説明

ガラス物品の製造方法

【課題】 NiOを含むガラス物品の製造方法で、NiSの生成を極力減少できるガラス物品の製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】 硫黄化合物を含むガラスバッチに、酸化ニッケル源として、珪ニッケル鉱を混合して、熔融することを特徴とするガラス物品の製造方法である。また、前記珪ニッケル鉱は粒子状に粉砕して用いることが好ましい。さらに、前記珪ニッケル鉱は、Cr成分やFe成分を予め除去して用いることが好ましい。本発明は、NiOを含むソーダライムガラス組成であれば、適用可能なガラス物品の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス物品の製造方法に関し、特に酸化ニッケルを含むガラス物品の製造方法に関する。特に、フロート法やロールアウト法によって板状に成形されるガラス板の製造方法において、ガラスの泡品質の向上、酸化還元条件の制御、NiSの生成減少の3つを成立させることができる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、ソーダライムシリカガラスは、所定の原料を秤量、混合し、これにカレットを加えたものを熔融窯に投入して製造される。投入原料は室温から昇温され、熔融窯の中で最高1500〜1600℃程度にまで加熱されて熔解、ガラス化される。
【0003】
ソーダライムシリカガラスを製造する場合、熔解・清澄を促進するために、ガラスバッチに硫黄化合物である硫酸塩化合物(硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム等)が加えられる。特に、硫酸ナトリウム(以下、芒硝と記す)を加えるのが一般的である。芒硝の融点は884℃であり、この温度以上になると、芒硝は液相となり、ガラス化反応を促進すると考えられる。
【0004】
なお、ガラスバッチに含まれる硫黄化合物は、主として上述の硫酸塩化合物である。このほかにも、カルマイト(登録商標)と呼ばれる硫黄を含む高炉スラグも、ガラスバッチに含まれる硫黄化合物として挙げられる。
【0005】
さらに芒硝は、ガラスバッチ中に共に加えられている炭素系還元剤(例えば、カーボン等)と反応し、硫化ナトリウム(Na2S)を生成すると考えられている。
【0006】
上述したNa2Sは、シリカ(SiO2)と反応し、シリカの熔解とガラスネットワークの形成を促すことから、ガラス化反応を促進するために重要な物質であると考えられている。サルファイドイオン(S2-)は空気中では大変不安定であり、Na2Sを直接観察することは非常に難しい。
【0007】
このS2-の形成温度域の正確な数値は明らかではなく、またガラスバッチの構成成分によっても変動するが、概ね800〜1200℃の温度域の近傍にあると考えられる。
【0008】
さて、酸化ニッケル(NiO)は、古くからガラス組成物における黄褐色〜暗紫色の着色原料として用いられてきた。近年では、自動車後部窓ガラスに用いられる、比較的可視光透過率の低いガラスの着色成分としても利用されている。このような低可視光透過率ガラスに含まれるNiO成分は、数十ppmから、多いものでは千ppm以上含まれる。
【0009】
ところで、上述したS2-は、酸化ニッケル(NiO)が存在すると、容易に反応して硫化ニッケル(NiS)を形成する。
【0010】
着色原料として用いる場合のほか、工業的に生産されるガラス物品には、ニッケルが混入する虞がある。例えば、金属ニッケルは、ステンレス鋼や溶接棒といった合金としても広く用いられており、これらニッケル合金の小片は、しばしば、工業ガラス原料やカレット中に紛れ込み、窯内に投入されることがあるからである。窯槽中でのニッケル合金の熔融反応は明らかではないが、合金中のニッケルもまた、上述のS2-と結合してNiSを形成すると考えられている。
【0011】
NiS生成温度域は明らかではないが、上述のS2-生成温度域から800℃以上と考えられ、かつ工業的な硫化ニッケルの生成温度が約1000℃であることから、800〜1200℃の温度域にあると推定される。
【0012】
また1300℃以上の高温になると、一旦生成したNiSは再びガラス中に熔解あるいは拡散して消失すると考えられる。この熔解速度や拡散速度は、高温ほど大きいと推定される。
【0013】
さて、自動車用安全ガラスの一つとして、熱強化ガラスが用いられる。熱強化された窓ガラスでは、極めて稀に特に大きな外力を作用させなくても、自然に破損することがある。熱強化ガラスは、表面の圧縮応力層と内部の引張応力層とを有する。この引張応力層に微小な異物、とりわけ硫化ニッケル(NiS)が存在する場合には、時間の経過と共に、このNiSがα相からβ相への転移が生じ、その際の体積変化によって、熱強化ガラスを破損させてしまうことが知られている。
【0014】
このため、NiSを生じさせないために、様々なガラス製造方法が検討されている。
【0015】
特開昭49−118711号公報には、板ガラスの製造時における原料組成成分のうち芒硝の一部を硝石およびソーダ灰に置き換え、かつカーボンを含まないことを特徴とするガラス原料組成物が開示されている。
【0016】
米国特許第5,725,628号公報には、ソ−ダ石灰ガラスの製造工程において、硫化ニッケルを除去するためにマンガン化合物を少なくともニッケル含有量の1.4倍添加することを特徴とするガラス製造方法が開示されている。
【0017】
また、特開平7−144922号公報には、ソーダ石灰ガラスの製造方法において、バッチ物質に、モリブデン、砒素、アンチモン、ビスマス、銅、銀、ニクロム酸カリウムおよびクロマイト鉄並びにそれらの組合せから本質的になる群から選ばれた物質を少なくとも0.010重量%添加することを特徴とするガラス製造方法が開示されている。
【0018】
本出願人は、特開平9−169537号公報にて、ガラス原料中に含有されるニッケル系化合物及び/または前記ガラス原料の溶融過程で混入するニッケル系化合物に起因して溶融成形されたガラス中に生成される硫化ニッケルを、前記ガラス原料中に亜鉛化合物、金属塩または金属酸化物といった成分を微量添加させることにより抑制することを特徴とするソーダ石灰系ガラスの製造方法を開示した。
【0019】
一方、ガラス原料バッチに、フリットガラスやバッチ成分の一部を選択的に組み合わせて固化したものを加え、原料として用いる様々なガラスの製造方法も開示されている。
【0020】
特開平6−1633号公報には、高還元率または/および比較的高還元率フリットガラス、特定した芒硝および特定したカーボンを適宜特異に組み合わせて用いることで、ガラス中の還元率を特定範囲に入るようにコントロールすることにより、赤外線紫外線吸収ガラスを製造する方法が開示されている。
【0021】
特開平11−116270号公報には、V25を含有する着色フリットとSeを含有する着色フリットを添加して攪拌した後、成形することを特徴とする紫外線吸収無色透明ソーダライムシリカ系のガラス瓶の製造方法が開示されている。
【0022】
特表2005-519015号公報には、ガラスバッチ組成物の特定の構成成分を選択的に組み合わせて、ガラス融体におけるバッチ成分のグロスセグリゲーションを減少させ、更に熱反応経路を制御することで溶融効率を改善する方法が開示されている。
【特許文献1】特開昭49−118711号公報
【特許文献2】米国特許第5725628号公報
【特許文献3】特開平7−144922号公報
【特許文献4】特開平9−169537号公報
【特許文献5】特開平6−1633号公報
【特許文献6】特開平11−116270号公報
【特許文献7】特表2005-519015号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
特開昭49−118711号公報に開示されたガラス製造方法は、ガラスの清澄作用を有する芒硝を減らしたため、ガラス中の泡が抜け切れない。また、ガラスの酸化還元状態を調整するカーボンを含まないので、光学特性を調整できない。このため、例えば、自動車用窓ガラスに必要な泡品質および光学特性を得ることができなかった。
【0024】
米国特許第5,725,628号公報は、強力な酸化剤として作用するマンガン化合物を多量に含むため、ガラスの酸化還元条件は酸化よりとなって、光学特性を調整できない。このため、例えば、自動車用窓ガラスに必要な光学特性を得ることができなかった。
【0025】
特開平7−144922号公報に開示されたガラス製造方法は、ガラスバッチにNiOを含むことを前提としておらず、あくまでコンタミネーションとして、ごくわずかにガラス原料に導入され形成されるNiSのための対策であった。このため、例えば、NiOを含むガラス組成物のNiS対策には、利用できなかった。
【0026】
特開平9−169537号公報もまた、酸化剤として作用する亜鉛化合物を添加する必要があるため、ガラスのレドックスは酸化よりとなって光学特性の調整が困難になる。このため、例えば、自動車用窓ガラスに必要な品質および光学特性を得ることが困難であった。
【0027】
特開平6−1633号公報は、高還元率フリットガラスとガラス原料バッチの芒硝、カーボンを組み合わせて用いることで、ガラスの還元率を調整する方法は開示されている。しかし、NiS生成防止の効果の有無については、開示も示唆もされていない。
【0028】
特開平11−116270号公報は、V25とSeをそれぞれ含有するガラスフリットを添加することで、紫外線吸収無色透明ソーダライムシリカ系ガラスの光学特性を得る方法が開示されている。しかし、ガラスフリットの組成については、硼珪酸塩系等の低融点ガラスを用いるものであり、NiS生成防止効果が得られるものではなかった。
【0029】
特表2005-519015号公報は、特定のバッチ成分を選択的にフリット化、ペレット化または予備反応等させることで、バッチ成分のグロスセグリゲーションを減少させ、更に熱反応経路を制御することで溶融効率の向上を図る方法が開示されている。しかし、NiS生成防止の効果の有無については、開示も示唆もされていない。
【0030】
ところで、上述した炭素系還元剤は、ガラスの酸化還元状態を決定するために重要な働きを持っている。ガラスの酸化還元状態を表す指標には、ガラス中の全酸化鉄に対する二価鉄の割合(FeO比)を用いるのが一般的である。カーボンのような還元剤は、FeO比を上げる働きがある。一方、硫酸塩化合物や硝酸塩化合物は、FeO比を下げる働きがある。
【0031】
ガラス中の二価鉄は、赤外線をよく吸収する。自動車用の窓ガラスでは、この二価鉄による吸収を利用して、高い熱線吸収性能を得ることが行われている。この場合、製品としてのガラスの均質性や泡品質を維持しながら、所望のFeO比を得る必要がある。
【0032】
一方、ガラス中に生成されるNiSは、ガラスの酸化還元状態とも深くかかわっている。定性的には、NiSはガラスが酸化状態であれば生成しにくく、還元状態であれば生成しやすいことが知られている。上述のFeO比でいえば、高い熱線吸収性能を得るために高いFeO比を得ようとすれば、NiSはより生成しやすくなる。
【0033】
したがって、所望の光学特性を得るために、特に必要な高いFeO比にしながら、NiSの生成を抑制する技術が必要である。
【0034】
これらの状況に鑑み、本発明は、NiOを含むガラス物品でNiSの生成を極力少なくできるガラス物品の製造方法の提供を目的とする。さらには、ガラスの泡品質や酸化還元状態に影響を及ぼすことなく、しかもNiSの生成を極力少なくできるガラス物品の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0035】
本発明者らは、ガラスを熔融する工程の800〜1200℃付近の温度域で、NiOとS2-が出会うことを阻害することが、NiS個数を減少させるために非常に重要であると考えた。
【0036】
そこで、NiOの周囲を、S2-を含まないガラス熔融物で取り囲めばよいと着想した。これを実現するに、珪ニッケル鉱を用いることを考え出した。
【0037】
(珪ニッケル鉱について)
珪ニッケル鉱は、ガーニエライト(Garnierite)とも呼ばれ、マグネシウムとニッケルの含水ケイ酸塩鉱物であり、工業的にはニッケルの主な鉱石の一つである。主成分は、H2(Mg,Ni)SiO4・nH2Oや(Mg,Ni)SiO2・nH2Oといった化学式で表されている。珪ニッケル鉱に含まれるニッケル成分は、安定的にケイ酸塩鉱物中に存在しており、Niの周囲はS2-を含まない成分で取り囲まれた状態にある。
【0038】
珪ニッケル鉱をガラス原料に用いる場合は、他のガラス原料と十分混合するよう、粒子状に粉砕してから用いるのが好ましい。その粒子径は数百μm程度が好ましく、500μm以下とするのがより好ましい。
【0039】
珪ニッケル鉱をガラスバッチに混合して用いる場合、不純物として含まれている着色成分を予め除去してから用いることが好ましい。とりわけCr成分やFe成分は製品ガラス中に欠点として存在したり、好ましくない着色を生じたりするため、予め除去されることが好ましい。Cr成分やFe成分を除去するために、例えば比重選鉱などの一般的選鉱手法によって、予め珪ニッケル鉱を処理することが好ましい。
【0040】
(ガラス物品の組成)
本発明のガラス物品の製造方法において、製造されるガラス物品の組成としては、基本的に着色成分としてNiOを含むソーダライムシリカガラスが好ましい。具体的なガラス組成としては、質量%で表示して、
SiO2 65〜80%,
Al23 0〜 5%,
MgO 0〜10%,
CaO 5〜15%,
MgO+CaO 5〜15%,
Na2O 10〜18%,
2O 0〜 5%,
Na2O+K2O 10〜20%,
23 0〜 5%
が例示できる。また、ガラス物品の組成として、着色成分であるNiOを0.03〜2.0%含むことが好ましい。
【0041】
さらにこのガラス物品は、その色調などの光学特性を調整するために、NiO以外の着色成分を含んでもよく、その種類は特に限定されない。酸化鉄はもちろんのこと、TiO2やCeO2,CoO,Seなどを含んでもよい。
【0042】
着色成分の含有率としては、NiOのほかにさらに、
T−Fe23 0を超え1.4%まで、
(T−Fe23は、Fe23に換算した全酸化鉄である)
TiO2 0を超え1%まで、
CeO2 0を超え2%まで、
CoO 0を超え0.03%まで、
Se 0を超え0.003%まで、
の少なくとも1種を含む場合を示すことができる。
【0043】
さらに、着色成分として、NiOのほかにさらに、
T−Fe23 0.1〜1.4%
(T−Fe23は、Fe23に換算した全酸化鉄である),
T−Fe23に対するFeOの割合が、0.15〜0.5の範囲にあり,
TiO2 0〜1%,
CeO2 0〜2%,
CoO 0.01〜0.03%,
Se 0〜0.003%,
であることが好ましい。このような着色成分とすると、紫外線や赤外線の吸収に優れ、可視光透過率が比較的小さいガラス物品を得ることができる。
【0044】
本発明の製造方法により製造されるガラス物品に酸化鉄を含む場合、FeO比が20〜30%の範囲内であることが好ましく、21〜27%がより好ましい。
【発明の効果】
【0045】
本発明のガラスの製造方法によれば、NiSの生成を極力減少させたガラス物品を提供することができる。
【0046】
また、従来のガラスの製造方法におけるNiS対策では、硫黄化合物を含む清澄剤や還元剤の添加する割合が制限されていた。しかし、本発明のガラスの製造方法によれば、NiS対策のために、芒硝などの硫黄化合物を含む清澄剤の添加する割合が制限されない。さらに、還元剤の添加する割合も制限されない。そのため、ガラスの酸化還元状態を制御する清澄剤や還元剤の添加する割合を、NiS対策とは独立に調整することが可能となった。
この結果、NiSの生成を極力減少させつつ、ガラスの泡品質を保ったり、酸化還元状態を制御することによって、容易にガラスの光学特性を設計したりすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下、本発明のガラス物品について、詳細に説明する。
【0048】
(珪ニッケル鉱の調製)
珪ニッケル鉱は、スタンプミルを用いて細かく粉砕し、粒子径が500μm以下の粒子を篩い分けて、ニッケル原料として用いた。
【0049】
(ガラス板の製造)
ガラス物品の一例として、ガラス板を以下の手順に従って作製した。基本ガラス成分の原料として、珪砂,苦灰石,石灰石,ソーダ灰,芒硝および炭酸カリウムを用いた。着色成分として、酸化ニッケル、酸化第二鉄,酸化チタン,酸化セリウム,酸化コバルトおよび金属セレンを用い、さらに炭素系還元剤を用いた。酸化ニッケル原料としては、粉砕した珪ニッケル鉱を用いた。上述の原料を、所定の割合で混合し、ガラスバッチを調合した。
【0050】
なお、各実施例におけるFeO比は、炭素系還元剤(カーボン粉末等)によって制御した。
また、粉末の酸化ニッケル原料を用いたガラスバッチも調合し、ガラス板を作製し、比較例とした。
【0051】
調合したバッチは、白金ルツボを用いて、1450℃に設定した電気炉で4時間保持し、熔融・清澄した。その後、ガラス融液を炉外で鉄板上に、厚さが約6mmになるように流し出し、冷却固化してガラス体を得た。このガラス体には引き続いて徐冷操作を施した。徐冷操作は、このガラス体を650℃に設定した別の電気炉の中で30分保持した後、その電気炉の電源を切り、室温まで冷却することによって行った。
【0052】
この徐冷操作を経たガラス体を光学顕微鏡(倍率:10〜100倍)で観察し、ガラス体中に存在するNiSの個数を計測した。
観察後のガラス体を、通常のガラス加工技術を適用して切断・研削・光学研磨し、1辺が約50mm,厚み3.1mmの略正方体であって、両側の主平面が光学研磨されたガラス板を作製した。
【0053】
(基本ガラス組成)
作製したガラスの基本ガラス組成を表1に示した。基本ガラス組成AとBとは、着色成分を除くガラス組成はほぼ同じであり、着色成分の含有率の多少により、各成分の含有率が異なっている。各成分の含有率は、X線蛍光分析法,化学分析法または炎光分析法など、その成分に適した汎用の分析方法を用いた、定量分析値である。なお、表中の含有率は全て質量%表示であり、分析結果の丸め誤差により、その合計が100%とはなっていない。
【0054】
【表1】

【0055】
基本ガラス組成AとBとでは、着色成分が異なっており、NiOやCoOの含有率は同程度であり、Fe23の含有率が大きく異なっている。さらに、基本ガラス組成AはCeO2を含んでおり、基本ガラス組成BではSeを含んでいる。
【0056】
(実施例)
実施例G1〜G5は、珪ニッケル鉱を酸化ニッケル源に用いてガラス物品を製造した例である。実施例G1〜G5では、カーボン粉末によりFeO比を変化させており、その他は上述したガラス板の製造と同様にして、製造した。
【0057】
【表2】

【0058】
表2に示した実施例G1〜G5のガラス物品100g当たりのNiS個数と、ほぼ同じFeO比を有する比較例のガラス物品100g当たりのNiS個数とを比較した。例えば、G2とR2とを比べると、R2の方がNiSの個数は少ない。しかし、NiS個数はFeO比に比例して増大し、NiS個数をFeO比の一次式として近似的に表すことができる。
【0059】
この珪ニッケル鉱を用いた実施例G1〜G5(図1参照)における関係式は、NiS個数をyとしFeO比をxとしたとき、y=1.1x−14 と表せる。
比較例(図2参照)の関係式は、同じく、y=2.3x−28 と表せる。
これらの関係式におけるxの係数、すなわち実施例の関係式の傾きは、比較例のそれのほぼ半分となっており、特にFeO比の大きい領域ではNiS個数の抑制効果が明らかであることが分かる。
【0060】
(比較例)
比較例R1〜R11のガラス物品は、いずれも粉末の酸化ニッケル原料を酸化ニッケル源として用いて、ガラス物品を作製した例である。比較例R1〜R11では、カーボン粉末によりFeO比を変化させており、その他は同じである。各比較例に用いたガラス熔融物の組成を表3と表4に示した。
【0061】
【表3】

【0062】
【表4】

【0063】
表3に示した比較例R1〜R11は基本ガラス組成Aの場合であり、表4に示した比較例R12〜R15は基本ガラス組成Bの場合である。
各比較例のガラス物品中に見られるNiS個数は、ガラス物品のFeO比に比例して大きく増加した。図2は基本ガラス組成Aの場合であり、図3は基本ガラス組成Bの場合である。基本ガラス組成Bの場合、基本ガラス組成Aの場合に比べて、FeO比の増加によるNiS個数の増加の割合が大きい。
【0064】
なお、以上の実施例や比較例では、製造するガラス物品の組成は1種類のみであったが、本発明は、対象となるガラス物品が、NiOを含むソーダライムガラス組成であれば、適用可能なガラス物品の製造方法である。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によるガラス製造方法は、NiO組成を含むガラス物品において、NiSを減少させることができる。本発明は、特に、フロート法やロールアウト法によって、板状に成形されるガラス板の製造に好適に利用できる。
【0066】
さらに、本発明によるガラス製造方法は、NiS対策のために、芒硝などの硫黄化合物を含む清澄剤の添加する割合が制限されず、さらに、還元剤の添加する割合も制限されない。そのため、ガラスの酸化還元状態を制御する清澄剤や還元剤の添加する割合を、NiS対策とは独立に調整することができる。したがって、FeOを所定の範囲としNiO組成を含むガラス物品で、ガラスの泡品質と酸化還元状態に影響を及ぼすことなく、NiSを減少させることができる。このようにして製造されたガラス板は、熱強化用素板として好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】珪ニッケル鉱をニッケル源に用いた場合における、ガラス物品のFeO比と100g当たりのNiS個数の関係を示すグラフである。
【図2】基本ガラス組成Aの場合で、粉末酸化ニッケルをニッケル源に用いた場合における、ガラス物品のFeO比と100g当たりのNiS個数の関係を示すグラフである。
【図3】基本ガラス組成Bの場合で、粉末酸化ニッケルをニッケル源に用いた場合における、ガラス物品のFeO比と100g当たりのNiS個数の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄化合物を含むガラスバッチに、酸化ニッケル源として、珪ニッケル鉱を混合して、熔融することを特徴とするガラス物品の製造方法。
【請求項2】
前記珪ニッケル鉱は粒子状に粉砕して用いる請求項1に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項3】
前記珪ニッケル鉱は、Cr成分を予め除去して用いる請求項1に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項4】
前記珪ニッケル鉱は、Fe成分を予め除去して用いる請求項1に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のガラスの製造方法において、
前記ガラス物品の基本組成が、質量%で表示して、
SiO2 65〜80%,
Al23 0〜 5%,
MgO 0〜10%,
CaO 5〜15%,
MgO+CaO 5〜15%,
Na2O 10〜18%,
2O 0〜 5%,
Na2O+K2O 10〜20%,
23 0〜 5%
であり、
着色成分として、少なくともNiOを0.03〜2.0%含むガラス組成であるガラス物品の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のガラス物品の製造方法で製造されたガラス物品であって、
着色成分として、さらに、
T−Fe23 0を超え1.4%まで、
(T−Fe23は、Fe23に換算した全酸化鉄である)
TiO2 0を超え1%まで、
CeO2 0を超え2%まで、
CoO 0を超え0.03%まで、
Se 0を超え0.003%まで、
のうち少なくとも1種を含むガラス物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−217200(P2007−217200A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−36677(P2006−36677)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】