説明

ガソリン組成物

【課題】ETBE及び/又はETOHを含有し、冷機時におけるCO排出量を低減でき、かつ二酸化炭素排出量が少ないガソリン組成物を提供する。
【解決手段】エチルターシャリーブチルエーテル及びエタノールの少なくとも一方を含み、該エチルターシャリーブチルエーテル及びエタノールの合計含有量が1〜12容量%であり、全硫黄分が10質量ppm以下、芳香族分が20〜40容量%であり、次式:
指標X=Ar9÷Ar8
[式中、Ar8は炭素数8以下の芳香族分(容量%)で、Ar9は炭素数9以上の芳香族分(容量%)である]で表される指標Xが2.0以上、リード蒸気圧が65kPa以下、リサーチ法オクタン価が98〜110、50%留出温度が85.0〜98.0℃であるガソリン組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガソリン組成物、特には、エチルターシャリーブチルエーテル(ETBE)及び/又はエタノール(ETOH)を含有し、冷機時における排出ガス中の一酸化炭素(CO)排出量を低減し、かつ二酸化炭素排出量が少ないガソリン組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジンの排出ガス中のCOは、頭痛、吐き気、呼吸器障害など人体に悪影響を及ぼすため、規制物質として扱われている。これに対し、近年の自動車排気ガス浄化技術の進展に伴い、暖機時におけるCO排出量はかなり低減されているが、冷機時のCO排出量の低減は十分ではない。
【0003】
例えば、含酸素化合物であるエチルターシャリーブチルエーテル(ETBE)及びエタノール(ETOH)は、高いオクタン価を有し、ガソリンの構成基材として使用した場合、CO排出量の低減に寄与することが報告されている。また、植物由来のETBE及びETOHは、カーボンニュートラルの意味でCO2排出量の低減に寄与することも報告されている(下記特許文献1参照)。しかしながら、ETBEやETOHを配合しても、冷機時のCO排出量及び二酸化炭素排出量の低減は十分ではない。
【0004】
一方、ガソリンの主要構成成分である芳香族化合物は、その他の炭化水素に比べて高発熱量、高オクタン価であることから、プレミアムガソリンの重要な構成基材として多く使用されている。しかしながら、芳香族化合物を多量に混合した場合、排出ガス性状が悪化することが知られている。(下記特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2007−270037号公報
【特許文献2】特開平07−207286号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、ETBE及び/又はETOHを含有し、冷機時におけるCO排出量を低減でき、かつ二酸化炭素排出量が少ないガソリン組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、ETBE及び/又はETOHを配合したガソリン組成物において、ある特定の性状を満足するように調整した場合に、冷機時におけるCO排出量及び二酸化炭素排出量を低減できることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0007】
すなわち、本発明のガソリン組成物は、エチルターシャリーブチルエーテル(ETBE)及びエタノール(ETOH)の少なくとも一方を含み、該エチルターシャリーブチルエーテル及びエタノールの合計含有量が1〜12容量%であり、全硫黄分が10質量ppm以下、芳香族分が20〜40容量%であり、次式:
指標X=Ar9÷Ar8
[式中、Ar8は炭素数8以下の芳香族分(容量%)で、Ar9は炭素数9以上の芳香族分(容量%)である]で表される指標Xが2.0以上、リード蒸気圧が65kPa以下、リサーチ法オクタン価(RON)が98〜110、50%留出温度が85.0〜98.0℃であることを特徴とする。
【0008】
また、本発明のガソリン組成物は、オレフィン分が13.0容量%以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ETBE及びETOHの少なくとも一方を含有し、冷機時のCO排出量を低減でき、かつ二酸化炭素排出量が少ないガソリン組成物を提供することができる。さらには、本発明のガソリン組成物は、冷機時の加速性を向上させる効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
〔ガソリン組成物〕
本発明のガソリン組成物は、ETBE及びETOHの少なくとも一方を含有し、ETBE及びETOHの合計含有量が1〜12容量%である。排出ガス中のCOの低減やリサーチ法オクタン価(RON)向上効果の観点から、ETBE及びETOHの合計含有量は1容量%以上であることを要し、好ましくは3容量%以上、更に好ましくは5容量%以上である。また、排出ガス中のNOx増加を抑制する観点、更には、既販車の燃料供給系統部材への影響を抑える観点から、ETBE及びETOHの合計含有量は12容量%以下であることを要し、好ましくは10容量%以下、特には8容量%以下である。
【0011】
本発明のガソリン組成物は、RON向上効果や冷機時の加速性の観点から、オレフィン分が好ましくは13.0容量%以上、さらに好ましくは13.5容量%以上、特には14.0容量%以上である。また、オレフィン分が多すぎると、ガソリン組成物の酸化安定性を悪化させ、吸気バルブデポジットを増加させる可能性があるため、本発明のガソリン組成物は、オレフィン分が好ましくは25.0容量%以下、さらに好ましくは20.0容量%以下、特には18.0容量%以下である。
【0012】
本発明のガソリン組成物は、芳香族分が20〜40容量%である。芳香族分は、オクタン価を向上させる効果を有するが、芳香族分が40容量%を超えるとプラグの燻りや揮発性の悪化を引き起こし、冷機時の加速性が悪化する。また、芳香族分が多すぎると排出ガス性状が悪化するため、本発明のガソリン組成物中の芳香族分は、40容量%以下であり、好ましくは38容量%以下、さらに好ましくは35容量%以下である。また、芳香族分が20容量%より少ないと発熱量低下により燃費悪化を引き起こすことがあるため好ましくなく、燃費向上の観点から、本発明のガソリン組成物中の芳香族分は、好ましくは25容量%以上、さらに好ましくは27容量%以上である。
【0013】
また、ガソリン組成物中のベンゼン分は、品質確保法で1容量%以下と定められているが、排ガス性状の悪化防止の観点から、本発明のガソリン組成物のベンゼン分は0.5容量%以下が好ましく、特には0.4容量%以下が好ましい。
【0014】
本発明のガソリン組成物は、次式(1):
指標X=Ar9÷Ar8≧2.0 ・・・ (1)
を満たすガソリン組成物である。ここで、Ar8は炭素数8以下の芳香族化合物の含有量(容量%)であり、Ar9は炭素数9以上の芳香族化合物の含有量(容量%)である。
【0015】
前記式の値は、ガソリン組成物中の各組成の量と冷機時のCO排出量及び二酸化炭素排出量との関係について検討を行い、因子間の内部相関が高い因子を変数として整理した結果、本発明者らが見出した指標である。式(1)の値(即ち、指標X)が2.0未満であると、冷機時のCO排出量及び二酸化炭素排出量が大幅に悪化するため、本発明のガソリン組成物は、指標Xが2.0以上であり、好ましくは2.5以上、さらに好ましくは2.7以上、特には3.0以上である。なお、特に限定されるものではないが、本発明のガソリン組成物の指標Xは、10.0以下であることが好ましく、8.0以下であることが更に好ましい。
【0016】
本発明のガソリン組成物は、硫黄分が10質量ppm以下、好ましくは5質量ppm以下、より好ましくは1質量ppm以下である。ガソリン組成物中の硫黄分は、排気ガス中で硫黄酸化物となって、窒素酸化物除去触媒を被毒する。そのため、硫黄分が多いほど、窒素酸化物除去触媒の活性を回復すべく還元雰囲気を形成するために燃料がより多く消費され、燃費悪化の原因となっている。従って、ガソリン組成物中の硫黄分が少ないほど燃費が向上する。
【0017】
本発明のガソリン組成物のリード蒸気圧は、蒸発ガス低減のため65kPa以下、より好ましくは60kPa以下、特に好ましくは58kPa以下である。ここで、蒸気圧はJIS K 2258「原油及び燃料油−蒸気圧試験方法−リード法」により測定される37.5℃での蒸気圧である。なお、特に限定されるものではないが、本発明のガソリン組成物のリード蒸気圧は、45kPa以上であることが好ましく、50kPa以上であることが更に好ましい。
【0018】
本発明のガソリン組成物のリサーチ法オクタン価(RON)は98〜110であり、燃費向上効果の観点から好ましくは99以上、さらに好ましくは100以上である。また、RONが高すぎると芳香族分の増加により排気ガス品質が悪化したり、蒸留性状が重質化することにより冷機時の加速性に悪影響が及ぶことから、本発明のガソリン組成物のRONは110以下であり、好ましくは105以下、さらに好ましくは101以下、特には100以下である。
【0019】
本発明のガソリン組成物の蒸留性状における50%留出温度は、冷機時の加速性や排ガスの性状の観点から、98.0℃以下であり、好ましくは97.0℃以下、さらに好ましくは96.0℃以下、特には95.0℃以下である。また、50%留出温度が低すぎると燃費が悪化するため、本発明のガソリン組成物は、50%留出温度が85.0℃以上であり、好ましくは87.0℃以上、さらに好ましくは90.0℃以上である。
【0020】
上述した本発明のガソリン組成物の調製方法は、特に限定されず、上述した各成分含有量、物性を満たすように、脱硫直留軽質ナフサ、アルキレートガソリン、接触分解ガソリン等の公知のガソリン基材に、ETBEやETOHを適宜配合することで調製できる。
【実施例】
【0021】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの例により何ら制限されるものではない。
【0022】
実施例及び比較例となるガソリン組成物を調製するに際して用いたガソリン基材は、次のものである。
【0023】
・DS−LG:脱硫直留軽質ナフサであり、中東系原油のナフサ留分を水素化脱硫後、その軽質分を蒸留分離することにより得た。
【0024】
・IMFL:中東系原油の減圧軽油留分を水素化精製処理して得られた間接脱硫軽油を固体触媒により流動床式反応装置を用いて接触分解して得られるガソリン留分の100℃以下軽質留分を蒸留分離して得た。
【0025】
・ALKG:ブチレンを主成分とする留分とイソブタンを主成分とする留分とを硫酸触媒によりアルキル化反応させて得た、いわゆるアルキレートガソリンであり、炭素数8のイソパラフィン分の高い炭化水素を主成分とする。
【0026】
・RFG:中東系原油由来の接触改質ガソリンである。
【0027】
・TOL:99.5%純度のトルエンの試薬品[和光純薬工業(株)製]を用いた。
【0028】
・AC−7:脱硫重質ナフサを固体触媒により移動床式反応装置を用いて改質反応させることにより、芳香族分の高い炭化水素、すなわち改質ガソリンを得、更に、該改質ガソリンを蒸留分離することにより得た軽質留分、すなわち軽質改質ガソリン(AC−7)であり、炭素数7の炭化水素を95容量%以上含有する。
【0029】
・AC−9:脱硫重質ナフサを接触改質して得られた改質ガソリンを蒸留分離することにより得られた重質留分、すなわち重質改質ガソリン(AC−9)であり、炭素数9及び10の炭化水素を90容量%以上含有し、炭素数11以上の炭化水素の含有量は5容量%以下である。
【0030】
・ETBE:95%純度の試薬品[和光純薬工業(株)製]を用いた。
【0031】
・ETOH:ブラジル産バイオエタノールを用いた。
【0032】
上記ガソリン基材の性状を表1に示す。これらのガソリン基材を、表2の上部に示す混合割合(容量%)でブレンドし、実施例1〜2及び比較例1〜3のガソリン組成物(それぞれ、供試ガソリン1〜5とする)を調製し、冷機時の排出ガス性状と加速性を評価した。
【0033】
なお、表1及び表2に示すガソリン基材の性状、並びに実施例及び比較例のガソリン組成物の性状は、次の方法により測定した。
【0034】
・密度:JIS K 2249「原油及び石油製品−密度試験方法」
・オクタン価(RON):JIS K 2280「石油製品−燃料油−オクタン価及びセタン価試験方法並びにセタン指数算出方法」のリサーチ法オクタン価試験方法
・蒸気圧(RVP):JIS K 2258「原油及び燃料油−蒸気圧試験方法−リード法」
・蒸留性状:JIS K 2254「石油製品−蒸留試験法」
・組成成分(炭化水素化合物:オレフィン分、全芳香族分、炭素数8以下の芳香族分及び炭素数9以上の芳香族分):JIS K 2536「石油製品−成分試験方法」のガスクロマトグラフィー法
【0035】
また、道路運送車両の保安基準に係る技術基準について(昭和58年10月1日 自車第899号)の「ガソリン自動車10モード及び11モード排出ガス測定の技術基準」に基づいて走行させ、排出ガスを測定した。表2に11modeと表記して数値を記載した。
【0036】
更に、冷機時の加速性(以下、加速時間)を評価するために、実施例1〜2、及び比較例1〜3のガソリン組成物について、シャシダイナモ装置を用い、MPI試験車による加速性能試験を実施した。試験は、車両を冷機(25℃)状態に保持した後、自動運転装置(堀場製作所製、ADS7000)によりアクセル開度を50%上限としてアクセル開度上限まで一気に加速した時に、初速0から50(km/時間)の車速に到達するまでの時間により測定した。その結果(加速時間増加率)を、市販プレミアムガソリンを使用したときの到達時間を基準として、それとの相対的な加速時間の差異で比較した。結果を表2に併せて示す。なお、供試ガソリンの加速時間増加率は、次式:
加速時間増加率(%)=(供試ガソリンの到達時間−市販プレミアムガソリンの到達時間)÷(市販プレミアムガソリンの到達時間)×100
により求めた。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
表2から、実施例1及び2は、上述した指標Xが2.0以上と大きく、一酸化炭素排出量及び二酸化炭素排出量が非常に低かった。一方、比較例1〜3は、指標Xが2.0未満と低く、一酸化炭素排出量及び二酸化炭素排出量が実施例1及び2に比べて多いことが分かる。
【0040】
また、実施例1及び2は、芳香族分が40容量%以下、RONが110以下、50%留出温度が98.0℃以下、オレフィン分が13.0容量%以上であることから、加速時間増加率が極めて低い値であり、冷機時の加速性が非常に良好であった。一方、比較例3は、50%留出温度が98.0℃を超え、オレフィン分が13.0容量%未満であることから、実施例1及び2に比べて加速時間増加率が極めて高い値であり、冷機時の加速性が悪いことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチルターシャリーブチルエーテル及びエタノールの少なくとも一方を含み、該エチルターシャリーブチルエーテル及びエタノールの合計含有量が1〜12容量%であり、全硫黄分が10質量ppm以下、芳香族分が20〜40容量%であり、次式:
指標X=Ar9÷Ar8
[式中、Ar8は炭素数8以下の芳香族分(容量%)で、Ar9は炭素数9以上の芳香族分(容量%)である]で表される指標Xが2.0以上、リード蒸気圧が65kPa以下、リサーチ法オクタン価が98〜110、50%留出温度が85.0〜98.0℃であるガソリン組成物。
【請求項2】
オレフィン分が13.0容量%以上である請求項1に記載のガソリン組成物。