説明

ガスバリア性フィルムおよびそれからなる容器

【課題】塩素を含有せず、高湿度下でのガスバリア性を有し、生産性、耐熱性、耐久性に優れたフィルムの提供を目的とする。
【解決手段】熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面に積層膜を有し、該積層膜がポリビニルアルコール、ポリエチレン−ビニルアルコール共重合体のいずれかを含む水溶性樹脂を主な構成成分とし、架橋有機高分子粒子が分散されてなるガスバリア性フィルムにより達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主に包装材料や工業材料に好適に用いられるガスバリア性フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品や医薬品等の包装に用いられる包装材料においては、変質や腐敗などの劣化を防ぐため、ガスの侵入を防ぐガスバリア性が必要とされる。
そのため従来から、温度や湿度等の影響が少ないアルミニウム等の金属箔をガスバリア層として用いた包装材料が一般的に用いられてきた。しかし、アルミニウム等の金属箔を用いた包装材料は伸びに弱く、数%の伸びでクラックを生じバリア性の低下を起こしたり、使用後、廃棄物を焼却した際に残渣が生じたりするなどの問題があった。
【0003】
一方、フィルムやフィルム上に積層するコート剤としてポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレン−ビニルアルコール共重合体などのガスバリア性ポリマーが用いられている。
【0004】
中でもポリ塩化ビニリデン系ポリマーは湿度によるバリア性の変化が無く、広く用いられてきたが、近年、ポリ塩化ビニリデン中の塩素に起因して、焼却処理の際、猛毒であるダイオキシン類を生成する可能性が指摘され、塩素非含有のバリア性材料への代替が求められている。
【0005】
ポリビニルアルコール、ポリエチレン−ビニルアルコール共重合体の場合、湿度50%RH程度の低湿度条件下では極めて優れたガスバリア性を有する。しかし、湿度が上昇するのに伴いガスバリア性は低下していき、80%RH以上の高湿度条件下ではほとんどガスバリア性が失われることから、使用上の制限があった。
【0006】
高湿度下でのガスバリア性を向上させる方法として、無機層状化合物を高水素結合性樹脂に均一分散させた塗工用組成物を用いたフィルムが多数開示されている。
【0007】
例えば、特許文献1には、5μm以下の無機層状化合物を水に十分膨潤させた状態で、高水素結合性樹脂あるいはその水溶液に添加する方法などが開示されている。また、特許文献2には熱可塑性樹脂基材の少なくとも片面上に水溶性高分子及び無機系層状粒子を主たる構成成分とした被膜を形成し、該被膜面の表面粗さ特定の範囲にしたガスバリアフィルムが開示されている。
【0008】
しかしながら、これらの発明で用いる無機層状化合物はハンドリング性が悪く、塗剤の調製や塗工の工程でトラブルを招きやすい。また、硬質の無機物を含有することから、塗膜の延伸追従性は低く、生産性とコストに優れるインラインコーティングプロセスの適応は難しかった。
【特許文献1】特開平6−93133号公報
【特許文献2】特開平9−150484号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はこのような従来技術の問題点を解消することにあり、塩素を含有せず、高湿度下でのガスバリア性を有し、生産性、耐熱性、耐久性に優れたフィルムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の構成を有する。すなわち、
(1)熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面に積層膜を有し、該積層膜がポリビニルアルコール、または、ポリエチレン−ビニルアルコール共重合体を含む水溶性樹脂を構成成分とし、架橋有機高分子粒子が分散されてなるガスバリア性フィルム、
(2)架橋有機高分子粒子が架橋スチレン−ジビニルベンゼン共重合体を含んでなる粒子である(1)に記載のガスバリア性フィルム、
(3)架橋有機高分子粒子の数平均粒径が0.01μm〜100μmである(1)または(2)に記載のガスバリア性フィルム、
(4)熱可塑性樹脂フィルムが主として芳香族ポリエステル樹脂からなる二軸配向フィルムである(1)〜(3)のいずれかに記載のガスバリア性フィルム、
(5)積層膜の塗布後185〜245℃で熱処理されてなる(1)〜(4)のいずれかに記載のガスバリア性フィルム、
(6)積層膜中の水溶性樹脂と有機高分子粒子の固形分重量比率が99:1〜10:90である(1)〜(5)のいずれかに記載のガスバリア性フィルム、
(7)(1)〜(6)のいずれかに記載のガスバリア性フィルムを用いてなる容器、
である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のガスバリア性フィルムは高湿度下でのガスバリア性を有し、かつ生産性、耐熱性、耐久性に優れることから、包装材料、工業材料に好適に使用でき、工業的価値が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明でいう熱可塑性樹脂フィルムとは、熱によって溶融もしくは軟化するフィルムの総称であって、特に限定されるものではないが、代表的なものとしては、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィンフィルム、ナイロンなどのポリアミドフィルムなどが上げられる。
【0013】
本用途においては、湿度依存性の観点より基材フィルムとして水蒸気遮断性に優れたポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィンフィルムを用いることも好ましいが、機械的強度、寸法安定性、耐熱性、積層膜との接着性、インラインコーティング工程での良好な塗布性などの点で、特にポリエステルフィルムが好ましい。これらの熱可塑性樹脂フィルムを構成するポリマーは、ホモポリマーでも共重合ポリマーであってもよい。
【0014】
本発明において、好ましいポリエステルとしては、エチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレート、ブチレンテレフタレート、ブチレン−2,6−ナフタレート、エチレン−α,β−ビス(2−クロロフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボキシレートなどから少なくとも1種の構成成分を主要構成成分とするものを用いることができる。これら構成成分は1種のみ用いても、2種以上併用してもよいが、中でも品質、経済性などを総合的に判断するとエチレンテレフタレートを主要構成成分とするポリエステルを用いることが好ましい。また、加熱によるオリゴマーの滲み出しが少なく、表面が汚染されにくいこと、寸法安定性や機械的強度が優れる点で、ポリエチレン−2,6−ナフタレートを主要構成成分とするポリエステルも好適に用いることもできる。
【0015】
これらポリエステルには、更に他のジカルボン酸成分やジオール成分が一部、好ましくは20モル%以下共重合されていてもよい。
【0016】
具体的な共重合成分としては、イソフタル酸、炭素数4〜10の脂肪族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸およびこれらのエステル、炭素数3〜20のジオール、シクロヘキサンジメタノールなどを用いることができる。
【0017】
更に、このポリエステル中には、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、充填剤、帯電防止剤、核剤などがその特性を悪化させない程度に添加されていてもよい。
【0018】
上述したポリエステルの極限粘度(25℃のo−クロロフェノール中で測定)は、0.4〜1.2dl/gが好ましく、より好ましくは0.5〜0.8dl/gの範囲にあるものが本発明を実施する上で好適である。
【0019】
本発明におけるガスバリア性フィルムは熱可塑性樹脂フィルム上に積層膜を設けるにあたり、インラインコーティングプロセスを用いる。
【0020】
インラインコーティングとは、逐次二軸延伸法によるフィルム製造の際、工程途中の縦延伸後に塗剤を塗布、ステンター内で横延伸・熱処理しながら塗剤のレベリング・乾燥を行い基材となるフィルム上に積層膜を設ける手法であり、生産性、コストおよび高温熱処理によるガスバリア性向上などの点で、オフラインでの塗布に比べて有利である。
【0021】
高速で薄膜コートできる点で、例えば、グラビアコート、リバースコート、スプレーコート、キスコート、ダイコート、あるいはメタリングバーコートすることにより積層する方法が好ましく使用される。
【0022】
本発明においては、塗剤のコーティング前に、熱可塑性樹脂フィルムにコロナ放電処理、オゾン処理、紫外線処理、サンドマット加工処理、薬液処理などの処理を施し、被コーティング面の表面自由エネルギーを上げることが好ましい。好ましくは44mN/m以上、より好ましくは47mN/m以上、さらに好ましくは50mN/m以上である。これにより、コーティング層とフィルムとの密着性を向上させ、塗布欠点を解消することができるため好ましい。
【0023】
本発明における熱可塑性樹脂フィルム上に設ける積層膜は、ポリビニルアルコールまたは、ポリエチレン−ビニルアルコール共重合体を構成成分とする樹脂の水溶液をコートしてなる。
【0024】
本発明で用いられるポリビニルアルコールとしては、ヒドロキシエチレン単位と未ケン化のアセトキシエチレン単位を主な構成成分とする樹脂であれば特に限定されるものでない。なお、本発明における本発明においてはヒドロキシエチレン単位とアセトキシエチレン単位の合計が80モル%以上としてなることが好ましい。
【0025】
ポリビニルアルコール樹脂のケン化度は85〜99.9モル%が好ましく、より好ましくは90〜99.7モル%、最も好ましくは92〜99.5モル%である。特に、ケン化度が上記範囲より低いとガスバリア性が悪くなる傾向があり、一方で上記範囲を超えるようなものは工業的に得ることが困難である。上記範囲のケン化度をもつポリビニルアルコール樹脂の市販品の例としては、例えば、日本合成化学工業株式会社製のN型ゴーセノール、株式会社クラレのポバール(PVA−117など)が挙げられる。 エチレン−ビニルアルコール共重合体としては、エチレン単位とヒドロキシエチレン単位を主な構成成分とするものであれば限定されるものではなく、例えば、エチレン単位とヒドロキシエチレン単位とアセトキシエチレン単位とからなるもの、更には、これらと他のビニル化合物やオレフィンからなるモノマー単位を有するものなど、少なくともエチレン単位とヒドロキシエチレン単位からなる共重合樹脂であれば各種の組成のものも本発明の効果を妨げない範囲であれば、適用可能である。
【0026】
ここで、エチレン単位とヒドロキシエチレン単位の割合としては、特に制限はないが、通常は、エチレン単位とヒドロキシエチレン単位の合計に対する該エチレン単位の割合が、モル比で、20〜50%の範囲にあるものが好適に使用される。
【0027】
本発明において用いられる溶媒は水または、水とメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール等との混合溶媒が好適に用いられ、沸点の関係からイソプロピルアルコール、n−プロピルアルコールと水との混合溶媒がより好適に用いられる。
【0028】
また、塗液には可塑剤、融点降下剤等を加えてもよい。これらのものとしては、グリセリン、ジグリセリンやペンタエリスリトール等の多価アルコール類が挙げられる。これらの添加量は溶液中に含有される樹脂100重量部に対して通常10重量部以下である。また、塗液には、防黴剤、防腐剤などを添加することができる。
【0029】
エチレン−ビニルアルコール共重合体の多くは、一般に、溶液の状態で市販されているので、そのような溶液状のものは、そのまま、あるいは適宜溶媒を添加するなどして濃度や組成を調整して使用するのが簡便である。なお、そのような溶液状の市販品の例として、例えば、日本合成化学工業株式会社製“ソアノール(登録商標)”溶液などを挙げることができる。
【0030】
本発明における架橋有機高分子粒子とは、分子中に唯一個の脂肪族の不飽和結合を有するモノビニル化合物(A)と、粒子内架橋成分として分子中に2個以上の脂肪族の不飽和結合を有する化合物(B)共重合体を主成分とする球状粒子を指す。
【0031】
上記共重合体における化合物(A)の例としては、スチレン、α−メチルスチレン、フルオロスチレン、ビニルピリン、エチルビニルベンゼンなどの芳香族モノビニル化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル化合物、メチルアクリレー
ト、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、オクチルアクリレート、ドデシルアクリレート、ヘキサデシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、グリシジルアクリレート、N,N´−ジメチルアミノエチルアクリレートなどのアクリル酸エステルモノマー、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、sec−ブチルメタクリレート、アリルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、N,N´−ジメチルアミノエチルメタクリレートなどのメタクリル酸エステルモノマー、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸などのモノまたはジカルボン酸およびジカルボン酸の酸無水物、アクリルアミド、メタクリルアミドなどのアミド系モノマーを使用することができる。化合物(A)のうち特にスチレン、エチルビニルベンゼン、メチルメタクリレートなどが好ましく使用される。
【0032】
化合物(B)の例としてはジビニルベンゼン化合物、あるいはトリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、あるいはエチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコール
ジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートなどの多価アクリレートおよびメタクリレートが挙げられる。化合物(B)のうち特にジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレートまたはトリメチロールプロパントリメタクリレート
を用いることが好ましい。
【0033】
本発明の架橋有機高分子粒子の組成として好ましいものを例示すると、ジビニルベンゼン重合体、エチルビニルベンゼン−ジビニルベンゼン共重合体、スチレン−エチルビニルベンゼン−ジビニルベンゼン共重合体、エチレングリコールジメタクリレート重合体、スチレン−エチレングリコールジメタクリレート共重合体、メチルメタクリレート−ジビニルベンゼン共重合体、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体などの架橋有機高分子粒子が挙げられる。さらに架橋有機高分子粒子は3成分以上の系で製造してもよい。
【0034】
本発明の架橋有機高分子粒子は、化合物(A)、(B)を混合し乳化重合することで得られるが、ソープフリー重合法、シード重合法、コアーシェル重合法などの公知の方法を用いて製造することができる。
【0035】
また、架橋有機高分子粒子のスラリー中は、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウムなどのアニオン系界面活性剤、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールモノステアレートなどのノニオン系界面活性剤、ポリビニルピロリドン、カルボキシルメチルセルロースなどの保護剤を含む方が粒子分散性の点から好ましい。保護剤は架橋有機高分子粒子100重量部に対して通常0.01〜10重量部が好ましく、より好ましくは0.1〜5重量部である。
【0036】
なお、架橋有機高分子粒子は、例えばメタクリル酸ナトリウム、アクリル酸ナトリウムなどで表面処理を行なうことが好ましい。その表面処理の方法には特に限定はないが、粒子の耐熱性の点から一度母体となる架橋有機高分子粒子を製造し、その後、表面処理剤を添加して表面に吸着または反応させることが好ましい。例えば、アクリル酸ナトリウムを導入する場合、母体粒子としてスチレン−エチルビニルベンゼン−ブチルアクリレート−ジビニルベンゼン共重合体粒子を作り、その後、スチレン、アクリル酸を添加し、一部重合させた後、系内をアルカリ側にすることで粒子表面にメタクリル酸Naによる−COONa基を導入することができる。表面処理剤の量としては、母体粒子100重量部に対して0.01〜500重量部、好ましくは0.1〜300重量部である。
【0037】
本発明における架橋有機高分子粒子は、数平均粒径が0.01μm〜20μmであることが好ましい。かかる範囲を逸脱すると均一な積層膜を形成することが難しい。なお、本発明における数平均粒径とは電子顕微鏡により撮影した写真より直接計測して求めたものをいう。測定は、フィルムを長手方向に垂直な断面を切り出し、走査型電子顕微鏡にて断面写真を撮影、積層膜中に分散する粒子の粒径を計測して求めることができる。かかる範囲の粒径を持つ架橋有機高分子粒子としてはJSR(株)の架橋粒子(SX8705など)が挙げられる。
【0038】
該塗剤の調整方法は特に限定されないが、架橋有機高分子を溶媒に均一に分散させた後に水溶性樹脂溶液と混合する方法等が有効に用いられるが、塗剤中で水溶性樹脂と架橋有機高分子が極めて均一に分散していることが好ましい。
【0039】
本発明のガスバリアフィルムの製造方法について、基材フィルムとしてポリエチレンテレフタレートを例に説明するが、これに限定されるものではない。
【0040】
極限粘度0.5〜0.8dl/gのポリエチレンテレフタレートペレットを十分に真空乾燥した後、押し出し機に供給し、260〜300℃でシート状に押し出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度10〜60℃の鏡面キャスティングドラムに巻き付けて、冷却固化し、未延伸シートを作成する。この未延伸フィルムを70〜120℃に加熱されたロールで縦方向(フィルムの進行方向)に2.5〜5倍延伸して一軸延伸フィルムを得る。このフィルムの少なくとも片面にコロナ放電処理を施し、該表面の塗れ張力を47mN/m以上とし、その処理面に塗剤を塗布する。塗布して後、フィルム端部をクリップで把持して70〜150℃に加熱された熱風ゾーンに導き、乾燥して後、幅方向に2.5〜5倍に延伸する。引き続き熱処理ゾーンに導き、185〜245℃、1〜30秒間の熱処理を行い、結晶配向を完了させる。この熱処理工程中で必要に応じて幅方向あるいは長手方向に1〜12%の弛緩処理を施してもよい。二軸延伸は縦、横逐次延伸あるいは同時二軸延伸のいずれでもよく、また縦、横延伸後、縦、横いずれかの方向、あるいは両方向に再延伸してもよい。また、ポリエステルフィルムの厚みは特に限定されるものではないが、生産性の観点から、好ましくは1〜100μmの範囲であり、実用的には5〜50μmの範囲である。
【0041】
横延伸工程での熱処理は水溶性樹脂の結晶性向上および、基材の配向結晶化促進の観点より、185℃から245℃で行うことが好ましい。より好ましくは190〜225℃、さらに好ましくは195〜210℃の範囲である。185℃より低い熱処理温度では水溶性樹脂および、基材の結晶化が進まず、245℃を越える熱処理では水溶性樹脂の分解の懸念がある。
【実施例】
【0042】
次に、実施例を挙げて、具体的に本発明のガスバリア性フィルムについて説明する。
<特性の評価方法>
本発明で用いた特性の評価方法は、下記のとおりである。
【0043】
(1)粒子の数平均粒径
フィルムを長手方向に垂直な断面を切り出し、日本電子(株)製電界放射走査型電子顕微鏡”JSM−6700F”で拡大倍率20000倍にて断面写真を撮影した。積層膜中に分散する粒子の厚み方向および長手方向の粒子径を計測、各方向50個の平均を数平均粒径とした。
【0044】
(2)酸素透過率
(A)耐湿性
温度23℃で米国、モコン(MOCON)社製の酸素透過率測定装置(機種名、“オキシトラン”(登録商標)(“OXTRAN ”2/20))を使用して、JIS K7126(2000年版)に記載のB法(等圧法)に基づいて測定した。また、測定は2回行い、2つの測定値の平均値を各実施例と比較例における酸素透過率の値とした。各実施例・比較例について、2枚の試験片で行った結果を酸素透過率の値とした。相対湿度0%および85%の条件で測定を行った。
(B)耐久テスト
ASTM F−392に規定されたゲルボフレックステスターを使用し、フィルムサンプル(A4サイズ:長手×幅 297mm×210mm)を0℃の雰囲気下、5回の繰り返し屈曲試験後、上記要領(温度23℃、相対湿度0%)で酸素透過率を測定した。
【0045】
(実施例1)
<ポリエステル樹脂の準備>
ポリエステル樹脂を以下の要領で準備した。
【0046】
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部の混合物に、テレフタル酸ジメチル量に対して酢酸マグネシウムと三酸化アンチモンをそれぞれ0.09重量部と0.03重量部添加して、140〜230℃の温度でメタノールを留出しつつエステル交換反応を行った。ついで、得られたエステル交換反応生成物に、テレフタル酸ジメチル量に対して、リン酸85%水溶液0.020重量部を添加した後、重縮合反応層に移行した。ついで、反応系を230℃から290℃の温度にまで徐々に昇温するとともに、反応系を徐々に減圧して1mmHgの減圧下に、290℃の温度で3時間重縮合反応させ、冷水にストランド状に吐出、直ちにカッティングしてポリエチレンテレフタレート樹脂を得た。
<塗剤の調製>
塗剤を以下の要領で調製した。
【0047】
JSR(株)製スチレン−ジビニルベンゼン(カルボン酸変性)粒子[SX8743(A)−03]を固形分濃度4.0重量%となるよう水/イソプロピルアルコール混合溶媒(重量比90/10)に分散させた(1液)。クラレ(株)製ポリビニルアルコール[AQ−4105]を固形分濃度4.0重量%になるよう水/イソプロピルアルコール混合溶媒(重量比90/10)に分散させた(2液)。1液と2液を重量比で10/90となるよう調製し塗剤を得た。
<ガスバリア性フィルムの製造>
ポリエステル樹脂を180℃の温度で3時間真空乾燥した後、単軸押出機に供給し、押出温度280℃で溶融押出を行い、静電印加しながら鏡面冷却ドラムにて冷却固化して未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを、非粘着シリコーンロールにてロール/ロール間で延伸温度98℃にて長手方向に3.6倍延伸した。一軸延伸後、コロナ処理を行い、調製した塗剤をフィルム上に流延し、ロッド12のバーコーターにて塗布した。ついでテンターにて95℃で幅方向に3.6倍延伸し、熱固定温度210℃にて5秒間熱処理しながら幅方向に5%弛緩して厚さ25μmのフィルムを得た。
【0048】
(実施例2)
テンターでの熱固定温度を150℃とした他は実施例1と同様にフィルムを製膜し、厚さ25μmのフィルムを得た。
【0049】
(実施例3)
実施例1の塗剤の調製で用いたスチレン−ジビニルベンゼン(カルボン酸変性)粒子を、JSR(株)製アクリル架橋系粒子[SX8703(A)−01]に変更した他は実施例1と同様にフィルムを製膜した。フィルムの厚さは27μmだった。
【0050】
(実施例4)
JSR製スチレン−ジビニルベンゼン(カルボン酸変性)粒子[SX8743(A)−03]を固形分濃度5.0重量%となるよう水/n−プロピルアルコール混合溶媒(重量比50/50)に分散させた(1液)。日本合成化学製ポリエチレン−ビニルアルコール系コート材[ソアノール 16DX]を固形分濃度5.0重量%となるよう水/n−プロピルアルコール(重量比50/50)に分散させた(2液)。1液と2液を重量比で10/90となるよう塗剤を調製した。バーコーターのロッドを6とした他は実施例1と同様にフィルムを製膜した。フィルムの厚さは26μmだった。
【0051】
(比較例1)実施例1で塗剤を2液のみとし、塗布したこと以外は同様に製膜し、厚さ25μmのフィルムを得た。
【0052】
(比較例2)
実施例1で塗剤を1液のみとし、塗布したこと以外は同様に製膜し、厚さ25μmのフィルムを得た。
【0053】
(比較例3)
クニミネ工業製モンモリロナイト[クニピア−F]を水に分散させ、固形分濃度2.5重量%としたものをホモミキサー(回転数3500rpm)により機械的な分散処理を行った(1液)。クラレ製ポリビニルアルコール[AQ−4105]を固形分濃度5重量%になるよう水/イソプロピルアルコール混合溶媒(重量比90/10)に分散させた(2液)。1液と2液を重量比18.2/81.8となるよう調製し塗剤を得た。
【0054】
その他は実施例1同様に製膜を行い26μmのフィルムを得た。
【0055】
(比較例4)
JSR(株)製スチレン粒子水分散体[STADEX SC−079−S]を準備した(1液:固形分濃度1.0重量%)。クラレ製ポリビニルアルコール[AQ−4105]を固形分濃度2.0重量%になるよう水/イソプロピルアルコール混合溶媒(重量比90/10)に分散させた(2液)。1液と2液を重量比18.2/81.8となるよう調製し塗剤を得た。ロッド40のバーコーターにて塗布した他は実施例1同様に製膜を行い27μmのフィルムを得た。
【0056】
【表1】

【0057】
なお、上記表中の略号は以下のとおりである。
PET:ポリエチレンテレフタレート
PVA:ポリビニルアルコール
EVOH:エチレン−ビニルアルコール共重合体
ST−DVB:スチレン−ジビニルベンゼン
AC:アクリル
ST:ポリスチレン
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は主に包装材料や工業材料に好適に用いられるガスバリア性フィルムに関するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面に積層膜を有し、該積層膜がポリビニルアルコール、または、ポリエチレン−ビニルアルコール共重合体を含む水溶性樹脂を構成成分とし、架橋有機高分子粒子が分散されてなるガスバリア性フィルム。
【請求項2】
架橋有機高分子粒子が架橋スチレン−ジビニルベンゼン共重合体を含んでなる粒子である請求項1に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項3】
架橋有機高分子粒子の数平均粒径が0.01μm〜20μmである請求項1または2に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項4】
熱可塑性樹脂フィルムが主として芳香族ポリエステル樹脂からなる二軸配向フィルムである請求項1〜3のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
【請求項5】
積層膜の塗布後185〜245℃で熱処理されてなる請求項1〜4のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
【請求項6】
積層膜中の水溶性樹脂と有機高分子粒子の固形分重量比率が99:1〜10:90である請求項1〜5のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のガスバリア性フィルムを用いてなる容器。

【公開番号】特開2008−137177(P2008−137177A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−323293(P2006−323293)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】