説明

ガラクトシダーゼ変性粘膜下組織

【課題】検出可能量のGalエピトープが実質的に存在しない粘膜下組織を提供する。
【解決手段】ガラクトシダーゼで酵素処理した粘膜下組織を含む組織移植片組成物。粘膜下組織が、脊椎動物腸の筋層及び脊椎動物腸の粘膜層の少なくとも内腔部から離層した粘膜下層を含んでなる腸粘膜下組織切片である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酵素処理粘膜下組織とその製法及び使用に関するものである。より詳細には、本発明はガラクトシダーゼで少なくとも部分的に消化された粘膜下組織に向けられる。
【背景技術】
【0002】
温血脊椎動物の腸の粘膜下層を含む組成物は組織移植片材料として有益に用いられることが知られている(例えば、特許文献1〜2参照)。これらの特許に記載されている組織移植片組成物は、高コンプライアンス、高破裂圧点及び、血管移植片及び結合組織移植片構成物の代わりにこの種の組成物を有益に利用せしめる有効多孔度指数等、優れた機械的な特性によって特徴づけられる。このような用途に用いる際、上記移植片構成物は上記移植片構成物によって置換された組織の再増殖のための基質として機能するだけでなく、実際このような内因性組織の再増殖を促進または誘起するようである。このリモデリングプロセスにおいて共通な事象は、広範囲の速やかな血管新生、顆粒間葉細胞の増殖、移植腸粘膜下組織材料の生体内分解や吸収、及び免疫拒絶が起きないこと等である。
【0003】
腸粘膜下組織はそのバイオトロピック特性を損失することなく、細砕及び/または酵素消化によって流動状となり、比較的非侵襲的な投与方法を用いて(例、注入または局所投与)修復を必要とするホスト組織に投与し得ることも知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
粘膜下組織移植片は異種移植片として血管、硬膜、膀胱、及びその他の整形外科的用途に、そして皮膚移植片としても上首尾に用いられている。リモデリングされた組織は、肉眼的にも組織学的にも天然組織に類似し、リモデリングが完了すると元の粘膜下組織移植片は概ね見分けられない程である。その特異な性質にもかかわらず、脊椎動物粘膜下組織はラット、マウス、イヌ、ネコ、ウサギ及びヒツジを含む、試験に用いた動物系では臨床的拒絶反応を起こさなかった。このため粘膜下組織はヒトに用いる有用な異種移植片材料である可能性が高い。
【0005】
ガラクトシル−α(1、3)ガラクトース(Galエピトープと呼ばれる)はヒト及び旧世界サル(Old World Apes)を除く全ての哺乳動物における細胞表面成分類及び若干の血清タンパク質類のグリコシル変形体である。このエピトープは他のガラクトース部分にα1−3結合によって結合する末端ガラクトース部分を有する。ヒト血清はこのエピトープに直接向かう天然発生性IgG及びIgM抗体を含むことが判明している。ヒトにおける全ての循環IgGの1%は抗−Galであると推定される。このように高レベルの抗Galエピトープ抗体は、胃腸系の内因性細菌に応答して産生すると考えられており、これら細菌のリポ多糖類はGalエピトープを含む。臓器組織のヒト−ホストへの異種移植は、IgG及びIgM抗体のGalエピトープ(特に内皮細胞上のエピトープ)への結合をおこし、炎症反応の開始及び移植片の血管塞栓及び超急性異種移植片拒絶をおこす。よって、ブタ、及びその他旧世界ザル以外の脊椎動物種の臓器をヒトに上首尾に異種移植する場合の主な障害は、これらの臓器組織にGalエピトープが存在することである。
【0006】
本発明に開示されるGalエピトープは公知の方法(例えば、特許文献1〜2参照)に従って調製したブタ粘膜下組織にも見いだされた。Galエピトープが粘膜下組織の天然発生性成分として存在するのか否かとか、またはそのエピトープが細胞溶解の残部であり粘膜下組織の処理中に粘膜下組織に付着したままでいるのかどうかとかは、知られていない。
【0007】
試験を行ったラット、マウス、イヌ、ネコ、ウサギ、及びヒツジを含む動物系で粘膜下組織移植片構成物が移植後に免疫反応をおこしたという報告はない。しかし、Galエピトープと、ヒトにおける超急性異種移植片全臓器移植体拒絶との関連性により、粘膜下組織移植片構成物としては、Galエピトープが実質的に存在しない粘膜下組織を含むものが好ましい。
【特許文献1】米国特許第4,902,508号
【特許文献2】米国特許第5,281,422号
【特許文献3】米国特許第5,275,826号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はガラクトシダーゼで処理し、検出可能量のGalエピトープが実質的に存在しない粘膜下組織を生成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような“Galフリー”粘膜下組織を用いて損傷または疾患した内生組織の置換及び修復のための組織移植片構成物を形成する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
定義:
・用語“Galエピトープ”はヒト及び旧世界ザル以外の、全哺乳動物の細胞表面または血清タンパク質上に存在する細胞性化合物類のグリコシル変性[ガラクトシル−α(1、3)ガラクトース]を言う。
・ここに用いられる用語“グリコシダーゼ”は大部分の脊椎動物の細胞成分上に存在する末端α−結合ガラクトースを切断破壊する酵素を言う。例えば、本発明による有用な一つのグリコシダーゼはα−ガラクトシダーゼである。
・ここに使用する用語“グルコサミノグリカナーゼ”(GAGase)とは、例えばコンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸ヘパリン及びヘパリン硫酸等のグリコサミノグリカン類(GAG)を加水分解する酵素を言う。
・用語“Galフリー粘膜下組織”は、例1に詳細に記載される抗体及びレクチンアッセイによって測定して、検出可能量のGalエピトープが実質的に存在しない粘膜下組織のことである。
【0011】
本発明は、Galエピトープが実質的に存在しない温血脊椎動物粘膜下組織とその調製及び使用方法に関する。より詳細には、本発明は粘膜下組織をα−ガラクトシダーゼのような酵素で少なくとも部分的に消化し、粘膜下組織に存在するGalエピトープのレベルを減少させた粘膜下組織に向けられる。ガラクトシダーゼ処理粘膜下組織を本発明により非免疫原性組織移植片組成物として、及びin−vitro細胞培養基質として用いる。
【0012】
本発明のガラクトシダーゼ処理粘膜下組織は脊椎動物粘膜下組織から誘導され、天然発生性関連細胞外基質タンパク質、糖タンパク質及びその他の因子を含む。好ましくは、上記粘膜下組織は温血脊椎動物の腸粘膜下組織を含み、上記粘膜下組織の特に好ましい一ソースは温血脊椎動物の小腸である。適切な粘膜下組織は筋層及び粘膜層の少なくとも内腔部から離層された粘膜下層を含んでなる。本発明の好ましい一実施態様において、粘膜下組織は粘膜下層と、粘膜筋板と緻密層とを含む粘膜層の基底部分とを含んでなる腸粘膜下組織である。上記粘膜筋板及び緻密層はソースとなる脊椎動物種によって厚さ及び定義に変動があることは知られている。粘膜下組織はその他の脊椎動物種の臓器からも調製される。例えば膀胱(米国特許第5,554,389号を参照)を含む泌尿器系、及び消化管の胃等のその他部分である。
【0013】
本発明によって使用するための粘膜下組織の調製は米国特許第4,902,508号及び第5,554,389号に記載されている。要約すると、粘膜下組織は脊椎動物の腸(またはその他の臓器ソース)、好ましくはブタ、ヒツジ、またはウシから採取されるが、その他の種も排除されるものではない。その採取方法は、腸組織を縦方向のワイピング運動を用いて擦りむき、平滑筋組織からなる外側層と、最も内側の層、すなわち少なくとも粘膜内腔部とを除去する。粘膜下組織を生理的食塩液ですすぎ、任意に滅菌し、それを水和状態または脱水状態で保存することができる。凍結乾燥または空気乾燥した粘膜下組織を再水和し、本発明により、その細胞増殖活性を著しく損失することなく利用することができる。
【0014】
胃の粘膜下組織は胃の切片から、腸の粘膜下組織の調製と同様な手順で調製する。胃組織の一切片をまず縦方向のワイピング運動を用いて擦りむき、外側層(特に平滑筋層)及び粘膜層内腔部を除去する。生成した粘膜下組織は厚さ約100乃至約200マイクロメーターを有し、主として(98%以上)無細胞、好酸性染色(H&E染色)を示す細胞外基質物質からなる。
【0015】
本発明により使用するために明記される粘膜下組織は流動状でもよい。粘膜下組織を組織の細砕及び、任意に酵素消化にかけることによって流動状にすることができる。流動状粘膜下組織の製法は米国特許第5,275,826号に記載されている。流動状粘膜下組織は切り取った粘膜下組織の引裂き、切断、細砕または剪断による粘膜下組織を粉砕することによって作られる。一実施態様によると、粘膜下組織の小片を、高速ミキサーで破砕するか、または凍結又は凍結乾燥状態の粘膜下組織を粉砕して粉末とし、その後その粉末を水又は緩衝生理食塩液で水和して液体、ゲルまたはペースト状粘稠度の粘膜下組織流動体を形成する。
【0016】
天然、または流動状の粘膜下組織組成物を、粘膜下組織成分の全部または大部分が可溶性になるのに十分な時間、酵素処理することができる。好ましくは、粘膜下組織を、上記粘膜下組織の構造成分を加水分解する酵素で消化し、粘膜下組織成分の懸濁液または均質溶液を生成する。粘膜下組織はプロテアーゼ(例えばコラゲナーゼまたはトリプシンまたはペプシン)、グルコサミノグルカナーゼ類、またはプロテアーゼとグルコサミノグルカナーゼとの組み合わせで酵素処理することができる。組織消化物を任意に濾過し、部分的に可溶化した粘膜下組織の均質溶液を得ることができる。
【0017】
本発明によって用いる流動状粘膜下組織の粘度は、粘膜下組織成分の濃度及び水和程度をコントロールすることによって調節できる。粘度は25℃で約2乃至約300,000cpsの範囲に調節できる。比較的高い粘度の組成物、例えばゲルは、粘膜下組織消化溶液から、このような溶液のpHを約6.0に乃至約7.0に調節することによって調製できる。
【0018】
本発明は粘膜下組織の粉末形の使用をも考慮に入れている。一実施態様において、粘膜下組織の粉末形は、粘膜下組織を液体窒素下で粉末状にし、0.1乃至1mm範囲の大きさを有する粒子を形成することによって調製される。上記粒状組成物をそれから一晩凍結乾燥し、滅菌して、実質的に無水の固体粒状組成物を形成する。あるいは、粘膜下組織の粉末形は、流動状粘膜下組織から、細砕粘膜下組織の懸濁液または溶液を乾燥することによって生成できる。
【0019】
種々の形の粘膜下組織(天然、流動状、プロテアーゼまたはGAGase処理、及び粉末形)の各々はその組織に関連するGalエピトープを有する。本発明により、これら種々の形の粘膜下組織をさらに変性して組織中のGalエピトープの量を減らすことができる。あるいは、天然粘膜下組織をまず最初に酵素処理して組織中のGalエピトープの量を減らし、その後その組織を流動状にし、プロテアーゼまたはGAGase処理し、または粉末形にすることができる。一実施態様において、天然粘膜下組織をα−ガラクトシダーゼで処理し、Galエピトープの減少した粘膜下組織を調製する。その後Galフリー組織を任意にさらに処理して、上記の流動状、プロテアーゼ/GAGase処理、そして粉末形の粘膜下組織を調製することができる。
【0020】
例1の実験データが示すように、Galエピトープはブタ粘膜下組織と関連づけられる。Galエピトープは、Galエピトープに結合する天然発生レクチン(IB−4)及び、一次抗体のソースとして新たに集めた合一ヒト血清の両方を用いて免疫組織学的染色方法によってブタ粘膜下組織に検出された。そのブタ粘膜下組織をヒト血清で前処理するとIB−4レクチンによる染色強度は減少し、上記組織をIB−4レクチンで前処理すると、抗体染色の強度は減少した。よって、IB−4レクチン及び合一一次抗体の両方が同じ部位を認識したのである。粘膜下組織のα−ガラクトシダーゼ処理はレクチンによる染色を効果的に減らし、無視し得る程度にした。これはGalエピトープがα−ガラクトシダーゼ処理によって粘膜下組織から切断され得ることを示唆する。
【0021】
このエピトープが細胞基質外の粘膜下組織の天然発生性成分として存在するのか、それともこのエピトープが細胞溶解物の残りで、粘膜下組織の処理中、細胞基質外の粘膜下組織に付着したままであるのかどうかは不明である。Galエピトープは血清タンパク質上に検出され、よってエピトープの存在が細胞表面に限られないため、Galエピトープは粘膜下組織を構成する細胞外基質タンパク質上に存在し得る。その上、粘膜下組織の調製は空腸の機械的離層で始まり、それは確かに多数の細胞の破壊を伴うので、粘膜下組織の調製中に付着した細胞成分も粘膜下組織中のエピトープの存在に貢献し得る。
【0022】
上に記したように、ヒトではない哺乳動物の組織上にGalエピトープが存在することは、異種移植片の超急性拒絶によって異種移植片移植の障害となる。Galエピトープとブタ腸粘膜下組織との関連性から、粘膜下組織はヒトに移植された際、新鮮なヒト血漿中の補体を活性化して、拒絶または補体仲介性組織破壊に導き得るかどうかの問題が提起された。超急性拒絶は特に移植された臓器に血液が供給される場合において補体の活性化から起きる。補体系は相互作用する約20の成分の複雑な系であり、細胞の抗体依存性細胞溶解や、細胞を消化し破壊する食細胞の刺激に関係する。補体系の成分の大部分は不活性形であり、免疫反応によって誘発される一連のタンパク分解活性化反応によって活性化される。特に、補体カスケードは、抗Gal抗体とGalエピトープとの間に起きるような抗体−抗原反応によって活性化され得る。
【0023】
補体系タンパク分解カスケードの中枢成分はC3である。C3は二つの異なる経路、すなわち典型的経路及びそれに替わる経路で活性化され得る。どちらの場合にもC3は酵素複合体によって切断され、C3aとC3bになる。C3bはそのカスケードを続行し、C3aはアナフィラキシー、化学走性及び急性炎症に関係する。C3aを測定する放射免疫アッセイキットは市販で入手可能であり(アマーシャム(Amersham))、補体活性化のインジケータとして利用できる。このキットを用いて、粘膜下組織がヒト血漿における補体活性化を引き起こすかどうかを調べた(例2参照)。このアッセイの結果に基づくと、本発明によって調製されたブタ粘膜下組織のシートは、免疫学的に検出し得るGalエピトープの存在にもかかわらず、補体を活性化しない。
【0024】
粘膜下組織が補体活性化を刺激しないという事実は、HB−4レクチン及びヒト血清で認められた強い陽性染色を考慮すると、驚くべきことである。これは、天然に発生するヒトIgG及びIgMは粘膜下組織には結合するが、補体をin−vitroで顕著に固定することはできなかったことを示唆する。補体活性化にはIgGまたはIgMが比較的高密度の抗原に結合することが必要である。よって、in−vitro補体反応の欠如は、組織中のGalエピトープの低密度に起因することもあり得る。さらに、IgG/抗原複合体による補体活性化は、特に低い抗原密度では、IgM/抗原複合体による補体活性化ほど効率的でない。そしてGalエピトープとの結合に関してIgGが競合することも低い補体反応に貢献し得る。最後に、凍結切片作成及び固定プロセスによって、天然組織におけるよりも、より多くの抗原部位が露出して免疫ペルオキシダーゼ標識化を受け、その結果、補体活性化が乏しいにもかかわらず印象的な免疫ペルオキシダーゼ染色が生起したこともあり得る。特に、天然粘膜下組織の孔の大きさ及び孔の分布が、補体の侵入を最も表面の構造のみに制限し、抗原に結合するために利用できる抗原量が効果的に減少し得る。
【0025】
in−vitroヒト血清にさらされた際にブタ粘膜下組織が補体活性化力をもつかどうかには無関係に、Galエピトープとヒトの超急性異種移植片全臓器移植拒絶との関連性により、移植片構成物は実質的にGalエピトープのない組織を含み得る。Galフリー粘膜下組織は本発明により、粘膜下組織を酵素溶液と接触させることによって調製される。その際上記酵素はGalエピトープを破壊、または粘膜下組織から分離する。酵素はα−ガラクトシダーゼであるのが好ましい。
【0026】
Galエピトープを除去した粘膜下組織はそのままの状態でもよく、または流動状、懸濁液、溶液または粉末形でもよい。上記組織を酵素活性に適した条件下(温度、pH、塩濃度等を含む)で、酵素と接触させる。その消化は組織のGalエピトープ含有量を減少させるのに十分な時間行われる。好ましくはその組織と関連するGalエピトープ濃度を50%より多く減少させ、より好ましくはGalエピトープ濃度を90%より多く減少させる。一実施態様によると脊椎動物粘膜下組織を酵素処理してGalエピトープの検出可能量をほとんど無くする。上記組織を酵素消化してGalエピトープ量を減少させた後、その組織を生理的食塩液または適切な緩衝溶液で反復洗浄し、切断されたエピトープと酵素を除去する。あるいは、酵素消化してGalエピトープ量を減少させた後、上記組織を緩衝溶液に対して透析し、切断されたエピトープ及び酵素を除去する。
【0027】
上記粘膜下組織を酵素で消化する時間の長さは、処理すべき組織量/対/酵素濃度による(温度、pH、塩濃度等の環境要素は酵素活性に関して最適化されていると仮定する)。粘膜下組織のGalエピトープ量を減少させるために用いる酵素の好ましい一つのグループは、ガラクトシダーゼを含み、特にα−ガラクトシダーゼの単独使用、またはその他のガラクトシダーゼまたはその他の酵素との組み合わせ使用を含む。
【0028】
一実施態様により、粘膜下組織を約5乃至約100単位/ml範囲、より好ましくは約10乃至約50単位/ml範囲の濃度のα−ガラクトシダーゼで6乃至12時間処理する。各消化反応は一般的には約10乃至約100mgの粘膜下組織、より好ましくは約40乃至約60mgの粘膜下組織を含む。よって、粘膜下組織1mgあたり約0.2乃至約5単位の酵素を加え、より好ましくは粘膜下組織1mgあたり約0.25乃至約2単位の酵素を加え、組織を37℃で6乃至12時間インキュベートする。一実施態様において、α−ガラクトシダーゼ20単位/mlを粘膜下組織に加え、組織を37℃で8乃至10時間消化する。Galエピトープの酵素消化を促進するために、粘膜下組織を流動状にするかまたは部分的に脱水してから、1種類以上のガラクトシダーゼを含む溶液と接触させることができる。
【0029】
一実施態様において、脊椎動物の腸の筋層及び粘膜層の少なくとも内腔部からから離層した腸粘膜下組織を含むGalフリー組織移植片構成物は、上記組織とガラクトシダーゼとを、Galエピトープの実質的に全てを除去できる十分な時間接触させることによって調製される。より大きい粘膜下組織片の場合は、組織を脱水するかまたは孔を開けて、その後にガラクトシダーゼ溶液と接触させ、組織に存在するGalエピトープへの酵素のアクセスを高め、消化時間を短縮する。また別の実施態様において、Galフリー粘膜下組織の流動形(粘膜下組織の酵素消化した懸濁液及び溶液を含む)を処理してGalエピトープを除去し、それからゲル化して固体または半固体基質を形成する。
【0030】
Galエピトープを除去するための粘膜下組織の酵素消化は、天然粘膜下組織のバイオトロピック特性を損失せずに達成できる。粘膜下組織は細胞培養基質として用いられることが報告された(米国特許第5,695,998号を参照)。例3のデータによって示されるように、Galフリー粘膜下組織は細胞培養基質として、in−vitro細胞増殖及び分化に関して天然粘膜下組織と同様の特性を示す。よって、Galエピトープを除去しても、粘膜下組織の細胞増殖及び分化刺激力への影響はないようである。従ってGalフリー粘膜下組織を組織移植片組成物に利用し、損傷または疾患した組織の修復を促進することができる。
【0031】
本発明により、本発明のGalフリー粘膜下組織組成物を好ましく用いて温血脊椎動物の所望部位に内因性組織の形成を誘起することができる。この方法は損傷または疾患部位と、内因性組織増殖を十分に誘起する量のGalフリー粘膜下組織含有移植片組成物とを、その組成物を投与すべき部位で接触させる段階を含んでなる。Galフリー粘膜下組織組成物は固体またはシート形を外科的移植により、または流動形を注入することによってホストに投与することができる。
【0032】
特に、本発明のGalフリー粘膜下組織組成物は損傷組織の修復または置換に関係する種々様々の外科的用途、例えば血管及び結合組織の修復等に役立つ。本発明の目的のための結合組織には骨、軟骨、筋肉、腱、靭帯、及び皮膚の表皮層等の線維性組織がある。結合組織の修復または置換にGalフリー粘膜下組織切片を使用することは、米国特許第5,281,422号及び第5,352,463号に記載されている方法を用いて実現する。)。さらに、Galフリー粘膜下組織移植片構成物は血管、神経、硬膜、膀胱及び皮膚組織の置換及び修復への利用が期待される。
【0033】
本発明のGalフリー粘膜下組織組成物はグルタルアルデヒドなめし、酸性pHにおけるホルムアルデヒドなめし、エチレンオキシド処理、プロピレンオキシド処理、ガスプラズマ滅菌、ガンマ照射、及び過酢酸滅菌等の一般的滅菌法を用いて滅菌される。移植片の機械的強度及びバイオトロピック特性を顕著には弱めない滅菌法を用いるのが好ましい。例えば、強いガンマ照射は移植片材料の強度の損失を起こすと考えられる。本発明の腸粘膜下組織移植片の最も魅力的なものの一つは、それらのホスト−リモデリング反応誘起力であるから、この特性を減ずる滅菌法は使用しないことが好ましい。好ましい滅菌法は移植片を過酢酸、低線量ガンマ照射及びガスプラズマ滅菌にさらすこと等であり、過酢酸滅菌が最も好ましい方法である。一般的には組織移植片組成物を滅菌した後、組成物を有孔プラスチックラップで包み、電子ビームまたはガンマ照射滅菌法で再度滅菌する。
【0034】
Galフリー粘膜下組織は本発明により、種々の形(天然のシート状の形状を含む)の細胞増殖基質として、ゲル基質として、当業者には公知の細胞/組織培養培地の補助成分として、または粘膜下組織と接触する細胞の増殖を維持し、高める生理学的により有効な基質を与えるための培養器のコーティングとしても用いられる。上記組成物は実質的にプロテアーゼ及びGAGaseからなる群から選択される酵素で組織を酵素消化し、その消化した組織を、粘膜下組織のpHを約6.0乃至約7.0に調節することによってゲル化して、流動状にした粘膜下組織を含む。一般的には上記粘膜下組織は、細胞培養用途に使用する前に滅菌する。
【0035】
一つの好ましい実施態様において、ガラクトシダーゼ処理し、検出可能レベルのGalエピトープを減少させた流動状脊椎動物粘膜下組織を含む組成物は、まず最初に天然粘膜下組織をガラクトシダーゼで処理し、それからその組織を流動状にして調製された。特に、粘膜下組織をその天然のシート状の形で作り、ガラクトシダーゼを含む溶液と接触させる。消化は組織のGalエピトープ量を減少させるのに十分な時間行われる。好ましくは、粘膜下組織をガラクトシダーゼで検出可能量のGalエピトープが実質的になくなるまで十分な時間、酵素処理する。組織を酵素消化してGalエピトープ量を減らした後、組織を生理食塩液または適切な緩衝溶液で反復洗浄して切り離されたエピトープと酵素を除去する。組織をその後上記のように、及び米国特許第5,275,826号に記載されているように細砕及び/または酵素消化によって流動状にする。
【実施例】
【0036】
例1:ブタ粘膜下組織におけるGalエピトープの存在及び酵素消化によるその除去
材料及び方法
試薬:正常ヒト血清(NHS)を4名から新たに採取し、合一した。ヒト血清アルブミンはカルビオヘム(Calbiochem)から購入した。ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)に結合したヤギ抗ヒトIgG(Fcフラグメント)及び抗ヒトIgG(μ鎖特異的)はBethy Labsモントゴメリー、TX)から購入した。レクチンI−B4(Griffonia simplicifolia)HRP結合体、α−ガラクトシダーゼ、及び大腸菌(E.coli)からのリポ多糖はシグマ社(セントルイス、MO)から購入した。ジアミノベンチジン(DAB)、ペルオキシダーゼ基質、はVector Labs(バーリンゲイム、CA)から購入した。燐酸緩衝食塩液(PBS)、pH7.4、は必要に応じて調製した。
【0037】
組織:6匹のブタから6つの水和粘膜下組織試料は実質的に米国特許第4,902,508号に記載されているように調製された。クック・バイオテック社によって供給された。新鮮なブタ肝臓を陽性対照組織として用いた。サンプルは凍結防止剤であるO.C.T.(登録商標)埋封培地(Miles)中で凍結され、−70℃で使用時まで保存された。粘膜下組織の横断切片(組織縦軸に垂直)をクリオミクロトーム・セット上で厚さ7μmに切り、ポリ−L−リジン塗布スライド上に置いた。
【0038】
免疫組織化学的染色:スライドを室温(RT)に温め、アセトン中で4℃で3分間固定した。そのスライドを2%ヒト血清アルブミン中で20分間インキュベートすることによって非特異的タンパク質結合をブロックした。0.45%(v/v)H−メタノール中で30分間インキュベートすることにって内因性ペルオキシダーゼ活性を阻止した。各インキュベーションの間に、それらスライドをPBSで10分間すすいだ。全てのインキュベーションは明記された以外は室温で行われた。
【0039】
調製された組織のGalエピトープを染色するために用いた条件を表1にまとめる:
【表1】

【0040】
条件1−3は単なる免疫ペルオキシダーゼ染色法である。抗レクチン試薬が手に入らなかったため、Galα(1、3)Galに直接結合するI−Bを用いる直接染色を利用した。条件4−6では組織をまず最初にレクチン−HRPか正常ヒト血清のどちらかにさらし、それから通常の染色法を行った。より詳細に述べれば、レクチン−HRPと共に室温で18時間インキュベートするか、または血清と共に37℃で1時間、その後室温で18時間インキュベートすることによって組織をブロックした。レクチン−HRPブロックの場合、組織をレクチン結合後にH/メタノール溶液にさらし、内因性ペルオキシダーゼもレクチンに結合したHRPも両方共不活性化した。
【0041】
ブロックされた組織をその後血清中で37℃で1時間、その後室温で18時間インキュベートするか(条件5及び6)、またはレクチンと共に室温で1時間インキュベートした(条件4)。血清染色組織を抗−IgMまたは抗−IgGのHRP結合物と共に室温で1時間インキュベートした(条件2、3、5、6)。条件7では、レクチン染色の前にα−ガラクトシダーゼ(これは末端α−ガラクトシル残基を切断する)を20単位/ml用い、その酵素消化組織を室温で18時間インキュベートした。全組織をペルオキシダーゼ基質(DAB)中で10分間インキュベートし、ヘマトキシリンで10秒間対比染色した。最後にスライドを段階的アルコール系列で脱水し、カバースリップを載せた。紫色のバックグラウンドに対し、陽性染色では黒色が現われる。
【0042】
結果
I−B4レクチンで、及び天然発生する抗エピトープ抗体を含むヒト血清で、全ての粘膜下組織サンプルのGalエピトープが強く陽性に染まった。エピトープは経壁的に粘膜下組織全体に分布しているようである。豊富な内皮細胞を含む肝臓門脈三分岐も強く陽性に染まるが、肝細胞は中程度に陽性であった。染色強度はレクチン−HRP前の血清処理で減少したが、完全には排除されなかった。これらの結果は、Galエピトープ類が血清成分との特異的な相互作用によって少なくとも一部は隠蔽されたことを示唆する。
【0043】
血清で処理し、抗−IgGで染色した粘膜下組織はレクチン染色組織に類似しているようにみえたが、レクチン−HRPによるブロックは染色強度を著しく低下させた。血清で処理し、抗−IgMで染色した粘膜下組織は抗IgG染色組織に類似しているようであった。
【0044】
α−ガラクトシダーゼによる消化は粘膜下組織及び肝臓両方のI−B4レクチン染色を著しく減少させた(表2のα−Gal+レクチンを参照)。
【0045】
結果を表2にまとめる:
【表2】

【0046】
例2:粘膜下組織の補体活性化力
補体活性化アッセイ: 健康な研究所スタッフから血漿サンプルを集めた。血液をEDTA(K)ベノジェクト(登録商標)管(テルモ・メディカル、エルクトン、MD)に入れ、直ちに4℃で1,500×gで15分間遠心分離した。血漿を細胞から分離し、直ちに用いた。
【0047】
水和ブタ粘膜下組織(ブロットし、余分な液体を除去したもの)の小片50mgを血漿(通常または加熱による不活性化)250μlと共に37℃で1時間インキュベートした。3種類のロットから2つずつサンプルを調製した。それから血漿を粘膜下組織から分離し、ヒト補体C3a用のメーカーのインストラクションに従って試験した。各サンプルで3回ずつ試験した。さらに大腸菌のリポ多糖(シグマ社から購入)10mg/ml溶液、80μlを血漿250μl(3.2mg/ml血漿)と共にインキュベートし、陽性対照とした。粘膜下組織なしで室温及び37℃の両方の温度で1時間インキュベートした血漿を対照とした。
【0048】
粘膜下組織の各ロットを2回試験した。各サンプルで3回ずつ実験をした。計算はメーカーのインストラクションに沿って行われた。エクセルソフトウエアを用いて、標準の対数濃度をパーセントに対して計算した。指数方程式を決定し、3回の実験の各々でC3a濃度を算出した。このアッセイの希釈段階を考慮した後、各サンプルの結果を平均し、標準偏差を決定した。示された結果は一実験からのものである。しかしこのアッセイは異なる血漿プールで5回行われ、結果は一致した。これらの結果について統計的有意性を単一ファクターANOVAで比較した。
【0049】
結果
室温で1時間インキュベートした血漿 154ng/ml±13
37℃で1時間インキュベートした血漿 332ng/ml±134
リポ多糖と共にインキュベートした血漿 >16,000ng/ml

血漿と粘膜下組織ロット1、サンプルA 191ng/ml±9
血漿と粘膜下組織ロット1、サンプルB 354ng/ml±170

血漿と粘膜下組織ロット2、サンプルA 234ng/ml±14
血漿と粘膜下組織ロット2、サンプルB 249ng/ml±113

血漿と粘膜下組織ロット3、サンプルA 220ng/ml±50
血漿と粘膜下組織ロット3、サンプルB 393ng/ml±144

全6本の管の平均及び標準偏差:
粘膜下組織1 273ng/ml±140
粘膜下組織2 241ng/ml±72
粘膜下組織3 307ng/ml±135

全18本の粘膜下組織管の平均及び標準偏差:
274ng/ml±116
【0050】
上に示した補体C3aアッセイの結果では、米国特許第4,902,508号に記載された方法により調製した粘膜下組織(すなわちGalエピトープの除去処理を行わない)は顕著なin−vitro補体活性化を起こさないことが示唆される。陰性対照血漿サンプルはいずれも顕著なin−vitro補体活性化を示さなかったし、粘膜下組織処理サンプルも示さなかった。これらの3サンプル間の差は顕著な異なりは見られなかった(p=0.15)。リポ多糖(陽性対照)は16,000ng/mlより大きい補体C3a濃度を示した。これは標準曲線から離れていた。
【0051】
例3:
Galα(1、3)Galエピトープの減少した粘膜下組織の細胞増殖基質としての使用。
材料及び方法
細胞系:
ラット胎児ケラチノサイト(FR)
スイス3T3線維芽細胞(M)
手順:
シート状水和粘膜下組織はクック・バイオテック社(Cook Biotech Inc.)から供給された。この粘膜下組織をプラスチックホルダーに置き、その組織を平らに保持して細胞が組織と良く接触するようにした。その組織は次のようにα−ガラクトシダーゼで処理され、Galエピトープが除去された。α−ガラクトシダーゼを最終的濃度20単位/mlになるように3.5M硫酸アンモニウム、50mM酢酸ナトリウムをpH5.5に懸濁した。上記処理溶液(50μl)を粘膜下組織ホルダーのウェルに加え、上記粘膜下組織(50mg)を室温で一晩インキュベートした。3つの粘膜下組織サンプルを下記の条件下で処理した。
1.粘膜下組織をα−ガラクトシダーゼと共にインキュベート
2.粘膜下組織を3.5M硫酸アンモニウム、50mM酢酸ナトリウム、
pH5.5と共にインキュベート
3.粘膜下組織を水と共にインキュベート
【0052】
組織を一晩インキュベートした後、上記組織サンプルをPBSですすぎ、次に完全細胞培養培地ですすいだ。粘膜下組織ホルダーを12ウェルプレートの各ウェルに入れた。20,000のFR細胞または13,000の3T3細胞を粘膜下組織の粘膜下側に播種し総量250μlとした。上記プレートを、37℃のCOインキュベータ中に置いた。48時間で1週間後、上記サンプルを中性緩衝化ホルマリン中で固定し組織検査(ヘマトキシリン及びエオシン染色)を行うか、または2%グルタルアルデヒド−燐酸緩衝食塩液中で固定して走査電子顕微鏡検査によって試験した。
【0053】
結果
FR細胞は全ての粘膜下組織サンプル上で同様に増殖し分化した。1週間後には48時間後に比べてより多くの細胞があった。3種類の処理粘膜下組織基質間に顕著な差は認められなかった。
【0054】
3T3細胞も3種類の粘膜下組織基質上で全て同様に増殖し分化した。1週間後には48時間後に比べてより多くの細胞があった。3種類の処理粘膜下組織基質間には顕著な差は認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Galエピトープが実質的に無くなるように酵素処理をした脊椎動物粘膜下組織を含む組成物。
【請求項2】
前記粘膜下組織が、脊椎動物腸の筋層及び脊椎動物腸の粘膜層の少なくとも内腔部から離層した粘膜下層を含んでなる腸粘膜下組織切片であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記酵素がガラクトシダーゼであることを特徴とする、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記粘膜下組織が、前記組織を可溶化するのに十分な時間酵素で消化されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
ゲル化されて、固体または半固体基質を形成し、前記基質の表面で真核細胞を培養するのに適するように処理されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
脊椎動物腸の筋層及び脊椎動物腸の粘膜層の少なくとも内腔部から離層した腸粘膜下組織を含み、Galエピトープを実質的に含まないことを特徴とする、組織移植片構成物。
【請求項7】
細胞集団の増殖を促進するための組成物であって、
粘膜下組織を含み、
該粘膜下組織は、
本質的にプロテアーゼとGAGaseとからなる群より選択される酵素で組織を酵素消化することによって流動状とされ、
検出可能な量のGalエピトープを実質的に全て除去されるように、ガラクトシダーゼで酵素処理され、
酵素消化された粘膜下組織の溶液のpHを6.0から7.0に調節することによってゲル化されている、
ことを特徴とする、細胞集団の増殖を促進するための組成物。

【公開番号】特開2008−253790(P2008−253790A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−121445(P2008−121445)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【分割の表示】特願2000−510452(P2000−510452)の分割
【原出願日】平成10年9月11日(1998.9.11)
【出願人】(598063203)パーデュー・リサーチ・ファウンデーション (59)
【氏名又は名称原語表記】PURDUE RESEARCH FOUNDATION
【Fターム(参考)】