説明

ガラス組成物

【課題】B成分、SiO成分、La成分を必須成分としたガラス系において、高い放射線遮蔽性能を有するガラス組成物を提供すること。
【解決手段】酸化物基準の質量%で、Bを20〜35、SiOを11〜45、Laを16〜50、M(MはAl、Ga、Inからなる群より選択される1種以上を示す。)を0〜5%、Gdおよび/またはDyおよび/またはLuを0〜25%、BaOを0〜10%の範囲で各成分を含有し、150kVのX線に対する鉛当量が0.05mmPb/mm以上であるガラス組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス組成物に関し、さらに詳しくは、X線やγ線等の放射線を遮蔽する能力を有するガラス組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
X線、γ線等の放射線を取り扱う施設において、仕事をしやすくするため、および業務に携わる人々を放射線から守るために、放射線遮蔽ガラスが使用されている。このようなガラスとしては、可視域に高い透明性と、放射線に対して優れた遮蔽能力(吸収能力)が要求される。遮蔽能力はガラスの質量吸収係数と密度に比例するので、昔から密度の大きい鉛ガラスが使われている。
【0003】
しかし、鉛成分は有害物質であるため、鉛成分を多量に含む放射線遮蔽ガラスは、その製造、加工、および廃棄をする際に環境対策上の措置を講ずる必要があるため、コストが高くなるという問題を有していた。また、鉛成分を多量に含む放射線遮蔽ガラスは、化学耐久性が低いので、ガラス表面の汚れを落とす際に付着した水や洗剤と反応しやく、ガラス表面に「ヤケ」が発生し、この「ヤケ」により、ガラスの透明性が著しく低下することも問題となっていた。
【0004】
また、表面硬度が低いため、研磨や切断等の加工工程において、表面にキズがつきやすく、キズを原因としてガラスが割れることがあった。
【0005】
従って、鉛成分を含まない放射線遮蔽ガラスが開発されており、下記の特許文献1には、本質的に鉛成分を含有せず、SiO−BaO系のガラスであって、密度が3.01g/cm以上である放射線遮蔽ガラスが開示されている。また、下記の特許文献2には、本質的には、鉛成分を含有せず、SiOとAlを含有し、100kVのX線に対する鉛当量が、0.03mmPb/mm以上である放射線遮蔽ガラスが開示されている。
【特許文献1】特開平6−127973号公報
【特許文献2】特開2003−315489号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2の放射線遮蔽ガラスは、遮蔽能力が鉛ガラスに比べてかなり低いため、主にエネルギーの低い放射線を取り扱う場所に使用が限定されていた。
【0007】
本発明は以上のような課題に鑑みてなされたものであり、B成分、SiO成分、La成分を必須成分としたガラス系において、高い放射線遮蔽性能を有するガラス組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、B成分、SiO成分、La成分を必須成分とし、より好ましくは、M(MはAl、Ga、Inからなる群より選択される1種以上を示す。)、Gdおよび/またはDyおよび/またはLu、BaOの各成分のいずれかを含有するガラス組成物は、鉛ガラスと同様に優れる放射線遮蔽能力を示し、しかも鉛ガラスより高い表面硬度と透明性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0009】
(1) 酸化物基準の質量%で、Bを20〜35%、SiOを11〜45%、Laを16〜50%、M(MはAl、Ga、Inからなる群より選択される1種以上を示す。)を0〜5%、Gdおよび/またはDyおよび/またはLuを0〜25%、BaOを0〜10%の範囲で各成分を含有し、150kVのX線に対する鉛当量が0.05mmPb/mm以上であるガラス組成物。
【0010】
この態様によれば、ガラス成分として、B、SiOおよびLaを含有しているので、ガラスの溶融性、安定性や耐失透性および化学的耐久性に優れ、密度の高いガラス組成物となる。また、Laの他にGd、Dy、Luの希土類酸化物及びBaOをさらに含有することで、ガラスの密度をより大きくし、表面強度(表面硬さ)をより向上させ、より一層高い放射線遮蔽能力を容易に得られる。また、M(MはAl、Ga、Inからなる群より選択される1種以上を示す。)を含有することで、化学耐久性と表面強度(表面硬さ)がより向上される。このため、B、SiOおよびLaの必須成分の他に上記の成分を任意成分として適量含有させることにより、本発明のガラス組成物は、より溶融性や安定性に優れ、高い放射線遮蔽能力と高い表面硬さを有することになる。また、150kVのX線に対する鉛当量が0.05mmPb/mm以上であるため、高エネルギーの放射線を取り扱う場合においても、好適に用いることができる。
【0011】
(2) 密度が4.0g/cm以上である(1)に記載のガラス組成物。
【0012】
この態様によれば、密度が4.0g/cm以上であるため、高い放射線遮蔽能力を得やすい。
【0013】
(3) 厚みが10mmの前記ガラス組成物において、400nmの波長における透過率が40%以上、550nmの波長における透過率が80%以上である(1)または(2)に記載のガラス組成物。
【0014】
この態様によれば、400nmの波長における透過率が40%以上、550nmの波長における透過率が80%以上であるため、可視域での透明性が高く内部の観察をしやすいガラス組成物を容易に提供することができる。
【0015】
(4) ガラスのヌープ硬さが500N/mm以上である(1)から(3)いずれかに記載のガラス組成物。
【0016】
この様態によれば、ヌープ硬さ(HK)が500N/mm以上であるため、ガラスの表面に傷つきにくく機械的強度の高いガラス組成物を容易に提供することができる。
【0017】
(5) 酸化物基準の質量%で、GeOおよび/またはPの合計量を0〜10%、ZnOを0〜30%、Yおよび/またはYbおよび/またはTbを0〜25%、RnO(RnはLi、Na、K、Csからなる群より選択される1種以上を示す。)を0〜10%、RO(RはSr、Ca、Mgからなる群より選択される1種以上を示す。)を0〜10%、TiOを0〜10%、ZrOを0〜10%、SnOを0〜10%、Nbを0〜20%、Taを0〜30%、WOを0〜30%、Ceを0〜5%、SbおよびAsの合計量を0〜5%の範囲で各成分を含有する(1)から(4)いずれかに記載のガラス組成物。
【0018】
SiO、GeOおよび/またはP、ZnO、Yおよび/またはYbおよび/またはTb、RO(RはSr、Ca、Mgからなる群より選択される1種以上を示す。)等の成分を含有することで、より一層失透がなく安定なガラス組成物を作ることが容易にできる。また、RnO(RnはLi、Na、K、Csからなる群より選択される1種以上を示す。)、Ce等の成分を含有することで、放射線照射による着色も防止できる。また、TiO、ZrO等の成分を含有することで、より一層ガラスの表面の硬さが向上される。また、SnO、Nb、Ta、WO等の成分を含有することで、より一層放射線の遮蔽能力が向上される。
【0019】
(6) (1)から(5)いずれかに記載のガラス組成物からなる放射線遮蔽ガラス。
【0020】
この様態によれば、ガラス組成物は、150kVのX線に対する鉛当量が0.05mmPb/mm以上と放射線遮蔽能力に優れ、また可視域での透明性が高くて透過性に優れ、表面硬度も高いので、放射線遮蔽ガラスとしてより適している。
【発明の効果】
【0021】
本発明のガラス組成物は、B、SiO、Laの各成分を必須成分とし、ガラスの溶融性や安定性および耐失透性が良好で、ガラスの密度が大きいために鉛当量を大きくすることが容易に可能となり、鉛成分を含有しなくても、鉛成分を含有するガラスに匹敵する放射線遮蔽能力を有する。さらに、高い表面硬さを有し、傷付き難くて、可視域における透過性にも優れる。これにより、本発明のガラス組成物は、放射線遮蔽ガラスとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、本発明のガラス組成物において、具体的な実施態様について説明する。
【0023】
[ガラス成分]
本発明のガラス組成物を構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。本明細書中において、各成分の含有率は特に断りがない場合は全て質量%で表示されるものとする。なお、本願明細書中において%で表されるガラス組成は全て酸化物基準での質量%で表されたものである。ここで、「酸化物基準」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、硝酸塩等が溶融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、該生成酸化物の質量の総和を100質量%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0024】
<必須成分、任意成分について>
成分は、La等の希土類酸化物を多量に含む本発明のガラス組成物において、失透がなく透明性の高いガラスを得るのに必須な成分であるが、含有量が多すぎるとガラスの放射線遮蔽能力と化学耐久性が低下しやすく、少なすぎるとガラスの安定性が低下しやすい。以上の効果を十分に得るには、その下限は20%を下限とし、上限は35%、好ましくは30%、最も好ましくは25%である。
【0025】
SiO成分は、ガラス形成酸化物で、安定性の向上に効果があり、特にガラスの化学的耐久性と表面硬度を向上させるのに効果が大きい必須成分であり、11%未満では十分な効果が得難く、45%を超えると未溶物が生じやすくなる。このため溶融温度を上昇させなければならず、その結果、放射線遮蔽能力を向上させるための成分の含有量が少なくなりやすい。従って、含有量の範囲は11〜45%で、好ましい範囲は11〜35%で、最も好ましい範囲は11〜25%である。
【0026】
成分およびSiO成分は、いずれもガラス形成酸化物である。したがって、同時に使用することにより、ガラスの溶融性、安定性および化学的耐久性が向上するので、同時に使用することが好ましい。また、これらの成分の含有量が多すぎると、放射線遮蔽能力が減少しやすいので、高い放射線遮蔽能力を得るためには、含有量の上限を60%とすることが好ましく、55%とすることがより好ましく、50%とすることが最も好ましい。
【0027】
La成分は、ガラスの密度を大きくし、ガラスに高い放射線遮蔽能力を付与するため、本発明の目的を達成するのに必須な成分である。また、化学的耐久性や表面硬度を向上させる効果を有する。特に、化学的耐久性の向上という面では後述のGd、Dy、LuよりもLaの方がその効果が大きくより少量で有効である。従って、Laを優先して用いた方が好ましい。特に、その量が16%未満であるとガラスの放射線遮蔽能力や化学的耐久性が不十分となりやすい。また50%を超えると耐失透性が悪くなりやすい。従って、その下限は16%、好ましくは20%、最も好ましくは25%であり、上限は50%、好ましくは45%、最も好ましくは40%である。
【0028】
Gdおよび/またはDyおよび/またはLu、Yおよび/またはYbおよび/またはTb成分は、必須ではないが、La成分と同じくガラスの密度を大きくし、ガラスに高い放射線遮蔽能力を付与するため、本発明の目的を達成するのに有用な成分である。しかし、Laに加えて、Gdおよび/またはDyおよび/またはLu、Yおよび/またはYbおよび/またはTbの希土類酸化物を過剰に含有するとガラスの安定性が損なわれやすく、また、少なすぎると本発明の目的を満たすことが困難となる。よって、Gdおよび/またはDyおよび/またはLu、Yおよび/またはYbおよび/またはTbの量は25%、好ましくは22%、最も好ましくは20%を上限として含有させるのがよい。尚、これらの成分の内、特にGdとLuはより効果的であるので、どちらかまたは両方を含有させるのが好ましい。
【0029】
(MはAl、Ga、Inからなる群より選択される1種以上を示す。)成分は、いずれも必須ではないが、ガラスの溶融性と安定性を改善するためにそれぞれ5%まで含有してもよい。5%を超えると、ガラスの安定性が悪くなりやすい。好ましくは3%以下である。
【0030】
BaO成分は、ガラスの溶融性、安定性および放射線遮蔽能力の向上に効果がある。任意に添加することができる成分であるが、その量が多すぎるとガラスの安定性がかえって低くなりやすい。従って、含有量の上限値を10%とし、8%とすることが好ましい。
【0031】
GeO、Pの成分は、ガラス形成酸化物で、失透がなく透明性の高いガラスを得るのに特に有用である。任意に添加することができる成分であるが、その量が多すぎるとガラスの放射線遮蔽能力が低下しやすく、少なすぎるとガラスの安定性が低下しやすい。従って、これら成分の合計量の上限として好ましくは10%、より好ましくは5%である。
【0032】
特にGeO成分は、SiO成分と同様な働きをするので、SiO成分の一部または全部を置換することが可能であるが、高価であるため、含有量の上限値を10%以下とすることが好ましく、5%以下とすることがより好ましく、3%以下とすることが最も好ましい。
【0033】
またP成分は、SiOまたはB成分と同様な働きをするので、SiOまたはB成分の一部または全部を置換することが可能である。しかしその量が多すぎるとガラスの安定性が悪くなりやすい。従って、含有量の上限値を10%とすることが好ましく、5%とすることがより好ましく、3%とすることが最も好ましい。
【0034】
ZnO成分は、ガラスの溶融性の向上に効果的な成分である。任意に添加することができる成分であるが、その量が多すぎると失透が発生しやすくなり、放射線遮蔽能力も低下しやすくなる。従って、含有量の上限値を30%とすることが好ましく、28%とすることがより好ましく、25%とすることが最も好ましい。
【0035】
RO成分(RはSr、Ca、Mgからなる群より選択される1種以上を示す。)は、ガラスの溶融性と安定性の向上に効果がある成分である。任意に添加することができる成分であるが、その量が多すぎると、ガラスの安定性を低下させやすくする。従って、含有量の上限値を10%とすることが好ましく、8%とすることがより好ましく、5%とすることが最も好ましい。
【0036】
SrO成分はガラスの溶融性、安定性および放射線遮蔽能力の向上に効果があるが、その量が多すぎるとガラスの安定性がかえって低くなりやすい。従って、含有量の上限値を10%とすることが好ましく、8%とすることがより好ましい。
【0037】
CaO成分は、ガラスの溶融性を改善させるのに効果的な成分であるが、その量が多すぎると失透が発生しやすくなり、放射線遮蔽能力も低下しやすい。従って、含有量の上限値を10%とすることが好ましく、8%とすることがより好ましく、5%とすることが最も好ましい。
【0038】
MgO成分は、ガラスの溶融性の改善に効果的な成分であるが、その量が多すぎると失透が発生しやすくなり、放射線遮蔽能力も低下しやすい。従って、含有量の上限値を10%とすることが好ましく、5%とすることがより好ましく、3%とすることが最も好ましい。
【0039】
RnO成分(RnはLi、Na、K、Csからなる群より選択される1種以上を示す。)は、ガラスの溶融性と安定性の向上に効果があると共に、放射線照射による着色の防止にも効果がある成分である。任意に添加することができる成分であるが、その量が多すぎると、ガラスの安定性が悪くなりやすく、放射線遮蔽能力も大きく低下しやすい。従って、合計量の上限値を10%とすることが好ましく、5%とすることがより好ましく、3%とすることが最も好ましい。また、RnO成分を2種以上組合せると、放射線照射による着色の防止により大きな効果が得やすい。
【0040】
LiO成分は、ガラスの溶融性を改善する成分であるが、その量が多すぎると、失透が発生しやすくなり、放射線遮蔽能力も低下しやすい。従って、含有量の上限値を10%とすることが好ましく、5%とすることがより好ましく、3%とすることが最も好ましい。
【0041】
NaO成分は、ガラスの溶融性を改善する成分であるが、その量が多すぎると、失透が発生しやすくなり、放射線遮蔽能力も低下しやすい。従って、含有量の上限値を10%とすることが好ましく、5%とすることがより好ましく、3%とすることが最も好ましい。
【0042】
O成分は、ガラスの溶融性を改善する成分であるが、その量が多すぎると、失透が発生しやすくなり、放射線遮蔽能力も低下しやすい。従って、含有量の上限値を10%とすることが好ましく、8%とすることがより好ましく、5%とすることが最も好ましい。
【0043】
CsO成分は、ガラスの溶融性を改善し、さらに放射線遮蔽能力の向上にも寄与する成分であるが、その量が多すぎると、失透が発生しやすくなる。従って、含有量の上限値を10%とすることが好ましく、5%とすることがより好ましく、3%とすることが最も好ましい。
【0044】
TiO成分は、ガラスの安定性と表面の硬さの向上に効果がある成分である。任意に添加することができる成分であるが、その量が多すぎるとガラスの安定性が低くなる傾向にある。従って、含有量の上限値を10%とすることが好ましく、8%とすることがより好ましく、5%とすることが最も好ましい。
【0045】
ZrO成分は、放射線の遮蔽能力とガラスの表面の硬さの向上に効果がある成分である。任意に添加することができる成分であるが、その量が多すぎるとガラスの安定性を低下させやすい。従って、含有量の上限値を10%とすることが好ましく、8%とすることがより好ましく、5%とすることが最も好ましい。
【0046】
SnO成分は、放射線の遮蔽能力の向上に効果がある成分である。任意に添加することができる成分であるが、その量が多すぎるとガラスの安定性を低下させやすい。従って、含有量の上限値を10%とすることが好ましく、8%とすることがより好ましく、5%とすることが最も好ましい。
【0047】
Nb成分は、放射線の遮蔽能力の向上に効果がある成分である。任意に添加することができる成分であるが、その量が多すぎるとガラスの安定性が低下しやすい。従って、含有量の上限値を20%とすることが好ましく、15%とすることがより好ましく、10%とすることが最も好ましい。
【0048】
Ta成分は、放射線の遮蔽能力の向上に効果がある成分である。任意に添加することができる成分であるが、その量が多すぎるとガラスの安定性を低下させやすい。従って、含有量の上限値を30%とすることが好ましく、20%とすることがより好ましく、10%とすることが最も好ましい。
【0049】
WO成分は、放射線の遮蔽能力の向上に効果がある成分である。任意に添加することができる成分であるが、その量が多すぎるとガラスの安定性が低下しやすい。従って、含有量の上限値を30%とすることが好ましく、20%とすることがより好ましく、15%とすることが最も好ましい。
【0050】
Ce成分は、放射線の照射による着色を防ぐ効果がある成分である。任意に添加することができる成分であるが、その量が多すぎると、ガラスの吸収端が長波長側にシフトし、可視域での透明性の低下を招くことがある。従って、含有量の上限値を5%以下とすることが好ましく、3%以下とすることがより好ましく、1%以下とすることが最も好ましい。
【0051】
Sb、As成分は、ガラス溶融の脱泡のために任意に添加することができる成分である。SbおよびAsの合計量で、5%以下で十分に効果を有する。また、Asは、ガラスを製造、加工、および廃棄をする際に環境対策上の措置を講ずる必要がある。従って、SbおよびAsの合計量の上限値を5%とすることが好ましく、3%とすることがより好ましく、1%とすることが最も好ましい。
【0052】
<含有させるべきでない成分について>
他の成分を本発明のガラス組成物の特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。ただし、Tiを除くV、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、AgおよびMo等の各遷移金属成分は、それぞれを単独または複合して少量含有した場合においても、ガラスが着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じさせる。従って、本発明のガラス組成物においては、実質的に含まないことが好ましい。
【0053】
Pb、Th、Cd、Tl、Osの各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあるため、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、および製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には実質的に含まないことが好ましい。
【0054】
フッ素成分は、ガラス溶融の際に揮発する問題があり、さらに脈理発生の原因となるため、本発明のガラス組成物においては、実質的に含まないことが好ましい。
【0055】
以上の組成を含有する本発明のガラス組成物は、密度が4.0g/cm以上のものを得ることができる。さらに好ましい密度の範囲は4.2g/cm以上である。このため、放射線遮蔽能力に優れる。
【0056】
また、本発明のガラス組成物は、可視域での透明性が高く、厚み10mmのガラス組成物において400nmにおける透過率が40%以上で、550nmにおける透過率が80%以上である。このため、遮蔽窓として用いた場合に内部の観察がしやすい。
【0057】
また、本発明のガラス組成物は、ヌープ硬さ(HK)が500N/mm以上であり、より好ましくは550N/mm以上であり、最も好ましくは600N/mm以上である。このため、ガラス組成物を加工、研磨する際に表面に傷が付きにくい。ここで、ヌープ硬さとは、硬さ表示の一種で、試験片に菱形の圧コン(痕)をつけるダイヤモンド製の圧子を用いて測定するもので、金属、ガラスや陶磁器等の硬さを測定するのに用いられる。このヌープ硬さは、試料の平面研磨面にダイヤモンド菱形圧子(対稜角172°30’と130°)を0.98Nの荷重をかけ15秒間押しつけ、くぼみをつけたとき、次の式1によって算出される。
【0058】
【数1】

【0059】
本発明において、放射線遮蔽能力は鉛当量で表される。鉛当量とはX線の遮蔽能力が等しい鉛板の厚みで表され、この値が大きいほど放射線遮蔽能力が優れることを意味する。本発明のガラス組成物について150kVのX線に対する鉛当量は、JIS Z 4501に準じた方法で測定した鉛当量を厚み1mmに換算して求めた。本発明のガラス組成物の鉛当量は0.03mmPb/mm以上とすることが好ましく、0.05mmPb/mm以上とすることがより好ましい。
【0060】
このように、本発明のガラス組成物は、150kVのX線に対する鉛当量が0.05mmPb/mm以上であり、また厚み10mmのガラス組成物において400nmにおける透過率が40%以上で、550nmにおける透過率が80%以上であり、また、ヌープ硬さが500N/mm以上と、可視域での透明性が高いので、放射線遮蔽能力が高くて、表面強度(表面硬さ)および透過性に優れる放射線遮蔽ガラスとして適している。
【0061】
[製造方法]
本発明のガラス組成物は、通常のガラスを製造する方法であれば、特に限定されないが、例えば、以下の方法により製造することができる。各出発原料(酸化物、炭酸塩、硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩、フッ化物塩等)を所定量秤量し、均一に混合する。混合した原料を石英坩堝、アルミナ坩堝、白金坩堝、白金合金坩堝またはイリジウム坩堝に投入し、溶解炉で1100〜1550℃で1〜10時間熔解する。その後、撹拌、均質化した後、適当な温度に下げて金型等に鋳込み、ガラスを製造する。
【実施例】
【0062】
以下、実施例および比較例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0063】
[実施例1〜4]
表1に示す実施例1〜4の組成(単位は質量%)で出発原料を秤量し、均一に混合した後、石英坩堝を使って1200〜1300℃で1時間20分間溶解し、カレットを作製した。その後、白金坩堝に入れて1200〜1350℃で2〜4時間熔解したのち、金型に鋳込み、ガラスを作製した。
【0064】
[比較例1]
比較例1として放射線遮蔽用ガラスとして使われている鉛含有ガラスを以下のようにして作製した。
【0065】
表1に示す実施例1〜10の組成(単位は質量%)で出発原料を秤量し、均一に混合した後、白金坩堝を使って1400〜1500℃で2〜4時間熔解したのち、金型に鋳込み、ガラスを作製した。
【0066】
表1に実施例1〜4および比較例1の密度、ヌープ硬さ(HK)、透明性、鉛当量を示した。密度は、アルキメデス法により測定を行った。透過率測定については、日本光学硝子工業会規格JOGIS02に準じて行った。尚、本発明においては、着色度ではなく透過率を示した。具体的には、厚さ10±0.1mmの対面平行研磨品をJIS Z 8722に準じ、200〜800nmの分光透過率を測定した。波長400nmと550nmにおける透過率を求めて本発明の透明性を表す指標とした。ヌープ硬さ(HK)の測定は日本光学硝子工業会規格JOGIS09に準じて行った。鉛当量は、JIS Z 4501に準じて、管電圧150kVで測定した。
【0067】

【表1】

【0068】
また、図1に実施例1の分光透過率曲線を示す。横軸に波長(nm)、縦軸に分光透過率(%)を示す。尚、これらの透過率には反射損失が含まれている。
【0069】
図1に示すように、本発明のガラスは全可視域にわたって高い透明性を有することが分かる。
【0070】
表1によると、本発明のガラスのヌープ硬さ(HK)は620N/mm以上であり、比較例に比べて表面硬さに優れることが分かる。
【0071】
また、表1によると、本発明のガラスは鉛当量が高く、0.16mmPb/mm以上であり、比較例1の鉛ガラスに匹敵する放射線遮蔽能力を有することが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】実施例1のガラスにおける分光透過率曲線を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準の質量%で、Bを20〜35%、SiOを11〜45%、Laを16〜50%、M(MはAl、Ga、Inからなる群より選択される1種以上を示す。)を0〜5%、Gdおよび/またはDyおよび/またはLuを0〜25%、BaOを0〜10%の範囲で各成分を含有し、150kVのX線に対する鉛当量が0.05mmPb/mm以上であるガラス組成物。
【請求項2】
密度が4.0g/cm以上である請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項3】
厚みが10mmの前記ガラス組成物において、400nmの波長における透過率が40%以上、550nmの波長における透過率が80%以上である請求項1または2に記載のガラス組成物。
【請求項4】
ガラスのヌープ硬さが500N/mm以上である請求項1から3いずれかに記載のガラス組成物。
【請求項5】
酸化物基準の質量%で、GeOおよび/またはPの合計量を0〜10%、ZnOを0〜30%、Yおよび/またはYbおよび/またはTbを0〜25%、RnO(RnはLi、Na、K、Csからなる群より選択される1種以上を示す。)を0〜10%、RO(RはSr、Ca、Mgからなる群より選択される1種以上を示す。)を0〜10%、TiOを0〜10%、ZrOを0〜10%、SnOを0〜10%、Nbを0〜20%、Taを0〜30%、WOを0〜30%、Ceを0〜5%、SbおよびAsの合計量を0〜5%の範囲で各成分を含有する請求項1から4に記載のガラス組成物。
【請求項6】
請求項1から5いずれかに記載のガラス組成物からなる放射線遮蔽用ガラス。


【図1】
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【公開番号】特開2008−88020(P2008−88020A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−271180(P2006−271180)
【出願日】平成18年10月2日(2006.10.2)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】