説明

ガス分離回収装置及びガス分離回収方法

【課題】装置の小型化を図りつつ、混合ガス中の窒素酸化物を好適に分離回収する。
【解決手段】少なくとも窒素酸化物を含む混合ガスから窒素酸化物を分離し回収するガス分離回収装置20において、窒素酸化物を吸収する吸収液体を貯蔵する貯蔵手段(タンク21)と、貯蔵手段により貯蔵された吸収液体を混合ガスに接触させる気液接触手段(気液接触器24)と、気液接触手段により混合ガスに接触させた後の吸収液体を回収する液体回収手段(回収配管25、回収器26)とを備える構成とし、吸収液体として、窒素酸化物を化学吸収するイオン液体を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分離回収装置及びガス分離回収方法に関し、詳しくは、車載エンジン等の排気中に含まれる窒素酸化物を分離回収するガス分離回収装置及びガス分離回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、化学プラントや自動車などから排出される排気中の窒素酸化物(NOx)を分離回収する装置が種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、NOxなどの分離回収の対象となる物質を吸収可能な液体を浄化装置内に貯蔵しておき、この浄化装置内にエンジンの排気を導入して液体を撹拌することにより、排気中からNOx等を除去することが開示されている。また、同文献1には、液体を冷却する冷却装置を設け、排気高温時においても液体の蒸発が抑制されるようにしている。なお、NOxを吸収可能な液体としては、例えば水やアルカリ水溶液などが一般に使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−334259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、水やアルカリ水溶液などのような蒸発しやすい液体にNOxを吸収させる場合、上記特許文献1のように、液体の蒸発を抑制するための冷却装置などの付帯設備が必要になり、装置が大型化することが懸念される。また、水やアルカリ水溶液ではNOxの吸収密度がさほど高くなく、例えば車両などの移動発生源に適用する場合に、多量の液体を貯蔵可能な大型の装置を搭載する必要が生じたり、あるいは液体の供給を頻繁に行う必要が生じたりする等、実用化の妨げになることも考えられる。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、装置の小型化を図ることができ、しかも混合ガス中のNOxを好適に分離回収することができるガス分離回収装置及びガス分離回収方法を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記のような従来技術の課題を解決すべく鋭意検討した結果、イオン液体による化学吸収を利用してNOxの分離回収を行うことで上記課題を解決可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明により以下のガス分離回収装置及びガス分離回収方法が提供される。
【0007】
請求項1に記載の発明は、少なくとも窒素酸化物を含む混合ガスから窒素酸化物を分離し回収するガス分離回収装置であって、窒素酸化物を吸収する吸収液体を貯蔵する貯蔵手段と、前記貯蔵手段により貯蔵された吸収液体を前記混合ガスに接触させる気液接触手段と、前記気液接触手段により前記混合ガスに接触させた後の吸収液体を回収する液体回収手段と、を備え、前記吸収液体として、窒素酸化物を化学吸収するイオン液体を用いることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、窒素酸化物(NOx)を吸収するNOx吸収液体としてイオン液体を用いるため、高温環境下においてもNOx吸収液体がほとんど蒸発せず、例えば液体を冷却するための冷却装置などの付帯設備を設けなくても、NOxの分離回収を好適に行うことができる。また、イオン液体は単位量あたりのNOx吸収量が多く(吸収密度が高く)、NOx吸収能も優れている。
【0009】
さらに、ガス吸収の態様としては、化学吸収の他に物理吸収があるが、物理吸収の場合では、イオン液体に吸収されたNOxが抜けやすいため、混合ガスとイオン液体との接触後においてイオン液体が多量のNOxを吸収した状態を維持するには、接触後のイオン液体を高圧状態にしておく必要がある。これに対し、上記構成では、化学吸収を利用するものであることから、イオン液体がNOxを多量に吸収した状態を常圧でも安定に維持することができ、加圧のための装置を設けなくて済む。以上より、本発明によれば、装置の小型化を図りつつ、混合ガス中のNOxを好適に分離回収することができる。
【0010】
上記のイオン液体としては、アニオンとして−COOを有するイオン液体、つまりカルボン酸塩を用いるのが好ましい(請求項2)。また、カルボン酸塩のアニオンとしては、C2n+1COO(但し、nは0〜10の整数である。)で表されるアルキルカルボン酸イオン及びその誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい(請求項3)。
【0011】
本発明者らが検討したところ、カルボン酸塩からなるイオン液体は、水や、CO吸収能に優れたイオン液体(例えば1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド([BMIM][TfN])など)に比べて単位量あたりのNOx吸収量が多く(吸収密度が高く)、NOx吸収液体として好適に使用することができる。また、本発明者らは、カルボン酸塩からなるイオン液体では、COの吸収密度よりもNOxの吸収密度の方が高いという知見を得た。このことから、イオン液体としてカルボン酸塩を用いることにより、特にCOとNOxとを含む混合ガスにおいてNOx吸収を効率よく行うことができる。
【0012】
また、請求項4に記載の発明のように、前記液体回収手段により回収したイオン液体を再生する再生手段を備える構成とするとよい。例えば、従来のように水やアルカリ水溶液(例えばNaOH水溶液やNH水溶液)でNOx吸収を行う場合、NOxは硝酸として水に吸収され、回収後の水等を再びNOx吸収液体に戻して利用することが困難である。これに対し、NOxを化学吸収可能なイオン液体であれば、例えばイオン交換処理や熱処理、電気化学処理などを用いることにより、イオン液体の再生を容易に行うことができ、NOx吸収液体を繰り返し使用することができる。
【0013】
本発明のガス分離回収装置は、請求項5に記載の発明のように、車両に搭載されたエンジンの排気を浄化する排気浄化システムに適用するとよく、その場合、前記気液接触手段について、前記吸収液体を前記排気に接触させる構成とし、前記液体回収手段について、前記気液接触手段により前記排気を接触させた後の吸収液体を回収する構成とするとよい。
【0014】
車両などの移動発生源では、水やアルカリ水溶液のようにNOxの吸収密度がさほど高くない液体をNOx吸収液体として用いた場合、多量の液体を搭載しておくか、あるいは液体の交換を頻繁に行わなければならないといった不都合が生じることが考えられる。また、水やアルカリ水溶液は揮発性が高く、車両のユーザに対して液体の補充を頻繁に要求する必要も生じてしまう。その点、NOx吸収液体として上記のイオン液体を用いることにより、搭載する液体の量を少なくすることができるとともに、再生処理によって再利用することにより、液体の交換や補充の頻度を少なくすることができる。
【0015】
さらに、車載エンジンから排出される排気中のNOx浄化システムとしては、従来、例えばNOx吸蔵還元型触媒や、尿素選択還元型触媒が用いられている。しかしながら、これらの装置では、エンジン始動時や軽負荷運転時において排気温度が低いため、触媒の浄化性能を十分に発揮することができず、排気中のNOxを適切に浄化することができないことが懸念される。これに対し、上記イオン液体では、幅広い温度範囲でNOxを効率よく吸収することができるため、排気温度の影響を受けずに排気中のNOxを適切に浄化することができる。
【0016】
請求項6に記載の発明は、少なくとも窒素酸化物を含む混合ガスから窒素酸化物を分離し回収するガス分離回収方法に関するものであり、窒素酸化物を化学吸収するイオン液体を前記混合ガスに接触させる気液接触工程と、前記気液接触工程で、前記混合ガスに接触させた後のイオン液体を回収する液体回収工程と、を含むことを特徴とする。
【0017】
本発明では、NOxを化学吸収可能なイオン液体を用いて混合ガス中のNOxを分離回収するため、上記発明と同様の効果、つまり、装置の小型化を図りつつ、混合ガス中のNOxを好適に分離回収することができるといった効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】エンジンの排気浄化システムの概略構成図。
【図2】NOx吸収性能を評価する際に使用した評価装置の概略構成図。
【図3】実施例1のNOx吸収能の評価結果を示す図。
【図4】実施例2のNOx吸収能の評価結果を示す図。
【図5】比較例1のNOx吸収能の評価結果を示す図。
【図6】比較例2のNOx吸収能の評価結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を具体化したガス分離回収装置の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。本実施形態のガス分離回収装置は、自動車に搭載されたディーゼルエンジンから排出される排気中のNOxを浄化するものであり、エンジンの排気浄化システムとして構築されている。はじめに、図1を参照してこのシステムの構成について説明する。
【0020】
図1のエンジン排気系において、エンジン本体に接続され排気通路を形成する排気管11が設けられており、その排気管11に、排気中のNOxを分離回収するNOx分離回収装置20が配設されている。なお、排気にはCOやNOx等が含まれており、該排気が混合ガスに相当する。
【0021】
NOx分離回収装置20はタンク21を備えており、タンク21内において、NOxを吸収する液体であるNOx吸収液体が貯留されている。タンク21は、供給配管22を介して気液接触器24に接続されている。供給配管22の途中には循環ポンプ23が配置されており、循環ポンプ23が駆動されることで、タンク21内に貯留されたNOx吸収液体が気液接触器24に供給されるようになっている。
【0022】
気液接触器24は、排気管11に配置されており、排気管11内を流れる排気をその内部に導入して排気とNOx吸収液体とを接触させる機能を有する。NOx吸収液体と排気とを接触させる構成としては特に限定せず、例えば、気液接触器24内にNOx吸収液体を貯留するケースを設け、そのケース内に溜めたNOx吸収液体に対し、撹拌やバブリング等の方法を用いて排気を接触させる構成が挙げられる。あるいは、気液接触器24内にNOx吸収液体を保持する保持体を配置し、その保持体にNOx吸収液体を供給するとともに該保持体に排気を供給することで、NOx吸収液体と排気とを接触させる構成、NOx吸収液体を排気に直接噴霧する構成などが挙げられる。なお、気液接触器24にて排気とNOx吸収液体とを接触させる工程が「気液接触工程」に相当する。
【0023】
気液接触器24は、回収配管25を介して回収器26に接続されている。これにより、気液接触器24から排出されるNOx吸収液体が回収器26に回収されるようになっている。なお、液体の回収は、例えば回収配管25にポンプを設け、該ポンプを駆動することにより行ってもよいし、あるいはポンプ等によらず重力を利用して行ってもよい。なお、排気と接触後のNOx吸収液体を回収配管25を介して回収器26に回収する工程が「液体回収工程」に相当する。
【0024】
回収器26には、回収後のNOx吸収液体の再生処理を行う再生器27が設けられている。回収器26としては、回収後のNOx吸収液体からNOx成分を分離してNOx吸収液体として再生可能な構成であればよく、例えば化学的処理、熱処理、電気的処理などを利用して回収液体を再生する構成とする。NOxを分離して再生された吸収液体は、配管28を介してタンク21に戻され、再利用される。
【0025】
次に、上記システムで用いるNOx吸収液体について詳細に説明する。本システムでは、NOxを化学吸収可能なイオン液体をNOx吸収液体として用い、該イオン液体によって排気中のNOxを分離回収する。
【0026】
NOxを化学吸収可能なイオン液体(以下、特定イオン液体とも言う。)としては、NOx吸収が、カチオン及びアニオンのいずれにより行われるものであってもよく、具体的には、例えばアミノ基を有するカチオンからなる塩、アミノ酸塩、カルボン酸塩などが挙げられる。
【0027】
ここで、「アミノ基を有するカチオンからなる塩」としては、例えばアルキルアンモニウム、アルキルピリジニウム、アルキルピロリジニウム、アルキルホスホニウム及びアルキルイミダゾリウムなどのアルキル鎖に少なくとも1つ以上のアミノ基が結合されたものを挙げることができる。この場合、アニオンについては特に限定せず、例えばCl、Br、I、PF、BF、p−CH−CSO、CFSO、(CFSO、(NC)、(CFSO、CFCFSO−、(CFCFSON−、(CFCO)N−、(CFSO)N(COCF)−、(CHO)POO、CHSO、CFBF、HSO、COSO、CH(OCHCHOSO、FeCl、(FSO、(FSO)(CFSO)N、(CFSO)(CFCFSO)N、(NC)、(NC)、SCN、(CFPF、(CPFなどの種々のアニオンを適用することができる。
【0028】
アミノ酸塩としては、例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸等の酸性アミノ酸;リシン、アルギニン、ヒスチジン等の塩基性アミノ酸;グリシン、アラニン(α−アラニン、β−アラニン)、フェニルアラニン、アルパラギン、システイン、グルタミン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン等の中性アミノ酸;N−ベンゾイルアラニン、N−アセチルフェニルアラニン、N−アセチルグリシン等のN−アシルアミノ酸;などのアミノ酸に由来する陰イオン(アミノ酸イオン)を有する塩が挙げられる。
【0029】
カルボン酸塩としては、式「R−COO」で表されるアニオン(カルボン酸イオン)を有するものであれば特に限定しない。カルボン酸イオンとしては、上記式中のRが、例えば水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基等のもの及びそれらの誘導体を挙げることができる。
【0030】
上記Rにおけるアルキル基としては、炭素数1〜10が好ましく、この場合のカルボン酸イオンとして具体的には、例えば酢酸イオン(CHCOO)、プロピオン酸イオン(CHCHCOO)、ブタン酸イオン(CH(CHCOO)、オクタン酸イオン(CH(CHCOO)、デカン酸イオン(CH(CHCOO)等が挙げられる。また、上記Rにおけるアルケニル基としては、炭素数2〜10が好ましく、具体的には、例えばCCOO、CCOO、CCOO、C15COO等が挙げられる。上記Rにおけるアリール基としては、炭素数6〜10が好ましく、例えば安息香酸イオン(CCOO)等が挙げられる。
【0031】
上記誘導体としては、上記に例示したカルボン酸イオンのそれぞれにおいて、炭素原子に結合する少なくとも1つの水素原子が、例えばフッ素原子、アミノ基、水酸基、シアノ基、ニトロ基、チオール基、スルホ基、環状ジスルフィド等で置換されたものや、あるいは少なくとも1つのメチレン基が、例えばエーテル基、エステル基、カルボニル基等で置換されたもの等が挙げられる。具体的には、例えばトリフルオロ酢酸イオン、ペンタフルオロプロピオン酸イオン、2−ピロリドン−5−カルボン酸イオン、サリチル酸イオン、α−リポ酸イオン、乳酸イオン、酒石酸イオン、馬尿酸イオン、N−メチル馬尿酸イオン等を挙げることができる。
【0032】
なお、アミノ酸塩やカルボン酸塩を構成するカチオンは特に限定せず、例えば第4級アンモニウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、ホスホニウム、イミダゾリウムなどの種々のカチオンを適用することができる。これらのうち、例えばイミダゾリウムを用いる場合、その具体例としては、例えば1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム、1−アルキル−3−(3−シアノプロピル)イミダゾリウム、1−メトキシエチル−3−メチルイミダゾリウム等が挙げられる。
【0033】
上記の特定イオン液体としては、NOxの吸収密度が、水や他のイオン液体(例えば[BMIM][TfN])よりも高い点や、COの吸収密度よりもNOx(特にNO)の吸収密度が高い点から、特にカルボン酸塩が好ましい。また、カルボン酸塩の中でも、「C2n+1COO(nは0〜10の整数)」で表されるアニオン(アルキルカルボン酸イオン)又はその誘導体からなる塩がより好ましく、アルキルカルボン酸イオンからなる塩が更に好ましい。
【0034】
なお、上記の排気浄化システムにおけるNOx吸収液体としては、上記特定イオン液体として例示したうちの1種のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、NOx吸収液体は、上記特定イオン液体のみを含んでいてもよいし、特定イオン液体以外の液体(例えば、特定イオン液体以外の他のイオン液体)を更に含んでいてもよい。
【0035】
上記に例示した特定イオン液体の吸収対象であるNOxとしては、NO、NO、NO、N、N、Nなど種々の窒素酸化物が挙げられる。これらの中でも、特にNOが好ましい。
【0036】
気液接触器24におけるNOx分離に際しては、上記の特定イオン液体又は特定イオン液体を含む液体と、NOxを含むガスとを接触させる。接触の温度条件や圧力条件は適宜設定すればよいが、例えば−80℃〜300℃以下の温度条件下、0MPaよりも高く50MPa以下の圧力条件下で接触させる。イオン液体は蒸気圧がほとんどなく、液体温度範囲が広いなどの特性を有することから、上記のとおり広い温度範囲かつ広い圧力範囲でNOx吸収を行うことが可能である。
【0037】
気液接触器24で排気に接触させた後のイオン液体を回収する際、その温度条件や圧力条件についても特に限定しない。特に、NOx吸収液体としてNOxを化学吸収可能なイオン液体を用いることで、排気との接触後のイオン液体を高圧状態にしておく必要がなく、常圧でもNOxを多量に吸収した状態を安定に保持できる点で優れている。
【0038】
NOx吸収液体を特定イオン液体とした場合の再生器27の構成としては、例えば、(1)気液接触器24から回収したイオン液体を加熱する加熱手段としてヒータを設け、該ヒータにより加熱する構成、(2)回収したイオン液体中に一対の電極を浸し、一対の電極間に電圧を印加することでNOxを還元浄化する構成などが挙げられる。あるいは、(3)イオン交換樹脂を充填したカラムを設け、気液接触器24から回収したイオン液体をカラム内に通すことにより行う構成、(4)イオン交換樹脂を入れた容器を設け、気液接触器24から回収したイオン液体を容器内で撹拌混合して行う構成としてもよい。
【0039】
以上詳述した本実施形態によれば、次の優れた効果が得られる。
【0040】
NOx吸収液体としてイオン液体を用いるため、高温環境下においても液体がほとんど蒸発せず、液体の冷却装置などの付帯設備を設けなくてもNOxの分離回収を好適に行うことができる。特に、イオン液体による化学吸収を利用するものであることから、高圧状態を維持するための付帯設備を設けなくても、イオン液体と排気との接触後において、イオン液体がNOxを多量に吸収した状態を常圧で安定に維持することができる。その結果、装置の小型化を図ることができる。
【0041】
特に、イオン液体としてカルボン酸塩を用いることにより、水やCO吸収イオン液体(例えば[BMIM][TfN])よりもNOx吸収を好適に行うことができる。これにより、多量の液体を車両に搭載したり液体の交換を頻繁に行ったりするのを回避することができる。また、カルボン酸塩からなるイオン液体では、COの吸収密度よりもNOxの吸収密度の方が高く、COとNOxとを含む混合ガスにおいてNOx吸収を効率よく行うことができる点においても優れている。
【0042】
排気との接触後、回収したイオン液体については、再生器27で容易に再生処理することができ、NOx吸収液体を繰り返し使用することができる。これにより、液体の交換や補充の頻度を少なくすることができる。
【0043】
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施されてもよい。
【0044】
・上記実施形態では、気液接触器24とタンク21との間に再生器27を配置し、気液接触器24から回収したNOx吸収液体を再生器27で再生した後、その再生後のNOx吸収液体をタンク21に戻す構成としたが、再生器27を介さず、そのままタンク21に戻す構成としてもよい。この場合、気液接触器24から回収したNOx吸収液体を、例えば所定期間毎に又は所定距離の走行毎に再生又は交換する構成とするとよい。
【0045】
・上記実施形態では、ディーゼルエンジンに適用したが、ガソリンエンジンに適用してもよい。また、車載エンジンの排気に含まれるNOxを浄化する排気浄化システムに本発明を適用する場合について説明したが、車両の排気浄化システムに限らず、例えば船舶、火力発電所、鉄鋼プラント、化学プラントなどから排出される混合ガス中に含まれるNOxを分離回収する装置に本発明を適用してもよい。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0047】
NOx吸収性能の評価は以下の方法で行った。使用した評価装置の概略を図2に示す。なお、下記に示す一連の操作は常圧下で行った。
【0048】
評価装置30としては、混合ガスを発生するガス発生器31と、NOx吸収液体が収容された収容器32と、ガス成分濃度を分析するガス分析計33とを備える装置を使用した。評価に際しては、図2に示すように、まず、ガス発生器31から発生するNOガスとNガスとの混合ガスを、排気管34を介してガス流量0.9L/minで収容器32内の液体に送り込んだ。このとき、収容器32にはNOx吸収液体を10mL入れた。また、液体へのガス供給はバブリングにより行った。なお、図2中、装置36は流量制御計を示す。性能評価したNOx吸収液体の種類、及び実施条件(混合ガス中のNO濃度、NOx吸収液体の温度)を下記表1に示す。
【表1】

【0049】
表1のNOx吸収液体の略称は以下の通りである。
[BMIM][AcO]…1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム アセテート
[BMIM][TfN]…1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド
【0050】
収容器32内の気体を配管35を介して回収し、回収した気体中のNO濃度をガス分析計33で測定した。なお、装置37は水等をトラップするために配置した。ガス分析計33の結果を図3〜図6に示す。ここで、NO濃度の計測に際しては、収容器32とガス分析計33とを結ぶ配管35の途中に希釈用Nガスを導入し、実施例1,2及び比較例1については10倍希釈、比較例2については5倍希釈にて行った。図3〜図6では、希釈した状態での評価結果を示す。また、図中、破線はガス発生器31からの混合ガスを収容器32を介さずにそのままガス分析計33に流したときの測定結果を示す。
【0051】
NOx吸収液体として[BMIM][AcO]を用いた場合、液体温度を室温(15〜20℃)とした実施例1では、図3に示すように、吸収液体に接触後のガス中のNO濃度が10〜40ppm程度と低い値を示すとともに、その状態が約140時間と長い時間継続された。このときのNO吸収密度を図3に基づき算出したところ、330g/Lであった。また、液体温度を100℃とした場合(実施例2)では、NO濃度がほぼ0ppmの状態が100時間以上継続して観察された(図4参照)。
【0052】
一方、NOx吸収液体として水を用いた比較例1では、図5に示すように、接触開始から暫くは、液体接触後のガス中のNO濃度が20〜25ppm程度と少なかったが、接触開始から約50時間でNO濃度が次第に上昇し、約80時間で飽和状態となった。また、図5に基づき算出した水のNO吸収密度は140g/Lであり、[BMIM][AcO]の2分の1以下であった。つまり、[BMIM][AcO]のNO吸収密度は水の約2.4倍であった。また、NOx吸収液体として[BMIM][TfN]を用いた比較例2では、図6に示すように、接触開始直後はNO濃度が20ppm程度であったが直ぐに上昇し、5時間後には約100ppmと高い値を示した。
【符号の説明】
【0053】
11…排気管、20…NOx分離回収装置、21…タンク(貯蔵手段)、22…供給配管、23…循環ポンプ、24…気液接触器(気液接触手段)、25…回収配管(液体回収手段)、26…回収器(液体回収手段)、27…再生器(再生手段)、30…評価装置、31…ガス発生器、32…収容器、33…ガス分析計、34…排気管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも窒素酸化物を含む混合ガスから窒素酸化物を分離し回収するガス分離回収装置であって、
窒素酸化物を吸収する吸収液体を貯蔵する貯蔵手段と、
前記貯蔵手段により貯蔵された吸収液体を前記混合ガスに接触させる気液接触手段と、
前記気液接触手段により前記混合ガスに接触させた後の吸収液体を回収する液体回収手段と、を備え、
前記吸収液体として、窒素酸化物を化学吸収するイオン液体を用いることを特徴とするガス分離回収装置。
【請求項2】
前記イオン液体はカルボン酸塩を含む請求項1に記載のガス分離回収装置。
【請求項3】
前記イオン液体のアニオンとして、C2n+1COO(但し、nは0〜10の整数である。)及びその誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む請求項2に記載のガス分離回収装置。
【請求項4】
前記液体回収手段により回収したイオン液体を再生する再生手段を備える請求項1乃至3のいずれか一項に記載のガス分離回収装置。
【請求項5】
車両に搭載されたエンジンの排気を浄化する排気浄化システムに適用され、
前記気液接触手段は、前記吸収液体を前記排気に接触させ、
前記液体回収手段は、前記気液接触手段により前記排気を接触させた後の吸収液体を回収する請求項1乃至4のいずれか一項に記載のガス分離回収装置。
【請求項6】
少なくとも窒素酸化物を含む混合ガスから窒素酸化物を分離し回収するガス分離回収方法であって、
窒素酸化物を化学吸収するイオン液体を前記混合ガスに接触させる気液接触工程と、
前記気液接触工程で、前記混合ガスに接触させた後のイオン液体を回収する液体回収工程と、
を含むことを特徴とするガス分離回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−217918(P2012−217918A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85990(P2011−85990)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】