説明

ガラス溶融炉の炉底ノズル部構造

【課題】溶融炉本体の底部におけるガラス中の白金族元素の濃度の影響を受けずに、被処理液を混入したガラスを効率良く加熱して短時間で温度上昇させ、その抜き出しを安定して行うことができ、信頼性向上を図り得るガラス溶融炉の炉底ノズル部構造を提供する。
【解決手段】ストレーナ10を底部電極9における円錐状電極部9dの円錐状空間9cにセットした際、ストレーナ本体10a外周と湾曲面部9f及び円錐内面9eとの間に、流下ノズル12へ通じる均一幅の流通路13が形成されるようにし、円錐状電極部9dの外周に加熱手段としての高周波誘導加熱コイル14を配置すると共に、流下ノズル12の外周部に、加熱手段としてのノズル用高周波誘導加熱コイル15を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高レベル放射性廃液ガラス固化施設に設置されるガラス溶融炉の炉底ノズル部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、原子力施設において発生する被処理液としての高レベル放射性廃液は、高レベル放射性廃液ガラス固化施設のガラス溶融炉に送給され、ガラス固化体として処理された後、放射性廃棄物保管施設に保管される。
【0003】
前記ガラス固化施設においては、ガラス溶融炉の内部で原料ガラスを溶融する際に高レベル放射性廃液を混入し、該高レベル放射性廃液が混入された溶融ガラスをキャニスタ(ステンレス製容器)に注入し、溶融ガラスを固化させることにより、ガラス固化体を形成している。
【0004】
従来のガラス溶融炉は、例えば、内部に溶融空間が形成されるよう耐火レンガ等の耐火物で構築され且つ外周が金属のケーシングで覆われた溶融炉本体を備えている。該溶融炉本体の上部天井壁には、被処理液としての高レベル放射性廃液及びガラスビーズのような原料ガラスが投入される投入口を設け、前記溶融炉本体の内壁の上下方向中間部には、相互間での通電により溶融空間内の原料ガラスを加熱し溶融させる主電極を対向配置すると共に、前記溶融炉本体内の四角錐状に窄まる形状とした底部の下端に、前記主電極との間での通電により溶融空間内底部のガラスを加熱し溶融させる底部電極を配置してある。該底部電極に穿設された流下孔には、高レベル放射性廃液が混入された溶融ガラスを抜き出してキャニスタへ注入するための流下ノズルを接続するように設け、該流下ノズルの外周部に、ノズル用高周波誘導加熱コイルを配置してある。更に、前記底部電極の流下孔の上方には、脱落した耐火物屑を受けるストレーナを固着してある。
【0005】
前述の如きガラス溶融炉においては、溶融炉本体の投入口から高レベル放射性廃液及び原料ガラスを投入し、先ず、主電極間に電流を流すことでその間の溶融ガラスのジュール熱によりその表層部付近の高レベル放射性廃液及び原料ガラスを充分に溶かし合わせる。続いて、主電極と底部電極との間に電流を流してジュール熱により底部電極上部のガラスを加熱する。この後、前記底部電極の流下孔から延びる流下ノズルを、ノズル用高周波誘導加熱コイルへ通電を行うことにより加熱してその内部に詰まっている固化ガラスを溶かして下方へ抜き出し、これにより、溶融炉本体内の溶融ガラスをその下部にセットしたキャニスタ内に流下させ、ガラス固化体として密閉収容するようになっている。
【0006】
又、前記溶融炉本体の内壁及び天井に運転継続に伴ってクラックが発生し、その一部が耐火物屑として脱落した場合、該耐火物屑が細かいものであればそのまま溶融ガラスと共に流下孔を通過して流下ノズルからキャニスタ内に流れ込む一方、サイズが流下ノズルより大きい耐火物屑は、前記流下孔の入口で留まり、該流下孔並びに流下ノズルを閉塞させてしまうことが防止されるようになっている。
【0007】
尚、前述の如きガラス溶融炉と関連する一般的技術水準を示すものとしては、例えば、特許文献1がある。
【0008】
ところで、前記高レベル放射性廃液中にはルテニウム、パラジウム、ロジウム等の白金族元素が1%程度含まれているが、該白金族元素は、溶融炉本体内においてガラスに溶け込まずに分離しており、その粒子が小さければ、ガラスと同じような動きをするものの、粒子が大きくなると、溶融炉本体内の溶融ガラスの動きに比べ溶融炉本体の底部へ沈降し堆積しやすくなる。しかも、前記白金族元素は導電性であるため、溶融炉本体の底部に沈降堆積して該底部におけるガラス中の白金族元素の濃度が高くなると、あたかもそこに金属が存在しているような形となり、ガラスの電気的抵抗が低くなってしまい、主電極と底部電極との間に通電を行ってガラスに電流を流しても充分なジュール熱が得られなくなり、ガラスの粘性が低くならず、溶融炉本体の底部のガラスを流下ノズルから流下させることができなくなる虞があった。
【0009】
こうした不具合を解消すべく、溶融炉本体の底部におけるガラス中の白金族元素の濃度の影響を受けずに、被処理液を混入したガラスを安定して抜き出すことができるようにしたガラス溶融炉と関連する一般的技術水準を示すものとしては、例えば、特許文献2がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−82417号公報
【特許文献2】特開2007−302531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献2に開示されたものでは、溶融炉本体底部における流下ノズルの直上に、沈降する白金族元素を溜める円錐状の白金族元素溜部を形成しているため、その容積が大きくなり、該白金族元素溜部の外周に高周波誘導加熱コイルを設けていても、短時間で温度を上昇させることが困難となり、改善の余地が残されていた。
【0012】
本発明は、斯かる実情に鑑み、溶融炉本体の底部におけるガラス中の白金族元素の濃度の影響を受けずに、被処理液を混入したガラスを効率良く加熱して短時間で温度上昇させ、その抜き出しを安定して行うことができ、信頼性向上を図り得るガラス溶融炉の炉底ノズル部構造を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、白金族元素を含む被処理液及び原料ガラスが投入される耐火物製の溶融炉本体と、該溶融炉本体の内壁の上下方向中間部に対向配置されて相互間での通電により溶融炉本体内の原料ガラスを加熱し溶融させる主電極と、前記溶融炉本体の底部に配置されて前記主電極との間での通電により溶融炉本体内底部のガラスを加熱し溶融させる底部電極と、前記溶融炉本体の底部に配置されて脱落した耐火物屑を受けるストレーナとを有し、前記底部電極の中心部から前記被処理液が混入された溶融ガラスを抜き出すようにしたガラス溶融炉の炉底ノズル部構造において、
前記底部電極の中心部に、内部に円錐状空間が形成される円錐状電極部と、該円錐状電極部の下端から垂下し且つ前記被処理液が混入された溶融ガラスを抜き出すための流下ノズルとを一体成形すると共に、前記円錐状電極部の内部に形成される円錐状空間の上縁部内面に、滑らかに湾曲して円錐内面へつながる湾曲面部を形成し、
前記円錐状電極部の円錐状空間の内径より所要寸法だけ小径としたストレーナ本体と、該ストレーナ本体の中心部に上下方向へ延びるよう穿設され且つ前記流下ノズルへ通じる貫通孔と、前記ストレーナ本体の外周における複数所要箇所に突設され且つ前記湾曲面部に倣うようにセット可能な支持脚とから前記ストレーナを構成し、
該ストレーナを前記底部電極における円錐状電極部の円錐状空間にセットした際、前記ストレーナ本体外周と前記湾曲面部及び円錐内面との間に、前記流下ノズルへ通じる均一幅の流通路が形成されるようにし、
前記円錐状電極部の外周及び前記流下ノズルの外周に加熱手段を設けたことを特徴とするガラス溶融炉の炉底ノズル部構造にかかるものである。
【0014】
上記手段によれば、以下のような作用が得られる。
【0015】
前述の如く構成すると、溶融炉本体に対し被処理液及び原料ガラスが投入され、先ず、主電極間に電流を流すことでその間の溶融ガラスのジュール熱によりその表層部付近の被処理液及び原料ガラスが充分に溶かし合わされる。続いて、主電極と底部電極との間に電流を流してジュール熱により底部電極上部のガラスを加熱することが行われるが、ここで、仮に、溶融炉本体内においてガラスに溶け込まずに分離している被処理液中の白金族元素が溶融炉本体内底部に溜まったとしても、ストレーナ本体外周と湾曲面部及び円錐内面との間に形成された均一幅の流通路に存在するガラスは、円錐状電極部の外周に設けた加熱手段により、効率良く加熱されて短時間で温度上昇させることが可能となる。しかも、円錐状電極部の内部に形成される円錐状空間の上縁部内面には、滑らかに湾曲して円錐内面へつながる湾曲面部を形成してあるため、溶融したガラスが流通路から流下ノズルに流れる際の流路抵抗を小さくすることが可能となる。この結果、前記溶融したガラスを流下ノズルから安定して抜き出すことが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のガラス溶融炉の炉底ノズル部構造によれば、溶融炉本体の底部におけるガラス中の白金族元素の濃度の影響を受けずに、被処理液を混入したガラスを効率良く加熱して短時間で温度上昇させ、その抜き出しを安定して行うことができ、信頼性向上を図り得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のガラス溶融炉の炉底ノズル部構造の実施例を示す全体概要構成図である。
【図2】(a)は本発明のガラス溶融炉の炉底ノズル部構造の実施例における底部電極及びストレーナを示す要部拡大断面図であって、図1のIIa部相当図であり、(b)は本発明のガラス溶融炉の炉底ノズル部構造の実施例における底部電極及びストレーナを示す要部拡大平面図であって、(a)のIIb−IIb矢視相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0019】
図1及び図2は本発明のガラス溶融炉の炉底ノズル部構造の実施例であって、該ガラス溶融炉は、内部に溶融空間1が形成されるよう耐火レンガ等の耐火物2で構築され且つ外周が金属のケーシング3で覆われた溶融炉本体4を備え、該溶融炉本体4の上部天井壁に、被処理液としての高レベル放射性廃液5及びガラスビーズのような原料ガラス6が投入される投入口7を設け、前記溶融炉本体4の内壁の上下方向中間部に、相互間での通電により溶融空間1内の原料ガラス6を加熱し溶融させる主電極8を対向配置すると共に、前記溶融炉本体4内の円錐状に窄まる形状とした底部の下端に、前記主電極8との間での通電により溶融空間1内底部のガラスを加熱し溶融させる底部電極9を配置し、前記溶融炉本体4の底部に、脱落した耐火物屑を受けるストレーナ10を配置し、前記底部電極9の中心部から前記高レベル放射性廃液5が混入された溶融ガラスを抜き出すようにしてある。
【0020】
本実施例の場合、前記底部電極9は、図2(a)に示す如く、円板部9bの中心部に、内部に円錐状空間9cが形成される円錐状電極部9dと、該円錐状電極部9dの下端から垂下し且つ高レベル放射性廃液5が混入された溶融ガラスを抜き出してキャニスタ11へ注入するための流下ノズル12とを一体成形し、前記円錐状電極部9dの内部に形成される円錐状空間9cの上縁部内面に、滑らかに湾曲して円錐内面9eへつながる湾曲面部9fを形成してなる構成を有している。
【0021】
又、前記ストレーナ10は、図2(a)及び図2(b)に示す如く、前記円錐状電極部9dの円錐状空間9cの内径より所要寸法だけ小径としたストレーナ本体10aの中心部に、上下方向へ延び且つ前記流下ノズル12へ通じる貫通孔10bを穿設し、前記ストレーナ本体10aの外周における複数所要箇所(図の例では円周方向へ等間隔となるよう四箇所)に、前記湾曲面部9fに倣うようにセット可能な支持脚10cを配設してなる構成を有しており、該ストレーナ10を前記底部電極9における円錐状電極部9dの円錐状空間9cにセットした際、前記ストレーナ本体10a外周と前記湾曲面部9f及び円錐内面9eとの間に、前記流下ノズル12へ通じる均一幅の流通路13が形成されるようにしてある。
【0022】
更に、前記底部電極9における円錐状電極部9dの外周には、図2(a)に示す如く、加熱手段としての高周波誘導加熱コイル14を配置すると共に、前記流下ノズル12の外周部には、加熱手段としてのノズル用高周波誘導加熱コイル15を配置してある。
【0023】
尚、前記溶融炉本体4上部には、溶融空間1内部を常時加熱する間接加熱装置16を配置し、前記溶融炉本体4内の円錐状に窄まる形状とした部分には、中段補助電極17と、下段補助電極18とを、前記主電極8と底部電極9との間に位置するよう配置してある。前記主電極8と中段補助電極17の内部には夫々、冷却空気が流通される冷却空気流通路8a,17aを形成してある。
【0024】
又、前記溶融炉本体4内の円錐状に窄まる形状とした部分には、内部に冷却空気流通路19aが形成された冷却ジャケット19を、前記中段補助電極17と下段補助電極18との間に位置するよう配置し、前記溶融ガラスを流下ノズル12から抜き出して停止させる操作時に、前記冷却ジャケット19の冷却空気流通路19aに冷却空気を流通させるようにしてある。
【0025】
次に、上記実施例の作用を説明する。
【0026】
前述の如く構成すると、溶融炉本体4の投入口7から被処理液としての高レベル放射性廃液5及び原料ガラス6が投入され、先ず、主電極8間に電流を流すことでその間の溶融ガラスのジュール熱によりその表層部付近の高レベル放射性廃液5及び原料ガラス6が充分に溶かし合わされ、続いて、主電極8と底部電極9との間に電流を流してジュール熱により底部電極9上部のガラスを加熱することが行われる。
【0027】
ここで、仮に、溶融炉本体4内においてガラスに溶け込まずに分離している前記高レベル放射性廃液5中の白金族元素が溶融炉本体4内底部に溜まったとしても、ストレーナ本体10a外周と湾曲面部9f及び円錐内面9eとの間に形成された均一幅の流通路13に存在するガラスは、円錐状電極部9dの外周に設けた加熱手段としての高周波誘導加熱コイル14への通電により、効率良く加熱されて短時間で温度上昇させることが可能となる。
【0028】
しかも、前記円錐状電極部9dの内部に形成される円錐状空間9cの上縁部内面には、滑らかに湾曲して円錐内面9eへつながる湾曲面部9fを形成してあるため、溶融したガラスが流通路13から流下ノズル12に流れる際の流路抵抗を小さくすることが可能となる。
【0029】
この結果、前記溶融したガラスを加熱手段としてのノズル用高周波誘導加熱コイル15への通電により流下ノズル12から安定して抜き出し、キャニスタ11内にガラス固化体として密閉収容することが可能となる。
【0030】
こうして、溶融炉本体4の底部におけるガラス中の白金族元素の濃度の影響を受けずに、被処理液を混入したガラスを効率良く加熱して短時間で温度上昇させ、その抜き出しを安定して行うことができ、信頼性向上を図り得る。
【0031】
尚、本発明のガラス溶融炉の炉底ノズル部構造は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、加熱手段は高周波誘導加熱コイルに限らずそれ以外の形式のヒータを用いることも可能であること等、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0032】
1 溶融空間
2 耐火物
3 ケーシング
4 溶融炉本体
5 高レベル放射性廃液(被処理液)
6 原料ガラス
7 投入口
8 主電極
9 底部電極
9c 円錐状空間
9d 円錐状電極部
9e 円錐内面
9f 湾曲面部
10 ストレーナ
10a ストレーナ本体
10b 貫通孔
10c 支持脚
12 流下ノズル
13 流通路
14 高周波誘導加熱コイル(加熱手段)
15 ノズル用高周波誘導加熱コイル(加熱手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金族元素を含む被処理液及び原料ガラスが投入される耐火物製の溶融炉本体と、該溶融炉本体の内壁の上下方向中間部に対向配置されて相互間での通電により溶融炉本体内の原料ガラスを加熱し溶融させる主電極と、前記溶融炉本体の底部に配置されて前記主電極との間での通電により溶融炉本体内底部のガラスを加熱し溶融させる底部電極と、前記溶融炉本体の底部に配置されて脱落した耐火物屑を受けるストレーナとを有し、前記底部電極の中心部から前記被処理液が混入された溶融ガラスを抜き出すようにしたガラス溶融炉の炉底ノズル部構造において、
前記底部電極の中心部に、内部に円錐状空間が形成される円錐状電極部と、該円錐状電極部の下端から垂下し且つ前記被処理液が混入された溶融ガラスを抜き出すための流下ノズルとを一体成形すると共に、前記円錐状電極部の内部に形成される円錐状空間の上縁部内面に、滑らかに湾曲して円錐内面へつながる湾曲面部を形成し、
前記円錐状電極部の円錐状空間の内径より所要寸法だけ小径としたストレーナ本体と、該ストレーナ本体の中心部に上下方向へ延びるよう穿設され且つ前記流下ノズルへ通じる貫通孔と、前記ストレーナ本体の外周における複数所要箇所に突設され且つ前記湾曲面部に倣うようにセット可能な支持脚とから前記ストレーナを構成し、
該ストレーナを前記底部電極における円錐状電極部の円錐状空間にセットした際、前記ストレーナ本体外周と前記湾曲面部及び円錐内面との間に、前記流下ノズルへ通じる均一幅の流通路が形成されるようにし、
前記円錐状電極部の外周及び前記流下ノズルの外周に加熱手段を設けたことを特徴とするガラス溶融炉の炉底ノズル部構造。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−28483(P2013−28483A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165028(P2011−165028)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】