説明

ガラスフィルム積層基板

【課題】ガラス材料と樹脂材料とからなる積層基板として、ガラス材料が本来的に所有しているガスバリア性、透明性、外観の高級感、手で触れた場合の接触性などに優れた特性を維持できると共に、清浄性の面においても優れた特性を維持できるようにする。
【解決手段】樹脂基材(樹脂フィルム)2の片面2aにガラスフィルム3を貼り付けてなるガラスフィルム積層基板1であって、ガラスフィルム3が最外層をなすと共に、ガラスフィルム3の樹脂基材2側の面3bに、深さがガラスフィルムの厚みよりも小さい亀裂線4を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂基材にガラスフィルムを貼り付けてなるガラスフィルム積層基板に係り、詳しくは、樹脂基材とガラスフィルムとの貼り付け構造やガラスフィルム自体の構成に改良を施したガラスフィルム積層基板に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、フラットパネルディスプレイ、携帯電話機、またはこれらの部品若しくはタッチパネルなどの装置や部品の表面適所には、主として周辺環境等からその表面を保護するための保護基板が貼り付けられる。この保護基板としては、従来より、ガラス板が使用されていたが、装置全体の重量増を招き、特に適正な保護効果を得るためには、十分な強度が必要になるため、板厚を厚くせざるを得ず、近年における装置の軽量化の要請に応じることが困難になりつつある。
【0003】
そこで、ガラスに代わる軽量材料として、アクリルやポリカーボネイトに代表される樹脂材の使用が検討されたが、この樹脂材は硬度が低いために表面に傷が付き易いばかりでなく、水分が透過し易く且つガスバリア性に劣る等の保護機能上の欠点を有する。したがって、この種の樹脂材は、上記の保護基板としては、実用化に供し得ないという結論を得るに至った。
【0004】
以上のような問題に対処するため、例えば特許文献1には、樹脂フィルムの表面に、接着剤または粘着剤を介在させて、厚みが10〜300μmの薄肉ガラス板を貼り付けた積層基板が開示されている。この場合、樹脂フィルム及び薄肉ガラス板は、可撓性を有しているため、それぞれが単体であれば、容易に曲げを生じさせることができ、破壊し難くなる。しかし、同文献に開示のように、両者を貼り付けて積層基板とした場合、特に表示素子の外面側に薄肉ガラス板がある場合には、曲げ変形を生じさせることによって、ガラスフィルムに大きな引張応力が発生し易いため、微小欠陥等を起点として破損し易くなる。このような現象は、当該積層基板のガラスフィルムが、他の物に衝突した場合にも、衝突部付近に局所的な曲げ変形が生じるため、同様にして生じ得る。
【0005】
これに対しては、特許文献2、3に開示されているように、ガラス板を複数の小片に分離して積層基板を構成すればよいことになる。しかし、このような単純な手法では、ガラス板を複数の小片に分離させていることに起因して、ガラス板が本来的に所有している優れたガスバリア性が阻害されると共に、ガラスの小片間の隙間から水分が浸入という不具合を招く。
【0006】
このような問題に対処するものとして、特許文献4によれば、ガラス板の面に亀裂線を入れて積層物を構成することが開示されている。このような構成によれば、上記の問題を全て解消して、十分なガスバリア性を確保しつつ、水分の浸入等を阻止し得ることが期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−337549号公報
【特許文献2】特表2002−520205号公報
【特許文献3】特開平2−149454号公報
【特許文献4】特開2000−62093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述の特許文献4に開示された積層物によるにしても、未だ解決すべき問題が残存している。すなわち、ガラス材料は、樹脂材料と比較すれば、上記のガスバリア性に加えて、透明性、外観の高級感、手で触れた場合の接触性や耐擦傷性などに優れている。しかしながら、同文献の図2に記載されているように、最外層を樹脂板(樹脂フィルム)としたのでは、この積層物を、装置やその部品の表面に貼り付けた場合に、上記列挙した特性の全てを兼ね備えることができず、品質面において劣悪となる傾向がある。
【0009】
これに対して、同文献の図1には、最外層をガラス板(ガラスフィルム)とした積層物が記載されているものの、この積層物は、最外層をなすガラス板の露出側の面に亀裂線が形成されている。すなわち、同文献には、この積層物が、優れた柔軟性を有するセキュリティーカード及びフォトマスクの作製に使用されることが記載されており、その柔軟性を確保するには、必然的にガラス板の露出側の面に亀裂線を形成せねばならないことになる。
【0010】
そのため、仮に、この積層物を、装置やその部品の表面に貼り付けた場合には、反射光により亀裂線が明確に見えて外観性や透明性が悪化し、さらには手で触ったときの感触も悪化することになるため、ガラス材料が本来具備すべき優れた特性を得ることができない。しかも、亀裂線に微小な異物が侵入するなどしてガラス板の露出面に汚れが生じ、且つその汚れも除去が困難になるため、清浄性が悪化すると共に、透明性がさらに損なわれる。
【0011】
加えて、同文献の図1及び図2に記載された亀裂線は、実質的に全てが連続しているため、ガラス板の一部に他の物との衝突による傷等の欠陥が発生した場合には、この欠陥がガラス板の全体に広がって割れが生じ、ガスバリア性が損なわれる等の致命的な問題をも招来する。
【0012】
以上の観点から、本発明の第1の課題は、ガラス材料と樹脂材料とからなる積層基板として、ガラス材料が本来的に所有しているガスバリア性、透明性、外観の高級感、手で触れた場合の接触性などに優れた特性を維持できると共に、清浄性の面においても優れた特性を維持できるようにすることにある。
【0013】
また、本発明の第2の課題は、ガラス材料と樹脂材料とからなる積層基板のガラス板(ガラスフィルム)に亀裂線を形成した場合に、その亀裂線の一部に生じた欠陥がガラス板の全体に広がって割れが生じ、ガスバリア性が損なわれる等の不具合を回避することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記第1の課題を解決するために創案された本発明は、樹脂基材の片面にガラスフィルムを貼り付けてなるガラスフィルム積層基板であって、前記ガラスフィルムが最外層をなすと共に、前記ガラスフィルムの前記樹脂基材側の面に、深さが前記ガラスフィルムの厚みよりも小さい亀裂線を形成したことに特徴づけられる。
【0015】
このような構成によれば、最外層に位置しているガラスフィルムの露出側の面は、亀裂線が形成されていないため、溝部を有しない平滑な面となり、ガラスフィルムを複数に分離した場合に比して、ガスバリア性に優れた特性を維持できると共に、ガラスフィルムの露出側の面に亀裂線を形成した場合に比して、透明性、外観の高級感、手で触れた場合の接触性などに優れた特性を維持できる。しかも、その平滑な面には、異物が侵入する余地がなくなるため、汚れの付着やその除去の困難化が抑止され、清浄性の面においても優れた特性を維持できる。そして、この亀裂線は、ガラスフィルムの樹脂基材側の面に形成され、且つその両者が貼り付けられて積層基板が形成されているため、換言すれば、積層基板の内層部に亀裂線が存在しているため、当該積層基板がガラスフィルム面が凸となる方向に曲げ変形を来たした場合であっても、この亀裂線を起点として破損に至るという事態は生じなくなる。なぜなら、破損を引き起こす引張応力はガラスフィルムの最外面に集中するからである。逆に、投擲物の衝突に相当するガラスフィルム面が凹む方向の変形に対しても樹脂基材に接着されているので、ガラスフィルム全体に圧縮応力が発生するだけで、破壊しない。
【0016】
この場合、前記ガラスフィルムは、前記樹脂基材の片面に接着剤または粘着剤を介在させて貼り付けられ、前記接着剤または粘着剤と前記ガラスフィルムとの屈折率が同一または略同一であることが好ましい。
【0017】
このようにすれば、接着剤または粘着剤は、ガラスフィルムと樹脂基材との間から亀裂線の溝内に充填される。そして、接着剤または粘着剤の屈折率と、ガラスフィルムの屈折率とが、同一または略同一であるため、亀裂線が外部から殆ど見えなくなり、優れた外観性を維持できると共に、亀裂線の存在が透明性を阻害する要因にもなり難くなる。具体的には、ガラスフィルムと樹脂基材の屈折率差が、0.3以内であれば亀裂線は外部からはほとんど見えず、0.1以内であれば検知できなくなるので、このような屈折率を有する樹脂基材を用いることが好ましい。
【0018】
また、前記亀裂線は、フォトリソグラフィ法により形成されたものであることが好ましい。ここでいうフォトリソグラフィ法とは、ガラスフィルム上に亀裂線以外の部分を覆う形状のマスク材料を形成し、全体をエッチング雰囲気にさらすことで、亀裂線を形成し、マスク材料を除去する方法を指している。このマスク材料を所望の形状に形成するには、紫外線を用いた露光法や印刷法が用いられる。特に、印刷法は、高い生産性が期待されるロール・ツゥ・ロール生産法式と整合性がよい。また、ガラスフィルムのエッチング方法は、フッ酸等を含む薬液に浸潤することでエッチングするウェットエッチング法が望ましい。なぜなら、ウェットエッチング法は等方性エッチングであり、亀裂線の溝部形状をなだらかにすることができるからである。
【0019】
このようにすれば、ガラスフィルムの面に形成される亀裂線の溝の断面形状が、屈曲部を有しない滑らかな形状となり、外光に対する亀裂線の溝からの反射光を低減させることができ、透明性や外観性等の面において、より優れた特性を備えることが可能となる。
【0020】
さらに、前記ガラスフィルムの前記樹脂基材側の面は、前記亀裂線が形成された亀裂線形成領域を複数箇所に有し、これらの亀裂線形成領域は、相互に離反していることが好ましい。
【0021】
このようにすれば、投擲物などが当該積層基板のガラスフィルムに衝突した場合には、衝突した一部の亀裂線形成領域では亀裂線に沿う割れが生じるが、個々の亀裂線形成領域は相互に離反しているため、その割れが全体に伝播して大きな割れに至ることが阻止され、ガスバリア性が損なわれる等の事態を回避することができる。
【0022】
以上の構成からなるガラスフィルム積層基板は、装置またはその部品の表面に貼り付けられる保護基板として用いられ且つその貼り付けられた状態では前記ガラスフィルムが最外表面部に位置する態様となることが好ましい。ここで、上記の「装置またはその部品」とは、フラットパネルディスプレイの筐体(表示部の周囲)、携帯電話機や液晶モニタの表示部、及びタッチパネルなどを挙げることができ、これらの部位の表面に、当該積層基板が貼り付けられる。
【0023】
このようにすれば、これらの装置や部品の適所が、ガラスフィルム積層体で保護されると共に、その保護された部位が、ガスバリア性、透明性、外観の高級感、滑らかな手触り感触、手で触れた場合の耐擦傷性などに優れた高品質特性を維持できると共に、清浄性の面においても優れた特性を維持でき、装置や部品の製品価値が向上する。
【0024】
一方、上記第2の課題を解決するために創案された本発明は、樹脂基材の面にガラスフィルムを貼り付けてなるガラスフィルム積層基板であって、前記ガラスフィルムの面は、深さが前記ガラスフィルムの厚みよりも小さい亀裂線が形成された亀裂線形成領域を複数箇所に有し、これらの亀裂線形成領域は、相互に離反していることに特徴づけられる。
【0025】
このようにすれば、ガラスフィルムの一部に投擲物などが衝突することにより、亀裂線の一部に傷等の欠陥が発生した場合であっても、個々の亀裂線形成領域が相互に離反しているため、その欠陥が、ガラスフィルムの全体に伝播されて割れが生じる事態を回避することができ、ガスバリア性が損なわれる等の致命的な問題が生じなくなる。
【0026】
ここで、上記の各亀裂線形成領域における亀裂線の形状としては、正六角形その他の多角形などの閉ループを呈するものや、複数本の直線を連結させたものなどを挙げることができる。
【発明の効果】
【0027】
以上のように本発明によれば、ガラスフィルム積層基板の最外層に位置しているガラスフィルムの樹脂基材側の面に亀裂線が形成されているため、当該ガラスフィルムの露出側の面が、亀裂線の溝部を有しない平滑な面となり、曲げ変形に的確に対処可能となるばかりでなく、ガスバリア性、透明性、外観の高級感、手で触れた場合の接触性などに優れた特性を維持できると共に、清浄性の面においても優れた特性を維持できる。
【0028】
また、本発明によれば、ガラスフィルムの面上で複数の亀裂線形成領域が相互に離反しているため、一部の亀裂線形成領域の亀裂線に発生した欠陥が、ガラスフィルムの全体に伝播し広がるという事態を阻止することができ、ガラスフィルム全体に亘って割れが生じてガスバリア性が損なわれる等の致命的な問題が生じなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1実施形態に係るガラスフィルム積層基板の構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るガラスフィルム積層基板の構成要素であるガラスフィルムの底面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係るガラスフィルム積層基板の要部の構成を示す拡大縦断正面図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係るガラスフィルム積層基板の構成要素であるガラスフィルムの底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態に係るガラスフィルム積層基板(以下、単に積層基板という)を添付図面を参照して説明する。
【0031】
図1は、本発明の第1実施形態に係る積層基板1の全体構成を示す斜視図である。同図に示すように、積層基板1は、樹脂基材としての透明の樹脂フィルム2と、樹脂フィルム2の片面(表面)2aに貼り付けられた透明のガラスフィルム3とを有する。ガラスフィルム3の厚みは、300μm以下であって、好ましくは下限値が10μm、上限値が200μmである。また、樹脂フィルム2は、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリスチレンなどの熱可塑性樹脂などからなり、その厚みは、100〜5000μmであって、好ましくは下限値が200μm、上限値が4000μmである。
【0032】
ガラスフィルム3の裏面(樹脂フィルム2側の面)3bには、亀裂線4が形成され、この実施形態では、六角形状の閉ループをなす亀裂線4が複数箇所に規則性をもって形成されている。これらの亀裂線4は、フォトリソグラフィ法またはレーザー溶融法により形成されたものである。一方、ガラスフィルム3の表面(露出側の面)3aは、亀裂線を有しない平滑面である。なお、このガラスフィルム3の表面に反射防止膜や指紋付着防止層を形成してもよい。
【0033】
詳述すると、図2に示すように、ガラスフィルム3の裏面3bは、正六角形状の亀裂線4が形成された亀裂線形成領域5を複数箇所に有し、これらの亀裂線形成領域5は、相互に離反している。ここで、亀裂線形成領域5とは、正六角形状の亀裂線4の周囲を滑らかに取り囲む領域であって、この実施形態では、正六角形状の亀裂線4の外接円により囲まれた領域である。したがって、複数箇所の亀裂線4は、単に相互に離反しているだけではなく、個々の亀裂線4における最大離間距離Lの1/4以上の距離を隔てて相互に離反している。
【0034】
図3に示すように、この積層基板1は、樹脂フィルム2とガラスフィルム3とが、接着剤(または粘着剤)6を介在させて貼り合わされており、接着剤6の層は、樹脂フィルム2の表面2aとガラスフィルム3の裏面3bとの間から亀裂線4の溝に充填されている。この亀裂線4の溝深さは、ガラスフィルム3の厚みの5〜90%、好ましくは下限値が10%、上限値が50%とされて小さい衝撃では割れないように、また亀裂線4が視認できないように、亀裂線4の深さを浅めに設定している。なお、亀裂線4は、その幅方向中央部での最大溝深さHが、10〜15μm程度であり、そのガラスフィルム3の裏面3b上での溝幅Wが、20〜30μm程度であって、溝深さHよりも溝幅Wの方が長く、全体的に滑らかな形状を呈している。
【0035】
以上のような構成とされた積層基板1は、フラットパネルディスプレイ、携帯電話機、液晶モニタなどの装置の表面や、それらの部品の表面、もしくはタッチパネルの表面などに貼り付けられる保護基板として用いられる。より詳しくは、この積層基板1は、適宜の形状や大きさとされた上で、フラットパネルディスプレイの筐体(表示部の周囲)の表面、携帯電話機や液晶モニタの表示部の表面、或いはタッチパネルの接触面などに貼り付けられる。そして、この積層基板1が、それらの表面に貼り付けられた状態の下では、ガラスフィルム3の表面3aが最外表面となる。
【0036】
したがって、この積層基板1は、ガラスフィルム3が表面3a側の部位で連続しているため、ガスバリア性に優れるばかりでなく、ガラスフィルム3の表面3aに亀裂線が形成されていないため、滑らかな手触り感触が得られると共に、乱反射が低減されて高級感が得られ、さらには透明性や清浄性に優れたものとなる。しかも、接着剤6の層が、樹脂フィルム2の表面2aとガラスフィルム3の裏面3bとの間から亀裂線4の溝に充填され、この接着剤6とガラスフィルム3との屈折率が同一または略同一とされて、且つ、その溝の断面形状は滑らかなために、亀裂線4からの光の反射が小さくなり、亀裂線4が見え難くなる。
【0037】
ここで、亀裂線4の役割を説明すると、例えば外部からの投擲物が上記の状態にある積層基板1に衝突した場合には、ガラスフィルム3の裏面3bに引張応力が発生するが、この引張応力は、厚みが薄い亀裂線4の溝に集中する。したがって、ガラスフィルム3の衝突部周辺の全域に応力集中が生じることを回避して、亀裂線4の一部のみに応力集中を生じさせることにより、亀裂線4の一部のみに割れを発生させることができる。そして、この割れを微小な大きさに止めることで、積層基板1全体の滑らかな手触り感触、高級感、透明性、清浄性などを損なわせるには至らない。
【0038】
特に、この実施形態では、積層基板1による保護が確実化されるように、ガラスフィルム3の裏面3bにおいて、複数箇所に形成された亀裂線形成領域5を相互に離反させている。すなわち、亀裂線4の一部に上記の割れが発生した場合に、その割れが進展しようとしても、隣り合う亀裂線4は相互に上記所定距離以上を隔てて離反しているため、その進展が阻止され、ガラスフィルム3全体に割れが伝播して大きな破壊に?がるという事態は生じなくなる。
【0039】
したがって、例えば携帯電話機の表示部の表面や液晶モニタの表示部の表面に、この積層基板1を貼り付けておけば、ガスバリア性に優れ、水の浸入等を阻止できると共に、滑らかな手触り感触、外観の高級感が得られ、さらには汚れが付き難い等により、表示部の十分な清浄性や透明性を維持することができる。また、この積層基板1を、フラットパネルディスプレイの筐体(表示部の周囲)の表面やタッチパネルの表面(接触面)に貼り付けた場合にも、同様の利点が得られる。しかも、この積層基板1は、内層部に亀裂線4を有していることになるため、この亀裂線4が表面に露出している場合と比較して、曲げ変形に対して十分な強度を備えていることになる。
【0040】
図4は、本発明の第2実施形態に係る積層基板1を例示するもので、そのガラスフィルム3の裏面3bの形態を示している。この第2実施形態に係る積層基板1が、上述の第1実施形態のそれと相違している点は、亀裂線4が、長尺な直線4aの両端にそれぞれ短尺な直線4bを連結させて形成されているところにある。詳述すると、この場合の亀裂線形成領域5は、亀裂線4を取り囲むように直線4a、4bの終端を結んで形成される領域であって、これら複数箇所の亀裂線形成領域5は、相互に離反している。詳しくは、各亀裂線4は、長尺な直線4aの1/4以上の距離を隔てて相互に離反している。その他の構成は、上述の第1実施形態と同一であるので、両者に共通の構成要件は、図4に同一符号を付してその説明を省略する。そして、この第2実施形態に係る積層基板1も、上述の第1実施形態に係るそれと同一の作用効果が得られる。
【実施例1】
【0041】
本発明の第1実施例として、図2に示すような亀裂線4が形成されたガラスフィルム3を有する積層基板1を作製した。ガラスフィルム3としては、厚みが50μmの無アルカリガラスのフィルム(日本電気硝子株式会社製、OA−10G)を使用した。このガラスフィルム3は、柔軟性(可撓性)があるため、帯状のものをロール状に巻くことができ、このロール状に巻いた帯状のガラスフィルム3をそのまま引き出して長尺な積層基板1を作製することも可能であるが、ここでは、その帯状のガラスフィルム3を所定の矩形状に切断したものを使用した。
【0042】
その製作に際しては、先ず、フォトリソグラフィ法により、ガラスフィルム3の裏面3bに亀裂線4を形成した。詳述すると、ガラスフィルム3を洗浄した後、フォトレジストを2μmの厚さに塗布し、然る後、露光・現像することにより、図2に示す各亀裂線4に対応するパターンを形成した。次に、レジストパターンをマスクとし、バッファードフッ酸を用いてガラスフィルム3をエッチングすることにより、亀裂線4の溝を形成した。この亀裂線4の溝深さは、溝の幅方向中央部の最大深さHが10μmであった。そして、最終工程で、レジストを剥離することにより、亀裂線4が形成されてなるガラスフィルム3を得た。なお、ここでは、露光・現像を用いてレジストパターンを形成したが、レジストをガラスフィルム3上に印刷するなどのプロセスを用いることもできる。
【0043】
その後、厚みが3mmのポリカーボネートからなる樹脂フィルム(樹脂シート)2の表面2aに、接着剤(粘着剤)6を介して、ガラスフィルム3の裏面3b(亀裂線4が形成された側の面)を貼り付けた。この場合の接着剤6としては、ガラスフィルム3と屈折率が同等のものを使用した。この後においては、オートクレープ処理により、貼り付け時の気泡を除去した。ここでは、50℃で5気圧のオートクレープ処理を30分に亘って行った。これにより、接着剤6が亀裂線4の溝に確実に充填されてなる最終製造物たる積層基板1を得た。
【0044】
以上のようにして得られた積層基板1の耐衝撃性を評価するため、225gの鋼球を用いて落球試験を行った。具体的には、積層基板1のガラスフィルム3の表面3aに、高さ2mの位置から鋼球を落下して衝突させたが、割れは発生しなかった。なお、亀裂線を形成していないガラスフィルムを有する積層基板であっても、同条件では割れが発生しなかった。さらに、積層基板1のガラスフィルム3の表面3aに、高さ4mの位置から鋼球を落下して衝突させた場合には、ガラスフィルム3の鋼球との衝突部のみに破損が見られたが、割れが周囲に広がるには至らなかった。これに対して、亀裂線を形成していないガラスフィルムを有する積層基板は、同条件では、鋼球が衝突した位置を中心として数本の割れが発生し、これらの割れは、衝突部及びその周辺まで広がった。
【0045】
以上の事項から、ガラスフィルム3の裏面3bに亀裂線4を形成してなる積層基板1は、耐衝撃性に優れていることを確認した。また、外観を観察した場合には、接着剤6が亀裂線4の溝の奥まで確実に充填されているため、目視では亀裂線4が見えず、透明性においても優れていることを把握した。さらに、積層基板1の最外層を構成しているガラスフィルム3の表面3aを指で触ることにより、滑らかな感触が得られ、高級感があることを認識した。
【0046】
一方、積層基板1を裏返して載置し、その樹脂フィルム2の表面に、上記と同様の鋼球を高さ2mの位置から落下して衝突させた場合であっても、鋼球との衝突部にガラスフィルム3の割れが発生した。この事を勘案すれば、積層基板1は、ガラスフィルム3が最外表面に位置する状態で使用することが、優れた耐衝撃性を有する保護基板としての役割を果たす上で有利となることを認識した。
【実施例2】
【0047】
本発明の第2実施例として、図4に示すような亀裂線4が形成されたガラスフィルム3を有する積層基板1を作製した。この場合の製造プロセスは、上述の第1実施例と同様である。なお、ガラスフィルム3としては、厚みが200μmのものを使用し、亀裂線4としては、溝の幅方向中央部における最大深さが20μmとなるように形成した。
【0048】
ここで、各亀裂線形成領域5における個々の亀裂線4について詳述すると、長さ500μmの長尺な直線4aの両端に、その直線4aに垂直な長さ100μmの短尺な直線4bの中央を連結させたものである。そして、隣り合う亀裂線4は、相互に90°回転した姿勢となっており、且つ、相互に250μmの隙間を介して離反している。また、これらの亀裂線4は、1mm2当たり、四つが形成されている。
【0049】
その後、表面に粘着剤を塗布した樹脂フィルム(樹脂シート)2と、亀裂線4を形成したガラスフィルム3とを、2×103Paの減圧下で貼り合わせ、さらに減圧下でプレス機構により、1×105Paの圧力を加えることで、亀裂線部に残留する空気を減らした状態で、接着力を大きくすることができる。その後、4気圧40℃の条件下でオートクレープ処理を30分行った。その結果、粘着剤6が亀裂線4の溝に確実に充填された積層基板1が得られた。
【0050】
このガラスフィルム3を最外表面に有する積層基板1に対して、225gの鋼球を落下させる試験を実施したところ、2mの高さ位置から落下させた場合には、ガラスフィルム3の割れが発生しなかった。また、5mの高さ位置から落下させた場合には、ガラスフィルム3の鋼球との衝突部に破損が発生し、樹脂フィルム2に凹みが見られたが、外周側への割れの広がりは発生しなかった。以上のような事項から、この第2実施例に係る積層基板1も、耐衝撃性に優れていることを確認した。また、目視では亀裂線4が見えず、透明性に優れていることや、滑らかな感触が得られ、高級感があることをも確認した。
【実施例3】
【0051】
本発明の第3実施例は、ガラスフィルム3、樹脂フィルム2及び接着剤6として、上述の第1実施例と同一のものを使用すると共に、製造プロセスも、上述の第1実施例と同一とした。そして、相違点は、ガラスフィルム3に形成された亀裂線4の溝について、幅方向中央部の最大深さHを10μmとし、ガラスフィルム3の裏面3b上での溝幅Wを10μmとしたところにある。すなわち、亀裂線4は、溝深さHと溝幅Wとが同程度となるように形成されている。このような構成によれば、亀裂線4の溝が急峻(立ち上がりが急な細い溝)になるため、積層基板1の対して透過光を照射しても、亀裂線4が見えることはなかった。したがって、この第3実施例においては、特に外観性及び透明性に優れた積層基板1が得られることを認識した。
【符号の説明】
【0052】
1 ガラスフィルム積層基板(積層基板)
2 樹脂基材(樹脂フィルム)
2a 樹脂基材の片面(表面)
3 ガラスフィルム
3a ガラスフィルムの表面
3b ガラスフィルムの樹脂基材側の面(裏面)
4 亀裂線
5 亀裂線形成領域
6 接着剤(粘着剤)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基材の片面にガラスフィルムを貼り付けてなるガラスフィルム積層基板であって、
前記ガラスフィルムが最外層をなすと共に、前記ガラスフィルムの前記樹脂基材側の面に、深さが前記ガラスフィルムの厚みよりも小さい亀裂線を形成したことを特徴とするガラスフィルム積層基板。
【請求項2】
前記ガラスフィルムは、前記樹脂基材の片面に接着剤または粘着剤を介在させて貼り付けられ、前記接着剤または粘着剤と前記ガラスフィルムとの屈折率が同一または略同一であることを特徴とする請求項1に記載のガラスフィルム積層基板。
【請求項3】
前記亀裂線は、フォトリソグラフィ法により形成されたものであることを特徴とする請求項1または2に記載のガラスフィルム積層基板。
【請求項4】
前記ガラスフィルムの前記樹脂基材側の面は、前記亀裂線が形成された亀裂線形成領域を複数箇所に有し、これらの亀裂線形成領域は、相互に離反していることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のガラスフィルム積層基板。
【請求項5】
装置またはその部品の表面に貼り付けられる保護基板として用いられ且つその貼り付けられた状態では前記ガラスフィルムが最外表面部に位置する態様となることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のガラスフィルム積層基板。
【請求項6】
樹脂基材の面にガラスフィルムを貼り付けてなるガラスフィルム積層基板であって、
前記ガラスフィルムの面は、深さが前記ガラスフィルムの厚みよりも小さい亀裂線が形成された亀裂線形成領域を複数箇所に有し、これらの亀裂線形成領域は、相互に離反していることを特徴とするガラスフィルム積層基板。
【請求項7】
前記複数箇所の亀裂線形成領域にはそれぞれ、閉ループを呈する態様で前記亀裂線が形成されていることを特徴とする請求項6に記載のガラスフィルム積層基板。
【請求項8】
前記複数箇所の亀裂線形成領域にはそれぞれ、複数本の直線を連結させた態様で前記亀裂線が形成されていることを特徴とする請求項6に記載のガラスフィルム積層基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−223912(P2012−223912A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91143(P2011−91143)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】