説明

ガス発生器用フィルター材及びガス発生器

【課題】高いガス冷却効果及びスラグ捕集効果を有するガス発生器用フィルター材と、それを用いたガス発生器とを提供する。
【解決手段】複数の貫通孔を有し、前記複数の貫通孔のそれぞれの周囲に突出部を有する金属板を巻き回して中空円筒状に成形されているエアバック用ガス発生器に使用されるフィルター材であって、前記金属板が、所定方向に規則的に配列された前記複数の貫通孔のうち一部を規則的に欠落させた領域を含んでおり且つ前記欠落させた領域に隣設されている貫通孔に囲まれた遮蔽領域を備え、各前記貫通孔を径方向に投影した際、各前記貫通孔の投影領域が、各前記貫通孔がそれぞれ存在する層とは異なる層において、前記遮蔽領域と少なくとも一度は完全に重なることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の衝突事故時に乗員が受ける衝撃を緩和して乗員の安全を図るエアバック装置のガス発生器、及びそのガス発生器に用いるフィルター材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の衝突時に生じる衝撃から乗員を保護するために、エアバックを瞬時に展開させるガス発生器は、展開にあたりエアバッグが損傷を受けないように、ガス発生室内でガス発生剤を燃焼させて発生した高温高圧のガスを冷却して適温にすると共に、前記ガス中に含有されている金属酸化物を主成分とする高温のスラグを捕集してガスを清浄するという役割を持つフィルター材を備えている。発生したガスは、フィルター材を内側から外側へ通過し、フィルター材の外側に沿って、ガス発生器に設けられた複数個のガス放出孔を通って、ガス発生器からエアバック内へ流入し、エアバッグを展開する。
【0003】
したがって、エアバック用ガス発生器に用いられるフィルター材には十分なガス冷却及びスラグ捕集効果を発揮させるための機能が要求される。例えば、ガス冷却効果を有するフィルター材として、下記特許文献1のものが挙げられる。この特許文献1に開示されているフィルター材は、突起部の先端をつぶして平坦化したフック金属板を多数巻きして形成された筒状体からなり、筒状体から剥がれないように金属板が固着されている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−249017号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のようなガス発生器用フィルター材では、ガス冷却効果及び保形強度を有するものの、金属板の各層における貫通孔の位置が、巻き回したとき全層において一致する場合があり、当該一致した貫通孔を通過するガスはスラグ捕集されることなくフィルター材を通過するため、ガス冷却効果及びスラグ捕集効果が十分に発揮されないことがあった。
【0006】
そこで、本発明は、従来に比べさらなるガス冷却効果及びスラグ捕集効果を有するガス発生器用フィルター材と、それを用いたガス発生器とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0007】
(1)本発明のガス発生器用フィルター材は、複数の貫通孔を有し、前記複数の貫通孔のそれぞれの周囲に突出部を有する金属板を巻き回して中空円筒状に成形されているエアバック用ガス発生器に使用されるフィルター材であって、前記金属板が、所定方向に規則的に配列された前記複数の貫通孔のうち一部を規則的に欠落させた領域を含んでおり且つ前記欠落させた領域に隣設されている貫通孔に囲まれた遮蔽領域を備え、各前記貫通孔を径方向に投影した際、各前記貫通孔の投影領域が、各前記貫通孔がそれぞれ存在する層とは異なる層において、前記遮蔽領域と少なくとも一度は完全に重なる。
【0008】
(2)本発明のガス発生器用フィルター材は、前記複数の貫通孔が、前記金属板の長さ方向に対し傾斜方向に所定の間隔で形成され、前記遮蔽領域が、3以上の前記貫通孔を結んだ辺を一辺とする複数の四角形において、前記四角形内の貫通孔を欠落させることによって得られたものであることが好ましい。
【0009】
(3)本発明のガス発生器用フィルター材は、前記複数の貫通孔が、前記金属板の長さ方向に対し傾斜方向に所定の間隔で形成され、前記遮蔽領域が、複数箇所において、前記円筒の周方向に連続した2以上の前記貫通孔を欠落させることによって得られたものであることが好ましい。
【0010】
本発明のガス発生器用フィルター材は、前記複数の貫通孔が、前記金属板の長さ
方向に対し傾斜方向に所定の間隔で形成され、前記遮蔽領域が、複数箇所において、前記金属板の長さ方向に対し傾斜方向に連続した2以上の貫通孔を欠落させることによって得られたものであることが好ましい。
【0011】
上記(1)〜(4)の構成によれば、金属板の各層における貫通孔の位置は、巻き回したとき全層において一致することがなく、貫通孔を通過したガスは、少なくとも一度は金属板に衝突し、ガス冷却及びスラグ捕集がされる。従って、従来に比べさらなるガス冷却効果及びスラグ捕集効果を有するガス発生器用フィルター材を提供することができる。また、遮蔽領域の位置をかえることよって、ガス冷却効果をさらに向上させることができる。
【0012】
(5)本発明のガス発生器は、ガス放出孔を有するハウジングと、前記ハウジング内に形成され、燃焼により高温ガスを発生するガス発生剤が装填されている燃焼室と、点火薬を内包しており、前記ハウジング内に装着され、前記燃焼室内の前記ガス発生剤を着火燃焼させるガス発生剤点火手段とを備えたガス発生器であって、前記ハウジングの内周に周方向にわたって、請求項1〜4のいずれか1項に記載のフィルター材をさらに備え、前記ガス放出孔を前記ハウジングの外側から径方向に投影した際、該投影領域と前記フィルター材の前記遮蔽領域とが少なくとも一度は重なっている。
【0013】
上記(5)の構成によれば、ガス発生室で発生したガスは、少なくとも一度はフィルター材を構成する金属板の表面に衝突してフィルター材を通過後、ハウジングの内周側に衝突し、ガス放出孔から放出される。従って、従来に比べさらなるガス冷却効果及びスラグ捕集効果を有するガス発生器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<第1実施形態>
以下、図面を参照しつつ、本発明の第1実施形態に係るガス発生器用フィルター材について説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係るガス発生器用フィルター材の斜視図、図2は、図1のガス発生器用フィルター材に成形される前の金属板を示す図である。
【0015】
図1において、ガス発生器用フィルター材7は、貫通孔1を有する金属板3を略3回巻き回し、中空円筒状に成形されている。貫通孔1は、金属板3の長さ方向に対して傾斜方向に規則的に、金属板3の長さ方向について一方の面から、突端部が角錐体のピンを用いて貫通孔1が形成され、その周囲に突出部2が不連続に形成されている。ここで、金属板3としては、例えばステンレス鋼、鉄、鋼などを使用することができる。
【0016】
図2において、金属板3は、金属板3の長さ方向に対し傾斜方向に所定の間隔で形成されている貫通孔1と、貫通孔1を欠落させた領域46と、貫通孔1を欠落させた領域46に隣接している貫通孔1に囲まれた遮蔽領域45とを有する。
【0017】
貫通孔1を欠落させた領域46は、金属板3の長さ方向の2の貫通孔1を結んだ直線と、金属板3の高さ方向の2の貫通孔1を結んだ直線とを辺とする四角形を、四角形の高さ方向の一辺の段差を有する階段形状になるように、かつ、四角形の一方の対角線方向に重複しないように連続してずらすことにより特定された四角形群において、該四角形群を金属板3の長さ方向に周期的に繰り返して形成された領域の各四角形の頂点にあたる貫通孔1を欠落させることによって得られたものである。ここで、点線の丸は、貫通孔1を欠落させた領域46である。
【0018】
遮蔽領域45は、貫通孔1を欠落させた領域46の第1隣設貫通孔と、第2隣設貫通孔とに囲まれた斜線部分の領域であり、金属板3の長さ方向の第1隣設貫通孔1と、第2隣設貫通孔1とを結んだ直線と、金属板3の高さ方向の第1隣設貫通孔1と、第2隣設貫通孔1とを結んだ直線とを辺とする四角形を、四角形の一方の対角線方向に一部重複しつつ連続してずらすことにより特定された四角形群の領域である。
ここで、第1隣設貫通孔とは、欠落させた貫通孔に最も近い距離に配置している貫通孔、第2隣設貫通孔とは、欠落させた貫通孔に2番目に近い距離に配置している貫通孔である。
【0019】
金属板3の貫通孔1は、突端部が角錐体のピン状部材を突き刺して形成されている。このため、金属板3を巻き回して中空円筒状に成形すると、金属板3間に空隙層6が形成される。またこのとき、突出部2はピン先端の角錐体の側面に沿って形成され、不連続となっている。このことによって、金属板3の層と突出部2とは不規則に接することになり、空隙層6には比較的障害の少ないより開放的な空間が形成され、ガスが円滑に空隙層6を移動する。
【0020】
フィルター材7において、フィルター材7内側4に流入した高温高圧のガスは、先ずフィルター材7内側4第1層における貫通孔1を通過し、該第1層と第2層との間の第1空隙層に噴出される。噴出と同時に、ガスは該第2層の金属板3の内側面に衝突し、ガス中に含有されているスラグは該第2層金属板3の内側面に付着し、その結果スラグの一部が除去されることとなる。ガスは第1空隙層を移動し、さらに該第2層における貫通孔1へと移動する。そして同様に、ガスは該第2層における貫通孔1を通過し、該第2層と第3層との間の第2空隙層に噴出され、ガスは該第3層の金属板3の内側面に衝突し、スラグの一部が除去される。このような現象が多数の貫通孔1と各層の金属板3面とを介して繰り返され、ガスは含有されているスラグを十分に捕集されると共に、面積/体積比の大きい金属板3に熱を奪われ、効率よく冷却される。この結果、フィルター材7の外側5層の貫通孔1から噴出されるガスは、スラグ含有量の極めて少ない清浄な適温のガスとなり、エアバッグ内に供給される。また、面積/体積比の大きい金属板3を用いたことにより、熱伝導性が良くなり、フィルター材7の軽量化を図ることができる。
【0021】
さらに、フィルター材7第1層の貫通孔1を径方向に投影すると、第1層の貫通孔1の投影領域が、第2層又は第3層において、遮蔽領域45と少なくとも一度は完全に重なっている。また、第2層の貫通孔1を径方向に投影すると、第2層の貫通孔1の投影領域が、第3層の遮蔽領域45と完全に重なっている。加えて、第3層の貫通孔1を径方向に投影すると、第3層の貫通孔1の投影領域が、第2層の遮蔽領域と完全に重なっている。従って、金属板3の各層における貫通孔1の位置は、巻き回したとき全層において一致することはなく、第1層の貫通孔1を通過したガスは、第2層又は第3層の金属板3の遮蔽領域45に衝突し、第2層の貫通孔1を通過したガスは、第3層の金属板3の遮蔽領域45に衝突する。また、第3層の貫通孔1を、第2層の遮蔽領域45に衝突したガスが通過する。この結果、十分にスラグが捕集されたガスが、フィルター材7からエアバッグ内に供給される。
【0022】
以上のように、本発明の実施形態におけるガス発生器用フィルター材7は、多数の貫通孔1及びその突出部2を有する1枚の金属板3を複数回巻き回して中空円筒状に成形され、金属板3間には空隙層6が形成される。また、金属板3が多数の貫通孔1を有すること、空隙層6が形成されること及び遮蔽領域45を備えていることから、ガスに含有されているスラグが十分に捕集されるとともに効率よくガスが冷却される。さらに、面積/体積比の大きい金属板3を用いることにより、熱伝導性が向上し、さらなるガス冷却効果が得られるとともに、フィルター材7の軽量化を図ることができる。
【0023】
さらに、貫通孔1の孔形状、孔径、孔間ピッチ、開口割合、及び貫通孔1を突き刺す面などのパラメータを変化させるという単純な作業によって、ガス冷却及びスラグ捕集効果を比較的容易且つ正確に制御することができる。
【0024】
<第1実施形態の変形例>
次に、本発明の第1実施形態の変形例に係るガス発生器用フィルター材に成形される前の金属板について説明する。図3は、本発明の第1実施形態の変形例に係るガス発生器用フィルター材に成形される前の金属板を示す図である。なお、第1実施形態におけるガス発生器用フィルター材7に成形される前の金属板における符号1、3、45、46がふられている各部と、本変形例において符号51、53、55、56がふられている各部は、順に同様のものであるので、説明を省略することがある。
【0025】
本変形例の金属板53は、(1)貫通孔51を欠落させた領域56が、金属板53を中空円筒状に巻き回したとき、複数箇所において、周方向に連続した2以上の貫通孔51を欠落させることによって得られたものである点、(2)遮蔽領域55が、貫通孔51を欠落させた領域56の第一隣設貫通孔によって囲まれた長方形の領域である点において、第1実施形態のガス発生器用フィルター材7に成形される前の金属板3と異なっている。金属板53を中空円筒状に巻き回したフィルター材において、遮蔽領域55は、第2層から第3層へと順に金属板53の高さ方向に連続してずれるように形成されている。
【0026】
本変形例によれば、金属板53を巻き回したフィルター材第1層の貫通孔51を径方向に投影すると、第1層の貫通孔51の投影領域が、第2層以降において、金属板53の遮蔽領域55と少なくとも一度は完全に重なっている。また、第2層の貫通孔51を径方向に投影すると、第2層の貫通孔51の投影領域が、第3層以降の遮蔽領域55と完全に重なっている。さらに、第3層の貫通孔51を径方向に投影すると、第3層の貫通孔51の投影領域が、第2層の遮蔽領域55又は第4層以降の遮蔽領域55と完全に重なっている。加えて、第4層以降の貫通孔51を径方向に投影すると、第3層の場合と同様に、第4層以降の貫通孔51の投影領域が、第1層を除く直前層までの遮蔽領域55又は直後の層以降の遮蔽領域55と完全に重なっている。従って、金属板53の各層における貫通孔51の位置は、巻き回したとき全層において一致することはなく、第1層の貫通孔51を通過したガスは、第2層以降の遮蔽領域55に衝突し、第2層の貫通孔51を通過したガスは、第3層以降の金属板53の遮蔽領域55に衝突する。また、第3層の貫通孔51を通過したガスは、第2層の遮蔽領域55にすでに衝突し又は第4層以降の遮蔽領域55に衝突する。さらに、第4層以降の貫通孔51を通過したガスは、第3層の場合と同様に、第1層を除く直前層までの遮蔽領域55にすでに衝突し又は直後の層以降の遮蔽領域55に衝突するので、第1実施形態と同様の作用・効果を得ることができる。
なお、金属板53の貫通孔51を欠落させる領域56は、金属板53の高さ方向に複数行であってもよく、第3層以降であってもよい。
【0027】
<第1実施形態の他の変形例>
次に、本発明の第1実施形態の他の変形例に係るガス発生器用フィルター材に成形される前の金属板について説明する。図4は、本発明の第1実施形態の他の変形例に係るガス発生器用フィルター材7に成形される前の金属板を示す図である。なお、第1実施形態におけるガス発生器用フィルター材に成形される前の金属板における符号1、3、45、46がふられている各部と、本変形例において符号61、63、65、66がふられている各部は、順に同様のものであるので、説明を省略することがある。
【0028】
本変形例の金属板63は、(1)貫通孔61を欠落させた領域66が、複数箇所において、金属板63の長さ方向に対し傾斜方向に連続した2以上の貫通孔61を欠落させることを、金属板63の長さ方向に周期的に繰り返すことによって得られたものである点、(2)遮蔽領域65が、貫通孔61を欠落させた領域66の第1隣設貫通孔と、第2隣設貫通孔とを結んだ直線を辺とする四角形を、四角形の一方の対角線方向に一部重複しつつ連続してずらすことにより特定された四角形群の領域である点において、第1実施形態のガス発生器用フィルター材7に成形される前の金属板3と異なっている。
【0029】
本変形例によれば、金属板63を巻き回したフィルター材第1層の貫通孔61を径方向に投影すると、第1層の貫通孔61の投影領域が、第2層以降において、金属板63の遮蔽領域65と少なくとも一度は完全に重なっている。また、第2層の貫通孔61を径方向に投影すると、第2層の貫通孔61の投影領域が、第3層以降の遮蔽領域65と完全に重なっている。さらに、第3層の貫通孔61を径方向に投影すると、第3層の貫通孔61の投影領域が、第2層の遮蔽領域65又は第4層以降の遮蔽領域65と完全に重なっている。加えて、第4層以降の貫通孔61を径方向に投影すると、第3層の場合と同様に、第4層以降の貫通孔61の投影領域が、第1層を除く直前層までの遮蔽領域65又は直後の層以降の遮蔽領域65と完全に重なっている。従って、金属板63の各層における貫通孔61の位置は、巻き回したとき全層において一致することはなく、第1層の貫通孔61を通過したガスは、第2層以降の遮蔽領域65に衝突し、第2層の貫通孔61を通過したガスは、第3層以降の金属板63の遮蔽領域65に衝突する。また、第3層の貫通孔61を通過したガスは、第2層の遮蔽領域65にすでに衝突し又は第4層以降の遮蔽領域65に衝突する。さらに、第4層以降の貫通孔61を通過したガスは、第3層の場合と同様に、第1層を除く直前層までの遮蔽領域65にすでに衝突し又は直後の層以降の遮蔽領域65に衝突するので、第1実施形態と同様の作用・効果を得ることができる。なお、貫通孔61を欠落させた傾斜方向は、貫通孔61が形成されている傾斜方向と異なるものであってもよい。
【0030】
次に、図面を参照しつつ、本発明の第1実施形態に係るフィルター材7を用いたガス発生器の例について説明する。図5及び図6は、本発明の第1実施形態に係るフィルター材7と同様の構成のフィルター材を用いたガス発生器の例である。
【0031】
図5は、図1に示す第1実施形態と同様の構成のフィルター材7を備えた、一般に助手席用エアバッグに用いられる長尺円筒形の、本発明に係るガス発生器Xの断面図を示している。ガス発生器Xは、長尺円筒体からなるハウジング11内にガス発生剤12が装填され、その外周部に長手方向に沿って図1に示す第1実施形態と同様の構成のフィルター材7が配置され、ハウジング11の一端部には伝火剤9と点火器10とからなる点火手段14が配置されている。ハウジング11は、長尺で一端が開口された有底円筒形状の外筒材15と、孔16cに嵌合固定された点火手段14を備え、該外筒材15の開口端を覆う蓋部材16とで構成されている。該蓋部材16の外周縁部に形成された環状リブ16aと外筒材15の開口先端15bとが突合され、摩擦圧接されて、密閉空間が形成されている。点火手段14の伝火剤9がフィルター材7内に隣接する蓋部材16の凸部16bと微小隙間を隔てるように、配置されており、蓋部材16に嵌め込まれる鍔付きキャップ部材21によってガス発生剤12から区画されている。
【0032】
外筒材15の周面には、エアバッグ(図示せず)に通じる複数のガス放出孔15aが外筒材15の軸方向及び周方向に所定間隔ごとに形成されている。17はアルミ箔等で薄板帯状に形成されたバーストプレートであって、各ガス放出孔15aを閉塞するように外筒材15の内周面に貼着されている。これはガス発生剤12の燃焼時の圧力を調整すると共に、外部から水分やゴミがガス発生器X内に侵入するのを防止する役割を果たすものである。
【0033】
フィルター材7は、ハウジング11の内周に周方向にわたって備えられ、ガス放出孔15aをハウジング11の外側から径方向に投影すると、該投影部分が、フィルター材7の遮蔽領域45と少なくとも一度は完全に重なっている。この構成により、ガス発生剤12の燃焼により発生したガスは、少なくとも一度フィルター材7を構成する金属板3の表面に衝突してフィルター材7を通過し、その後ハウジング11の内周側に衝突して、ガス放出孔から放出される。この結果、全く濾過(スラグ捕集)されることのないガスが、ガス放出孔15aから放出されることを防止できる。
【0034】
フィルター材7の一端は、蓋部材16側からクッション材22によって閉塞され、他端はクッション材25によって閉塞されている。クッション材22、25としては、シリコン発泡体やセラミックファイバ等の成形物が好適である。尚、これらクッション材22、25は、フィルター材7端面からのガス流出の観点からは必ずしも必要なものではなく、前述したように、フィルター材7の端面に切削仕上げ加工を行うことによって、これらクッション材22、25を省略することも可能である。しかしながら、ハウジング11の摩擦圧接時における寸法変化と、ガス発生剤12の振動による粉化を考慮すると、係るクッション材22、25の配置は好ましいと言える。
【0035】
次に、このガス発生器Xの作動について説明する。衝突センサ(図示しない)が車両の衝突を検知すると、その衝突検知信号によって、点火手段14の点火器10が点火されて伝火剤9を着火し、その火炎がキャップ部材21の孔21aからガス発生剤12に向けて噴出され、ガス発生剤12が着火し、高温高圧ガスが発生する。発生した高温高圧のガスはフィルター材7内に流入し、該フィルター材7を半径方向及び周方向に渡って通過して前記フィルター材7外周面と外筒材15内面との間の空間G内に流入する。さらにガス発生剤12の燃焼が進み、外筒材15内が所定圧力に達すると、各ガス放出孔15aを閉塞しているバーストプレート17が破裂し、空間G内の清浄ガスが、各ガス放出孔15aからエアバッグ(図示しない)に放出され、エアバッグを急速に膨張展開させる。尚、ガスはフィルター材7内を流通する過程において、前述したように金属板3との衝突を繰り返しながら、フィルター材7を通過し、その後外筒材15内面側に衝突して、次第に含有スラグ成分が除去され、冷却されて各ガス放出孔15aからエアバッグ内に放出されることになる。
【0036】
以上のように、本発明の実施形態に係るフィルター材7を用いたガス発生器Xは、ガス発生室で発生したガスが、少なくとも一度はフィルター材7を構成する金属板3の表面に衝突してフィルター材7を通過後、ハウジング11の内周側に衝突し、ガス放出孔から放出される。従って、従来に比べさらなるガス冷却効果及びスラグ捕集効果を有するガス発生器Xを提供することができる。また、本実施形態におけるガス発生器Xに用いられるフィルター材7は、従来のフィルター材に比べて孔のムラがないから圧力損失にバラツキが少ない。従って、ガス発生器の特性制御において、圧力損失のバラツキの影響を考慮する必要が少なくなり、設計が容易となる効果も期待される。
【0037】
尚、助手席用ガス発生器Xの構成としては、図5に示されているものに限定されず、例えばハウジング11内が仕切り部材によってガス発生剤12を収容するガス発生室とフィルター材7が装着されたフィルター室とに区画された構成、該フィルター室の左右両側に該ガス発生室が形成され、複数の点火手段14が設けられた構成なども採用できる。
【0038】
次に、図6は、図1に示す第1実施形態と同様の構成のフィルター材7を用いた運転席用ガス発生器Yの1例を示す断面図である。ガス発生器Yは、外筒材31aを具備する上容器31と、外筒材31aに対向する端部32aと内筒材32bとを有する下容器32とを有するガス発生器用ハウジング30から構成される。このガス発生器用ハウジング30は、溶接部36において、外筒材31aと端部32aとを夫々溶接接合して形成される。内筒材32b内には点火手段35と着火薬39とが配置され、その外側室にはガス発生剤12とフィルター材7とリテーナリング41、42とスポンジ43、44とが配置され、上容器31の外筒材31aにはガス放出孔38が形成されている。なお、リテーナリング41、42は、それぞれ上容器31、下容器32の内側有底部に沿って設けられている。また、スポンジ43、44は、それぞれガス発生剤12を挟み込むようにリテーナリング41、42の内部側に沿って設けられている。
【0039】
本実施形態で用いられるフィルター材7も、前述の通り1枚の金属板3を複数回巻き回して成形された中空円筒体であり、金属板3の貫通孔1の周囲に形成される突出部2によって、フィルター材7の外周面とハウジング30の外筒材31a内周面との間には、空間Gが形成されている。また、フィルター材7は、ハウジング30の内周に周方向にわたって備えられ、ガス放出孔38をハウジング30の外側から径方向に投影すると、該投影部分が、フィルター材7の遮蔽領域45と少なくとも一度は完全に重なっている。この結果、フィルター材7で含有スラグの除去及びガス冷却をされたガスが、ガス放出孔38からエアバッグ内に放出される事になり、従来に比べさらなるガス冷却効果及びスラグ捕集効果を有するガス発生器Yを提供することができる。
【0040】
なお、本発明は、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で設計変更できるものであり、上記実施形態や変形例に限定されるものではない。例えば、本発明の第1実施形態に係るガス発生器用フィルター材7の代わりに、本発明の第1実施形態の変形例に係るフィルター材を使用してもよい。また、フィルター材の金属板の巻き回しは、3層以上でもよく、好ましくは5層以上である。
【0041】
次に、本発明の実施形態に係るガス発生器用フィルター材の金属板の遮蔽領域の変形例について説明する。図7〜図10は、本発明の実施形態に係るガス発生器用フィルター材の金属板の遮蔽領域の変形例を示す図である。一点鎖線で囲まれた斜線部分は、遮蔽領域を示している。なお、第1実施形態におけるガス発生器用フィルター材に成形される前の金属板における符号1、45、46がふられている各部と、本変形例において符号71、81、91、101、75、85、95、105、76、86、96、106がふられている各部は、順に同様のものであるので、説明を省略することがある。
【0042】
図7(a)は、本発明の実施形態に係るガス発生器用フィルター材の金属板の遮蔽領域の第1変形例の一部を模式的に示しており、図7(b)は、図7(a)の遮蔽領域を傾斜方向に複数並べた本発明の実施形態に係るガス発生器用フィルター材の金属板の遮蔽領域の第1変形例を示している。
本変形例は、(1)貫通孔を欠落させた領域76が、隣り合う3つの貫通孔71を欠落させることによって得られたものである点(図7(a)参照)、(2)遮蔽領域75が、貫通孔を欠落させた領域76の第1隣設貫通孔と第2隣設貫通孔とに囲まれた略L字型の領域75aを、傾斜方向に複数並べた領域である点(図7(b)参照)で、第1実施形態に係る金属板3の遮蔽領域45と異なっている。
【0043】
図8(a)は、本発明の実施形態に係るガス発生器用フィルター材の金属板の遮蔽領域の第2変形例の一部を模式的に示しており、図8(b)は、図8(a)の遮蔽領域を傾斜方向に複数並べた本発明の実施形態に係るガス発生器用フィルター材の金属板の遮蔽領域の第2変形例を示している。
本変形例は、(1)貫通孔81が、等間隔に千鳥状に配列されている点(図8(a)、(b)参照)、(2)貫通孔を欠落させた領域86が、貫通孔81の1つを欠落させることによって得られたものである点(図8(a)参照)、(3)遮蔽領域85が、1つの貫通孔81を欠落させた領域86の第1隣設貫通孔に囲まれた六角形の領域85aを、傾斜方向に複数並べた帯状の領域である点(図8(b)参照)で、第1実施形態に係る金属板3の遮蔽領域45と異なっている。
【0044】
図9(a)は、本発明の実施形態に係るガス発生器用フィルター材の金属板の遮蔽領域の第3変形例の一部を模式的に示しており、図9(b)は、図9(a)の遮蔽領域を傾斜方向に複数並べた本発明の実施形態に係るガス発生器用フィルター材の金属板の遮蔽領域の第3変形例を示している。
本変形例は、(1)貫通孔91が、金属板の長さ方向と、金属板の高さ方向との間隔が異なる千鳥状に配列されている点(図9(a)、(b)参照)、(2)貫通孔91を欠落させた領域96が、貫通孔91の1つを欠落させることによって得られたものである点(図9(a)参照)、(3)遮蔽領域95が、1つの貫通孔91を欠落させた領域96の第1隣設貫通孔と、第2隣設貫通孔とに囲まれた六角形の領域95aを、傾斜方向に複数並べた帯状の領域である点(図9(b)参照)で、第1実施形態に係る金属板3の遮蔽領域45と異なっている。
【0045】
図10(a)は、本発明の実施形態に係るガス発生器用フィルター材の金属板の遮蔽領域の第4変形例の一部を模式的に表しており、図10(b)は、図10(a)の遮蔽領域を傾斜方向に複数並べた本発明の実施形態に係るガス発生器用フィルター材の金属板の遮蔽領域の第4変形例を示している。
本変形例は、(1)貫通孔101が、金属板の長さ方向と、金属板の高さ方向との間隔が異なる千鳥状に配列されている点(図10(a)、(b)参照)、(2)貫通孔を欠落させた領域106が、隣り合う3つの貫通孔101を欠落させることによって得られたものである点(図10(a)参照)、(3)遮蔽領域105が、隣り合う3つの貫通孔を欠落させた領域106の第1隣設貫通孔と、第2隣設貫通孔とに囲まれた六角形の領域105aを、傾斜方向に複数並べて得られた領域である点(図10(b)参照)で、第1実施形態と異なっている。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の第1実施形態に係るガス発生器用フィルター材の斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るガス発生器用フィルター材に成形される前の金属板を示す図である。
【図3】本発明の第1実施形態の変形例に係るフィルター材に成形される前の金属板を示す図である。
【図4】本発明の第1実施形態の他の変形例に係るフィルター材に成形される前の金属板を示す図である。
【図5】本発明の実施形態に係るフィルター材を用いたガス発生器の1例における断面図である。
【図6】本発明の実施形態に係るフィルター材を用いたガス発生器の他の例における断面図である。
【図7】(a)が、本発明の実施形態に係るフィルター材の金属板の遮蔽領域の第1変形例の一部を模式的に示す図、(b)が、本発明の実施形態に係るフィルター材の金属板の遮蔽領域の第1変形例を示す図である。
【図8】(a)が、本発明の実施形態に係るフィルター材の金属板の遮蔽領域の第2変形例の一部を模式的に示す図、(b)が、本発明の実施形態に係るフィルター材の金属板の遮蔽領域の第2変形例を示す図である。
【図9】(a)が、本発明の実施形態に係るフィルター材の金属板の遮蔽領域の第3変形例の一部を模式的に示す図、(b)が、本発明の実施形態に係るフィルター材の金属板の遮蔽領域の第3変形例を示す図である。
【図10】(a)が、本発明の実施形態に係るフィルター材の金属板の遮蔽領域の第4変形例の一部を模式的に示す図、(b)が、本発明の実施形態に係るフィルター材の金属板の遮蔽領域の第4変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0047】
1、51、61、71、81、91、101 貫通孔
2 突出部
3、53、63 金属板
3a、3b 金属板終始端部
4 フィルター材内側
5 フィルター材外側
6 空隙層
7 フィルター材
9 伝火剤
10 点火器
11、30 ハウジング
12 ガス発生剤
14、35 点火手段
15、31a 外筒材
15a、38 ガス放出孔
16 蓋部材
32b 内筒材
36 溶接部
39 着火薬
43、44 スポンジ
45、55、65、75、85、95、105 遮蔽領域
75a、85a、95a、105a 遮蔽領域の一部
46、56、66、76、86、96、106 貫通孔を欠落させた領域
X、Y ガス発生器









【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の貫通孔を有し、前記複数の貫通孔のそれぞれの周囲に突出部を有する金属板を巻き回して中空円筒状に成形されているエアバック用ガス発生器に使用されるフィルター材であって、
前記金属板が、所定方向に規則的に配列された前記複数の貫通孔のうち一部を規則的に欠落させた領域を含んでおり且つ前記欠落させた領域に隣設されている貫通孔に囲まれた遮蔽領域を備え、
各前記貫通孔を径方向に投影した際、各前記貫通孔の投影領域が、各前記貫通孔がそれぞれ存在する層とは異なる層において、前記遮蔽領域と少なくとも一度は完全に重なることを特徴とするガス発生器用フィルター材。
【請求項2】
前記複数の貫通孔が、前記金属板の長さ方向に対し傾斜方向に所定の間隔で形成され、
前記遮蔽領域が、3以上の前記貫通孔を結んだ辺を一辺とする複数の四角形において、前記四角形内の貫通孔を欠落させることによって得られたものであることを特徴とする請求項1に記載のガス発生器用フィルター材。
【請求項3】
前記複数の貫通孔が、前記金属板の長さ方向に対し傾斜方向に所定の間隔で形成され、
前記遮蔽領域が、複数箇所において、前記円筒の周方向に連続した2以上の前記貫通孔を欠落させることによって得られたものであることを特徴とする請求項1に記載のガス発生器用フィルター材。
【請求項4】
前記複数の貫通孔が、前記金属板の長さ方向に対し傾斜方向に所定の間隔で形成され、
前記遮蔽領域が、複数箇所において、前記金属板の長さ方向に対し傾斜方向に連続した2以上の貫通孔を欠落させることによって得られたものであることを特徴とする請求項1に記載のガス発生器用フィルター材。
【請求項5】
ガス放出孔を有するハウジングと、
前記ハウジング内に形成され、燃焼により高温ガスを発生するガス発生剤が装填されている燃焼室と、
点火薬を内包しており、前記ハウジング内に装着され、前記燃焼室内の前記ガス発生剤を着火燃焼させるガス発生剤点火手段とを備えたガス発生器であって、
前記ハウジングの内周に周方向にわたって、請求項1〜4のいずれか1項に記載のフィルター材をさらに備え、
前記ガス放出孔を前記ハウジングの外側から径方向に投影した際、該投影領域と前記フィルター材の前記遮蔽領域とが少なくとも一度は重なっていることを特徴とするガス発生器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−273305(P2008−273305A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−117087(P2007−117087)
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【出願人】(000230386)日本ラインツ株式会社 (14)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】