説明

ガラス組成物

【課題】鉛を含まず、低いガラス転移点(Tg)並びに高屈折率で、被覆作業後もガラスと蛍光体が反応せず高い蛍光特性と信頼性を有するビスマス系ガラス組成物を提供する。
【解決手段】Biを含有し、ガラス転移点(Tg)が500℃以下であるガラス組成物。Bi−B−ZnO系ガラスである前記ガラス組成物。酸化物基準のモル%表示で、5〜50%のB、5〜90%のBi、5〜70%のZnOの各成分を含有する前記ガラス組成物。酸化物基準のモル%表示でZnO/Bの比の値が0.2以上かつZnO/Biの比の値が0.2以上であることを特徴とする前記ガラス組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子(発光ダイオード、有機ELなど)の被覆に用いられるガラスおよびそのガラスを用いて被覆されたガラス被覆発光素子および/またはガラス被覆発光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、発光素子を被覆する部材としてはエポキシ樹脂、シリコーン樹脂もしくはフッ素樹脂などの樹脂が主とされていた。しかし、上記部材では素子の発熱、光および/または環境中の水分による劣化を受けやすく、寿命が短いという問題が指摘されている。また、発光効率が足りず、従来の発光装置は一般照明や自動車用ヘッドライトなどの高輝度・長寿命が求められる照明への採用が難しかった。そこで、被覆する部材としてガラスが注目されてきている。
【0003】
例えば特許文献1では、B−SiO−ZnO系ガラス、B−SiO−PbO系ガラス、B−P−ZnO系ガラスでの開示がされている。
しかし、上記文献には具体的な組成は記載されておらず実用性がない。また、鉛は環境への負荷が大きく、PbO成分を含有するガラスの製造や廃棄物処理には、排水の水質検査や廃棄物の分別処理等が必要とされ、環境対策のために高いコストを要するので、鉛を含有しない封着材が望まれている。
【0004】
特許文献2では、P−Al−ZnO系ガラス、B−SiO−ZnO−Nb系ガラスの開示がされている。
しかし、P−Al−ZnO系ガラスは一般的に化学的耐久性が低く、耐水性や耐候性などに問題がある。また、LEDチップなどを被覆するために熱処理などの作業を行った際にガラスと蛍光体が反応し、蛍光特性の劣化や変色などの問題が発生する。
−SiO−ZnO−Nb系ガラスはガラス転移点(Tg)の低温化が困難である。Tgを500℃以下にするためには、アルカリ金属成分を大量に含有させる必要があるのだが、同時に化学的耐久性が悪くなるため、耐水性や耐候性が悪くなるのはもちろんのこと、蛍光体と反応しやすくなってしまうため、発光素子の被覆には向かない。
さらに、かかる用途におけるガラスについては、ガラス転移点(Tg)が高いと被覆の際の作業温度が高くなってしまうため、素子の損傷や蛍光体の劣化の原因となる。また、屈折率が十分に高くない場合、素子からの光の取り出し効率が悪くなってしまい、高輝度化が困難となってしまう。そのため、高輝度・長寿命の発光素子の被覆には適さない。
上記文献記載のガラスでは、ガラス転移点(Tg)を下げるためにはアルカリ金属成分などを多く含有させる必要があるため、高屈折率に寄与する成分の含有量が限られてしまう。したがって、上記文献のガラスでは、500℃より低いTgと、波長588nmの光線の屈折率1.6以上を実現することは困難であると考えられる。
【0005】
特許文献3では、P−SnO−ZnO系ガラスの開示がされている。
しかし、錫を多く含むガラスは還元雰囲気中で製造する必要があり、製造コストが高くなる。さらに、加熱中に価数変化が起こりやすいため、被覆作業の際に周囲の酸素や蛍光体と反応してしまい、結晶化や変色などが起こる要因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−310375号公報
【特許文献2】特開2010−278474号公報
【特許文献3】特開2008−300536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は以上のような課題に鑑みてなされたものであり、鉛を含まず、低いガラス転移点(Tg)並びに高屈折率で、被覆作業後もガラスと蛍光体が反応せず高い蛍光特性と信頼性を有するガラス組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、B、Bi、ZnOの含有量を適宜調整することにより、低いガラス転移点(Tg)、高い屈折率、及び蛍光体と反応しにくい特性を兼ね備えたガラス組成物を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0009】
(1) Biを含有し、ガラス転移点(Tg)が500℃以下であるガラス組成物。
(2) Bi、B、ZnOを必須に含有する(1)に記載のガラス組成物。
(3) 酸化物基準のモル%表示で
5〜50%のB
5〜90%のBi
5〜70%のZnO
の各成分を含有する(1)又は(2)に記載のガラス組成物。
(4) 酸化物基準のモル%表示でZnO/Bの比の値が0.2以上かつZnO/Biの比の値が0.2以上であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のガラス組成物。
(5) 酸化物基準のモル%表示で
0〜15%のSiO
0〜15%のP
0〜20%のRnO(但し、RはLi、Na、K、Csからなる群より選択される1種以上)
0〜20%のBaO
の各成分を含有する(1)〜(4)のいずれかに記載のガラス組成物。
(6) 酸化物基準のモル%表示で
0〜20%のMgO
0〜20%のCaO
0〜20%のSrO
0〜15%のTiO
0〜15%のZrO
0〜15%のNb
0〜15%のSnO
0〜15%のWO
0〜40%のTeO
0〜30%のLn(但し、LnはY、La、Ce、Gd、Dy、Yb、Luからなる群より選択される1種以上)
の各成分を含有する(1)〜(5)のいずれかに記載のガラス組成物。
(7) 結晶化温度(Tx)とガラス転移点(Tg)との温度差(ΔT)が80℃以上、波長588nmの光線に対する屈折率が1.6以上である(1)〜(6)のいずれかに記載のガラス組成物。
(8) 30℃〜300℃における平均線熱膨張係数が150×10−7/℃以下であることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載のガラス組成物。
(9) (1)〜(8)のいずれかのガラス組成物よりなる発光素子被覆用ガラス。
(10) (9)の発光素子被覆用ガラスと蛍光体が含まれる蛍光体複合材料。
(11) ガラスと蛍光体を、質量比(ガラス:蛍光体)で99.999:0.001〜70:30で混合し、焼成してなる(10)に記載の蛍光体複合材料。
(12) ガラス組成物の0〜80質量%を樹脂に置換してなる(11)に記載の蛍光体複合材料。
(13) 600℃以下で焼成してなることを特徴とする蛍光体複合部材。
(14) (9)の発光素子被覆用ガラスと蛍光体が含まれる蛍光体複合部材。
(15) ガラス組成物の0〜80質量%を樹脂に置換してなる(14)に記載の蛍光体複合部材。
(16) 250〜600nmの波長の光を可視光に変換することを特徴とする(12)に記載の蛍光体複合部材。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、鉛を含まずとも、上記課題を解決することができ、特に以下の効果を得ることができる。
【0011】
本発明によれば、ガラス転移点(Tg)が500℃以下のガラスを得ることができる。
【0012】
本発明によれば、結晶化温度(Tx)とガラス転移点(Tg)との温度差(ΔT)が80℃以上、波長588nmでの屈折率が1.6以上であるガラスを得ることができる。
【0013】
本発明によれば、30℃〜300℃における平均線熱膨張係数が150×10−7/℃以下であるガラスを得ることができる。
【0014】
本発明のガラスは高温時でも蛍光体と反応しづらいため、ガラスと蛍光体を混合させ加熱などを行うことにより、ガラス中に蛍光体が分散した複合材料の作製を行うことができる。
【0015】
本発明のガラスは屈折率が高いため、光の取り出し効率がよい高輝度な発光素子の作製に適する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明のガラス組成物において、具体的な実施態様について説明する。
【0017】
(ガラス成分)
本発明のガラス組成物を構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。各成分はモル%にて表現する。なお、本願明細書中においてモル%で表されるガラス組成は全て酸化物基準でのモル%で表されたものである。ここで、「酸化物基準」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、硝酸塩等が溶融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、該生成酸化物の総和を100モル%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0018】
Bi成分はガラス形成酸化物の役割を果たし、ガラスの安定性の向上に大きく寄与し、特に低いガラス転移点(Tg)と高い屈折率を実現するために欠かせない成分である。しかし、含有量が少なすぎると上記所望の物性を達成しにくくなり、過剰に含有するとガラス安定性が損なわれ、ガラス化しづらくなるとともに化学的耐久性が悪化しやすくなったり、熔解の際に石英などのるつぼを激しく浸食してしまうため異物が混入してしまうなどの原因となったりする。よって、Bi量は上限を90%とするのが好ましく、60%とするのがより好ましく、40%とするのが最も好ましい。また、下限を5%とするのが好ましく、16%とするのがより好ましく、20%とするのが最も好ましい。
【0019】
はガラス形成酸化物であり、安定なガラスを得るのに有用な成分である。含有量が少ないとガラス化しづらくなるとともに、発光素子などを封止する際の被覆作業による加熱等によって結晶化や変色の原因となる。他方、その量が多すぎると化学的耐久性が悪化しやすくなったり、蛍光体と反応しやすくなったりするという不利益がある。発行素子の被覆工程においても結晶化や蛍光体と反応せずに高輝度、高出力、長寿命な発光素子および/または発光装置を実現するためにBの含有量は5%以上が好ましく、さらに好ましくは10%以上であり、最も好ましくは、15%以上である。また、これらの含有量の上限を50%とすることが好ましく、45%とすることがより好ましく、36%とすることが最も好ましい。
【0020】
ZnOはガラス安定性の向上、低Tg化に効果的な成分であり、特に熱処理においてガラスの安定性を維持するのに不可欠である。本発明においてガラスの安定性および被覆作業などの際のガラスの軟化や失透性、蛍光体との反応性にはZnOの含有量が強く依存するため、その量が少なすぎると本発明の目的を達成できない。他方、その量が多すぎるとガラスの安定性が損なわれ、ガラス化しにくいという不利益がある。よって、ZnO量は下限を5%とするのが好ましく、20%とするのがより好ましく、40%とするのが最も好ましい。また、上限を70%とするのが好ましく、60%とするのがより好ましく、55%とするのが最も好ましい。
【0021】
被覆作業ではガラス形成酸化物の結晶化(例;Bi結晶、Bi−B結晶)やガラスと蛍光体との反応が原因で変色や透過率が低下してしまうことがある。蛍光体と反応せず、安定なガラスを維持するためには、酸化物基準のモル%で表されたZnO/B比は0.2以上が好ましく、1.2以上がより好ましく、1.8以上が最も好ましい。
また、ZnO/Bi比は0.2以上が好ましく、1.2以上がより好ましく、1.8以上が最も好ましい。
【0022】
SiO成分はガラス骨格を形成することが可能な成分であり、化学的耐久性を向上させる成分であるので、任意成分である。
しかし、その量が15%よりも多いとガラスが分相し、失透しやすくなるとともにTgが高くなり600℃以下での被覆作業が困難となる。従って、SiO成分の含有量は15%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、6%以下が最も好ましい。
【0023】
成分はガラス骨格を形成する成分であり、少量添加することによりガラスを安定化させる成分であるので、任意成分である。しかし、その量が15%よりも多いとガラスが分相し、失透しやすくなる。従って、P成分の含有量は15%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、6%以下が最も好ましい。
【0024】
RnO(R=Li、Na、K、Csからなる群より選択される1種以上)成分はガラス溶解の際にバッチの発泡性を抑え、ガラスの溶融性と安定性の向上、更にガラスのTgの低減に効果が大きい有用な成分であるが、過剰に含有するとガラスの化学的耐久性が悪くなりやすくなるとともに、発光素子などの被覆作業時の加熱等の処理などによって、失透したり、蛍光体と反応したりする。そのため、上限を20%とするのが好ましく、10%とするのがさらに好ましく、6%とするのが最も好ましい。また、これらの成分を1種以上使うとより効果的である。
【0025】
BaOはガラスの溶融性と安定性の向上、低Tg化に効果があり、さらに化学的耐久性の向上にも有効である、任意の添加成分である。しかし、その量が多すぎるとガラス安定性が悪くなる。従って、含有量は上限を20%とするのが好ましく、15%とするのがより好ましく、10%とするのが最も好ましい。
【0026】
RO(RはMg、Ca及びSrからなる群より選択される1種以上)は、ガラスの溶融性と安定性の向上、低Tg化に効果があり、さらに化学的耐久性の向上にも有効である、任意の添加成分である。しかし、その量が多すぎるとガラス安定性が悪くなる。従って、これら成分の合計含有量は上限を20%とするのが好ましく、15%とするのがより好ましく、5%とするのが最も好ましい。
【0027】
TiO、ZrO、Nb成分は化学的耐久性の向上および高屈折率化に効果がある、任意に添加し得る成分である。しかし、その量が多すぎるとガラスの溶融性と安定性も低下すると共にTgも大幅に上昇する。従って、これら成分は、上限を15%とするのが好ましく、10%とするのがより好ましく、5%とするのが最も好ましい。
【0028】
TeO成分は溶融性、軟化特性の向上、Tgの低温化および高屈折率化に効果があり、任意に添加し得る成分であるが、含有量が多すぎるとガラスの安定性も低下する。従って、上限を40%とするのが好ましく、20%とするのがより好ましく、10%とするのが最も好ましい。
【0029】
SnO、WO成分は溶融性、軟化特性の向上、Tgの低温化および高屈折率化に効果があり、任意に添加し得る成分であるが、これら成分の含有量が多すぎるとガラスの安定性も低下する。従って、これら成分は、上限を15%とするのが好ましく、10%とするのがより好ましく、5%とするのが最も好ましい。
【0030】
Ln(Ln=Y、La、Ce、Gd、Dy、Yb、Luからなる群より選択される1種以上)は、化学的耐久性の向上および高屈折率化に効果を有する、任意に添加し得る成分であるが、これら成分の1種または2種以上合計の含有量が多すぎるとガラスの溶融性と安定性も低下するのみならず、Tgも上昇する。従って、これら成分は、上限を30%とするのが好ましく、20%とするのがより好ましく、10%とするのが最も好ましい。また、特に前記効果を充分に得たい場合は下限を0.1%とするのが好ましく、0.2%とするのがより好ましく、0.3%とするのが最も好ましい。また、これらの希土類酸化物の一種類以上を上述したTiO、ZrO、Nb、SnO、WO、TeO成分の一種類以上と同時に使うとより効果的である。
【0031】
SbまたはAs成分はガラス熔融時の脱泡のために添加し得るが、その量は5%までで十分である。そのため、好ましくは5%以下であり、より好ましくは3%以下であり、最も好ましくは含有しないほうがよい。
【0032】
<含有させるべきでない成分について>
Cd及びTl成分は低Tg化を目的として含有させることができる。しかし、Pb、Th、Cd、Tl、Osの各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあるため、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には実質的に含まないことが好ましい。
【0033】
鉛成分は、ガラスを製造、加工、及び廃棄をする際に環境対策上の措置を講ずる必要があるため、コストが高くなるため、できれば含有させるべきでない。
【0034】
Fe、Cr、CuO、NiO、MnOなどの着色成分は、蛍光体複合材料を着色させてしまうため、これら成分は合量で1%以下に抑えるのが好ましい。より好ましくは0.5%以下であり、最も好ましくは0.05%以下である。
【0035】
本発明の蛍光体複合材料のガラス組成物と蛍光体の混合割合(ガラス:蛍光体)を質量比で99.999:0.001〜10:90とすることで発光素子および/または発光装置を得ることができる。
上記比の値が大きすぎるとガラスで蛍光体を十分に被覆することができず、蛍光体の劣化や光の取り出し効率が十分に得られないという不利益があり、上記比の値が小さすぎると250〜600nmの波長の光を可視光に変換することによる色変化を十分に得られないという不利益がある。尚、本発明において可視光とは380nm〜780nmを指す。
なお、必要に応じ、ガラスの一部を樹脂に置き換えても良い。その場合、上記複合材料において、ガラス組成物の0〜80質量%を樹脂に置き換えることにより、より低温にて封止することが可能となる。
【0036】
蛍光体複合部材は、ガラス組成物と蛍光体を混合し、電気炉などを用いて600℃以下にて熱処理することで、作製することが可能であるが、その方法に限定されるものではない。例えば、蛍光体複合部材の作製方法として、有機溶媒と混合しペースト状にした後、加熱などによりガラスを軟化させ作製する方法や、レーザー照射などにより作製する方法などがある。さらに、減圧下または/および真空中や還元雰囲気状態などでの作製方法がある。
【0037】
ガラス組成物の粉体と蛍光体の粉体を混合した蛍光体複合材料を用いると蛍光体複合部材後のムラを抑えることができるとともに、蛍光体をガラス組成物で被覆しやすくなる。ガラス組成物の粉体は、粒経1μm以下の粒子の相対粒子量が1%よりも多いほうが好ましく、1.5%以上が好ましく、2%以上が最も好ましい。
【0038】
本発明の蛍光体複合材料を600℃以下で被覆作業を行うことで素子を損傷させることなく蛍光体複合部材を得ることが可能となる。より好ましくは550℃以下での被覆作業であり、さらに好ましくは520℃以下での被覆作業である。
したがって、本発明のガラス組成物は、ガラス転移点の上限が500℃であることが好ましく、より好ましくは480℃であり、最も好ましくは450℃である。
【0039】
蛍光体複合材料に使用する蛍光体は、可視光域に発光ピークを有するものであれば、特に限定されるものではない。このような蛍光体として、酸化物、窒化物、酸窒化物、塩化物、酸塩化物、硫化物、酸硫化物、ハロゲン化物、カルコゲン化物、アルミン酸塩、ハロリン酸塩化物、YAG系化合物などが挙げられる。
【0040】
本願明細中における結晶化温度(Tx)およびガラス転移点(Tg)とは示差熱分析装置(DTA)にて測定されたものであり、TxとTgの温度差(ΔT)が80℃より小さいと被覆作業中にガラスが結晶化してしまい変色や発光素子からの光の散乱等の原因となる。したがって、ΔTは80℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましく、150℃以上が最も好ましい。
【0041】
ガラス組成物および/または蛍光体複合材料の屈折率が高いと発光素子からの光を効率よく取り出すことができるため、高輝度な発光素子および/または発光装置を得ることができる。そのため、波長588nmの光での屈折率は1.6以上が好ましく、1.7以上がよりの好ましく、さらに好ましくは1.8以上である。
【0042】
従来、発光素子に用いられる素材としてサファイアやGaNなどがあり、その熱膨張係数はそれぞれ75×10−7/℃、56×10−7/℃(a軸)程度である。被覆材料と発光素子などに用いられる素材との熱膨張係数の差が大きいと熱歪みによるクラックや破損の原因となる。そのため、30〜300℃の温度範囲における熱膨張係数は150×10−7/℃以下が好ましく、より好ましくは130×10−7/℃以下であり、さらに好ましくは110×10−7/℃以下である。
【0043】
本発明の蛍光体複合部材は、250〜600nmの光を可視光に変換することが可能である。ここで言う「変換」とは、外部からの光を一種または二種以上の蛍光体が吸収し、蛍光または/およびりん光を発することを指し、その特性は、蛍光分光分析装置などを用いることで確認することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
(ガラスの作製)
ガラスが酸化物基準のモル%で表わされた表1に示す組成比となるように、珪砂、硼酸、第二リン酸アンモニウム、酸化アルミニウム、メタリン酸アルミニウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、第一リン酸ソーダ、炭酸カリウム、リン酸二水素カリウム、酸化亜鉛、メタリン酸亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、炭酸ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、炭酸バリウム、硝酸バリウム、メタリン酸バリウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、二酸化テルル、酸化ビスマス、酸化タングステン、酸化錫、酸化ランタン、酸化イットリウム、酸化ガドリニウム、酸化ニオブ、亜砒酸、五酸化アンチモン等のガラス原料バッチを調製した。ガラス原料バッチはアルミナるつぼ、石英るつぼ、金るつぼ、または白金坩堝へ充填し、電気炉により750℃〜1400℃の温度で30分〜4時間加熱溶融した。溶融したガラスを板状に成型し徐冷した。
【0046】
(ガラスの測定)
作製したガラスについて、ガラス転移点(Tg)、結晶化温度(Tx)、30℃〜300℃における平均線熱膨張係数、屈折率の測定を行った。その結果を表1〜3に示す。
【0047】
(ガラス転移点(Tg))
ガラス転移点(Tg)および結晶化温度(Tx)については、示差熱分析装置(DTA)で昇温速度を10℃/分にして測定した。結晶化ピークが明確に観察されなかったサンプルに関しては、“―”で表記し、結晶化しにくく安定なガラスと評価した。
【0048】
(熱膨張係数)
作製したガラスについてJOGIS(日本光学硝子工業会規格)16−2003「光学ガラスの常温付近の平均線膨張係数の測定方法」に則り、温度範囲を30℃から300℃の範囲に換えて平均線膨張係数を測定した。測定した平均線膨張係数(α)の値を表1に示す。
【0049】
波長588nmでの屈折率[nd]については、徐冷降温速度を−25℃/hrとして得られたガラスについて測定した。
【0050】
(蛍光体の封止試験)
作製したガラスをボールミル等で粉砕して、平均粒径が5μm程度の粉末状のガラスとした。
【0051】
次に、作製したガラスの粉体と蛍光体の粉体を混合し、蛍光体複合材料を作製した。使用する蛍光体は、可視光域に発光ピークを有するものであれば、特に限定されるものではないが、本実施例ではCe:YAl12を主成分とする蛍光体を使用した。本実施例では、ガラスと蛍光体を混合する重量比を99.95:0.05となるようにした。
【0052】
得られた蛍光体複合材料を金型に入れて、30MPaで加圧成形し、直径20mm×厚さ2mmの成型体を作製した。この成型体を550℃で1時間熱処理することで、蛍光体複合部材を作製した。
【0053】
ガラスと蛍光体の反応の評価については、熱処理して得られた試料(蛍光体複合部材)の着色の有無を観察することで行った。各試料を目視で観察し、試料が蛍光体粉末の色と同じものを「○」とし、試料が蛍光体粉末と異なる色に着色したものを「×」とした。尚、試料が蛍光体粉末と異なる色に着色するということは、焼成する際の熱によりガラスと蛍光体が反応し、蛍光体が劣化していることを示す。
【0054】
【表1】

【0055】
表1に示すとおり、本発明の実施例のガラスは458〜475℃のガラス転移点(Tg)を有しており、結晶化ピーク(Tx)とガラス転移点(Tg)との差(ΔT)は162℃以上である。また、明確な結晶化ピークが観察されなかった実施例もある。通常、被覆する温度はTgよりも高い温度であり、TgとTxとの差(ΔT)が大きいほど被覆作業中に結晶化しにくく、十分にガラスを軟化させることができる。すなわち、本発明のガラスは結晶化しにくく、封止材として適しているガラスと言える。通常、発光素子などは600℃よりも高温になると素子が破損してしまうため、600℃以下での被覆が好まれる。本発明のガラスは、Tgが500℃以下と比較的低温であるため、600℃以下での熱処理等により、被覆を行うことが可能であり、発光素子の被覆に適していると言える。
【0056】
本発明の実施例のガラスは、波長588nmでの屈折率(nd)が1.85〜1.87である。従来、発光素子の封止材には樹脂が用いられており、その屈折率は1.40〜1.6程度であった。そのため、発光部の屈折率(例えばLEDでは、発光素子のチップ基板にサファイアが用いられており、その屈折率は1.85程度である)よりも封止材の屈折率が低く、光の取り出し効率が低かった。本発明のガラスは、屈折率が1.60よりも大きいため、光の取り出し効率の向上が期待でき、発光素子の封止材として適していると言える。
【0057】
また、本発明の実施例のガラスは、30〜300℃の温度範囲において、65.6〜80.1×10−7/℃の熱膨張係数(α)を有しており、発光素子の封止材として適していると言える。
【0058】
表1に示すとおり、本発明の実施例のガラスは、蛍光体と混合し550℃で熱処理を行っても変色せず、蛍光体粉末と同じ色を保っていた。一方、表4に示すとおり、比較例のガラスでは熱処理によって変色し、蛍光体粉末とは異なる色に変色した。比較例のガラスは、被覆作業によって蛍光体と反応し蛍光体が劣化してしまうが、本発明のガラスは蛍光体複合部材を作製後も変色せず、250〜600nmの波長の光を可視光に変換する機能を有する。
【0059】
以上、説明したように本発明にかかるガラスは、低いガラス転移点(Tg)を有し、かつΔTが大きいため発光素子を低温で被覆することができる。また、高い屈折率により発光素子からの光の取り出し効率を向上させることができ、熱膨張係数が発光素子の素材と近いため被覆後も膨張係数の差によるクラックなどが入りにくく、クラックによる光の散乱などの心配がなく、高輝度・高効率で信頼性の高い発光部材の作製が可能である。さらに、鉛を含有しないため環境対策等にコストを要しない利点がある。また、本発明にかかるガラスは、上記効果に加えて、蛍光体複合部材作製後も変色することなく、250〜600nmの波長の光を可視光に変換する機能を有するため、従来の封止材に比べ、耐熱性・耐紫外性に優れ、長寿命でかつ高効率での光の取り出し効果を有する発光部材を得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Biを含有し、ガラス転移点(Tg)が500℃以下であるガラス組成物。
【請求項2】
Bi、B、ZnOを必須に含有する請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項3】
酸化物基準のモル%表示で
5〜50%のB
5〜90%のBi
5〜70%のZnO
の各成分を含有する請求項1又は2に記載のガラス組成物。
【請求項4】
酸化物基準のモル%表示でZnO/Bの比の値が0.2以上かつZnO/Biの比の値が0.2以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のガラス組成物。
【請求項5】
酸化物基準のモル%表示で
0〜15%のSiO
0〜15%のP
0〜20%のRnO(但し、RはLi、Na、K、Csから選ばれる一種以上)
0〜20%のBaO
の各成分を含有する請求項1〜4のいずれかに記載のガラス組成物。
【請求項6】
酸化物基準のモル%表示で
0〜20%のMgO
0〜20%のCaO
0〜20%のSrO
0〜15%のTiO
0〜15%のZrO
0〜15%のNb
0〜15%のSnO
0〜15%のWO
0〜40%のTeO
0〜30%のLn(但し、LnはY、La、Ce、Gd、Dy、Yb、Lu)
の各成分を含有する請求項1〜5のいずれかに記載のガラス組成物。
【請求項7】
結晶化温度(Tx)とガラス転移点(Tg)との温度差(ΔT)が80℃以上、波長588nmの光線に対する屈折率が1.6以上である請求項1〜6のいずれかに記載のガラス組成物。
【請求項8】
30℃〜300℃における平均線熱膨張係数が150×10−7/℃以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のガラス組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかのガラス組成物よりなる発光素子被覆用ガラス。
【請求項10】
請求項9の発光素子被覆用ガラスと蛍光体が含まれる蛍光体複合材料。
【請求項11】
ガラスと蛍光体を、質量比(ガラス:蛍光体)で99.999:0.001〜70:30で混合し、焼成してなる請求項10に記載の蛍光体複合材料。
【請求項12】
ガラス組成物の0〜80質量%を樹脂に置換してなる請求項11に記載の蛍光体複合材料。
【請求項13】
600℃以下で焼成してなることを特徴とする蛍光体複合部材。
【請求項14】
請求項9の発光素子被覆用ガラスと蛍光体が含まれる蛍光体複合部材。
【請求項15】
ガラス組成物の0〜80質量%を樹脂に置換してなる請求項14に記載の蛍光体複合部材。
【請求項16】
250〜600nmの波長の光を可視光に変換することを特徴とする請求項12に記載の蛍光体複合部材。

【公開番号】特開2012−158494(P2012−158494A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−19257(P2011−19257)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】