説明

ガスバーナー式アルミニウム溶解保持炉

【課題】アルミニウム溶湯への加熱及びアルミニウム溶湯の高温状態の維持に適し、更に、炉に収容されているアルミニウム溶湯の酸化防止に適したアルミニウム溶解保持炉を提案する。
【解決手段】上部側が閉鎖されているアルミニウム溶湯室と、前記アルミニウム溶湯室内に保持されているアルミニウム溶湯内に浸漬され、ガス燃焼バーナーからの燃焼炎が吹き込まれる耐熱性チューブからなるガスバーナー式浸漬型ヒーターとを備えていて、前記耐熱性チューブからの排気が、前記アルミニウム溶湯室内に保持されているアルミニウム溶湯の液面に対向する耐熱隔壁を備えている排気通路を介して前記アルミニウム溶湯室の外部へ排気されていくガスバーナー式アルミニウム溶解保持炉。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アルミニウム溶解保持炉に関し、特に、アルミニウム溶湯への加熱及びアルミニウム溶湯の高温状態の維持に適し、更に、炉に収容されているアルミニウム溶湯の酸化防止に適したアルミニウム溶解保持炉に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、自動車をはじめ、家電、建材等で使われている数多くのアルミニウム部品は、アルミニウム鋳造で作られている。
【0003】
鋳造用アルミニウムの溶解保持炉には、坩堝炉、ガス燃焼バーナーによる反射炉型溶解保持炉などがある(例えば、特許文献1、2)。坩堝炉は溶解に要する時間、エネルギー効率、酸化物の生成に起因する溶湯品質などの面で改善すべき点がある。ガス燃焼バーナーによる反射炉型溶解保持炉は坩堝炉に比較するとエネルギー効率、熱効率がよくなるが、アルミニウムに直接火炎を当てて溶解及び溶湯温度保持を図る場合には、酸化物が増え、アルミニウムのロスも増加するという問題があった。酸化物が発生した場合、溶湯品質が低下し、鋳造製品の品質低下、不良率の低下の要因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−357386号公報
【特許文献2】特開2010−230237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明は、アルミニウム溶湯への加熱及びアルミニウム溶湯の高温状態の維持に適し、更に、炉に収容されているアルミニウム溶湯の酸化防止に適したアルミニウム溶解保持炉を提案することを目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、
上部側が閉鎖されているアルミニウム溶湯室と、
前記アルミニウム溶湯室内に保持されているアルミニウム溶湯内に浸漬され、ガス燃焼バーナーからの燃焼炎が吹き込まれる耐熱性チューブからなるガスバーナー式浸漬型ヒーターとを備えていて、
前記耐熱性チューブからの排気が、前記アルミニウム溶湯室内に保持されているアルミニウム溶湯の液面に対向する耐熱隔壁を備えている排気通路を介して前記アルミニウム溶湯室の外部へ排気されていく
ことを特徴とするガスバーナー式アルミニウム溶解保持炉
である。
【0007】
請求項2記載の発明は、
前記耐熱隔壁によって前記アルミニウム溶湯室の内部空間と隔離されていて、前記アルミニウム溶湯室に配備されている排気筒に連続する加熱室が前記排気通路によって形成されることを特徴とする請求項1記載のガスバーナー式アルミニウム溶解保持炉
である。
【0008】
請求項3記載の発明は、
前記アルミニウム溶湯室内の前記アルミニウム溶湯が、前記アルミニウム溶湯内に浸漬されている前記ガスバーナー式浸漬型ヒーターの前記耐熱性チューブを介して間接加熱されると共に、
前記アルミニウム溶湯室内の前記アルミニウム溶湯の液面が、対向している前記耐熱隔壁からの輻射熱で輻射加熱される
ことを特徴とする請求項1又は2記載のガスバーナー式アルミニウム溶解保持炉
である。
【0009】
請求項4記載の発明は、
前記耐熱性チューブ及び、前記耐熱隔壁は、それぞれ、耐火物をセラミック繊維で強化して一体成形した繊維強化耐火物成形品である
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項記載のガスバーナー式アルミニウム溶解保持炉
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アルミニウム溶湯への加熱及びアルミニウム溶湯の高温状態の維持に適し、更に、炉に収容されているアルミニウム溶湯の酸化防止に適したアルミニウム溶解保持炉を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のガスバーナー式アルミニウム溶解保持炉一例を表す平面図。
【図2】図1のA−A断面概略図。
【図3】図1のB−B断面概略図。
【図4】図1のC−C断面概略図。
【図5】図1のD−D断面概略図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら、本発明のガスバーナー式アルミニウム溶解保持炉の一例を説明する。
【0013】
本発明のガスバーナー式アルミニウム溶解保持炉1は、アルミニウム溶湯室とこれに配備されているガスバーナー式浸漬型ヒーター3とを備えている。
【0014】
図示の実施形態では、アルミニウム溶湯室は、アルミニウム溶湯供給室2aと、アルミニウム溶湯保持室2bと、アルミニウム溶湯汲み出し室2cとからで構成されている(図1)。そして、これらの上部が蓋体21によって閉鎖されていることにより、図示の実施形態では、アルミニウム溶湯室の上部側が閉鎖されている。なお、以下の説明において、アルミニウム溶湯供給室2a、アルミニウム溶湯保持室2b、アルミニウム溶湯汲み出し室2cを総称して単に「アルミニウム溶湯室」と表すことがある。
【0015】
図示の実施形態では、アルミニウム溶湯室の外部からアルミニウム溶湯供給室2aに供給されたアルミニウム溶湯6が、流路14を介して矢印11で示すようにアルミニウム溶湯保持室2bに流動する。アルミニウム溶湯6は、アルミニウム溶湯保持室2b内で加熱され、アルミニウム溶湯保持室2b内を矢印12で示すように流動し、流路15を介して矢印13で示すようにアルミニウム溶湯汲み出し室2cに流動する。そして、アルミニウム溶湯汲み出し室2cからアルミニウム溶湯室の外部に汲み出される。
【0016】
ガスバーナー式浸漬型ヒーター3は、図示の実施形態では、アルミニウム溶湯保持室2bに収容されているアルミニウム溶湯6内に浸漬されている耐熱性チューブ5と、耐熱性チューブ5内に燃焼炎を吹き込むガス燃焼バーナー4とを備えている。
【0017】
ガス燃焼バーナー4から耐熱性チューブ5内に燃焼炎23が吹き込まれ、耐熱性チューブ5を介してアルミニウム溶湯保持室2b内のアルミニウム溶湯6が間接加熱され、700℃〜800℃程度の高温に加熱、保持される。
【0018】
耐熱性チューブ5内に吹き込まれた燃焼炎23の排ガスは、矢印16のように耐熱性チューブ5内を流動して排気通路8内に入り、矢印17、18、19で示すように、排気通路8内を流動し、アルミニウム溶湯室に配備されている排気筒10を介して、矢印20で示すように、アルミニウム溶湯室の外部に排気されていく。
【0019】
排気通路8は、アルミニウム溶湯室内に保持されているアルミニウム溶湯6の液面に対向する耐熱隔壁7を備えている。耐熱隔壁7は、排気通路8内を通過していく排ガスによって加熱されるので、アルミニウム溶湯室内のアルミニウム溶湯6の液面は、対向している耐熱隔壁7からの輻射熱で加熱される。すなわち、耐熱隔壁7によってアルミニウム溶湯室の内部空間と隔離されていて排気筒10に連続する排気通路8によって加熱室9が形成され、加熱室9を形成していて排ガスによって加熱されている耐熱隔壁7からの輻射熱でアルミニウム溶湯室内のアルミニウム溶湯6の液面が輻射加熱される。
【0020】
このように、本発明のガスバーナー式アルミニウム溶解保持炉1ではアルミニウム溶湯室内に収容、保持されているアルミニウム溶湯6は、ガス燃焼バーナー4から内部に燃焼炎23が吹き込まれる耐熱性チューブ5を介した間接加熱と、耐熱性チューブ5を流動してきて、排気通路8、加熱室9内に流入する排ガスによって加熱された耐熱隔壁7によるアルミニウム溶湯6の液面に対する輻射加熱によって加熱され、高温に維持される。
【0021】
この結果、本発明のガスバーナー式アルミニウム溶解保持炉1は、アルミニウム溶湯6への加熱及びアルミニウム溶湯6の高温(700℃〜800℃程度)状態の維持に優れた効果を発揮することができる。また、加熱の方式が前述した間接加熱と、輻射加熱であるので、加熱の際に、アルミニウム溶湯室内に収容されているアルミニウム溶湯6が酸化されることがない。
【0022】
耐熱性チューブ5、耐熱隔壁7は、耐火物をセラミック繊維で強化して成形した繊維強化耐火物成形品であり、例えば、特許402266「繊維強化複合耐火物成形体」及び特開2009−256132「炭化ケイ素系繊維分散強化複合耐火物成形体」において使用されているSiC繊維分散不定形耐火組成物を用いて成形した繊維分散強化耐火物である。
【0023】
前記のSiC繊維分散不定形耐火組成物を添加水量5%(質量)でミキサーにて混練し(混練時間:4分)、これを、耐熱性チューブ5、耐熱隔壁7を成形するそれぞれの型枠に充填し、振動を加えながら成形し、その後、600℃で4時間、乾燥炉で乾燥させて、耐熱性チューブ5、耐熱隔壁7を成形する。
【0024】
こうして、SiC繊維分散不定形耐火組成物を用いて成形した繊維分散強化耐火物からなる耐熱性チューブ5は、従来一般のセラミックスに比べ、耐熱衝撃性に優れ、クラックが発生しにくいため、ガスバーナーの炎の変動による局部的な急激な温度変化に対しても異常なく、優れた耐久性を発揮できる。また、熱伝導性が良く、1300℃の耐熱性とアルミニウム溶湯に対して優れた耐食性を有しているため、アルミニウム溶湯加熱チューブとして最適である。耐熱性チューブ5は、前述したように熱伝導性が良く、その上、断面が円柱状であってアルミニウム溶湯6に対する伝熱面積が大きいので、効率よくアルミニウム溶湯6を加熱することができるが、上述したように、所定形状の型枠内に材料を充填して成形できるので、所望の形状の耐熱性チューブ5を準備することができる。
【0025】
また、上述したように、SiC繊維分散不定形耐火組成物を用いて成形した繊維分散強化耐火物からなる耐熱隔壁7は、前述したように、良好な熱伝導性を備えていることから、排出筒10に向けて排気通路8、加熱室9内を流動する排ガスによって加熱された輻射熱によってアルミニウム溶湯室内のアルミニウム溶湯6の液面を輻射加熱することに適している。
【0026】
アルミニウム溶湯供給室2a、アルミニウム溶湯保持室2b、アルミニウム溶湯汲み出し室2cの側壁22a、底面22b、仕切り壁22c、22dも上述した耐熱性チューブ5、耐熱隔壁7と同じく、SiC繊維分散不定形耐火組成物を用いて成形した繊維分散強化耐火物製とすることができる。この場合、前記のように型枠を用いて所定の形状、構造に一体成形することができるので、側壁22a、底面22b、仕切り壁22c、22dを備えているアルミニウム溶湯室(アルミニウム溶湯供給室2a、アルミニウム溶湯保持室2b、アルミニウム溶湯汲み出し室2c)を、SiC繊維分散不定形耐火組成物を用いて一体成形した繊維分散強化耐火物とすることができる。
【0027】
以上、添付図面を参照して本発明の好ましい実施形態、実施例を説明したが、本発明はこれらに限られるものではなく、特許請求の範囲の記載から把握される技術的範囲において種々の形態に変更可能である。
【0028】
例えば、図示の実施形態では、排気通路8、加熱室9を形成している耐熱隔壁7は、アルミニウム溶湯供給室2a内に収容されているアルミニウム溶湯6の液面の所定の領域及び、アルミニウム溶湯保持室2b内に収容されているアルミニウム溶湯6の液面の所定の領域に対向する位置に形成されていた。これに替えて、アルミニウム溶湯室(アルミニウム溶湯供給室2a、アルミニウム溶湯保持室2b、アルミニウム溶湯汲み出し室2c)の全領域の上部空間を耐熱隔壁7で形成し、このアルミニウム溶湯室の全領域に亘る耐熱隔壁7と蓋体21との間に形成される空間部が、排気通路8かつ加熱室9となって、排気筒10に連通する構造にすることもできる。このようにすれば、アルミニウム溶湯供給室2a、アルミニウム溶湯保持室2b、アルミニウム溶湯汲み出し室2cにそれぞれ収容されているアルミニウム溶湯6の液面はいずれも耐熱隔壁7からの輻射熱で加熱されることになる。
【符号の説明】
【0029】
1 ガスバーナー式アルミニウム溶解保持炉
2a アルミニウム溶湯供給室
2b アルミニウム溶湯保持室
2c アルミニウム溶湯汲み出し室
3 ガスバーナー式浸漬型ヒーター
4 ガス燃焼バーナー
5 耐熱性チューブ
6 アルミニウム溶湯
7 耐熱隔壁
8 排気通路
9 加熱室
10 排気筒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部側が閉鎖されているアルミニウム溶湯室と、
前記アルミニウム溶湯室内に保持されているアルミニウム溶湯内に浸漬され、ガス燃焼バーナーからの燃焼炎が吹き込まれる耐熱性チューブからなるガスバーナー式浸漬型ヒーターとを備えていて、
前記耐熱性チューブからの排気が、前記アルミニウム溶湯室内に保持されているアルミニウム溶湯の液面に対向する耐熱隔壁を備えている排気通路を介して前記アルミニウム溶湯室の外部へ排気されていく
ことを特徴とするガスバーナー式アルミニウム溶解保持炉。
【請求項2】
前記耐熱隔壁によって前記アルミニウム溶湯室の内部空間と隔離されていて、前記アルミニウム溶湯室に配備されている排気筒に連続する加熱室が前記排気通路によって形成されることを特徴とする請求項1記載のガスバーナー式アルミニウム溶解保持炉。
【請求項3】
前記アルミニウム溶湯室内の前記アルミニウム溶湯が、前記アルミニウム溶湯内に浸漬されている前記ガスバーナー式浸漬型ヒーターの前記耐熱性チューブを介して間接加熱されると共に、
前記アルミニウム溶湯室内の前記アルミニウム溶湯の液面が、対向している前記耐熱隔壁からの輻射熱で輻射加熱される
ことを特徴とする請求項1又は2記載のガスバーナー式アルミニウム溶解保持炉。
【請求項4】
前記耐熱性チューブ及び、前記耐熱隔壁は、それぞれ、耐火物をセラミック繊維で強化して一体成形した繊維強化耐火物成形品である
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項記載のガスバーナー式アルミニウム溶解保持炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−19604(P2013−19604A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153591(P2011−153591)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(591140824)有明セラコ株式会社 (14)
【Fターム(参考)】