説明

ガラスヤーン回巻体とその製造方法、ガラスクロス、ガラスヤーン合撚糸、ガラスヤーン合撚糸回巻体とその製造方法、合撚糸のガラスクロス及び透明複合体組成物

【課題】経糸成経後の二次サイズと製織後のガラスクロスの加熱脱油と表面処理の工程を要としないガラスヤーンを巻き取った回巻体とその製造方法、ガラスヤーン回巻体から解舒したガラスヤーンまたはガラスヤーン合撚糸を用いたガラスクロス及びこれらのガラスクロスを使用した透明複合体組成物を提供する。
【解決手段】本発明のガラスヤーン回巻体は、ガラス長繊維のストランドに撚りが付与されたガラスヤーンのフィラメント表面がシランカップリング剤及びポリアミン誘導体系潤滑剤等を含むサイジング剤により被覆されてなる。本発明のガラスヤーン回巻体の製造方法は上記ガラスヤーンを巻き取るものである。本発明ガラスヤーンの合撚糸は、上記ガラスヤーン回巻体から解舒したガラスヤーンを用いて合撚される。本発明の合撚糸回巻体は、上述のガラスヤーン合撚糸がボビンに巻き取られてなる。本発明のガラスクロスは、上記のガラスヤーン又はガラスヤーン合撚糸より製織されてなる。本発明の透明複合体組成物は上記のガラスクロスと、これらとの屈折率ndの差が0.01以内、アッベ数νdの差が5以内の光学恒数を有する樹脂とを組み合わせて得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスクロスを製織するため使用されるガラスヤーンをボビンに巻き取った形態を呈するガラスヤーン回巻体とその製造方法、そのガラスヤーン回巻体から解舒したガラスヤーンにより製織されたガラスクロス、ガラスヤーン回巻体から解除したガラスヤーンを合撚したガラスヤーン合撚糸、ガラスヤーン合撚糸回巻体及びそのガラスヤーン合撚糸回巻体から解舒したガラスヤーン合撚糸により製織された、合撚糸のガラスクロス及び前記ガラスクロス又は合撚糸のガラスクロスを複合化した透明複合体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維に撚りを付与したガラスヤーンは、ガラスクロスの形態に製織されて、プリント配線基板や各種のFRP成形体を構成する材料として利用されている。このようなガラスヤーンは一般に以下のような工程で製造されている。
【0003】
予め所定組成となるように各種の無機原料やガラスカレットを所定比率で混合して作製したガラス原料バッチをガラス溶融炉内に投入し、加熱を行って溶融ガラスとし、均質化操作により均質な溶融状態とした後に複数の白金製ノズルを有するブッシングより引き出してガラスフィラメントを作製する。そして、このガラスフィラメントに常法により表面を被覆する各種薬剤からなる集束剤(サイジング剤とも称す)を塗布して、数十から数千本のガラスフィラメントを束ねてガラスストランドとし、ワインダーを有する巻き取り装置に装着されたチューブに巻き取り、ケーキあるいはチーズなどと称される半製品とする。以上の工程は一般に紡糸工程と呼ばれ、ガラス長繊維を製造する際の基本的な工程の1つである。
【0004】
次いでこのケーキの外層から巻き取られたガラスストランドを解舒しつつ加撚しながらスピンドルに固定されたボビンやビーム等に巻き取り、ガラスヤーン回巻体のパッケージとする。また合撚糸を得るには、ガラスヤーン回巻体から糸を取り出し再度、加撚する工程が必要となる。加撚を行ってガラスヤーン回巻体やガラスヤーン合撚糸回巻体を形成する工程は、一般に撚糸工程と呼ばれ、ケーキとして巻き取られたストランドは解舒しやすいこと、すなわちケーキの解舒性が良好であることが求められる。
【0005】
そしてガラスヤーン回巻体やガラスヤーン合撚糸回巻体のパッケージから、例えばプリント配線基板用の積層板のような特定用途の複合体組成物を製作するには、以下のような工程が必要となる。まずガラスヤーン回巻体やガラスヤーン合撚糸回巻体のパッケージから解舒されたガラスヤーンやガラスヤーン合撚糸をワーパーで整経し、糊付け機で二次サイズしてビームからルームビームに巻き取りこれを経糸とする。ガラスヤーン回巻体、または、ガラスヤーン合撚糸回巻体のパッケージを解舒して、これを緯糸に使用し、エアージェットルームなどを用いてガラスクロスを製織する。製織されたガラスクロスに付着している有機成分を加熱焼却することにより取り除き(加熱脱油)、シランカップリング剤を含む処理液に浸漬して乾燥した(表面処理)後、樹脂を含侵させ、積層して樹脂を硬化させることによってプリント配線基板用の積層板のような特定用途の複合体組成物が製造される。
【0006】
近年、電子部品工業の飛躍的な発展に支えられ、プリント配線基板はより軽量で薄型であって、しかも高密度実装が可能となるような種々の改善が行われてきた。このような取り組みの中で、プリント配線基板を構成する基本的な材料であるガラス繊維に対しても、種々の要求がなされ、その要求に見合う種々の改善が行われてきた。例えば、特許文献1には、プリント配線基板を成形する際に問題となるボイドの発生を防ぐための方法としてシランカップリング剤と塩化アンモニウムで処理することが開示されている。また特許文献2ではプリント配線基板が薄型化すると発生するソリ、ネジレ等を改善するためには一次サイジング剤としてエポキシ樹脂を使用し、水流加工で脱脂、開繊処理することで対応できるとする発明が行われている。さらに特許文献3では、絶縁抵抗の経時的変化の改善を目指すものとして水溶性ウレタン樹脂及び/または水溶性エポキシ樹脂を所定量ガラス表面に付着させるという発明も行われている。
【0007】
また、従来のプリプレグ製造工程やプリント基板製造工程を使用して、高い透明性が要求される液晶表示素子用プラスチック基板、有機EL表示素子用プラスチック基板、太陽電池用基板、タッチパネルなどに用いられるガラス繊維で補強した複合体シートや基板のような透明複合体組成物を作る発明も行われている。例えば、特許文献4では、ガラス繊維を使用するアッベ数45以上の透明複合体組成物が開示されている。また特許文献5では、エポキシ樹脂と複合化され、ヘイズ値が10%以下である樹脂シートが開示されている。
【特許文献1】特開平6−112608号公報
【特許文献2】特開平9−67757号公報
【特許文献3】特開平9−209233号公報
【特許文献4】特許第3728441号公報
【特許文献5】特開2004−51960号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これまで行われた発明だけでは、高い性能を有し、軽量で薄型のプリント配線基板等の各種複合体組成物を製造する際に利用される優れた品位を有するガラスヤーンを高い歩留まりで製造するのには問題がある。すなわちガラスヤーンを連続生産する際や解舒操作を行う際等に発生するフィラメントの切断による毛羽などの欠陥によって工程歩留まりが低下するため、ガラスヤーンの需要を賄うことのできる充分な必要量を潤沢に供給することができないという問題がある。
【0009】
またガラスヤーンを各種用途で使用する場合に加熱脱油工程が存在して工程を長大なものとしているため、ガラス表面に付着するサイジング剤を加熱脱油することなく使用することのできるサイジング剤であって、しかも上述のような課題を解決できるものが求められている。
【0010】
また、従来のプリプレグ製造工程やプリント基板製造工程を使用して、高い透明性が要求される液晶表示素子用プラスチック基板、有機EL表示素子用プラスチック基板、太陽電池用基板、タッチパネルなどに用いられるガラス繊維で補強した複合体シートや基板のような透明複合体組成物を作る場合、樹脂とガラス繊維の屈折率ndとアッベ数νdの光学恒数を一致させる必要があるが、通常のヤーンには樹脂との接着性が良くないデンプン系の集束剤が使用されているため、製織後にガラス繊維の集束剤を加熱脱油により除去する必要があり、この時の熱履歴によりガラス繊維の光学恒数が変化するため、透明複合体組成物に使用する樹脂の光学恒数をガラスクロスの熱履歴により調整する必要がある。
【0011】
本発明は、経糸整経後の二次サイズと製織後のガラスクロスの加熱脱油工程と表面処理工程を経なくとも高い表面性能を実現することのできるガラスヤーンを巻き取ったガラスヤーン回巻体と、このガラスヤーン回巻体を歩留まり高く採取することができるガラスヤーン回巻体の製造方法、そのガラスヤーン回巻体から解舒したガラスヤーンにより製織されたガラスクロス、解除したガラスヤーンを合撚したガラスヤーン合撚糸、ガラスヤーン合撚糸回巻体及びそのガラスヤーン合撚糸回巻体の製造方法、ガラスヤーン合撚糸回巻体から解舒したガラスヤーン合撚糸より製織された加熱脱油工程と表面処理工程が不要なガラスクロス、さらにこのガラスクロス又は合撚糸のガラスクロスを使用して製造される透明複合体組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち本発明のガラスヤーン回巻体は、ガラス長繊維のストランドに撚りが付与されたガラスヤーンがボビンに巻き取られているガラスヤーン回巻体であって、前記ガラスヤーンのストランドを構成するフィラメントの表面が、エポキシ樹脂、シランカップリング剤及びポリアミン誘導体系潤滑剤を含むサイジング剤により被覆されてなることを特徴とする。
【0013】
ここで、ガラス長繊維のストランドに撚りが付与されたガラスヤーンがボビンに巻き取られているガラスヤーン回巻体であって、前記ガラスヤーンのストランドを構成するフィラメントの表面が、エポキシ樹脂、シランカップリング剤及びポリアミン誘導体系潤滑剤を含むサイジング剤により被覆されてなるとは、所定の撚りが付与されたガラスヤーンであって、しかもガラスヤーンの表面にエポキシ樹脂、シランカップリング剤及びポリアミン誘導体系潤滑剤の3種類の薬剤を含有するサイジング剤が被覆された状態となっていることを表している。
【0014】
ガラスヤーンのストランドに撚りを付与するのは、撚りを付与することによってケーキの余分な水分を飛ばし、ストランドの結束性をより強くする効果を有するため行われるものである。このような効果を実現するためには、ガラス長繊維のストランドに0.01〜13回/インチの撚りが付与されたものとするのが好ましい。
【0015】
ガラス長繊維のストランドに所定の撚りが付与された状態にあることを確認する方法としては、例えばJIS R3420(ガラス繊維一般試験方法)に記載された方法により計測することができる。具体的には、検撚機を使用して、ボビンの側面からガラスヤーンの撚り数が変化することのないようにボビン等を回転させながら解舒したガラスヤーンの撚り数を計測することによって確認することができる。
【0016】
本発明に係るサイジング剤に含まれるエポキシ樹脂については、水溶性でも乳化されたエマルジョンでもよく、エポキシの構造はビスフェノールA型であってもノボラック型であっても差し支えないがエポキシ基を保持した構造となっている必要がある。エポキシ樹脂は、ストランドの結束性を高め、樹脂含浸性を向上させる効果を有するため好ましい。
【0017】
またエポキシ樹脂としてエチレンオキサイド付加ビスフェノールAを使用する場合には、エチレンオキサイドが40〜95質量%の範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは60質量%から90質量%の範囲とすることである。エチレンオキサイドが40質量%よりも少ないと水溶性が悪くなり、95質量%よりも大きいとストランドの結束性が弱くなり好ましくない。エチレンオキサイド付加ビスフェノールAを添加することで、繊維束はストランドの結束性を保ちつつストランドの滑性が向上し、ガラスヤーン回巻体の解舒性が良好となるので好ましい。その添加量はエポキシ樹脂1質量部に対し0.1〜10質量部であることが好ましく、更に好ましくは0.5質量部から5質量部の範囲内とすることである。
【0018】
また本発明に係るサイジング剤に含まれるシランカップリング剤については、例えばエポキシシラン、アミノシランでもよい。シランカップリング剤は、樹脂と接着させる効果を有するため添加される。
【0019】
また本発明に係るサイジング剤に含まれるポリアミン誘導体系潤滑剤のポリアミン誘導体については、脂肪酸から誘導したものが好ましく、さらに具体的に例示すればステアリン酸であることが好ましい。
【0020】
また本発明のガラスヤーン回巻体は、その形状がボビンと呼ばれる円柱状の軸体の周囲に無機ガラス長繊維のストランドに撚りを加えつつヤーンとして巻き取ったものであって、その外観形態は円錐型形状(ダブルテーパー形状ともいう)、牛乳瓶型形状(片テーパー形状ともいう)あるいはフランジ型形状(ダブルスクエア形状ともいう)のいずれであってもよく、ストランドの撚りの方向についてもS撚り(撚り方向が左ねじの方向の撚り)であってもZ撚り(撚り方向が右ねじの方向の撚り)であってもよい。
【0021】
本発明のガラスヤーン回巻体では、そのガラスヤーン回巻体の全体の寸法、すなわち軸方向長さや直径については、特に限定するものではない。またボビンの形状についても円柱状の軸体が一般的ではあるが、必要に応じて他の形態であってもよく、特に限定されるものではない。
【0022】
さらに本発明のガラスヤーン回巻体に巻き取られたガラスヤーンを構成するガラス長繊維の材質については、ガラスヤーン回巻体の仕様用途に応じてどのような材質のものであっても使用することができる。例えば、材質として無アルカリのEガラスと呼ばれる材質、低誘電率を実現するDガラスと呼ばれる材質、耐酸性を実現するCガラスと呼ばれる材質、耐アルカリ性能を実現するARガラスと呼ばれる材質、高弾性率を実現するMガラスと呼ばれる材質、高強度、高弾性率を実現するSガラスと呼ばれる材質、またSガラスと同様の機能を有するTガラスと呼ばれる材質、さらに高誘電率を有するHガラスと呼ばれる材質といった各種ガラス材質を採用することが可能で、さらに最適な機能を有するように設計された他の材質であっても支障ない。
【0023】
また本発明のガラスヤーン回巻体は、上述に加えサイジング剤として、pHが3から5.5の範囲内のガラスヤーン用一次集束剤がガラスヤーンのストランドを構成するフィラメントの表面に塗布されたものであるならば、適正なガラス強度が経時的に維持できるので好ましい。
【0024】
ここで、サイジング剤として、pHが3から5.5の範囲内のガラスヤーン用一次集束剤がガラスヤーンのストランドを構成するフィラメントの表面に塗布されたものであるとは、ガラスヤーン用一次集束剤として調整された薬剤についての水素イオン濃度指数の値が、3から5.5の範囲内にあり、それをガラスヤーンのストランドを構成するフィラメントの表面に均一に塗布された状態としていることを意味している。
【0025】
ガラスヤーン用一次集束剤のpHの値は、酸の添加により3から5.5の範囲内に調整することができ、この調整に使用する酸の種類としては、酢酸、蟻酸、あるいは塩酸等の公知の無機酸を適宜使用すればよい。pHの値が3より小さいと酸の反応性が強くなりすぎるため、ガラス表面が劣化しやすく、ガラス表面の強度が弱くなる場合があるので好ましくない。一方pHの値が5.5より大きい値になると集束剤の化学的な安定性が悪くなる場合があるので好ましくない。
【0026】
また本発明のガラスヤーン回巻体では、上述に加えサイジング剤中のエポキシ樹脂に対するポリアミン誘導体系潤滑剤の質量比が0.075から1.5の範囲内にあるものであれば、高い工程歩留まりを実現することができる。
【0027】
ここで、サイジング剤中のエポキシ樹脂に対するポリアミン誘導体系潤滑剤の質量比が0.075から1.5の範囲内にあるとは、サイジング剤中に含有されるポリアミン誘導体系潤滑剤の質量含有率をエポキシ樹脂の質量含有率で除した値が0.075から1.5の範囲内となることを表している。
【0028】
サイジング剤中のエポキシ樹脂に対するポリアミン誘導体系潤滑剤の質量比が0.075に満たないとガラスヤーンを製造する際の工程歩留まりが低下するため好ましくない。またサイジング剤中のエポキシ樹脂に対するポリアミン誘導体系潤滑剤の質量比が1.5を越えると糸質が柔らかくなり過ぎる、あるいは逆に固くなりすぎてしまい所望の調整が困難となる場合が多く所望の糸質とならない。
【0029】
また本発明のガラスヤーン回巻体は、上述に加えガラスヤーンのストランドを構成するフィラメント表面へのサイジング剤の強熱減量がガラスヤーンの質量に対して0.2質量%から3質量%の範囲内にあるならば、ガラスヤーン表面に適度な表面張力が付与された状態とすることができ、ガラスヤーン同士の摩擦力を適正なものとできる。
【0030】
ここで、ガラスヤーンのストランドを構成するフィラメント表面へのサイジング剤の強熱減量が0.2質量%から3質量%の範囲内にあるとは、ガラスヤーンの質量値に対し、その表面に固着したサイジング剤のフィルム質量値を質量%で表示した場合に、0.2質量%から3質量%の範囲内となることを意味している。
【0031】
ガラスヤーンのフィラメント表面へのサイジング剤の強熱減量は、0.2質量%から3質量%の範囲内であることが好ましく、サイジング剤のガラス表面への強熱減量が0.2質量%よりも小さいとガラスヤーンの毛羽特性や飛走性が悪くなり、一方サイジング剤の強熱減量が3質量%よりも大きいとケーキからのガラスストランドの解舒性やガラスヤーン回巻体からの解舒が悪くなる。
【0032】
本発明に係るサイジング剤の強熱減量については、JIS R3420(2006)に従う強熱減量の測定方法に従い測定することができる。
【0033】
また本発明のガラスヤーン回巻体は、上述に加え所定の性能を実現するため、他の薬剤をガラス繊維表面に付着させるのを妨げるものではない。必要に応じてガラスヤーン表面に帯電防止剤、酸化防止剤などを複数種の薬剤を必要量だけ添加したサイジング剤として被覆させることができる。
【0034】
本発明のガラスヤーン回巻体の製造方法は、ブッシングから紡糸されたフィラメントの表面に、エポキシ樹脂、シランカップリング剤及びポリアミン誘導体系潤滑剤を含むサイジング剤を塗布し、複数本の該フィラメントを集束してストランドとし、該ストランドに撚りをかけてガラスヤーンとし、該ガラスヤーンをボビンに巻き取ることによって上記のガラスヤーン回巻体を製造することを特徴とする。
【0035】
ここで、ブッシングから紡糸されたフィラメントの表面に、エポキシ樹脂、シランカップリング剤及びポリアミン誘導体系潤滑剤を含むサイジング剤を塗布し、複数本の該フィラメントを集束してストランドとし、該ストランドに撚りをかけてガラスヤーンとし、該ガラスヤーンをボビンに巻き取ることによって上記のガラスヤーン回巻体を製造するとは、白金製ブッシングから引き出したガラス製フィラメントにガラスヤーン用一次集束剤として上記のようなサイジング剤を塗布し、チューブに巻き取り、次いでこのケーキの外層から巻き取られたガラスストランドを解舒しつつ加撚しながらスピンドルに固定されたボビンやビーム等に巻き取り、上記の何れかのガラスヤーン回巻体を製造することを表している。
【0036】
また、白金製ブッシングから引き出したガラス製フィラメントにガラスヤーン用一次集束剤として請求項1から請求項3の何れかに記載のようなサイジング剤を塗布し、チューブに巻き取り、次いでこのケーキの外層から巻き取られたガラスストランドを解舒しつつ加撚しながらスピンドルに固定されたボビンやビーム等に巻き取り、上記の何れかのガラスヤーン回巻体を製造するとは、複数のノズルを有する白金よりなるブッシングより所定のガラス組成の溶融ガラスを引き出してフィラメントにし、その表面にガラスヤーン用一次集束剤を塗布してチューブに巻き取り、次いでこのケーキの外層から巻き取られたガラスストランドを解舒しつつ加撚しながらガラスヤーン回巻体を成形するということである。
【0037】
ガラスヤーン用一次集束剤としてのサイジング剤の被覆方法については、どのような方法であってもガラスモノフィラメントの表面を均一に被覆することができる方法であれば採用することができる。例えば噴霧法や浸漬法、塗布法などを適宜選択して使用することができる。またガラス繊維の集束方法についても特段の限定は不要である。
【0038】
また巻き取り方法やそれに使用するための巻き取り装置についても、所定速度で安定した巻き取り動作ができるものであれば、特に限定するものではない。
【0039】
本発明のガラスクロスは、上記の請求項1から請求項3の何れかに記載のガラスヤーン回巻体から解舒したガラスヤーンを用いて製織することにより得られるものであることを特徴とする。
【0040】
ここで、ガラスヤーン回巻体から解舒したガラスヤーンを用いる製織により得られるものであるとは、ストランド表面がエポキシ樹脂、ポリアミン誘導体系潤滑剤及びシランカップリング剤とを含むサイジング剤で被覆されてなり、かつ、所定の撚りが付与された0.5〜135texのガラスヤーンを巻き取ったガラスヤーン回巻体から解舒したガラスヤーンを製繊することで得られるガラスクロスであることを表している。
【0041】
製織の方法については、公知の種々の方法を採用することができ、必要に応じて他材料と併用することもできる。また織形態についても特に限定されるものではない。平織り他の種々の織り形態を適宜採用することができる。
【0042】
本発明のガラスヤーン合撚糸は、上記の請求項1から請求項3の何れかに記載のガラスヤーン回巻体から解舒した複数本のガラスヤーンが合撚されてなることを特徴とする。
【0043】
ここで、上記のガラスヤーン回巻体から解舒した複数本のガラスヤーンが合撚されてなるとは、ストランド表面がエポキシ樹脂、ポリアミン誘導体系潤滑剤及びシランカップリング剤とを含むサイジング剤で被覆されてなり、かつ、0.01〜13回/インチの撚りが付与された0.5〜135texのガラスヤーンを巻き取ったガラスヤーン回巻体から解舒したガラスヤーンを使用して合撚されたガラスヤーン合撚糸であることを表している。
【0044】
ここで、ガラスヤーン合撚糸を構成するガラスヤーンについては、上述のように複数の本発明のガラスヤーンを合わせて撚りをかけたものを表している。すなわち、ガラスヤーンという言葉には、広義のガラスヤーンと狭義のガラスヤーンがあり、広義のガラスヤーンではガラスヤーン合撚糸と狭義のガラスヤーンを含む定義が用いられるが、本願ではこの広義のガラスヤーンに含まれる狭義のガラスヤーンとガラスヤーン合撚糸とを区別している。よって本発明では、広義のガラスヤーンに含まれる狭義のガラスヤーンを単にガラスヤーンと呼称している。
【0045】
ガラスヤーン合撚糸の撚りの方向については、ガラスヤーンと同様にS撚り(撚り方向が左ねじの方向の撚り)であってもZ撚り(撚り方向が右ねじの方向の撚り)であってもよい。
【0046】
本発明のガラスヤーン合撚糸回巻体は、上記の請求項6に記載のガラスヤーン合撚糸がボビンに巻き取られてなることを特徴とする。
【0047】
ここで、ガラスヤーン合撚糸がボビンに巻き取られてなるとは、ストランド表面がエポキシ樹脂、ポリアミン誘導体系潤滑剤及びシランカップリング剤とを含むサイジング剤で被覆され、かつ、所定の撚りが付与された0.5〜135texのガラスヤーンを巻き取ったガラスヤーン回巻体から解舒したガラスヤーンを使用して合撚されたガラスヤーン合撚糸をボビンに巻き取ることによって構成されたものであることを表している。
【0048】
ボビンの形態については、ガラスヤーン用のボビン同様の材質、形態のものを使用することができ、特段の変更は要しない。
【0049】
本発明のガラスヤーン合撚糸回巻体の製造方法は、上記の請求項6に記載のガラスヤーン合撚糸をボビンに巻き取ることによってガラスヤーン合撚糸回巻体を製造することを特徴とする。
【0050】
ここで、上記のガラスヤーン合撚糸をボビンに巻き取ることによってガラスヤーン合撚糸回巻体を製造するとは、ストランド表面がエポキシ樹脂、ポリアミン誘導体系潤滑剤及びシランカップリング剤とを含むサイジング剤で被覆され、かつ、所定の撚りが付与された0.5〜135texのガラスヤーンを巻き取ったガラスヤーン回巻体から解舒したガラスヤーンを使用して合撚されたガラスヤーン合撚糸を上記したようなボビンに連続的に巻き取ることでガラスヤーン合撚糸回巻体を製造することを表している。
【0051】
本発明のガラスクロスは、上記のガラスヤーン合撚糸回巻体から解舒したガラスヤーン合撚糸を用い製織されてなることを特徴とする。
【0052】
ここで、上記のガラスヤーン合撚糸回巻体から解舒したガラスヤーン合撚糸を用い製織されてなるとは、ストランド表面がエポキシ樹脂、ポリアミン誘導体系潤滑剤ビスフェノールA及びシランカップリング剤とを含むサイジング剤で被覆され、かつ、所定の撚りが付与された0.5〜135texのガラスヤーンを巻き取ったガラスヤーン回巻体から解舒したガラスヤーンを使用して合撚されたガラスヤーン合撚糸回巻体から解舒したガラスヤーン合撚糸を製織することで得られるガラスクロスであることを表している。
【0053】
製織の方法については、上記のガラスヤーンの場合と同様に公知の種々の方法を採用することができ、必要に応じて他材料と併用することもできる。また織形態についても特に限定されるものではない。平織り他の種々の織り形態を適宜採用することができる。
【0054】
本発明の透明複合体組成物は、上記の請求項5に記載のガラスクロス又は請求項9に記載の合撚糸のガラスクロスと、これらとの屈折率ndの差が0.01以内、アッベ数νdの差が5以内の光学恒数を有する樹脂とを組み合わせたものであることを特徴とする。
【0055】
ここで、ガラスクロス又は合撚糸のガラスクロスと、樹脂との屈折率ndの差が0.01以内、アッベ数νdの差が±5以内の光学恒数を有するとは、He光源による波長587.56nmのスペクトル光線(d線)に対するガラスの屈折率と硬化後の樹脂の屈折率の差が0.01以内にあり、しかもH光源による波長486.13nmのスペクトル光線(F線)の屈折率(nF)の値からH光源による波長656.27nmのスペクトル光線(C線)の屈折率(nC)の値を差し引いた数値を分母とし、屈折率(nd)から1を差し引いた値を分子として算出する値、すなわち(nd−1)/(nF−nC)として定義されるアッベ数の値のガラスクロス又は合撚糸のガラスクロスと硬化後の樹脂の差が5以内にあることを表している。
【0056】
ガラスクロスと樹脂の屈折率ndの差が0.01より大きくなるとガラス繊維と樹脂の界面での反射率が多くなり、複合体組成物の透明性が損なわれるため好ましくない。
【0057】
また、アッベ数νdの差が5より大きくなると、587.56nm以外の波長の可視光線でのガラス繊維と樹脂界面での反射ロスが大きくなり、複合体組成物に青、赤、あるいは紫等の色づきが生じるため好ましくない。
【0058】
ガラスクロス又は合撚糸のガラスクロスと樹脂との屈折率ndの差が0.01以内であり、しかもアッベ数νdの差が5以内となるように調整するには、上述したようにフィラメントの表面のエポキシ樹脂、シランカップリング剤及びポリアミン誘導体系潤滑剤を含むサイジング剤を適正に調整し、このサイジング剤がガラスクロスに被覆された状態となっていればよい。すなわちエポキシ樹脂、シランカップリング剤及びポリアミン誘導体系潤滑剤については、そのより好ましい条件に関しても上述したと同様であり、さらに加えて光学恒数についても留意するということである。
【0059】
ガラスクロス又は合撚糸のガラスクロスと樹脂との屈折率ndの差が0.01以内、アッベ数νdの差が5以内の光学恒数を有することを確認する手段としては、JIS K 7142(1996)「プラスチックの屈折率測定方法」に記載のA法のアッベ屈折計を使用する方法、及びB法のベッケ線法により計測することができる。
【0060】
本発明の透明複合体組成物は、上述に加えエレクトロニクス用途の基板材や光デバイス等、あるいは各種の高機能性構造材等として利用されるものであれば、光学的な透明性に加え、強度などの耐久性や優れた電気性能などを様々な用途で充分に発揮することができる。
【発明の効果】
【0061】
(1)以上のように、本発明のガラスヤーン回巻体は、ガラス長繊維のストランドに撚りが付与されたガラスヤーンがボビンに巻き取られているガラスヤーン回巻体であって、前記ガラスヤーンのストランドを構成するフィラメントの表面が、エポキシ樹脂、シランカップリング剤及びポリアミン誘導体系潤滑剤を含むサイジング剤により被覆されてなるものであるため、ガラスクロスを製織する場合に経糸成形後の二次サイズと製織後のガラスクロスの加熱脱油工程と表面処理工程とを省略することができ、安価なガラスクロスを製造することができる。
【0062】
(2)また本発明のガラスヤーン回巻体は、エポキシ樹脂に対するポリアミン誘導体系潤滑剤の質量比が0.075から1.5の範囲内にあるものであれば、ガラスヤーン表面に塗布されて被覆したサイジング剤の皮膜が、経時的に劣化等することなく長期間に亘り安定した表面性能を発揮することができる。
【0063】
(3)さらに本発明のガラスヤーン回巻体は、ガラスヤーンの質量に対するサイジング剤の付着率が0.2質量%から3質量%の範囲内にあるものであれば、ガラスヤーン表面の性状を所定範囲とすることで、巻き取り操作や製織操作等で各種条件設定を変更することなく安定した操作が可能となるものである。
【0064】
(4)本発明のガラスヤーン回巻体の製造方法は、ブッシングから紡糸されたフィラメントの表面に、エポキシ樹脂、シランカップリング剤及びポリアミン誘導体系潤滑剤を含むサイジング剤を塗布し、複数本の該フィラメントを集束してストランドとし、該ストランドに撚りをかけてガラスヤーンとし、該ガラスヤーンをボビンに巻き取ることによって上述のガラスヤーン回巻体を製造するものであるため、大きな工程の変更を行うことなく従来開発された各種設備を使用することによって、効率的な製造方式によって製造時に発生する不良等を最小限に抑制することができ、高い品位のガラスヤーン回巻体を得ることができるものである。
【0065】
(5)本発明のガラスクロスは、上述のガラスヤーン回巻体から解舒したガラスヤーンを用いて製織することにより得られるものであるため、欠陥の少ない均質なガラスクロスであって、プリント配線基板等の高密度実装を必要とする用途においても安定した性能を発揮することが可能である。
【0066】
(6)本発明のガラスヤーン合撚糸は、上述のガラスヤーン回巻体から解舒した複数本のガラスヤーンが合撚されてなるため、毛羽などの欠陥などの少なく、品質が長期安定した均質な合撚糸であって、製紐、製織、編組工程を必要とする用途においても安定した性能を発揮することが可能である。
【0067】
(7)本発明のガラスヤーン合撚糸回巻体は、上述のガラスヤーン合撚糸がボビンに巻き取られてなるため、安定した品位を有するガラスヤーン合撚糸を潤沢に供給するに相応しいものである。
【0068】
(8)本発明のガラスヤーン合撚糸回巻体の製造方法は、上述のガラスヤーン合撚糸をボビンに巻き取ることによってガラスヤーン合撚糸回巻体を製造するものであるため、効率的な製造が可能であり、優れた品位の各種のガラスヤーン合撚糸回巻体を得ることができ、顧客の要望に応えることができる。
【0069】
(9)本発明の合撚糸のガラスクロスは、上述のガラスヤーン合撚糸回巻体から解舒したガラスヤーン合撚糸を用いて製織されてなるものであるため、種々の欠陥が抑制された均質なガラスクロスであって、プリント配線基板等の高密度実装を必要とする用途においても安定した性能を発揮することが可能である。
【0070】
(10)本発明の透明複合体組成物は、上述のガラスクロス又は合撚糸のガラスクロスと、これらとの屈折率ndの差が0.01以内、アッベ数νdの差が5以内の光学恒数を有する樹脂とを組み合わせたものであるため、一般的なデンプン系の集束剤を使用したガラスヤーンを用いたガラスクロスと異なり、製織後にガラス繊維の集束剤を加熱脱油により除去する必要がなく、ガラスクロスの屈折率nd、アッベ数νdの光学恒数が製造工程で変化することがなく、透明複合体組成物に使用する樹脂の光学恒数の調整頻度を減少させることができる。このため優れた性能の透明複合体組成物を効率よく製造することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0071】
以下に本発明のガラスヤーン回巻体とその製造方法、及びガラスヤーン回巻体を利用するガラスクロス、及び透明複合体組成物に関して、実施例に基づいて説明する。
【実施例】
【0072】
[実施例1]まず、Eガラス組成となるように調整したガラス原料を加熱溶融して均質化した後に、直径9.2μmのガラス製フィラメントとなるように白金製ノズルを有するブッシングより引き出す。そしてその表面に予め調整したサイジング剤としてガラスヤーン用一次集束剤を塗布する。
【0073】
このガラスヤーン用一次集束剤は、固形分換算で、水溶性エポキシ変性物を1.0質量%、ビスフェノールAが付加したエチレンオキサイドを2.0質量%、エポキシシランカップリング剤を0.3質量%、ポリアミン誘導体を0.5質量%、酢酸を0.05質量%含み、残りが水よりなる集束剤となるように調製したものである。この集束剤のpHを計測すると、その値は4.5であった。
【0074】
次いで、ガラスヤーン用一次集束剤の塗布された直径9.2μmのEガラスのガラスフィラメント400本(69tex)を集束したストランドをチューブに巻き取りケーキとした後、ケーキからストランドを解舒して、Z方向に1回/インチの撚り(以後1Zと表記する。)を付与しつつ撚糸を行い、ガラスヤーンを作製しガラスヤーンボビンに巻き取ってガラスヤーン回巻体を形成した。ガラス繊維に対する集束剤の強熱減量は0.40%であった。またフィラメント表面を被覆するエポキシ樹脂に対するポリアミン誘導体系潤滑剤の質量比は、0.5であった。
【0075】
さらに、このガラスヤーンを用いてワーパーで整経して、二次サイズを行わず経糸とし、同ガラスヤーンを緯糸として高速エアージェット織機で平織りしてガラスクロスを製織した。
【0076】
以上のような工程で得られたガラスヤーン回巻体に巻き取られたガラスヤーンの性能と得られたガラスクロスの性能について、表1にまとめる。この表で、ガラスヤーン回巻体の解舒性については、ガラスヤーン回巻体からガラスヤーンを解舒させて糸切れ等の問題が発生することなく撚糸できたものを「良」、解舒中における糸切れ等により撚糸できなかったものを「悪」と表示している。
【0077】
【表1】

【0078】
以上のような工程で得られたガラスヤーン回巻体に巻き取られたガラスヤーンの性能と得られたガラスクロスの性能について、表1にまとめる。この表で、ガラスヤーン回巻体の解舒性については、ガラスヤーン回巻体からガラスヤーンを解舒させて糸切れ等の問題が発生することなく撚糸できたものを「良」、解舒中における糸切れ等により撚糸できなかったものを「悪」と表示している。
【0079】
また飛走性については、津田駒工業(株)製造のエアージェットルーム(ZA)を用いてショートなど織り欠点の発生しなかったものを「○」、織り工程でショートやループ等の織り欠点の発生したものを「×」と表示した。
【0080】
毛羽特性については、ストランドを100m/minの速度で解舒してテンションバーを通した後に、糸切れや毛羽が発生しなかったものを「GOOD」、毛羽の発生や糸切れ等により使用上問題のあるものを「BAD」とした。以上の結果をヤーンの性能として表1にまとめた。
【0081】
さらに、表2はこのガラスヤーンをガラスクロスに製織した後のガラスクロスの性能についてまとめたものである。この表中で引張強度については、ヤーンを平織りに製織することによって得られたガラスクロスの引張強度について、JISに準拠する計測方法によって計測し、その値を従来技術により作成された以下の比較例1に示す試料No.3のガラスクロスについての引張強度を100としたときの相対値として表している。
【0082】
【表2】

【0083】
また、このガラスクロスを加熱脱油工程と表面処理工程を施すことなくJIS規格によるFR−4タイプのエポキシ樹脂ワニスを含浸させて、プレス硬化してプリプレグ試験片を作製した。このプリプレグ試験片について、プレッシャークッカー試験装置を使用して、高温高圧環境で、すなわち133℃、2気圧の条件下に保持して72時間後の吸水率の測定、および白化現象の目視観察によって、外観上問題ないものを「吸水及び白化」の欄に「OK」、吸水率が高く白化したものを「白化」と表示した。この結果についても表2に示す。
【0084】
またこの表中の工程処理時間については、従来技術すなわち比較例1に示す試料No.3についてのガラスストランドからガラスクロスが仕上がるまでに要した時間、つまり工程処理時間を100とした場合の相対的な時間を表している。
【0085】
表1からも判るように、実施例1については、ガラスヤーン回巻体の解舒性については糸切れが認められず良好であり、またその飛走性についてもエアージェットルームで何ら問題が認められず、さらにテンションバーを通した後でも糸切れや毛羽が発生しないものであり、良好な品位を有するものであった。
【0086】
さらにこのガラスヤーンを製織してガラスクロスとした後の性能についても、本発明のガラスクロスである実施例1については、上述した評価の結果、表2に表されるように「吸水及び白化」の項目については問題のないものであり、工程処理時間も従来に対して7割に短縮することができた。
【0087】
[実施例2]次に実施例2として、実施例1と同様のEガラス製フィラメントを使用し、その表面にガラスヤーン用一次集束剤を塗布した。固形分換算で、水溶性エポキシ変性物を1.0質量%、ビスフェノールAが付加したエチレンオキサイドを2.0質量%、エポキシシランカップリング剤を0.3質量%、ポリアミン誘導体を0.5質量%、パラフィンワックスを0.5質量%、酢酸を0.05質量%含み、残りが水よりなる集束剤となるように調製したものである。この集束剤のpHを計測すると、その値は4.5であった。またフィラメント表面を被覆するエポキシ樹脂に対するポリアミン誘導体系潤滑剤の質量比は、0.5であった。
【0088】
得られたガラスヤーンを用い、ワーパーで整経して二次サイズを行わず経糸とし、同ガラスヤーンを緯糸として高速エアージェット織機で平織りしてガラスクロスを得た。ガラスヤーン回巻体の解舒性と製織時のヤーンの飛走性と毛羽特性については、実施例1と同様に表1にまとめる。
【0089】
ガラスクロスの引張強度については実施例1と同様の評価結果を表2に示す。またこのガラスクロスを加熱脱油工程と表面処理工程を施すことなくJIS規格によるFR−4タイプのエポキシ樹脂ワニスを含浸させ、プレス硬化させプリプレグ試験片とした。このプリプレグ試験片を実施例1同様の条件下での吸水率と白化現象を確認した結果についても表2の「吸水及び白化」の欄に示す。工程処理時間についても実施例1と同様の相対値を表2に示す。
【0090】
表1及び表2の結果からも明らかなように実施例2の試料No.2に関してもガラスヤーン回巻体の解舒性は糸切れが認められず良好なものであり、またその飛走性もエアージェットルームで何ら問題となることはなく、テンションバーを通した後でも糸切れや毛羽が発生せず、良好な品位を有するものであることが確認できた。
【0091】
[比較例1]次いで本発明の比較例として、実施例1と同様のEガラス製フィラメントを使用して、その表面にサイジング剤としてガラスヤーン用一次集束剤を塗布した。このガラスヤーン用一次集束剤は、固形分換算で、ヒドロキシプロピル化ハイアミロースコーンスターチを4.00質量%、ヒドロキシプロピル化ノーマルコーンスターチを1.00質量%、植物性油のエマルジョンを0.8質量%、イミダゾール誘導体を0.80質量%、パラフィンワックスを0.8質量%含み、残りが温水よりなる集束剤となるように調製したものである。
【0092】
調製された集束剤は前記したように、直径9.2μmのEガラスのガラスフィラメント400本(69tex)に塗布して集束したストランドを紙管に巻き取りケーキとした後、ケーキからストランドを解舒し、前記したように1Zの条件で撚糸を行い、ガラスヤーンを作製しガラスヤーンボビンに巻き取った。ガラス繊維に対する集束剤の付着量は1.0質量%であった。次に、紡糸されたケーキを撚糸機で1Zの撚りをかけながら巻返し、ガラスヤーンを作製した。pHの計測値は、4.8であった。
【0093】
このガラスヤーンをワーパーで整経し、糊付け機で糊付けし、経糸とした。同ガラスヤーンを緯糸として高速エアージェット織機で平織りして生機ガラスクロスを得た。ガラスヤーン回巻体の解舒性と製織時のヤーンの飛走性と毛羽特性については、実施例と同様に評価を行い、その結果を表1に示す。得られた生機ガラスクロスを加熱脱油、表面処理を行った後のガラスクロスの引張強度を100として表2に示す。次いでこのガラスクロスをJIS規格によるFR−4タイプのエポキシ樹脂ワニスを含浸させ、プレス硬化させプリプレグとした。このガラスクロスから作製したプリプレグ試験片の吸水率と白化現象を確認した結果についても表2に示す。さらに工程処理時間についても表2に表す。
【0094】
表1及び表2から明らかなように、比較例1の試料No.3は、それなりの性能を実現できるものではあるが、加熱脱油、表面処理といった工程を経る必要性があるため、工程処理時間として実施例に比較すると長時間を要する工程とならねばならず、そのため効率的な製造を行い難いものであって、製造原価の上昇を伴うものであった。
【0095】
[比較例2]さらに他の比較例として、ガラスヤーン用一次集束剤として水溶性エポキシ変性物を添加しない以外は実施例1と同じ集束剤を調合した。この集束剤のpHは、計測すると4.7であった。このようにして調製された集束剤を直径9.2μmのEガラスのガラスフィラメント400本(69tex)に塗布して集束したストランドを紙管に巻き取りケーキとした後、ケーキからストランドを解舒し、1Zの条件で撚糸を行い、ガラスヤーンを作製しガラスヤーンボビンに巻き取り回巻体とした。このガラスヤーンのガラス繊維に対する集束剤の強熱減量は0.35質量%であった。次いでこのガラスヤーンを用いてワーパーで整経し、二次サイズを行わず経糸とし、同ガラスヤーンを緯糸として高速エアージェット織機で平織りしてガラスクロスを得た。ガラスヤーン回巻体の解舒性と製織時のヤーンの飛走性と毛羽特性とについては、表1に示す。
【0096】
表1及び表2の結果から明らかなように、比較例2の試料No.4については、ガラスヤーン回巻体の解舒性と飛走性については問題のないものであったが、テンションバーを通した後に毛羽や糸切れが多発し、実使用時には製品の品質が低下するものであることが判明した。
【0097】
[比較例3]さらに比較例3としてガラスヤーン用一次集束剤について、ポリアミン誘導体を添加しない以外は実施例1と同じ集束剤を調合、準備した。この集束剤のpHを計測したところ、その値は4であった。そして実施例と同様の手順で集束剤を直径9.2μmのEガラスのガラスフィラメント400本(69tex)に塗布して集束したストランドを紙管に巻き取りケーキとした。こうして得られたガラス繊維に対する集束剤の付着量は0.35質量%であった。この試料No.5の評価結果について、先と同様に表1及び表2にまとめた。
【0098】
表1及び表2の結果から明らかなように、比較例3の試料No.5については、ガラスヤーン回巻体の解舒性が悪く、実使用で使用するには問題のあるもので製品の品質が低下するものであることが判明した。
【0099】
[比較例4]次いで、ガラス繊維に対する集束剤の強熱減量が0.19質量%と低い値となったこと以外については、実施例1と同様の条件で製造されたガラスヤーンについて、上述と同様の評価を行った。そして、このガラスヤーンを使用し、ワーパーで整経し、二次サイズを行わず経糸とし、同ガラスヤーンを緯糸として高速エアージェット織機で平織りしてガラスクロスを得た。ガラスヤーン回巻体の解舒性と製織時のヤーンの飛走性、及び毛羽特性について、表1に示す。
【0100】
比較例4の試料No.6は、ガラスヤーン回巻体の解舒性は良好であったが、飛走性については、ショートなどの欠点が認められるものであった。またテンションバーを通した後に、糸切れや毛羽が多発するもので、ガラスストランドの品位は良いものではなかった。
【0101】
[比較例5]また比較例5として、試料No.7については、その集束剤としてエポキシシランカップリング剤を添加しない以外は実施例1と同じ集束剤を調合した。この集束剤のpHは4.7であった。
【0102】
調製された集束剤は、実施例同様にEガラスのガラスフィラメント400本(69tex)に塗布した。そして集束されたストランドは紙管に巻き取りケーキとした後、ケーキからストランドを解舒し、1Zの条件で撚糸を行い、ガラスヤーンを作製しガラスヤーンボビンに巻き取った。このガラスヤーンについては、ガラス繊維に対する集束剤の強熱減量は0.45質量%であった。
【0103】
このガラスヤーンについても前記と同様にワーパーで整経し、二次サイズを行わず経糸とし、同ガラスヤーンを緯糸として高速エアージェット織機で平織りしてガラスクロスを得た。ガラスヤーン回巻体の解舒性と製織時のヤーンの飛走性と毛羽特性の評価結果については、表1に示す。また、得られたガラスクロスの引張強度の相対値を表2に示す。
【0104】
このガラスクロスは、加熱脱油工程と表面処理工程を施すことなくJIS規格によるFR−4タイプのエポキシ樹脂ワニスを含浸させ、プリプレグ試験片とした。このプリプレグ試験片を前記同様の条件、すなわち133℃で2気圧のプレッシャークッカー試験装置で72時間保持後に、その吸水率と白化現象を確認した結果を表2に示す。工程処理時間は前記同様に相対値として表2に表す。
【0105】
表1及び表2からも判明するように、この試験No.7については、ガラスヤーン回巻体の解舒性、飛走性、さらに毛羽特性は良好なものであった。そして引張強度も低いものではあるが従来と同等の数値を示した。しかしながらプリプレグ試験片によるプレッシャークッカー試験を行ったところ、吸水率が高く、その結果白化現象が顕著に認められ性能の低い状態にあることが判明した。
【0106】
[実施例3]さらに上述した実施例1及び2のガラスヤーンを使用して合撚を行い、得られたガラスヤーン合撚糸をボビンに巻き取ってガラスヤーン合撚糸回巻体を得た。このガラスヤーン合撚糸回巻体を構成するガラスヤーン合撚糸のストランドの撚りはZ方向に4.4回/インチであった。このガラスヤーン合撚糸回巻体より解舒したガラスヤーン合撚糸を用いることによって製織を行ったクロスを用い、JIS規格によるFR−4タイプのエポキシ樹脂ワニスを含浸させ、プリプレグ試験片とした。このプリプレグ試験片を前記同様の条件、すなわち133℃で2気圧のプレッシャークッカー試験装置で72時間保持後に、その吸水率と白化現象を確認した結果も上述の表2の実施例に示すものと同様の結果が得られた。
【0107】
[実施例4]次に実施例4として、SiO2 51.0%、Al23 2.0%、B23 1.0%、MgO 3.0%、SrO 4.2%、BaO 10.0%、ZnO 4.0%、Li2O 2.6%、Na2O 5.2%、K2O 8.0%からなる組成のガラスであること意外は実施例1と同様の方法でガラスクロスを作製した。ガラスクロスの屈折率とアッベ数は、それぞれJIS K 7142(1996)に従い計測したところ、1.597、アッベ数νdは45であった。このガラスクロスは加熱脱油工程と表面処理工程を施すことなく通常のプリプレグ製造工程で硬化後の屈折率ndが1.596、アッベ数νdが44のエポキシ樹脂を含浸させてシート状の透明複合組成物を作成した。ガラスクロスとの屈折率ndの差が0.01以内、アッベ数νdの差が5以内の光学恒数を有するエポキシ樹脂とを組み合わせたものであるため、得られた透明複合組成物は色づきもなく、透明性は良好であった。
【0108】
ここでは、樹脂としてエポキシ樹脂を使用したが、用途に応じて他の適正な樹脂を選択することができ、ガラスクロスと樹脂とを複合化する方法についても適正な様々な方法を採用できるのは言うまでもない。また使用できる樹脂には、特定の性能の向上や樹脂の性質改善、あるいは複合化を容易にするための他の複数の材料、助剤などを添加することも最終的な本発明の透明複合組成物の機能を損なわなければ任意に行える。またガラスクロスに代えて合撚糸のガラスクロスを使用する場合であっても、上記同様の結果、すなわち得られた透明複合組成物は色づきもなく、透明性は良好であることを確認することができた。
【0109】
以上に示したように、本発明のガラスヤーン回巻体は、そのガラスヤーンを使用した経糸整経後の二次サイズと製織後のガラスクロスの加熱脱油工程と表面処理工程を省略することができ、加熱脱油工程で起こるガラスクロスの強度低下を防止することができるものであり、高い表面性能を有するガラスクロスを実現するものである。また加熱脱油工程と表面処理工程を省略することができ、これによりガラスクロス製造工程処理時間の短縮化が可能となることが明瞭となった。また、透明樹脂複合体を製造する際に使用するガラスクロスの屈折率の変動が小さいため、使用する樹脂の光学恒数の調整を減少させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス長繊維のストランドに撚りが付与されたガラスヤーンがボビンに巻き取られているガラスヤーン回巻体であって、
前記ガラスヤーンのストランドを構成するフィラメントの表面が、エポキシ樹脂、シランカップリング剤及びポリアミン誘導体系潤滑剤を含むサイジング剤により被覆されてなることを特徴とするガラスヤーン回巻体。
【請求項2】
サイジング剤中のエポキシ樹脂に対するポリアミン誘導体系潤滑剤の質量比が0.075から1.5の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載のガラスヤーン回巻体。
【請求項3】
ガラスヤーンの質量に対するサイジング剤の強熱減量が0.2質量%から3質量%の範囲内にあることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のガラスヤーン回巻体。
【請求項4】
ブッシングから紡糸されたフィラメントの表面に、エポキシ樹脂、シランカップリング剤及びポリアミン誘導体系潤滑剤を含むサイジング剤を塗布し、複数本の該フィラメントを集束してストランドとし、該ストランドに撚りをかけてガラスヤーンとし、該ガラスヤーンをボビンに巻き取ることによって請求項1から請求項3の何れかに記載のガラスヤーン回巻体を製造することを特徴とするガラスヤーン回巻体の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項3の何れかに記載のガラスヤーン回巻体から解舒したガラスヤーンを用いて製織することにより得られるものであることを特徴とするガラスクロス。
【請求項6】
請求項1から請求項3の何れかに記載のガラスヤーン回巻体から解舒した複数本のガラスヤーンが合撚されてなることを特徴とするガラスヤーン合撚糸。
【請求項7】
請求項6に記載のガラスヤーン合撚糸がボビンに巻き取られてなることを特徴とするガラスヤーン合撚糸回巻体。
【請求項8】
請求項6に記載のガラスヤーン合撚糸をボビンに巻き取ることによってガラスヤーン合撚糸回巻体を製造することを特徴とするガラスヤーン合撚糸回巻体の製造方法。
【請求項9】
請求項7に記載のガラスヤーン合撚糸回巻体から解舒したガラスヤーン合撚糸を用いて製織されてなるものであることを特徴とする合撚糸のガラスクロス。
【請求項10】
請求項5に記載のガラスクロス又は請求項9に記載の合撚糸のガラスクロスと、これらとの屈折率ndの差が0.01以内、アッベ数νdの差が5以内の光学恒数を有する樹脂とを組み合わせたものであることを特徴とする透明複合体組成物。

【公開番号】特開2008−169101(P2008−169101A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−152287(P2007−152287)
【出願日】平成19年6月8日(2007.6.8)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】