説明

ガス遮断器

【課題】投入抵抗体の冷却時間を考慮しながらCO動作間の経過時間を短かくすることができるようにしたガス遮断器を提供する。
【解決手段】演算した上昇時演算温度T1および冷却時演算温度T3を予め設定した上限許容温度閾値Tuと下限許容温度閾値Tdで管理する演算部15を設け、温度特性曲線Cのように抵抗接点8を投入した後の時刻t2で上限許容温度閾値Tuに達したことを上昇時演算温度T1から演算して検出した場合、演算部15から制御回路14に投入鎖錠信号を与えて、投入抵抗体7の冷却時間を遅延し、次いで投入抵抗体7の冷却時演算温度T3を監視し、時刻t7で冷却時の温度が下限許容温度閾値Tdに達したことを検出したとき、投入鎖錠信号を解除して制御回路14から操作器13に投入動作指令が与えられるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮断部主接点と並列に投入抵抗装置を接続して構成したガス遮断器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガス遮断器では、投入時に発生する投入サージを抑制するために、遮断部主接点と電気的並列に投入抵抗装置を接続した構成が知られている。投入抵抗装置は、電気的直列接に続した投入抵抗体と投入接点とを有し、この投入接点は遮断部主接点の閉路に先行して閉じて主回路に投入抵抗体を接続して投入サージを抑制し、遮断部主接点の開路に先だって投入接点を開いて投入抵抗体を主回路から切り離すように構成している。従来のガス遮断器では、この投入抵抗体を製作するに当たって投入サージを抑制するための抵抗値と、投入動作時の熱容量を考慮して設計している。また、ガス遮断器を使用した系統で、例えば米国における使用形態の場合のように送電線路が長くなると、同じ送電線に連続して落雷を受ける確率が高くなるため、落雷のような一時的事故に対して遮断動作から所定時間経過後にCO−CO−CO……のようにCO動作(Cとは遮断器の投入、Oとは遮断器の開放の意)を連続して繰り返す連続投入動作を行う場合がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、投入抵抗装置を有したガス遮断器で、CO動作を繰り返す連続投入動作を行う場合、一回目のCO動作が行われてから二回目のCO動作が行われるまでの経過時間の厳格な規定はないが、この経過時間を短く設定して系統の安定度を高めようとすると、十分に投入抵抗体が冷却されない状態で次の投入動作が行われ、投入抵抗体の温度上昇が物理的温度限界値に達してしまう危険がある。そこで、投入抵抗体の冷却時間を考慮しながらCO動作間の経過時間を設定する必要があるが、この経過時間を従来の場合と同じように長めの固定値として設定してしまうと、系統の安定度は低下してしまう。
【0004】
本発明の目的は、投入抵抗体の冷却時間を考慮しながらCO動作間の経過時間を短かくすることができるようにしたガス遮断器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記目的を達成するために、遮断部主接点と、投入抵抗体と抵抗接点を直列接続したものを前記遮断部主接点に対して電気的並列に接続した投入抵抗装置と、前記遮断部主接点の閉成に先行して前記抵抗接点を閉じ、かつ前記遮断部主接点の開路に先立って前記抵抗接点を開く操作器と、この操作器に投入および遮断動作を複数回繰り返す連続投入動作信号を与える制御回路とを備えたガス遮断器において、前記投入抵抗体の上昇時演算温度および冷却時演算温度を算出し、この上昇時演算温度が予め設定した上限許容温度閾値に達したとき前記制御回路から前記操作器への投入動作信号を阻止する投入鎖錠信号を与え、かつ、前記冷却時演算温度が予め設定した下限許容温度閾値に達したとき前記投入鎖錠信号を解除する演算部を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によるガス遮断器によれば、演算部で算出した投入抵抗体の上昇時演算温度および冷却時演算温度を上限許容温度閾値と下限許容温度閾値で管理しているため、投入抵抗体の温度が物理的温度限界値に達するのを防止しながら投入抵抗体の温度を考慮してCO動作間の経過時間を決定することができるようになる。つまり、CO動作間の経過時間を従来の場合のように常に同じ固定値とした場合のようにすることもなく、その都度、投入抵抗体の上昇温度あるいは冷却温度を考慮しながら調整することができ、上限許容温度閾値を越えた状況では投入鎖錠信号を与えて所定の冷却時間が与えられるように経過時間を延ばすことができ、また上限許容温度閾値以下の状況では投入鎖錠信号を与えずに経過時間を先の場合より短くすることがで、結局、投入抵抗体の冷却時間を考慮しながら連続投入動作全体に要する時間も短くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施の形態によるガス遮断器の概略構成を示すブロック構成図である。
ガス遮断器としては一般的に知られた構成であり、例えば、消弧性ガスを封入した密閉容器1内に遮断部主接点2を配置し、この遮断部主接点2の両端をブッシング3、4の中心導体5、6に接続している。密閉容器1内の遮断部主接点2とは電気的並列に、投入抵抗体7と投入接点8とを直列接続した投入抵抗装置を接続している。各ブッシング3、4の下部にはそれぞれ変流器9、10が配置され、各ブッシング3、4の気中外部端子に接続した気中線には電圧変成器11、12がそれぞれ配置されている。遮断部主接点2および投入接点8の開閉操作を行う操作器13は、密閉容器1の外部近傍に配置され、制御回路14からの投入および遮断動作指令を受けて動作するように構成されている。通常、ガス遮断器は、変流器9、10や電圧変成器11、12などからの系統信号を取り込んで制御回路14を通して操作器13に指令を与え、遮断部の開閉操作を行っている。
【0008】
しかし、投入動作を多数回繰り返す連続投入動作の場合、通常の制御回路14からの投入動作指令と演算部15からの指令とのアンド条件が成立したとき操作器13に投入動作指令を与えるようにしている。つまり、両変流器9、10を電流要素取得手段として利用し、また電圧変成器11、12を電圧要素取得手段として利用し、これら各要素取得手段から取り込んだ電流要素と電圧要素等を用いて詳細を後述する演算処理を行う演算部15を新たに付加し、この演算部15からの演算処理結果として投入動作を阻止する投入鎖錠信号と、この投入鎖錠信号を解除する解除信号とを制御回路14に与えるようにし、この投入鎖錠信号が与えられている状態では制御回路14から操作器13に投入動作指令が与えられないようにしている。
【0009】
図2は、上述した遮断部主接点2および投入接点8の開閉特性と、投入抵抗体7の温度特性を示すタイムチャートである。
同図に示した開閉特性から分かるように遮断状態となったガス遮断器に対して制御回路14から操作器13に投入動作指令が与えられると、先ず遮断部主接点2の閉路に先だって時刻t1で抵抗接点8を閉じて主回路に投入抵抗体7を接続し、その後、先行投入時間tRを経てから時刻t3で遮断部主接点2を閉路する。その後、主回路の事故が回復していない場合はガス遮断器に対して制御回路14から再び遮断動作指令が与えられ、時刻t4では抵抗接点8を開路し、その後、時刻t5で遮断部主接点2が開路される。これが一回目のCO動作である。その後、所定の経過時間を過ぎた時刻t6で、再び投入指令が制御回路14から与えられ、二回目のCO動作が行われる。
【0010】
特に、ここで注目するのはCO動作間の経過時間、例えば詳細を後述する温度特性曲線AにおけるCO動作間の経過時間(t6−t5)である。厳密には、投入動作指令が与えられてから抵抗接点8が閉路するまでの時間が存在するが、ここでは説明を簡略化して投入動作指令が与えられると同時に抵抗接点8が閉路するものとして示している。このCO動作間の経過時間(t6−t5)は、これまで固定値としていたが、ここでは投入抵抗体7の温度特性も加味して変更可能な時間として設定している。
【0011】
このような連続投入動作時における投入抵抗体7の温度特性を同図に併記している。
縦軸は温度を示しており、抵抗接点8を閉じて主回路に投入抵抗体7を接続した時刻t1における投入抵抗体7の温度をベース温度T2として示している。このベース温度T2は、同時刻t1における密閉容器1内の消弧性ガスの測定温度で置換しても良い。また縦軸には上限許容温度閾値Tuと、下限許容温度閾値Tdを示しており、この上限許容温度閾値Tuは、投入抵抗体7の物理的温度限界値より低い設定値で、一回目の投入動作での投入抵抗体7の温度がこの上限許容温度閾値Tuより僅かに低い温度であれば、予め設定した経過時間(t6−t5)の経過後に二度目の投入動作を行ったときでも投入抵抗体7の温度が物理的温度限界値に達することのない値である。また下限許容温度閾値Tdは、この温度から二度目の投入動作を行っても投入抵抗体7の温度が物理的温度限界値に達することなく行える値で、かつベース温度T2よりも高い値である。また先行投入時間tRにおける投入抵抗体7の温度上昇曲線は単純化して示している。
【0012】
温度特性曲線Aは、投入抵抗体7に比較的小さな電流Iが流れた場合の温度推移を示している。電流Iが小さい場合、投入抵抗体7に注入されるエネルギが小さく、投入抵抗体7の温度は温度特性曲線Aとして実線で示すように上昇する。第一回目の投入動作で、遮断部主接点2が閉成される時刻t3でほぼ第一回目ピーク温度となるが、予め設定した上限許容温度閾値Tuには達しない。遮断部主接点2が閉成された時刻t3以降は、電流Iの大部分が遮断部主接点2を流れることになるので、投入抵抗体7は消弧性ガスによって冷却される。
【0013】
その後、時刻t5で遮断部主接点2で遮断動作が行われ、所定の経過時間を経過した後の時刻t6で再度、投入抵抗体7が主回路に接続されると、その時点から再び温度特性曲線Aは温度上昇を示し、ほぼ時刻t8で遮断部主接点2が閉じられる頃に第二回目ピーク温度に達する。時刻t6での温度は先の時刻t1のベース温度T2よりも多少高くなっているため、時点t8での第二回目ピーク温度は先の時刻t3の第一回目ピーク温度よりも高くなる。しかし、まだ上限許容温度閾値Tuには達していない。従って、上述した系統条件および経過時間で、連続二回の連続投入動作を行っても投入抵抗体7の温度上昇は問題とならない。
【0014】
しかしながら、落雷などによって電流Iが大きくなると、投入抵抗体7の温度推移は温度特性曲線Bのように変化する。この場合、投入抵抗体7に注入されるエネルギが先の場合よりも大きくなり、投入抵抗体7の温度上昇が問題となる。つまり、遮断部主接点2が閉成された時刻t3で第一回目ピーク温度となり、しかも、この時点で投入抵抗体7の温度はすでに上限許容温度閾値Tuを超えている。それでも、遮断部主接点2が閉成された時刻t3以降は、電流Iの大部分が遮断部主接点2を流れることになり、投入抵抗体7は消弧性ガスによる冷却作用を受ける。
【0015】
その後、時刻t5で遮断部主接点2で遮断動作が行われるが、その後、もし電流Iが小さい場合と同様に所定の初期経過時間を経過した後の時刻t6で再度、投入抵抗体7を主回路に接続すると、その時点から再び温度上昇を示すことになり、既に時刻t3で第一回目ピーク温度が上限許容温度閾値Tuを超えているため、このままでは時刻t8での第二回目ピーク温度が物理的温度限界値に達してしまう。このような現象は、電流Iが増大した場合だけでなく、連続投入動作の動作回数が増えた場合にも生じる。
【0016】
そこで、演算部15の処理によって温度特性曲線Cのように投入抵抗体7の温度推移を監視してCO動作間の経過時間を制御する。つまり、一回目の投入動作時に投入抵抗体7の温度が上限許容温度閾値Tuを越えた場合、温度特性曲線Bのように二回目の投入動作時は時刻t6で抵抗接点8を閉じるのではなく、それよりも遅い時刻t7で抵抗接点8を閉じるように演算部15で遅延制御する。この場合のCO動作間の経過時間は、初期設定時間(t6−t5)よりも長くされた遅延経過時間(t7−t5)となる。この延長時間中に、投入抵抗体7は密閉容器1内の消弧性ガスによって冷却されることになり、時刻t7でその温度が下限許容温度閾値Tdにまで冷却されることになり、その後に、二度目のCO動作が開始されて抵抗接点8を閉じるようにしている。
【0017】
この説明から分かるように、CO動作を多数回繰り返す連続投入動作の場合、従来のようにCO動作間の経過時間を固定値とするのではなく、系統条件や連続投入回数に応じて、CO動作間の経過時間を変更するのが望ましい。
【0018】
これを実現するために、投入抵抗体7の温度として上限許容温度閾値Tuと下限許容温度閾値Tdとを設定し、系統条件による投入抵抗体7への注入エネルギー、および投入抵抗体7の温度を予測演算する演算部15を設けている。また、この演算部15は、上述した温度特性曲線Cのように時刻t2で上限許容温度閾値Tuに達したことを演算処理し、また時刻t7で下限許容温度閾値Tdに達したことを演算処理を行う。その結果、演算部15で上限許容温度閾値Tuに達したと演算したときは、投入鎖錠信号を演算部15から制御回路14に与え、制御回路14から単独で操作器13に投入動作指令が与えられないように阻止する。一方、下限許容温度閾値Tdに達したと演算したときは、上述の投入鎖錠信号を解除する解除信号を制御回路14に与え、制御回路14から操作器13に投入動作指令が与えられるようにしている。
【0019】
次に、この演算部15での処理の詳細について説明する。
図2は、演算部15での処理手順を示すフローチャートであり、先ず、ステップS1では変流器9、10などから取り込んだ電流要素Iと、電圧変成器11、12などから取り込んだ電圧要素V1、V2とから遮断部の極間抵抗値Rを算出する。ステップS2では、投入抵抗体7が主回路に接続されたことを判別するために、この算出した極間抵抗値Rを予め設定した先行投入期間識別用閾値R1、R2と比較する。その範囲内にあれば投入抵抗体7が主回路に挿入されたと判定する。上述の先行投入期間識別用閾値R1、R2は、投入抵抗体7が主回路に接続されたことを他の状況と区別して判別できるように、投入抵抗体7の抵抗値を考慮して設定した値である。
【0020】
その他の方法によっても投入抵抗体7が主回路に挿入されたことを検出できるが、上述したように電流要素Iと、電圧要素V1、V2とから極間抵抗値Rを算出して行うことには利点がある。それは、抵抗接点8が接触した時点ではなく、抵抗接点8での先行放電が生じた時点を検出することができるので、主回路からの後述する投入抵抗体7への注入エネルギをより厳密に演算することができる。
【0021】
ステップS2の判定によって、投入抵抗体7が主回路に挿入されたことを検出した場合、ステップS3では投入抵抗体7における主回路からの注入エネルギによる上昇温度と、詳細を後述する前回の投入動作時の残存温度である冷却時演算温度T3とから上昇時演算温度T1を算出する。投入抵抗体7における主回路からの注入エネルギによる上昇温度は、変流器9、10などから取り込んだ電流要素Iと、電圧変成器11、12などから取り込んだ電圧要素V1、V2と、投入抵抗体7の体積Vと、投入抵抗体7の体積比熱Cvとからを算出している。また前回の投入動作時の残存温度である冷却時演算温度T3は、現在が第一回目の投入動作時であれば密閉容器1内の温度まで十分冷却されていると考えられるので、図2で説明したベース温度T2と等しくなっている。
【0022】
その後、ステップS4では算出した投入抵抗体7の上昇時演算温度T1が予め設定した上限許容温度閾値Tuを越えているかどうかを判定し、上限許容温度閾値Tuを超えている場合、ステップS5で演算部15は投入鎖錠信号を制御回路14に与える。これを受けた制御回路14では操作器13への投入動作指令が阻止され、投入抵抗体7が主回路に接続されることはない。つまり図2で説明すると、ステップS4において温度特性曲線Bのように時刻t2で上限許容温度閾値Tuを超えたことを検出した場合、ステップS5において温度特性曲線Bのように時刻t6で抵抗接点8が再度閉じられるのを阻止したことになる。
【0023】
図2に示した温度特性曲線Cのように抵抗接点8の投入に次いで時刻t3で遮断部主接点2が投入されてから開始される投入抵抗体7の冷却を監視し、その冷却時温度が下限許容温度閾値Tdに達するまで投入動作阻止が継続される。投入抵抗体7の冷却時の温度は、ステップS6に示した演算式で算出する。つまり投入抵抗体7の冷却時演算温度T4は、上昇時演算温度T1と、ベース温度T2と、図2の時刻t3で遮断部主接点2が閉じられてから投入抵抗体7の冷却が開始されてからの冷却経過時間taと、投入抵抗体7の冷却時定数τとによって算出される。演算部15は、ステップS7で冷却時演算温度T4と下限許容温度閾値Tdとを比較し、図2に示した温度特性曲線Cに沿って時刻t7で下限許容温度閾値Tdにまで冷却されるのを監視する。
【0024】
図2の温度特性曲線Cでは、時刻t3から時刻t7までの時間(t7−t3)を冷却経過時間taとしたとき、冷却時演算温度T4は下限許容温度閾値Tdとなる。これをステップS7の判定で検出すると、ステップS8では上述した投入鎖錠信号を解除する解除信号を制御回路14に与える。この時点で、投入動作指令のアンド条件が成立して制御回路14は操作器13への投入動作指令を与えることになり、二度目のCO動作が開始されて、図2の時刻t6よりも遅れて抵抗接点8が閉路されることになる。その後、ステップS9で所定の連続投入動作回数に達したかどうかを判定し、連続投入回数が二回で終了の場合は連続投入動作を完了し、主回路に事故が継続している場合、遮断動作後に同状態を保持する。しかし、さらに連動投入動作を繰り返すよう回数が設定されている場合は、同様の処理を繰り返し行う。
【0025】
このようにして図2の温度特性曲線Cで示すように電流Iが大きい場合は、図2の温度特性曲線Aで示した電流Iが小さい場合に比べて、連続投入動作におけるCO動作間の経過時間を長くする。これによって投入抵抗体7に与えられる冷却時間が増加し、二回目のCO動作が開始されるときの投入抵抗体7の温度を抑えて、二回目の投入動作で物理的温度限界値に達するのが防止される。しかも、投入抵抗体7の温度は、上限許容温度閾値Tuと下限許容温度閾値Tdで管理するため、見込みで設定したときのように不必要に冷却時間を長くすることもない。こうして、投入抵抗体7が物理的温度限界値に達することを防止しながら、CO動作時間(t5−t1)に続く経過時間を初期設定時間(t6−t5)から遅延時間(t7−t5)に延長して、連続投入動作全体を短時間に行うことができるようになる。
【0026】
ところで、ステップS2の判定で投入抵抗体7が主回路に挿入されていないと判定した場合、または、ステップS4の判定で投入抵抗体7の上昇時演算温度T1が予め設定した上限許容温度閾値Tu以下である場合、上述したステップS5には進まず、投入鎖錠信号が制御回路14に与えられないので、予め設定したCO動作間の経過時間に基づいて連続投入動作を継続して実施することができる。このとき、ステップS10では、上述した冷却時演算温度T4と同じ数式を用いて冷却時演算温度T3を演算し、連続投入動作の次回動作時におけるステップS3で、この冷却時演算温度T3を加算して上昇時演算温度T1を算出する。
【0027】
このステップS10の処理を再度、図2に示した温度特性曲線Aで説明する。例えば、時刻t3での上昇時演算温度T1が上限許容温度閾値Tu以下である場合、この時刻t3から投入抵抗体7は密閉容器1内の消弧性ガスによって冷却が開始される。時刻t6で連続投入動作の次回動作が行われたとき、ステップS6と基本的に同じ数式で冷却経過時間taを(t6−t3)として冷却時演算温度T3を算出し、ステップS3で時刻t8における第二回目ピーク値の上昇時演算温度T1を算出する際、注入エネルギによる上昇温度に冷却時演算温度T3を加算する。その後、ステップS4で第二回目ピーク値の上昇時演算温度T1が上限許容温度閾値Tuを越えていないかどうか判定する。これによって時刻t6で連続投入動作の二回目のCO動作が行われたとき、投入抵抗体7の温度は正しく演算処理に反映される。また、投入抵抗体7が十分に冷却されている場合、冷却時演算温度T3はベース温度T2と等しくなり、この場合も投入抵抗体7の温度は正しく演算処理に反映される。
【0028】
このような演算部15での処理は、図2の温度特性曲線Aで示すように電流Iが小さい場合でも生かすことができる。つまり、前回動作時の冷却時演算温度T3が残存しており、その後の動作時の上昇時演算温度T1にこの時の冷却時演算温度T3を加算しているため、連続投入動作の動作回数がさらに増加して何度目かのピーク値またはその近傍で上限許容温度閾値Tuを越えることを判定すると、同様に投入鎖錠信号を与えることができる。従って、先の場合と同様に、投入抵抗体7の温度が物理的温度限界値に達することなく投入抵抗体7の温度上昇を抑えることができる。しかも、上限許容温度閾値Tuと下限許容温度閾値Tdで投入抵抗体7の温度を管理するようにしているため、見込みで設定したときのように不必要に冷却時間を長くすることもなく、連続投入動作全体を短時間に行うことができるようになる。
【0029】
以上説明したガス遮断器によれば、演算した上昇時演算温度T1および冷却時演算温度T4を予め設定した上限許容温度閾値Tuと下限許容温度閾値Tdで管理する演算部15を設けたため、上限許容温度閾値Tuによって次回のCO動作時に投入抵抗体7が物理的温度限界値に達するのを予測し、下限許容温度閾値Tdによって次回のCO動作時に投入抵抗体7が物理的温度限界値に達しないまでに冷却される時点を予測し、両者の予測によって、CO動作間の経過時間を通常よりも長くして冷却時間を増加することができるので、系統条件、連続投入動作の回数に拘わらず、投入抵抗体7の温度が物理的温度限界値に達するのを防止しながらCO動作間の経過時間を短縮して、結局、連続投入動作全体に要する時間を短くすることができる。
【0030】
特に本発明の実施においては、上述したように上昇時演算温度T1を算出するために、系統の電流要素Iと、電圧要素V1、V2を取り込み、遮断部の極間抵抗値Rを算出し、これによって主回路負荷電流が投入抵抗体7を流れる時間に反映させている。このため、抵抗接点8での先行放電が生じた時点を検出することができ、主回路から投入抵抗体7に与えられる注入エネルギをより厳密に演算することができ、上昇時演算温度T1や、投入鎖錠信号を与える判断や、この投入鎖錠信号を解除する解除信号を与える判断を、より適切に行うことができる。
【0031】
また望ましい実施の形態では、上昇時演算温度T1および冷却時演算温度T4を算出するに当たって、ステップS10で前回の投入動作時に残存していた温度からの冷却時演算温度T3を加算したため、より正確に上昇時演算温度T1および冷却時演算温度T4を算出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明のガス遮断器は、図1に示したように両側にブッシング3、4を有するガス遮断器に限らず、ガス絶縁開閉装置におけるガス遮断器にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施の形態によるガス遮断器の全体構成を示すブロック構成図である。
【図2】図1に示した遮断部主接点および投入接点の開閉特性と、投入抵抗体の温度特性を示すタイムチャートである。
【図3】図1に示した演算部の処理手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0034】
1 密閉容器
2 遮断部主接点
3、4 ブッシング
5、6 中心導体
7 投入抵抗体
8 抵抗接点
9、10 変流器
11、12 電圧変成器
13 操作器
14 制御回路
15 演算部
T1 上昇時演算温度
T2 ベース温度
T3 冷却時演算温度
Td 下限許容温度閾値
Tu 上限許容温度閾値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遮断部主接点と、投入抵抗体と抵抗接点を直列接続したものを前記遮断部主接点に対して電気的並列に接続した投入抵抗装置と、前記遮断部主接点の閉成に先行して前記抵抗接点を閉じ、かつ前記遮断部主接点の開路に先立って前記抵抗接点を開く操作器と、この操作器に投入および遮断動作を複数回繰り返す連続投入動作信号を与える制御回路とを備えたガス遮断器において、前記投入抵抗体の上昇時演算温度および冷却時演算温度を算出し、この上昇時演算温度が予め設定した上限許容温度閾値に達したとき前記制御回路から前記操作器への投入動作信号を阻止する投入鎖錠信号を与え、かつ、前記冷却時演算温度が予め設定した下限許容温度閾値に達したとき前記投入鎖錠信号を解除する演算部を設けたことを特徴とするガス遮断器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−44986(P2010−44986A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−209533(P2008−209533)
【出願日】平成20年8月18日(2008.8.18)
【出願人】(501383635)株式会社日本AEパワーシステムズ (168)
【Fターム(参考)】