説明

ガラス母材の製造方法

【課題】 排気ラインを損傷させることなく高温の排気ガスを排気することができるガラス母材の製造方法を提供する。
【解決手段】 高温の排気ガスを排気する際に、まず初期段階での排気を2系統設けられている排気管のうちの細管20a(例えば、内径10〜20mm程度)で行うことにより、排気量を抑えて高温ガスの排気を行う。そして、ある程度排気ガスの温度が低下したら太管20b(例えば、内径100〜150mm程度)による排気を開始するようにする。これにより、排気管28a、28bや弁24、27および接続部のパッキン等を損傷させることなく高温の排気ガスを排気することができることになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガラス母材の製造方法に係り、例えば多孔質ガラス微粒子体を加熱して透明化処理を行うためのガラス母材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、多孔質ガラス微粒子体を加熱して透明化処理するガラス母材の製造方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
図3に示すように、このガラス母材の製造装置100では、シード棒101に支持された多孔質ガラス微粒子体102を熱処理するための炉心管103、炉心管103の外周にあって母材を加熱するためのヒータ104およびヒータ104の外周に設けられた断熱材105等を内包する炉体106が設けられている。炉心管103内および/または炉心管103外の炉体(真空容器)106内に不活性ガスを導入および排出する不活性ガス供給口107a、107bおよび不活性ガス排出口108a、108bが設けられており、不活性ガス排出口108a、108bには、自動弁111a、111bを介して真空ポンプ110a、110bが取り付けられている。また、炉体106の側壁は2重構造になっていて、冷却水を通して炉体106を冷却するための水冷ジャケット109が設けられている。なお、炉体106内の温度を測定するための温度センサ112が設けられている。
【0003】
従って、炉心管103内部に納められた多孔質ガラス微粒子体102は、炉心管103内部および炉体106内部が真空または減圧状態にされてヒータ104により加熱され、透明化される。そして、透明化処理後は、不活性ガス供給口107a、107bから炉心管内および/または炉心管外の炉体106内に不活性ガスを導入し、炉心管103内および/または炉心管103外の炉体106内の圧力を上昇させた状態で冷却する
【特許文献1】特開平11−35329号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、不活性ガス排出口108a、108bから炉内のガスを排気することにより、加熱時の真空引きや処理後の不活性ガスの排気等を行う際に、排気管が高温にならないように水冷で冷却している。
しかしながら、炉体106内に高温ガスが大量に残留している場合には、排気管に設けた水冷だけでは排気ガスを十分に冷却することができない可能性がある。このため、排気管や排気管に設けられているパッキン、あるいは自動弁111a、111bの弁座パッキン等が破損したり劣化したりして排気ラインにダメージを与える場合がある。
【0005】
本発明の目的は、排気ラインを損傷させることなく炉内の高温ガスを排気することができるガラス母材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した目的を達成するために、本発明にかかるガラス母材の製造方法は、炉体に対し内部のガスを透過する炉心管および加熱手段を内部に含んでガスを密閉可能な炉体を有し、前記炉心管に多孔質ガラス微粒子体を収容し、前記多孔質ガラス微粒子体を前記加熱手段で加熱してガラス母材を製造するガラス母材の製造方法であって、前記炉体内部のガスを排気するために2系統の排気管を設け、前記2系統の排気管の一方を金属製の口径が小さい細管とし、他方を口径が大きい太管とし、前記細管のみを用いて初期段階での排気を行うことにある。
【0007】
このように構成されたガラス母材の製造方法においては、高温の排気ガスを排気する際に、まず初期段階での排気を2系統設けられている排気管のうちの細管(例えば、内径10〜20mm程度)で行うことにより、排気量を抑えて高温の排気ガスの排気を行う。そして、ある程度排気ガス温度が低下したら太管(例えば、内径100〜150mm程度)による排気を開始するようにする。これにより、排気管や弁および接続部のパッキン等を損傷させることなく高温の排気ガスを排気することができることになる。
【0008】
また、本発明にかかるガラス母材の製造方法は、炉体に対し内部のガスが気密な炉心管および加熱手段を内部に含んでガスを密閉可能な炉体を有し、前記炉心管に多孔質ガラス微粒子体を収容し、前記多孔質ガラス微粒子体を前記加熱手段で加熱してガラス母材を製造するガラス母材の製造方法であって、前記炉体内部及び炉心管内部のガスを排気するためにそれぞれ2系統の排気管を設け、前記2系統の排気管の一方を金属製の口径が小さい細管とし、他方を口径が大きい太管とし、前記細管のみを用いて初期段階での排気を行うことにある。
【0009】
このように構成されたガラス母材の製造方法においては、高温の排気ガスを排気する際に、まず初期段階での排気をそれぞれ2系統設けられている排気管のうちの細管(例えば、内径10〜20mm程度)で行うことにより、排気量を抑えて高温の排気ガスの排気を行う。そして、ある程度排気ガス温度が低下したら太管(例えば、内径100〜150mm程度)による排気を開始するようにする。これにより、排気管や弁および接続部のパッキン等を損傷させることなく高温の排気ガスを排気することができることになる。
【0010】
また、本発明にかかるガラス母材の製造方法は、前記細管によりガスの排気を開始した後、ガスの温度を前記細管の外表面に設けた熱電対の温度をもとに推定し、前記熱電対の温度が所定の温度まで降下してから、前記太管によりガスの排気を開始することが望ましい。
【0011】
また、本発明にかかるガラス母材の製造方法は、前記細管を、この細管よりも大径の排気管を介して真空ポンプに接続して排気することが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、排気ガスを排気するために2系統の排気管を設け、一方を細管とし他方を太管として、まず細管により少量の高温の排気ガスの排気を行ったので、従来のように、高温の排気ガスを排気することにより排気管や排気管に設けられているパッキン等が破損したり劣化したりするという問題を解消でき、排気管を損傷させることなく高温の排気ガスを排気することができるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明に係る実施形態のガラス母材の製造装置を示す構成図、図2は排気ガスの温度および真空度の経時変化を示すグラフである。
【0014】
図1に示すように、本発明の実施形態であるガラス母材の製造装置10は、多孔質ガラス微粒子体11を収容する炉心管12と、この炉心管12を介して多孔質ガラス微粒子体11を加熱する加熱手段としてのヒータ13と、炉心管12およびヒータ13を内部に含んで密閉可能な炉体14とを有している。そして、炉体14内部のガスを排気するために2系統の排気管20a、20bを設け、一方を口径が小さい細管(以下、単に細管ともいう)20aとし他方を口径が大きい太管(以下、単に太管ともいう)20bとして、初期段階での排気は細管20aを用いて行うようにした。細管20aとしては、一例として、内径10〜20mm、太管20bとしては、一例として、内径100〜150mm程度のものを使用する。
なお、炉体14内においては、ヒータ13の外側に断熱材15が設けられている。また、炉心管12内部にはガス供給管16aが接続されており、炉体14内部にはガス供給管16bが接続されている。
【0015】
細管20aは金属製(例えばステンレス製)の管であり、その先端は炉体14を貫通して炉心管12の内部に接続されており、炉心管12内部の高温の排気ガスを排気するようになっている。炉体14の外側面近傍における細管20aの外表面には熱電対21が設けられており、この熱電対21によって細管20aの外側における温度を測定している。細管20aは金属製であるとともに細径であるので、細管20aの外側面における温度を測定して排気ガスの温度とみなすことができる。このように、細管20aの外表面の温度を熱電対21により測定して排気ガスの温度に代替するので、設備コストを下げることができる。
【0016】
熱電対21よりも炉体14から遠い側の細管20aには、水冷による冷却手段22が設けられており、炉体14内から排気した高温ガスの温度を下げるようにしている。さらに、細管20aは急激に内径が拡がる大径の排気管としての拡径排気管23に接続されており、排気された高温ガスは拡径排気管23を通過することにより、断熱膨張で温度が低下するようになっている。拡径排気管23は、自動弁24および排気管28aを介して真空ポンプ25に接続されている。従って、真空ポンプ25を常時一定に作動させておき、自動弁24の開閉によって細管20aによる真空引きの量を制御する。
【0017】
なお、太管20bの先端も炉体14を貫通して炉心管12の内部に接続されており、水冷による冷却手段26、自動弁27、排気管28bを介して真空ポンプ25に接続されている。真空ポンプ25は一定に作動しているので、細管20aと同様に、自動弁27の開閉によって太管20bによる真空引きの量を制御するようになっている。
【0018】
また、先端が炉体14内部に接続されている細管30aおよび太管30bをも設けるのが望ましい。この細管30aには、前述した細管20aと同様に、熱電対31、冷却手段32、自動弁33が設けられており、真空ポンプ25に接続されている。また、太管30bには、前述した太管20bと同様に、冷却手段34および自動弁35を介して真空ポンプ25に接続されている。これにより、単時間で炉体14内部の真空引きを行うことができる。本実施形態で記載した細管とは、管28、20b、30bの排気量に対し、管20a、30aの排気量が絶対的に小さいことをいい、太管とは、この逆のことをいう。
【0019】
次に、図2に基づいて、ガラス母材の製造動作について説明する。
まず、多孔質ガラス微粒子体11を炉心管12に収容し、蓋14aを閉じて炉体14内部を密封する。真空ポンプ25により炉体14内部の空気を排気して真空状態(例えば20Pa程度)とするとともに、ヒータ13により800℃程度に加熱する(時間t1)。その後、ヒータ13により1200℃まで加熱するとともに、ガス供給管16a、16bから不活性ガス(例えば、窒素、ヘリウム)の供給を開始して(時間t2)、炉体14内部の圧力を10万Pa(略大気圧)まで上昇させる。このとき、不活性ガスの注入により温度が一旦下降するが、加熱しながら10万Paの状態を所定時間(例えば260分)維持して脱水を行い、炉体14内部の真空引きを開始する(時間t3)。
【0020】
この真空引きにおいては、1200℃以上(例えば1300℃)に加熱されている高温の不活性ガス等を排気する際に、高温の不活性ガスにより排気管28a、28bや自動弁24、27のパッキン等の排気ラインにダメージを与えないようにするために、まず細管20aにより炉心管12内部の高温ガスの少量の吸引を開始して徐々に減圧し(時間t3)、炉体14内部の温度が所定の温度(例えば1200℃)まで下降したら太管20bによる大量の排気を開始する(時間t4)。
なお、太管20bによる排気を開始した後は温度を下げる必要がないので、例えば1200℃で維持し、排気が完了して真空状態となったら(時間t5)、再びヒータ13により1500℃まで加熱して、多孔質ガラス微粒子体11の透明化処理を行う。
【0021】
以上、前述したガラス母材の製造装置10によれば、排気ガスを排気する際に、まず初期段階での排気を2系統の排気管のうちの細管20aで少量ずつ行うことにより、排気量を抑えて高温ガスの排気を行うとともに、ある程度炉体14内部の温度が低下したら太管20bによる大量の排気を開始するようにする。これにより、排気管20a、20bや自動弁24、27等を損傷させることなく高温の排気ガスを排気することができることになる。
【0022】
なお、本発明のガラス母材の製造方法は、前述した実施形態に限定されるものでなく、適宜な変形,改良等が可能である。
例えば、炉心管12としては、カーボン製、石英製のいずれも用いることができる。炉心管12がカーボン製の場合は、カーボン筒を積み上げているので、炉体に対し内部のガスが透過できる。従って、炉体14の細管30a、太管30bの排気管のみを用いても、炉心管12内のガスが炉体14に透過することができ、炉体14内、炉心管12内のガスを排気できる。また、石英製の炉心管12を用いた場合は、炉体14に対し内部のガスが気密となるため、炉心管12内のガスを排気するために、細管20a、太管20bを用い、炉体14のガスを排気するために細管30a、太管30bを用いる。
また、前述した実施形態において、真空引きする排気ラインである細管20aおよび太管20bを、同じ1個の真空ポンプ25を用いて排気する場合について説明したが、各々別個の真空ポンプ25を用いて真空引きを行うようにすることもできる。
また、前述した製造動作における高温の排気ガスの吸引動作については、炉心管12に接続されている細管20aおよび太管20bを用いた場合について説明したが、炉体14内に接続されている細管30aおよび太管30bが設けられている場合には、細管20aおよび太管20bと同様に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るガラス母材の製造装置の実施形態を示す構成図である。
【図2】ガラス母材の製造工程における排気ガスの温度と圧力との関係を示すグラフである。
【図3】従来のガラス母材の製造装置を示す断面図である。
【符号の説明】
【0024】
10 ガラス母材の製造装置
11 多孔質ガラス微粒子体
12 炉心管
13 ヒータ(加熱手段)
14 炉体
20a 細管
20b 太管
21 熱電対
23 拡径排気管(大径の排気管)
25 真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉体に対し内部のガスを透過する炉心管および加熱手段を内部に含んでガスを密閉可能な炉体を有し、前記炉心管に多孔質ガラス微粒子体を収容し、前記多孔質ガラス微粒子体を前記加熱手段で加熱してガラス母材を製造するガラス母材の製造方法であって、
前記炉体内部のガスを排気するために2系統の排気管を設け、前記2系統の排気管の一方を金属製の口径が小さい細管とし、他方を口径が大きい太管とし、前記細管のみを用いて初期段階での排気を行うことを特徴とするガラス母材の製造方法。
【請求項2】
炉体に対し内部のガスが気密な炉心管および加熱手段を内部に含んでガスを密閉可能な炉体を有し、前記炉心管に多孔質ガラス微粒子体を収容し、前記多孔質ガラス微粒子体を前記加熱手段で加熱してガラス母材を製造するガラス母材の製造方法であって、
前記炉体内部及び炉心管内部のガスを排気するためにそれぞれ2系統の排気管を設け、前記2系統の排気管の一方を金属製の口径が小さい細管とし、他方を口径が大きい太管とし、前記細管のみを用いて初期段階での排気を行うことを特徴とするガラス母材の製造方法。
【請求項3】
前記細管によりガスの排気を開始した後、ガスの温度を前記細管の外表面に設けた熱電対の温度をもとに推定し、前記熱電対の温度が所定の温度まで降下してから、前記太管によりガスの排気を開始することを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス母材の製造方法。
【請求項4】
前記細管を、この細管よりも大径の排気管を介して真空ポンプに接続して排気することを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス母材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−76927(P2007−76927A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−263078(P2005−263078)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】