説明

ガラスハードディスク基板の製造方法

【課題】循環耐久性に優れ、高研磨速度と低表面粗さを両立できる、ガラスハードディスク基板の製造方法の提供。
【解決手段】研磨材、酸、ベンゼン環上に互いに隣接する2個以上の水酸基を有する多価ヒドロキシベンゼン化合物、及び水を含有し、pH1.0〜4.0である研磨液組成物を用いて被研磨ガラス基板を研磨する工程を含む、ガラスハードディスク基板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスハードディスク基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メモリーハードディスクドライブに搭載されるハードディスクは高速で回転するため消費電力が高く、近年では環境への配慮からも大きな問題になっており、低消費電力化が求められている。消費電力を低減するためには、ハードディスク1枚あたりの記録容量を増大させ、ドライブに搭載されるハードディスクの枚数を減らし、軽量化する方法がある。基板1枚の重量を軽量化するためには、基板の厚さを薄くする必要があり、この観点から、アルミ基板に比べて機械的強度が高いガラス基板の需要が高まり、近年の伸張は著しい。また、基板1枚あたりの記録容量を向上させるためには、単位記録面積を縮小する必要がある。しかし、記録面積を縮小すると磁気信号が弱くなる問題が発生する。そこで磁気信号の検出感度を向上するため、磁気ヘッドの浮上高さをより低くするための技術開発が進められている。ガラスハードディスク基板の研磨においては、この磁気ヘッドの低浮上化に対応するため、表面粗さや残留物の低減に対する要求が厳しくなっている。
【0003】
このような要求に対し、酸性(pH0.5〜6)のガラス基板用研磨液組成物や、一次粒子の平均粒径が5〜50nmであるシリカと重量平均分子量が1,000〜5,000であるアクリル酸/スルホン酸共重合体とを含有する、pHが0.5〜5のガラス基板用研磨液組成物が提案されている(例えば、特許文献1及び2)。
【0004】
また、酸性研磨液による研磨工程後のアルカリ洗浄工程におけるアルカリエッチングによる表面粗さの悪化を抑制するため、研磨液の電解質濃度を上げる添加剤を含有する弱酸性(pH4〜6)の研磨液でガラス基板を研磨する方法が提案されている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−138197号公報
【特許文献2】特開2007−191696号公報
【特許文献3】特開2009−087439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
磁気ディスクドライブの大容量化に伴い、基板の表面品質に対する要求特性はさらに厳しくなっており、高い生産性を維持したまま、研磨後の基板の表面粗さをさらに低減できるガラス基板の製造方法の開発が求められている。
【0007】
また、従来から提案されている方法では、研磨液を循環使用(リサイクル)するガラスハードディスク基板の研磨において、研磨液の循環耐久性が低いため、循環研磨できる回数が少なく、生産性に課題がある。
【0008】
そこで、本発明は、研磨液組成物を用いたガラスハードディスク基板の研磨において、研磨液の循環耐久性に優れ、高い研磨速度と低い表面粗さとを両立でき、高い生産性を実現できる、ガラスハードディスク基板の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、一態様において、研磨材、酸、ベンゼン環上に互いに隣接する2個以上の水酸基を有する多価ヒドロキシベンゼン化合物、及び水を含有し、pH1.0〜4.0である研磨液組成物を用いて被研磨ガラス基板を研磨する工程を含む、ガラスハードディスク基板の製造方法に関する。
【0010】
また、本発明は、その他の態様において、被研磨ガラス基板の研磨対象面に研磨液組成物を供給し、前記研磨対象面に研磨パッドを接触させ、前記研磨パッド及び/又は前記被研磨基板を動かして研磨することを含むガラス基板の研磨方法であって、前記研磨液組成物が、研磨材、酸、ベンゼン環上に互いに隣接する2個以上の水酸基を有する多価ヒドロキシベンゼン化合物、及び水を含有し、pH1.0〜4.0である、ガラス基板の研磨方法に関する。
【0011】
さらに、本発明は、その他の態様において、研磨材、酸、ベンゼン環上に互いに隣接する2個以上の水酸基を有する多価ヒドロキシベンゼン化合物、及び水を含有し、pH1.0〜4.0である、ガラスハードディスク基板用研磨液組成物に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の基板製造方法によれば、ガラス基板の研磨工程において、高い研磨速度と、ガラス基板の低い表面粗さとを両立することができ、それにより基板品質が向上したガラスハードディスク基板を生産性よく製造できるという効果が奏される。
【0013】
また、本発明の基板製造方法によれば、ガラス基板の研磨工程において、研磨液を循環使用しても、研磨速度の低下やパーティクルの増加が抑制され、ガラスハードディスク基板を生産性よく製造できるという効果が奏される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、酸性の研磨液組成物に特定構造の多価ヒドロキシベンゼン化合物を配合することにより、高い研磨速度を維持しつつ、研磨後のガラス基板の表面粗さを低減できるという知見に基づく。
【0015】
すなわち、本発明は、研磨液組成物を用いて被研磨ガラス基板を研磨する工程(以下、単に「ガラス基板研磨工程(1)」ともいう)を含むガラスハードディスク基板の製造方法であって、前記研磨液組成物が、研磨材、酸、ベンゼン環上に互いに隣接する2個以上の水酸基を有する多価ヒドロキシベンゼン化合物、及び水を含有し、pH1.0〜4.0であるガラスハードディスク基板の製造方法(以下、「本発明の基板製造方法」ともいう。)に関する。
【0016】
本発明の基板製造方法によれば、ガラス基板研磨工程(1)において、高い研磨速度と、ガラス基板の低い表面粗さとを両立することができ、好ましくは、ガラス基板研磨工程(1)において循環研磨を行っても研磨速度の低下やパーティクルの増加が抑制され得る。
【0017】
本発明の基板製造方法により、高い研磨速度を維持しながら、ガラス基板の表面粗さを低減できる理由は、以下のように推定される。ガラス基板にはアルカリ金属イオンが添加されており、酸性の研磨液を用いた研磨工程においては、溶液中のH+とガラス基板中のアルカリ金属イオンがイオン交換され、ガラス基板外部にアルカリ金属イオンが排出されることにより、ガラス基板に脆弱な表面層(いわゆるリーチング層)が形成される。このリーチング層は主に、ガラス基板中に含まれるアルカリ金属イオンや金属酸化物(Al23、ZrO2等)が、酸によって除去されたSiO2層であり、特定構造の多価ヒドロキシベンゼン化合物はこのSiO2層のSi部位にキレートしてエッチングすると考えられる。すなわち、特定構造の多価ヒドロキシベンゼン化合物を含有する研磨液組成物によりガラス基板を研磨すると、リーチング層をエッチングしながら研磨が進行する。このため、該多価ヒドロキシベンゼン化合物が存在しない場合に比べて、研磨工程において研磨速度を維持でき、かつ、研磨工程後の表面粗さを低減することが可能となると推定される。但し、本発明は、これらの推定に限定して解釈されない。
【0018】
一般に、ガラスハードディスク基板は、例えば、溶融ガラスの型枠プレス又はシートガラスから切り出す方法によってガラス基材を得る工程から、形状加工工程、端面研磨工程、粗研削工程、精研削工程、粗研磨工程、仕上げ研磨工程、最終仕上げ研磨工程、化学強化工程を経て製造される。化学強化工程は仕上げ研磨工程の前に施してもよい。また各工程の間には洗浄工程が含まれることがある。そして、ガラスハードディスク基板は、記録部形成工程を経ることで磁気ハードディスクとなる。
【0019】
本発明の基板製造方法は、一実施形態において、ガラス基板研磨工程(1)が、前記仕上げ研磨工程に該当することが好ましく、前記最終仕上げ研磨工程で使用されることがより好ましい。
【0020】
[ガラス基板]
本発明の基板製造方法において、ガラス基板研磨工程(1)における研磨対象である被研磨ガラス基板としては、アルミノ珪酸ガラス基板、ホウ珪酸ガラス基板、アルミノホウ珪酸ガラス基板、石英ガラス基板、結晶化ガラス基板等が挙げられる。本発明の効果をより効果的に発現する観点、ガラス基板の強度向上及び研磨速度向上の観点から、前記被研磨ガラス基板としては、アルミノ珪酸ガラス基板が好ましい。
【0021】
アルミノ珪酸ガラス基板は、その構成元素としてO(酸素)以外ではSi(ケイ素)を最も多く含み、次いでAlを多く含む。通常、Siの含有量は20〜40重量%であり、Alの含有量は3〜25重量%で、他にもNaなどを含むことがある。研磨速度の向上及び基板の透明性維持の観点から、アルミノ珪酸ガラス基板中のAlの含有量は、5〜20重量%がより好ましく、7〜15重量%がさらに好ましい。また、同様の観点から、Naの含有量は、1〜20重量%が好ましく、1〜15重量%がより好ましく、2〜10重量%がさらに好ましい。なお、アルミノ珪酸ガラス基板中に含まれるAlやNaの含有量は、実施例に記載の方法によって求めることができる。
【0022】
[研磨液組成物]
ガラス基板研磨工程(1)において使用される研磨液組成物(以下、「本発明の研磨液組成物」ともいう)は、研磨材、酸、ベンゼン環上に互いに隣接する2個以上の水酸基を有する多価ヒドロキシベンゼン化合物、及び水を含有し、pH1.0〜4.0である。本発明は、一態様において、前記研磨液組成物に関する。
【0023】
[研磨材]
本発明の研磨液組成物は研磨材を含有する。前記研磨材としては、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、表面を酸化アルミニウムで改質したアルミ改質コロイダルシリカのような表面修飾したシリカ、アルミナ、酸化セリウム(セリア)等が挙げられる。これらの中でも、基板の表面粗さ低減の観点から、コロイダルシリカが好ましい。また、基板の表面粗さ低減の観点、研磨速度を向上させる観点から、表面修飾したシリカが好ましく、表面を酸化アルミニウムで改質したアルミ改質コロイダルシリカがより好ましい。なお、シリカの使用形態としては、スラリー状であることが好ましい。
【0024】
コロイダルシリカは、珪酸ナトリウム等の珪酸アルカリ金属塩を原料とし、水溶液中で縮合反応させて粒子を成長させる水ガラス法で得られうる。あるいは、コロイダルシリカ粒子は、テトラエトキシシラン等のアルコキシシランを原料とし、アルコール等の水溶性有機溶媒を含有する水中で縮合反応させて成長させるアルコキシシラン法で得られうる。また、ヒュームドシリカは、四塩化珪素等の揮発性珪素化合物を原料とし、酸素水素バーナーによる1000℃以上の高温下で加水分解させて成長させる気相法で得られうる。
【0025】
表面修飾したシリカとしては、例えばアルミ改質コロイダルシリカが挙げられる。アルミ改質コロイダルシリカは、アルミン酸塩水溶液を添加したコロイダルシリカを60〜100℃に一定時間維持することにより得られうる。アルミ改質コロイダルシリカは、コロイダルシリカ表面に負電荷を付与するアルミノシリケートサイトを形成しているため、酸性領域における安定性に優れる。
【0026】
研磨材の一次粒子の平均粒子径は、研磨速度の向上及び表面粗さ低減の観点から、5〜200nmが好ましく、より好ましくは7〜100nm、さらに好ましくは9〜80nm、さらにより好ましくは10〜50nmである。なお、研磨材の一次粒子の平均粒子径は、実施例に記載の方法により求めることができる。
【0027】
研磨液組成物中の研磨材の含有量は、研磨速度の向上及び表面粗さ低減の観点から、好ましくは1〜20重量%、より好ましくは2〜19重量%、さらに好ましくは3〜18重量%、さらにより好ましくは4〜16重量%である。
【0028】
[多価ヒドロキシベンゼン化合物]
本発明の研磨液組成物は、ベンゼン環上に、互いに隣接する2個以上の水酸基を有する多価ヒドロキシベンゼン化合物を含有する。「互いに隣接する2個の水酸基」とは、例えば、ベンゼン環上のオルト位のヒドロキシ基をいう。多価ヒドロキシベンゼン化合物の隣接水酸基は、酸性研磨により生成したリーチング層中のSi部位をキレートして、リーチング層を優先的にエッチングし、研磨速度の向上と表面粗さの低減とを両立させていると考えられる。
【0029】
多価ヒドロキシベンゼン化合物は、化合物のキレート作用を向上させ、高い研磨速度を維持しつつ、ガラス基板の表面粗さを低減する観点及び循環研磨における研磨液の耐久性向上の観点から、ベンゼン環上に、互いに隣接する2〜4個の水酸基を有するのが好ましく、2〜3個有するのがより好ましく、2個有するのがさらに好ましい。また、同様の観点から、水酸基をもたない炭素上には電子吸引性の置換基を有するのが好ましく、ハロゲン置換基を有することがより好ましい。
【0030】
また、化合物のキレート作用を向上させ、高い研磨速度と低い表面粗さを両立する観点及び循環研磨における研磨液の耐久性向上の観点から、多価ヒドロキシベンゼン化合物の分子量は、110〜500であることが好ましく、110〜400がより好ましく、120〜300がさらに好ましい。なお、本発明の研磨液組成物に含有される多価ヒドロキシベンゼン化合物は、一種類であってもよく、二種類以上であってもよい。
【0031】
多価ヒドロキシベンゼン化合物の具体例としては、ピロカテコール、3−メトキシカテコール、3−フルオロカテコール、4−メチルカテコール、4−エチルカテコール、4−ニトロカテコール、4−ニトロカテコール硫酸二カリウム二水和物、3,4−ジヒドロキシベンゾニトリル、4−tert−ブチルカテコール、4−(4−ニトロフェニルアゾ)カテコール、3,5−ジ−tert−ブチルカテコール、3,5−ジニトロカテコール、4,5−ジブロモベンゼン−1,2−ジオール、3−tert−ブチル−5−メトキシカテコール、4−tert−ブチル−5−メトキシカテコール、テトラブロモカテコール、ピロカテコールバイオレット、タイロン、ピロガロール、5−tert−ブチルピロガロール、ピロガロール−4−カルボン酸、4,6−ジニトロピロガロール、ピロガロールレッド、ブロモピロガロールレッド、没食子酸、タンニン酸及びそれらの塩が挙げられる。これらの中でも、高い研磨速度と低い表面粗さを両立する観点及び循環研磨における研磨液の耐久性向上の観点から、3−フルオロカテコール、4−ニトロカテコール、3,4−ジヒドロキシベンゾニトリル、4,6−ジニトロピロガロール、3,5−ジニトロカテコール、4,5−ジブロモベンゼン−1,2−ジオール、テトラブロモカテコール、ピロカテコール及びそれらの塩から選択される一種以上であることが好ましく、3−フルオロカテコール、4−ニトロカテコール、3,4−ジヒドロキシベンゾニトリル、4,6−ジニトロピロガロール、3,5−ジニトロカテコール、4,5−ジブロモベンゼン−1,2−ジオール、ピロカテコール及びそれらの塩から選択される一種以上がより好ましく、4,6−ジニトロピロガロール、3,5−ジニトロカテコール、4,5−ジブロモベンゼン−1,2−ジオール、ピロカテコール及びそれらの塩から選択される一種以上がさらに好ましく、3,5−ジニトロカテコール、4,5−ジブロモベンゼン−1,2−ジオール及びそれらの塩から選択される一種以上がさらにより好ましい。
【0032】
本発明の研磨液組成物中における多価ヒドロキシベンゼン化合物の含有量は、表面粗さの低減及び循環研磨における研磨液の耐久性向上の観点から、0.01重量%以上が好ましく、0.05重量%以上がより好ましく、0.1重量%以上がさらに好ましい。また研磨速度向上の観点から、5重量%以下が好ましく、4重量%以下がより好ましく、3重量%以下がさらに好ましい。すなわち、研磨液組成物中における多価ヒドロキシベンゼン化合物の含有量は、0.01〜5重量%が好ましく、0.05〜4重量%がより好ましく、0.1〜3重量%がさらに好ましい。
【0033】
[酸]
本発明の研磨液組成物は、研磨速度向上の観点から、酸を含有する。前記酸は塩の形態であってもよい。前記酸の具体例としては、硝酸、硫酸、亜硫酸、過硫酸、塩酸、過塩素酸、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、アミド硫酸等の無機酸、メタンジスルホン酸、エタンジスルホン酸、フェノールジスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸等の含硫黄有機酸、2−アミノエチルホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン−1,1,−ジホスホン酸、エタン−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1,1−ジホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1,2−ジカルボキシ−1,2−ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2−ジカルボン酸、1−ホスホノブタン−2,3,4−トリカルボン酸、α−メチルホスホノコハク酸等の含リン有機酸、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、イソクエン酸、フタル酸、ニトロトリ酢酸、ニトロ酢酸、エチレンジアミンテトラ酢酸、オキサロ酢酸等の多価カルボン酸、グルタミン酸、ピコリン酸、アスパラギン酸等のアミノカルボン酸等が挙げられる。これらの中でも、基板製造における排水による水質汚染の基準であるCOD値低減の観点、循環研磨における研磨速度の低下、表面粗さの悪化及びパーティクル増加の抑制の観点から、無機酸、含硫黄有機酸、多価カルボン酸及び含リン有機酸が好ましく、リン酸、硫酸、多価カルボン酸、含リン有機酸がより好ましく、さらに好ましくは多価カルボン酸であり、さらにより好ましくはコハク酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸であり、さらにより好ましくはクエン酸である。これらの酸は単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。
【0034】
酸の塩を用いる場合は、特に限定はなく、具体的には、金属、アンモニウム、アルキルアンモニウム等との塩が挙げられる。上記金属の具体例としては、周期律表(長周期型)1A、1B、2A、2B、3A、3B、4A、6A、7A又は8族に属する金属が挙げられる。これらの中でも、研磨速度向上、粗さ低減の観点から、1A族に属する金属又はアンモニウムとの塩が好ましい。
【0035】
研磨液組成物中における酸の含有量は、研磨速度向上の観点及び循環研磨における研磨液の耐久性向上の観点から、0.05重量%以上が好ましく、より好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは0.15重量%以上である。また、前記酸の含有量は、研磨装置の腐食を抑制する観点から、10重量%以下が好ましく、より好ましくは7.5重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下である。したがって、前記酸の含有量は、0.05〜10重量%が好ましく、より好ましくは0.1〜7.5重量%、さらに好ましくは0.15〜5重量%である。
【0036】
[水]
本発明の研磨液組成物中の水は、媒体として使用されるものであり、蒸留水、イオン交換水、純水及び超純水等が使用され得る。本発明の研磨液組成物中の水の含有量は、研磨液組成物の取扱いを容易にする観点から、55重量%以上が好ましく、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上、さらにより好ましくは85重量%以上である。また、前記水の含有量は、研磨速度向上の観点から、99重量%以下が好ましく、より好ましくは98重量%以下、さらに好ましくは97重量%以下である。したがって、前記媒体の含有量は、55〜99重量%が好ましく、より好ましくは70〜98重量%、さらに好ましくは80〜97重量%、さらにより好ましくは85〜97重量%である。
【0037】
[スルホン酸基を有する水溶性高分子]
本発明の研磨液組成物は、研磨工程後の表面粗さ低減の観点から、さらに、スルホン酸基を有する水溶性高分子(以下、単に「水溶性高分子」ということがある)を含有することが好ましい。ここで「水溶性」とは、20℃の水100gに対する溶解度が2g以上であることをいう。スルホン酸基を有する水溶性高分子としては、スルホン酸基を有する単量体由来の構成単位を少なくとも1種以上有する(共)重合体が好ましい。スルホン酸基を有する単量体としては、例えば、イソプレンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、メタリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、イソアミレンスルホン酸等が挙げられる。中でも、表面粗さ低減の観点から、イソプレンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸が好ましく、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸がより好ましい。高分子には、スルホン酸基を有する単量体由来の構成単位は、2種類以上含まれてもよい。また、前記水溶性高分子は、これ以外の構成単位成分を含有することができる。
【0038】
前記水溶性高分子としては、ガラス基板の表面粗さ低減の観点から、イソプレンスルホン酸と(メタ)アクリル酸との共重合体、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸と(メタ)アクリル酸との共重合体、イソプレンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリル酸との共重合体が好ましく、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸と(メタ)アクリル酸との共重合体がより好ましい。
【0039】
前記水溶性高分子の全構成単位中に占めるスルホン酸基含有単量体由来の構成単位の含有率は、ガラス基板の表面粗さ低減、研磨速度の向上及び共重合体の保存安定性向上の観点から、5〜100モル%が好ましく、より好ましくは5〜50モル%、さらに好ましくは5〜40モル%、さらにより好ましくは5〜30モル%、さらにより好ましくは5〜25モル%である。
【0040】
前記水溶性高分子の重量平均分子量は、ガラス基板の表面粗さ低減、研磨速度の向上及び共重合体の保存安定性向上の観点から、500〜20000が好ましく、500〜10000がより好ましく、500〜5000がさらに好ましく、500〜3000がさらにより好ましく、1000〜2500がよりいっそう好ましい。この重量平均分子量の測定は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定した結果を、ポリアクリル酸を標準サンプルとして作成した検量線を用いて換算して行うことができる。GPC条件を以下に示す。
【0041】
GPC条件
カラム:G4000PWXL(東ソー社製)−G2500PWXL(東ソー社製)
溶離液:0.2Mリン酸バッファー/アセトニトリル−9/1(容量比)
流速:1.0mL/min
温度:40℃
検出:210nm
サンプル:濃度5mg/mL(注入量100μL)
標準物質:ポリアクリル酸(分子量:11.5万、2.8万、4100、1250、創和科学社製)
【0042】
研磨液組成物中のスルホン酸基を有する水溶性高分子は、一種類でも良く、二種類以上でも良い。また、水溶性高分子のスルホン酸基は、酸の形態でも、塩の形態でも良い。塩の形態の場合、アルカリ金属、アルカリ土類金属、有機カチオンとの塩が例示される。前記有機カチオンとしては、アンモニウムイオン、アルキルアンモニウムイオン等が挙げられる。これらの中でも、水への溶解性の観点から周期律表(長周期型)1A族に属する金属又はアンモニウムとの塩が好ましい。
【0043】
研磨液組成物中における前記水溶性高分子の含有量は、ガラス基板の表面粗さ低減及び研磨速度向上の観点から、0.0001〜10重量%が好ましく、より好ましくは0.001〜5重量%、さらに好ましくは0.005〜1重量%である。
【0044】
[研磨液組成物のpH]
本発明の研磨液組成物のpHは、前記多価ヒドロキシベンゼン化合物、前記酸、又はpH調整剤の含有量により適宜調整することができる。研磨液組成物のpHは、ガラス基板の表面粗さ低減、研磨機の腐食防止及び作業者の安全性向上の観点から、1.0以上であり、好ましくは1.5以上、より好ましくは2.0以上である。また、研磨速度向上の観点から、4.0以下であり、好ましくは3.5以下、より好ましくは3.0以下である。したがって、研磨液組成物のpHは、1.0〜4.0であり、好ましくは1.5〜4.0であり、より好ましくは2.0〜3.5、さらに好ましくは2.0〜3.0である。研磨液組成物のpHは、前記成分の混合後、所定のpHに調整してもよいし、混合前にそれぞれ調整していてもよい。
【0045】
[その他の成分]
本発明の研磨液組成物は、さらに、殺菌剤、抗菌剤、増粘剤、分散剤、防錆剤等を含んでもよい。これらの成分の研磨液組成物中の含有量は、研磨特性の観点から、5重量%以下が好ましく、より好ましくは3重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下である。
【0046】
[研磨液組成物の調製方法]
本発明の研磨液組成物は、各成分を公知の方法で混合することにより、調製することができる。研磨液組成物は、経済性の観点から、通常、濃縮液として製造され、これを使用時に希釈する場合が多い。前記研磨液組成物は、そのまま使用してもよいし、濃縮液であれば希釈して使用すればよい。
【0047】
[ガラス基板研磨工程(1)]
ガラス基板研磨工程(1)は、本発明の研磨液組成物を用いて被研磨ガラス基板を研磨することを含む。本発明は、一態様において、ガラス基板研磨工程(1)を含むガラス基板の研磨方法に関する。
【0048】
ガラス基板研磨工程(1)は、本発明の研磨液組成物を研磨パッドと被研磨基板の間に存在させ、所定の研磨荷重で研磨する工程を含むことが好ましい。具体的には、ガラス基板研磨工程(1)は、被研磨ガラス基板の研磨対象面に研磨液組成物を供給し、前記研磨対象面に研磨パッドを接触させ、前記研磨パッド及び/又は前記被研磨基板を動かして研磨することを含む。なお、ガラス基板研磨工程(1)における被研磨基板は、前記精研削工程を経た後又は直後のガラス基板でありことが好ましく、例えば、セリア砥粒を含む研磨液組成物を用いた前記粗研磨工程後のガラス基板であることが好ましい。また、ガラス基板研磨工程(1)は、生産性の向上の点から、前記研磨液組成物を循環使用して前記被研磨ガラス基板を研磨することを含むことが好ましい。
【0049】
[研磨液組成物の循環使用]
本明細書において研磨液組成物の循環使用とは、ガラス基板の研磨において、研磨に使用した研磨液を再度研磨機に投入し、研磨機内で循環させて再利用する手法である。研磨後の廃液を全量回収してから研磨機に再投入してもよいし、廃液を回収タンクに戻しながら連続的に研磨機に再投入してもよい。例えば、アルミノ珪酸ガラス基板を酸性の研磨液を用いて研磨する際、基板に含有されるアルカリ金属イオンが溶出することがある。アルカリイオンが溶出すると、それとともに研磨液のpHが上昇し、長時間の研磨では、研磨初期に比べて、研磨速度の低下、表面粗さの悪化及びパーティクルの増加が起こる。その際、前述の酸、好ましくは多価カルボン酸と多価ヒドロキシベンゼン化合物とを併用すると、研磨速度の低下や表面粗さの悪化及びパーティクルの増加が抑制され、循環研磨における耐久性を向上できると考えられる。
【0050】
本発明の研磨液組成物を研磨機内で循環使用する際、その再利用回数は特に制限されないが、研磨液組成物は、ガラス基板を好ましくは5〜15回、より好ましくは10〜20回、さらに好ましくは15〜30回研磨する場合の使用に適している。
【0051】
[研磨装置]
ガラス基板研磨工程(1)に用いられる研磨装置としては、特に制限はなく、被研磨ガラス基板を保持する、アラミド製やガラスエポキシ製等の冶具(「キャリア」ともいう。)と研磨布(「研磨パッド」ともいう。)とを備える片面又は両面研磨装置を用いることができる。中でも、両面研磨装置が好適に用いられる。
【0052】
研磨パッドの材質としては、有機高分子等が挙げられ、前記有機高分子としては、ポリウレタン等が挙げられる。前記研磨パッドの形状は、不織布状が好ましい。例えば、粗研磨工程ではスウェード調のウレタン製硬質パッド、仕上げ研磨工程及び最終仕上げ研磨工程ではスウェード調のウレタン製軟質パッドが好適に用いられる。
【0053】
該研磨装置を用いる研磨の具体例としては、被研磨ガラス基板をキャリアで保持し研磨パッドを貼り付けた1対の研磨定盤で挟み込み、研磨液組成物を研磨パッドと被研磨ガラス基板との間に供給し、所定の圧力の下で研磨定盤及び/又は被研磨ガラス基板を動かすことにより、研磨液組成物を被研磨基板に接触させながら被研磨基板を研磨する方法が挙げられる。
【0054】
ガラス基板研磨工程(1)における研磨液組成物の供給方法は、予め研磨液組成物の構成成分が十分に混合された状態で研磨パッドとガラス基板の間にポンプ等で供給する方法、研磨の直前の供給ライン内等で構成成分を混合して供給する方法、コロイダルシリカスラリーと多価ヒドロキシベンゼン化合物を含有する水溶液とを別々に研磨装置に供給する方法等を用いることができる。
【0055】
ガラス基板研磨工程(1)における研磨液組成物の供給速度は、コスト低減の観点から、被研磨ガラス基板1cm2あたり1.0mL/分以下が好ましく、より好ましくは0.6mL/分以下、さらに好ましくは0.4mL/分以下である。また、前記供給速度は、研磨速度の向上の観点、表面粗さ低減の観点から、被研磨ガラス基板1cm2あたり0.01mL/分以上が好ましく、より好ましくは0.025mL/分以上、さらに好ましくは0.05mL/分以上である。したがって、前記供給速度は、被研磨ガラス基板1cm2あたり0.01〜1.0mL/分が好ましく、より好ましくは0.025〜0.6mL/分、さらに好ましくは0.05〜0.4mL/分である。
【0056】
研磨液組成物を循環使用する場合には、研磨液組成物を再利用できるので供給流量は上記記載の流量よりも多くなってもよい。研磨液組成物を循環使用する場合、研磨速度の向上、表面粗さの低減の観点から、被研磨ガラス基板1cm2あたり0.1mL/分以上が好ましく、より好ましくは0.2mL/分以上、さらに好ましくは0.5mL/分以上である。また、前記供給速度の上限は特に限定されないが、コスト低減の観点から、被研磨ガラス基板1cm2あたり3.0mL/分以下が好ましく、より好ましくは2.5mL/分以下、さらに好ましくは2.0mL/分以下である。したがって、前記供給速度は、被研磨ガラス基板1cm2あたり0.1〜3.0mL/分が好ましく、より好ましくは0.2〜2.5mL/分、さらに好ましくは0.5〜2.0mL/分である。
【0057】
[研磨荷重]
本明細書において「研磨荷重」とは、研磨時に被研磨基板を挟み込む定盤から被研磨基板の研磨対象面に加えられる圧力を意味する。研磨荷重の調整は、通常の研磨装置であれば容易に調整可能であるが、例えば、定盤や被研磨基板等への空気圧や錘の負荷によって行うことができる。研磨荷重は、研磨速度を向上させる観点から、好ましくは3kPa以上、4kPa以上がより好ましく、5kPa以上がさらに好ましく、6kPa以上がさらにより好ましい。表面粗さを低減する観点、研磨中に研磨機に振動が発生しないように安定に研磨できるという観点から、好ましくは40kPa以下、30kPa以下がより好ましく、20kPa以下がさらに好ましく、15kPa以下がさらにより好ましい。従って、高い研磨速度を維持し、表面粗さを低減し、安定に研磨できるという観点から、好ましくは3〜40kPa、より好ましくは4〜30kPa、さらに好ましくは5〜20kPa、さらにより好ましくは6〜15kPaである。前記研磨荷重の調整は、定盤や基板等への空気圧や錘の負荷によって行うことができる。
【0058】
本発明の基板製造方法は、例えば、溶融ガラスの型枠プレス又はシートガラスから切り出す方法によってガラス基材を得る工程、形状加工工程、端面研磨工程、粗研削工程、精研削工程、粗研磨工程、仕上げ研磨工程、最終仕上げ研磨工程、及び/又は化学強化工程を含みうる。なお、化学強化工程は仕上げ研磨工程の前に施してもよい。また各工程の間には洗浄工程が含まれることがある。そして、ガラスハードディスク基板は、記録部形成工程を経ることで磁気ハードディスクとなる。上述したガラス基板研磨工程(1)は、上記の仕上げ研磨工程及び/又は最終仕上げ研磨工程に適用されることが好ましい。
【0059】
本発明の基板製造方法の一実施形態において、例えば、前記粗研削工程では#400程度のアルミナ砥粒が用いられ、前記形状加工工程では円筒状の砥石が用いられ、前記端面研磨加工工程にではブラシが用いられ、前記精研削工程では#1000程度のアルミナ粒子が用いられる。また、粗研磨工程では研磨材として酸化セリウムが、仕上げ研磨工程では研磨材としてコロイダルシリカが好適に用いられる。但し、本発明はこれらに限定されない。
【0060】
各研磨工程後には、ガラス基板表面の残留物を除去するために、アルカリ性洗浄剤、中性洗浄剤、酸性洗浄剤もしくは超純水を含む洗浄槽で超音波洗浄を行うことが好ましい。その後、超純水、IPA(イソプロピルアルコール)等で洗浄し、超純水やIPAから基板を引き上げながら乾燥する、もしくはスピンドライなどにより乾燥する工程を行ってもよい。洗浄工程中にスクラブ処理が入っても良い。
【実施例】
【0061】
[実施例1〜8及び比較例1〜7]
実施例1〜8及び比較例1〜7の研磨液組成物を調製し被研磨基板を研磨し、研磨性能を確認した。実施例7及び8並びに比較例6及び7では循環研磨を行い、研磨性能を確認した。
【0062】
1.研磨液組成物の調製
イオン交換水に、クエン酸又はリン酸を添加した後、添加剤として下記の多価ヒドロキシベンゼン化合物又は他の化合物を研磨液総重量の0.1重量%になるようにそれぞれ添加し、さらにコロイダルシリカ(一次粒子の平均粒子径:25nm、触媒化成社製)又はアルミ改質コロイダルシリカ(一次粒子の平均粒子径:25nm、触媒化成社製)を添加して、実施例1〜8及び比較例1〜7の研磨液組成物を調製した。
【0063】
研磨液組成物中の各成分の含有量は、コロイダルシリカ:8.2重量%、クエン酸又はリン酸の含有量:0.1〜3.7重量%、pH:2.0〜6.0であった。なお、実施例5には、さらに、水溶性高分子として0.12重量%のアクリル酸/アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AA/AMPS)(共)重合体(重量平均分子量:1300、東亜合成社製)を添加した。使用した多価ヒドロキシベンゼン化合物及び他の添加剤は以下に示すとおりである。
実施例1〜3、5〜8:ピロカテコール(シグマアルドリッチ社製)
実施例4:4,5−ジブロモベンゼン−1,2−ジオール(シグマアルドリッチ社製)
比較例1、6、7:なし
比較例2:ピロカテコール(シグマアルドリッチ社製)
比較例3:エチレングリコール(和光純薬工業社製)
比較例4:エチレンジアミン四酢酸(シグマアルドリッチ社製)
比較例5:グルコン酸(和光純薬工業社製)
【0064】
〔研磨材の一次粒子の平均粒子径の測定方法〕
コロイダルシリカを含む試料を、透過型電子顕微鏡「JEM-2000FX」(80kV、1〜5万倍、日本電子社製)により当該製造業者が添付した説明書に従って試料を観察し、TEM(Transmission Electron Microscope)像を写真撮影した。この写真をスキャナで画像データとしてパソコンに取り込み、解析ソフト「WinROOF ver.3.6」(販売元:三谷商事)を用いて、個々のシリカ粒子の円相当径を計測し、粒子径を求めた。このようにして、1000個のシリカ粒子の粒子径を求めた後、これらの平均値を算出し、この平均値を平均粒子径とした。
【0065】
2.被研磨ガラス基板の調製
セリアを研磨材として含有する研磨液組成物で予め粗研磨工程を行って表面粗さ(Ra)を0.2〜0.3nmとした厚さ0.635nmの外径65mmφで内径20mmφのハードディスク用アルミノ珪酸ガラス基板を、被研磨ガラス基板として用意した。基板中に含まれるSiの含有量は27.1重量%、Alの含有量は8.6重量%、Naの含有量は6.0重量%であり、これらは下記のESCA法を用い測定した。
【0066】
〔ESCA測定〕
・試料作製
アルミノ珪酸ガラス基板を1cmx1cmに切断し、カーボン製両面テープ上に乗せ固定した。表面のゴミ等を除くためにArスパッタを加速電圧2kVで6分間かけ、ESCA測定を実施した。
・測定条件
機器:アルバックファイ社製 PHI Quantera SXM
X線源:単色化AlKα線、1486.6eV、25W、15kV
ビーム径:100μm
X線入射角:45°
測定範囲:500×500(μm2
Pass energy:280.0 (survey)、 140.0 eV (narrow)
Step size:1.00 (survey)、 0.250 eV (narrow)
測定元素:C,N,O,Na,Mg,Al,Si,S,K,Ti,Zr,Nb
帯電補正:Neutralizer及びAr+照射
【0067】
3.研磨
実施例1〜6及び比較例1〜5の研磨液組成物を用いて下記の標準研磨条件にて研磨を行い、実施例7,8及び比較例6、7の研磨液組成物を用いて下記の循環研磨条件にて研磨を行った。
【0068】
〔標準研磨条件〕
研磨試験機:スピードファム社製「両面9B研磨機」
研磨パッド:スウェードタイプ(厚さ 0.9 mm、平均開孔径 30μm)
研磨液組成物供給量:100 mL/分(被研磨基板 1 cm2あたりの供給速度:約 0.3 mL/分)
下定盤回転数:32.5 rpm
研磨荷重:8.4 kPa
キャリア:アラミド製、厚さ 0.45 mm
研磨時間:20 分
被研磨基板:アルミノ珪酸ガラス基板(外径 65 mm、内径 20 mm、厚さ 0.635 mm)
投入基板枚数:10枚
リンス条件:荷重= 2.0 kPa、時間= 2 分、イオン交換水供給量=約 2 L/分
ドレス条件:1回研磨毎にイオン交換水を供給しながらブラシドレスを 2 分
【0069】
〔循環研磨条件〕
研磨液量/1バッチを2Lに固定しタンクに貯めて、一定流量で研磨機に投入後、研磨機から排出される研磨廃液を再度回収しタンクに戻しながら連続的に20分研磨を行った。尚、研磨液組成物を初めて投入する初期バッチを循環研磨1回目と呼び、この工程を6回続けて行い、循環研磨1回目と6回目の基板を水洗浄し評価を実施した。
研磨試験機:スピードファム社製「両面9B研磨機」
研磨パッド:スウェードタイプ(厚さ 0.9 mm、平均開孔径 30μm)
研磨液組成物供給量:100 mL/分(被研磨基板 1 cm2あたりの供給速度:約 0.3 mL/分)
下定盤回転数:32.5 rpm
研磨荷重:8.4 kPa
キャリア:アラミド製、厚さ 0.45 mm
研磨時間:20 分/バッチ
被研磨基板:アルミノ珪酸ガラス基板(外径 65 mm、内径 20 mm、厚さ 0.635 mm)
投入基板枚数:10枚
リンス条件:荷重= 2.0 kPa、時間= 2 分、イオン交換水供給量=約 2 L/分
循環研磨回数:6回
研磨液量:2 L
【0070】
4.評価方法
標準研磨条件の研磨については、研磨速度及び表面粗さを下記条件で評価した。循環研磨条件の研磨については、循環研磨1回目後と6回目後とで比較した、研磨速度低下率、表面粗さの差、及び、基板清浄性(パーティクル)の増加率を求めた。パーティクルの測定は、以下のように行った。
【0071】
〔研磨速度の測定方法〕
研磨前後の基板の重量差(g)を該基板の密度(2.46g/cm3)、基板の表面積(30.04cm2)、及び研磨時間(分)で除した単位時間当たりの研磨量を計算し、研磨速度(μm/分)を算出した。
【0072】
〔研磨速度低下率の算出方法〕
前述の研磨速度の測定方法により求めた循環研磨1回目と6回目の研磨速度の値を以下の計算式に代入して算出した。
計算式
研磨速度低下率[%]=100−{(循環研磨6回目の研磨速度[μm/分])/(循環研磨1回目の研磨速度[μm/分])×100}
【0073】
〔基板の表面粗さの測定方法〕
被研磨ガラス基板を研磨・洗浄・乾燥した後、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、下記に示す方法で基板表面の表面粗さを測定した。
測定機器:Veeco社製、DI Nano―Scope III
Mode:non-contact
Scan rate:1.0Hz
Scan area:1×1μm
Samples:512×512
Amplitude setpoint、integral gain、proportional gain:測定毎に最適化
評価:前述の研磨後基板10枚のうち、無作為に4枚を選択し、各々の基板の両面をAFMを用いて測定し、平均値を算出した。その結果を、下記表1においては、比較例1を100とした相対値を示す。
【0074】
〔表面粗さの差の算出方法〕
前述の基板の表面粗さの測定方法により求めた循環研磨1回目後の表面粗さの値から循環研磨6回目後の表面粗さの値を引いて、循環研磨後の表面粗さの差(nm)として算出した。
【0075】
〔パーティクルの測定方法〕
被研磨ガラス基板を研磨・洗浄・乾燥した後、下記に示す方法で基板上のパーティクル数を測定した。
測定機器:KLA Tencor社製、OSA6100
評価:前述の研磨方法により研磨した基板10枚のうち、無作為に4枚を選択し、各々の基板を10000rpmにてレーザーを照射して突起欠陥を測定した。その4枚の基板の各々両面にある突起欠陥数(個)の合計を8で除して、基板面当たりのパーティクル数として算出した。
【0076】
〔パーティクル増加率の算出方法〕
前述のパーティクルの測定方法により求めた循環研磨1回目後と6回目後の基板面当たりのパーティクル数の値を以下の計算式に代入して算出した。
計算式
パーティクル増加率[%]=100−{(循環研磨6回目後の基板面当たりのパーティクル数)/(循環研磨1回目後の基板面当たりのパーティクル数)×100}
【0077】
【表1】

【0078】
上記表1に示されるように、実施例1〜6は、比較例1〜5に比べて、高い研磨速度と低い表面粗さを両立できることが示された。また、実施例1と実施例5との対比から、スルホン酸基を有する水溶性高分子をさらに用いた場合、表面粗さがより低減されることが示された。さらに、実施例1と実施例6との対比から、アルミ改質コロイダルシリカを研磨材として用いた場合、より高い研磨速度が得られることが示された。
【0079】
【表2】

【0080】
表2に示されるように、本発明の基板製造方法によれば、ガラス基板の循環研磨において、研磨速度の低下、表面粗さの悪化及びパーティクルの増加が抑制され、循環耐久性が向上することが示された。また、実施例7と実施例8との対比から、酸として多価カルボン酸を用いた場合、循環耐久性がさらに持続することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の基板製造方法によれば、研磨工程において高い研磨速度を得ることができ、研磨工程後の基板の表面粗さを効果的に低減し、さらに循環研磨においても長時間高い研磨速度を維持することが可能なため、例えば、高記録密度化に適したガラスハードディスク基板などの基板品質が向上したガラス基板を効率よく製造することができる。したがって、本発明の基板製造方法は、ガラスハードディスク基板の製造において有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨材、酸、ベンゼン環上に互いに隣接する2個以上の水酸基を有する多価ヒドロキシベンゼン化合物、及び水を含有し、pH1.0〜4.0である研磨液組成物を用いて被研磨ガラス基板を研磨する工程を含む、ガラスハードディスク基板の製造方法。
【請求項2】
前記被研磨ガラス基板が、アルミノ珪酸ガラス基板である、請求項1に記載のガラスハードディスク基板の製造方法。
【請求項3】
前記酸が、多価カルボン酸及びその塩から選ばれる一種以上である、請求項1又は2に記載のガラスハードディスク基板の製造方法。
【請求項4】
前記研磨する工程が、前記研磨液組成物を循環使用して被研磨ガラス基板を研磨することを含む、請求項1から3いずれかに記載のガラスハードディスク基板の製造方法。
【請求項5】
前記研磨液組成物が、さらにスルホン酸基を有する水溶性高分子を含有する、請求項1から4いずれかに記載のガラスハードディスク基板の製造方法。
【請求項6】
被研磨ガラス基板の研磨対象面に研磨液組成物を供給し、前記研磨対象面に研磨パッドを接触させ、前記研磨パッド及び/又は前記被研磨基板を動かして研磨することを含むガラス基板の研磨方法であって、前記研磨液組成物が、研磨材、酸、ベンゼン環上に互いに隣接する2個以上の水酸基を有する多価ヒドロキシベンゼン化合物、及び水を含有し、pH1.0〜4.0である、ガラス基板の研磨方法。
【請求項7】
研磨材、酸、ベンゼン環上に互いに隣接する2個以上の水酸基を有する多価ヒドロキシベンゼン化合物、及び水を含有し、pH1.0〜4.0である、ガラスハードディスク基板用研磨液組成物。

【公開番号】特開2012−128916(P2012−128916A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280690(P2010−280690)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】