ナイロン等のポリアミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアクリルニトリルフィルム、ポリイミドフィルム、ポリ乳酸フィルム等が用いられ、延伸、未延伸のどちらでも良く、また機械強度や寸法安定性を有するものが良い。また、包装材料に使用する場合には、価格面、防湿性、充填適性、風合い、廃棄性を考慮するとポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミドフィルムが好ましい。さらに、この基材表面上に、周知の種々の添加剤や安定剤、例えば帯電防止剤、可塑剤、滑剤、酸化防止剤などが使用されていても良く、各種膜との密着性を良くするために、前処理としてコロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理などを施しておいても良く、更に薬品処理、溶剤処理を施しても良い。また、基材にセラミック蒸着フィルムを用いても良く、用いる場合にはセラミックの種類は特に限定しないが、ハンドリング性、経済性を考慮して、酸化ケイ素系、酸化アルミニウム系、酸化チタン系が好ましい。蒸着方法としては、スパッタリング法、プラズマ気相成長法等があげられるが、これに限定するものではない。
【0038】
基材の厚さは特に限定されるものではないが、包装材料としての適性、他の層を積層する場合もあること、ガスバリア層を形成する場合の加工性を考慮すると、実用的には3〜200μmの範囲で、包装形態用途によって6〜30μmとすることがより好ましい。
【0039】
ガスバリア層の厚さは、0.01〜3.0μmの範囲であればよく、0.01μm未満では十分なガスバリア性を得ることができない。ガスバリア性を評価する指標となる酸素透過度は、実際の包装材料としての物性を考慮すると10cc/m2・day・atm以下が好ましい。
【0040】
さらにガスバリア層上にその他の層を積層することも可能である。例えば印刷層やヒートシール層等である。印刷層は、包装袋などとして実用的に用いるために形成されるものであり、オフセット印刷法、グラビア印刷法、シルクスクリーン印刷法等の周知の印刷方式や、ロールコート、グラビアコート等の周知の塗布方式を用いて形成することができる。厚さは、0.01〜2.0μmの範囲で適宜選択される。
本発明のガスバリア性フィルムのヘイズは5%以下であれば、包装材料としての外観に優れ、好ましい。
【実施例】
【0041】
以下に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
ガスバリア性フィルムの性能は、下記の方法に従って評価した。
酸素透過度(等圧法)(cc/m2・day・atm):酸素透過度測定装置MOCON OX−TRAN2/21(モダンコントロール社製)を用いて、30℃×湿度40%RH、30℃×70%RH雰囲気で測定をおこなった。
ヘイズ(濁度)(%):ヘイズメータNDH−2000(日本電色社製)を用い、JISーK7105に準じ測定をおこなった。
セルロース繊維の繊維幅測定:走査型電子顕微鏡(S−4800、日立ハイテクノロジーズ製)にてフィルムの表面の観察をおこなうことで求めた。
【0042】
<実施例1>
12μmポリエチレンテレフタラートフィルム基材を用い、
セルロース繊維(カルボキシル基量とアルデヒド基量の総和:1.8mmol/g) 2重量部
モンモリロナイト(平均粒子径:100nm〜500nm) 2重量部
水 200重量部
の上記配合量のセルロース繊維、モンモリロナイト、水を超音波ホモジナイザーにより分散処理を施し、分散液(塗布液)を作製する。この混合した塗布液を、バーコート法により上記基材上に膜厚0.5μmになるように塗布後、乾燥させ、ガスバリア層を形成した。このガスバリア性フィルムの酸素透過度およびヘイズの測定結果を表1に示す。
【0043】
<実施例2>
12μmポリエチレンテレフタラートフィルム基材を用い、
セルロース繊維(カルボキシル基量とアルデヒド基量の総和:1.8mmol/g) 2重量部
水 100重量部
の上記配合量のセルロース繊維、水を超音波ホモジナイザーにより分散処理を施す。
次にモンモリロナイト(平均粒子径:100nm〜500nm) 2重量部
水 100重量部
の上記配合量のモンモリロナイト、水を超音波ホモジナイザーにより分散処理を施す。
予め個々に分散処理を施したセルロース繊維/水とモンモリロナイト/水を混合し、分散液(塗布液)を作製する。この混合した塗布液を、バーコート法により上記基材上に膜厚0.5μmになるように塗布後、乾燥させ、ガスバリア層を形成した。このガスバリア性フィルムの酸素透過度およびヘイズの測定結果を表1に示す。
【0044】
<実施例3>
12μmポリエチレンテレフタラートフィルム基材を用い、
セルロース繊維(カルボキシル基量とアルデヒド基量の総和:1.8mmol/g) 1重量部
モンモリロナイト(平均粒子径:100nm〜500nm) 3重量部
水 200重量部
の上記配合量のセルロース繊維、モンモリロナイト、水を超音波ホモジナイザーにより分散処理を施し、分散液(塗布液)を作製する。この混合した塗布液を、バーコート法により上記基材上に膜厚0.5μmになるように塗布後、乾燥させ、ガスバリア層を形成した。このガスバリア性フィルムの酸素透過度およびヘイズの測定結果を表1に示す。
【0045】
<実施例4>
12μmポリエチレンテレフタラートフィルム基材を用い、
セルロース繊維(カルボキシル基量とアルデヒド基量の総和:1.8mmol/g) 3重量部
モンモリロナイト(平均粒子径:100nm〜500nm) 1重量部
水 200重量部
の上記配合量のセルロース繊維、モンモリロナイト、水を超音波ホモジナイザーにより分散処理を施し、分散液(塗布液)を作製する。この混合した塗布液を、バーコート法により上記基材上に膜厚0.5μmになるように塗布後、乾燥させ、ガスバリア層を形成した。このガスバリア性フィルムの酸素透過度およびヘイズの測定結果を表1に示す。
【0046】
<実施例5>
12μmポリエチレンテレフタラートフィルム基材を用い、
セルロース繊維(カルボキシル基量とアルデヒド基量の総和:1.8mmol/g) 2重量部
モンモリロナイト(平均粒子径:50nm〜100nm) 2重量部
水 200重量部
の上記配合量のセルロース繊維、モンモリロナイト、水を超音波ホモジナイザーにより分散処理を施し、分散液(塗布液)を作製する。この混合した塗布液を、バーコート法により上記基材上に膜厚0.5μmになるように塗布後、乾燥させ、ガスバリア層を形成した。このガスバリア性フィルムの酸素透過度およびヘイズの測定結果を表1に示す。
【0047】
<実施例6>
12μmポリエチレンテレフタラートフィルム基材を用い、
セルロース繊維(カルボキシル基量とアルデヒド基量の総和:1.8mmol/g) 2重量部
モンモリロナイト(平均粒子径:100nm〜500nm) 2重量部
水 180重量部
の上記配合量のセルロース繊維、モンモリロナイト、水を超音波ホモジナイザーにより分散処理を施す。
ポリウロン酸 2重量部
水 20重量部
の上記配合量のポリウロン酸、水を超音波ホモジナイザーにより分散処理を施した液を、予め分散処理を施しておいたセルロース繊維/モンモリロナイト/水に添加し、分散液(塗布液)を作製する。この混合した塗布液を、バーコート法により上記基材上に膜厚0.5μmになるように塗布後、乾燥させ、ガスバリア層を形成した。このガスバリア性フィルムの酸素透過度およびヘイズの測定結果を表1に示す。
【0048】
<実施例7>
12μmポリエチレンテレフタラートフィルム基材を用い、
セルロース繊維(カルボキシル基量とアルデヒド基量の総和:2.7mmol/g) 2重量部
モンモリロナイト(平均粒子径:100nm〜500nm) 2重量部
水 200重量部
の上記配合量のセルロース繊維、モンモリロナイト、水を超音波ホモジナイザーにより分散処理を施し、分散液(塗布液)を作製する。この混合した塗布液を、バーコート法により上記基材上に膜厚0.5μmになるように塗布後、乾燥させ、ガスバリア層を形成した。このガスバリア性フィルムの酸素透過度およびヘイズの測定結果を表1に示す。
【0049】
<比較例1>
12μmポリエチレンテレフタラートフィルム基材を用い、
セルロース繊維(カルボキシル基量とアルデヒド基量の総和:1.8mmol/g) 4重量部
水 200重量部
の上記配合量のセルロース繊維、水を超音波ホモジナイザーにより分散処理を施し、分散液(塗布液)を作製する。この混合した塗布液を、バーコート法により上記基材上に膜厚0.5μmになるように塗布後、乾燥させ、ガスバリア層を形成した。このガスバリア性フィルムの酸素透過度およびヘイズの測定結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
セルロース繊維およびモンモリロナイトを用いて作製したガスバリア性フィルム(実施例1〜7)は、比較例1と比べ優れた酸素バリア性を示した。特に高湿度下(30℃×70%RH)での酸素バリア性には著しい向上が見られた。また、セルロース繊維およびモンモリロナイトを同時に分散処理することで、モンモリロナイト添加によるヘイズ値の増加を防ぎ、透明性の高いフィルムを得ることができた。
【0052】
本発明のガスバリア層形成用組成物の製造方法により、再生可能なバイオマス資源であるセルロース繊維と無機層状化合物とを水溶液中で同時に分散処理することで、短時間、低エネルギーでセルロース繊維の解繊および無機層状化合物の分散をおこなうことができる。さらに、これにより製造したガスバリア層形成用組成物を基材上に塗布後、乾燥することで得られるフィルムは湿度依存性や湿度による劣化がほとんどなく、高湿度下におけるガスバリア性に優れ、かつ環境負荷の少ないガスバリア性フィルムとなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともセルロース繊維および無機層状化合物を含むことを特徴とするガスバリア層形成用組成物。
【請求項2】
前記セルロース繊維を構成するセルロースの水酸基の一部がカルボキシル基およびアルデヒド基から選ばれる少なくとも1つの官能基に酸化されており、その総和がセルロースの重量に対し0.5〜3.5mmol/gであることを特徴とする請求項1に記載のガスバリア層形成用組成物。
【請求項3】
前記セルロース繊維が結晶性セルロースであり、かつセルロースI型の結晶構造を有することを特徴とする請求項1または2に記載のガスバリア層形成用組成物。
【請求項4】
前記セルロース繊維および無機層状化合物の重量比(セルロース繊維の重量/無機層状化合物の重量)が、95/5〜25/75の範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のガスバリア層形成用組成物。
【請求項5】
前記無機層状化合物の一次粒子の平均直径が、0.1〜2μmの範囲であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のガスバリア層形成用組成物。
【請求項6】
少なくともセルロース繊維、無機層状化合物、水を混合し溶液を調整する工程と、
分散手段により、前記水溶液に含まれるセルロース繊維の解繊および無機層状化合物の剥離を同時処理する工程と、
を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のガスバリア層形成用組成物の製造方法。
【請求項7】
前記解繊したセルロース繊維の数平均繊維幅が3〜50nmであることを特徴とする請求項6に記載のガスバリア層形成用組成物の製造方法。
【請求項8】
前記分散手段が、ミキサー処理、ブレンダー処理、超音波ホモジナイザー処理、高圧ホモジナイザー処理およびボールミル処理から選ばれる1または2つ以上を含むことを特徴とする請求項6に記載のガスバリア層形成用組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれかに記載のガスバリア層形成用組成物を基材上に塗布後、乾燥してなるガスバリア性フィルム。
【請求項10】
前記ガスバリア層の膜厚が0.01〜3μmであることを特徴とする請求項9に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項11】
前記ガスバリア性フィルムのヘイズが5%以下であることを特徴とする請求項9に記載のガスバリア性フィルム。

【公開番号】特開2011−57912(P2011−57912A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−211216(P2009−211216)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】