説明

ガスレーザ発振装置の制御方法およびガスレーザ発振装置およびレーザ加工装置

【課題】放電励起するための電極の表面に経年的に酸化膜が生成されても安定した放電励起ができる信頼性の高いガスレーザ発振装置およびレーザ加工装置の継続使用を可能とする。
【解決手段】レーザ出力の開始時に、放電電流目標値設定器は、無放電状態から放電するまでに要する放電開始電圧Vaへ上昇するに至るまでの予め設定された立ち上がり時間taの間、放電電流の目標値を設定して高電圧電源より電圧を出力し、その後、放電を維持するための放電維持電圧Vbまで低下するに至るまでの予め設定された立下り時間tbの間、放電電流の目標値をゼロと設定して高電圧電源の電圧の出力を停止し、その後、放電電流目標値設定器は放電電流の目標値を設定して高電圧電源からの電圧出力を再開して、放電電流を所望のレーザ出力に対応した値になるように放電電流をフィードバック制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザ媒質にガスを用いたレーザ発振装置の制御方法およびレーザ発振装置およびレーザ加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、レーザ発振装置およびレーザ加工装置は加工対象物を非接触でかつ熱影響が少なく加工できるという特徴から多様な材質や形状の切断や溶接等に多用されている。
【0003】
従来、図2に示すような放電電流フィードバック機能を有するレーザ発振装置が用いられていた。以下、図2を参照しながら説明する。
【0004】
レーザ媒質ガスを内部に有する放電管1はガラスなどの誘電体からなり、レーザ触媒ガスを放電励起するために銅などの金属を使用した電極3を介して高電圧電源4より適宜可変した電圧を印加する。
【0005】
放電管1内のレーザ媒質ガスへの電圧印加によって発生した放電電流はホール効果を利用した電流−電圧変換器などを用いた放電電流検出器5により検出される。
【0006】
所望のレーザ出力に対応した放電電流となるように放電電流目標値を一般的には可変の定電圧回路によりなる放電電流目標値設定器6で設定し、放電電流検出器5からの信号と、放電電流目標値設定器6からの信号の差分を演算し制御系の応答性に応じて増幅するオペアンプなどからなる差動増幅器7で偏差信号として取り出す。
【0007】
差動増幅器7からの偏差信号と、放電電流目標値設定器6からの放電電流目標値を加算するオペアンプなどからなる加算器8よりの信号を、高電圧電源4に与え、放電電流を所望のレーザ出力に対応した値になるように、レーザ媒質に印加する電圧を可変し放電電流をフィードバック制御する機能を有している。
【0008】
この放電電流のフィードバック制御における放電電流目標値設定器6からの信号と、高電圧電源4の出力電圧と、放電電流の関係について図3(a)を参照しながら説明する。
【0009】
放電電流目標値設定器6から所望のレーザ出力に対応した放電電流目標値が信号として出力される。最初は放電していないため放電電流は流れておらず、放電電流検出器5からの信号はゼロであり、差動増幅器7からの信号は大となり加算器8へ入力される。
【0010】
その結果、高電圧電源4の出力電圧は上昇を加速する。その後高電圧電源4の出力電圧が放電管1内で放電を開始するに必要な電圧であるところの放電開始電圧Vaに至ると電極3間で放電が発生し放電電流が流れ始め、放電管1内のインピーダンスは負性であるため高電圧電源4の出力電圧は放電を維持するに必要な電圧であるところの維持電圧Vbまで低下する。放電電流は放電電流検出器5によって信号変換され差動増幅器7と加算器8を経て放電電流目標設定器6の信号に重畳され放電電流はフィードバック制御により放電電流の目標値へ整定され、所望のレーザ出力を得る(例えば、特許文献1参照)。
【0011】
図4は従来のレーザ加工装置の概略構成の一例を示している。以下、図4を参照しながら従来のレーザ加工装置を説明する。
【0012】
この図4において、レーザービーム9は、反射鏡15にて反射され、ワーク16近傍へ導かれる。レーザービーム9は、トーチ17内部に備えられた集光レンズ18によって高密度のエネルギビームに集光され、ワーク16に照射され、加工が行われる。ワーク16は加工テーブル19上に固定されており、X軸モータ20あるいはY軸モータ21によって、トーチ17はワーク16に対して相対的に移動する事で、所定の形状の加工が行われる。
【0013】
このようなレーザ加工装置では、加工品質を向上させるため所望のレーザ出力を安定して取り出せる放電電流のフィードバック制御機能を有したレーザ発振装置が一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2004−25204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、従来のレーザ加工装置の構成であると、放電励起するための銅などの金属からなる電極の表面には経年的に酸化膜が生成される。酸化膜の生成は放電による温度の上昇と雰囲気の酸素およびオゾン濃度の上昇によって促進される。放電により酸化膜は都度局部的に絶縁破壊されているが、放電していない期間が継続すると電極表面全体を酸化膜が覆い電気絶縁材として放電を妨げる。
【0016】
この様な場合において、上記従来のガスレーザ発振装置の制御方法やガスレーザ装置、およびレーザ加工装置の、放電電流目標値設定器からの信号と、高電圧電源の出力電圧と、放電電流の関係について図3(b)を参照しながら説明する。
【0017】
放電電流目標値設定器から所望のレーザ出力に対応した放電電流目標値が信号として出力される。最初は放電していないため放電電流は流れておらず、放電電流検出器からの信号はゼロであり、差動増幅器からの信号は大となり加算器へ入力される。その結果、高電圧電源の出力電圧は上昇を加速する。その後高電圧電源の出力電圧が放電管内で放電を開始するに必要な電圧であるところの放電開始電圧Vaに至っても電極表面の酸化膜の電気絶縁により放電せず、高電圧電源の出力電圧は更に上昇する。
【0018】
この様な場合には、一般的には高電圧電源の過電圧保護機能などにより出力電圧がある値以上になった場合にアラーム停止とするため、ガスレーザ発振装置およびレーザ加工装置の継続使用を阻害するという課題を有していた。
【0019】
本発明は、安定して継続使用ができる信頼性の高いガスレーザ発振装置およびレーザ加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、上記問題点を解決するために、レーザ媒質ガスを内部に有する放電管と、前記レーザ媒質ガスを放電励起するために電極を介して電圧を可変し印加する高電圧電源と、レーザ媒質ガスからのレーザ光を共振させてレーザ出力を得る光共振器と、前記放電管内のレーザ媒質への電圧印加によって発生した放電電流を検出する放電電流検出器と、放電電流の目標値を設定する放電電流目標値設定器と、前記放電電流検出器からの信号と、前記放電電流目標値設定器からの信号の差分を増幅する差動増幅器と、前記差動増幅器からの信号と、前記放電電流目標値設定器からの信号を加算する加算器とを備え、前記高電圧電源に前記加算器からの信号を入力し、放電電流を所望のレーザ出力に対応した値になるように、レーザ媒質に印加する電圧を可変しフィードバック制御するガスレーザ発振装置を用い、レーザ出力の開始時に、前記放電電流目標値設定器は、前記高電圧電源の回路定数およびレーザ媒質ガスに依存する無放電状態から放電するまでに要する放電開始電圧Vaへ上昇するに至るまでの予め設定された立ち上がり時間taの間、放電電流の目標値を設定して前記高電圧電源より電圧を出力し、その後、前記高電圧電源の回路定数およびレーザ媒質ガスに依存する放電を維持するための放電維持電圧Vbまで低下するに至るまでの予め設定された立下り時間tbの間、放電電流の目標値をゼロと設定して前記高電圧電源の電圧の出力を停止し、その後、放電電流目標値設定器は放電電流の目標値を設定して前記高電圧電源からの電圧出力を再開して、放電電流を所望のレーザ出力に対応した値になるように放電電流をフィードバック制御するガスレーザ発振装置の制御方法である。
また、上記のガスレーザ発振装置の制御方法を使用したガスレーザ発振装置、またそのガスレーザ発振装置を設けたレーザ加工装置である。
【発明の効果】
【0021】
以上の構成により、本発明は、放電励起するための電極の表面に経年的に酸化膜が生成されても安定した放電励起ができるため、ガスレーザ発振装置およびレーザ加工装置の継続使用ができ、信頼性の高い装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態におけるレーザ発振装置の制御方法による放電電流目標値設定器からの信号、高電圧電源の出力電圧、および放電電流の関係を示す波形図
【図2】従来のレーザ発振装置のブロック図
【図3】従来のレーザ発振装置の制御方法による放電電流目標値設定器からの信号、高電圧電源の出力電圧、および放電電流の関係を示す波形図
【図4】従来のレーザ加工装置の構成図
【発明を実施するための形態】
【0023】
(実施の形態)
以下に本発明の実施の形態におけるレーザ発振装置の制御方法について図面によって説明する。図1は本発明の実施の形態におけるレーザ発振装置の放電電流のフィードバック制御を説明するための波形図である。
【0024】
制御回路構成は前述の技術背景で述べた図2に示す制御回路構成と同じであるので、その構成詳細と基本的な動作の説明は省略し、本発明のポイントである放電電流のフィードバック制御による放電電流目標値設定器6からの信号、高電圧電源4の出力電圧、および放電電流の関係について図1(a)および図1(b)を参照しながら説明する。
【0025】
図1(a)では電極3の酸化膜が放電に影響を与えない状態の場合を示している。以下、図1(a)を参照しながら詳細に説明する。
【0026】
レーザ出力の開始時に、放電電流目標値設定器6から所望のレーザ出力に対応した放電電流目標値が信号として立ち上がり時間taの間だけ出力する。
【0027】
放電電流のフィードバック制御経路であるところの高電圧電源4の回路常数および、放電管1内のレーザ媒質ガスの組成や圧力などによる放電回路定数および、レーザ媒質ガスの組成や圧力などによる放電管1内で放電を開始するに必要な電圧であるところの放電開始電圧Vaにより、立ち上がり時間taは一定値として決定されるため、予め算出や測定により導き設定することが可能である。
【0028】
その後、立下り時間tbの間、放電電流目標値設定器6の信号をゼロと設定して高電圧電源4の電圧の出力を停止する。
【0029】
高電圧電源4の回路定数およびレーザ媒質ガスの組成や圧力などによる放電回路定数および、レーザ媒質ガスの組成や圧力などによる放電を維持するための放電維持電圧Vbにより、立下り時間tbは一定値として決定されるため、予め算出や測定により導き設定することが可能である。
【0030】
その後、放電電流目標値設定器6は放電電流の目標値を設定して高電圧電源4からの電圧出力を再開して、放電電流を所望のレーザ出力に対応した値になるように放電電流をフィードバック制御する。
【0031】
この動作によれば、立下り時間tbの間、放電電流目標値設定器6の信号をゼロと設定して高電圧電源4の電圧の出力を停止しても、放電管1内の放電は維持継続されているため、技術背景で説明した従来例の図3(a)と同じ放電電流のフィードバック制御が可能である。
【0032】
図1(b)では電極3表面全体を酸化膜が覆い電気絶縁材として放電を妨げる場合での放電電流目標値設定器6からの信号と、高電圧電源4の出力電圧と、放電電流の関係を示している。以下、図1(b)を参照しながら詳細に説明する。
【0033】
放電電流目標値設定器6の信号の出力方法は図1(a)を参照に説明した出力方法と同じである。しかしながら、電極3表面の酸化膜が放電を妨げているため立ち上がり時間taを経過した後、高電圧電源4の出力電圧が放電開始電圧Vaに到達しても放電せず放電電流は流れない。
【0034】
その後、立ち下がり時間tbの間は強制的に高電圧電源4の出力を停止するため、従来の様に高電圧電源4の過電圧保護機能などよりアラーム停止するという状態には至らない。
【0035】
その後、放電電流目標値設定器6は放電電流の目標値を設定して高電圧電源4からの電圧出力を再開するが、電極3には直前に高電圧が印加されているため酸化膜は脆くなっており、再度の高電圧印加によってついには酸化膜が一部破壊され放電が開始され放電電流のフィードバック制御は安定して実施されるためガスレーザ発振装置の継続使用ができ、信頼性の高い装置を得ることができる。
【0036】
次にレーザ加工装置について説明する。
【0037】
従来の技術で図4を用いて説明したが、ワーク16を乗せる加工テーブル19と、加工テーブル19の移動とレーザ加工トーチ17の少なくとも一方を移動するX軸モータ20やY軸モータ21などの駆動手段と、この駆動手段を制御する数値制御装置(図示せず)と、レーザービーム9を、集光レンズ18を通過させてレーザを発生するレーザ加工装置に、上述した実施の形態におけるレーザ発振装置の制御方法およびその制御方法を用いたレーザ発信装置を構成とすることにより、レーザ加工装置の継続使用ができ、信頼性の高い装置を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、放電励起するための電極の表面に経年的に酸化膜が生成されても安定した放電励起ができるため、ガスレーザ発振装置およびレーザ加工装置の継続使用ができ、信頼性の高い装置を提供できる。
【符号の説明】
【0039】
1 レーザ媒質ガスを内部に有する放電管
2 光共振器
3 電極
4 高電圧電源
5 放電電流検出器
6 放電電流目標値設定器
7 差動増幅器
8 加算器
9 レーザービーム
15 反射鏡
16 ワーク
17 トーチ
18 集光レンズ
19 加工テーブル
20 X軸モータ
21 Y軸モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ媒質ガスを内部に有する放電管と、前記レーザ媒質ガスを放電励起するために電極を介して電圧を可変し印加する高電圧電源と、前記レーザ媒質ガスからのレーザ光を共振させてレーザ出力を得る光共振器と、前記放電管内の前記レーザ媒質ガスへの電圧印加によって発生した放電電流を検出する放電電流検出器と、前記放電電流の目標値を設定する放電電流目標値設定器と、前記放電電流検出器からの信号と、前記放電電流目標値設定器からの信号の差分を増幅する差動増幅器と、前記差動増幅器からの信号と、前記放電電流目標値設定器からの信号を加算する加算器とを備え、前記高電圧電源に前記加算器からの信号を入力し、前記放電電流を所望のレーザ出力に対応した値になるように、前記レーザ媒質ガスに印加する電圧を可変しフィードバック制御するガスレーザ発振装置を用い、レーザ出力の開始時に、前記放電電流目標値設定器は、前記高電圧電源の回路定数および前記レーザ媒質ガスに依存する無放電状態から放電するまでに要する放電開始電圧へ上昇するに至るまでの予め設定された立ち上がり時間の間、放電電流の目標値を設定して前記高電圧電源より電圧を出力し、その後、前記高電圧電源の回路定数および前記レーザ媒質ガスに依存する放電を維持するための放電維持電圧まで低下するに至るまでの予め設定された立下り時間の間、放電電流の目標値をゼロと設定して前記高電圧電源の電圧の出力を停止し、その後、前記放電電流目標値設定器は放電電流の目標値を設定して前記高電圧電源からの電圧出力を再開して、放電電流を所望のレーザ出力に対応した値になるように放電電流をフィードバック制御するガスレーザ発振装置の制御方法。
【請求項2】
請求項1記載のガスレーザ発振装置の制御方法を使用したガスレーザ発振装置。
【請求項3】
加工ワークを乗せる加工テーブルと、前記加工テーブルの移動とレーザ加工トーチの少なくとも一方を移動する駆動手段と、前記駆動手段を制御する数値制御装置と、レーザ光を発生する請求項2に記載のガスレーザ発振装置とを備えたレーザ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−129727(P2011−129727A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287124(P2009−287124)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】