説明

ガラスアンテナ

【課題】窓ガラスの開口面積が狭くてもコストアップを要することなく良好な受信性能を得ることができるガラスアンテナを提供する。
【解決手段】直線状に延びた第1アンテナ素子部31と、その逆方向に延びて、ガラスの縁に設けられた接地点37に接続される第2アンテナ素子部32とにより構成されるガラスアンテナ30に、第1アンテナ素子部31の先端、及び第2アンテナ素子部32の基部に交叉し、車体11の開口部に沿ってそれぞれ延びた第3のアンテナ素子34、35を付加した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体の開口部に設けられたガラスアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスアンテナは、従来のロッドアンテナに比べ、出っ張りが無いために意匠上優れており、又、破損の心配が無く、風切り音が発生しない等の理由で広く使用されるようになった。従来、窓カラスに適用されるガラスアンテナが知られている(例えば、特許文献1(図1参照)。)。
【0003】
特許文献1を次図に基づいて説明する。図11には、FMラジオ放送波からTV放送波、UHF放送波まで広範囲に受信利得を高くすると共に、省スペースのモノポール型のガラスアンテナ110が開示されている。このガラスアンテナ110は、給電点114からほぼ水平に延びる水平線状111と、この水平線状111が折り返し部113で折り返され、この折り返し部から延びる水平線にほぼ平行な水平線状112とにより構成される。
【0004】
又、インピーダンス整合回路を用いることなく、アンテナの給電線の特性インピーダンスに近いインピーダンスを有する接地型のガラスアンテナも知られている(例えば、特許文献2(図1)参照。)。
【0005】
特許文献2を図12に基づいて説明する。図12には、ほぼ一直線に延びる第1素子部121と、第1素子部121が折り返し部122で折り返され、この折り返し部122により第1素子部121とほぼ平行な第2素子部123とからなるアンテナパターンと、第1素子部121の端部に接続されている給電点124と、第2素子部123の端部に接続されている接地点125と、この接地点125を車体にアースする接続線126とにより構成されるガラスアンテナ120が開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1、2に開示された技術によれば、窓ガラス開口面積が、例えば、0.15m未満のように狭面積化された車両である場合、アンテナの共振周波数を所望の周波数に設計することが困難であり、良好な受信性能が得られない。理由は、窓ガラス開口面積が小さいため十分なアンテナ素子長を確保できず、バイパスパターンを十分に付加できないことによる。近年、特に、所謂ミニバンやSUV(Sport Utility Vehicle)等では、アンテナが取り付けられるクォータウインドウの狭面積化が要求されており、対応が望まれている。
【0007】
狭面積化が可能なガラスアンテナが知られている(特許文献3(図2)参照。)。
【0008】
特許文献3を図13に基づいて説明する。図13には、受信装置に接続される1つの給電用端子131と、車両の窓ガラス開口部の導電体140に接続される第1及び第2の接地用端子132、133と、給電用端子131と、第1及び第2の接地用端子132,133とが接続される導体素子134、135、136からなる1つのアンテナ素子とにより構成されるガラスアンテナ130が開示されている。
【0009】
特許文献3に開示された技術によれば、接地用端子を付加することで、アンテナインピーダンスの低下を抑制でき、窓ガラス開口部が狭面積化された条件下で取り付けられるアンテナであっても相当の受信性能を得ることはできる。
【0010】
しかしながら、ガラス面に取り付けられる給電用端子131や接地用端子132、133等が必要なため、端子や給電線の数が増え、このため、材料費や組付けのための手間が発生し、コストアップの要因になる。
【0011】
そこで、窓ガラスの開口面積が狭くてもコストアップを要することなく良好な受信性能を得ることができるガラスアンテナが切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平9−284025号公報
【特許文献2】特開2001−136013号公報
【特許文献3】特開2009−65359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、窓ガラスの開口面積が狭くてもコストアップを要することなく良好な受信性能を得ることができるガラスアンテナを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に係る発明では、車体の開口部に取り付けられるガラスと、このガラスに設置されるアンテナ素子とからなるガラスアンテナであって、前記ガラスの縁に設けられた給電点から対向する縁に向かって直線状に延びた第1アンテナ素子部と、この第1アンテナ素子部の先端で折り返され、前記第1アンテナ素子部とは逆方向に延びて、前記ガラスの縁に設けられた接地点に接続される第2アンテナ素子部と、少なくとも、前記第1アンテナ素子部の先端、又は前記第2アンテナ素子部の基部に交叉し、前記車体の開口部に沿って延びた第3アンテナ素子部と、を有することを特徴とする。
【0015】
請求項2に係る発明では、第1アンテナ素子部と第2アンテナ素子部は、受信する偏波面に合わせて延びていることを特徴とする。
【0016】
請求項3に係る発明では、第3アンテナ素子部とガラスの対向する縁との間隔を50mm以下とすることを特徴とする。
【0017】
請求項4に係る発明では、第1アンテナ素子部、及び第2アンテナ素子部の素子長に対する第3アンテナ素子部の素子長の比率を1.0以下とすることを特徴とする。
【0018】
請求項5に係る発明では、第1アンテナ素子部及び第2アンテナ素子部に交叉して延びる第3アンテナ素子部において、第2アンテナ素子部から離れるようにして第1アンテナ素子部から延びる第3アンテナ素子部の一端部の途中から分岐して給電点まで延びる第1バイバスアンテナ素子と、第1アンテナ素子部から離れるようにして第2アンテナ素子部から延びる前記第3アンテナ素子部の他端部の途中から分岐して接地点まで延びる第2バイバスアンテナ素子と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に係る発明では、直線状に延びた第1アンテナ素子部と、逆方向に延びて、ガラスの縁に設けられた接地点に接続される第2アンテナ素子部からなるガラスアンテナに、少なくとも、第1アンテナ素子部の先端又は第2アンテナ素子部の基部に交叉し、車体の開口部に沿って延びた第3アンテナ素子部を設けた。
【0020】
第3アンテナ素子部で第1第2アンテナ素子部を延長したので、見掛け上のアンテナ素子長を長くすることができる。見掛け上のアンテナ素子長を延ばすことができるため、開口面積が狭いガラスであっても所望の周波数で共振させることができる。
また、ガラスに取り付ける接地点が1個で済むため、コスト削減に寄与することができる。
【0021】
アンテナ素子長を延ばすことで、アンテナインピーダンスが通常のモノポールアンテナより高くなり、給電線の特性インピーダンスに近くなって受信性能が高まる。
このように本発明によれば、窓ガラスの開口面積が狭くてもコストアップを要することなく良好な受信性能を得ることができるガラスアンテを提供することができる。
【0022】
請求項2に係る発明では、第1アンテナ素子部と第2アンテナ素子部を、受信する偏波面に合わせて延ばすこととした。このため、水平偏波受信用、垂直偏波受信用のガラスアンテナを提供することができる。
【0023】
請求項3に係る発明では、第3アンテナ素子部とガラスの対向する縁との間隔を50mm以下とした。発明者らの評価では、第3アンテナ素子部について、間隔50mmを維持しながら縁に沿って延ばすことで、見掛け上のアンテナパターンを長く見せることができ、その結果、良好な受信性能を得ることができる。
【0024】
請求項4に係る発明では、第1アンテナ素子部及び第2アンテナ素子部の素子長に対する第3アンテナ素子部の素子長の比率を1.0以下とした。この比率でガラスアンテナを設計することにより良好な受信性能を得ることができる。
【0025】
請求項5に係る発明では、第1アンテナ素子部及び第2アンテナ素子部に交叉して延びる第3アンテナ素子部において、第2アンテナ素子部から離れるようにして第1アンテナ素子部から延びる第3アンテナ素子部の一端部の途中から分岐して給電点まで延びる第1バイバスアンテナ素子と、第1アンテナ素子部から離れるようにして第2アンテナ素子部から延びる第3アンテナ素子部の他端部の途中から分岐して接地点まで延びる第2バイバスアンテナ素子と、を設けた。この第1、第2バイパスアンテナ素子により、狭面積環境下で取り付けられるガラスアンテナにおいてもバイパスパターンの付加が可能になり、特に、低い周波数でアンナテを共振させることができるため、受信性能が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本実施例に係るガラスアンテナが取り付けられた車両の平面図である。
【図2】本実施例に係るガラスアンテナの構造を示す図である。
【図3】本実施例に係るガラスアンテナ設計思想を説明する図である。
【図4】本実施例に係るガラスアンテナのシミュレーションによる性能評価の結果を示したグラフである。
【図5】本実施例に係るガラスアンテナを構成する各素子の寸法の一例を示す図である。
【図6】本実施例に係るガラスアンテナを構成する各素子の寸法の他の例を示す図である。
【図7】図6に示すガラスアンテナの国内放送帯域における水平偏波の受信感度を示したグラフである。
【図8】図6に示すガラスアンテナの国内放送帯域における水平偏波の受信感度を比較例3例と対比して示した図である。
【図9】本実施例に係るガラスアンテナの変形例を示す図である。
【図10】図2の変形例を示す図である。
【図11】従来例のガラスアンテナの構成を示す図である。
【図12】従来例のガラスアンテナの別の構成を示す図である。
【図13】従来例のガラスアンテナの更に別の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施の形態(以下、本実施例という)を添付図に基づいて以下に説明する。
【実施例】
【0028】
本実施例に係るガラスアンテナは、例えば、車両のクォータウインドウに取り付けることができる。
図1に示すように、車両10は、車体11の左右の前ピラー12L、12R(Lは左、Rは右を示す添え字である。以下同じ)間に嵌められるフロントガラス13と、後ピラー14L、14R間に嵌められているリヤガラス15と、前ドア16L、16Rに昇降可能に取付けられている前ドアガラス17L、17Rと、後ドア18L、18Rに昇降可能に取付けられている後ドアガラス19L、19Rと、車両10に固定のクォータウインドウ20L、20Rとからなる、窓ガラスを備えている。
【0029】
以下に説明する本実施例では、ガラスアンテナ30は、クォータウインドウ20Lに取り付けられるものとして説明する。なお、ここに示すガラスアンテナ30は、主に、FM帯の電波を受信するために設計されたアンテナである。
【0030】
次に、クォータウインドウ20Lの詳細を図2に基づいて説明する。図2に示すように、クォータウィンドウ20Lは、クォータガラス21とガラスアンテナ30と、からなる。なお、ガラスアンテナ30は、クォータガラス21の縁22内に設けられている。ガラスアンテナ30は、第1アンテナ素子部31と、第2アンテナ素子部32と、アンテナ折り返し部33と、第3アンテナ素子部34、35と、により構成される。
【0031】
第1アンテナ素子部31は、クォータガラス21の縁(ボディフランジ近傍)に設けられた給電点36から対向するクォータガラスの縁22に向かって直線状に延びている。又、第2アンテナ素子部32は、第1アンテナ素子部31の先端で折り返され、第1アンテナ素子部31とは逆方向に延びて、クォータガラス21の縁22に設けられた接地点37に接続される。接地点37は、接続線38を介して導体(車体11)に接続される。
【0032】
なお、第3アンテナ素子部34、35は、第1アンテナ素子部3の先端33a、第2アンテナ素子部32の基部33bのそれぞれに交叉し、車体11の開口部に沿ってそれぞれ延びている。即ち、第3アンテナ素子34、35がクォータガラス21の縁22に沿って延びていることが本実施例のガラスアンテナ30の構造上の大きな特徴である。
【0033】
上記構成により、ガラスアンテナ30のインピーダンスが、接地型のガラスアンテナより高くなり、給電線の特性インピーダンスに近くなる。又、第3アンテナ素子34、35を、クォータガラス21の縁22に沿って延ばすことにより、見掛け上のアンテナパターンを長く見せることができるため、開口面積の小さなクォータウインドウ20L、20R等においても所望の共振周波数を持つガラスアンテナ30を設計することができる。
【0034】
以下にその根拠について説明する。まず、本実施例に係るガラスアンテナ30の設計思想から説明する。本実施例のガラスアンテナ30は、図12に開示されたガラスアンテナ120の第1素子部121(第1アンテナ素子部)と第2素子部122(第2アンテナ素子)に、第3アンテナ素子部34、35を付加することで、特許文献2に開示されたガラスアンテナ120に比較して共振周波数を低く設定することを可能にするものである。又、そのとき、第3アンテナ素子部34、35を、クォータガラス21の縁22に沿って延ばすことで、一層その効果を大きくするものである。
【0035】
発明者らはそのことを確認するため、図3(a)に示す、接地型のガラスアンテナを設計してシミュレーションを試みた。、具体的には、370mm×260mmの寸法を有する、比較的狭い開口を有するガラス上に、線長250mmの第1素子部と第2素子部とを実装し、且つ、第1素子部と第2素子部の間隔を50mmとして設計した。この設計によれば、ガラスアンテナの共振周波数は145MHzになった。
【0036】
発明者らは更に、図3(b)に示すように、図3(a)のガラスアンテナに、本実施例の第3アンテナ素子部34、35を付加し、そのアンテナ素子長bと、クォータガラス21の縁22との間隔aとを可変にして共振周波数の評価を行った。その結果、共振周波数を、図4(a)(b)に示す周波数特性グラフと、次の表にまとめた。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
表は、間隔aとアンテナ素子長bとによる共振周波数の関係を示したものであり、それぞれを変化させたときの共振周波数[MHz]が示されている。例えば、間隔aを10mmとし、アンテナ素子長を0としてときの共振周波数は145MHzであり、以降、間隔bを狭くするにつれて共振周波数が低下している。
【0040】
又、図4(a)のグラフは、アンテナ素子長bを固定(170、200、230、250、270mm)としたときの、間隔a[mm]と共振周波数[MHz]との関係を、図4(b)のグラフは、間隔aを固定(10、20、30、40、50、60mm)としたときの、アンテナ素子長b[mm]と共振周波数[MHz]との関係を示している。
【0041】
表から明らかなように、第3アンテナ素子部34、35を付加することにより、共振周波数が145MHzより低くなっていることが理解できる。又、図4(a)のグラフからわかるように、間隔aについては、間隔aが狭くなるほど共振周波数が低くなるように作用し、特に、間隔a≦50mmの範囲で大きな効果が得られることが確認できた。又、図4(b)のグラフ、ならびに表1からも明らかなように、第3アンテナ素子部34、35の素子長bについては、素子長bが長くなるほど共振周波数が低くなるように作用し、特に、素子長b≦250mmの範囲で大きな効果が得られることを確認できた。
【0042】
次に、図2に示す第1、第2アンテナ素子部31、32の素子長と、第3アンテナ素子部34、35の素子長とに着目する。そして、第1、第2アンテナ素子部31、32の素子長に対する第3アンテナ素子部34、35の素子長の比率をcとする。この比率cと共振周波数の関係を調べた。この結果を次表に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
【表4】

【0045】
表によれば、例えば、間隔aを10mmとし、第1、第2アンテナ素子部31、32の素子長に対する第3アンテナ素子部34、35の素子長の比率cを0.68とした場合に計測された共振周波数は、−41[MHz}であった。以降、比率cが大きくなるにつれ共振周波数が低下している。
【0046】
表から明らかなように、本実施例に係るガラスアンテナ30は、間隔a≦50mm、比率c≦1.0の条件で大きな効果が得られ、その効果は、第3アンテナ素子部34、35を付加する前に比較して共振周波数を約30〜50%低くすることができることを確認できた。
【0047】
次に、発明者らは、図5に示す第3アンテナ素子部34、35の素子長b1、b2による共振周波数の変化についても以下に示した条件でシミュレーションを行ない、その効果を検証した。具体的には、2本の第3アンテナ素子34、35の素子長b1、b2の合計を370mmで固定し、素子長b1とb2の長さを変化させることにより測定される共振周波数を以下の表にまとめた。
【0048】
【表5】

【0049】
表によれば、例えば、素子長b1とb2の長さを等しくした場合(共に190mm)の共振周波数は、81.9[MHz]であり、b1を165mm、b2を215mmとした場合の共振周波数は91.7[MHz]であった。表3によれば、2本の第3アンテナ素子部34、35の素子長が同じ場合の共振周波数から高くなることは無く、長さが異なる場合や、1本になった場合でもその効果を立証することができた。従って、端子位置の制約上、2本の第3アンテナ素子部34、35の素子長を異ならせる必要性が生じた場合、あるいは1本になった場合でも、共振周波数を低下させることができる。
【0050】
発明者らは更に、本実施例の設計思想に基づくアンテナパターンを設計し、電波暗室において、車両を360度水平方向に回転させながら電波を一方向から出射して、車両の全方向での受信感度の測定を試みた。このときのアンテナパターンの寸法は、図6に示した通りである。具体的に、第1アンテナ素子部31の素子長を340mm、第2アンテナ素子部32の素子長を240mm、アンテナ折り返し部33の素子長を50mm、第3アンテナ素子部24、25の各素子長を180mm、第3アンテナ素子部24、25とガラス開口部50(ボディフランジ)との間隔を20mmとした。
【0051】
そのときの受信感度特性が図7にグラフで示されている。図7のグラフから明らかなように、本実施例に係るガラスアンテナ30によれば、受信感度のピークをFM帯域内(76MHz〜108MHz)に持たせていることがわかる。尚、ここでは、水平偏波の受信感度が例示されている。
【0052】
図8(a)は、モノポール型アンテナパターンを設計し、電波暗室において、車両を360度水平方向に回転させながら電波を一方向から出射して、車両の全方向での受信感度の測定を試みた。このときの受信感度を「比較例1」として示した。また、図2のガラスアンテナ30の受信感度を「実施例」として示した。
【0053】
このグラフから明らかなように、モノポール型アンテナパターンでは、有効な受信感度が得られないことが判明した。これは、インピーダンス整合がとれないことに起因する。
【0054】
図8(b)は、接地型のアンテナパターンを設計し、電波暗室において、車両を360度水平方向に回転させながら電波を一方向から出射して、車両の全方向での受信感度の測定を試みた。このときの受信感度を「比較例2」として示した。また、図2のガラスアンテナ30の受信感度を「実施例」として示した。
【0055】
このグラフから明らかなように、接地型アンテナパターンでは、開口面積が狭い場合FM帯域では十分な受信感度が得られない。この接地型アンテンパターンによれば、インピーダンスを給電線のインピーダンスにすることで受信感度の向上を図っているが、見掛け上のアンテナパターンが短いため、感度のピークをFM帯域に持たせることができない。
【0056】
図8(c)は、接地型のアンテナパターンに、更にバイパスパターンを付加して受信感度の向上を図ったパターンを設計し、同じく、電波暗室において、車両を360度水平方向に回転させながら電波を一方向から出射して、車両の全方向での受信感度の測定を試みた。このときの受信感度を「比較例3」として示した。また、図2のガラスアンテナ30の受信感度を「実施例」として示した。
【0057】
このグラフから明らかなように、バイバスパターンを付加した接地型アンテナパターンでも、開口面積が狭い場合FM帯域では十分な受信感度が得られない。この接地型アンテンパターンによれば、インピーダンスを給電線のインピーダンスにすることや見掛け上のアンテナパターンを広くすることで受信感度の向上を図っているが、見掛け上のアンテナパターンが短いため、感度のピークをFM帯域に持たせることができない。
【0058】
これに対し、本実施例に係るガラスアンテナ30によれば、見掛け上のアンテナ素子長を長く見せることで、開口面積が狭いガラス面においても所望の周波数で共振させることができ、その結果、図8(a)(b)(c)のそれぞれに示されているように、受信感度のピークをFM帯域内(76MHz〜108MHz)に持たせることができる。又、アンテナインピーダンスが通常のモノポールアンテナより高くなり、給電線の特性インピーダンスに近くなって受信性能に優れたガラスアンテナを提供することができる。
【0059】
図9は本実施例に係るガラスアンテナ30の変形例を示す図である。図2に示す実施例との差異は、第3アンテナ素子部34に第1バイパスアンテナ素子39aを、第3アンテナ素子部35に第2バイパスアンテナ素子39bを付加したことにある。バイパスアンテナ素子39aは、第2アンテナ素子部32から離れるようにして第1アンテナ素子部31から延びる第3アンテナ素子部34の一端部の途中から分岐して給電点31まで延びている。第2バイバスアンテナ素子39bは、第1アンテナ素子部31から離れるようにして第2アンテナ素子部32から延びる第3アンテナ素子部35の他端部の途中から分岐して接地点37まで延びている。
【0060】
上述した変形例によれば、第3アンテナ素子34、35により、見掛け上のアンテナ長を長く見せる他に、第1、第2バイパスアンテナ素子39a、39bにより、見掛け上のアンテパターンを広くすることができ、このため、開口面積が狭い場合でも受信感度の一層の向上が図れる。
【0061】
図10は、図2の変形例を示す図であり、図2と共通する番号は、符号を流用して説明を省略する。図2との差異は、第1アンテナ素子部31と第2アンテナ素子部32の延びる方向を、水平方向から垂直方向に変更したことにある。
すなわち、第1アンテナ素子部31と第2アンナテ素子32は、受信する偏波面に合わせて延ばすことが好ましい。具体的に、水平偏波受信の場合は、図2に示すように水平方向に延ばし、垂直偏波受信の場合は、図10に示すように垂直方向に延ばした。このことにより、良好な受信性能が得られる。
【0062】
上述したように、本実施例では、直線状に延びた第1アンテナ素子部31と、その逆方向に延びて、ガラスの縁に設けられた接地点37に接続される第2アンテナ素子部32とにより構成されるガラスアンテナ30に、第1アンテナ素子部31の先端、及び第2アンテナ素子部32の基部に交叉し、車体11の開口部(クォータガラス21の縁22)に沿ってそれぞれ延びた第3アンテナ素子部34、35を付加してある。このため、余分な端子や給電線を付加することなく、見掛け上のアンテナ素子長を長く見せることができ、開口面積が狭いガラス面においても所望の周波数で共振させることができる。又、アンテナインピーダンスが通常のモノポールアンテナより高くなり、給電線の特性インピーダンスに近くなって受信性能に優れたガラスアンテナを提供することができる。
【0063】
又、本実施例によれば、第1アンテナ素子部31と第2アンテナ素子部32を、受信する偏波面に合わせて延ばしている。このため、H偏波受信用、V偏波受信用のガラスアンテナを提供することができる。又、本実施例によれば、第3アンテナ素子部34、35について、ガラスの対向する縁との間隔50mmを維持しながらクォータガラス21の縁22に沿って延ばすことで、見掛け上のアンテナパターンを長く見せることができ、良好な受信性能が得られる。更に、第1アンテナ素子部31及び第2アンテナ素子部32の素子長に対する第3アンテナ素子部34、35の素子長の比率を1.0以下とすることで、良好な受信性能が得られる。
【0064】
又、本実施例によれば、第3アンテナ素子部34、35に、それぞれ、第1、第2バイバスアンテナ素子39a、39bを付加することで、狭面積環境下で取り付けられるガラスアンテナ30においてもバイパスパターンの付加が可能になり、受信性能を向上させることができる。
【0065】
なお、本実施例において、第3アンテナ素子部34、35は、直線状である必要は無く、クォータガラス21の縁22に沿って延びていれば曲線状でも同様の効果が得られる。これにより、オペラウインドウや、三角窓等にも適用が可能になる。又、第3アンテナ素子34、35を、クォータガラス21の縁22に沿わせて延ばすことで、クォータガラス21中央に空きスペースが生まれ、その空きスペースに、例えば、地上波デジタルTV受信機用等、他のメディアのアンテナを同時に配置して統合アンテナとしての利用も考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のガラスアンテナは、クォータウインドウに限らず、オペラウインドウや三角窓等、比較的狭面積が要求される車両の側部窓ガラスに適用して顕著な効果が得られる。
【符号の説明】
【0067】
10…車両、11…車体、20L…クォータウインドウ、21…クォータガラス、22…縁、30…ガラスアンテナ、31…第1アンテナ素子部、32…第2アンテナ素子部、33…アンテナ折り返し部、34、35…第3アンテナ素子部、36…給電点、37…接地点、38…接続線、39a…第1バイパスアンテナ素子、39b…第2バイパスアンテナ素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の開口部に取り付けられるガラスと、このガラスに設置されるアンテナ素子とからなるガラスアンテナであって、
前記ガラスの縁に設けられた給電点から対向する縁に向かって直線状に延びた第1アンテナ素子部と、
この第1アンテナ素子部の先端で折り返され、前記第1アンテナ素子部とは逆方向に延びて、前記ガラスの縁に設けられた接地点に接続される第2アンテナ素子部と、
少なくとも、前記第1アンテナ素子部の先端、又は前記第2アンテナ素子部の基部に交叉し、前記車体の開口部に沿って延びた第3アンテナ素子部と、
を有することを特徴とするガラスアンテナ。
【請求項2】
前記第1アンテナ素子部と前記第2アンテナ素子部は、受信する偏波面に合わせて延びていることを特徴とする請求項1記載のガラスアンテナ。
【請求項3】
前記第3アンテナ素子部と前記ガラスの対向する縁との間隔を50mm以下とすることを特徴とする請求項1記載のガラスアンテナ。
【請求項4】
前記第1アンテナ素子部、及び前記第2アンテナ素子部の素子長に対する前記第3アンテナ素子部の素子長の比率を1.0以下とすることを特徴とする請求項1又は2記載のガラスアンテナ。
【請求項5】
前記第1アンテナ素子部及び前記第2アンテナ素子部に交叉して延びる前記第3アンテナ素子部において、
前記第2アンテナ素子部から離れるようにして前記第1アンテナ素子部から延びる前記第3アンテナ素子部の一端部の途中から分岐して前記給電点まで延びる第1バイバスアンテナ素子と、
前記第1アンテナ素子部から離れるようにして前記第2アンテナ素子部から延びる前記第3アンテナ素子部の他端部の途中から分岐して前記接地点まで延びる第2バイバスアンテナ素子と、を有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項記載のガラスアンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−211649(P2011−211649A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−79657(P2010−79657)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】