説明

ガス開閉器

【課題】ガス開閉器に用いられるアーク接触子において、脱落損耗と耐電圧性能に優れるスリットを設けたアーク接触子を得る。
【解決手段】固定アーク接触子および可動アーク接触子の少なくとも一方に、銅とタングステンとの合金で構成された基材にアークに曝される面から深さ方向に向かって同心円状、格子状および縞状の少なくとも1つの形状をもつスリットを設け、さらにアークに曝される面とスリットとの境界稜線部が面取りされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、消弧室に備えられた固定アーク接触子と可動アーク接触子との間に発生するアークを消弧性ガスで消滅させることにより電流遮断動作を行なうガス開閉器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガス遮断器やガス断路器などのガス開閉器に使用されるアーク接触子は、電流遮断時に発生する高温のアークに耐えるための耐熱性に加えて、アーク電流を転流するために一定以上の導電性も要求される。そのため、高融点で耐アーク性に優れる材料と導電性に優れた材料とを組み合わせた合金が使用されている。具体的には銅とタングステンとからなる合金(Cu−W合金)が広く適用されている。
【0003】
従来のガス遮断器のアーク接触子については、固定アーク接触子およびこの固定アーク接触子と最後まで接触している可動アーク接触子の先端部分は、Cu−W合金から構成されていた(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、嵌合時に固定アーク接触子から可動アーク接触子の内周面に常時押圧を与えるために、スリットが固定アーク接触子の軸芯に沿って形成されたアーク接触子が開示されていた(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平11−73860号公報(6頁、図12)
【特許文献2】特開2001−110288号公報(3−4頁、図1および図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ガス開閉器に使用されるアーク接触子は、電流遮断時のアーク熱によりアーク接触子の先端部の温度が急速に上昇し、その後低下する。その際に先端部から深さ方向に向かって温度勾配を生じるために、深さ方向に複数のクラックが進展する。さらに複数回の電流遮断を行なうと、アーク接触子の先端部と内部との温度差を生じる境界に熱応力が繰り返し発生し、その境界にクラックが進展する。すなわち、先端部の表面から深さ方向に進展したクラックは、遮断を繰り返すことでアークに曝された先端部の表面と平行な方向(以下、横方向と称す)に進展方向を変え、アーク接触子の内部に進展する。そのために、アーク接触子の表面直下に発生した横方向の内部クラックにより、アーク接触子の表面から材料の一部が脱落して損耗するという問題点があった。
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された従来のガス開閉器に用いられていたアーク接触子は、電流遮断時のアーク熱によりアーク接触子表面が加熱されたときの蒸発に伴う損耗に対しては一定の効果があるが、上述のようなアーク接触子表面の一部が脱落して損耗するという問題を防ぐことができなかった。
【0008】
また、特許文献2に示されているような軸芯で交わるスリットを設けたアーク接触子では、可動アーク接触子と固定アーク接触子との嵌合状態の安定、あるいは絶縁ガスの逃げを抑制する効果があり、熱応力を軽減する一定の効果があると考えられる。しかしながら、このスリットは軸心位置で交わるようにしか形成されていないため、アーク接触子の直径方向に働く熱応力を効果的に緩和することができない。そのため直径方向に発生する内部クラックを効果的に抑制することができず、脱落による損耗を低減できないという問題があった。アーク接触子の表面に脱落が発生すると、アーク接触子の表面に鋭利な部分ができこの鋭利な部分にアークが集中するなどして、電流遮断時のアークが不安定になるという問題があった。さらに、電流遮断後にはスリット角部に高い電界が発生し、閃落電圧の低下やバラツキを生じ安定した耐電圧性能が得られないという問題があった。
【0009】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたものであり、アーク接触子の表面直下に発生する内部クラックの横方向への進展を抑制し、表面の脱落による損耗を低減するとともに、電流遮断後の閃落電圧の低下やバラツキを抑制し、耐電圧性能に優れたアーク接触子を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係るガス開閉器は、固定アーク接触子と、この固定アーク接触子と接離可能に対向配置された可動アーク接触子とを備え、前記固定アーク接触子と前記可動アーク接触子との間に発生するアークを消弧性ガスで消滅させることにより電流遮断動作を行なうガス開閉器において、固定アーク接触子および可動アーク接触子の少なくとも一方は、銅とタングステンとの合金で構成された基材に前記アークに曝される面から深さ方向に向かって同心円状、格子状および縞状の少なくとも1つの形状のスリットを設け、アークに曝される面とスリットとの境界稜線部を面取りしたものである。
【発明の効果】
【0011】
この発明に係るガス開閉器においては、アークに曝される面から深さ方向に向かって、同心円状、格子状および縞状の少なくとも1つの形状をもつスリットを設けたので、アーク接触子の直径方向に働く熱応力を効果的に緩和することができるので、直径方向に発生する内部クラックを効果的に抑制することができる。さらにアークに曝される面とスリットとの境界稜線部を面取りしているので、スリット近傍に発生する電界が高くなるのを抑制し、閃落電圧の低下やバラツキを低減することができる。その結果、アーク接触子の表面部材の脱落による損耗を低減することができ、安定した遮断性能と耐電圧性能とを維持できるといった顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
実施の形態1.
図1は、この発明を実施するための実施の形態1におけるガス遮断器の断面模式図である。図1において、ガス遮断器1は、固定電極部2と可動電極部3と絶縁筒4とを備えた消弧室5と、この可動電極部3と連動する絶縁操作棒6と、支持絶縁筒7と、固定電極部2に結合された冷却塔8と、固体電極部2を導出するための導体9a、ブッシング10aおよび端子11aと、可動電極部3を導出するための導体9b、ブッシング10bおよび端子11bと、消弧性ガスおよび上述の構成部材を内部に収容した容器12とで構成されている。絶縁操作棒6の一方の端部は、容器12から外部に導出され、容器12に密接して設置された制御箱13の内部の操作装置14と接続されている。
【0013】
図2は、本実施の形態における消弧室5の内部の構成を説明するための断面模式図である。図2において、固定電極部2と可動電極部3とは、絶縁筒4で電気的に絶縁されて固定されている。可動電極部3の先端部には、円筒状の可動アーク接触子15がノズル16の内部に配置されている。可動アーク接触子15の他方の端部は、駆動棒17を介して絶縁操作棒6に連結されている。可動アーク接触子15の外側には、可動主接触子18が固定されている。固定電極部2には、固定主接触子19とその内部に棒状の固定アーク接触子20とが固定されている。可動主接触子18および固定主接触子19は、それぞれシールド21、22で一部が覆われている。また、可動電極部3には、遮断時にノズル16内部に消弧ガスを流すためのパッファシリンダ23が備えられている。
【0014】
次に、消弧室5における電流の遮断動作について説明する。電流の遮断時には、可動電極部3側の可動アーク接触子15は、それまで接触状態にあった固定アーク接触子20と摺動ののち開離して、これらの接触子の間にアークが発生する。図2において、このアークをA1として示している。これに対して、パッファシリンダ23内で圧縮された消弧ガスがアークA1に吹き付けられて、ノズル16の内部に流れてアークA1は消弧される。アークが発生してこのアークが消弧ガスで消弧される間に、固定アーク接触子20および可動アーク接触子15は高温のアークA1により極めて高い温度(約20000K)に曝される。
【0015】
このように動作するガス遮断器においては、固定アーク接触子20および可動アーク接触子15の先端部には、導電性を有する耐弧性材料が基材として使用され、通常タングステンを50〜90重量%含有した銅合金が使用されている。
【0016】
図3は、本実施の形態における固定アーク接触子の先端部の模式図である。図3において、固定アーク接触子20の基材24は、銅とタングステンとからなる合金(Cu−W合金)であり、この基材24の表面がアークに曝される面である。このアークに曝される面から深さ方向に向かって同心円状のスリット25が設けられている。基材24は、銅または銅合金からなる台金26にロウ付け等で接合されている。
【0017】
図4および図5は、それぞれ図3に示した本実施の形態における固定アーク接触子の上面図および断面図である。本実施の形態においては、図5に示したように、アークに曝される面とスリットとの境界稜線部を面取りした面取り部27を設けている。図3に示した固定接触子の場合、2本のスリット25を形成しているので、この面取り部27は、4箇所存在することになる。
【0018】
図6は、本実施の形態における固定アーク接触子のアークに曝される面とスリットとの境界稜線部の拡大模式図である。図6に示したように、スリット25の開口端部に相当する境界稜線部に斜面状の面取り部27を設けている。
【0019】
ガス遮断器の電流遮断部に使用される棒状の固定アーク接触子20は、電流遮断時のアーク熱により先端部の温度は急速に上昇し低下する。その際に先端部から深さ方向にかけて温度勾配を生じ、そのため深さ方向のクラックが進展する。さらに複数回の電流遮断を行なうと、接触子の先端部と内部との温度差の境界に熱応力が繰り返し発生し、その境界にクラックが進展する。すなわち、遮断初期に発生した深さ方向に進展したクラックは、遮断を繰り返すことで横方向に進展方向を変える。そのために、固定アーク接触子20の表面直下で横方向の内部クラックが進展した部分は、アーク接触子の表面から脱落し損耗する。
【0020】
しかし、本実施の形態のように固定アーク接触子20のアークに曝される面から深さ方向に向かって同心円状のスリット25を設けたことにより、先端部に発生する熱応力が分散されて横方向の内部クラックの進展を抑制することができる。その結果、アーク接触子の表面の脱落による損耗を低減することができる。さらに、アークに曝される面とスリットとの境界稜線部に面取り部27を設けたことにより、この境界稜線部に発生する電界を低く抑えて、耐電圧性能を安定化することができる。
【0021】
なお、本実施の形態においては、棒状の固定アーク接触子20に同心円状のスリット25を設けたが、円筒状の可動アーク接触子15に設けてもよいし、両方のアーク接触子に設けてもよい。
【0022】
アーク接触子において、Cu−W合金の重量割合は50重量%以上から90重量%以下のWと残部がCuであることが好ましく、原料として使用したW粉末の平均粒径は、20μm以下であることが好ましい。その理由は、Wの重量割合が50重量%未満では、アーク熱に対する耐熱性が損なわれて損耗が多くなり、90重量%を超えると熱伝導性が悪くなることで蒸発損耗が促進されかつ表面のクラックも発生しやすくなるためである。また、W粉末の平均粒径が20μmを超えると損耗が多くなる場合があるためである。
【0023】
本発明のアーク接触子に使用されるCu−W合金の製造方法は、公知の粉末冶金技術を利用したものであればよく、例えば、溶浸法、焼結法、放電プラズマ焼結法、通電加熱焼結法、ホットプレス焼結法、熱間押し出し法、金属粉末射出成形法などで製造され、特に限定するものではない。
【0024】
スリットを設ける方法は公知の加工技術やロウ付け技術などを利用すればよく、特に限定するものではない。スリットの深さは、遮断時にアーク接触子の先端部と内部との温度差が生じる境界、即ちCuの融点(1083℃)に到達する深さを超えるように設けることが好ましく、これにより発生する熱応力を分散し緩和する効果がさらに向上する。
【0025】
スリットの境界稜線部を面取りする方法は、公知の加工技術を利用すればよく、特に限定するものではない。例えば、面取りは機械的な加工で角面取り、丸面取り、糸面取りしてもよく、非酸化雰囲気中で電気的な表面加工、例えば放電、レーザ、電子ビームなどを用いた加工法によりスリットの境界稜線部を溶融させて面取りしてもよい。
【0026】
なお、本実施の形態においては、ガス開閉器の一つであるガス遮断器のアーク接触子の例について説明したが、ガス断路器のアーク接触子に使用してもよい。
【0027】
図7は、本実施の形態における別の形状の面取り部を示すための境界稜線部の拡大模式図である。図6の示したような斜面状の面取り部に替えて、図7に示すように、スリット25の開口端部に相当する境界稜線部に曲面状の面取り部27を設けてもよい。このような面取り部を設けても斜面状の面取り部を設けた場合と同様な効果がある。
【0028】
実施の形態2.
実施の形態2は、固定アーク接触子20のアークに曝される面から深さ方向に向かって格子状のスリット25を設け、スリット25の角部を面取りした場合である。図8は、本実施の形態における固定アーク接触子の上面図である。アークに曝される面とスリット25との境界稜線部には、実施の形態1の図6で示した面取り部27と同様な斜面状の面取り部を設けている。
【0029】
このように構成された固定アーク接触子においては、アークに曝される面から深さ方向に向かって格子状のスリット25を設け、かつスリットの開口端部に面取り部27を設けたことにより、先端部に発生する熱応力が分散されて横方向の内部クラックの進展を抑制することができ、スリットの開口端部に発生する電界が低くなる。その結果、アーク接触子の表面の脱落による損耗を低減することができるとともに、耐電圧性能を安定化することができる。
【0030】
実施の形態3.
実施の形態3は、固定アーク接触子20のアークに曝される面から深さ方向に向かって縞状のスリット25を設け、スリット25の角部を面取りした場合である。図9は、本実施の形態における固定アーク接触子の上面図である。アークに曝される面とスリット25との境界稜線部には、実施の形態1の図7で示した面取り部27と同様な曲面状の面取り部を設けている。
【0031】
このように構成された固定アーク接触子においては、アークに曝される面から深さ方向に向かって縞状のスリット25を設け、さらにスリット角部に面取り部27を設けたことにより、先端部に発生する熱応力が分散されて横方向の内部クラックの進展を抑制することができ、スリットの開口端部に発生する電界が低くなる。その結果、アーク接触子の表面の脱落による損耗を低減することができるとともに、耐電圧性能を安定化することができる。
【0032】
実施の形態4.
実施の形態4は、固定アーク接触子20のアークに曝される面から深さ方向に向かって同心円状のスリット25と固定アーク接触子の軸芯で交わる十字状のスリット25とを組み合わせ、スリット25のスリット角部28に面取り部29を設けた場合である。図10は、本実施の形態における固定アーク接触子の先端部の模式図である。図11は、図10に示す固定アーク接触子の上面図である。アークに曝される面とスリット25との境界稜線部には、実施の形態1の図6で示した面取り部27と同様な斜面状の面取り部を設けている。
【0033】
このように構成された固定アーク接触子においては、アークに曝される面から深さ方向に向かって同心円状のスリット25と十字状のスリット25とを設け、さらにスリット角部28に面取り部29を設けたことにより、先端部に発生する熱応力が分散されて横方向の内部クラックの進展を抑制することができ、スリットの開口端部に発生する電界が低くなる。その結果、アーク接触子の表面の脱落による損耗を低減することができるとともに、耐電圧性能を安定化することができる。
【0034】
図12は、本実施の形態における別の構成として、格子状のスリット25と固定アーク接触子の軸芯で交わる十字状のスリット25とを組み合わせた場合の固定アーク接触子の上面図である。また、図13は、さらに別の構成として、縞状のスリット25と固定アーク接触子の軸芯で交わる十字状のスリット25とを組み合わせた場合の固定アーク接触子の上面図である。なお、図12および図13に示した固定アーク接触子において、アークに曝される面とスリット25との境界稜線部には、実施の形態1の図6で示した面取り部27と同様な斜面状の面取り部を設けている。
【0035】
これらのように構成された固定アーク接触子においては、アークに曝される先端部を上面から見た場合に周方向に発生する熱応力を効果的に緩和することができ、スリットの開口端部に発生する電界が低くなる。その結果、横方向の内部クラックの発生を一層効果的に抑制することができるので、アーク接触子の表面の脱落による損耗をさらに低減することができるとともに、耐電圧性能を安定化することができる。
【0036】
実施の形態5.
実施の形態5は、実施の形態1と同様な同心円状のスリット25の底部にCu部28を配置したものである。図14は、本実施の形態における固定アーク接触子の断面図である。なお、アークに曝される面とスリット25との境界稜線部には、実施の形態1の図7で示した面取り部27と同様な曲面状の面取り部を設けている。
【0037】
本実施の形態における固定アーク接触子の製造方法は、所望のCu−W合金を準備して所望寸法のアーク接触子に加工する。次にアーク接触子の先端部に同心円状のスリットを加工し、さらにスリットの開口端部の面取り加工を行う。その後、同心円状のスリットのスリット幅よりも若干小さいCu板をスリットに差込み、スリットの底部に配置する。そして、非酸化雰囲気中でCuの融点以上に加熱してCuを溶融させ、その後冷却したものを仕上げ加工してアーク接触子を得た。
【0038】
このように構成された固定アーク接触子においては、スリット25の底部にCu部28を配置したことにより、スリットの熱応力を緩和する効果に加えて、スリット先端部の温度を接触子内部へ逃しやすくなり、深さ方向に対する温度分布が小さくなる。その結果、横方向の内部クラックの発生を効果的に抑制することができるので、アーク接触子の表面の脱落による損耗をさらに低減することができる。また、スリットの開口端部に発生する電界が低くなり、耐電圧性能を安定化することができる。
【0039】
なお、本実施の形態においては、Cu部28を同心円状のスリット25の底部に形成する例を示したが、スリット25の形状は同心円状に限るものではなく、格子状、縞状などの形状をもつスリット25の底部にCu部28を形成しても同様な効果がある。
【0040】
実施の形態6.
実施の形態6においては、実施の形態1〜5で述べた各スリット構造のアーク接触子について、遮断試験によりアーク接触子の脱落損耗の評価と耐電圧試験による耐電圧性能の評価との結果を述べる。なお、本実施の形態においては、アークに曝される面と前記スリットとの境界稜線部を面取りした面取り部は、実施の形態1の図6で示した斜面状の面取り部に統一し、斜面状の部分の長さは、全て0.05mmとした。
【0041】
直径15mm、長さ25mmの固定アーク接触子と、直径25mm、内径10mm、長さ30mmの可動アーク接触子を準備した。固定アーク接触子と可動アーク接触子の組成はCu−70重量%Wである。
【0042】
そして、固定アーク接触子は試料番号1〜6のものを準備した。可動アーク接触子にはスリットを設けていない。
【0043】
試料番号1は、同心円状のスリットを設けたのもので、直径5mmと直径10mmの同心円状のスリット25を設けた。スリットの幅は0.5mm、深さは接触子先端から6mmとした。
【0044】
試料番号2は、格子状のスリットを設けたのもので、5mm角の格子が中心部に配置されるようにした。スリットの幅は0.5mm、深さは接触子先端から6mmとした。
【0045】
試料番号3は、縞状のスリットを設けたのもので、スリットが4mm間隔となるように設けた。スリットの幅は0.5mm、深さは接触子先端から6mmとした。
【0046】
試料番号4、は同心円状と固定アーク接触子の軸芯で交わる十字状のスリットを組み合わせて設けたのもので、同心円状のスリット5は直径5mmと直径10mmで、十字状のスリットが接触子の中心で交差するように設けた。スリットの幅は0.5mm、深さは接触子先端から6mmとした。
【0047】
試料番号5は、格子状のスリットを設け、スリットの底部にはCu部を配置したもので、5mm角の格子が中心部に配置されるようにした。スリットの幅は0.7mm、深さは接触子先端から6mmとした。スリットの底部から3mmはCu部が埋設されている。
【0048】
試料番号7は、比較材であり、固定アーク接触子の軸芯で交わる十字状のスリットのみが形成されたアーク接触子である。スリット開口端部に面取り部は設けられていない。
【0049】
試料番号8も、比較材であり、スリット開口端部に面取り部は設けられていないアーク接触子である。
試料番号9は、比較材であり、試料番号1と同じ構成で、スリット開口端部に面取り部は設けられていないアーク接触子である。
試料番号10は、比較材であり、試料番号2と同じ構成でスリット開口端部に面取り部は設けられていないアーク接触子である。
【0050】
遮断試験は、ガス遮断器の消弧室を模擬した試験設備を用いて行なった。試験容器内にアーク接触子を組込んだ後、消弧ガスであるSFガスを充填し4気圧となるように設定した。次に、固定アーク接触子と可動アーク接触子を接触させた状態から開極させた時に電流20kArmsを0.5サイクル負荷する遮断試験を5回行ない、続いて、機械的な開閉を5回行なった。そして、固定アーク接触子の表面を目視観察し、接触子表面における脱落の有無について評価した。
【0051】
耐電圧試験は、ガス遮断器の消弧室を模擬した試験設備を用いて行なった。試験容器内にアーク接触子を組込んだ後、消弧ガスであるSFガスを充填し5気圧となるように設定した。次に、固定アーク接触子と可動アーク接触子のギャップ長が30mmの時の電極間に開閉インパルス電圧を200kVから段階的に上昇させて印加し、閃落した時の電圧を20回測定した。なお、この耐電圧試験時の可動アーク接触子は、直径30mm、内径15mmのものを使用した。
【0052】
表1は、同心円状スリット、同心円状と十字状とを組み合わせたスリット、格子状スリット、縞状スリット、スリットの底部にCu部が埋設されている格子状スリットをそれぞれ設けた固定アーク接触子と、比較としての固定アーク接触子の軸芯で交わる十字状のスリットのみが形成された固定アーク接触子およびスリットが形成されていない固定アーク接触子、スリット角部に面取り部を設けていない場合の脱落の有無と閃落電圧のバラツキの有無を比較したものである。脱落の有無の判定は、脱落なしが○、脱落が発生した場合は×とした。また、閃落電圧のバラツキの判定は、測定した全閃落電圧値の68%が平均値±標準偏差(σ)の範囲内であれば○、測定した全閃落電圧値の80%が平均値±1.28σの範囲内の場合は△、測定した全閃落電圧値の95%が平均値±2σの範囲内の場合は×とした。
【0053】
【表1】

【0054】
表1の結果から、先端部に固定アーク接触子の軸芯で交わる十字状のスリットのみをもつアーク接触子(試料番号7)では脱落が発生し、閃落電圧にもバラツキが見られた。スリットをもたないアーク接触子(試料番号8)では新品状態での閃落電圧にバラツキは見られないが、遮断試験により脱落による損耗が見られた。同心円状または格子状のスリットをもつがスリット角部に面取り部を設けていないアーク接触子(試料番号9、10)では接触子表面の脱落は生じないが、閃落電圧にバラツキを生じた。
【0055】
これに対して、試料番号1〜6の同心円状または格子状のスリットとスリット開口端部に面取り部をもつアーク接触子においては、接触子表面の脱落による損耗が低減するとともに、電流遮断後の閃落電圧の低下やバラツキを抑制することができる。
【0056】
このような結果から、アークに曝される面から深さ方向に向かって、同心円状、格子状、縞状、同心円状と十字状、スリット底部にCu部を埋設したスリットを設け、かつスリットの開口端部に面取り部を設けることで、アーク接触子の先端部と内部との温度差を生じる境界に発生する応力を分散し緩和することができる。とくに、固定アーク接触子の軸芯で交わる十字状のスリットのみでは効果が得られなかったアーク接触子の直径方向に働く熱応力を効果的に緩和することができるので、直径方向に発生する内部クラックを効果的に抑制することができる。さらには、スリットの角部に発生する電界を低減できるため閃落電圧のバラツキを抑制することができる。その結果、アーク接触子の表面部材の脱落による損耗を低減し、かつ安定した遮断性能と耐電圧性能を維持できるアーク接触子が得られる。
【0057】
なお、本実施の形態においては、固定アーク接触子の例について述べたが、可動アーク接触子のアークに曝される部分に同様の構成を適用しても、同様の効果を得ることができる。
【0058】
実施の形態7.
実施の形態7においては、実施の形態2で示した格子状のスリットをもつ固定アーク接触子において、スリットの幅を変化させたものである。
【0059】
直径15mm、長さ25mm、先端部の曲率半径7.5mmの固定アーク接触子を9本用意し、そのうちの6本のそれぞれにスリット幅が、0.01mm(試料番号11)、0.1mm(試料番号12)、0.3mm(試料番号13)、0.5mm(試料番号14)、2.0mm(試料番号15)および2.5mm(試料番号16)の格子状のスリットを形成した。スリットは、5mm角の格子が中心に配置されるように設けた。また、スリット幅が0.01mm(試料番号11)のものはスリット深さを8mm、スリット幅が0.1〜2.5mm(試料番号12〜16)のものはスリット深さを6mmとした。また、試料番号11〜16のアーク接触子のアークに曝される面と前記スリットとの境界稜線部を面取りした面取り部は、実施の形態1の図6で示した斜面状の面取り部に統一し、斜面状の部分の長さは、全て0.05mmとした。
【0060】
比較例として、スリットを形成していないアーク接触子(試料番号17)、面取り部を設けていないスリット幅を0.3mmとしたアーク接触子(試料番号18)およびスリット幅2mmとしたアーク接触子(試料番号19)を用意した。
【0061】
また、これらの固定アーク接触子に対向する可動アーク接触子は、直径25mm、内径10mm、長さ30mm、先端部の曲率半径は4mmとした。また、これらの固定アーク接触子および可動アーク接触子の材料は、Cu−70重量%Wである。
【0062】
スリット幅0.01mm(試料番号11)の接触子の作製方法について説明する。まず、材質がCu−70重量%Wの角柱のブロック9個(幅6mm×長さ6mm×高さ10mmを4個、幅6mm×長さ5mm×高さ10mmを4個、幅5mm×長さ5mm×高さ10mmを1個)を準備し、幅5mm×長さ5mm×高さ10mmのブロックを中心にして各ブロックを束ね、分割された幅17mm×長さ17mm×高さ10mmのブロックを得た。その束ねたブロックの幅17mm×長さ17mmの面に、幅17mm×高さ17mm×長さ20mmのCu−70重量%W合金の台座をAgロウ付けで接合し、その後に機械加工を行って所定の試料寸法に仕上げた。スリットの角部となる部分には0.05mmの斜面状の面取り部を形成した。
【0063】
次に、遮断試験により、クラックや脱落の有無および損耗度合いとスリット幅との関係を調べた。さらに、開閉インパルス試験により耐電圧性能のバラツキを評価した。これらの試験方法は、実施の形態6と同様な方法である。
【0064】
クラックや脱落の有無および損耗度合いの評価は、試験後の固定側アーク接触子のアーク暴露表面について、目視および実体顕微鏡での観察によるクラックおよび脱落の有無、さらには閃落電圧のバラツキの有無について評価した。これらの評価方法は実施の形態6と同様である。
【0065】
また、接触子の断面観察により内部クラックの進展状況を調べ、試料番号17のスリットなしの接触子の損耗状態と比較して損耗度合いを判定した。
【0066】
損耗度合いは、アーク暴露表面および接触子内部にクラック並びに脱落がない場合を1、内部クラックは若干有るが、アーク暴露表面のクラックはなく脱落がない場合を2、アーク暴露表面のクラックはなく、内部クラックおよび脱落が若干有る場合を3、アーク暴露表面および接触子内部にクラック並びに脱落がある場合を4として判定した。
【0067】
表2は、本実施の形態における、スリット幅および面取り部の有無に対するクラックおよび脱落の有無並びに損耗度合いとの関係を示した特性表である。また、図15は、本実施の形態における、スリット幅と損耗度合いとの関係を示した特性図である。
【0068】
【表2】

【0069】
評価の結果、従来例に相当するスリットなしの接触子(試料番号17)は、新品状態での閃落電圧のバラツキはないが、遮断試験後のアークに曝される表面には甲羅状のクラックが発生し、脱落が観察された。また、断面観察の結果、アーク暴露表面の甲羅状のクラックは深さ方向に進展しており、さらに深さ方向に進展したクラックの一部は途中で横方向(アーク接触子の直径方向)に向きを変えて進展し、その部分から材料の一部が脱落していた。試料番号18はスリット幅0.3mm、試料番号19はスリット幅2mmで、スリット角部に面取り部を設けなかった場合であるが、脱落は無いが閃落電圧にバラツキを生じた。
【0070】
これに対して、スリット幅が0.01mmから2.5mmの範囲の接触子(試料番号11〜16)では、スリットなしの接触子(試料番号17)のアーク暴露表面に見られたような甲羅状のクラックは発生せず、深さ方向のクラックの発生を低減する効果と閃落電圧のバラツキを抑制するす効果があることがわかった。また、スリット幅が0.01〜0.3mmの接触子(試料番号11〜13)では横方向の内部クラックもなく、脱落も発生しなかった。さらに、スリット幅が0.5〜2.0mmの接触子(試料番号14〜15)では、スリット内壁から垂直(横方向)に進展したクラックが若干発生したが、脱落は発生しなかった。スリット幅が2.5mmの接触子(試料番号16)では、スリット内壁から垂直(横方向)に進展したクラックと脱落が若干発生した。ただし、スリットなしの接触子(試料番号17)と比べて脱落およびクラックの度合いは小さかった。また、スリット幅が0.01〜0.3mmの接触子(試料番号11〜13)のスリットの底部には、アーク熱で溶融したCuとWとの凝固物の堆積はなかったが、スリット幅が0.5〜2.5mmの接触子(試料番号14〜16、19)のスリットの底部には、CuとWとからなる凝固物が堆積していた。
【0071】
また、スリット幅は狭い方が閃落電圧のバラツキを抑制する効果がさらに向上するとともに、図15から分るように損耗度合いも低下することから、(スリット幅は0.3mm以下とすることが好ましい。
【0072】
スリット内壁には、アーク熱が回り込むことによってCuが優先的に蒸発した部分が形成される。このCuが蒸発した部分を起点にスリット内壁から垂直(横方向)にクラックが発生しやすくなる。スリット幅が2.5mm以上ではアーク熱の回り込みが多く、スリット幅2.0mm以下、好ましくは0.3mm以下とスリット幅を狭めることでアーク熱の回り込みが低減し、横方向のクラックの発生を抑制する効果がある。
【0073】
上述ように、スリットの幅を2mm以下、さらに好ましくは0.3mm以下とし、スリット幅を極力狭くすることで、スリット内へのアーク熱の回り込みを低減できるので、スリット内壁から垂直(横方向)に進展するクラックの発生を抑制できる。また、アーク暴露表面の甲羅状クラック、即ち深さ方向のクラックの発生も抑制する効果があるので、アーク接触子表面の脱落による損耗を低減することができる。さらに、スリット幅は狭い方が閃落電圧のバラツキを抑制する効果がある。
【0074】
なお、本実施の形態においては、スリット幅を極力狭くしたアーク接触子を得る方法として、分割したブロックを束ねて作製する方法を示したが、他の方法として、比較的大きな幅をもつスリットを形成し、そのスリットの内部に所望の材質の金属板などを挿入してスリット幅を調整してもよく、スリット幅を調整できる方法あれば特に制限はない。
【0075】
また、本実施の形態においては、格子状スリットの例について述べたが、同心円状スリット、縞状スリット、十字状スリット、同心円状と十字状を組み合わせたスリット、格子状と十字状を組み合わせたスリット、縞状と十字状を組み合わせたスリット、スリット底部にCu部を埋設したスリットでも同様の効果を得ることができる。
【0076】
さらに、本実施の形態においては、1本の固定アーク接触子に対して1種類のスリット幅のスリットを設けた例について述べたが、スリット幅が本発明の0よりも大きく2mm以下の範囲であれば、異なる幅のスリットを組み合わせて1本のアーク接触子に設けても同様の効果を得ることができる。
【0077】
さらに、本実施の形態においては、固定アーク接触子の例について述べたが、可動アーク接触子のアークに曝される部分に同様の構成を適用しても、同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】この発明の実施の形態1におけるガス遮断器の断面模式図である。
【図2】この発明の実施の形態1における消弧室の断面模式図である。
【図3】この発明の実施の形態1における固定アーク接触子の模式図である。
【図4】この発明の実施の形態1における固定アーク接触子の上面図である。
【図5】この発明の実施の形態1における固定アーク接触子の断面模式図である。
【図6】この発明の実施の形態1における固定アーク接触子の断面模式図である。
【図7】この発明の実施の形態1における固定アーク接触子の断面模式図である。
【図8】この発明の実施の形態2における固定アーク接触子の上面図である。
【図9】この発明の実施の形態3における固定アーク接触子の上面図である。
【図10】この発明の実施の形態4における固定アーク接触子の模式図である。
【図11】この発明の実施の形態4における固定アーク接触子の上面図である。
【図12】この発明の実施の形態4における固定アーク接触子の上面図である。
【図13】この発明の実施の形態4における固定アーク接触子の上面図である。
【図14】この発明の実施の形態5における固定アーク接触子の断面図である。
【図15】この発明の実施の形態7における固定アーク接触子の特性図である。
【符号の説明】
【0079】
1 ガス遮断器
2 固定電極部
3 可動電極部
4 絶縁筒
5 消弧室
6 絶縁操作棒
7 支持絶縁筒
8 冷却塔
9a、9b 導体
10a、10b ブッシング
11a、11b 端子
12 容器
13 制御箱
14 操作装置
15 可動アーク接触子
16 ノズル
17 駆動棒
18 可動主接触子
19 固定主接触子
20 固定アーク接触子
21、22 シールド
23 パッファシリンダ
24 基材
25 スリット
26 台金
27 面取り部
28 Cu部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定アーク接触子と、この固定アーク接触子と接離可能に対向配置された可動アーク接触子とを備え、前記固定アーク接触子と前記可動アーク接触子との間に発生するアークを消弧性ガスで消滅させることにより電流遮断動作を行なうガス開閉器において、
前記固定アーク接触子および前記可動アーク接触子の少なくとも一方は、銅とタングステンとの合金で構成された基材に前記アークに曝される面から深さ方向に向かって同心円状、格子状および縞状の少なくとも1つの形状のスリットを設け、
前記アークに曝される面と前記スリットとの境界稜線部が面取りされていることを特徴するガス開閉器。
【請求項2】
さらに、固定アーク接触子の軸芯で交わる十字状のスリットを設けたことを特徴とする請求項1記載のガス開閉器。
【請求項3】
スリットの底部にCu部を配置したことを特徴とする請求項1または2記載のガス開閉器。
【請求項4】
スリットの幅は、0よりも大きく2mm以下であることを特徴とする請求項1または2記載のガス開閉器。
【請求項5】
スリットの幅は、0よりも大きく0.3mm以下であることを特徴とする請求項1または2記載のガス開閉器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−97745(P2010−97745A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−266061(P2008−266061)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】