説明

ガラス母材の製造方法

【課題】製造コストを抑えてガラス微粒子堆積体を製造することが可能なガラス母材の製造方法を提供する。
【解決手段】把持機構に支持したターゲットへバーナ13で生成されるガラス微粒子を吹き付けて堆積させるガラス微粒子堆積体製造工程を含むガラス母材の製造方法であって、ガラス微粒子堆積体製造工程では、把持機構に把持される把持棒部21にターゲットとなる種棒部22を一体的に接合してダミー棒11とし、ダミー棒11の把持棒部21を把持機構に把持させ、バーナ13の把持棒部21側の端部Aを通るバーナ13の軸線Xと平行な延長線Bが、ダミー棒11における把持棒部21と種棒部22との接合箇所Cよりも把持棒部21側を通らないようにしながら、バーナ13で生成されるガラス微粒子をターゲットとなる種棒部22へ吹き付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バーナで生成したガラス微粒子を堆積させてガラス微粒子堆積体を形成する工程を含むガラス母材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バーナからガラス原料ガス及び燃焼ガスを含むガスを噴き出し、ガラス微粒子を生成して、ガラス微粒子を出発材に堆積させてガラス微粒子堆積体を製造する方法が知られている。例えば、石英系ガラスロッドの両端部にそれぞれ円柱状あるいは円筒状のダミー棒を予め溶着接続し、該ダミー棒の両側端部にはガラス微粒子を堆積せずに残し、且つ該ダミー棒の中程からは外径をテーパ状に且つ該石英ロッド外周には外径一定にガラス微粒子堆積体を形成してガラスロッド・ガラス微粒子堆積体複合体を合成する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−24784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ガラス微粒子堆積体を製造する際に用いられるダミー棒は、一般的にその一端に把持部を有しており、この把持部はガラス微粒子の堆積時やガラス微粒子堆積体の搬送時に、製造装置や搬送装置の把持機構によって把持される。特許文献1では、ダミー棒における把持部と堆積される部分とが接続される点が明確になっていないが、この把持部を含むダミー棒は、把持機構が把持可能なように複雑な形状に加工された高価なものである。そのため、ガラス微粒子堆積体を製造した後、透明化または透明化後に線引きすること等により把持機構で把持部を把持する必要が無くなった際、製品としては不要となるダミー棒をそのまま廃棄すると、ガラス微粒子堆積体の製造コストが嵩張り、不経済であった。
【0005】
本発明の目的は、製造コストを抑えてガラス微粒子堆積体を製造することが可能なガラス母材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決することのできる本発明のガラス母材の製造方法は、把持機構に支持したターゲットへバーナで生成されるガラス微粒子を吹き付けて堆積させるガラス微粒子堆積体製造工程を含むガラス母材の製造方法であって、
前記ガラス微粒子堆積体製造工程では、
前記把持機構に把持される把持棒部に前記ターゲットとなる種棒部を一体的に接合してダミー棒とし、
前記ダミー棒の前記把持棒部を前記把持機構に把持させ、
前記バーナの前記把持棒部側の端部を通る前記バーナの軸線と平行な延長線が、前記ダミー棒における前記把持棒部と前記種棒部との接合箇所よりも前記把持棒部側を通らないようにしながら、前記バーナで生成されるガラス微粒子を前記ターゲットへ吹き付けることを特徴とする。
【0007】
本発明のガラス母材の製造方法において、前記ガラス微粒子堆積体製造工程では、
ガラスロッドの両端に前記ダミー棒を一体的に接合し、
前記両端側にそれぞれ配置された前記把持機構に、前記ダミー棒の前記把持棒部をそれぞれ把持させることにより前記ガラスロッドを支持させ、
前記ガラスロッドと前記種棒部とからなるターゲットに対して前記バーナで生成されるガラス微粒子を吹き付けてもよい。
【0008】
本発明のガラス母材の製造方法において、前記ガラス微粒子堆積体製造工程より後に、
前記ダミー棒の前記把持棒部に付着したガラス微粒子を除去してから、前記ガラス微粒子堆積体を焼結することが好ましい。
【0009】
本発明のガラス母材の製造方法において、前記ガラス微粒子堆積体製造工程より後に、
前記把持棒部を前記ダミー棒から切り離し、切り離した把持棒部を再度ガラス微粒子堆積体製造用の把持棒部として使用することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ダミー棒における把持棒部へガラス微粒子が堆積されなくなる、もしくは容易に除去可能な少量の堆積量に抑えられるため、複雑な形状で高価な把持棒部を種棒部から切り離して再利用することができる。これにより、高価な把持棒部の購入費を削減できるため、ガラス微粒子堆積体の製造コストを低く抑制してガラス母材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るガラス母材の製造方法におけるガラス微粒子堆積体製造工程の一例を示すガラス微粒子堆積体の側面図である。
【図2】ダミー棒に対するバーナの位置関係を示す側面図である。
【図3】ガラス微粒子堆積体製造工程の後における工程を示す図であって、(a)はガラス微粒子堆積体の側面図、(b)は取り外された把持棒部の側面図である。
【図4】実施形態に係るガラス微粒子堆積体製造工程の他の例を示すガラス微粒子堆積体の側面図である。
【図5】図4に示した例における、ダミー棒に対するバーナの位置関係を示す図であって、(a)は上端側における側面図、(b)は下端側における側面図である。
【図6】図4に示した例における、ガラス微粒子堆積体製造工程の後における工程を示す図であって、(a)はガラス微粒子堆積体の側面図、(b)は取り外された把持棒部の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るガラス母材の製造方法の実施の形態の例を、図面を参照して説明する。
まず、VAD(Vapor Phase Axial Deposition)法によって、例えば、光ファイバの母材となるガラス微粒子堆積体を製造するガラス微粒子堆積体製造工程について説明する。
図1に示すように、VAD法では、ダミー棒11を把持機構12によって支持し、このダミー棒11のターゲットへバーナ13からガラス微粒子を吹き付け、ガラス微粒子堆積体15を製造する。バーナ13は、ガラス原料ガスと可燃性ガス及び助燃性ガスとを噴出し、火炎加水分解反応によって生成されるガラス微粒子をダミー棒11へ吹き付ける。
【0013】
ダミー棒11は、製造装置や搬送装置などの把持機構12に把持される把持棒部21と、ターゲットとなる種棒部22とを有している。これらの把持棒部21及び種棒部22は、何れも石英ガラスから形成されており、把持棒部21の下端部に、円柱状に形成された種棒部22が溶着されて一体的に接合されている。把持棒部21には、例えば上部にフランジ部25が形成され、中間部に径方向へ貫通する支持孔26が形成され、その下端部は種棒部22との接合箇所へ向かって種棒部22と同径となるようなテーパ形状となっている。
【0014】
把持棒部21を把持する把持機構12は、軸回りに回転可能かつ上下方向へ昇降可能とされ、この把持機構12は、把持棒部21が挿入されて支持することが可能な筒状部を有している。
【0015】
ガラス微粒子堆積体15を製造するには、まず、把持棒部21に種棒部22を溶着して接合させたダミー棒11を用意する。
【0016】
次に、このダミー棒11を、製造装置の把持機構12に支持させる。把持機構12の筒状部には、例えば把持棒部21の支持孔26に相当する位置に孔があけられており、ここに支持ピンを挿し込むか、もしくは把持棒部21に設けられた上部のフランジ部25を把持機構12に入り込ませる、などにより把持棒部21を支持すればよい。また、支持ピンとフランジ部25の両方で支持してもよい。
【0017】
その後、このダミー棒11をターゲットとし、このダミー棒11へ向かってバーナ13からガラス原料ガスと可燃性ガス及び助燃性ガスとを噴出し、火炎加水分解反応によって生成されるガラス微粒子をダミー棒11へ吹き付ける。そして、把持機構12によってダミー棒11を軸回りに回転させながら徐々に引き上げる。これにより、ダミー棒11の軸方向にガラス微粒子が堆積されてガラス微粒子堆積体15が形成される。
【0018】
このとき、図2に示すように、バーナ13における把持棒部21側の端部Aを通るバーナ13の軸線Xと平行な延長線Bが、ダミー棒11における把持棒部21と種棒部22との接合箇所Cよりも把持棒部21側を通らないようにしながら、バーナ13で生成されるガラス微粒子をターゲットであるダミー棒11へ吹き付ける。すると、ガラス微粒子は、ダミー棒11における把持棒部21にはほとんど堆積されず、主に種棒部22より下方に堆積されることとなる。なお、複数のバーナ13でガラス微粒子を吹き付ける場合は、通常は複数のバーナから出る火炎が交わることは無いので、最も把持棒部21側に配置されたバーナ13、つまり、最上部のバーナ13について、把持棒部21側の端部Aを通るバーナ13の軸線Xと平行な延長線Bが、ダミー棒11における把持棒部21と種棒部22との接合箇所Cよりも把持棒部21側を通らないようにする。
【0019】
このようにしてガラス微粒子堆積体15を形成したら、ダミー棒11を把持機構12から外してガラス微粒子堆積体15を製造装置から取り出す。
【0020】
このようなガラス微粒子堆積体製造工程の後、製造したガラス微粒子堆積体15に対して脱水及び焼結等の処理を施して透明化した後、または、透明化したガラス微粒子堆積体15を母材として光ファイバを線引きした後など、把持棒部21での把持が不要となったら、図3(a)に示すように、把持棒部21と種棒部22との接合箇所Cでダミー棒11を切断し、図3(b)に示すように、ダミー棒11から把持棒部21だけを切り離して取り外す。ダミー棒11は、カッターまたは火炎溶断などで切断する。その後、取り外した把持棒部21に再度種棒部22を接合してダミー棒11とし、このダミー棒11を次のガラス微粒子堆積体15の製造に用いる。
【0021】
このように、上記実施形態に係るガラス母材の製造方法によれば、ガラス微粒子堆積体製造工程において、ダミー棒11における把持棒部21にはガラス微粒子がほとんど堆積しないか、もしくは堆積後に除去可能な程度の少量の堆積量に抑えられるため、複雑な形状で高価な把持棒部21を種棒部22から切り離して再利用することができる。これにより、ダミー棒11の購入費を削減でき、ガラス微粒子堆積体15の製造コストを低く抑制して経済的にガラス母材を製造することができる。
【0022】
なお、ガラス微粒子堆積体製造工程において把持棒部21に少量のガラス微粒子が堆積してしまった場合には、把持棒部21に付着したガラス微粒子を除去してから、その後の工程(脱水や焼結など)を行うことが好ましい。把持棒部21に付着したガラス微粒子を後の工程の前に予め除去しておくことにより、より良い状態で把持棒部21を再利用することが可能となる。本実施形態によれば、把持棒部21にガラス微粒子が堆積したとしてもその量は少量であるため、堆積後に簡単に除去することができる。なお、除去する方法としては、掃除機で吸い取る、エアを吹き付ける、刷毛で掃う、等が挙げられる。
【0023】
次に、OVD(Outside Vapor Phase Deposition)法によって、例えば、光ファイバの母材となるガラス微粒子堆積体を製造する場合について説明する。
図4に示すように、OVD法では、ガラスロッド41の両端にダミー棒11を一体的に接合し、ガラスロッド41の両端側にそれぞれ配置された把持機構12に、ダミー棒11の把持棒部21をそれぞれ把持させることによりガラスロッド41を支持させる。このガラスロッド41は、光ファイバのコア及びクラッドの一部となるものである。
そして、このように支持させたガラスロッド41及びダミー棒11の種棒部22からなるターゲットを、軸回りに回転させながら軸方向へ往復移動させる。この状態において、ターゲットに対してバーナ13からガラス微粒子を吹き付け、ガラス微粒子堆積体15を製造する。
【0024】
このとき、図5(a)に示すように、ターゲットの上端側では、バーナ13における把持棒部21側の端部Aを通るバーナ13の軸線Xと平行な延長線Bが、ダミー棒11における把持棒部21と種棒部22との接合箇所Cよりも把持棒部21側を通らないようにする。また、同様に、図5(B)に示すように、ターゲットの下端側においても、バーナ13における把持棒部21側の端部Aを通るバーナ13の軸線Xと平行な延長線Bが、ダミー棒11における把持棒部21と種棒部22との接合箇所Cよりも把持棒部21側を通らないようにする。なお、複数のバーナ13でガラス微粒子を吹き付ける場合は、最も上下の把持棒部21側に配置されたバーナ13、つまり、最上部及び最下部に配置されたバーナ13について、把持棒部21側の端部Aを通るバーナ13の軸線Xと平行な延長線Bが、ダミー棒11における把持棒部21と種棒部22との接合箇所Cよりも把持棒部21側を通らないようにする。
【0025】
すると、ガラス微粒子は、ダミー棒11における把持棒部21にはほとんど堆積しないか、もしくは堆積後に除去可能な程度の少量の堆積量に抑えられ、ガラスロッド41及び種棒部22に堆積されることとなる。
このようにしてガラス微粒子堆積体15を形成したら、それぞれのダミー棒11を把持機構12から外してガラス微粒子堆積体15を製造装置から取り出す。
【0026】
このようなガラス微粒子堆積体製造工程の後、製造したガラス微粒子堆積体15に対して脱水及び焼結等の処理を施して透明化した後、または、透明化したガラス微粒子堆積体15を母材として光ファイバを線引きした後など、把持棒部21での把持が不要となったら、図6(a)に示すように、把持棒部21と種棒部22との接合箇所Cでダミー棒11をカッター等によってそれぞれ切断し、図6(b)に示すように、ダミー棒11から把持棒部21だけを取り外す。
その後、取り外したそれぞれの把持棒部21に種棒部22を接合してダミー棒11とし、これらダミー棒11を次のガラス微粒子堆積体15の製造に用いる。
【0027】
このように、このガラス母材の製造方法の場合も、ガラス微粒子堆積体製造工程において、ダミー棒11における把持棒部21へガラス微粒子がほとんど堆積しないか、もしくは堆積後に除去可能な程度の少量の堆積量に抑えられるため、複雑な形状で高価な把持棒部21を種棒部22から切り離して再利用することができる。特に、両端部にそれぞれダミー棒を用いる上記の製造方法では、ダミー棒11の購入費をさらに削減することができ、ガラス微粒子堆積体15の製造コストをさらに大幅に低減させて経済的にガラス母材を製造することができる。
【符号の説明】
【0028】
11:ダミー棒、12:把持機構、13:バーナ、15:ガラス微粒子堆積体、21:把持棒部、22:種棒部(ターゲット)、41:ガラスロッド(ターゲット)、A:端部、B:延長線、C:接合箇所、X:軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
把持機構に支持したターゲットへバーナで生成されるガラス微粒子を吹き付けて堆積させるガラス微粒子堆積体製造工程を含むガラス母材の製造方法であって、
前記ガラス微粒子堆積体製造工程では、
前記把持機構に把持される把持棒部に前記ターゲットとなる種棒部を一体的に接合してダミー棒とし、
前記ダミー棒の前記把持棒部を前記把持機構に把持させ、
前記バーナの前記把持棒部側の端部を通る前記バーナの軸線と平行な延長線が、前記ダミー棒における前記把持棒部と前記種棒部との接合箇所よりも前記把持棒部側を通らないようにしながら、前記バーナで生成されるガラス微粒子を前記ターゲットへ吹き付けることを特徴とするガラス母材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のガラス母材の製造方法であって、
前記ガラス微粒子堆積体製造工程では、
ガラスロッドの両端に前記ダミー棒を一体的に接合し、
前記両端側にそれぞれ配置された前記把持機構に、前記ダミー棒の前記把持棒部をそれぞれ把持させることにより前記ガラスロッドを支持させ、
前記ガラスロッドと前記種棒部とからなるターゲットに対して前記バーナで生成されるガラス微粒子を吹き付けることを特徴とするガラス母材の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のガラス母材の製造方法であって、
前記ガラス微粒子堆積体製造工程より後に、
前記ダミー棒の前記把持棒部に付着したガラス微粒子を除去してから、前記ガラス微粒子堆積体を焼結することを特徴とするガラス母材の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一項に記載のガラス母材の製造方法であって、
前記ガラス微粒子堆積体製造工程より後に、
前記把持棒部を前記ダミー棒から切り離し、切り離した把持棒部を再度ガラス微粒子堆積体製造用の把持棒部として使用することを特徴とするガラス母材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−10659(P2013−10659A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143954(P2011−143954)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】