説明

ガスバリア性積層フィルム

【課題】レトルト処理後の酸素透過度の劣化を抑え、デラミ等の発生を抑えたガスバリア性積層フィルムを提供する。
【解決手段】基材フィルム1の少なくとも一方の面に無機酸化物蒸着層2を設け、既存のガスバリア性組成物に反応性官能基を有する水溶性または水分散性硬化剤を添加することによって、ガスバリア性積層フィルムA中のバリアコート層3の耐熱性、密着性を向上させ、レトルト処理後の酸素透過度の劣化を抑え、デラミ等の発生を抑える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性積層フィルムに関し、詳しくはバリアコート層の耐熱性、密着性が向上し、レトルト処理後の酸素透過度の劣化を抑え、デラミ等の発生を抑えたガスバリア性積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ボイル・レトルト処理後のバリア劣化を抑える方法に関しては特許文献1に、基材上に主に無機化合物を含むガスバリア蒸着層と、
該ガスバリア蒸着層上に設けられ、一般式Si(OR1)4…(1)で表されるケイ素化合物およびその加水分解物のうち1つ、一般式(R2Si(OR3)3)n…(2)で表されるケイ素化合物、およびその加水分解物のうち1つ[但し、一般式(1)および(2)中、R1、R3は、CH3、C2H5、またはC2H4OCH3、R2は有機官能基を表す]、および水酸基を有する水溶性高分子を含有する塗布液を塗布、乾燥して得られたガスバリア被覆層
とを含むことを特徴とするガスバリア積層フィルムが提案されている。
しかしここで上げられている膜を緻密かつ耐水性を向上させる効果として一般式(R2Si(OR3)3)nの添加が上げられているが、この材料はn=1の場合はいわゆるシランカップリング剤に分類されるものであり、高価であると共に水系での使用に際して加水分解反応を伴うため液の安定性に欠けるといった欠点を有していた。
【0003】
水系硬化剤を用いた発明については、特許文献2に、オキサゾリン基含有ポリマーを用いることにより、通常カルボキシル基含有ポリマーの架橋剤として使用され、ポリビニルアルコールのヒドロキシル基とは反応しないものとされているにもかかわらず、PVAの皮膜の耐煮沸性が飛躍的に向上するという知見が記載されており、PVA自身がオキサゾリン基と架橋構造を取る可能性が示唆されている。
しかし、本発明に求められる耐煮沸性は非常に高く、PVAとオキサゾリン基との反応で発現する耐煮沸性では十分ではなかった。
【0004】
また、特許文献3および特許文献4ではオルガノシリケートと分子中に反応性官能基と親水性基を有する水溶性および/または水分散性硬化剤とアルコキシシラン化合物の加水分解・縮重合を促進する化合物を含有する塗料の耐汚染性付与組成物が提案されている。
ここで記載されている反応性官能基と親水性基を有する水溶性および/または水分散性硬化剤の働きは、ミセルのような構造を取り疎水性部分にオルガノシリケートを多く存在させる構造をとることを特徴とし水性塗料中に均一に分散させることに寄与するものであり、塗膜の強化を目的とするものではなかった。
【特許文献1】WO2004/048081
【特許文献2】特開2000−109630号公報
【特許文献3】特開2005−15676号公報
【特許文献4】特開2006−45483号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、レトルト処理後の酸素透過度の劣化を抑え、デラミ等の発生を抑えたガスバリア性に優れた積層フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、既存のガスバリア性組成物に反応性官能基を有する水溶性または水分散性硬化剤を添加することによって、バリアコート層の耐熱性、密着性を向上させ、レトルト処理後の酸素透過度の劣化を抑え、デラミ等の発生を抑えたガスバリア性積層フィルムの開発にいたった。
【0007】
すなわち、本発明は、基材の少なくとも一方の面に無機酸化物蒸着層を設け、さらに、該無機酸化物蒸着層の上に、1種以上のアルコキシドと、水溶性高分子と、水溶性または水分散性硬化剤とを含有するガスバリア性組成物をゾルゲル法によって加水分解及び、重縮合して得られるバリアコート層を設けたことを特徴とするガスバリア性積層フィルムに関するものである。
【発明の効果】
【0008】
本願に係るガスバリア性積層フィルムは、ボイル・レトルト後のバリア劣化および、密着性の問題を改善すべくガスバリア性組成物中に水溶性または水分散性硬化剤を含有する。これにより、バリアコート層の耐水性、耐煮沸性を向上させ、さらに塗膜への有機官能基の導入効果によって蒸着膜はもとよりバリアコート層に更に積層される印刷層、接着剤層およびアンカーコート層との密着性の向上効果を発揮する。
これらの相乗効果によって、熱水処理後のガスバリア性の低下がほとんどないガスバリア性積層フィルムの提供を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明のガスバリア性積層フィルムについて具体的に説明する。
1.本発明のガスバリア性積層フィルムの構造
本願に係るガスバリア性積層フィルムは、基材フィルムの少なくとも一方の面に無機酸化物蒸着層を設け、さらに、該無機酸化物蒸着層の上にバリアコート層を設けた3層を基本構造とするものである(図1)。該無機酸化物蒸着層を、化学気相成長法を用いて蒸着する場合には、膜質の異なる蒸着層を多層で積層することができる。
本願に係るガスバリア性積層フィルムには、直接印刷を施すことができる。
本願に係るガスバリア性積層フィルムにおいて、バリアコート層の上に、さらに接着剤層またはアンカーコート層を介して、または介さないで、ヒートシール層を積層することができる。
本願に係るガスバリア性積層フィルムを用いて包装袋を製造する場合は、ヒートシール層を作成することが好ましい。
【0010】
ヒートシール層の作成には、接着剤層またはアンカーコート層を介してヒートシール層を積層するドライラミネート法以外に、ヒートシール層の樹脂を直接溶融接着させる押出しラミネート法がある。
本願に係るガスバリア性積層フィルムを利用した包装袋の層構成としては、ガスバリア性積層フィルム/アンカーコート層/押出し樹脂(ヒートシール層)や、ガスバリア性積層フィルム/アンカーコート層/押出し樹脂/PEF(ヒートシール層)などがある。
さらに、本願に係るガスバリア性積層フィルムを用いたレトルト向けの包材の層構成は、突き刺し性、破袋強度を持たせるために、ガスバリア性積層フィルム/接着剤層(DL)/ナイロン基材(ONY)/接着剤層/CPP(ヒートシール層、無延伸ポリプロピレンフィルム)等のように中間層にナイロン基材を積層してもよい。ナイロン基材を積層したときは、ヒートシール層をさらに積層することが好ましい。
ガスバリア性積層フィルムの基材フィルムにナイロン基材を用いた場合には、本願に係るガスバリア性積層フィルムを用いたレトルト向けの包材の層構成では、ポリエチレンテレフタレート(PET)/接着剤層/ガスバリア性積層フィルム/接着剤層/CPPのように本願に係るガスバリア性積層フィルムを中間層として積層することもできる。
【0011】
2.基材フィルム
本発明において、基材フィルムとしては、これに無機酸化物の蒸着層を設けることから、機械的、物理的、化学的、その他等において優れた性質を有することが好ましい。特に、強度を有して強靱であり、かつ、耐熱性を有し、無機酸化物の蒸着層を形成する条件に耐え、無機酸化物の蒸着層の特性を損なうことなく良好に保持し得る樹脂のフィルムないしシートを使用することができる。
【0012】
具体的には、本発明において、基材フィルムとして、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、各種のナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアリールフタレート系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アセタール系樹脂、セルロース系樹脂、その他等の各種の樹脂のフィルムないしシートを使用することができる。
なお、本発明においては、特に、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、または、ポリアミド系樹脂のフィルムないしシートを使用することが好ましいものである。
【0013】
本発明において、上記の各種の樹脂のフィルムないしシートとしては、例えば、上記の各種の樹脂の1種ないしそれ以上を使用し、押出し法、キャスト成形法、Tダイ法、切削法、インフレーション法、その他等の成膜化法を用いて、上記の各種の樹脂を単独で成膜化する方法、あるいは、2種以上の各種の樹脂を使用して多層共押出し成膜化する方法、更には、2種以上の樹脂を使用し、成膜化する前に混合して成膜化する方法等により、各種の樹脂のフィルムないしシートを製造し、更に、要すれば、例えば、テンター方式、あるいは、チューブラー方式等を利用して1軸ないし2軸方向に延伸してなる各種の樹脂のフィルムないしシートを使用することができる。
本発明において、各種樹脂のフィルムないしシートの膜厚としては、約6〜100μm、より好ましくは約9〜50μmが望ましい。
【0014】
なお、上記の各種の樹脂の1種ないしそれ以上を使用し、その成膜化に際して、例えば、フィルムの加工性、耐熱性、耐候性、機械的性質、寸法安定性、抗酸化性、滑り性、離形性、難燃性、抗カビ性、電気的特性、強度、その他を改良、改質する目的で、種々のプラスチック配合剤や添加剤等を添加することができ、その添加量としては、極微量から数十%まで、その目的に応じて、任意に添加することができる。
上記において、一般的な添加剤としては、例えば、滑剤、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、充填剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、染料、顔料等の着色剤、その他等を任意に使用することができ、更には、改質用樹脂等も使用することができる。
【0015】
また、本発明において、上記の各種の樹脂のフィルムないしシートの表面には、後述する無機酸化物の蒸着膜との密接着性等を向上させるために、必要に応じて、予め、所望の表面処理層を設けることができるものである。
本発明において、上記の表面処理層としては、例えば、コロナ放電処理、オゾン処理、酸素ガス若しくは窒素ガス等を用いた低温プラズマ処理、グロー放電処理、化学薬品等を用いて処理する酸化処理、その他等の前処理を任意に施し、例えば、コロナ処理層、オゾン処理層、プラズマ処理層、酸化処理層、その他等を形成して設けることができる。
上記の表面前処理は、各種の樹脂のフィルムないしシートと後述する無機酸化物の蒸着膜との密接着性等を改善するための方法として実施するものであるが、上記の密接着性を改善する方法として、その他、例えば、各種の樹脂のフィルムないしシートの表面に、予め、プライマーコート剤層、アンダーコート剤層、アンカーコート剤層、接着剤層、あるいは、蒸着アンカーコート剤層等を任意に形成して、表面処理層とすることもできる。
上記の前処理のコート剤層としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリエチレンあるいはポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂あるいはその共重合体ないし変性樹脂、セルロース系樹脂、その他等をビヒクルの主成分とする樹脂組成物を使用することができる。
【0016】
3.無機酸化物蒸着層
本発明において、無機酸化物蒸着層としては、珪素(Si)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、カリウム(K)、スズ(Sn)、ナトリウム(Na)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、鉛(Pb)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)等の酸化物からなる蒸着層を挙げることができる。
好ましいものとしては、珪素(Si)又はアルミニウム(Al)の金属の酸化物からなる蒸着層を挙げることができる。
また、上記の金属の酸化物の蒸着層は、珪素酸化物、アルミニウム酸化物、マグネシウム酸化物等のように金属酸化物でもあり、その表記は、例えば、SiOx、AlOx、MgOx等のようにMOx(ただし、式中、Mは、金属元素を表し、Xの値は、金属元素によってそれぞれ範囲が異なる)で表される。
【0017】
また、上記のxの値の範囲として、珪素(Si)は0〜2、アルミニウム(Al)は0〜1.5、マグネシウム(Mg)は0〜1、カルシウム(Ca)は0〜1、カリウム(K)は0〜0.5、スズ(Sn)は0〜2、ナトリウム(Na)は0〜0.5、ホウ素(B)は0〜1.5、チタン(Ti)は0〜2、鉛(Pb)は0〜1、ジルコニウム(Zr)は0〜2、イットリウム(Y)は0〜1.5の範囲の値をとることができる。
上記において、x=0の場合は、完全な金属であり、透明ではないので使用することができない。また、xの範囲の上限は、完全に酸化したときの値である。
好ましくは、珪素(Si)は1.0〜2.0、アルミニウム(Al)は0.5〜1.5の範囲の値のものを使用することができる。
【0018】
無機酸化物層の層厚は、使用する金属、又は金属の酸化物の種類等によって異なるが、例えば5〜1000Å、好ましくは50〜500Åの範囲内で任意に選択することができる。
また、無機酸化物層として、使用する金属、又は金属の酸化物は、1種又は2種以上の混合物で使用し、異種の材質で混合した無機酸化物層を構成することもできる。
さらに、無機酸化物が、酸化珪素である場合は、SiOxCyで表される炭素含有酸化珪素であってもよい[式中、xは1.5〜2.2の範囲内にあって、yは0.15〜0.80の範囲内にあるのが好ましく、そしてxが1.7〜2.1の範囲内にあって、yが0.39〜0.47の範囲内にあるのがさらに好ましい]。
【0019】
4.無機酸化物蒸着層の蒸着方法
無機酸化物層の蒸着は、化学気相成長法又は物理気相成長法により、又はこれらを併用して行うことができる。化学気相成長法を用いる場合には、膜質の異なる蒸着層を多層で積層することができる。
(1)化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition法、CVD法)
本発明で利用する化学気相成長法には、例えば、プラズマCVD法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法等が含まれる。
本発明で利用することができる化学気相成長法の一つである、プラズマCVD法(Plasma Chemical Vapor Deposition法)は、具体的には、基材フィルム、無機酸化物層またはガスバリア性層の被蒸着面の表面に、無機酸化物の蒸着用モノマーガスを原料とし、キャリヤーガスとして、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスを使用し、更に、酸素供給ガスとして、酸素ガス等を使用し、低温プラズマ発生装置等を利用する低温プラズマ化学気相成長法を用いて、無機酸化物からなる蒸着層を形成する。
上記において、低温プラズマ発生装置として、例えば、高周波プラズマ、パルス波プラズマ、マイクロ波プラズマ等の発生装置を使用するが、本発明においては、高活性の安定したプラズマを得るために、高周波プラズマ方式による発生装置を使用することが望ましい。
【0020】
本発明における、低温プラズマ化学気相成長法による無機酸化物蒸着層の形成法について、その一例を挙げて説明する。図2は、上記の低温プラズマ化学気相成長法において使用される低温プラズマ化学気相成長装置の概略的構成図である。
本発明においては、図2に示すように、低温プラズマ化学気相成長装置21の真空チャンバー22内に配置された巻き出しロール23から、被蒸着フィルム11を繰り出し、更に、該被蒸着フィルム11を、補助ロール24を介して所定の速度で冷却・電極ドラム25周面上に搬送する。ガス供給装置26、27及び、原料揮発供給装置28から酸素ガス、不活性ガス、蒸着用モノマーガス等を供給し、それらからなる蒸着用混合ガス組成物を調整しながら原料供給ノズル29を通して真空チャンバー22内に該蒸着用混合ガス組成物を導入し、そして、上記の冷却・電極ドラム25周面上に搬送された、被蒸着フィルム11の上に、グロー放電プラズマ30によってプラズマを発生させ、これを照射して、無機酸化物蒸着層を形成する。その際に、冷却・電極ドラム25は、真空チャンバー22の外に配置されている電源31から所定の電力が印加されており、また、冷却・電極ドラム25の近傍には、マグネット32を配置してプラズマの発生が促進されている。次いで、被蒸着フィルム11は、無機酸化物蒸着層を形成した後、補助ロール33を介して巻き取りロール34に巻き取られる。なお、図中、35は真空ポンプを表す。
また、上記の低温プラズマ化学気相成長装置において、無機酸化物蒸着層は、プラズマ化した原料ガスを用いて、被蒸着フィルム上に薄膜状に形成されるので、緻密で、隙間の少ない、可撓性に富む連続層となる。従って、従来の真空蒸着法等によって形成される無機酸化物蒸着層よりもはるかに高いバリア性を示し、薄い膜厚で十分なバリア性を得ることができる。
【0021】
(2)物理気相成長法(Physical Vapor Deposition法、PVD法)
物理気相成長法には、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンクラスタービーム法等が含まれる。
本発明において利用できる物理気相成長法について、その一例を挙げてさらに具体的に説明する。図3は、本発明における無機酸化物蒸着方法の一例を示す巻き取り式真空蒸着装置の概略的構成図である。
図3に示すように、巻き取り式真空蒸着装置41の真空チャンバー42の中で、巻き出しロール43から、被蒸着フィルム11を繰り出し、該被蒸着フィルム11を、ガイドロール44、45を介して、冷却したコーティングドラム46に案内する。次いで、冷却したコーティングドラム46上に案内された被蒸着フィルム11の上に、るつぼ47で熱せられた蒸着源48を、必要ならば、酸素ガス吹出口49から酸素ガス等を供給しながら蒸着させ、マスク50を介して無機酸化物蒸着層を成膜化する。電子ビーム真空蒸着法では、蒸着源48への過熱が電子ビーム照射により行われる。次いで、無機酸化物蒸着層を積層した被蒸着フィルム11を、ガイドロール51、52を介して、巻き取りロール53に巻き取る。
【0022】
5.ガスバリア性組成物
本発明のバリアコート層は、1種以上のアルコキシドと、水溶性高分子と、水溶性または水分散性硬化剤とを含有するガスバリア性組成物をゾルゲル法によって加水分解及び、重縮合することにより形成することができる。ガスバリア性組成物には、シランカップリング剤を添加してもよい。
(1)水溶性または水分散性硬化剤
本発明は、既存のガスバリア性組成物に反応性の有機官能基を有する水溶性または水分散性硬化剤を添加することにより、高分子とアルコキシドとの架橋反応に加えさらに硬化剤が反応することによってバリアコート層の耐水性、耐煮沸性を向上させることができる。
さらに、バリアコート層への有機官能基の導入効果によって無機酸化物蒸着層はもとよりバリアコート層に更に積層される印刷層、接着剤層およびアンカーコート層等との密着性の向上効果を発揮する。
また、これらの相乗効果によって、熱水処理後のガスバリア性の低下がほとんどないガスバリア性積層フィルムの提供を可能にすることができる。
【0023】
本願に係るガスバリア性組成物に用いられる水溶性または水分散性硬化剤は、反応性官能基を有し、その反応性官能基がイソシアネート基、エポキシ基、ビニル基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、およびヒドラジド基から成る群から選ばれる1つまたはそれ以上である硬化剤である。例えば、イソシアネート架橋剤、エポキシ系架橋剤、ビニル系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、オキサゾリン基系架橋剤、およびヒドラジド基系架橋剤がある。
具体的には、日本ポリウレタン工業株式会社製のアクアネート100、日本油脂株式会社製のエピオールE−100、同社製のブレンマーPP−1000、日本紡績株式会社製のカルボジライトV−02、および日本触媒株式会社製のエポクロスWS−700等を用いることができる。
水溶性または水分散性硬化剤の添加量は、水溶性高分子の固形分の総重量に対して0.1〜100wt%、好ましくは1〜30wt%である。
【0024】
(2)アルコキシド
本発明においては、アルコキシドとして、一般式R1nM(OR2m(ただし、式中、R1およびR2は炭素数1〜8の有機基を表し、Mは金属原子を表し、nは0以上の整数を表し、mは1以上の整数を表し、n+mはMの原子数を表す)で表される1種又はそれ以上のアルコキシドを好ましく用いることができる。
本発明において、一般式R1nM(OR2mで表されるアルコキシドとしては、金属原子Mとして、珪素、ジルコニウム、チタン、アルミニウムその他を使用することができる。また、本発明において、単独又は二種以上の異なる金属原子のアルコキシドを同一溶液中に混合して使うことができる。
また、上記の一般式R1nM(OR2mで表されるアルコキシドにおいて、R1で表される有機基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基その他のアルキル基を挙げることができる。
また、上記の一般式R1nM(OR2mで表されるアルコキシドにおいて、R2で表される有機基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基その他を挙げることができる。
尚、本発明において、同一分子中において、これらのアルキル基は同一であっても、異なってもよい。
【0025】
(3)水溶性高分子
水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール系樹脂若しくはエチレン・ビニルアルコール共重合体のいずれか又はその両方を好ましく用いることができる。
また、本発明において、ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体の含有量は、上記のアルコキシドの合計量100重量部に対して5〜500重量部の範囲であることが好ましい。上記において、500重量部を越えると、バリア性被膜の脆性が大きくなり、その耐侯性等も低下することから好ましくない。
本発明において、ポリビニルアルコール系樹脂として、一般にポリ酢酸ビニルをケン化して得られるものを使用することができる。ポリビニルアルコール系樹脂の具体例としては、株式会社クラレ製PVA110(ケン化度=98〜99%、重合度=1,100)、PVA117(ケン化度=98〜99%、重合度=1,700)、PVA124(ケン化度=98〜99%、重合度=2,400)、PVA135H(ケン化度=99.7%以上、重合度=3,500)、同社製のRSポリマーであるRS−110(ケン化度=99%、重合度=1,000)、同社製のクラレポバールLM−20SO(ケン化度=40%、重合度=2,000)、日本合成化学工業株式会社製のゴーセノールNM−14(ケン化度=99%、重合度=1,400)及びゴーセノールNH−18(ケン化度=98〜99%、重合度=1,700)等を使用することができる。
【0026】
また、本発明において、エチレン・ビニルアルコール共重合体としては、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体のケン化物、すなわち、エチレン−酢酸ビニルランダム共重合体をケン化して得られるものを使用することができる。このようなケン化物には、酢酸基が数十モル%残存する部分ケン化物から、酢酸基が数モル%しか残存していないか又は酢酸基が全く残存していない完全ケン化物までが包含される。特に限定されるものではないが、ガスバリア性の観点から、ケン化度が80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上であるものを使用することが好ましい。また、上記のエチレン・ビニルアルコール共重合体中のエチレンに由来する繰り返し単位の含量(以下「エチレン含量」ともいう)は、通常、0〜50モル%、好ましくは20〜45モル%であるものを使用することが好ましい。上記のエチレン・ビニルアルコール共重合体の具体例としては、株式会社クラレ製、エバールEP−F101(エチレン含量;32モル%)、日本合成化学工業株式会社製、ソアノールD2908(エチレン含量;29モル%)等を使用することができる。
【0027】
(4)シランカップリング剤
本発明において、調製するガスバリア性組成物には、シランカップリング剤を添加することができる。
本発明において、シランカップリング剤は、無機物と反応する加水分解基、及び有機物と反応する有機官能基の両方を一分子中にもつ有機ケイ素化合物からなる。無機物と反応する加水分解基としては、メトキシ基、エトキシ基のようなアルコキシ基、アセトキシ基及びクロロ基などが挙げられる。また、有機物と反応する有機官能基としては、水酸基含有アクリル樹脂中の水酸基又はイソシアネート化合物のイソシアネート基と反応する官能基が好ましく、例えばイソシアネート基、アミノ基、エポキシ基及びメルカプト基が挙げられる。また、ビニル基及びメタクリルオキシ基などであってもよい。
該有機ケイ素化合物は、無機物及び有機物のいずれとも反応しないアルキル基やフェニル基を有していてもよい。また、有機官能基を有しないケイ素化合物、例えば加水分解基のみを有するアルコキシシランのような化合物と混合することもできる。本発明において、シランカップリング剤は、1種類または2種類以上の混合物であっても良い。
【0028】
上記のようなシランカップリング剤は、加水分解基が加水分解してシラノール基(SiOH)を形成し、これが、無機酸化物蒸着層を構成する金属、又は無機酸化物蒸着層表面上の活性な基、例えば、水酸基等の官能基と相互作用し、例えば、脱水縮合反応等の反応を起こして、無機酸化物の蒸着膜表面上にシランカップリング剤が共有結合等で修飾され、更に、シラノール基自体の無機酸化物の蒸着膜表面に吸着や水素結合等により強固な結合を形成する。
他方、該有機ケイ素の他端にある有機官能基が、基材フィルム又はバリアコート層の被蒸着面を構成する物質と反応して強固な結合を形成し、強固に密接着して、そのラミネート強度を高める。このようにして、本発明においては、ラミネート強度の高い強固な積層構造を形成可能とするものである。
【0029】
本発明において用いられるシランカップリング剤としては、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有シランカップリング剤、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどのエポキシ基含有シランカップリング剤、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのメルカプト基含有シランカップリング剤、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシランなどのイソシアネート基含有シランカップリング剤等が挙げられる。
【0030】
6.ガスバリア性組成物の調製およびバリアコート層の形成方法
(1)ガスバリア性組成物の調製
アルコキシドと水溶性高分子とを、水溶性または水分散性硬化剤、ゾルゲル法触媒、酸、水及び有機溶媒、および必要に応じて、シランカップリング剤等と混合してガスバリア性組成物(塗工液)を調製する。
上記ガスバリア性組成物(塗工液)中では次第に重縮合反応及び、水溶性または水分散性硬化剤の反応性官能基による架橋反応が進行する。
また、ガスバリア性組成物の調製において用いられる、ゾルゲル法触媒としては、実質的に水に不溶であり、且つ有機溶媒に可溶な第三級アミン、例えばN,N−ジメチルベンジルアミンを用いることができ、また、酸としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸等の鉱酸、並びに酢酸、酒石酸等の有機酸その他を使用することができる。更に、有機溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール等を用いることができる。
【0031】
更に、ガスバリア性組成物に関して、ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体は、上記のアルコキシドやシランカップリング剤等を含む塗工液中で溶解した状態にあることが好ましく、そのため上記の有機溶媒の種類が適宜選択される。本発明において、溶剤中に可溶化されたエチレン・ビニルアルコール共重合体は、例えば、ソアノール(日本合成化学工業株式会社製)として市販されているものを使用することができる。
【0032】
(2)バリアコート層の形成方法
上記のガスバリア性組成物を、無機酸化物蒸着層の上に塗布し、加熱して溶媒及び重縮合反応により生成したアルコールを除去すると、重縮合反応が完結し、透明なガスバリア性塗布層が形成される。
更に、加水分解によって生じた水酸基や、シランカップリング剤由来のシラノール基が無機酸化物蒸着層の表面の水酸基と結合する為、該無機酸化物蒸着層とガスバリア性塗布層との密着性、接着性等が良好なものとなる。
上述のように形成されることにより、本発明のガスバリア性塗布層は、結晶性を有する直鎖状ポリマーを含み、非晶質部分の中に多数の微小の結晶が埋包された構造を取る。このような結晶構造は、結晶性有機ポリマー(例えば、塩化ビニリデンやポリビニルアルコール)と同様であり、さらに極性基(OH基)が部分的に分子内に存在し、分子の凝集エネルギーが高いため、良好なガスバリア性を示す。
【0033】
本発明においては、無機酸化物蒸着層とガスバリア性塗布層とが、例えば、加水分解・共縮合による化学結合、水素結合、或いは、配位結合等を形成し、これら2層間の密着性が向上し、相乗効果により、より良好なバリア性の効果を発揮し得るものである。
本発明において、上記のガスバリア性組成物を塗布する方法としては、例えば、グラビアロールコーター等のロールコート、スプレーコート、ディッピング、刷毛、バーコート、アプリケータ等の塗布手段により、1回或いは複数回の塗布で、乾燥膜厚が0.01〜30μm、好ましくは0.1〜10μmのバリアコートを形成することができる。更に、通常の環境下で、20〜300℃の温度下で、0.05〜60分間加熱・乾燥することにより、縮合及び、水溶性または水分散性硬化剤の反応性官能基による架橋反応が行われ、本発明のガスバリア性塗布層を形成することができる。
【0034】
7.アンカーコート層、接着剤層およびヒートシール層
(1)アンカーコート層
アンカーコート層は、水酸基含有アクリル樹脂、イソシアネート化合物及びシランカップリング剤を含むアンカーコート剤が反応硬化してなる層である。
アンカーコート剤としては、例えば、アルキルチタネートなどの有機チタン系アンカーコート剤、イソシアネート系アンカーコート剤、ポリエチレンイミン系アンカーコート剤、ポリブタジエン系アンカーコート剤、その他の水性または油性の各種のアンカーコート剤を使用することができる。本発明においては、上記アンカーコート剤を、ロールコート、グラビアコート、ナイフコート、ディップコート、スプレイコート、その他のコーティング法でコーティングし、溶剤、希釈剤などを乾燥して、アンカーコート剤層を形成することができる。上記アンカーコート剤の塗布量としては、0.1〜5g/m2(乾燥状態)位が好ましい。
【0035】
(2)接着剤層
接着剤層を構成する接着剤としては、例えば、ポリ酢酸ビニル系接着剤、アクリル酸のエチル、ブチル、2−エチルヘキシルエステル等のホモポリマー、あるいは、これらとメタクリル酸メチル、アクリロニトリル、スチレン等との共重合体等からなるポリアクリル酸エステル系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、エチレンと酢酸ビニル、アクリル酸エチル、アクリル酸、メタクリル酸等のモノマーとの共重合体等からなるエチレン共重合体系接着剤、セルロース系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリアミド系接着剤、ポリイミド系接着剤、尿素樹脂またはメラミン樹脂等からなるアミノ樹脂系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、エポキシ系接着剤、ポリウレタン系接着剤、反応型(メタ)アクリル系接着剤、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、スチレン−ブタジエンゴム等からなるゴム系接着剤、シリコーン系接着剤、アルカリ金属シリケート、低融点ガラス等からなる無機系接着剤、その他等の接着剤を使用することができる。
上記の接着剤の組成系は、水性型、溶液型、エマルジョン型、分散型等のいずれの組成物形態でもよく、また、その性状は、フィルム・シート状、粉末状、固形状等のいずれの形態でもよく、更に、接着機構については、化学反応型、溶剤揮発型、熱溶融型、熱圧型等のいずれの形態でもよいものである。
上記の接着剤は、例えば、ロールコート法、グラビアロールコート法、キスコート法、その他等のコート法等によって施すことができ、そのコーティング量としては、0.1〜10g/m2 (乾燥状態)位が望ましい。
【0036】
(3)ヒートシール層
本発明において、ヒートシール層を構成するヒートシール性樹脂としては、熱によって溶融して相互に融着し得る樹脂を使用することができ、具体的には、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、メチルペンテンポリマー、ポリブテンポリマー、ポリエチレンまたはポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂をアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸で変性した酸変性ポリオレフィン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアクリルニトリル系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS系樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS系樹脂)等を使用することができる。
【0037】
本発明においては、上記のような樹脂のフィルムないしシートを、ドライラミネート法、ノンソルベントドライラミネート法等公知の積層方法によりヒートシール層を積層することができ、あるいは上記のような樹脂を主成分とする樹脂組成物によるコーティング膜等によって、ヒートシール層を構成することができる。その厚さとしては、5〜300μm、好ましくは10〜100μmが望ましい。
さらに、本発明において、上記のようなヒートシール性樹脂として、メタロセン触媒を用いて重合したエチレン−α・オレフィン共重合体も同様に使用することができる。具体的には、例えば、二塩化ジルコノセンとメチルアルモキサンの組み合わせによる触媒等のメタロセン錯体とアルモキサンとの組み合わせによる触媒、すなわち、メタロセン触媒を使用して重合してなるエチレン−α・オレフィン共重合体を使用することができる。メタロセン触媒は、現行の触媒が、活性点が不均一でマルチサイト触媒と呼ばれているのに対し、活性点が均一であることからシングルサイト触媒とも呼ばれているものである。例えば、三菱化学株式会社製の商品名「カーネル」、三井石油化学工業株式会社製の商品名「エボリュー」、米国、エクソン・ケミカル(EXXON CHEMICAL)社製の商品名「エクザクト(EXACT)」、米国、ダウ・ケミカル(DOW CHEMICAL)社製の商品名「アフィニティー(AFFINITY)、商品名「エンゲージ(ENGAGE)」等のメタロセン触媒を用いて重合したエチレン−α・オレフィン共重合体を使用することができる。本発明において、上記のようなヒートシール性樹脂として、メタロセン触媒を用いて重合したエチレン−α・オレフィン共重合体を使用する場合には、袋体を製造するときに、低温ヒートシールが可能であるという利点を有する。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
[実施例1]
(1)厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを使用し、これをプラズマ化学気相成長装置の送り出しロールに装着し、次いで、下記に示す条件で、上記の二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムのコロナ処理面に、厚さ200Åの酸化珪素の蒸着膜を形成した。
(蒸着条件)
蒸着面;コロナ処理面導入ガス量;ヘキサメチルジシロキサン:酸素ガス:ヘリウム=1.0:3.0:3.0(単位:slm)
真空チャンバー内の真空度;2〜6×10-6mBar
蒸着チャンバー内の真空度;2〜5×10-3mBar
冷却・電極ドラム供給電力;10kW
ライン速度;100m/min
次に、上記で膜厚200Åの酸化珪素の蒸着膜を形成した直後に、その酸化珪素の蒸着膜面に、グロー放電プラズマ発生装置を使用し、パワー9kw、酸素ガス(O2):アルゴンガス(Ar)=7.0:2.5(単位:slm)からなる混合ガスを使用し、混合ガス圧6×10-5Torr、処理速度420m/minで酸素/アルゴン混合ガスプラズマ処理を行って、酸化珪素の蒸着膜面の表面張力を54dyne/cm以上向上させてプラズマ処理面を形成した。
【0039】
(2)他方、表1に示す組成に従って、調製した組成a.のポリビニルアルコールと、イソプロピルアルコールおよびイオン交換水からなる混合液に、予め調製した組成b.のエチルシリケート、シランカップリング剤(γグリシドキシプロピルトリメトキシシラン)、水溶性または水分散性イソシアネート架橋剤、塩酸、イソプロピルアルコール、イオン交換水からなる加水分解液を加えて攪拌し、無色透明のバリアー塗工液を得た。
【0040】
【表1】

【0041】
次に、上記(1)で形成したプラズマ処理面に、上記で製造したガスバリア性組成物を使用し、これをグラビアロールコート法によりコーティングして、次いで、180℃で60秒間、加熱処理して、厚さ0.3μm(乾操状態)のガスバリア性塗布膜を形成した。
(用いた水溶性または水分散性イソシアネート架橋剤:日本ポリウレンタン(株)アクアネート100)
【0042】
[実施例2]
実施例1の水溶性または水分散性イソシアネート架橋剤を、水溶性または水分散性エポキシ系架橋剤に変えて実施例1と同様の試験を行った。
(用いた水溶性または水分散性エポキシ系架橋剤:日本油脂(株)エピオールE−100)
【0043】
[実施例3]
実施例1の水溶性または水分散性イソシアネート架橋剤を、水溶性または水分散性ビニル系架橋剤に変えて実施例1と同様の試験を行った。
(用いた水溶性または水分散性ビニル系架橋剤:日本油脂(株)ブレンマーPP−1000)
【0044】
[実施例4]
実施例1の水溶性または水分散性イソシアネート架橋剤を、水溶性または水分散性カルボジイミド系架橋剤に変えて実施例1と同様の試験を行った。
(用いた水溶性または水分散性カルボジイミド系架橋剤:日清紡績(株)カルボジライトV−02)
【0045】
[実施例5]
実施例1の水溶性または水分散性イソシアネート架橋剤を、水溶性または水分散性オキサゾリン基系架橋剤に変えて実施例1と同様の試験を行った。
(用いた水溶性または水分散性オキサゾリン基系架橋剤:日本触媒(株)エポクロスWS−700)
【0046】
[実施例6]
実施例1の水溶性または水分散性イソシアネート架橋剤を、水溶性または水分散性ヒドラジド基系架橋剤に変えて実施例1と同様の試験を行った。
(用いた水溶性または水分散性ヒドラジド基系架橋剤:アジピン酸ジヒドラジド)
【0047】
[比較例1]
水溶性または水分散性イソシアネート架橋剤を含まない以外は、実施例1と同様の試験を行った。
【0048】
[比較試験]
実施例1〜6および比較例1で得られたガスバリア性積層フィルムを用いて、下記仕様にてボイルおよびレトルト評価用ラミネートフィルムを得た。
ボイル仕様 :ガスバリア性積層フィルム/DL/PEF60μm
レトルト仕様:ガスバリア性積層フィルム/DL/ONY15μm/DL/CPP60μm
得られたラミネートフィルムを用いて4方パウチを作成し、それぞれ水200ccを充填しボイル条件95℃/60min、レトルト条件135℃/60minで熱水殺菌処理を実施した。
【0049】
ボイル評価についてはボイル前後の酸素透過度(cc/m2・day・atm、23℃、90%PH下)およびラミ強度(N/15mm T字剥離 測定速度50mm/min)の測定と剥離界面に水を垂らしながらT字剥離、測定速度50mm/minで耐水ラミ強度(N/15mm)の測定を実施した。
レトルト評価についてはレトルト前後の酸素透過度およびラミ強度(N/15mm T字剥離 測定速度50mm/min)の測定およびデラミネーションの発生有無確認について、パウチに100cc水を充填し、パウチに罫線をつけて180°に折り曲げて、クリップにて固定した状態でレトルト殺菌処理を135℃/60minにて実施し、レトルト後の状態観察を行った。
【0050】
比較試験結果を表2および表3にまとめた。
実施例で得られたガスバリア性積層フィルムを用いたラミネートフィルムは、ボイル処理による酸素透過度への影響がほとんど見られず、比較例のフィルムよりもボイル処理に対するバリア性に優れていた。
また、レトルト処理においても、比較例のフィルムと比べ、酸素透過度への影響が小さく、さらにラミ強度および外観において優れたバリア性を有していた。
【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本願に係るガスバリア性積層フィルムについてその層構成の一例を示す概略的断面図である。
【図2】プラズマ化学気相成長装置についてその一例の概要を示す概略的構成図である。
【図3】巻き取り式真空蒸着装置についてその一例の概要を示す概略的構成図である。
【符号の説明】
【0054】
A:ガスバリア性積層フィルム
1:基材フィルム
2:無機酸化物蒸着層
3:バリアコート層
11:被蒸着フィルム
21:低温プラズマ化学気相成長装置
22、42:真空チャンバー
23、43:巻き出しロール
24、33:補助ロール
25:冷却・電極ドラム
26、27:ガス供給装置
28:原料揮発供給装置
29:原料供給ノズル
30:グロー放電プラズマ
31:電源
32:マグネット
34、53:巻き取りロール
35:真空ポンプ
41:巻き取り式真空蒸着装置
44、45、51、52:ガイドロール
46:コーティングドラム
47:るつぼ
48:蒸着源
49:酸素ガス吹出口
50:マスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの少なくとも一方の面に無機酸化物蒸着層を設け、さらに、該無機酸化物蒸着層の上に、1種以上のアルコキシドと、水溶性高分子と、水溶性または水分散性硬化剤とを含有するガスバリア性組成物をゾルゲル法によって加水分解及び、重縮合して得られるバリアコート層を設けたことを特徴とするガスバリア性積層フィルム。
【請求項2】
前記水溶性または水分散性硬化剤が、反応性官能基を有し、その反応性官能基がイソシアネート基、エポキシ基、ビニル基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、およびヒドラジド基から成る群から選ばれる1つまたはそれ以上であることを特徴とする請求項1に記載のガスバリア性積層フィルム。
【請求項3】
前記アルコキシドが、一般式R1nM(OR2m(ただし、式中、R1およびR2は炭素数1〜8の有機基を表し、Mは金属原子を表し、nは0以上の整数を表し、mは1以上の整数を表し、n+mはMの原子数を表す)で表されることを特徴とする請求項1または2に記載のガスバリア性積層フィルム。
【請求項4】
前記水溶性高分子が、ポリビニルアルコール系樹脂またはエチレン・ビニルアルコール共重合体の少なくとも一方を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のガスバリア性積層フィルム。
【請求項5】
前記ガスバリア性組成物がさらに、シランカップリング剤を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のガスバリア性積層フィルム。
【請求項6】
前記バリアコート層に印刷が施されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のガスバリア性積層フィルム。
【請求項7】
前記バリアコート層の上に、さらに接着剤層またはアンカーコート層を介して、または介さないで、ヒートシール層を積層することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のガスバリア性積層フィルム。
【請求項8】
前記バリアコート層とヒートシール層との間に、さらに接着剤層を介して、ナイロン基材を積層することを特徴とする請求項7に記載のガスバリア性積層フィルム。
【請求項9】
基材としてナイロンを用いた請求項1〜6のいずれかに記載のガスバリア性積層フィルムを中間層とし、これに接着剤層またはアンカーコート層を介して、さらに別の基材フィルムおよびヒートシール層を積層することを特徴とするガスバリア性積層フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−255398(P2009−255398A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−107362(P2008−107362)
【出願日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】