説明

ガス分析方法およびガス分析装置

本発明は、少なくとも1つのガス量と、該ガス量を測定するガスセンサ装置の少なくとも1つのシステム量とを求める、ガス分析方法に関する。本発明によれば、ガス量が少なくとも2回測定され、ここで、該少なくとも2回の測定が前記ガスセンサ装置のパラメータごとに異なる値を設定することにより区別され、前記少なくとも2回の測定に基づいて前記少なくとも1つのシステム量と前記少なくとも1つのガス量とが求められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
従来技術
こんにち、分光センサの主たる適用分野はガス測定技術の分野である。こうした分光センサの動作原理はランベルト−ベールの吸収則に基づいている。ガスはその分子振動が励起されることによって所定の波長領域の赤外光を吸収するが、このとき、光子と分子との相互作用の回数によって吸光度が定まる。このため、測定された強度から直接に吸収路における分子数が結論されるのである。
【0002】
赤外光源および赤外光検出器として種々の素子が用いられる。例えばガスの吸収帯域が際立つ中赤外領域では、赤外光源として白熱灯(グローランプ)などの熱光源やマイクロエレクトロメカニカルデバイスMEMSが用いられる。相応の検出器としては、ボロメータ、パイロ検出器、サーモパイルなどが知られている。
【0003】
駆動中、光源は種々のドリフト効果を受ける。例えばガス分析装置に唯一の検出器しか存在せずこれのみで光強度を測定する場合、ドリフト効果によって分子数の計算に誤差が直接に生じる。こうした誤差を低減するために、目下のところ、次の2つの手法が知られている。
【0004】
1)付加的な検出器を基準として用いるコンセプト
基準光路に配置された第2の赤外光検出器により、所定の雰囲気窓における赤外光源の光強度を測定する。当該の波長領域では吸収効果の影響なく光源の瞬時光強度を検出することができる。ランベルト−ベールの吸収則ではガス濃度と赤外光強度とのあいだに乗法関係が成り立つので、吸光度の測定と基準値の測定とから商を形成することにより赤外光源のドリフト効果を最小化することができる。
【0005】
2)付加的な赤外光源を基準として用いるコンセプト
前項のコンセプトとは異なり、第2の赤外光源を基準光源として用い、高温状態での振動によって機械的な損傷を引き起こすおそれのある熱光源での強度偏差を補償する。システム的に見れば、当該のコンセプトでは、第1の赤外光源は持続的にガス濃度の測定に利用される。第2の光源(基準光源)として用いられる赤外光源は長い間隔を置いて短時間ずつスイッチオンされ、測定された濃度値が目標値に対して正規化される。これは、基準光源がつねに正確な出力信号を出力することを前提としている。
【0006】
発明の開示
本発明は、少なくとも1つのガス量と、該ガス量を測定するガスセンサ装置の少なくとも1つのシステム量とを求める、ガス分析方法に関する。本発明によれば、ガス量が少なくとも2回測定され、ここで、該少なくとも2回の測定が前記ガスセンサ装置のパラメータごとに異なる値を設定することにより区別され、前記少なくとも2回の測定に基づいて前記少なくとも1つのシステム量と前記少なくとも1つのガス量とが求められる。
【0007】
本発明によれば、ガス量の測定と同時にシステム量も検出され、これらのデータによってシステムのキャリブレーションが行われる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】従来のガス分析装置を示す図である。
【図2】非特異型および非選択型のIRフィルタ伝送特性を表すグラフである。
【図3】特異型および選択型のIRフィルタ伝送特性を表すグラフである。
【図4】定電流動作においてフィラメントが薄くなった場合の光強度特性を表すグラフである。
【図5】光路が汚れた場合の光強度特性を表すグラフである。
【図6】本発明の方法のフローチャートである。
【0009】
本発明の有利な実施形態によれば、システム量はガスセンサ装置に属する光源の温度である。当該のシステム量はきわめて簡単に調整可能である。
【0010】
本発明の有利な別の実施形態によれば、ガス量はガス濃度である。
【0011】
本発明の有利な別の実施形態によれば、システム量は光源の経年劣化を表す量または残り耐用期間を表す量である。
【0012】
本発明の有利な別の実施形態によれば、システム量はガスセンサ装置の汚れを表す量である。
【0013】
本発明の有利な別の実施形態によれば、ガスセンサ装置は分光ガスセンサ装置である。
【0014】
本発明の有利な別の実施形態によれば、少なくとも2回の測定によって、ガス量およびシステム量を表す未知数を含む線形の1次方程式が測定回数に相応する個数だけ形成され、この1次方程式の解を得ることによってガス量およびシステム量が求められる。1次方程式の解は公知の標準的な数学プロセスによって簡単に得られる。また、1次方程式の解を得るためにパターン識別アルゴリズムを用いてもよい。
【0015】
また、本発明は、本発明は、少なくとも1つのガス量と、該ガス量を測定するガスセンサ装置の少なくとも1つのシステム量とを求める、ガス分析装置に関する。本発明のガス分析装置は、ガス量を少なくとも2回測定し、ここで、該少なくとも2回の測定が前記ガスセンサ装置のパラメータごとに異なる値を設定することにより区別する手段と、前記少なくとも2回の測定に基づいて前記少なくとも1つのシステム量と前記少なくとも1つのガス量とを求める手段とを有する。
【0016】
本発明の有利な実施形態によれば、ガスセンサ装置は、光源、光吸収区間および光検出器から成る分光ガスセンサ装置である。
【0017】
本発明の課題は、検出器や赤外光源などの付加的なハードウェア部品を組み込まずにセンサ装置の偏差を補正できるようにすることである。本発明は特に分光センサに関する。熱光源の場合、異なる温度での2回の測定によって、センサ装置の状態についての付加的な線形関係の情報が得られ、当該の情報に基づいて偏差を補正することができる。有利には、小さな時間差で異なる光源温度での2回の測定を行えるよう制御ソフトウェアを適合化するだけで充分であり、基準光路などの付加的なハードウェア部品を省略できる。また、本発明によれば、センサ装置の状態を連続的に監視することができる。これにより、センサ装置の自己キャリブレーションが可能となり、主な要素の残り耐用期間の検査(エンドオブライフ計算)が実現される。
【0018】
この装置は図1に示されているような従来の光学センサ装置を基礎としている。図1の光学センサ装置は光源(ビーム発生器)1,光吸収路4,1つまたは複数の波長選択素子2およびその後方に配置された検出器3を有する。特に、波長選択素子2として、図3の吸収曲線5dに示されているような選択型でありかつ図2の吸収曲線5a〜5cに示されているような非特異型である透過フィルタが用いられる。このために、図2,図3では、横軸の周波数と縦軸の透過特性との関係が示されている。
【0019】
ガスセンサにおいて混合気の1つまたは複数のガスの濃度を計算するには、吸収曲線ごとに相互に線形関係を有さない測定点が存在しなければならない。最も簡単なケースでは、図3に示されているように、当該の計算は唯一の測定点によって行われる。図2に示されている2光路のシステムでは、相互に線形関係を有さない2つの動作点が用いられる。これは例えば熱光源のフィラメント温度を変更することにより達成される。2つの検出器(光路ごとに1つずつの検出器)がそれぞれ異なる2つの温度を測定することにより、相互に線形関係を有さない全部で4つの測定点が形成される。吸収曲線5a〜5cに対応する3つのガスの濃度を3つの未知数として、相応の1次方程式が定められる。線形関係を有さない付加的な情報もシステム量の監視に用いられる。
【0020】
分析的に見ると、線形関係を有さない付加的な測定値についてガス濃度が既知となっていれば、検出器の電圧を光源の光強度に対応づけることができる。システムを連続的に監視すれば、特徴的な偏差特性を識別して対抗措置を導入することができる。ここでの対抗措置として誤差の警告または測定値の補正が挙げられる。
【0021】
図3の簡単なケースにおいても、第2の動作点での測定により、線形関係を有さない付加的なシステム関連情報が得られ、これを自己キャリブレーションに利用することができる。これにより付加的な基準光路を省略することができる。
【0022】
特に次の2つの特徴的な欠陥を識別することができる。
【0023】
1)光源の欠陥
オームの法則にしたがって、フィラメントが細くなるにつれて定電流動作でのフィラメントの光強度が増大することが予測される。診断機能部から図4の特性が得られる。ここでは横軸に時間tが示されており、縦軸に光強度Iが示されている。駆動時間tが経過するにつれて光強度Iも高まっている。
【0024】
2)光路の汚れ
例えばフィルタまたは反射素子に汚れが付着した場合、測定される光強度の低下が予測される。図5には時間の経過につれて光路の汚れが増大する場合の光強度の特性が示されている。ここでも横軸に時間tが示されており、縦軸に検出器で検出された光強度Iが示されている。
【0025】
当該の特性から、種々のタイプの欠陥を識別し、残りの耐用期間を計算することができる。こうして例えば白熱灯の残り耐用期間を正確に知ることができる。データの評価は、測定データを適合化する分析プロセス、回帰プロセスまたはニューラルネットを用いたプロセスによって行われる。
【0026】
本発明の方法のフローが図6に示されている。ステップ600での方法の開始後、ステップ601でガス量が少なくとも2回測定される。このとき、少なくとも2回の測定はガスセンサ装置のパラメータごとに異なる2つの値を設定することによって区別される。続いて、ステップ602において、少なくとも2回の測定に基づき、少なくとも1つのシステム量および少なくとも1つのガス量が求められる。ステップ603で本発明の方法は終了する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのガス量と、該ガス量を測定するガスセンサ装置の少なくとも1つのシステム量とを求める、
ガス分析方法において、
ガス量を少なくとも2回測定し(600)、ここで、該少なくとも2回の測定を前記ガスセンサ装置のパラメータごとに異なる値を設定することにより区別し、
前記少なくとも2回の測定に基づいて前記少なくとも1つのシステム量と前記少なくとも1つのガス量とを求める(601)
ことを特徴とするガス分析方法。
【請求項2】
前記システム量は前記ガスセンサ装置に属する光源(1)の温度である、請求項1記載のガス分析方法。
【請求項3】
前記ガス量はガス濃度である、請求項1記載のガス分析方法。
【請求項4】
前記システム量は前記光源の経年劣化を表す量または残り耐用期間を表す量である、請求項2記載のガス分析方法。
【請求項5】
前記システム量は前記ガスセンサ装置の汚れを表す量である、請求項1記載のガス分析方法。
【請求項6】
前記ガスセンサ装置は分光ガスセンサ装置である、請求項1記載のガス分析方法。
【請求項7】
前記少なくとも2回の測定によって、前記ガス量および前記システム量を未知数として含む1次方程式を測定回数に相応する個数だけ形成し、該1次方程式の解を得ることによって前記ガス量および前記システム量を求める、請求項1記載のガス分析方法。
【請求項8】
パターン識別アルゴリズムを用いて前記方程式の解を得る、請求項7記載のガス分析方法。
【請求項9】
少なくとも1つのガス量と、該ガス量を測定するガスセンサ装置の少なくとも1つのシステム量とを求める、
ガス分析装置において、
ガス量を少なくとも2回測定し、ここで、該少なくとも2回の測定を前記ガスセンサ装置のパラメータごとに異なる値を設定することにより区別する手段と、
前記少なくとも2回の測定に基づいて前記少なくとも1つのシステム量と前記少なくとも1つのガス量とを求める手段と
を有する
ことを特徴とするガス分析装置。
【請求項10】
前記ガスセンサ装置は、光源(1)、光吸収区間(4)および光検出器(3)から成る分光ガスセンサ装置である、請求項8記載のガス分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−528274(P2010−528274A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−508794(P2010−508794)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【国際出願番号】PCT/EP2008/055768
【国際公開番号】WO2008/141956
【国際公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】