ガス検出器
【課題】可燃性ガスの濃度測定や漏洩検知等に用いられるガス検出器において、耐久性と検出精度とを高いレベルで両立させる。
【解決手段】ガス検出器は、シリコン製半導体基板61上に、発熱抵抗体71と、その発熱抵抗体71を内包するように形成される絶縁層67とが少なくとも積層されたガス検出素子60を備えており、可燃性ガスに応じて変化する発熱抵抗体71の温度及び抵抗値に基づき、可燃性ガスを検出する。上記のガス検出素子60において、可燃性ガスが含まれる環境中に接する最表面に、ガス不透過性の酸化膜からなる保護層64を設ける。これにより、耐アルカリ性が確保されるとともに、保護層64が不透過性を有することからその保護層64に環境中の不純物(有機シリコン)が侵入することが抑制され、ひいては出力が安定し、かつ正確なものとなる。
【解決手段】ガス検出器は、シリコン製半導体基板61上に、発熱抵抗体71と、その発熱抵抗体71を内包するように形成される絶縁層67とが少なくとも積層されたガス検出素子60を備えており、可燃性ガスに応じて変化する発熱抵抗体71の温度及び抵抗値に基づき、可燃性ガスを検出する。上記のガス検出素子60において、可燃性ガスが含まれる環境中に接する最表面に、ガス不透過性の酸化膜からなる保護層64を設ける。これにより、耐アルカリ性が確保されるとともに、保護層64が不透過性を有することからその保護層64に環境中の不純物(有機シリコン)が侵入することが抑制され、ひいては出力が安定し、かつ正確なものとなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可燃性ガスの濃度測定や漏洩検知等に用いられるガス検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
可燃性ガスの濃度測定や漏洩検知を行うガス検出器では、省スペース化や低消費電力化の観点から、より一層の小型化が望まれている。近年では、MEMS(Micro Electro Mechanical System)の技術(マイクロマシニング技術とも言われる)を用いたより小型のガス検出素子も開発されている。MEMSの技術を用いたガス検出素子は、半導体基板(例えば、シリコン基板)上に複数の薄膜が積層状に構成されてなるものである。
【0003】
このようなガス検出素子としては、発熱抵抗体を備え、その発熱抵抗体に通電されて発熱抵抗体が発熱した際に可燃性ガスへの熱伝導が生じることを利用した熱伝導式ガス検出素子がある。具体的に、ガス検出素子の温度を一定の温度に制御する場合、熱伝導によって発熱抵抗体の温度が変化するとともに抵抗値が変化するため、その変化量に基づき、被検出ガスを検出するものである。また、他には、発熱抵抗体、及びその発熱抵抗体の熱に基づき可燃性ガスを燃焼させる触媒を有し、発熱抵抗体に通電された際に触媒によって可燃性ガスが燃焼することを利用する接触燃焼式ガス検出素子がある。具体的に、可燃性ガスの燃焼熱に応じて発熱抵抗体の温度が変化するとともに抵抗値が変化するため、その変化量に基づき可燃性ガスを検出するものである。
【0004】
何れも、可燃性ガスの種類或いは濃度により発熱抵抗体の抵抗値が変化するため、そのようなガス検出素子を備えたガス検出器においては、発熱抵抗体の抵抗値に基づき可燃性ガスを検出することができる。
【0005】
このようなガス検出素子は、半導体基板上に絶縁層を設け、この絶縁層内に発熱抵抗体を配置させる構成をとるが、絶縁層の最表面(具体的に、可燃性ガスが含まれるガス雰囲気に接する面)は、耐腐食性や安定性に優れていることが好ましく、MEMSの技術を用いて作製されるガス検出素子では、絶縁層の最表面は、窒化珪素で構成される場合がある(特許文献1参照)。しかし、窒化珪素などの材質によっては、アルカリ成分の付着によって侵食する傾向を示すものがあり、アルカリに対する耐久性の向上を図ることが望ましい。
【0006】
そこで、アルカリ成分の付着による侵食を防止するために、窒化珪素等で構成される表面に、さらに、耐アルカリ性の保護層(以下、耐アルカリ保護層と記載する)を設けることも考えられている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2では、所謂スピンコーティング法により、耐アルカリ保護層を形成している。具体的に、アルミナゾルからなる溶液層を表面に塗布形成し、その後焼成することによって、アルミナの層(つまり、耐アルカリ保護層)を形成している。尚、特許文献1,2は、双方とも本願の出願人によって出願されたものである。
【特許文献1】特開2005−156364号公報
【特許文献2】特開2005−164570号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2のようにガス検出素子の性能(耐アルカリ性などの耐久性)を向上させたガス検出器が優れていることは言うまでもないが、近年では、そのような性能向上に加え、さらに、より高いレベルの検出精度が要求されている。
【0008】
本願出願人が鋭意研究を行った結果、例えば上記特許文献2のようなガス検出器において、検出精度について改善の余地のあることが分かってきた。
まず、可燃性ガスが含まれる環境中には、少なからず不純物(例えば有機シリコン)が混じっている場合があり、不純物がガス検出素子の出力に影響する場合が考えられた。具体的に、特許文献2では焼成によって耐アルカリ保護層が形成されており、この場合、その耐アルカリ保護層の構造はポーラス(多孔質性)となる。そうすると、耐アルカリ保護層の孔に不純物が入り込むこと、またそれによってガス検出素子の熱容量が変化してしまうこと(つまり、ガス検出素子の出力に誤差が生じること)も否定できない。
【0009】
本発明は、こうした点に鑑みなされたもので、可燃性ガスの濃度測定や漏洩検知等に用いられるガス検出器において、耐久性と検出精度とを高いレベルで両立させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するためになされた請求項1に記載の発明は、少なくとも発熱抵抗体と絶縁層とが半導体基板に積層され、絶縁層が、発熱抵抗体を覆うように形成されてなるガス検出素子と、発熱抵抗体の通電を制御するとともに、その発熱抵抗体に通電した際のその発熱抵抗体の抵抗値に基づき被検出ガスを検出する制御手段と、を備えたガス検出器において、ガス検出素子は、絶縁層の表面に、その絶縁層を覆うように積層されるガス不透過性の酸化膜を有し、そのガス不透過性の酸化膜が、被検出ガスを含むガス雰囲気に接する最表面層を構成していることを特徴としている。
【0011】
尚、本発明における「検出」とは、被検出ガスの有無を判定することに限らず、被検出ガスの濃度を検量することを含む趣旨である。また、酸化膜がガス不透過性であるとは、酸化膜がガスを通さないほどより緻密に構成されていることを趣旨とする。
【0012】
請求項1に係るガス検出器では、ガス検出素子の最表面層が耐アルカリ性に優れた傾向を示す酸化膜で形成され、例えばアルカリ性の成分がそのガス検出素子の表面に付着したとしても、アルカリ性の成分による侵食を防止できる。
【0013】
しかも、酸化膜はガス不透過性を有しており(緻密に構成されており)、これにより、被検出ガスが含まれる環境中の不純物(例えば有機シリコン等)が酸化膜中に侵入することを抑制することができる。例えば、酸化膜の構造が、ガス透過性を有するポーラス(多孔質状)であれば、孔に不純物が入り込むなどして不純物が付着しやすいことも考えられるが、本発明ではそのようなことがない。
【0014】
このため、ガス検出素子において不純物が最表面層中に侵入してしまって熱容量が変化してしまうようなことを抑制することができる。したがって、ガス検出素子の出力が安定し、かつ正確なものとなる。つまり、検出精度を高いレベルにすることができる。
【0015】
ところで、絶縁層の表面は、例えば請求項2に記載のように、窒化珪素で構成することが好ましい。窒化珪素は耐腐食性や安定性の点で優れているため、耐アルカリ性に優れる酸化膜との設置効果と相俟ってガス検出素子の耐久性を高めることができる。
【0016】
また、ガス不透過性の酸化膜に孔(スポット、ポア)が生じることを抑制するためには、最低限の膜厚を確保する必要があり、例えば請求項3に記載のように、ガス不透過性の酸化膜は、その厚さ寸法が、半導体基板の表裏面に垂直な方向に対する発熱抵抗体の厚さ寸法の20分の1以上となるように形成されているようにすることができる。
【0017】
また、請求項4に記載のように、より具体的に、ガス不透過性の酸化膜は、その厚さ寸法が、20〜500[nm]となるように形成されているようにすることができる。尚、ガス不透過性の酸化膜の厚さ寸法が過剰に大きい場合には、そのガス不透過性の酸化膜の熱による膨張、収縮等に対する柔軟性が小さくなってしまう。このため、請求項4のように、ガス不透過性の酸化膜の厚さ寸法の上限を500[nm]とすることは好ましい。
【0018】
ここで、請求項5のように、ガス不透過性の酸化膜におけるガス雰囲気に接する表面から絶縁層の表面までの距離を、その酸化膜の厚さ寸法とすることが好ましい。
この趣旨は、つまり、ガス不透過性の酸化膜の厚さ寸法は、絶縁層の表面に沿って見たときに何れにおいても請求項4に規定される厚み寸法の範囲を満たすようになっているというものである。例えば、絶縁層の表面は、内部の発熱抵抗体の存在によって少なからず凹凸があるが、ガス不透過性の酸化膜もその凹凸に沿って請求項4にて規定する数値の厚さ寸法を持つように形成されることを趣旨とする。これにより、絶縁層の凹凸における角から酸化膜の表面までの距離も、確実に確保されるため、上記凹凸によって酸化膜を設けた効果にばらつきが出ることを防ぐことができる。
【0019】
ところで、ガス不透過性の酸化膜は、具体的に、請求項6に記載のように、スパッタ法にて形成することができる。
スパッタ法とは、所望の原料にイオンを衝突させることでその原料を粒子としてはじき飛ばし、そのはじき飛ばした粒子を対象物に付着させることで、その対象物上に所望の薄膜を形成する方法である。スパッタ法によれば、より緻密な膜を形成できる。
【0020】
また、本発明のガス検出器では、ガス検出素子が熱伝導式ガス検出素子である場合、及び接触燃焼式ガス検出素子である場合の両方において前述したような効果(検出精度を高いレベルにすることができるという効果)を得ることができる。
【0021】
とりわけ、熱伝導式ガス検出素子においては、ガス不透過性の酸化膜を設ける効果がより大きいと考えられる。即ち、被検出ガスは気体であり熱伝導率は非常に小さく、被検出ガス濃度がppmオーダー(百万分の1)である低濃度領域で被検出ガスの検出を行うためには、ガス検出素子の出力を増幅する必要がある。この場合、ガス検出素子の出力に誤差があると、その誤差も拡大してしまう。したがって、誤差は小さいほうが良く、この点、本願発明によれば、不純物の侵入による熱容量の変化を抑制でき、ひいては誤差を抑制できるため有利である。
【0022】
また、本発明のガス検出器は、請求項8に記載のように、水素ガスを検出するものとして構成されると実用的である。
より具体的には、請求項9に記載のように、少なくともガス検出素子が、水素と酸素とから電力を発生する燃料電池における所定の箇所に配設され、その燃料電池における水素ガスを検出するように構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図1は、本発明が適用されたガス検出器1の縦断面図である。このガス検出器1は、例えば水素と酸素とから電力を発生する燃料電池における水素ガスの漏洩を検知する目的で使用される。
【0024】
ガス検出器1は、素子ケース20と、この素子ケース20を支持する収容ケース40と、を備えて構成される。
また、ガス検出器1は、熱伝導式ガス検出素子であるガス検出素子60、そのガス検出素子60と電気的に接続される回路基板41を有している。回路基板41には、マイクロコンピュータ(以下、マイコンともいう)94が搭載されている。
【0025】
ガス検出素子60は、素子ケース20に収容される。また、回路基板41は、素子ケース20とともに収容ケース40に収容される。
まず、収容ケース40の構成について説明する。
【0026】
収容ケース40は、ケース本体42と、ケース本体42の上端部に設けられた開口を覆う蓋であるケース蓋44と、を備えて構成されている。
ケース本体42は、上面及び下面に開口を有するとともに、所定の高さを有する容器であり、回路基板41の周縁部を保持する回路基板保持部45と、素子ケース20の鍔部38を保持する保持部46と、を備えている。
【0027】
また、ケース本体42は、ケース本体42の下部中央に形成された流路形成部43と、ケース本体42の側部に形成され、外部給電するためのコネクタ55と、を備えている。
流路形成部43の内部には、被検出ガスを導入及び排出するための素子ケース20の導入部35が収納されている。このように、素子ケース20は、収容ケース40内部に配置されるような形態で保持部46により保持されている。尚、素子ケース20の鍔部38とケース本体42との間には、これらの隙間をシール(密閉)するシール部材47が配置されている。
【0028】
コネクタ55は、回路基板41(およびマイコン94)に電気を供給するためのものであり、ケース本体42の外側面に組み付けられている。このコネクタ55の内部には、ケース本体42の側壁から突出する複数のコネクタピン56,57が設けられている。コネクタピン56,57はそれぞれ、ケース本体42の側壁に埋め込まれた配線(図示せず)を介して回路基板41(およびマイコン94)に電気的に接続されている。
【0029】
次に、素子ケース20について説明する。
素子ケース20は、ガス検出素子60が設置される接続端子取出台21と、接続端子取出台21の周縁部を挟持するとともに、被検出ガスを導入するガス導入口13に向かって突設された円筒状の壁面を有する検出空間形成部材22と、を備えている。尚、素子ケース20の接続端子取出台21の周縁部には、検出空間形成部材22との間の隙間をシール(密閉)するシール部材(図示省略)が配置されている。接続端子取出台21及び検出空間形成部材22により囲まれた空間は、被検出ガスを導入するための検出空間39となっている。
【0030】
接続端子取出台21には、接続端子24〜28を個別に挿入するための挿入孔がそれぞれ設けられており、各挿入孔の周縁部は絶縁性部材により覆われている。
接続端子24〜28は、ガス検出素子60と回路基板41に備えられた回路とを電気的に接続するための部材であり、導電性部材により棒状に形成されている。
【0031】
検出空間形成部材22は、外筒36,接続端子取出台21の周縁部を挟持する取出台支持部37、収容ケース40の保持部46により支持される鍔部38を備えている。また、検出空間形成部材22の下端部には、被検出ガスを検出空間39に導入する開口である導入口34が設けられている。
【0032】
この導入口34の近傍には、被検出ガスをガス検出素子60に対して導入及び排出するための流路を形成する導入部35が設けられている。導入部35には、導入口34から近い順に、撥水フィルタ29,スペーサ30、2枚の金網31,32がそれぞれ装填されている。そして、これらの部材は、検出空間形成部材22とフィルタ固定部材33とにより挟持固定されている。
【0033】
撥水フィルタ29は、導入口34に最も近い位置に取り付けられるフィルタであり、被検出ガス中に含まれている水滴を除去する撥水性を有する薄膜である。これより、水滴などが飛来する多湿環境下においても、ガス検出素子60が被水するのを防止することができる。撥水フィルタ29は、物理的吸着により水滴を除去するものであればよく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を利用したフィルタを適用することができる。
【0034】
スペーサ30は、フィルタ固定部材33の内周壁に備えられ、被検出ガスが導入される開口を有する形状(平面視ではリング状)の部材であり、所定の厚みを有することにより、撥水フィルタ29と2枚の金網31,32との位置を調整している。
【0035】
2枚の金網31,32は、所定の厚みと所定の開口部を有しており、ガス検出素子60に設けられた発熱抵抗体の温度が被検出ガスに含まれる水素ガスの発火温度よりも上昇して発火した場合であっても、火炎が外部に出るのを防止するフレームアレスタとしての機能を果たす。
【0036】
フィルタ固定部材33は、検出空間形成部材22の内壁面と当接する筒状の壁面を有すると共に、その壁面の内面から内向きに突出する凸部を備えている。凸部は、撥水フィルタ29,スペーサ30、2枚の金網31,32を検出空間形成部材22との間で挟持固定するために備えられている。
【0037】
次に、回路基板41について説明する。
回路基板41は、所定の厚みを有する板状の基板であり、被検出ガス中に含まれる可燃性ガスを検出するための制御回路90(後述する)と、発熱体50,51の温度を制御するための温度制御回路(図示せず)と、をそれぞれ備えている。
【0038】
回路基板41における制御回路90は、接続端子24〜28により、ガス検出素子60と電気的に接続されている。また、回路基板41における温度制御回路は、リード線52,53により、発熱体50,51と電気的に接続されている。
【0039】
回路基板41に搭載されたマイコン94は、同じく回路基板41に設けられた制御回路90の出力に基づき、被検出ガス中に含まれる可燃性ガスの濃度を演算する処理(センサ出力演算処理)を実行する。また、温度制御回路の出力に基づき、発熱体50,51の発熱量(温度)を制御する処理(温度制御処理)を実行する。マイコン94は、少なくとも、これらのセンサ出力演算処理や発熱体50,51の温度制御処理を実行するためのプログラムを格納する記憶装置と、この記憶装置に記憶されたプログラムを実行するCPUと、を備えて構成されている。
【0040】
次に、発熱体50,51について説明する。
発熱体50,51は、素子ケース20を加熱し、素子ケース20の内側面の温度或いは検出空間39内を所定温度より高い温度(少なくとも露点より高い温度)に保つためのものである。発熱体50,51は、例えば、電子部品等で用いられる抵抗体や、フィルムヒータなどを用いて構成される。発熱体50,51による加熱により、被検出ガスが、素子ケース20の内側面或いは検出空間39内で冷却されてしまうこと、ひいてはその素子ケース20の内側面或いは検出空間39内が結露するような事態や被検出ガスの温度が不安定になるようなことを防止することができる。
【0041】
次に、制御回路90の概略について、図2を参照して説明する。
図2に示すように、制御回路90は、ガス検出回路91、及び温度測定回路93を備えている。
【0042】
ガス検出回路91は、ガス検出素子60に備えられた発熱抵抗体71と、回路基板41に備えられた固定抵抗95,96,97とによって構成されるホイートストーンブリッジ911、及び、回路基板41に備えられ、このホイートストーンブリッジ911から得られる電位差を増幅するオペアンプ912を備えている。
【0043】
発熱抵抗体71として、自身の温度の上昇に伴い抵抗値が上昇する抵抗体を用いた場合、このオペアンプ912は、発熱抵抗体71の温度が所定の温度に保たれるように、発熱抵抗体71の温度が上昇した場合には出力する電圧を低くし、発熱抵抗体71の温度が下降した場合には出力する電圧を高くするように作動する。
【0044】
そして、このオペアンプ912の出力は、ホイートストーンブリッジ911に接続されているので、発熱抵抗体71の温度が所定の温度より上昇すると、発熱抵抗体71の温度を下げるためにオペアンプ912から出力される電圧は低くなり、ホイートストーンブリッジ911に印加される電圧が低下する。このときの、ホイートストーンブリッジ911の端部を構成する電極85の電圧はガス検出回路91の出力としてマイコン94により検出され、マイコン94により検出された出力値は、被検出ガスに含まれ可燃性ガスを検出するための演算処理に供される。
【0045】
温度測定回路93は、ガス検出素子60に備えられた測温抵抗体80(後述する)と、回路基板41に備えられた固定抵抗101,102,103によって構成されるホイートストーンブリッジ931と、回路基板41に備えられ、このホイートストーンブリッジ931から得られる電位差を増幅するオペアンプ933とを備えている。このオペアンプ933の出力はマイコン94により検出され、マイコン94により検出された出力値は、被検出ガスの温度を測定するのに用いられ、さらに、被検出ガスに含まれ可燃性ガスを検出するための演算処理に供される。
【0046】
以上のような構成を有する制御回路90の出力値に基づき、マイコン94により実行される可燃性ガスの濃度を演算する処理は、次のようなものである。まず、マイコン94が備えるCPU(図示せず)は、同じくマイコン94が備える記憶装置(図示せず)に記憶されたプログラムに基づき、ガス検出回路91の出力値から、可燃性ガス濃度にほぼ比例した第1の出力値を出力する。この第1の出力値は検出空間39の雰囲気温度変化による出力変化を含んでいるので、続いて、温度測定回路93からの出力に基づき第1の出力値を補正した第2の出力値を出力する。さらに、マイコン94は、そのマイコン94の記憶装置(図示せず)に記憶された第2の出力値と可燃性ガスの濃度との関係に基づき、被検出ガス中に含まれる可燃性ガスの濃度を出力する。このように、第1の出力値を温度測定回路93の出力に基づき補正しているので、精度よく可燃性ガスを検出できる。尚、可燃性ガスの濃度を演算する処理は、上記のものに限られず、公知の手段を適宜用いれば良い。
【0047】
次に、ガス検出素子60の構成について説明する。図3に、ガス検出素子60の平面図を示す。また、図4に、ガス検出素子60の断面図(図3におけるA−A矢視断面図)を示す。尚、図3の平面図において、紙面の左右方向をその平面図の左右方向とする。また、図4の断面図において、紙面の上下方向をその断面図の上下方向とする。
【0048】
ガス検出素子60は、マイクロマシニング技術を用いて製造されるもので、図4に示すが、シリコン製半導体基板61を備えるとともに、シリコン製半導体基板61の上下両側に絶縁層(上側絶縁層67、下側絶縁層66)を備えている。上側絶縁層67は、シリコン製半導体基板61の表面に形成されており、一方、下側絶縁層66は、シリコン製半導体基板61の裏面に形成されている。また、上側絶縁層67の表面には、保護層64が形成されている。尚、上側絶縁層67は、シリコン製半導体基板61の表面に形成される絶縁層68と、絶縁層68の表面に形成される絶縁保護層69とから構成される。また、ガス検出素子60は、発熱抵抗体71を備えている。
【0049】
シリコン製半導体基板61は、発熱抵抗体71の下方に位置する部位に、シリコン製半導体基板61の一部が開口状に除去された空洞62を備えており、当該空洞62の上部は、上側絶縁層67の一部が露出している。そして、発熱抵抗体71は、上側絶縁層67において空洞62に対応する領域に内包されている。
【0050】
このような構成にすることにより、発熱抵抗体71は、空洞62により周囲から断熱されるため、短時間にて昇温又は降温する。このため、ガス検出素子60の熱容量を小さくすることができる。
【0051】
また、発熱抵抗体71が形成された平面と同じ平面に形成された配線膜711,712、及び、配線713,714(配線713,714については図3参照)がそれぞれ上側絶縁層67に内包されている。この上側絶縁層67は、絶縁性を有する材料により形成され、例えば、酸化珪素(SiO2)、窒化珪素(Si3N4)が用いられる。上側絶縁層67は、複数の層を単一の材料により形成しても良いし、複数の層を異なる材料を用いて形成するようにしてもよい。本実施形態では、少なくとも絶縁保護層69は、窒化珪素(Si3N4)からなる。
【0052】
保護層64は、上側絶縁層67の上面に所定の厚みを有する層状に形成され、例えばアルミナや酸化珪素により形成される。この保護層64は、発熱抵抗体71、配線膜711,712、配線713,714の汚染や損傷を防止すべくそれらを覆うように設けられている。
【0053】
前述の発熱抵抗体71は、渦巻き状に形成され(図3参照)、被検出ガスの温度(詳細には、可燃性ガスへの熱伝導)により、自身の温度が変化するとともに自身の抵抗値が変化する抵抗体である。発熱抵抗体71は、温度抵抗係数が大きい導電性部材によって形成され、例えば、白金(Pt)により形成される。可燃性ガスとしての水素ガスを検出する場合、水素ガスへの熱伝導によって発熱抵抗体71から奪われる熱量の大きさは、水素ガス濃度に応じた大きさとなる。このことから、発熱抵抗体71における電気抵抗値の変化に基づいて、水素ガス濃度を検出することが可能となる。
【0054】
尚、発熱抵抗体71の抵抗値変化は被検出ガスの温度による影響を受けるため、後述する測温抵抗体80(図3)の電気抵抗値に基づき検出される温度を用いて、発熱抵抗体71の電気抵抗値変化に基づき検出した被検出ガスの濃度を補正することにより、被検出ガス濃度の検出精度を向上させることができる。
【0055】
次に、発熱抵抗体71の左端は、上側絶縁層67(図4)に内包され、発熱抵抗体71と一体に形成された配線713(図3)及び配線膜711(図4)を介し、電極85(図3)と電気的に接続されている。一方、発熱抵抗体71の右端は、上側絶縁層67に内包され、発熱抵抗体71と一体に形成された配線714(図3)及び配線膜712(図4)を介し、グランド電極86(図3)と電気的に接続されている。この電極85及びグランド電極86は、発熱抵抗体71に接続される配線の引き出し部位であり、コンタクトホール84(図4)を介して露出している。この電極85及びグランド電極86の材質は、例えば、アルミニウム(Al)又は金(Au)が用いられる。
【0056】
測温抵抗体80(図3)は、検出空間39(図1参照)内に存在する被検出ガスの温度を検出するためのものであり、上側絶縁層67(図4)と保護層64(図4)との間で、かつ、シリコン製半導体基板61と平行な平面上に形成されている。測温抵抗体80は、電気抵抗値が温度に比例して変化する金属が用いられ、例えば、白金(Pt)が用いられる。
【0057】
また、測温抵抗体80は、電極88(図3)及びグランド電極89(図3)と電気的に接続されている。この電極88及びグランド電極89は、コンタクトホール(図示せず)を介して露出している。この電極88及びグランド電極89の材質は、例えば、アルミニウム(Al)又は金(Au)が用いられる。
【0058】
次に、ガス検出素子60の製造工程について図5を用いて説明する。
(1)絶縁層68、下側絶縁層66の形成工程(第1工程)
シリコン製半導体基板61を準備し、このシリコン製半導体基板61を洗浄した上で当該シリコン製半導体基板61に熱酸化処理を施す。これにより、シリコン製半導体基板61の表裏面が上下両側の酸化珪素膜(SiO2膜)としてそれぞれ100[nm]の厚さにて形成される。ついで、シリコン製半導体基板61の上下両側の各酸化珪素膜に減圧CVD法により上下両側の各窒化珪素膜(Si3N4膜)をそれぞれ積層して200[nm]の厚さにて形成する。
【0059】
これにより、シリコン製半導体基板61の上側の酸化珪素膜及び窒化珪素膜が絶縁層68として形成され、一方、シリコン製半導体基板61の下側の酸化珪素膜及び窒化珪素膜が下側絶縁層66として形成される。
(2)発熱抵抗体71及び配線膜711,712の形成工程(第2工程)
上述のように絶縁層68及び下側絶縁層66を形成した後、温度300[℃]の雰囲気内において、タンタル膜(Ta膜)を20[nm]の厚さにて絶縁層68の表面にスパッタ法により形成し、ついで、白金膜(Pt膜)を400[nm]の厚さにてそのタンタル膜にスパッタ法により積層状に形成し、再度、タンタル膜を当該白金膜に20[nm]の厚さにてスパッタ法により積層状に形成する。尚、タンタル膜は、上記白金膜の絶縁層68との密着強度を高める役割をもつ。
【0060】
然る後、フォトリソグラフィ処理にて、タンタル膜、及び白金膜のうち発熱抵抗体71及び配線膜711,712に対する対応部以外の部位を、エッチングにより除去する。これにより、発熱抵抗体71及び配線膜711,712が、絶縁層68の表面上に形成される。尚、配線膜711,712及び発熱抵抗体71の抵抗温度係数は、約2000[ppm/℃]である。尚、この工程において、測温抵抗体80についても、発熱抵抗体71と同様の手法により、絶縁層68の表面上に形成する。
(3)絶縁保護層69の形成工程(第3工程)
上述のように発熱抵抗体71及び配線膜711,712を形成した後、酸化珪素層(SiO2層)を、プラズマCVD法により、各発熱抵抗体71及び配線膜711,712を覆うようにして絶縁層68の表面上に100[nm]の厚さにて形成する。さらに、当該酸化珪素層上に、窒化珪素層(Si3N4層)を、減圧CVD法により、200[nm]の厚さにて積層状に形成する。これらの形成は、絶縁層68や下側絶縁層66、配線膜711,712のプロセス温度に比べて、低温のプロセスでなされる。
【0061】
ついで、当該窒化珪素層及び酸化珪素層の積層のうち配線膜711,712に対応する各部位を、フォトリソグラフィ処理のもとエッチングにより除去する。これにより、コンタクトホール84を有する絶縁保護層69が、発熱抵抗体71を覆うようにして絶縁層68の表面上に形成される。また、同様のエッチングにより、測温抵抗体80用のコンタクトホール(図示せず)を形成する。
(4)保護層64の形成工程(第4工程)
上述のように絶縁保護層69を形成した後、アルミナ層を20[nm]の厚さにてスパッタ法により積層状に形成する。
【0062】
ついで、アルミナ層のうち配線膜711,712に対応する各部位を、フォトリソグラフィ処理のもとエッチングにより除去する。
(5)電極85,86の形成工程(第5工程)
上述のように保護層64を形成した後、クロム膜(Cr膜)を20[nm]の厚さにて保護層64にスパッタ法により層状に形成し、ついで、このクロム膜上に、金膜(Au膜)を600[nm]の厚さにてスパッタ法により積層状に形成する。
【0063】
然る後、このように積層した金膜及びクロム膜からなる電極層のうち各コンタクトホール84に対する対応部以外の部位を、フォトリソグラフィ処理のもとエッチングにより除去する。これにより、電極85,86が、各コンタクトホール84に対応して形成される。また、この工程の際に、電極88及びグランド電極89についても、図示しないコンタクトホールに対応して形成される。
(6)空洞62の形成工程(第6工程)
上述のように電極85,86を形成した後、下側絶縁層66のうち発熱抵抗体71に対応する各部位を、エッチングにより除去し、ついで、この除去部位に対応するシリコン製半導体基板61の各部位を水酸化テトラメチルアンモニウムを用いてエッチングにより除去して、絶縁層68のうち発熱抵抗体71に対応する部位を外方に露呈させる。これにより、空洞62が、シリコン製半導体基板61及び下側絶縁層66のうち発熱抵抗体71に対応する部位に形成される。
【0064】
ここで、保護層64の「厚み」について図6を用いて説明する。
まず、前提として、絶縁保護層69の表面には、下地に例えば発熱抵抗体71が存在することによって、図6に示すように凹凸(段差)が生じる。
【0065】
そして、例えば、保護層64の厚みがS[nm]であるとするその趣旨は、絶縁保護層69の表面を直径Sの円が転がることによって描かれる軌跡が保護層64の表面内に内包される、という趣旨である。即ち、図6に示すように、垂直方向の厚み、及び水平方向の厚みの双方とも、S[nm]となる。さらに、絶縁保護層69の角100からの厚み(角100から保護層64の表面までの距離)も、S[nm]となる。
【0066】
尚、図7に示すように、絶縁保護層69の凹凸の角に合わせ、保護層64の表面の凹凸にも角が立つような構成でも良い。
このような本実施形態においては、ガス検出素子60は、その表面がアルミナからなる保護層64で覆われているため、耐アルカリ性に優れたものとなっている。しかも、保護層64はスパッタ法により形成されており、より緻密な構成(例えばガス不透過性)となっている。このため、例えば保護層64の構成がポーラス(多孔質性)である場合と比較して、被検出ガスが含まれる環境中の不純物(例えば有機シリコン)の保護層64への侵入を抑制することができる。
【0067】
次に、本願発明の効果を示すために本願出願人が行った実験について説明する。
[実験1:有機シリコン化合物被毒試験]
〈実験の概要〉
図8に実験1の概要を示すが、本実験1では、本発明が適用されたガス検出器1のガス検出素子60(以下、アルミナスパッタ保護層素子160と記載する)と、アルミナゾルを用いてスピンコーティング法により保護層64を形成したガス検出素子(以下、アルミナゾル保護層素子161と記載する)と、保護層64を設けないガス検出素子(以下、露出素子162と記載する)とを用意し、各ガス検出素子について検証を行った。
【0068】
図8において、恒温槽10は、内部の温度が80[℃]に保たれた容器である。恒温槽10の内部には、チャンバ11が備えられる。
チャンバ11には、配管14と配管17とが接続されている。また、チャンバ11には、ガス検出器1が備えるガス検出素子60(アルミナスパッタ保護層素子160)がそのチャンバ11内部に収まるように、そのガス検出器1が配設される。尚、ガス検出器1としては、アルミナスパッタ保護層素子160、アルミナゾル保護層素子161、露出素子162、を備えたものがそれぞれ用意され、チャンバ11に配設される。
【0069】
チャンバ11に接続された配管14には、そのチャンバ11に向かって大気が導入されるとともに、その配管14の途中には、後述する容器18内の気体が合流するように導入されるようになっている。尚、配管17は、チャンバ11内の気体を外部に排気するためのものである。
【0070】
容器18は、恒温槽10の外部において設置され、有機シリコン化合物としてのHMDS(密着性向上塗布液)を収容する。容器18の内部には、配管15を介して大気が導入されるとともに、その容器18内の気体が、配管16を介して配管14に導入される。
【0071】
このような構成により、HMDS=400[ppm]、H2=1000[ppm]となる混合気体が生成されてチャンバ11内に導入されるようになっている。尚、混合気体の流量は3[L/min](流速0.02[m/s])である。
【0072】
尚、各ガス検出素子における発熱抵抗体71の温度は400[℃]に保たれるように設定される。
そして、本実験1では、混合気体を250[h]流し続け、その間において、各ガス検出素子の発熱抵抗体71に印加される電圧(以下、ヒータ電圧と記載する)の大きさを検出した。
〈実験結果及び考察〉
図9に、各ガス検出素子(アルミナスパッタ保護層素子160、アルミナゾル保護層素子161、露出素子162)についてのヒータ電圧の大きさの変化を表すグラフを示す。
【0073】
また、図10に、各ガス検出素子についてのヒータ電圧の変化の数値を示す。より具体的には、試験開始時のヒータ電圧と、試験を開始して250[h]後のヒータ電圧との差を示す。尚、図9,10において、「アルミナスパッタ」がアルミナスパッタ保護層素子160に対応し、「アルミナゾル」がアルミナゾル保護層素子161に対応し、「保護層無し」が露出素子162に対応する。後述する図12についても同様である。
【0074】
図9,10に示すように、アルミナスパッタ保護層素子160、及び露出素子162については、時間が経過してもヒータ電圧の大きさにほとんど変化はなかった。より具体的に、アルミナスパッタ保護層素子160については、試験開始時と、試験開始から250[h]経過した時点とで、ヒータ電圧の変化は−0.6[mV]であった。また、露出素子162については、試験開始時と、試験開始から250[h]経過した時点とで、ヒータ電圧の変化は0[mV]であった。このことから、アルミナスパッタ保護層素子160、及び露出素子162については、熱容量の変化がほとんどないことが分かり、この点から、有機シリコンの付着が極めて少ないと考えられる。
【0075】
一方、アルミナゾル保護層では、ヒータ電圧が大きく上昇した。より具体的に、試験開始時と、試験開始から250[h]経過した時点とで、ヒータ電圧の変化は16[mV]であった。このことから、アルミナゾル保護層では、熱容量が大きく上昇したことが分かり、この点から、有機シリコンが多量に付着したと考えられる。
【0076】
このように、本実施形態のガス検出素子60によれば、不純物(有機シリコン)の付着を抑制できること、またこれにより熱容量の変化を抑制できることが確認できた。このようなガス検出素子60ならば、出力が安定し、かつ正確なものとなる。言い換えれば、検出精度を高いレベルで得ることができるようになる。
【0077】
このような結果により、本発明では、上述のような所定の試験期間におけるヒータ電圧の変化の幅が±5[mV]以下であるような保護層64が、ガス不透過性を有するものと定義することができる。
[実験2:耐アルカリ性試験]
〈実験の概要〉
図11に実験2の概要を示すが、ここでは、実験1と同様、アルミナスパッタ保護層素子160と、アルミナゾル保護層素子161と、露出素子162とを用意し、各ガス検出素子について検証を行った。
【0078】
まず、水酸化ナトリウム(NaOH)を1[mol]含む溶液(以下、NaOH溶液と記載する)を用意し、各ガス検出素子(アルミナスパッタ保護層素子160、アルミナゾル保護層素子161、露出素子162)をそのNaOH溶液中に5s間浸す。
【0079】
そして、各ガス検出素子を常温にて乾燥させる。
その後、乾燥させた各ガス検出素子(アルミナスパッタ保護層素子160、アルミナゾル保護層素子161、露出素子162)を加圧試験装置111内に設置し、加圧試験装置111内を120[℃]に保って24時間放置した。
【0080】
各ガス検出素子(アルミナスパッタ保護層素子160、アルミナゾル保護層素子161、露出素子162)は、それぞれ18個づつ用意し、合計54のガス検出素子を加圧試験装置111内に設置した。
【0081】
加圧試験装置111内には、各ガス検出素子を設置するための台113が設けられている。また、台113の下方は、純水112で満たされている。そして、加圧試験装置111では、その加圧試験装置111の内部が密閉された状態で、その内部の純水が加熱されることによって水蒸気が発生し、これにより内部の圧力が上昇するようになっている。尚、加圧試験装置111は図示しない扉を有しており、使用者は、扉を開閉することによって、検体(本実施形態ではガス検出素子)の設置及び取り出しが可能なようになっている。
【0082】
図12に、各ガス検出素子毎に、破損が生じた(ヒータが破損した)個数を示す。
図12に示すように、露出素子162については、18個中12個が破損した。
また、アルミナゾル保護層素子161及びアルミナスパッタ保護層素子160については、18個中、破損数は0であった。
【0083】
このことから、ガス検出素子の最表面が窒化珪素層である場合には、耐アルカリ性が弱く、アルカリ性の成分の付着によって破損しやすくなることが分かる。
一方、ガス検出素子の最表面が耐アルカリ性の酸化膜である場合には、耐アルカリ性が向上し、アルカリ性の成分が付着しても破損しにくいことが確認できた。
【0084】
以上の実験結果から明らかなように、本実施形態のガス検出器1が備えるガス検出素子60は、優れた耐アルカリ性を備え、また、不純物(有機シリコン)が付着しにくいガス不透過性を有する保護層64を備えており、アルカリ性の成分の付着による破損、及び不純物(有機シリコン)の付着が抑制されるようになっている。不純物(有機シリコン)の付着が抑制されることにより、前述したように、検出精度を高いレベルで得ることができる。
【0085】
つまり、本実施形態のガス検出器1(より具体的にはガス検出素子60)によれば、ガス検出素子60の最表面にガス不透過性の酸化膜(保護層64)が形成されていることにより、耐アルカリ性と検出精度とを高いレベルで両立できるようになっている。
【0086】
尚、本実施形態において、回路基板41が制御手段に相当し、保護層64がガス不透過性の酸化膜に相当している。
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術範囲内において種々の形態をとることができる。
【0087】
例えば、上記実施形態において、保護層64の厚みは、20〜500[nm]の間の所定の厚みにすることができる。また、保護層64の厚みは、発熱抵抗体71の厚みの20分の1以上の所定の厚みとすることができる。
【0088】
また、上記実施形態では、ガス検出素子60が熱伝導式ガス検出素子の場合について説明したが、ガス検出素子60は接触燃焼式ガス検出素子でも良い。
また、上記実施形態では、水素ガスを検出する場合について説明したが、本発明のガス検出器1は他の種類の可燃性ガスも検出可能である。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本実施形態のガス検出器1の縦断面図である。
【図2】回路基板41に設けられる制御回路90を表す図面である。
【図3】ガス検出素子60の平面図である。
【図4】ガス検出素子60のA−A矢視断面図である。
【図5】ガス検出素子60の製造工程を表す図である。
【図6】保護層64の厚みの定義を説明する図である。
【図7】保護層64の厚みの他の定義を説明する図である。
【図8】実験1の概要を示す図である。
【図9】実験1の結果を表すグラフである。
【図10】実験1の結果を表す図表である。
【図11】実験2の概要を表す図である。
【図12】実験2の結果を表す図表である。
【符号の説明】
【0090】
1…ガス検出器、10…恒温槽、11…チャンバ、13…ガス導入口、14〜17…配管、18…容器、20…素子ケース、35…導入部、39…検出空間、40…収容ケース、41…回路基板、42…ケース本体、50,51…発熱体、60…ガス検出素子、61…シリコン製半導体基板、64…保護層、71…発熱抵抗体、80…測温抵抗体、85…電極、86…グランド電極、88…電極、89…グランド電極、90…制御回路、94…マイコン、111…加圧試験装置、112…純水、113…台。
【技術分野】
【0001】
本発明は、可燃性ガスの濃度測定や漏洩検知等に用いられるガス検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
可燃性ガスの濃度測定や漏洩検知を行うガス検出器では、省スペース化や低消費電力化の観点から、より一層の小型化が望まれている。近年では、MEMS(Micro Electro Mechanical System)の技術(マイクロマシニング技術とも言われる)を用いたより小型のガス検出素子も開発されている。MEMSの技術を用いたガス検出素子は、半導体基板(例えば、シリコン基板)上に複数の薄膜が積層状に構成されてなるものである。
【0003】
このようなガス検出素子としては、発熱抵抗体を備え、その発熱抵抗体に通電されて発熱抵抗体が発熱した際に可燃性ガスへの熱伝導が生じることを利用した熱伝導式ガス検出素子がある。具体的に、ガス検出素子の温度を一定の温度に制御する場合、熱伝導によって発熱抵抗体の温度が変化するとともに抵抗値が変化するため、その変化量に基づき、被検出ガスを検出するものである。また、他には、発熱抵抗体、及びその発熱抵抗体の熱に基づき可燃性ガスを燃焼させる触媒を有し、発熱抵抗体に通電された際に触媒によって可燃性ガスが燃焼することを利用する接触燃焼式ガス検出素子がある。具体的に、可燃性ガスの燃焼熱に応じて発熱抵抗体の温度が変化するとともに抵抗値が変化するため、その変化量に基づき可燃性ガスを検出するものである。
【0004】
何れも、可燃性ガスの種類或いは濃度により発熱抵抗体の抵抗値が変化するため、そのようなガス検出素子を備えたガス検出器においては、発熱抵抗体の抵抗値に基づき可燃性ガスを検出することができる。
【0005】
このようなガス検出素子は、半導体基板上に絶縁層を設け、この絶縁層内に発熱抵抗体を配置させる構成をとるが、絶縁層の最表面(具体的に、可燃性ガスが含まれるガス雰囲気に接する面)は、耐腐食性や安定性に優れていることが好ましく、MEMSの技術を用いて作製されるガス検出素子では、絶縁層の最表面は、窒化珪素で構成される場合がある(特許文献1参照)。しかし、窒化珪素などの材質によっては、アルカリ成分の付着によって侵食する傾向を示すものがあり、アルカリに対する耐久性の向上を図ることが望ましい。
【0006】
そこで、アルカリ成分の付着による侵食を防止するために、窒化珪素等で構成される表面に、さらに、耐アルカリ性の保護層(以下、耐アルカリ保護層と記載する)を設けることも考えられている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2では、所謂スピンコーティング法により、耐アルカリ保護層を形成している。具体的に、アルミナゾルからなる溶液層を表面に塗布形成し、その後焼成することによって、アルミナの層(つまり、耐アルカリ保護層)を形成している。尚、特許文献1,2は、双方とも本願の出願人によって出願されたものである。
【特許文献1】特開2005−156364号公報
【特許文献2】特開2005−164570号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2のようにガス検出素子の性能(耐アルカリ性などの耐久性)を向上させたガス検出器が優れていることは言うまでもないが、近年では、そのような性能向上に加え、さらに、より高いレベルの検出精度が要求されている。
【0008】
本願出願人が鋭意研究を行った結果、例えば上記特許文献2のようなガス検出器において、検出精度について改善の余地のあることが分かってきた。
まず、可燃性ガスが含まれる環境中には、少なからず不純物(例えば有機シリコン)が混じっている場合があり、不純物がガス検出素子の出力に影響する場合が考えられた。具体的に、特許文献2では焼成によって耐アルカリ保護層が形成されており、この場合、その耐アルカリ保護層の構造はポーラス(多孔質性)となる。そうすると、耐アルカリ保護層の孔に不純物が入り込むこと、またそれによってガス検出素子の熱容量が変化してしまうこと(つまり、ガス検出素子の出力に誤差が生じること)も否定できない。
【0009】
本発明は、こうした点に鑑みなされたもので、可燃性ガスの濃度測定や漏洩検知等に用いられるガス検出器において、耐久性と検出精度とを高いレベルで両立させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するためになされた請求項1に記載の発明は、少なくとも発熱抵抗体と絶縁層とが半導体基板に積層され、絶縁層が、発熱抵抗体を覆うように形成されてなるガス検出素子と、発熱抵抗体の通電を制御するとともに、その発熱抵抗体に通電した際のその発熱抵抗体の抵抗値に基づき被検出ガスを検出する制御手段と、を備えたガス検出器において、ガス検出素子は、絶縁層の表面に、その絶縁層を覆うように積層されるガス不透過性の酸化膜を有し、そのガス不透過性の酸化膜が、被検出ガスを含むガス雰囲気に接する最表面層を構成していることを特徴としている。
【0011】
尚、本発明における「検出」とは、被検出ガスの有無を判定することに限らず、被検出ガスの濃度を検量することを含む趣旨である。また、酸化膜がガス不透過性であるとは、酸化膜がガスを通さないほどより緻密に構成されていることを趣旨とする。
【0012】
請求項1に係るガス検出器では、ガス検出素子の最表面層が耐アルカリ性に優れた傾向を示す酸化膜で形成され、例えばアルカリ性の成分がそのガス検出素子の表面に付着したとしても、アルカリ性の成分による侵食を防止できる。
【0013】
しかも、酸化膜はガス不透過性を有しており(緻密に構成されており)、これにより、被検出ガスが含まれる環境中の不純物(例えば有機シリコン等)が酸化膜中に侵入することを抑制することができる。例えば、酸化膜の構造が、ガス透過性を有するポーラス(多孔質状)であれば、孔に不純物が入り込むなどして不純物が付着しやすいことも考えられるが、本発明ではそのようなことがない。
【0014】
このため、ガス検出素子において不純物が最表面層中に侵入してしまって熱容量が変化してしまうようなことを抑制することができる。したがって、ガス検出素子の出力が安定し、かつ正確なものとなる。つまり、検出精度を高いレベルにすることができる。
【0015】
ところで、絶縁層の表面は、例えば請求項2に記載のように、窒化珪素で構成することが好ましい。窒化珪素は耐腐食性や安定性の点で優れているため、耐アルカリ性に優れる酸化膜との設置効果と相俟ってガス検出素子の耐久性を高めることができる。
【0016】
また、ガス不透過性の酸化膜に孔(スポット、ポア)が生じることを抑制するためには、最低限の膜厚を確保する必要があり、例えば請求項3に記載のように、ガス不透過性の酸化膜は、その厚さ寸法が、半導体基板の表裏面に垂直な方向に対する発熱抵抗体の厚さ寸法の20分の1以上となるように形成されているようにすることができる。
【0017】
また、請求項4に記載のように、より具体的に、ガス不透過性の酸化膜は、その厚さ寸法が、20〜500[nm]となるように形成されているようにすることができる。尚、ガス不透過性の酸化膜の厚さ寸法が過剰に大きい場合には、そのガス不透過性の酸化膜の熱による膨張、収縮等に対する柔軟性が小さくなってしまう。このため、請求項4のように、ガス不透過性の酸化膜の厚さ寸法の上限を500[nm]とすることは好ましい。
【0018】
ここで、請求項5のように、ガス不透過性の酸化膜におけるガス雰囲気に接する表面から絶縁層の表面までの距離を、その酸化膜の厚さ寸法とすることが好ましい。
この趣旨は、つまり、ガス不透過性の酸化膜の厚さ寸法は、絶縁層の表面に沿って見たときに何れにおいても請求項4に規定される厚み寸法の範囲を満たすようになっているというものである。例えば、絶縁層の表面は、内部の発熱抵抗体の存在によって少なからず凹凸があるが、ガス不透過性の酸化膜もその凹凸に沿って請求項4にて規定する数値の厚さ寸法を持つように形成されることを趣旨とする。これにより、絶縁層の凹凸における角から酸化膜の表面までの距離も、確実に確保されるため、上記凹凸によって酸化膜を設けた効果にばらつきが出ることを防ぐことができる。
【0019】
ところで、ガス不透過性の酸化膜は、具体的に、請求項6に記載のように、スパッタ法にて形成することができる。
スパッタ法とは、所望の原料にイオンを衝突させることでその原料を粒子としてはじき飛ばし、そのはじき飛ばした粒子を対象物に付着させることで、その対象物上に所望の薄膜を形成する方法である。スパッタ法によれば、より緻密な膜を形成できる。
【0020】
また、本発明のガス検出器では、ガス検出素子が熱伝導式ガス検出素子である場合、及び接触燃焼式ガス検出素子である場合の両方において前述したような効果(検出精度を高いレベルにすることができるという効果)を得ることができる。
【0021】
とりわけ、熱伝導式ガス検出素子においては、ガス不透過性の酸化膜を設ける効果がより大きいと考えられる。即ち、被検出ガスは気体であり熱伝導率は非常に小さく、被検出ガス濃度がppmオーダー(百万分の1)である低濃度領域で被検出ガスの検出を行うためには、ガス検出素子の出力を増幅する必要がある。この場合、ガス検出素子の出力に誤差があると、その誤差も拡大してしまう。したがって、誤差は小さいほうが良く、この点、本願発明によれば、不純物の侵入による熱容量の変化を抑制でき、ひいては誤差を抑制できるため有利である。
【0022】
また、本発明のガス検出器は、請求項8に記載のように、水素ガスを検出するものとして構成されると実用的である。
より具体的には、請求項9に記載のように、少なくともガス検出素子が、水素と酸素とから電力を発生する燃料電池における所定の箇所に配設され、その燃料電池における水素ガスを検出するように構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図1は、本発明が適用されたガス検出器1の縦断面図である。このガス検出器1は、例えば水素と酸素とから電力を発生する燃料電池における水素ガスの漏洩を検知する目的で使用される。
【0024】
ガス検出器1は、素子ケース20と、この素子ケース20を支持する収容ケース40と、を備えて構成される。
また、ガス検出器1は、熱伝導式ガス検出素子であるガス検出素子60、そのガス検出素子60と電気的に接続される回路基板41を有している。回路基板41には、マイクロコンピュータ(以下、マイコンともいう)94が搭載されている。
【0025】
ガス検出素子60は、素子ケース20に収容される。また、回路基板41は、素子ケース20とともに収容ケース40に収容される。
まず、収容ケース40の構成について説明する。
【0026】
収容ケース40は、ケース本体42と、ケース本体42の上端部に設けられた開口を覆う蓋であるケース蓋44と、を備えて構成されている。
ケース本体42は、上面及び下面に開口を有するとともに、所定の高さを有する容器であり、回路基板41の周縁部を保持する回路基板保持部45と、素子ケース20の鍔部38を保持する保持部46と、を備えている。
【0027】
また、ケース本体42は、ケース本体42の下部中央に形成された流路形成部43と、ケース本体42の側部に形成され、外部給電するためのコネクタ55と、を備えている。
流路形成部43の内部には、被検出ガスを導入及び排出するための素子ケース20の導入部35が収納されている。このように、素子ケース20は、収容ケース40内部に配置されるような形態で保持部46により保持されている。尚、素子ケース20の鍔部38とケース本体42との間には、これらの隙間をシール(密閉)するシール部材47が配置されている。
【0028】
コネクタ55は、回路基板41(およびマイコン94)に電気を供給するためのものであり、ケース本体42の外側面に組み付けられている。このコネクタ55の内部には、ケース本体42の側壁から突出する複数のコネクタピン56,57が設けられている。コネクタピン56,57はそれぞれ、ケース本体42の側壁に埋め込まれた配線(図示せず)を介して回路基板41(およびマイコン94)に電気的に接続されている。
【0029】
次に、素子ケース20について説明する。
素子ケース20は、ガス検出素子60が設置される接続端子取出台21と、接続端子取出台21の周縁部を挟持するとともに、被検出ガスを導入するガス導入口13に向かって突設された円筒状の壁面を有する検出空間形成部材22と、を備えている。尚、素子ケース20の接続端子取出台21の周縁部には、検出空間形成部材22との間の隙間をシール(密閉)するシール部材(図示省略)が配置されている。接続端子取出台21及び検出空間形成部材22により囲まれた空間は、被検出ガスを導入するための検出空間39となっている。
【0030】
接続端子取出台21には、接続端子24〜28を個別に挿入するための挿入孔がそれぞれ設けられており、各挿入孔の周縁部は絶縁性部材により覆われている。
接続端子24〜28は、ガス検出素子60と回路基板41に備えられた回路とを電気的に接続するための部材であり、導電性部材により棒状に形成されている。
【0031】
検出空間形成部材22は、外筒36,接続端子取出台21の周縁部を挟持する取出台支持部37、収容ケース40の保持部46により支持される鍔部38を備えている。また、検出空間形成部材22の下端部には、被検出ガスを検出空間39に導入する開口である導入口34が設けられている。
【0032】
この導入口34の近傍には、被検出ガスをガス検出素子60に対して導入及び排出するための流路を形成する導入部35が設けられている。導入部35には、導入口34から近い順に、撥水フィルタ29,スペーサ30、2枚の金網31,32がそれぞれ装填されている。そして、これらの部材は、検出空間形成部材22とフィルタ固定部材33とにより挟持固定されている。
【0033】
撥水フィルタ29は、導入口34に最も近い位置に取り付けられるフィルタであり、被検出ガス中に含まれている水滴を除去する撥水性を有する薄膜である。これより、水滴などが飛来する多湿環境下においても、ガス検出素子60が被水するのを防止することができる。撥水フィルタ29は、物理的吸着により水滴を除去するものであればよく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を利用したフィルタを適用することができる。
【0034】
スペーサ30は、フィルタ固定部材33の内周壁に備えられ、被検出ガスが導入される開口を有する形状(平面視ではリング状)の部材であり、所定の厚みを有することにより、撥水フィルタ29と2枚の金網31,32との位置を調整している。
【0035】
2枚の金網31,32は、所定の厚みと所定の開口部を有しており、ガス検出素子60に設けられた発熱抵抗体の温度が被検出ガスに含まれる水素ガスの発火温度よりも上昇して発火した場合であっても、火炎が外部に出るのを防止するフレームアレスタとしての機能を果たす。
【0036】
フィルタ固定部材33は、検出空間形成部材22の内壁面と当接する筒状の壁面を有すると共に、その壁面の内面から内向きに突出する凸部を備えている。凸部は、撥水フィルタ29,スペーサ30、2枚の金網31,32を検出空間形成部材22との間で挟持固定するために備えられている。
【0037】
次に、回路基板41について説明する。
回路基板41は、所定の厚みを有する板状の基板であり、被検出ガス中に含まれる可燃性ガスを検出するための制御回路90(後述する)と、発熱体50,51の温度を制御するための温度制御回路(図示せず)と、をそれぞれ備えている。
【0038】
回路基板41における制御回路90は、接続端子24〜28により、ガス検出素子60と電気的に接続されている。また、回路基板41における温度制御回路は、リード線52,53により、発熱体50,51と電気的に接続されている。
【0039】
回路基板41に搭載されたマイコン94は、同じく回路基板41に設けられた制御回路90の出力に基づき、被検出ガス中に含まれる可燃性ガスの濃度を演算する処理(センサ出力演算処理)を実行する。また、温度制御回路の出力に基づき、発熱体50,51の発熱量(温度)を制御する処理(温度制御処理)を実行する。マイコン94は、少なくとも、これらのセンサ出力演算処理や発熱体50,51の温度制御処理を実行するためのプログラムを格納する記憶装置と、この記憶装置に記憶されたプログラムを実行するCPUと、を備えて構成されている。
【0040】
次に、発熱体50,51について説明する。
発熱体50,51は、素子ケース20を加熱し、素子ケース20の内側面の温度或いは検出空間39内を所定温度より高い温度(少なくとも露点より高い温度)に保つためのものである。発熱体50,51は、例えば、電子部品等で用いられる抵抗体や、フィルムヒータなどを用いて構成される。発熱体50,51による加熱により、被検出ガスが、素子ケース20の内側面或いは検出空間39内で冷却されてしまうこと、ひいてはその素子ケース20の内側面或いは検出空間39内が結露するような事態や被検出ガスの温度が不安定になるようなことを防止することができる。
【0041】
次に、制御回路90の概略について、図2を参照して説明する。
図2に示すように、制御回路90は、ガス検出回路91、及び温度測定回路93を備えている。
【0042】
ガス検出回路91は、ガス検出素子60に備えられた発熱抵抗体71と、回路基板41に備えられた固定抵抗95,96,97とによって構成されるホイートストーンブリッジ911、及び、回路基板41に備えられ、このホイートストーンブリッジ911から得られる電位差を増幅するオペアンプ912を備えている。
【0043】
発熱抵抗体71として、自身の温度の上昇に伴い抵抗値が上昇する抵抗体を用いた場合、このオペアンプ912は、発熱抵抗体71の温度が所定の温度に保たれるように、発熱抵抗体71の温度が上昇した場合には出力する電圧を低くし、発熱抵抗体71の温度が下降した場合には出力する電圧を高くするように作動する。
【0044】
そして、このオペアンプ912の出力は、ホイートストーンブリッジ911に接続されているので、発熱抵抗体71の温度が所定の温度より上昇すると、発熱抵抗体71の温度を下げるためにオペアンプ912から出力される電圧は低くなり、ホイートストーンブリッジ911に印加される電圧が低下する。このときの、ホイートストーンブリッジ911の端部を構成する電極85の電圧はガス検出回路91の出力としてマイコン94により検出され、マイコン94により検出された出力値は、被検出ガスに含まれ可燃性ガスを検出するための演算処理に供される。
【0045】
温度測定回路93は、ガス検出素子60に備えられた測温抵抗体80(後述する)と、回路基板41に備えられた固定抵抗101,102,103によって構成されるホイートストーンブリッジ931と、回路基板41に備えられ、このホイートストーンブリッジ931から得られる電位差を増幅するオペアンプ933とを備えている。このオペアンプ933の出力はマイコン94により検出され、マイコン94により検出された出力値は、被検出ガスの温度を測定するのに用いられ、さらに、被検出ガスに含まれ可燃性ガスを検出するための演算処理に供される。
【0046】
以上のような構成を有する制御回路90の出力値に基づき、マイコン94により実行される可燃性ガスの濃度を演算する処理は、次のようなものである。まず、マイコン94が備えるCPU(図示せず)は、同じくマイコン94が備える記憶装置(図示せず)に記憶されたプログラムに基づき、ガス検出回路91の出力値から、可燃性ガス濃度にほぼ比例した第1の出力値を出力する。この第1の出力値は検出空間39の雰囲気温度変化による出力変化を含んでいるので、続いて、温度測定回路93からの出力に基づき第1の出力値を補正した第2の出力値を出力する。さらに、マイコン94は、そのマイコン94の記憶装置(図示せず)に記憶された第2の出力値と可燃性ガスの濃度との関係に基づき、被検出ガス中に含まれる可燃性ガスの濃度を出力する。このように、第1の出力値を温度測定回路93の出力に基づき補正しているので、精度よく可燃性ガスを検出できる。尚、可燃性ガスの濃度を演算する処理は、上記のものに限られず、公知の手段を適宜用いれば良い。
【0047】
次に、ガス検出素子60の構成について説明する。図3に、ガス検出素子60の平面図を示す。また、図4に、ガス検出素子60の断面図(図3におけるA−A矢視断面図)を示す。尚、図3の平面図において、紙面の左右方向をその平面図の左右方向とする。また、図4の断面図において、紙面の上下方向をその断面図の上下方向とする。
【0048】
ガス検出素子60は、マイクロマシニング技術を用いて製造されるもので、図4に示すが、シリコン製半導体基板61を備えるとともに、シリコン製半導体基板61の上下両側に絶縁層(上側絶縁層67、下側絶縁層66)を備えている。上側絶縁層67は、シリコン製半導体基板61の表面に形成されており、一方、下側絶縁層66は、シリコン製半導体基板61の裏面に形成されている。また、上側絶縁層67の表面には、保護層64が形成されている。尚、上側絶縁層67は、シリコン製半導体基板61の表面に形成される絶縁層68と、絶縁層68の表面に形成される絶縁保護層69とから構成される。また、ガス検出素子60は、発熱抵抗体71を備えている。
【0049】
シリコン製半導体基板61は、発熱抵抗体71の下方に位置する部位に、シリコン製半導体基板61の一部が開口状に除去された空洞62を備えており、当該空洞62の上部は、上側絶縁層67の一部が露出している。そして、発熱抵抗体71は、上側絶縁層67において空洞62に対応する領域に内包されている。
【0050】
このような構成にすることにより、発熱抵抗体71は、空洞62により周囲から断熱されるため、短時間にて昇温又は降温する。このため、ガス検出素子60の熱容量を小さくすることができる。
【0051】
また、発熱抵抗体71が形成された平面と同じ平面に形成された配線膜711,712、及び、配線713,714(配線713,714については図3参照)がそれぞれ上側絶縁層67に内包されている。この上側絶縁層67は、絶縁性を有する材料により形成され、例えば、酸化珪素(SiO2)、窒化珪素(Si3N4)が用いられる。上側絶縁層67は、複数の層を単一の材料により形成しても良いし、複数の層を異なる材料を用いて形成するようにしてもよい。本実施形態では、少なくとも絶縁保護層69は、窒化珪素(Si3N4)からなる。
【0052】
保護層64は、上側絶縁層67の上面に所定の厚みを有する層状に形成され、例えばアルミナや酸化珪素により形成される。この保護層64は、発熱抵抗体71、配線膜711,712、配線713,714の汚染や損傷を防止すべくそれらを覆うように設けられている。
【0053】
前述の発熱抵抗体71は、渦巻き状に形成され(図3参照)、被検出ガスの温度(詳細には、可燃性ガスへの熱伝導)により、自身の温度が変化するとともに自身の抵抗値が変化する抵抗体である。発熱抵抗体71は、温度抵抗係数が大きい導電性部材によって形成され、例えば、白金(Pt)により形成される。可燃性ガスとしての水素ガスを検出する場合、水素ガスへの熱伝導によって発熱抵抗体71から奪われる熱量の大きさは、水素ガス濃度に応じた大きさとなる。このことから、発熱抵抗体71における電気抵抗値の変化に基づいて、水素ガス濃度を検出することが可能となる。
【0054】
尚、発熱抵抗体71の抵抗値変化は被検出ガスの温度による影響を受けるため、後述する測温抵抗体80(図3)の電気抵抗値に基づき検出される温度を用いて、発熱抵抗体71の電気抵抗値変化に基づき検出した被検出ガスの濃度を補正することにより、被検出ガス濃度の検出精度を向上させることができる。
【0055】
次に、発熱抵抗体71の左端は、上側絶縁層67(図4)に内包され、発熱抵抗体71と一体に形成された配線713(図3)及び配線膜711(図4)を介し、電極85(図3)と電気的に接続されている。一方、発熱抵抗体71の右端は、上側絶縁層67に内包され、発熱抵抗体71と一体に形成された配線714(図3)及び配線膜712(図4)を介し、グランド電極86(図3)と電気的に接続されている。この電極85及びグランド電極86は、発熱抵抗体71に接続される配線の引き出し部位であり、コンタクトホール84(図4)を介して露出している。この電極85及びグランド電極86の材質は、例えば、アルミニウム(Al)又は金(Au)が用いられる。
【0056】
測温抵抗体80(図3)は、検出空間39(図1参照)内に存在する被検出ガスの温度を検出するためのものであり、上側絶縁層67(図4)と保護層64(図4)との間で、かつ、シリコン製半導体基板61と平行な平面上に形成されている。測温抵抗体80は、電気抵抗値が温度に比例して変化する金属が用いられ、例えば、白金(Pt)が用いられる。
【0057】
また、測温抵抗体80は、電極88(図3)及びグランド電極89(図3)と電気的に接続されている。この電極88及びグランド電極89は、コンタクトホール(図示せず)を介して露出している。この電極88及びグランド電極89の材質は、例えば、アルミニウム(Al)又は金(Au)が用いられる。
【0058】
次に、ガス検出素子60の製造工程について図5を用いて説明する。
(1)絶縁層68、下側絶縁層66の形成工程(第1工程)
シリコン製半導体基板61を準備し、このシリコン製半導体基板61を洗浄した上で当該シリコン製半導体基板61に熱酸化処理を施す。これにより、シリコン製半導体基板61の表裏面が上下両側の酸化珪素膜(SiO2膜)としてそれぞれ100[nm]の厚さにて形成される。ついで、シリコン製半導体基板61の上下両側の各酸化珪素膜に減圧CVD法により上下両側の各窒化珪素膜(Si3N4膜)をそれぞれ積層して200[nm]の厚さにて形成する。
【0059】
これにより、シリコン製半導体基板61の上側の酸化珪素膜及び窒化珪素膜が絶縁層68として形成され、一方、シリコン製半導体基板61の下側の酸化珪素膜及び窒化珪素膜が下側絶縁層66として形成される。
(2)発熱抵抗体71及び配線膜711,712の形成工程(第2工程)
上述のように絶縁層68及び下側絶縁層66を形成した後、温度300[℃]の雰囲気内において、タンタル膜(Ta膜)を20[nm]の厚さにて絶縁層68の表面にスパッタ法により形成し、ついで、白金膜(Pt膜)を400[nm]の厚さにてそのタンタル膜にスパッタ法により積層状に形成し、再度、タンタル膜を当該白金膜に20[nm]の厚さにてスパッタ法により積層状に形成する。尚、タンタル膜は、上記白金膜の絶縁層68との密着強度を高める役割をもつ。
【0060】
然る後、フォトリソグラフィ処理にて、タンタル膜、及び白金膜のうち発熱抵抗体71及び配線膜711,712に対する対応部以外の部位を、エッチングにより除去する。これにより、発熱抵抗体71及び配線膜711,712が、絶縁層68の表面上に形成される。尚、配線膜711,712及び発熱抵抗体71の抵抗温度係数は、約2000[ppm/℃]である。尚、この工程において、測温抵抗体80についても、発熱抵抗体71と同様の手法により、絶縁層68の表面上に形成する。
(3)絶縁保護層69の形成工程(第3工程)
上述のように発熱抵抗体71及び配線膜711,712を形成した後、酸化珪素層(SiO2層)を、プラズマCVD法により、各発熱抵抗体71及び配線膜711,712を覆うようにして絶縁層68の表面上に100[nm]の厚さにて形成する。さらに、当該酸化珪素層上に、窒化珪素層(Si3N4層)を、減圧CVD法により、200[nm]の厚さにて積層状に形成する。これらの形成は、絶縁層68や下側絶縁層66、配線膜711,712のプロセス温度に比べて、低温のプロセスでなされる。
【0061】
ついで、当該窒化珪素層及び酸化珪素層の積層のうち配線膜711,712に対応する各部位を、フォトリソグラフィ処理のもとエッチングにより除去する。これにより、コンタクトホール84を有する絶縁保護層69が、発熱抵抗体71を覆うようにして絶縁層68の表面上に形成される。また、同様のエッチングにより、測温抵抗体80用のコンタクトホール(図示せず)を形成する。
(4)保護層64の形成工程(第4工程)
上述のように絶縁保護層69を形成した後、アルミナ層を20[nm]の厚さにてスパッタ法により積層状に形成する。
【0062】
ついで、アルミナ層のうち配線膜711,712に対応する各部位を、フォトリソグラフィ処理のもとエッチングにより除去する。
(5)電極85,86の形成工程(第5工程)
上述のように保護層64を形成した後、クロム膜(Cr膜)を20[nm]の厚さにて保護層64にスパッタ法により層状に形成し、ついで、このクロム膜上に、金膜(Au膜)を600[nm]の厚さにてスパッタ法により積層状に形成する。
【0063】
然る後、このように積層した金膜及びクロム膜からなる電極層のうち各コンタクトホール84に対する対応部以外の部位を、フォトリソグラフィ処理のもとエッチングにより除去する。これにより、電極85,86が、各コンタクトホール84に対応して形成される。また、この工程の際に、電極88及びグランド電極89についても、図示しないコンタクトホールに対応して形成される。
(6)空洞62の形成工程(第6工程)
上述のように電極85,86を形成した後、下側絶縁層66のうち発熱抵抗体71に対応する各部位を、エッチングにより除去し、ついで、この除去部位に対応するシリコン製半導体基板61の各部位を水酸化テトラメチルアンモニウムを用いてエッチングにより除去して、絶縁層68のうち発熱抵抗体71に対応する部位を外方に露呈させる。これにより、空洞62が、シリコン製半導体基板61及び下側絶縁層66のうち発熱抵抗体71に対応する部位に形成される。
【0064】
ここで、保護層64の「厚み」について図6を用いて説明する。
まず、前提として、絶縁保護層69の表面には、下地に例えば発熱抵抗体71が存在することによって、図6に示すように凹凸(段差)が生じる。
【0065】
そして、例えば、保護層64の厚みがS[nm]であるとするその趣旨は、絶縁保護層69の表面を直径Sの円が転がることによって描かれる軌跡が保護層64の表面内に内包される、という趣旨である。即ち、図6に示すように、垂直方向の厚み、及び水平方向の厚みの双方とも、S[nm]となる。さらに、絶縁保護層69の角100からの厚み(角100から保護層64の表面までの距離)も、S[nm]となる。
【0066】
尚、図7に示すように、絶縁保護層69の凹凸の角に合わせ、保護層64の表面の凹凸にも角が立つような構成でも良い。
このような本実施形態においては、ガス検出素子60は、その表面がアルミナからなる保護層64で覆われているため、耐アルカリ性に優れたものとなっている。しかも、保護層64はスパッタ法により形成されており、より緻密な構成(例えばガス不透過性)となっている。このため、例えば保護層64の構成がポーラス(多孔質性)である場合と比較して、被検出ガスが含まれる環境中の不純物(例えば有機シリコン)の保護層64への侵入を抑制することができる。
【0067】
次に、本願発明の効果を示すために本願出願人が行った実験について説明する。
[実験1:有機シリコン化合物被毒試験]
〈実験の概要〉
図8に実験1の概要を示すが、本実験1では、本発明が適用されたガス検出器1のガス検出素子60(以下、アルミナスパッタ保護層素子160と記載する)と、アルミナゾルを用いてスピンコーティング法により保護層64を形成したガス検出素子(以下、アルミナゾル保護層素子161と記載する)と、保護層64を設けないガス検出素子(以下、露出素子162と記載する)とを用意し、各ガス検出素子について検証を行った。
【0068】
図8において、恒温槽10は、内部の温度が80[℃]に保たれた容器である。恒温槽10の内部には、チャンバ11が備えられる。
チャンバ11には、配管14と配管17とが接続されている。また、チャンバ11には、ガス検出器1が備えるガス検出素子60(アルミナスパッタ保護層素子160)がそのチャンバ11内部に収まるように、そのガス検出器1が配設される。尚、ガス検出器1としては、アルミナスパッタ保護層素子160、アルミナゾル保護層素子161、露出素子162、を備えたものがそれぞれ用意され、チャンバ11に配設される。
【0069】
チャンバ11に接続された配管14には、そのチャンバ11に向かって大気が導入されるとともに、その配管14の途中には、後述する容器18内の気体が合流するように導入されるようになっている。尚、配管17は、チャンバ11内の気体を外部に排気するためのものである。
【0070】
容器18は、恒温槽10の外部において設置され、有機シリコン化合物としてのHMDS(密着性向上塗布液)を収容する。容器18の内部には、配管15を介して大気が導入されるとともに、その容器18内の気体が、配管16を介して配管14に導入される。
【0071】
このような構成により、HMDS=400[ppm]、H2=1000[ppm]となる混合気体が生成されてチャンバ11内に導入されるようになっている。尚、混合気体の流量は3[L/min](流速0.02[m/s])である。
【0072】
尚、各ガス検出素子における発熱抵抗体71の温度は400[℃]に保たれるように設定される。
そして、本実験1では、混合気体を250[h]流し続け、その間において、各ガス検出素子の発熱抵抗体71に印加される電圧(以下、ヒータ電圧と記載する)の大きさを検出した。
〈実験結果及び考察〉
図9に、各ガス検出素子(アルミナスパッタ保護層素子160、アルミナゾル保護層素子161、露出素子162)についてのヒータ電圧の大きさの変化を表すグラフを示す。
【0073】
また、図10に、各ガス検出素子についてのヒータ電圧の変化の数値を示す。より具体的には、試験開始時のヒータ電圧と、試験を開始して250[h]後のヒータ電圧との差を示す。尚、図9,10において、「アルミナスパッタ」がアルミナスパッタ保護層素子160に対応し、「アルミナゾル」がアルミナゾル保護層素子161に対応し、「保護層無し」が露出素子162に対応する。後述する図12についても同様である。
【0074】
図9,10に示すように、アルミナスパッタ保護層素子160、及び露出素子162については、時間が経過してもヒータ電圧の大きさにほとんど変化はなかった。より具体的に、アルミナスパッタ保護層素子160については、試験開始時と、試験開始から250[h]経過した時点とで、ヒータ電圧の変化は−0.6[mV]であった。また、露出素子162については、試験開始時と、試験開始から250[h]経過した時点とで、ヒータ電圧の変化は0[mV]であった。このことから、アルミナスパッタ保護層素子160、及び露出素子162については、熱容量の変化がほとんどないことが分かり、この点から、有機シリコンの付着が極めて少ないと考えられる。
【0075】
一方、アルミナゾル保護層では、ヒータ電圧が大きく上昇した。より具体的に、試験開始時と、試験開始から250[h]経過した時点とで、ヒータ電圧の変化は16[mV]であった。このことから、アルミナゾル保護層では、熱容量が大きく上昇したことが分かり、この点から、有機シリコンが多量に付着したと考えられる。
【0076】
このように、本実施形態のガス検出素子60によれば、不純物(有機シリコン)の付着を抑制できること、またこれにより熱容量の変化を抑制できることが確認できた。このようなガス検出素子60ならば、出力が安定し、かつ正確なものとなる。言い換えれば、検出精度を高いレベルで得ることができるようになる。
【0077】
このような結果により、本発明では、上述のような所定の試験期間におけるヒータ電圧の変化の幅が±5[mV]以下であるような保護層64が、ガス不透過性を有するものと定義することができる。
[実験2:耐アルカリ性試験]
〈実験の概要〉
図11に実験2の概要を示すが、ここでは、実験1と同様、アルミナスパッタ保護層素子160と、アルミナゾル保護層素子161と、露出素子162とを用意し、各ガス検出素子について検証を行った。
【0078】
まず、水酸化ナトリウム(NaOH)を1[mol]含む溶液(以下、NaOH溶液と記載する)を用意し、各ガス検出素子(アルミナスパッタ保護層素子160、アルミナゾル保護層素子161、露出素子162)をそのNaOH溶液中に5s間浸す。
【0079】
そして、各ガス検出素子を常温にて乾燥させる。
その後、乾燥させた各ガス検出素子(アルミナスパッタ保護層素子160、アルミナゾル保護層素子161、露出素子162)を加圧試験装置111内に設置し、加圧試験装置111内を120[℃]に保って24時間放置した。
【0080】
各ガス検出素子(アルミナスパッタ保護層素子160、アルミナゾル保護層素子161、露出素子162)は、それぞれ18個づつ用意し、合計54のガス検出素子を加圧試験装置111内に設置した。
【0081】
加圧試験装置111内には、各ガス検出素子を設置するための台113が設けられている。また、台113の下方は、純水112で満たされている。そして、加圧試験装置111では、その加圧試験装置111の内部が密閉された状態で、その内部の純水が加熱されることによって水蒸気が発生し、これにより内部の圧力が上昇するようになっている。尚、加圧試験装置111は図示しない扉を有しており、使用者は、扉を開閉することによって、検体(本実施形態ではガス検出素子)の設置及び取り出しが可能なようになっている。
【0082】
図12に、各ガス検出素子毎に、破損が生じた(ヒータが破損した)個数を示す。
図12に示すように、露出素子162については、18個中12個が破損した。
また、アルミナゾル保護層素子161及びアルミナスパッタ保護層素子160については、18個中、破損数は0であった。
【0083】
このことから、ガス検出素子の最表面が窒化珪素層である場合には、耐アルカリ性が弱く、アルカリ性の成分の付着によって破損しやすくなることが分かる。
一方、ガス検出素子の最表面が耐アルカリ性の酸化膜である場合には、耐アルカリ性が向上し、アルカリ性の成分が付着しても破損しにくいことが確認できた。
【0084】
以上の実験結果から明らかなように、本実施形態のガス検出器1が備えるガス検出素子60は、優れた耐アルカリ性を備え、また、不純物(有機シリコン)が付着しにくいガス不透過性を有する保護層64を備えており、アルカリ性の成分の付着による破損、及び不純物(有機シリコン)の付着が抑制されるようになっている。不純物(有機シリコン)の付着が抑制されることにより、前述したように、検出精度を高いレベルで得ることができる。
【0085】
つまり、本実施形態のガス検出器1(より具体的にはガス検出素子60)によれば、ガス検出素子60の最表面にガス不透過性の酸化膜(保護層64)が形成されていることにより、耐アルカリ性と検出精度とを高いレベルで両立できるようになっている。
【0086】
尚、本実施形態において、回路基板41が制御手段に相当し、保護層64がガス不透過性の酸化膜に相当している。
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術範囲内において種々の形態をとることができる。
【0087】
例えば、上記実施形態において、保護層64の厚みは、20〜500[nm]の間の所定の厚みにすることができる。また、保護層64の厚みは、発熱抵抗体71の厚みの20分の1以上の所定の厚みとすることができる。
【0088】
また、上記実施形態では、ガス検出素子60が熱伝導式ガス検出素子の場合について説明したが、ガス検出素子60は接触燃焼式ガス検出素子でも良い。
また、上記実施形態では、水素ガスを検出する場合について説明したが、本発明のガス検出器1は他の種類の可燃性ガスも検出可能である。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本実施形態のガス検出器1の縦断面図である。
【図2】回路基板41に設けられる制御回路90を表す図面である。
【図3】ガス検出素子60の平面図である。
【図4】ガス検出素子60のA−A矢視断面図である。
【図5】ガス検出素子60の製造工程を表す図である。
【図6】保護層64の厚みの定義を説明する図である。
【図7】保護層64の厚みの他の定義を説明する図である。
【図8】実験1の概要を示す図である。
【図9】実験1の結果を表すグラフである。
【図10】実験1の結果を表す図表である。
【図11】実験2の概要を表す図である。
【図12】実験2の結果を表す図表である。
【符号の説明】
【0090】
1…ガス検出器、10…恒温槽、11…チャンバ、13…ガス導入口、14〜17…配管、18…容器、20…素子ケース、35…導入部、39…検出空間、40…収容ケース、41…回路基板、42…ケース本体、50,51…発熱体、60…ガス検出素子、61…シリコン製半導体基板、64…保護層、71…発熱抵抗体、80…測温抵抗体、85…電極、86…グランド電極、88…電極、89…グランド電極、90…制御回路、94…マイコン、111…加圧試験装置、112…純水、113…台。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも発熱抵抗体と絶縁層とが半導体基板に積層され、前記絶縁層が、前記発熱抵抗体を覆うように形成されてなるガス検出素子と、
前記発熱抵抗体の通電を制御するとともに、その発熱抵抗体に通電した際のその発熱抵抗体の抵抗値に基づき被検出ガスを検出する制御手段と、
を備えたガス検出器において、
前記ガス検出素子は、前記絶縁層の表面に、その絶縁層を覆うように積層されるガス不透過性の酸化膜を有し、そのガス不透過性の酸化膜が、前記被検出ガスを含むガス雰囲気に接する最表面層を構成していることを特徴とするガス検出器。
【請求項2】
前記絶縁層の表面は、窒化珪素からなることを特徴とする請求項1に記載のガス検出器。
【請求項3】
前記ガス不透過性の酸化膜は、その厚さ寸法が、前記半導体基板の表裏面に垂直な方向に対する前記発熱抵抗体の厚さ寸法の20分の1以上となるように形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のガス検出器。
【請求項4】
前記ガス不透過性の酸化膜は、その厚さ寸法が、20〜500nmとなるように形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のガス検出器。
【請求項5】
前記ガス不透過性の酸化膜における前記ガス雰囲気に接する表面から前記絶縁層の表面までの距離が、その酸化膜の厚さ寸法であることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載のガス検出器。
【請求項6】
前記ガス不透過性の酸化膜は、スパッタ法にて形成されることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のガス検出器。
【請求項7】
前記ガス検出素子は、熱伝導式ガス検出素子又は接触燃焼式ガス検出素子であることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載のガス検出器。
【請求項8】
前記被検出ガスは水素ガスであることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載のガス検出器。
【請求項9】
少なくとも前記ガス検出素子が、水素と酸素とから電力を発生する燃料電池における所定の箇所に配設され、その燃料電池における水素ガスを検出することを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載のガス検出器。
【請求項1】
少なくとも発熱抵抗体と絶縁層とが半導体基板に積層され、前記絶縁層が、前記発熱抵抗体を覆うように形成されてなるガス検出素子と、
前記発熱抵抗体の通電を制御するとともに、その発熱抵抗体に通電した際のその発熱抵抗体の抵抗値に基づき被検出ガスを検出する制御手段と、
を備えたガス検出器において、
前記ガス検出素子は、前記絶縁層の表面に、その絶縁層を覆うように積層されるガス不透過性の酸化膜を有し、そのガス不透過性の酸化膜が、前記被検出ガスを含むガス雰囲気に接する最表面層を構成していることを特徴とするガス検出器。
【請求項2】
前記絶縁層の表面は、窒化珪素からなることを特徴とする請求項1に記載のガス検出器。
【請求項3】
前記ガス不透過性の酸化膜は、その厚さ寸法が、前記半導体基板の表裏面に垂直な方向に対する前記発熱抵抗体の厚さ寸法の20分の1以上となるように形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のガス検出器。
【請求項4】
前記ガス不透過性の酸化膜は、その厚さ寸法が、20〜500nmとなるように形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のガス検出器。
【請求項5】
前記ガス不透過性の酸化膜における前記ガス雰囲気に接する表面から前記絶縁層の表面までの距離が、その酸化膜の厚さ寸法であることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載のガス検出器。
【請求項6】
前記ガス不透過性の酸化膜は、スパッタ法にて形成されることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のガス検出器。
【請求項7】
前記ガス検出素子は、熱伝導式ガス検出素子又は接触燃焼式ガス検出素子であることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載のガス検出器。
【請求項8】
前記被検出ガスは水素ガスであることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載のガス検出器。
【請求項9】
少なくとも前記ガス検出素子が、水素と酸素とから電力を発生する燃料電池における所定の箇所に配設され、その燃料電池における水素ガスを検出することを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載のガス検出器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図9】
【公開番号】特開2010−96727(P2010−96727A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−270164(P2008−270164)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】
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