説明

ガス遮断器

【課題】通電接触子の小径化、軽量化により、小型で、組立性及び製造性の優れたガス遮断器を提供すること。
【解決手段】ガス遮断器は、絶縁ガスが充填された密閉タンク100内に配設され接離可能な一対のアーク接触子である固定アーク接触子20及び可動アーク接触子21と、この一対のアーク接触子を中心とした同一円周上に所定間隔をおいて配設されアーク接触子と同方向に接離可能であると共にそれぞれ固定通電接触子23及び可動通電接触子24からなる複数対の通電接触子と、この各通電接触子に対応してそれぞれ設けられ電流遮断時に圧縮された絶縁ガスをアーク接触子間に生じるアークに吹付ける機械パッファ室26と、を備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、変電所や開閉所などの電気所に設置され、絶縁ガスの吹付けによって接触子間に生じるアークを消弧するパッファ形のガス遮断器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のガス遮断器としては、例えば絶縁ガスが満たされた容器中に、アーク接触子と、このアーク接触子の周囲に配置された筒状の通電接触子と、これらの接触子のうち可動側の接触子(以下、可動アーク接触子ともいう。)をピストンロッドで同一方向に往復駆動する可動接触子支持部と、が同一軸線上に配置されている。そして、可動アーク接触子の外周とパッファピストンの可動通電接触子の内周とで形成された熱パッファ室と、この熱パッファ室に隣接してパッファピストンの可動通電接触子と電気的に接触しながら摺動可能な摺動通電シリンダで形成された機械パッファ室と、を備えたものがある。
【0003】
このガス遮断器は、電流遮断時にアークエネルギーにより絶縁ガスが加熱昇圧されて熱パッファ室に蓄積され、電流零点の近傍で高圧絶縁ガスをアークに吹付け電流を遮断すると同時に、機械パッファ室で高圧になった絶縁ガスが熱パッファ室を経由してアーク発生領域に吹付けられて絶縁性能を回復するように構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2004−55162号公報(第3−6頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような従来のガス遮断器では、筒状の固定接触子とこの固定接触子に対向する筒状の可動接触子はそれぞれ極めて径の大きな単一の接触子として形成されており、しかも導電性及び伝熱性に優れた銅系素材で構成されているため、その質量が極めて大きくなっている。このため、可動側の接触子を駆動させる駆動力の増強が必要となり、駆動連結機構部品及び操作装置を小型化することが困難であるという問題があった。
【0006】
また、各接触子の径が大きいので、これらの接触子を支持する支持部分の構成も大きくなり、ガス遮断器を小型化するのが困難であるという問題があった。さらに、接触子や支持部分の重量が極めて大きいため、組立性や製造性にも問題があった。
【0007】
本発明は、上記のような問題点を解消するためになされたものであって、通電接触子の小径化、軽量化により、小型で、組立性及び製造性の優れたガス遮断器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかるガス遮断器は、絶縁ガスが充填された密閉タンクと、この密閉タンク内に相対向して配設され、接離可能な一対のアーク接触子と、前記密閉タンク内にそれぞれ相対向して配設され、前記一対のアーク接触子と同方向に接離可能であると共に、前記一対のアーク接触子の軸線を中心として前記一対のアーク接触子の周りに相互に離隔して配設された複数対の通電接触子と、この各対の通電接触子を構成する可動側の通電接触子にそれぞれ対応して設けられ、電流遮断時に前記各可動側の通電接触子の移動により圧縮された前記絶縁ガスを前記一対のアーク接触子間に生じるアークに吹付ける機械パッファ部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、一対のアーク接触子の軸線を中心とし、当該アーク接触子の周りに相互に離隔して複数対の通電接触子を配設したことにより、従来の通電接触子に比べて、各対の通電接触子が小型、軽量化される。これにより、通電接触子自身の小型化に加えて、可動接触子を駆動させるための駆動連結部や駆動装置の小型化、さらには、これらの接触子を支持するための支持部の構成も小型化されるので、小型で、組立性及び製造性の優れたガス遮断器を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明にかかるガス遮断器の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0011】
実施の形態1.
図1はこの発明を実施するための実施の形態1におけるガス遮断器の通電状態を示す断面図である。図1において、電流を通電又は遮断するための開閉部1は、例えばエポキシ樹脂などで製作された絶縁筒2と、この絶縁筒2の一端に連接された円筒容器状の固定側円筒導体3と、絶縁筒2の他端に連接された円筒容器状の可動側円筒導体4と、が一体となって構成された密閉タンク100に収納されている。この密閉タンク100内は6フッ化硫黄(SF)などの絶縁ガスが充填されており、支持架台5上に支持絶縁物6と支持絶縁物7とで支持されている。支持架台5には操作装置10が設置され、この操作装置10により、絶縁部材からなる絶縁操作ロッド11と、リンク機構12及びリンク機構13とを介して、開閉部1の開閉操作が行われる。なお、支持絶縁物6は軸を水平にして設置された密閉タンク3の端部付近を絶縁支持している。また、可動側円筒導体4の側面には、一端が密閉タンク3の内部に設けられたリンク機構12と接続され他端が密閉タンク3の外部に設けられた操作装置10に接続された絶縁操作ロッド11を貫通させるための孔が設けられており、支持絶縁物7はこの孔が設けられた可動側円筒導体4の周辺を絶縁支持している。
【0012】
開閉部1は、電流を遮断するための遮断部14と定格電流を通電するための通電部15とで構成されている。遮断部14は、固定側円筒導体3に連接された固定側補助導体300と、この固定側補助導体300と電気的に接続された固定アーク接触子20と、この固定アーク接触子20と同一軸線上で相対向する可動アーク接触子21とから構成されている。この可動アーク接触子21は固定アーク接触子20と軸線上で接離可能であるとともに、ロッド接触子22を介して可動側円筒導体4に連接された可動側補助導体400と電気的に接続されている。また、可動アーク接触子21の固定アーク接触子20とは反対側の端部はリンク機構12に接続されており、可動アーク接触子21はリンク機構12及び絶縁操作ロッド11を介して操作装置10により軸線方向に直線的に往復移動可能となっている。また、可動アーク接触子21にはリンク機構13が連結されており、このリンク機構13を介して可動アーク接触子21の動作に連動して後述の可動通電接触子が軸線方向に往復移動するように構成されている。
【0013】
図2は図1のII−II線における拡大断面図、図3は通電状態の遮断部及び通電部の一部構成を示す部分拡大断面図、図4は遮断状態の遮断部及び通電部の一部構成を示す部分拡大断面図である。なお、図2は、図1でのII−II線に添えられた矢印の方向に視た場合の矢視断面図である。図2〜図4に示すように、通電部15は、固定側補助導体300と電気的に接続された固定通電接触子23及びこの固定通電接触子23と相対向する筒状の可動通電接触子24で構成され、図示例では、このような通電部15が4つ設けられている。すなわち、各通電部15は、1対の通電接触子(固定通電接触子23及び可動通電接触子24)からなり、このような4つの通電部15は、図2に示すように、遮断部14を取り囲んで同心円上に例えば相互に等間隔に配置されている。詳細には、可動アーク接触子21又は固定アーク接触子20の中心軸線Aの周りに4対の通電接触子がその軸線を中心軸線Aと平行にして配置されており、これら4対の通電接触子を中心軸線Aの方向から平面視で視た場合には、各通電接触子は中心軸線Aを中心とした所定の半径の同心円上に配置されると共に相互に離隔して例えば等間隔で配置されている。また、4つの通電部15は、遮断部14と電気的に並列に接続されている。可動通電接触子24は固定通電接触子23と軸線上で接離可能である。筒状に形成された可動通電接触子24の固定通電接触子23側の端部は開口状態となっており、この開口端部が固定通電接触子23に嵌入して接触状態となる。可動通電接触子24の固定通電接触子23側の端部とは反対側の端部には円板状の端板(又は、円筒を軸方向に起立させたときの底板)が設けられており、この端板にはリンク機構13と連結されたピストンロッド221が固着され、可動アーク接触子21の往復移動に応じてピストンロッド221も同方向に往復移動することにより各通電接触子の接離がなされる。また、可動側補助導体400には可動側筒状導体401が連接されており、可動通電接触子24は、リング状の接触子25を介して可動側筒状導体401と電気的に接触しながら摺動可能に接続されている。
【0014】
筒状の可動通電接触子24のピストンと可動側補助導体400及び可動側円筒状導体401で形成されるシリンダとで形成された機械パッファ室26は、可動通電接触子24と固定通電接触子23の開閉動作に伴いその容積が変化する。固定側補助導体300に連接された絶縁部材28は固定アーク接触子20の外周面に沿って可動側に延伸し、また、可動側補助導体400に連接された絶縁ノズル27は固定側に延伸している。機械パッファ室26は絶縁ノズル27と絶縁部材28とで形成された吹出し流路29を介して、固定アーク接触子20と可動アーク接触子21とが開離した時にアークが生じるアーク発生領域30と連通している。
【0015】
ここで、可動側円筒導体4、可動側補助導体400及び可動側筒状導体401を可動側導体と総称し、固定側円筒導体3及び固定側補助導体300を固定側導体と総称する。これらは導電性及び伝熱性に優れた例えば銅系素材を用いて形成されている。また、固定アーク接触子20と固定通電接触子23には弾力性に富み、保持力に優れた例えばフィンガーコンタクトが用いられている。
【0016】
次に、本実施の形態の動作について説明する。上述のように構成されたガス遮断器において、遮断部14の可動アーク接触子21はリンク機構12及び絶縁操作ロッド11を介して操作装置10により固定アーク接触子20に対して軸線方向に動作することで開閉操作される。また、この開閉動作に連動して、通電部15の可動通電接触子24は、固定通電接触子23に対してリンク機構13を介して開閉操作される。
【0017】
次に、電流遮断時の動作について説明する。まず、4対の通電接触子をそれぞれ構成する可動通電接触子24と固定通電接触子23とが開離し、その後に可動アーク接触子21が固定アーク接触子20から開離する。この開離動作により可動アーク接触子21と固定アーク接触子20との間のアーク発生領域30にアークが発生する。このとき、各可動通電接触子24の開放動作に伴って各機械パッファ室26内の絶縁ガスが圧縮されて圧力が上昇する。これにより、高圧となった絶縁ガスが吹出し流路29を通ってアーク発生領域30のアークに吹付けられることによってアークが消弧され、電流遮断が行われる。
【0018】
一方、電流通電(投入)時には、可動アーク接触子21と固定アーク接触子20とが接続され、その後に4対の通電接触子をそれぞれ構成する可動通電接触子24と固定通電接触子23とが同時に接続されることによって電流を通電する。
【0019】
本実施の形態によれば、固定アーク接触子20と可動アーク接触子21とからなる一対のアーク接触子を中心として同一円周上に所定間隔をおいてそれぞれ固定通電接触子23と可動通電接触子24とからなる4対の通電接触子を電気的に並列に配設するようにしたので、各通電接触子は通電電流の1/4を分担すればよいことになる。従って、各固定通電接触子23及び各可動通電接触子24の径を従来の1/4程度に縮小することができ、可動部の質量を小さくできるという効果を奏する。
【0020】
また、一般的に、可動接触子を開閉操作する駆動力Fが行う仕事は、可動接触子の運動エネルギーと比例関係にあり、可動接触子の質量mと移動距離Lにおける可動接触子の速度vとを用いて、エネルギー保存の法則により、下記(1)式に示す関係にある。
【数1】

【0021】
操作装置10の駆動力Fは、可動アーク接触子21を開閉操作する駆動力F1と各可動通電接触子24を開閉操作する駆動力F2の合計値であり、F1とF2もそれぞれ上記(1)式の関係がある。
【0022】
上記(1)式より可動接触子の質量mと駆動力Fとは比例関係にあり、可動接触子の質量mを小さくすれば、駆動力Fを小さくできることが分かる。本実施の形態では、可動部の質量を従来に比べて小さくすることができ、従って、Fを小さくすることができる。駆動力Fの低減に伴い、リンク機構12、リンク機構13及び絶縁操作ロッド11などの駆動連結機構部品も小型化できるので操作装置10を小型化できる。
【0023】
また、本実施の形態では、可動アーク接触子21の移動距離L1と可動通電接触子24の移動距離L2は、リンク機構13のアーム130の支持間長さL3とL4との比で決められ、下記(2)式の関係にある。
L1:L2=L3:L4 ・・・(2)
従って、アーム130の支持間長さL4をL3の1/2とすれば、可動通電接触子24の移動距離L2は可動アーク接触子21の移動距離L1の1/2になる。
【0024】
本実施の形態では、可動通電接触子24と可動アーク接触子21とが連動していることから、可動通電接触子24の速度は可動アーク接触子21の速度の1/2になる。
【0025】
このように、移動距離Lと速度vは相関があり、上記(1)式から駆動力Fは速度vについては2乗に比例し移動距離Lについては反比例しているので、移動距離Lが短くなることにより駆動力Fを小さくできることも分かる。
【0026】
上記のとおり、可動通電接触子24の移動距離L2は、リンク機構13によって可動アーク接触子21の移動距離L1より短く調整できる。すなわち、可動通電接触子24の移動距離L2が短くなることにより、駆動力Fも低減できるので操作装置10を小型化できるとともに、機械パッファ室26の軸方向長さを短くできるので、開閉部1を小型化できる。
【0027】
なお、本実施の形態では、それぞれ固定通電接触子23と可動通電接触子24とからなる4対の通電接触子によって通電電流を分流する構成を示したが、2対以上であれば任意対の構成を採用することができ、この場合も本実施の形態と同様な効果が得られる。また、固定アーク接触子20及び固定通電接触子23はフィンガーコンタクトとしたが、接離可能なコンタクトであれば同様な効果が得られる。また、図2に示すように、通電接触子は、アーク接触子を中心として同一円周上に相互に等間隔となるように配置されているが、これに限定されず、所定の間隔で配置された他の構成も可能である。
【0028】
実施の形態2.
図5はこの発明を実施するための実施の形態2における遮断部及び通電部を示す断面図、図6は図5のVI−VI線における遮断状態の遮断部及び通電部の一部構成を示す部分断面図である。なお、図5は、詳細には、図1に示す中心軸線A方向にガス遮断器を視たときの透視断面図であり、本実施の形態の説明に必要な構成要素についての配置関係を示すものである。また、図6は図5でのVI−VI線に添えられた矢印の方向に視た場合の矢視断面図である。図5及び図6において、実施の形態1と同一符号は同一部分を示すものであり、以下では説明を省略する。また、図5及び図6に示されていない部分の構成は、例えば図1に示す実施の形態1の構成と同様である。
【0029】
本実施の形態では、熱パッファ室31が設けられており、これに応じて実施の形態1の吹出し流路29の構成が変形されており、遮断時又は通電時にかかわらず遮断部14と通電部15とは軸線方向に左右にずらして配置されている。遮断部14のアーク発生領域30の周囲には熱パッファ室31が配設されており、この熱パッファ室31は中心軸線Aを軸心として周方向に沿ってアーク発生領域30を取り囲むように環状又はドーナツ状に形成され、アークエネルギーで加熱昇圧された絶縁ガスが熱パッファ室31に蓄積される構成としている。熱パッファ室31は、一端が可動側補助導体400に固着された円筒状の外周板310と、この外周板310の他端に固着され中心に可動アーク接触子21が挿通する円形の開口部が形成された円板状の側板311と、この側板311の開口部における内周面に固着され可動アーク接触子21の周囲に配置された絶縁ノズル312と、で形成されている。本実施の形態では、環状又はドーナツ状に形成された熱パッファ室31の上記周方向に垂直な面による断面形状は矩形であり、熱パッファ室31は、外周板310の内周面と、この外周板310に同軸的に配置され絶縁ノズル312で規定される仮想的な内筒の外周面とで囲まれた領域であって、側板311と可動側補助導体400との間の領域として形成されている。また、熱パッファ室31における絶縁ノズル312の先端部には、アーク発生領域30に向けて全周に亘って開口している開口部が形成されており、この開口部により吹き出し流路29が形成されている。
【0030】
熱パッファ室31と機械パッファ室26とは可動側補助導体400に設けられた連通孔32で連通され、この連通孔32の熱パッファ室31側に、熱パッファ室31から機械パッファ室26へのガス流を防止する逆止弁33が配設されている。
【0031】
可動アーク接触子21は、ロッド接触子22、側板311、ロッド接触子22と側板311とを接続し、所々に孔が設けられた導電性部材220、および外周板310を介して、可動側円筒導体4に連接された可動側補助導体400と電気的に接続されている。また、逆止弁33は、絶縁ノズル312と相対向するように可動側に突き出た絶縁部材28の先端部上方に設けられている。
【0032】
次に、上述のように構成された本実施の形態のガス遮断器の遮断動作について説明する。大電流領域の遮断では、アーク発生領域30における絶縁ガスはアークエネルギーにより加熱昇圧されて、熱パッファ室31に蓄積される。この熱パッファ室31の圧力が機械パッファ室26の圧力より大きくなると、逆止弁33が閉塞動作して連通孔32は閉塞される。その後に、電流零点に近づくとアーク発生領域30の加熱昇圧が減少するので、熱パッファ室31に蓄えられていた高圧の絶縁ガスがアーク発生領域30のアークに吹付けられることによってアークが消弧され、電流遮断が行われる。この動作に伴い、熱パッファ室31の圧力が低下するため、機械パッファ室26の圧力の方が相対的に大きくなり、逆止弁33は開放動作する。この開放動作に伴い、機械パッファ室26内の圧縮された冷たい絶縁ガスが熱パッファ室31を経由してアーク発生領域30に吹付けられることによって絶縁性能が回復する。
【0033】
小電流領域の遮断では、アーク発生領域30の絶縁ガスはあまり加熱されないために、熱パッファ室31の圧力はそれほど上昇しない。従って、連通孔32の逆止弁33は開放状態を維持している。その後に、機械パッファ室26で圧縮された絶縁ガスが熱パッファ室31を経由して、アーク発生領域30に吹付けられることによってアークが消弧され、電流遮断が行われるともに、絶縁性能が回復する。
【0034】
中電流領域の遮断では、熱パッファ室31と機械パッファ室26の圧力がほぼ同等になる。このため、逆止弁33は開放状態を維持しているが、熱パッファ室31から機械パッファ室26へのガス流は発生しない。その後に、電流零点に近づくとアーク発生領域30の加熱昇圧が減少するので、熱パッファ室31に蓄積されていた高圧の絶縁ガスがアーク発生領域30のアークに吹付けられることによってアークが消弧され、電流遮断が行われる。続いて、機械パッファ室26内の圧縮された冷たい絶縁ガスが熱パッファ室31を経由してアーク発生領域30に吹付けられることによって絶縁性能が回復する。
【0035】
本実施の形態によれば、遮断部14のアーク発生領域30の外周に、その全周を取り囲むように環状又はドーナツ形状の熱パッファ室31を配設したことにより、電流遮断時に熱パッファ効果が加わるため相対的に機械パッファ室26を小さくすることができる。すなわち、固定通電接触子23、可動通電接触子24の径をそれぞれ通電容量が確保できる限界まで小さくできる。或いは、可動通電接触子24の移動距離L2を短くできるので開閉部1の小型化が実現できる。さらに、可動通電接触子24の質量mや移動距離L2に比例して駆動力Fを低減できるので操作装置10をより小型化できる。
【0036】
実施の形態3.
図7はこの発明を実施するための実施の形態3における遮断部及び通電部を示す断面図、図8は図7のVIII−VIII線における遮断状態の遮断部及び通電部の一部構成を示す部分断面図、図9は図7のIX−IX線における遮断状態の遮断部及び通電部の一部構成を示す部分断面図である。なお、図7は、詳細には、図1に示す中心軸線A方向にガス遮断器を視たときの透視断面図であり、本実施の形態の説明に必要な構成要素についての配置関係を示すものである。図7〜図9において、実施の形態1と同一符号は同一部分を示すものであり、以下では説明を省略する。
【0037】
本実施の形態では、中心軸線Aを中心としてアーク発生領域30を取り囲むように環状又はドーナツ状に形成された熱パッファ室40が配設されており、この熱パッファ室40は、中心軸線Aに垂直な方向については、固定通電接触子23及び可動通電接触子24の軸線と固定アーク接触子20及び可動アーク接触子21の軸線との間に設けられ、且つ、中心軸線Aに平行な方向については、可動側補助導体400と固定側補助導体300との間の領域に設けられている。また、熱パッファ室40は、断面が例えばコの字型の壁板をその開放端を絶縁部材28上に固着して形成された内部空間として設けられており、周方向に垂直な断面形状は矩形となっている。このように、熱パッファ室40は、実施の形態2で説明した熱パッファ室31とは配置、構成共に異なるものである。熱パッファ室40は、絶縁部材28に設けられた複数個(図示例では、例えば4個)の連通孔41を介して、機械パッファ室26からの吹出し流路29と連通されるように配設されている。また、吹出し流路29には、アーク発生領域30から機械パッファ室26へのガス流を防止する逆止弁42が配設されている。
【0038】
次に、上述のように構成された本実施の形態にかかるガス遮断器の遮断時における動作、特に、大電流領域の遮断動作について説明する。アーク発生領域30の絶縁ガスはアークエネルギーにより加熱昇圧され高圧になる。このため、各機械パッファ室26及び熱パッファ室40に向かって、吹出し流路29及び連通孔41をそれぞれ介してガス流が発生する。その後に、機械パッファ室26の圧力よりアーク発生領域30の圧力が高くなると、吹出し流路29に配設した逆止弁42が閉塞動作することによって機械パッファ室26へのガス流は阻止される。このため、ほとんどのガス流は連通孔41を介して熱パッファ室40に蓄積され、この熱パッファ室40内の圧力が上昇する。続いて、電流零点に近づくとアーク発生領域30の加熱昇圧が減少するため、熱パッファ室40に蓄えられていた高圧の絶縁ガスが連通孔41を介してアーク発生領域30のアークに吹付けられることによってアークが消弧され、電流遮断が行われる。次に、アーク発生領域30の圧力低下にともない、逆止弁42が開放動作し、機械パッファ室26の冷たい絶縁ガスが吹出し流路29を介して、アーク発生領域30に吹付けられ絶縁性能が回復する。
【0039】
本実施の形態によれば、実施の形態1に説明した効果に加えて以下のような効果が得られる。上述したように熱パッファ室40を可動側補助導体400と固定側補助導体300間に設けたことにより、軸方向長さをさらに縮小することができる。また、機械パッファ室26で高圧となった絶縁ガスは熱パッファ室40を経由することなく、アーク発生領域30に吹付けられるので、絶縁性能の回復をより効率的に行える。
【0040】
なお、本実施の形態では絶縁部材28に複数個の連通孔41を配設したが、このような連通孔41の代わりにアーク発生領域30の全周に対して開口を設ける構成にしても良い。
【0041】
実施の形態4.
図10はこの発明を実施するための実施の形態4における遮断部及び通電部を示す断面図、図11は図10のAI−AI線における遮断状態の遮断部及び通電部の一部構成を示す部分断面図、図12は図10のAII−AII線における遮断状態の遮断部及び通電部の一部構成を示す部分断面図である。なお、図10は、詳細には、図1に示す中心軸線A方向にガス遮断器を視たときの透視断面図であり、本実施の形態の説明に必要な構成要素についての配置関係を示すものである。図10〜図12において、実施の形態3と同一符号は同一部分を示すものであり、ここでは説明を省略する。
【0042】
本実施の形態では、実施の形態3の熱パッファ室40に加えて、さらに熱パッファ室43が配設されている。すなわち、複数対の通電接触子(固定通電接触子23、及び可動通電接触子24)に対して、相互に隣接する通電接触子対間にはそれぞれ筒状の熱パッファ室43が設けられており、各熱パッファ室43は連通孔44を介して熱パッファ室40と連通している。また、各熱パッファ室43の中心は、各通電接触子の中心が位置している中心軸線Aを中心とした円周と同一の円周上にそれぞれ配置されている。各熱パッファ室43は、中心軸線A方向には熱パッファ室40と同じ長さに形成され、また、アーク発生領域30に対して、熱パッファ室40よりもより離れた位置に設けられている。
【0043】
次に、上述のように構成された本実施の形態にかかるガス遮断器の遮断時における動作、特に、大電流遮断時の遮断動作について説明する。アーク発生領域30の絶縁ガスはアークエネルギーにより加熱昇圧され高圧になるため、熱パッファ室40及び連通孔44を経由して熱パッファ室43に蓄積される。電流零点に近づくとアーク発生領域30の加熱昇圧が減少するため、熱パッファ室40及び熱パッファ室43に蓄えられていた高圧の絶縁ガスが連通孔41を介してアークに吹付けられて電流を遮断する。
【0044】
本実施の形態によれば、実施の形態3の効果に加えて以下の効果が得られる。上述したように中心軸線Aを中心とする周方向における通電接触子対間に、連通孔44を介して熱パッファ室40と連通された筒状の熱パッファ室43を配設したことにより、通電接触子対間のスペースを有効に活用できるとともに、大容積の熱パッファ室を得ることができ、遮断性能がさらに向上する。さらに、絶縁ガスは高温になるほど絶縁性能が低下するが、熱パッファ室43の冷たい絶縁ガスと混合して冷却されるので、より遮断性能が向上するという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施の形態1におけるガス遮断器の通電状態を示す断面図である。
【図2】図1のII−II線における拡大断面図である。
【図3】実施の形態1における通電状態の遮断部及び通電部の一部構成を示す部分拡大断面図である。
【図4】実施の形態1における遮断状態の遮断部及び通電部の一部構成を示す部分拡大断面図である。
【図5】実施の形態2における遮断部及び通電部を示す断面図である。
【図6】図5のVI−VI線における遮断状態の遮断部及び通電部の一部構成を示す部分断面図である。
【図7】実施の形態3における遮断部及び通電部を示す断面図である。
【図8】図7のVIII−VIII線における遮断状態の遮断部及び通電部の一部構成を示す部分断面図である。
【図9】図7のIX−IX線における遮断状態の遮断部及び通電部の一部構成を示す部分断面図である。
【図10】実施の形態4における遮断部及び通電部を示す断面図である。
【図11】図10のAI−AI線における遮断状態の遮断部及び通電部の一部構成を示す部分断面図である。
【図12】図10のAII−AII線における遮断状態の遮断部及び通電部の一部構成を示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 開閉部
2 絶縁筒
3 固定側円筒導体
4 可動側円筒導体
6、7 支持絶縁物
10 操作装置
11 絶縁操作ロッド
12、13 リンク機構
14 遮断部
15 通電部
20 固定アーク接触子
21 可動アーク接触子
22 ロッド接触子
23 固定通電接触子
24 可動通電接触子
25 接触子
26 機械パッファ室
29 吹出し流路
30 アーク発生領域
31 熱パッファ室
32、41、44 連通孔
33 逆止弁
40、43 熱パッファ室
100 密閉タンク
310 外周板
311 側板
312 絶縁ノズル
400 可動側補助導体
401 可動側筒状導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁ガスが充填された密閉タンクと、
この密閉タンク内に相対向して配設され、接離可能な一対のアーク接触子と、
前記密閉タンク内にそれぞれ相対向して配設され、前記一対のアーク接触子と同方向に接離可能であると共に、前記一対のアーク接触子の軸線を中心として前記一対のアーク接触子の周りに相互に離隔して配設された複数対の通電接触子と、
この各対の通電接触子を構成する可動側の通電接触子にそれぞれ対応して設けられ、電流遮断時に前記各可動側の通電接触子の移動により圧縮された前記絶縁ガスを前記一対のアーク接触子間に生じるアークに吹付ける機械パッファ部と、
を備えることを特徴とするガス遮断器。
【請求項2】
通電時における通電電流は、前記複数対の通電接触子に等分に分流されることを特徴とする請求項1に記載のガス遮断器。
【請求項3】
前記複数対の通電接触子は、前記軸線方向から視たときに、前記軸線を中心とした所定の径の円周上に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のガス遮断器。
【請求項4】
前記機械パッファ部は、
前記可動側の通電接触子で形成された筒状のピストンと、
このピストンの外周を取り囲むように形成され、前記ピストンとの間に機械パッファ室を形成するシリンダと、
前記機械パッファ室からアーク発生領域に向かって形成され前記絶縁ガスが通流する吹出し流路と、
を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のガス遮断器。
【請求項5】
前記シリンダは、前記可動側の通電接触子に電気的に接続された可動側導体で形成されていることを特徴とする請求項4に記載のガス遮断器。
【請求項6】
前記各可動側の通電接触子と、前記一対のアーク接触子を構成する可動側のアーク接触子と、を連結し、前記一対のアーク接触子の接離と前記複数対の通電接触子の接離とを連動させる駆動連結部をさらに備え、
前記駆動連結部は、前記各可動側の通電接触子の可動距離を、前記可動側のアーク接触子の可動距離よりも短くするものであることを特徴とする請求項4又は5に記載のガス遮断器。
【請求項7】
前記一対のアーク接触子間に生じるアークエネルギーにより加熱昇圧された絶縁ガスを電流零点近傍でアークに吹付ける熱パッファ部をさらに備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のガス遮断器。
【請求項8】
前記機械パッファ部は、
前記可動側の通電接触子で形成された筒状のピストンと、
このピストンの外周を取り囲むように形成され、前記ピストンとの間に機械パッファ室を形成するシリンダと、
を備え、
前記熱パッファ部は、
前記機械パッファ室と連通孔を通じて連通すると共に、アーク発生領域に向かって開口する熱パッファ室と、
この熱パッファ室から前記機械パッファ室への絶縁ガスの流れを阻止すると共に、前記機械パッファ室の圧力が前記熱パッファ室の圧力よりも大きくなった場合には前記機械パッファ室から前記熱パッファ室への絶縁ガスの通流を可能にする逆流防止部と、
を備えることを特徴とする請求項7に記載のガス遮断器。
【請求項9】
前記熱パッファ室は、前記軸線を中心として前記アーク発生領域を取り囲むように環状に形成され、且つその内周面には全周に亘って開口している開口部が形成されていることを特徴とする請求項7又は8に記載のガス遮断器。
【請求項10】
前記機械パッファ部は、
前記可動側の通電接触子で形成された筒状のピストンと、
このピストンの外周を取り囲むように形成され、前記ピストンとの間に機械パッファ室を形成するシリンダと、
前記機械パッファ室からアーク発生領域に向かって形成され前記絶縁ガスが通流する吹出し流路と、
前記アーク発生領域から前記機械パッファ室への絶縁ガスの流れを阻止すると共に、前記機械パッファ室の圧力が前記アーク発生領域の圧力よりも大きくなった場合には前記機械パッファ室から前記アーク発生領域への絶縁ガスの通流を可能にする逆流防止部と、
を備え、
前記熱パッファ部は、
前記シリンダの底面を構成する可動側導体部と固定側の前記通電接触子が固定されている固定側導体部との間に配置され、前記軸線を中心として前記アーク発生領域を取り囲むように環状に形成されると共に、その内周面には前記アーク発生領域に向かって開口する開口部が設けられている熱パッファ室、
を備えることを特徴とする請求項7に記載のガス遮断器。
【請求項11】
前記機械パッファ室から前記アーク発生領域へのガス流が前記熱パッファ室を経由することなくアークへ吹付けられるように構成したことを特徴とする請求項10に記載のガス遮断器。
【請求項12】
前記熱パッファ室は、前記軸線を中心として前記アーク発生領域を取り囲むように環状に形成された第1の室と、相互に隣接する前記複数対の通電接触子間にそれぞれ設けられ、前記第1の室とそれぞれ連通する複数個の第2の室とで構成されていることを特徴とする請求項10又は11に記載のガス遮断器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2009−59541(P2009−59541A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−224751(P2007−224751)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】