説明

ガス封入型ガス分析計用機器及びそれを用いた非分散型赤外線式ガス分析計

【課題】金属筐体に形成された圧入孔に硬質材料の封止栓を圧入することでガス封入するガス分析計用機器において、圧入孔への封止栓の圧入に起因する金属筐体への応力によるガス漏れを低減する。
【解決手段】ガス分析計用機器13は、金属筐体13aと、ガス封入空間13b−1,13b−2,13b−3と、ガス封入空間13b−1、13b−2に連通して形成された圧入孔13c、13dと、金属筐体よりも硬い材料からなり、圧入孔13c、13dに圧入された封止栓13c−1、ガス封入空間13b−1、13b−3に連通して形成された非圧入孔13e、13fと、非圧入孔13e、13fに圧入とは異なる方法でガスシールされて配置されたカバー部材13e−1、13f−1と、非圧入孔13e、13fの周囲を取り囲んで、又は一部切り欠いて筐体13aの表面に形成された溝13e−2、13f−2と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス封入型ガス分析計用機器及びそれを用いた非分散型赤外線式ガス分析計に関する。赤外線式ガス分析計は、例えば、火力発電所の煙道排ガスなど、燃焼ガス中に含まれるSO2(二酸化硫黄)、NOx(窒素酸化物)、CO(一酸化炭素)、CO2(二酸化炭素)等の濃度を測定するのに用いられる。
【背景技術】
【0002】
ガス封入型のガス分析計用機器の封入ガスシール方法として、主として、次の三つの方法が知られている。
第1の方法は、真空機器で用いられるコンフラットシールを用いる方法である(特許文献1を参照。)。図13に示すように、金属筐体101と金属蓋筐体103とのシールすべき各々の面に、円錐形をしたエッジ101a,103aの加工を施し、その間に、筐体101,103に用いられている金属材料よりも硬度の低い金属パッキン105を閉じ込め、両金属筐体101,103を複数本の締付けネジ107で強く締め付けることにより、金属パッキン105を押しつぶし、変形した金属パッキン105が筐体101,103の垂直面101b,103bに押しつけられてエッジ101a,103aを押し返すことでガスシールを行なう方法である。
【0003】
この方法は、筐体101,103のエッジ101a,103a及び垂直面101b,103bの加工が難しいという問題があった。さらに、金属筐体101,103、金属パッキン105、締付けネジ107など多くの構成部品と、ネジ穴やネジ挿通穴の加工が必要であり、構造が複雑で、コストが高くつき、小型化も難しいという問題もあった。また、締付け力が強大なので、締め付け時の力や残留応力は、窓材、ハーメチックシール(気密シール)、接着剤などの構成部品にストレスを与え、ガス漏れの原因となっていた。
【0004】
第2の方法は、検出器や光源、セル、ガスフィルタなどの金属筐体に突設された金属パイプをかしめて切断する方法である。図14に示すように、金属筐体201に金属パイプ203を半田や接着剤で接合し、金属パイプ203を専用工具205にてかしめて切断する方法である。
【0005】
この方法は、金属パイプ203をかしめる際に、金属筐体201と金属パイプ203との接合部分207にストレスが加わり、接合部分207に亀裂が生じてガス漏れを起こす虞れがあった。また、そのストレスを最小限にするために金属パイプ203の材料に焼きなまし処理を施した軟らかい純Cu(同)、純Al(アルミニウム)、純Ag(銀)等を使用していたため、コストが高いという問題もあった。さらには、ガス腐食を避けるために金属パイプ203に施されている表面処理がかしめ時に剥げ、金属パイプ203が腐食されてガス漏れの原因となるという問題もあった。
【0006】
第3の方法は、図15に示すように、金属筐体301に設けられた圧入孔303に、金属筐体301と同じ材料又は筐体301よりも硬度の高い材料からなる封止栓305を圧入する方法である。また、図16に示すように、圧入孔303と封止栓305との間に、樹脂製ガスケット307を介在させることもある(特許文献2を参照。)。
【0007】
この方法は、圧入孔303及び封止栓305の寸法精度や面粗さに高い精度が必要である。加エコストは高くなるが、筐体301に圧入孔303を設けることで、ガス分析計用機器の小型化が可能となる。
しかしながら、圧入孔303への封止栓305の圧入による筐体301の内部歪が、窓材や接着剤、その他の構成品にストレスを加えるため、ガス漏れの原因となりうることは避けられないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−028520号公報
【特許文献2】特開2002−298832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、金属筐体に形成された圧入孔に封止栓を圧入することでガス封入するガス分析計用機器であって、圧入孔への封止栓の圧入に起因する金属筐体への応力によるガス漏れを低減できるガス封入型ガス分析計用機器、及びそれを用いた非分散型赤外線式ガス分析計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明にかかるガス封入型ガス分析計用機器は、金属筐体と、上記筐体の内部に形成されたガス封入空間と、上記筐体の表面から上記ガス封入空間に連通して形成された圧入孔と、上記筐体と同じ材料又は上記筐体よりも硬い材料からなり、上記圧入孔を封止するために上記圧入孔に圧入された封止栓と、上記圧入孔とは異なる位置で上記筐体表面から上記ガス封入空間に連通して形成された非圧入孔と、上記非圧入孔に圧入とは異なる方法でガスシールされて配置されたカバー部材と、上記非圧入孔の周囲を取り囲んで、又は一部切り欠いて上記筐体表面に形成された溝と、を備えている。
ここで非圧入孔とは、非圧入孔に圧入とは異なる方法で封止される孔を意味する。
【0011】
本発明のガス封入型ガス分析計用機器において、上記カバー部材のガスシールは、接着剤、ろう付け、溶接又はガラス融着によって行われている例を挙げることができる。ただし、ガスシールの例はこれらに限定されない。
【0012】
本発明のガス封入型ガス分析計用機器の一例は、赤外線を含む光を照射するランプを備えたガス封入型光源である。そのガス封入型光源は2組の上記非圧入孔及び上記カバー部材を備え、一方の上記カバー部材は赤外線透過窓であり、他方の上記カバー部材はランプソケットである。
【0013】
本発明のガス封入型ガス分析計用機器の他の例は、赤外線を吸収しないガスが上記ガス封入空間に封入された比較セルである。その比較セルは2組の上記非圧入孔及び上記カバー部材を備え、それらのカバー部材は赤外線透過窓である。
【0014】
本発明のガス封入型ガス分析計用機器のさらに他の例は、上記ガス封入空間に少なくとも測定ガスと同じガスが封入され、上記ガス封入空間が複数の受光室とそれらの受光室を連通させるための通路によって構成され、その通路に配置されて2つの受光室における光吸収の差に応じた両室間の圧力差を検出するセンサを備えた検出器である。その検出器は少なくとも2組の上記非圧入孔及び上記カバー部材を備えている。1つの上記非圧入孔は上記通路に連通し、その非圧入孔は上記センサを上記通路に配置する際に用いられるものであり、その非圧入孔に配置された上記カバー部材は光を透過しない部材からなる。他の上記非圧入孔は上記受光室のいずれかに連通しており、その非圧入孔に配置された上記カバー部材は赤外線透過窓である。
【0015】
本発明のガス封入型ガス分析計用機器のさらに他の例は、上記ガス封入空間に所望のガスを封入したガスフィルタ又は集光器である。そのガスフィルタ又は集光器は2組の上記非圧入孔及び上記カバー部材を備え、それらの上記カバー部材は赤外線透過窓である。ここで、集光はガスフィルタ機能を備えていてもよい。
【0016】
本発明にかかる非分散型赤外線式ガス分析計は、赤外線を含む光を照射するガス封入型光源と、測定ガスが流される測定セルと、赤外線を吸収しないガスがガス封入空間に封入された比較セルと、ガス封入空間に少なくとも測定ガスと同じガスが封入され、そのガス封入空間が複数の受光室とそれらの受光室を連通させるための通路によって構成され、その通路を流れるガス流量を検出するセンサを備えた検出器と、ガス封入型光源から照射され、測定セルを通過した光及び比較セルを通過した光を交互に検出器に照射させるためのチョッパと、を少なくとも備えている。さらに、本発明の非分散型赤外線式ガス分析計は、本発明のガス封入型ガス分析計用機器が適用されたガス封入型光源、及び検出器のうち少なくとも1つを備えている。
【0017】
本発明の非分散型赤外線式ガス分析計において、上記比較セルを備えておらず、上記チョッパは上記測定セルを透過した光を上記検出器に断続的に照射させるようにしてもよい。
また、前記ガス封入型光源と前記検出器との間の光路上に、本発明のガス封入型ガス分析計用機器が適用されたガスフィルタ又は集光器をさらに備えているようにしてもよい。ここで、当該ガスフィルタ又は集光器が配置される位置は、測定セルの位置に対して、光源側であってもよいし、検出器側であってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明のガス封入型ガス分析計用機器は、非圧入孔の周囲を取り囲んで、又は一部切り欠いて金属筐体表面に形成された溝を備えているので、その溝によって、圧入孔への封止栓の圧入に起因する金属筐体への応力が非圧入孔に伝達するのを緩和できる。これにより、非圧入孔に配置されたカバー部材やガスシールの破損を低減することができ、ひいてはガス封入空間に封入されたガスの漏れを低減できる。そして、ガス封入型ガス分析計用機器の製造時における歩留まりが改善されるほか、輸送時の振動や衝撃に強くなり、結果として、信頼性の高いガス封入型ガス分析計用機器及びそれを用いた非分散型赤外線式ガス分析計を安価に提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ガス封入型ガス分析計用機器の実施例及び非分散型赤外線式ガス分析計の一実施例を一部側面で示す概略的な構成断面図である。
【図2】図1の光源を拡大して示す断面図である。
【図3】図1の測定セルを拡大して示す断面図である。
【図4】図1の比較セルを拡大して示す断面図である。
【図5】図1の集光器を拡大して示す断面図である。
【図6】図1の検出器を拡大して示す断面図である。
【図7】検出器の一実施例を示す図であり、(A)は斜視図、(B)は有限要素法を用いたシミュレーション結果を示す斜視図、(C)は同シミュレーション結果を示す左側面図である。
【図8】検出器の比較例を示す図であり、(A)は斜視図、(B)は有限要素法を用いたシミュレーション結果を示す斜視図、(C)は同シミュレーション結果を示す左側面図である。
【図9】検出器の他の実施例を示す図であり、(A)は斜視図、(B)は有限要素法を用いたシミュレーション結果を示す斜視図、(C)は同シミュレーション結果を示す左側面図である。
【図10】検出器のさらに他の実施例を示す図であり、(A)は斜視図、(B)は有限要素法を用いたシミュレーション結果を示す斜視図、(C)は同シミュレーション結果を示す左側面図である。
【図11】検出器のさらに他の実施例を概略的に示す断面図である。
【図12】非分散型赤外線式ガス分析計の他の実施例を一部側面で示す概略的な構成断面図である。
【図13】金属パッキンを用いたガスシールする方法を説明するための概略的な断面図である。
【図14】金属パイプをかしめてガスシールする方法を説明するための概略的な断面図である。
【図15】封止栓を圧入してガスシールする方法を説明するための概略的な断面図である。
【図16】樹脂製ガスケット及び封止栓を圧入してガスシールする方法を説明するための概略的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、ガス封入型ガス分析計用機器の実施例及び非分散型赤外線式ガス分析計の一実施例を一部側面で示す概略的な構成断面図である。図2は図1の光源を拡大して示す断面図である。図3は図1の測定セルを拡大して示す断面図である。図4は図1の比較セルを拡大して示す断面図である。図5は図1の集光器を拡大して示す断面図である。図6は図1の検出器を拡大して示す断面図である。
この非分散型赤外線式ガス分析計は、光源1、測定セル3、比較セル5、光チョッパ7、モータ9、集光器11及び検出器13を備えている。
【0021】
光源1は、ガス封入型ガス分析計用機器であり、赤外線を含む光を照射する。図2に示すように、光源1の金属筐体1a内部にガス封入空間1bが形成されている。金属筐体1aには筐体1a表面からガス封入空間1bに連通して圧入孔1c及び非圧入孔1d,1eが形成されている。
【0022】
圧入孔1cに、圧入孔1cを封止するための封止栓1c−1が圧入されている。封止栓1c−1は金属筐体1aと同じ材料又は金属筐体1aよりも硬い材料によって形成されている。
非圧入孔1dに、赤外線透過窓(カバー部材)1d−1が接着剤によってガスシールされて配置されている。
非圧入孔1eに、ランプソケット(カバー部材)1e−1が接着剤によってガスシールされて配置されている。
金属筐体1aの表面に、非圧入孔1d,1eの周囲を取り囲んで、又は一部切り欠いて、溝1d−2,1e−2が形成されている。
【0023】
図1に示すように、光源1に対して、測定セル3と比較セル5が同量の光が入射されるように互いに平行に配置されている。光チョッパ7は、光源1から放出された光を所定の時間間隔で遮蔽して、測定セル3と比較セル5に交互に導入するためのものである。光チョッパ7はモータ9によって回転される。
【0024】
図3に示すように、測定セル3の金属筐体3aに、ガスが供給されるガス通過空間3bが形成されている。ガス通過空間3bには、測定ガスを含んだ試料ガス、赤外線吸収をもたないN2(窒素)のような不活性なガス(ゼロガス)、及び一定濃度の測定ガスを含んだガス(スパンガス)が切り替えて流される。
【0025】
金属筐体3aには筐体3a表面からガス通過空間3bに連通してガス導入孔3c、ガス排出孔3d及び非圧入孔3e,3fが形成されている。
非圧入孔3e、3fに、赤外線透過窓3e−1、3f−1が接着剤によってガスシールされて配置されている。
金属筐体3aの表面に、非圧入孔3e,3fの周囲を取り囲んで、又は一部切り欠いて、溝3e−2,3f−2が形成されている。
【0026】
比較セル5はガス封入型ガス分析計用機器である。比較セル5には、赤外線を吸収しないガス、例えば窒素や空気などの不活性ガスが封入されている。図4に示すように、比較セル5の金属筐体5a内部にガス封入空間5bが形成されている。金属筐体5aには筐体5a表面からガス封入空間5bに連通して圧入孔5c及び非圧入孔5d,5eが形成されている。
【0027】
圧入孔5cに、圧入孔5cを封止するための封止栓5c−1が圧入されている。封止栓5c−1は金属筐体5aと同じ材料又は金属筐体5aよりも硬い材料によって形成されている。
非圧入孔5d、5eに、赤外線透過窓5d−1、5e−1が接着剤によってガスシールされて配置されている。
金属筐体5aの表面に、非圧入孔5d,5eの周囲を取り囲んで、又は一部切り欠いて、溝5d−2,5e−2が形成されている。
【0028】
図1に示すように、測定セル3又は比較セル5を透過した光を検出器13に入射させる集光器11が配置されている。集光器11はガス封入型ガス分析計用機器である。集光器11は集光機能のみをもつものでもよいが、フィルタ機能も備えているようにしてもよい。その場合、集光器11には、吸収波長域が測定ガス成分の波長域と一部重なり合うガス成分が封入され、その重なり合う波長域の赤外線が除去される。
【0029】
図5に示すように、集光器11の金属筐体11a内部にガス封入空間11bが形成されている。金属筐体11aには筐体11a表面からガス封入空間11bに連通して圧入孔11c及び非圧入孔11d,11eが形成されている。
圧入孔11cに、圧入孔11cを封止するための封止栓11c−1が圧入されている。封止栓11c−1は金属筐体11aと同じ材料又は金属筐体11aよりも硬い材料によって形成されている。
非圧入孔11d、11eに、赤外線透過窓11d−1、11e−1が接着剤によってガスシールされて配置されている。
金属筐体11aの表面に、非圧入孔11d,11eの周囲を取り囲んで、又は一部切り欠いて、溝11d−2,11e−2が形成されている。
【0030】
検出器13はガス封入型ガス分析計用機器である。図1及び図6に示すように、検出器13は、金属筐体13aの内部に、前方受光室13b−1、後方受光室13b−2及び通路13b−3からなるガス封入空間を備えている。そのガス封入空間には、測定ガスと同様又は同一の赤外線吸収特性をもつガスが封入されている。前方受光室13b−1と後方受光室13b−2は赤外線透過板13b−4によって分離されている。前方受光室13b−1と後方受光室13b−2は光の入射に対して前後に配置されている。通路13b−3は受光室13b−1と13b−2を連通させている。
【0031】
金属筐体13aには、筐体13a表面から前方受光室13b−1に連通して圧入孔13cが形成され、後方受光室13b−2に連通して圧入孔13dが形成され、圧入孔13cとは異なる位置で前方受光室13b−1に連通して非圧入孔13eが形成され、通路13b−3に連通して非圧入孔13fが形成されている。
【0032】
圧入孔13c、13dに、圧入孔13c、13dを封止するための封止栓13c−1、13d−1が圧入されている。封止栓13c−1,13d−1は金属筐体13aと同じ材料又は金属筐体13aよりも硬い材料によって形成されている。
非圧入孔13eに、赤外線透過窓13e−1が接着剤によってガスシールされて配置されている。
非圧入孔13fに、赤外線を透過しない部材、例えば金属カバー(カバー部材)13f−1が接着剤によってガスシールされて配置されている。
金属筐体13aの表面に、非圧入孔13e,13fの周囲を取り囲んで、又は一部切り欠いて、溝13e−2,13f−2が形成されている。
【0033】
通路13b−3にセンサ13gが配置されている。センサ13gは、受光室13b−1,13b−2における光吸収の差に応じた両室間の圧力差を検出するセンサである。センサ13gは、例えばフローセンサやコンデンサマイクロフォンなど、前方受光室13b−1と後方受光室13b−2との圧力差を検出できるものであればどのような原理のものでもよい。センサ13gは非圧入孔13fを介して通路13b−3に配置される。センサ13gが配置された後、非圧入孔13fは接着剤及び金属カバー13f−1によって封止される。
【0034】
非分散型赤外線ガス分析計では、分子に赤外線を照射すると各種ガスが特定の波長の赤外線を吸収する特性を利用する。図1に示す非分散型赤外線ガス分析計を適用したCO(一酸化炭素)ガス分析計では、検出器13の受光室13b−1,13b−2及び通路13b−3にCOガスを封入する。受光室13b−1,13b−2で吸収された赤外線のエネルギーは、分子間の衝突により、瞬間的に熱エネルギーに変換される。この熱エネルギーを通路13b−3に設けられたセンサ13gで圧力差として検出し、測定ガス濃度を求める。
【0035】
ガス封入型ガス分析計用機器である光源1、比較セル5、集光器11及び検出器13では、非圧入孔1d,1e,5d,5e,11d,11e,13e,13fが封止された後、ガス封止空間内の気体がガス置換装置(図示は省略)によって所定のガスに置換された後、圧入孔1c,5c,11c,13c,13dに封止栓1c−1,5c−1,11c−1,13c−1,13d−1が圧入されてガスシールされる。このとき、圧入孔への封止栓の圧入に起因して金属筐体1a,5a,11a,13aの内部に応力が生じるが、非圧入孔の周囲に形成された溝1d−2,1e−2,5d−2,5e−2,11d−2,11e−2,13e−2,13f−2の存在により、非圧入孔1d,1e,5d,5e,11d,11e,13e,13fのガスシール部分への応力の伝達が低減される。これにより、非圧入孔1d,1e,5d,5e,11d,11e,13e,13fにおけるガス漏れや、赤外線透過窓1d−1,5d−1,3e−1,11d−1,11e−1,13e−1の破損を防止できる。
【0036】
図7は、ガス封入型ガス分析計用機器としての検出器の一実施例を示す図であり、(A)は斜視図、(B)は有限要素法を用いたシミュレーション結果を示す斜視図、(C)は同シミュレーション結果を示す左側面図である。図6と同じ部分には同じ符号を付す。(B),(C)に示すシミュレーション結果は、圧入孔13c,13dに封止栓を圧入したときに金属筐体13aに生じる応力を示すものである。
検出器13の金属筐体13aは直方体形状をもつ。
金属筐体13aの上面13hに圧入孔13c,13dが形成されている。図7(A)では圧入孔13c,13dに封止栓はまだ圧入されていない。
【0037】
金属筐体13aの正面13iに非圧入孔13eが形成されている。非圧入孔13eに赤外線透過窓13e−1が接着剤によってガスシールされて配置されている。金属筐体13aの正面13iに非圧入孔13eの周囲を取り囲んで溝13e−2が形成されている。
金属筐体13aの左側面13jに非圧入孔13fが形成されている。非圧入孔13fに、金属カバー13f−1が接着剤によってガスシールされて配置されている。金属筐体13aの左側面13jに非圧入孔13eの周囲を一部切り欠いて取り囲んで溝13f−2が形成されている。
【0038】
金属筐体13aの正面13iに位置決め用の穴13i−1,13i−2が形成されている。穴13i−1,13i−2は、例えば検出器とセルを結合させたり、検出器を多段に組んだりするのに用いられる。
金属筐体13aの左側面13jに位置決め用の穴13j−1,13j−2が形成されている。穴13j−1,13j−2は、例えば、プリント基板用のスペーサを位置決めする穴である。穴13j−1,13j−2に形成されるネジ穴の図示は省略されている。
金属筐体13aの上面13hと左側面13jがなす角部に凹部13kが形成されている。凹部13kには通路13b−3(図6を参照。)につながる配線取出し孔13lが形成されている。配線取出し孔13lはセンサ13g(図6を参照。)の電位を金属筐体13a外に取り出すための配線を通すためのものである。配線取出し孔13lは、例えばハーメチックシールを接着することによって封止される。
【0039】
図8は、検出器の比較例を示す図であり、(A)は斜視図、(B)は有限要素法を用いたシミュレーション結果を示す斜視図、(C)は同シミュレーション結果を示す左側面図である。図7と同じ部分には同じ符号を付す。
この比較例は、図7の実施例と比較して、非圧入孔13fに対応する溝13f−2が形成されていない。また、位置決め用の穴13j−1,13j−2も形成されていない。
【0040】
有限要素法を用いたシミュレーションにより、図7に示した実施例と、図8に示した比較例について、圧入孔13c,13dに封止栓を圧入したときに、非圧入孔13fと金属カバー13f−1との接着部に生じる応力を計算した。
【0041】
シミュレーションの結果、溝13f−2を有する実施例(図7)の上記接着部への相当応力最大値は2.75MPa(メガパスカル)、相当応力平均値は0.37MPaであった。これに対して、溝13f−2を有さない比較例(図8)の上記接着部への相当応力最大値は8.48MPa、相当応力平均値は1.24MPaであった。このように、溝13f−2を設けることにより、圧入孔13c,13dへの封止栓の圧入に起因して非圧入孔13fと金属カバー13f−1との接着部に生じる応力を、溝13f−2を設けない場合に比べて、相当応力最大値で約1/3に、相当応力平均値も1/3以下に、低減することができる。これにより、検出器13におけるガス漏れや、赤外線透過窓13e−1の破損を防止でき、検出器13の製造の歩留まりを向上させることができる。
【0042】
図7に示した実施例に対して、溝13f−2及び位置決め用の穴13j−1,13j−2の配置を変更したものについて、非圧入孔13fと金属カバー13f−1との接着部に生じる応力を調べた結果を図9及び図10を参照して説明する。
【0043】
図9は検出器の他の実施例を示す図であり、図10は検出器のさらに他の実施例を示す図である。図9及び図10で、(A)は斜視図、(B)は有限要素法を用いたシミュレーション結果を示す斜視図、(C)は同シミュレーション結果を示す左側面図である。図9及び図10で図7と同じ部分には同じ符号を付す。
【0044】
図9の実施例では、図7の実施例に比べて、位置決め用の穴13j−1が非圧入孔13fの近くに配置され、溝13f−2が非圧入孔13f及び位置決め用の穴13j−1を囲むように配置されている。
図10の実施例では、図9の実施例に比べて、溝13f−2が非圧入孔13fと位置決め用の穴13j−1の間を通るように配置されている。
【0045】
シミュレーションの結果、図9に示した実施例の上記接着部への相当応力最大値は3.28MPa、相当応力平均値は0.48MPaであった。また、図10に示した実施例の上記接着部への相当応力最大値は2.66MPa、相当応力平均値は0.32MPaであった。
このように、溝13f−2を設けることにより、溝13f−2を有さない図8の比較例(上記接着部への相当応力最大値は8.48MPa、相当応力平均値は1.24MPa)に比べて、圧入孔13c,13dへの封止栓の圧入に起因して非圧入孔13fと金属カバー13f−1との接着部に生じる応力を低減することができる。
【0046】
また、検出器13は、図11に示すように、受光した赤外線が貫通する構成であってもよい。
図11は検出器のさらに他の実施例を概略的に示す断面図である。図6と同じ部分には同じ符号を付す。
【0047】
この実施例は、図6に示した実施例と比較して、非圧入孔13m、赤外線透過窓13m−1及び溝13m−2をさらに備えている。
非圧入孔13mは、赤外線透過窓13e−1が配置される金属筐体13a表面の反対側の表面から後方受光室13b−2に連通して形成されている。赤外線透過窓13m−1は、接着剤によってガスシールされて、非圧入孔13mに配置されている。溝13m−2は、非圧入孔13mの周囲を取り囲んで、又は一部切り欠いて、金属筐体13aの表面に形成されている。
【0048】
この実施例で、赤外線透過窓13e−1から検出器13内部に入射した赤外線は、前方受光室13b−1、赤外線透過板13b−4、後方受光室13b−2及び赤外線透過窓13m−1を介して検出器13外部へ放出される。このような構成にすることにより、検出器13を多段に配置することができる。また、最終端の検出器13の後段には、例えば、アルミニウム板などの赤外線反射部材、又は焦電センサを用いたCO2検出器などが配置される。
【0049】
図12は、非分散型赤外線式ガス分析計の他の実施例を一部側面で示す概略的な構成断面図である。図1と同じ部分には同じ符号を付す。
この非分散型赤外線式ガス分析計の実施例は、図1に示した実施例と比較して、比較セル5を備えていない。チョッパ7は、光源1から放出された光を所定の時間間隔で遮蔽して測定セル3に照射させ、測定セル3を透過した光を検出器13に断続的に照射させる。
このように、本発明の非分散型赤外線式ガス分析計は比較セルを備えていない構成でもよい。なお、図12に示した実施例において、図11に示した検出器13を用いることができることは言うまでもない。
【0050】
以上の実施例は本発明の一例であり、本発明の範囲内で種々の変更が可能である。
例えば検出器13は、特許文献1に開示された検出器のように、測定セル3からの光が入射される受光室と比較セル5から入射される受光室を備えているものであってもよい。
また、図1及び図12に示した非分散型赤外線式ガス分析計において、集光器11がフィルタ機能を備えていない場合には、光源1から検出器13までの光路上のどこかに、干渉フィルタ、又は本発明のガス分析計用ガス封入機器からなるガスフィルタを備えるようにしてもよい。
また、図1及び図12に示した非分散型赤外線式ガス分析計において、集光器11は、集光機能をもたずにガスフィルタとして機能するものであってもよい。この場合、そのガスフィルタは、光源1と測定セル3及び比較セル5との間、又は光源1と測定セル3との間に配置されてもよい。
また、本発明のガス分析計用ガス封入機器は、非分散型赤外線式ガス分析計を構成する機器以外のガス分析計用ガス封入機器にも適用できる。
【0051】
また、上記実施例では、非圧入孔1d,1e,5d,5e,11d,11e,13e,13f,13mにおけるカバー部材1d−1,1e−1,5d−1,5e−1,11d−1,11e−1,13e−1,13f−1,13m−1のガスシールは接着剤等を用いているが、カバー部材の材料に応じて、例えばろう付け、溶接、ガラス融着など、他のガスシール方法を用いるようにしてもよい。
また、上記実施例では、封止栓のみを用いて圧入孔を封止しているが、封止栓と圧入孔の間に配置される樹脂製ガスケット等のガスシール部材を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のガス分析計用ガス封入機器及び赤外線式ガス分析計は、例えば、火力発電所、石油化学プラント、製鉄所、焼却場などの排ガス測定のほか、触媒研究など試験研究分野でも用いられる。
【符号の説明】
【0053】
1 光源
3 測定セル
5 比較セル
7 光チョッパ
11 集光器
13 検出器
1a,5a,11a,13a 金属筐体
1b,5b,11b ガス封入空間
13b−1 前方受光室(ガス封入空間)
13b−2 後方受光室(ガス封入空間)
13b−3 通路(ガス封入空間)
1c,5c,11c,13c,13d 圧入孔
1c−1,5c−1,11c−1,13c−1,13d−1 封止栓
1d,1e,5d,5e,11d,11e,13e,13f,13m 非圧入孔
1d−1,5d−1,5e−1,11d−1,11e−1,13e−1,13m−1 赤外線透過窓(カバー部材)
1e−1 ランプソケット(カバー部材)
13f−1 金属カバー(カバー部材)
1d−2,1e−2,5d−2,5e−2,11d−2,11e−2,13e−2,13f−2,13m−2 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属筐体と、
前記筐体の内部に形成されたガス封入空間と、
前記筐体の表面から前記ガス封入空間に連通して形成された圧入孔と、
前記筐体と同じ材料又は前記筐体よりも硬い材料からなり、前記圧入孔を封止するために前記圧入孔に圧入された封止栓と、
前記圧入孔とは異なる位置で前記筐体表面から前記ガス封入空間に連通して形成された非圧入孔と、
前記非圧入孔に圧入とは異なる方法でガスシールされて配置されたカバー部材と、
前記非圧入孔の周囲を取り囲んで、又は一部切り欠いて前記筐体表面に形成された溝と、を備えたガス封入型ガス分析計用機器。
【請求項2】
前記カバー部材のガスシールは、接着剤、ろう付け、溶接又はガラス融着によって行われている請求項1に記載の封入型ガス分析計用機器。
【請求項3】
赤外線を含む光を照射するランプを備えたガス封入型光源であって、2組の前記非圧入孔及び前記カバー部材を備え、一方の前記カバー部材は赤外線透過窓であり、他方の前記カバー部材はランプソケットである請求項1に記載のガス封入型ガス分析計用機器。
【請求項4】
赤外線を吸収しないガスが前記ガス封入空間に封入された比較セルであって、2組の前記非圧入孔及び前記カバー部材を備え、それらの前記カバー部材は赤外線透過窓である請求項1に記載のガス封入型ガス分析計用機器。
【請求項5】
前記ガス封入空間に少なくとも測定ガスと同じガスが封入され、前記ガス封入空間が複数の受光室とそれらの受光室を連通させるための通路によって構成され、前記通路を流れるガス流量を検出するセンサを備えた検出器であって、
少なくとも2組の前記非圧入孔及び前記カバー部材を備え、
1つの前記非圧入孔は前記通路に連通し、その非圧入孔は前記センサを前記通路に配置する際に用いられるものであり、その非圧入孔に配置された前記カバー部材は光を透過しない部材からなり、
他の前記非圧入孔は前記受光室のいずれかに連通しており、その非圧入孔に配置された前記カバー部材は赤外線透過窓である請求項1に記載のガス封入型ガス分析計用機器。
【請求項6】
前記ガス封入空間に所望のガスを封入したガスフィルタ又は集光器であって、2組の前記非圧入孔及び前記カバー部材を備え、それらの前記カバー部材は赤外線透過窓である請求項1に記載のガス封入型ガス分析計用機器。
【請求項7】
赤外線を含む光を照射するガス封入型光源と、測定ガスが流される測定セルと、赤外線を吸収しないガスがガス封入空間に封入された比較セルと、ガス封入空間に少なくとも測定ガスと同じガスが封入され、そのガス封入空間が2つの受光室とそれらの受光室を連通させるための通路によって構成され、その通路に配置されて2つの受光室における光吸収の差に応じた両室間の圧力差を検出するセンサを備えた検出器と、ガス封入型光源から照射され、測定セルを通過した光及び比較セルを通過した光を交互に検出器に照射させるためのチョッパと、を少なくとも備えた非分散型赤外線式ガス分析計において、
請求項3〜5に記載されたガス封入型ガス分析計用機器のうち少なくとも1つを備えた非分散型赤外線式ガス分析計。
【請求項8】
前記比較セルを備えておらず、前記チョッパは前記測定セルを透過した光を前記検出器に断続的に照射させる請求項7に記載の非分散型赤外線式ガス分析計。
【請求項9】
前記ガス封入型光源と前記検出器との間の光路上に、請求項6に記載のガス封入型ガス分析計用機器をさらに備えた請求項7又は8に記載の非分散型赤外線式ガス分析計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−112702(P2012−112702A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260072(P2010−260072)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】