説明

ガラス母材の製造方法

【課題】ガラス母材の製造コストをさらに低コスト化できるガラス母材の製造方法を提供する。
【解決手段】ガラス母材の製造方法は、ガラス微粒子堆積体14作製時の容器11内を、板厚0.2mm〜2.0mmの仕切板31〜33でガラス微粒子堆積体14の中心軸に沿った面で仕切ることで、ガラス母材の外径に応じて容器11内の容積Vを調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、VAD法(気相軸付け法)、OVD法(外付け法)、MMD法(多バーナ多層付け法)などによりガラス微粒子を堆積させてガラス微粒子堆積体を製造するガラス母材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のガラス母材の製造方法としては、VAD法によりガラス微粒子を堆積させてガラス微粒子堆積体を形成するガラス母材の製造方法において、反応容器内のガラス微粒子堆積体周辺の一部空間を上下に仕切り、上下に移動可能な仕切板を備えたガラス母材の製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
このガラス母材の製造方法によれば、余剰ガラス微粒子の排気効率が上がりガラス微粒子堆積体への浮遊ガラス微粒子の付着を少なくすることができる。また、ガラス微粒子堆積体のサイズや製造条件の変更に応じて、仕切板を適切な位置に移動できるので、熱による仕切板の変形を防止することができる。
【0003】
また、反応容器の壁面を可変構造にして反応容器内の条件を適宜制御するガラス母材の製造方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。このガラス母材の製造方法によれば、供給する原料ガス流量を増加させた場合でも装置系の変更を最小限に止めて、ガラス微粒子の堆積効率を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第00/023385号パンフレット
【特許文献2】特開2003−238167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載のガラス母材の製造方法では、ガラス微粒子堆積体の軸方向に垂直な面の容器内面積が大きいため、排気効率が不十分となり、製造コストが掛かるという問題があった。
また、特許文献2に記載のガラス母材の製造方法は、壁面を可変構造とするため、制御が複雑で設備コストが掛かるという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、ガラス母材の製造コストをさらに低コスト化できるガラス母材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決することができる本発明に係るガラス母材の製造方法は、容器内に出発ロッドとガラス微粒子生成用バーナを配置し、該ガラス微粒子生成用バーナから噴出するガラス微粒子を出発ロッドに堆積すると共に、ガラス微粒子堆積体に付着しない容器内の余剰ガラス微粒子を容器外に排気しながらガラス微粒子堆積体を作製し、その後該ガラス微粒子堆積体を高温加熱して透明ガラス母材を得るガラス母材の製造方法において、前記ガラス微粒子堆積体作製時の前記容器内を、板厚0.2〜2.0mmの仕切板で前記ガラス微粒子堆積体の中心軸に沿った面で仕切り、ガラス母材の外径に応じて前記容器内の容積を調整することを特徴としている。なお、中心軸に沿った面とは、ガラス微粒子堆積体の成長軸方向に沿って略平行(若干傾いている場合も含む)に仕切板が取り付けられていることを意味する。
【0008】
このように構成されたガラス母材の製造方法によれば、ガラス母材の外径に応じ、容器内の容積を仕切板により簡単に調整できる。例えば、ガラス母材径に対し必要以上に容器の容積が大きい場合は、仕切板により容器内の容積を小さくすることで、容器内の余剰ガラス微粒子を排気するための風量を抑えることができ、設備のランニングコストを下げることができる。また、余剰ガラス微粒子の排気効率が上がるので、ガラス微粒子堆積体の作製後に容器内に付着したガラス微粒子を清掃する頻度を下げ、設備停止時間を低減することで、ガラス母材の低コスト化を図ることができる。
また、仕切板の板厚を0.2mm以上、2.0mm以下とすることで、仕切板の熱変形を抑えつつ、材料費や加工費を抑えることができる。
【0009】
また、本発明に係るガラス母材の製造方法は、前記仕切板が前記容器から着脱可能であることを特徴としている。
【0010】
このように構成されたガラス母材の製造方法によれば、仕切板が着脱可能であるので、ガラス微粒子堆積体の作製後にガラス微粒子の付着した板を取り外すと同時に、別の新しい仕切板を容器内に設置することで、設備停止時間を削減することができ、生産性の向上を図ることができる。取り外した板に付着したガラス微粒子を容器の外で清掃すれば、設備を停止する事なく、清掃作業が可能となる。
【0011】
また、本発明に係るガラス母材の製造方法は、ガラス微粒子堆積体が、VAD法、OVD法、MMD法のいずれかで作製することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るガラス母材の製造方法によれば、ガラス微粒子堆積体作製時の容器内を、板厚0.2〜2.0mmの仕切板でガラス微粒子堆積体の中心軸に沿った面で仕切り、ガラス母材の外径に応じて容器内の容積を調整する。これにより、ガラス微粒子堆積体の作製後に容器内に付着したガラス微粒子を清掃する頻度を下げて、設備停止時間を低減することができるので、ガラス母材の製造コストを下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るガラス母材の製造方法を説明する製造装置の構成図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】図1のB−B線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態であるガラス母材の製造方法について図面を参照して説明する。なお、以下ではVAD法による製造方法について説明するが、本発明は、VAD法には限定されず、OVD法やMMD法など、他のガラス微粒子堆積法に対しても適用できる。
【0015】
図1〜図3に示すように、本実施形態のガラス母材の製造方法を実施する製造装置10は、容器11の上方から内部に支持棒12を吊り下げ、支持棒12の下側に出発ロッドであるダミーガラスロッド13を取り付けている。このダミーガラスロッド13にガラス微粒子が堆積してガラス微粒子堆積体14を形成する。支持棒12は、上端部を昇降装置15により把持されており、昇降装置15によって回転と共に昇降する。この昇降装置15は、制御装置16によって制御されている。
【0016】
容器11の内部下方には、コア用バーナ17およびクラッド用バーナ18が設けられており、制御装置16によって制御されるガス供給装置19から、各々バーナ17,18に供給量を制御しながら原料ガス、火炎形成ガスである可燃性ガスおよび助燃性ガスを供給する。
【0017】
コア用バーナ17は、ガラス微粒子を生成するガラス微粒子生成用バーナであり、原料ガスとしてSiCl、GeCl、火炎形成ガスとしてH、O、バーナシールガスとしてNなどを投入する。また、クラッド用バーナ18には、原料ガスとしてSiCl、火炎形成ガスとしてH、O、バーナシールガスとしてNなどを投入する。また、容器11の側壁には排気管21が取り付けられている。
【0018】
本実施形態の製造装置10は、ガラス微粒子堆積体14の作製時に容器11内の容積Vを、ガラス母材の外径(例えばφ150mm)に対応して3枚の仕切板31〜33で仕切ることで調整することができる。即ち、容器11の四方を構成する4面の側壁の内、バーナ17,18側を除いて、他の3面の側壁の内側に3枚の仕切板31〜33を配置することができる。これにより、既存の容器11内の容積Vより小さくすることができる。なお、バーナ17,18と干渉しなければバーナ17,18側にも仕切板を配置することは可能である。
【0019】
仕切板31〜33の板厚tは、0.2mm〜2.0mmである。なお、板厚tが0.2mmより薄いと、バーナ火炎などからの熱による変形が起り易くなり、2.0mmより厚いと、その材料費が高価なものになる。また、仕切板31〜33の材質は、耐熱性に優れたSUS(ステンレス)、Ni、Al等の金属を用いることが好ましい。
【0020】
また、仕切板31〜33は、容器11から着脱可能である。着脱可能にすることにより、仕切板に付着したガラス微粒子を清掃するときに、仕切板を容器から取り外し、取り外しと同時に別の新しい仕切板を容器内に設置することで、設備の停止時間を削減し、生産性の向上を図ることができる。また、仕切板が設置できる箇所を複数設けておけば、作製するガラス母材のサイズに応じて、仕切板の位置を変更することができるので、複数のサイズの容器を用意せずとも、既設の容器で対応することができる。
【0021】
詳しくは、第1仕切板31が排気管21側に配置されると共に、ガラス微粒子堆積体14を挟んだ対向位置に第2仕切板32と第3仕切板33が配置されている。第1仕切板31は、その上端を容器11の上部に配置された複数のL字状のアングル部材35に掛けることで保持される。また、第1仕切板31の下端は、係止部材36に係止される。同様に、第2仕切板32及び第3仕切板33は、アングル部材41,43に掛けることで保持される。また、第2仕切板32及び第3仕切板33の下端は、係止部材42,44に係止される。
【0022】
また、ガラス母材の外径が更に小さい場合は、第1仕切板31の上端を、内側のアングル部材37に掛けると共に、下端を係止部材38に係止させる。同様に、第2仕切板32及び第3仕切板33の上端を、内側のアングル部材45,47に掛けると共に、下端を係止部材46,48に係止させる。これにより、更に小さなガラス微粒子堆積体14に対応させて容器11内の容積Vを小さくすることができる。
このように仕切板31〜33の取付位置は、ガラス母材の外径に応じて変更することができ、容器11の容積を、ガラス母材の外径に対し、最適な状態にすることができる。なお、仕切板31〜33の保持方法は、上記の方法に限定されることはなく、他の方法を採用することもできる。
【0023】
次に、ガラス微粒子堆積体14の製造手順を説明する。
先ず、支持棒12を昇降装置15に取り付け、先端に取り付けられているダミーガラスロッド13を容器11内に納める。次に、昇降装置15によってダミーガラスロッド13を回転させながら、コア用バーナ17およびクラッド用バーナ18によってガラス微粒子をガラスロッド13に堆積させる。このガラス微粒子の堆積を行いながら、昇降装置15によってガラス微粒子堆積体14の下端部の成長速度に合わせた引き上げ速度で引き上げて行く。
【0024】
次に、得られたガラス微粒子堆積体14をHeとClの混合雰囲気中で1100度に加熱した後、He雰囲気中にて1550℃に加熱して透明ガラス化を行う。
【0025】
上述したように本実施形態のガラス母材の製造方法によれば、ガラス微粒子堆積体14作製時の容器11内を、板厚0.2mm〜2.0mmの仕切板31〜33でガラス微粒子堆積体14の中心軸に沿った面で仕切ることで、ガラス母材の外径に応じて容器11内の容積Vを調整する。
例えば、ガラス母材の外径に応じて容器11内の容積Vを小さくすれば、容器11内の余剰ガラス微粒子を排気するための風量を抑えることができ、設備のランニングコストを下げることができる。
【0026】
また、余剰ガラス微粒子の排気効率が上がるので、ガラス微粒子堆積体14の作製後に容器11内に付着したガラス微粒子を清掃する頻度を下げることができる。これにより、清掃時間及び設備停止時間が短縮されるので、ガラス母材の製造コストを低減することができる。また、仕切板31〜33の板厚tを0.2mm〜2.0mmとすることで、仕切板の熱変形を抑えつつ、材料費や加工費を抑えることができる。
【0027】
また、仕切板31〜33が着脱可能であるので、ガラス微粒子堆積体14の作製後にガラス微粒子の付着した仕切板を取り外し、仕切板に付着したガラス微粒子を清掃することができる。また、取り外しと同時に別の新しい仕切板を容器11内に設置することで、設備の停止時間を削減することができ、生産性の向上を図ることができる。
【0028】
次に、本発明のガラス母材の製造方法の一実施例を説明する。
【0029】
(実施例)
実施例、比較例とも、下記のような材料を使用してガラス母材を製造する。
・ダミーガラスロッド;直径25mm、長さ400mmの純石英ガラス
・ガラス微粒子堆積体の外径φ150mm
・コア用バーナへの投入ガス;原料ガス……SiCl(0.3〜0.5SLM)、GeCl(0〜0.03SLM)、火炎形成ガス……H(10〜30SLM)、O(15〜40SLM)、バーナシールガス……N(5SLM)
・クラッド用バーナへの投入ガス;原料ガス……SiCl(1〜7SLM)、火炎形成ガス……H(100〜150SLM)、O(150〜200SLM)、バーナシールガス……N(20〜30SLM)
【0030】
VAD法によりガラス微粒子の堆積を行う。この際、同じ容器を用い、仕切板で仕切ることにより、容器の内容積V(mm)を変え、さらに仕切板の板厚t(mm)を変えて堆積させる。得られるガラス微粒子堆積体をHeとClの混合雰囲気中で1100度に加熱した後、He雰囲気中にて1550℃に加熱して透明ガラス化を行う。
このようにしてガラス母材の製造を繰り返し、ガラス母材の製造コストと、設備コストを加味したトータルコストCを比較する。トータルコストCは、比較例3を1.00として規格化した数値で表す。
【0031】
【表1】

【0032】
その結果、表1に示すような結果となる。比較例1に比べ、容器の内容積Vが小さく、仕切板の板厚tが薄い実施例1〜5では、トータルコストCは比較例1より安くなる。また、実施例1〜3のように、容器の内容積Vが同じ場合、仕切板の板厚tを薄くする程、板材費等を含む設備コストは安くなるため、トータルコストCが安くなる。また、実施例4,5のように、容器の内容積Vが小さい程、ガラス母材の製造コストは安くなるため、トータルコストCが安くなる。
【0033】
一方、仕切板の板厚tが、0.2mmより薄い比較例2では、仕切板が熱変形してしまうため設備コストが掛かり、トータルコストCは、実施例よりも高くなる。また、仕切板が無い比較例3では、仕切板が無い分、設備コストは実施例よりも安くなるが、容器内を浮遊する余剰ガラス微粒子の排気効率が下がり、容器内に付着するガラス微粒子の清掃頻度を下げることができず、ガラス母材の製造コストが高くなる。このため、製造コストと設備コストの両方を考慮したトータルコストCで比較すると、実施例よりも高くなる。なお、比較例3は、容器を仕切板で仕切らず、元の状態で使用している例である。
また、比較例1は、仕切板の板厚tが2mmより厚いため、設備コストが高くなる。さらに、容器の内容積Vが大きいため、ガラス母材の製造コストが上がり、トータルコストCが最も高くなる。
【0034】
なお、本発明の光ファイバ母材の製造方法は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が自在である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置場所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【符号の説明】
【0035】
10…製造装置、11…容器、12…支持棒、13…ダミーガラスロッド(出発ロッド)、14…ガラス微粒子堆積体(ガラス母材)、15…昇降装置、16…制御装置、17…コア用バーナ、18…クラッド用バーナ、19…ガス供給装置、31…第1仕切板、32…第2仕切板、33…第3仕切板、V…容器の容積、t…仕切板の板厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内に出発ロッドとガラス微粒子生成用バーナを配置し、該ガラス微粒子生成用バーナから噴出するガラス微粒子を出発ロッドに堆積すると共に、ガラス微粒子堆積体に付着しない容器内の余剰ガラス微粒子を容器外に排気しながらガラス微粒子堆積体を作製し、その後該ガラス微粒子堆積体を高温加熱して透明ガラス母材を得るガラス母材の製造方法において、
前記ガラス微粒子堆積体作製時の前記容器内を、板厚0.2〜2.0mmの仕切板で前記ガラス微粒子堆積体の中心軸に沿った面で仕切り、ガラス母材の外径に応じて前記容器内の容積を調整することを特徴とするガラス母材の製造方法。
【請求項2】
前記仕切板は、前記容器から着脱可能であることを特徴とする請求項1記載のガラス母材の製造方法。
【請求項3】
前記ガラス微粒子堆積体は、VAD法、OVD法、MMD法のいずれかで作製することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のガラス母材の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−111659(P2012−111659A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261274(P2010−261274)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】