説明

ガラス製造容器用コーティング材、それが焼成されてなるガラス製造容器用焼成被膜、それを備えるガラス製造容器、それを備えるガラス製造装置及びそれを用いたガラスの製造方法

【課題】ガラス融液中に存在する水に起因する泡の発生を十分に抑制する。
【解決手段】本発明のガラス製造容器用コーティング材は、貴金属または貴金属を含む合金からなる容器本体と、容器本体の表面上に形成されている焼成被膜とを備えるガラス製造容器の焼成被膜を形成するためのガラス製造容器用コーティング材に関する。本発明のガラス製造容器用コーティング材は、ガラス成分と、平均粒径が5nm〜50nmの範囲内にあるアルミナ微粒子とを含み、Si成分を含有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス製造容器用コーティング材、それが焼成されてなるガラス製造容器用焼成被膜、それを備えるガラス製造容器、それを備えるガラス製造装置及びそれを用いたガラスの製造方法に関する。詳細には、本発明は、貴金属または貴金属を含む合金からなる容器本体と、容器本体の表面上に形成されている焼成被膜とを備えるガラス製造容器の焼成被膜を形成するためのガラス製造容器用コーティング材、それが焼成されてなるガラス製造容器用焼成被膜、それを備えるガラス製造容器、それを備えるガラス製造装置及びそれを用いたガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学ガラスやディスプレイ用ガラスなどの高品位なガラスを製造するためのガラス製造容器としては、従来、Ptなどの貴金属または貴金属を含む合金からなるガラス製造容器(以下、「貴金属容器」とする。)が用いられている。その理由は、貴金属容器は、1000℃以上といった高温雰囲気中においても高い剛性を有し、かつ、内部のガラスを汚染しにくいためである。
【0003】
しかしながら、貴金属容器をガラスの溶融に用いた場合、ガラス中の水分に起因する泡が容器の溶融ガラス側の表面に発生する場合がある。この泡が発生する原因は、ガラス中に含まれる水が分解することで生じた水素が貴金属容器を透過して外部に放出されることによって、貴金属容器の表面付近に位置する溶融ガラスの酸素濃度が増大するためであると考えられる。すなわち、下記の式(1)に示す反応により生じた水素が貴金属容器を透過して外部に放出される一方、貴金属容器を透過できない酸素が貴金属容器の表面近傍に位置する溶融ガラス中に溶存することにより、貴金属容器の表面付近に位置する溶融ガラスの酸素濃度が増大し、泡が発生するものと考えられる。
【0004】
OH → 1/2O + 1/2H + e ・・・ (1)
このような問題に鑑み、例えば、下記の特許文献1〜4では、PtまたはPtを含む合金からなる容器(以下、「Pt容器」とする。)を用いた場合に、ガラス中の水分に起因する泡の発生を抑制する方法が提案されている。
【0005】
例えば、下記の特許文献1では、ガラス製造時に、Pt容器の外側の水素の分圧を、Pt容器の内側の水素の分圧に対して制御することにより、ガラス中の水分に起因する泡の発生を抑制する方法が提案されている。
【0006】
下記の特許文献2,3では、Pt容器の外表面にガラスのバリアコーティングを施してPt容器の水素透過性を減少させることにより、ガラス中の水分に起因する泡の発生を抑制する方法が提案されている。
【0007】
また、下記の特許文献4では、アルミナとシリカとを含む耐火成分と、ガラス成分とを含むコーティング材によりPt容器の外表面を被覆することにより、ガラス中の水分に起因する泡の発生を抑制する方法が提案されている。なお、特許文献4では、コーティング材に含まれるアルミナの例としては、アルミナ粒子が挙げられている。そのアルミナ粒子の好ましい平均粒子径は、1〜100μmとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2001−503008号公報
【特許文献2】特表2004−523449号公報
【特許文献3】特表2006−522001号公報
【特許文献4】WO2006/030738 A1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の特許文献1に記載の方法によりガラス中の水分に起因する泡の発生を抑制しようとすると、ガラス溶融中に水素を供給し続ける必要がある。このため、ガラスの製造コストが上昇するという問題がある。また、Pt容器の外側の水素分圧が高すぎると、水素がPt容器の外側からPt容器を透過してPt容器内に進入し、ガラス融液中に溶け込むため、水素の泡が発生するおそれがある。従って、ガラス融液中に泡が発生することを十分に抑制することは困難であるという問題がある。
【0010】
特許文献2,3に記載のように、Pt容器の外表面にガラス製のバリアコーティング層を形成することによりガラス中の水分に起因する泡の発生の抑制を図る場合は、ガラス溶融中に水素を供給し続ける必要は必ずしもない。しかしながら、本発明者らが鋭意研究の結果、Pt容器の外表面にガラス製のバリアコーティング層を形成した場合であっても、十分に泡の発生を抑制できない場合があることが分かった。すなわち、単にPt容器の外表面にガラス製のバリアコーティング層を形成したのみでは、泡の発生を十分に抑制できないという問題がある。
【0011】
特許文献4に記載のように、ガラス成分と共に、アルミナ粒子とシリカ粒子とを含む耐火成分を含むコーティング材を用いてPt容器の外表面を被覆した場合は、特許文献2,3に記載のように、ガラス成分からなるバリアコーティング層を形成した場合よりも高い水素遮断性が得られる。従って、ガラス融液中の水に起因する泡の発生を効果的に抑制することができる。
【0012】
しかしながら、近年、光学ガラスやディスプレイ用ガラスなどの高品位なガラスに求められる泡品質は、年々高まる一方であり、ガラス融液中の水に起因する泡の発生をさらに抑制したいという要望がある。
【0013】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ガラス融液中に存在する水に起因する泡の発生を十分に抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係るガラス製造容器用コーティング材は、貴金属または貴金属を含む合金からなる容器本体と、容器本体の表面上に形成されている焼成被膜とを備えるガラス製造容器の焼成被膜を形成するためのガラス製造容器用コーティング材に関する。本発明に係るガラス製造容器用コーティング材は、ガラス成分と、平均粒径が5nm〜50nmの範囲内にあるアルミナ微粒子とを含む。本発明に係るガラス製造容器用コーティング材は、Si成分を含有している。
【0015】
本発明に係るガラス製造容器用焼成被膜は、上記本発明に係るガラス製造容器用コーティング材が焼成されてなる焼成被膜である。本発明に係るガラス製造容器用焼成被膜は、ムライト結晶を含有するものであることが好ましい。
【0016】
上記のように、本発明に係るガラス製造容器用コーティング材は、Si成分を含み、かつ、平均粒径が5nm〜50nmの範囲内にあるアルミナ微粒子を含んでいる。このため、ガラス製造容器用コーティング材を焼成することにより、Si成分とアルミナ微粒子とが反応して、ムライトの結晶が効率的に生成する。このムライト結晶は、耐熱性に優れる。このため、ガラス製造容器用コーティング材を焼成することにより得られるガラス製造容器用焼成被膜は、耐熱性に優れる。また、高温雰囲気中においても、ガラス製造容器用焼成被膜から、水素の透過を抑制するガラス成分の脱落や流出を効果的に抑制することができる。従って、本発明に係るガラス製造容器用コーティング材が焼成されてなるガラス製造容器用焼成被膜を用いることにより、溶融ガラス中の水素がガラス製造容器の外側に透過することに起因して溶融ガラス中に泡が発生することを、長期間にわたって効果的に抑制することができる。特に、本発明に係るガラス製造容器用コーティング材が焼成されてなるガラス製造容器用焼成被膜を用いることにより、高温雰囲気中においても、溶融ガラス中に泡が発生することを、長期間にわたって効果的に抑制することができる。
【0017】
なお、特許文献4には、アルミナ微粒子をコーティング材に含有させる本発明とは異なり、アルミナ微粒子よりも平均粒子径が大きいアルミナ粒子を、シリカと共にコーティング材に含ませることが記載されている。特許文献4に記載の発明では、アルミナ粒子などの結晶性の金属酸化物は、焼成被膜の変形や焼成被膜に含まれるガラス成分などの低融点成分が焼成被膜からたれることを抑制するための成分であり、アルミナ粒子の好ましい平均粒子径の範囲は、1μm〜100μmと、比較的大きく設定されている。しかしながら、1μm〜100μmという大きな平均粒子径のアルミナ粒子のみを用いた場合、アルミナ粒子とガラス成分との反応が遅く、ガラス成分とアルミナ粒子とが反応し、ガラス成分が強固に固定される前に、焼成被膜から水素ガスの透過を抑制するガラス成分の脱落や流出が生じてしまう場合がある。
【0018】
それに対して、本発明においては、5nm〜50nmという小さな平均粒子径を有するアルミナ微粒子が用いられる。このため、コーティング材が焼成されガラス製造容器用焼成被膜が形成される際に、アルミナ微粒子とガラス成分とが効率的かつ、迅速に反応し、高耐熱性を有するムライトが析出する。従って、焼成被膜からのガラス成分の脱落や流出をより効果的に抑制し、更に長期的に安定した高耐熱性を有するガラス製造容器用焼成被膜が得られる。
【0019】
なお、コーティング材に含ませるアルミナ微粒子の平均粒子径が5nmを下回ると、アルミナ微粒子が凝集しやすくなり、小さな粒子径のアルミナ微粒子の存在がかえって少なくなるため、ムライトが効率的に生成しなくなる。また、膜の厚み方向において、焼成被膜中に水素の透過を抑制するガラス成分があまり存在しない(ガラス成分が疎となる)部分が生じ、水素の遮蔽能力が低下する場合がある。
【0020】
アルミナ微粒子の平均粒子径が50nmを超えた場合も、小さな粒子径のアルミナ微粒子の存在が少なくなるため、ムライトが効率的に生成しなくなる。
【0021】
なお、本明細書において、「平均粒子径」とは、D50(体積基準の平均粒子径)を意味し、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製SALD−2000J)により測定された値をいうものとする。
【0022】
ムライトを効果的に発生させる観点からは、コーティング材におけるアルミナ微粒子の含有量を多くした方が好ましい。但し、コーティング材におけるアルミナ微粒子の含有量を多くしすぎると、水素を遮蔽する効果を有するガラス成分の含有量が少なくなる傾向にある。従って、コーティング材におけるアルミナ微粒子の含有量は、0.1質量%〜20質量%であることが好ましく、1質量%〜15質量%であることがより好ましく、3質量%〜15質量%であることがさらに好ましい。
【0023】
なお、「ムライト」とは、Al・nSiO(但し、nは、1/3〜2/3の範囲内)の範囲の化学組成式で表される、高温下で安定なケイ酸アルミニウム化合物である。従って、ムライトを効果的に発生させる観点からは、コーティング材には、モル比で、アルミナ微粒子に含まれるAlの1/6倍以上のSiが含まれていることが好ましい。
【0024】
コーティング材に含まれるSi成分は、例えば、ガラス成分に含まれていてもよいし、ガラス成分以外の成分として別に添加されていてもよいし、ガラス成分に含まれていると共に、ガラス成分以外の成分としても別に添加されていてもよい。
【0025】
コーティング材に対して、Si成分をガラス成分とは別に添加する場合、金属シリコンを添加してもよいが、シリカとして添加することが好ましい。添加するシリカの具体例としては、例えば、シリカ粒子やコロイダルシリカが挙げられる。ムライトを効果的に発生させる観点からは、添加するシリカの平均粒子径は小さい方が好ましい。従って、例えば、平均粒子径が50μm以下のシリカ粒子を添加することが好ましく、平均粒子径が10μm以下のシリカ粒子を添加することがより好ましい。また、コロイダルシリカを添加することがより好ましい。なお、本明細書において、「コロイダルシリカ」とは、分散媒中に、平均粒子径が1nm〜30nmのシリカ微粒子が分散している液体をいう。
【0026】
また、コロイダルシリカは、無機バインダーとしても機能する。このため、コーティング材にコロイダルシリカを添加することにより、緻密な焼成被膜が得られると共に、ガラス製造容器本体に対する焼成被膜の密着性及び密着強度を高めることができる。従って、ガラス製造容器本体から焼成被膜が剥離したり、脱落したりすることを効果的に抑制することができる。
【0027】
本発明において、ガラス成分は、水素の透過を抑制する成分である。このため、水素のより高い透過抑制効果を得る観点からは、コーティング材におけるガラス成分の含有量が高い方が好ましい。しかしながら、ガラス成分の含有量が多すぎると、焼成被膜におけるムライトなどの成分(以下、「耐火成分」という。)の含有量が少なくなる傾向にある。従って、ガラス製造容器用焼成被膜の耐熱性や耐久性を高める観点からは、ガラス成分の含有量は少ない方が好ましい。
【0028】
従って、コーティング材におけるガラス成分の含有量は、通常、10質量%〜80質量%の範囲内であることが好ましい。但し、コーティング材におけるガラス成分の含有量の好適な範囲は、用いるガラス成分の軟化温度などの特性、用いる耐火成分(=フィラー成分)の種類や特性、使用される温度範囲などによって変化する。例えば、ガラス成分の軟化温度が高い場合は、ガラス成分の脱落や流出が生じにくくなる。このため、コーティング材におけるガラス成分の好ましい含有量は多くなる。一方、ガラス成分の軟化温度が低い場合は、ガラス成分の脱落や流出が生じやすくなる。このため、コーティング材におけるガラス成分の好ましい含有量は少なくなる。
【0029】
また、焼成被膜の長期安定性に対する効果が高い種類の耐火成分を用いた場合は、コーティング材におけるガラス成分の好ましい含有量は多くなる。一方、焼成被膜の長期安定性に対する効果が低い種類の耐火成分を用いた場合は、コーティング材におけるガラス成分の好ましい含有量は少なくなる。
【0030】
さらに、使用温度、すなわちガラス溶融時の温度が高い場合は、ガラスの脱落や流出が生じやすくなる。このため、コーティング材におけるガラス成分の好ましい含有量は少なくなる。一方、使用温度が低い場合は、ガラスの脱落や流出が生じにくくなる。このため、コーティング材におけるガラス成分の好ましい含有量は多くなる。
【0031】
従って、コーティング材におけるガラス成分のより好ましい含有量は、用いるガラス成分の軟化温度などの特性、用いる耐火成分の種類や特性、使用される温度範囲などに応じて適宜設定されるべきものである。
【0032】
例えば、ガラス製造容器用焼成被膜の使用温度が、1000℃〜1250℃の範囲内にあるときの好ましいガラス成分の含有量は、通常、35質量%〜80質量%である。ガラス製造容器用焼成被膜の使用温度が、1250℃〜1450℃の範囲内にあるときの好ましいガラス成分の含有量は、通常、20質量%〜60質量%である。ガラス製造容器用焼成被膜の使用温度が、1450℃〜1600℃の範囲内にあるときの好ましいガラス成分の含有量は、通常、10質量%〜40質量%である。
【0033】
本発明において用いられるガラス成分の種類は特に限定されないが、上述のように、ガラス成分の脱落や流出を効果的に抑制する観点からは、軟化温度が高いガラス成分を用いることが好ましい。詳細には、軟化温度が800℃以上のガラス成分を用いることが好ましく、850℃以上のガラス成分を用いることがより好ましく、900℃以上のガラス成分を用いることがさらに好ましい。高い軟化温度を有するガラス成分としては、具体的には、硼珪酸塩系ガラスや珪酸塩系ガラスなどが挙げられる。なかでも、Na、K、Liなどのアルカリ成分、Ba、Sr、Caなどのアルカリ土類成分などの含有量が少ない硼珪酸塩系ガラスや珪酸塩系ガラスをガラス成分として用いることがより好ましい。さらには、Na、K、Liなどのアルカリ成分、Ba、Sr、Caなどのアルカリ土類成分などの含有量が少ない珪酸塩系ガラスをガラス成分として用いることがより好ましく、アルカリ成分を実質的に含まない所謂アルカリフリーのガラス成分を用いることがさらに好ましい。
【0034】
例えば、ガラス製造容器用焼成被膜の使用温度が、1000℃〜1250℃の範囲内にあるときの好ましいガラス成分の組成範囲は、SiO 40〜70質量%、Al 1〜30質量%、B 1〜30質量%である。
【0035】
例えば、ガラス製造容器用焼成被膜の使用温度が、1250℃〜1450℃の範囲内にあるときの好ましいガラス成分の組成範囲は、SiO 50〜70質量%、Al 5〜30質量%、B 1〜20質量%である。
【0036】
例えば、ガラス製造容器用焼成被膜の使用温度が、1450℃〜1600℃の範囲内にあるときの好ましいガラス成分の組成範囲は、SiO 50〜75質量%、Al 10〜30質量%、B 5〜20質量%である。
【0037】
上述のように、本発明では、ガラス成分の脱落や流出を抑制することに加え、変形やタレを防ぎ、長期的に安定した高耐熱性を有する焼成被膜を得るため、アルミナ微粒子に加えて、平均粒子径が比較的大きな酸化物材料をコーティング材に含有させることが好ましい。具体的には、例えば、平均粒子径が1μm〜100μmの範囲内にあるアルミナ粒子や、アルミナファイバーを耐火成分として添加することが好ましい。さらには、平均粒子径が1μm〜100μmの範囲内にあるシリカ粒子を添加してもよい。
【0038】
このように、平均粒子径が比較的大きな酸化物材料を添加することにより、焼成被膜の変形やタレをより効果的に抑制できる理由は、明確ではないが、平均粒子径が比較的大きな酸化物材料の寄与により、生成するムライト結晶の粒子径の分布や、焼成被膜マトリックス中でのムライト結晶の配置が適度に制御されるためであると考えられる。
【0039】
このため、耐火成分として添加するアルミナ粒子の平均粒子径を1μm以上とすることにより、焼成被膜の変形やタレをより効果的に抑制することができる。但し、アルミナ粒子の平均粒子径が100μmを超えると、均一な被膜を形成できない場合がある。
【0040】
また、耐火物として細長形状を有するアルミナファイバーを添加することは、焼成被膜の変形やタレを抑制する上で非常に有効である。また、アルミナファイバーを添加することにより、コーティング材からなる膜に割れ等が生じることを効果的に抑制することができる。
【0041】
アルミナファイバーの好ましい平均粒子径D50は、20μm〜1mmであり、より好ましくは、20μm〜500μmである。アルミナファイバーの平均粒子径が小さすぎると、ガラスの脱落や流出を抑制する効果の増大が小さくなる傾向にある。一方、アルミナファイバーの平均粒子径が大きすぎると、アルミナファイバーをコーティング材に均一に混合しがたくなるため、均一な焼成被膜が得られない場合がある。
【0042】
アルミナファイバーの好ましい直径は、0.5μm〜50μmであり、より好ましくは、0.5μm〜10μmである。アルミナファイバーの直径が小さすぎると、アルミナファイバーがガラス成分中に溶け込みやすくなる。従って、繊維として存在するアルミナファイバーが少なくなり、ガラスの脱落や流出を抑制する効果の向上効果が十分に得られなくなる場合がある。一方、アルミナファイバーの直径が大きすぎると、均一な焼成被膜が得られなくなる場合がある。
【0043】
なお、本発明において、アルミナファイバーは、アルミナのみからなるものである必要は必ずしもない。アルミナファイバーは、アルミナを60質量%以上含むものであることが好ましく、アルミナを90質量%以上含むものであることが好ましい。アルミナファイバーが、アルミナ含有量の少なすぎるものである場合は、アルミナファイバーの耐熱性が低下するため、焼成被膜の耐熱性が低くなる場合がある。
【0044】
本明細書において、「アルミナファイバー」とは、ロッド形状のアルミナをいい、具体的には平均粒子径D50/断面の直径が2以上のアルミナを意味する。
【0045】
コーティング材におけるアルミナ粒子の好ましい含有量は、1質量%〜20質量%であり、より好ましくは、5質量%〜20質量%であり、さらに好ましくは、10質量%〜20質量%である。コーティング材におけるアルミナファイバーの好ましい含有量は、1質量%〜20質量%であり、より好ましくは、3質量%〜15質量%、さらに好ましくは、3質量%〜12質量%である。
【0046】
本発明において、ガラス製造容器用焼成被膜の膜厚は、特に限定されないが、例えば、100μm〜1500μm程度とすることができ、200μm〜1500μmの範囲内にあることが好ましい。ガラス製造容器用焼成被膜の膜厚が薄すぎると、水素の遮断性が低くなる場合がある。一方、ガラス製造容器用焼成被膜の膜厚が厚すぎると、膜の形成が煩雑になると共に、膜の形成に要する時間が長くなる。また、ガラス製造容器用焼成被膜が損傷しやすくなる傾向にある。
【0047】
本発明に係るガラス製造容器は、上記本発明に係るガラス製造容器用焼成被膜と、ガラス製造容器用焼成被膜が表面に形成されており、貴金属または貴金属を含む合金からなる容器本体とを備えている。
【0048】
上述のように、本発明に係るガラス製造容器用焼成被膜は、高耐熱性を有し、高温雰囲気中においても、長期間にわたって水素の透過を効果的に抑制することができる。従って、本発明に係るガラス製造容器用焼成被膜を備えるガラス製造容器を用いてガラスを溶融することにより、高温雰囲気中においても、溶融ガラス中に泡が発生することを、長期間にわたって効果的に抑制することができる。
【0049】
本発明において、ガラス製造容器用焼成被膜は、容器本体のガラス融液と接触する内表面と、ガラス融液と接触しない外表面のうち、外表面の少なくとも一部を被覆していることが好ましい。また、容器本体の外表面のうち、内表面のガラス融液と接触している部分の外側に位置する部分を覆うようにガラス製造容器用焼成被膜が形成されていることが好ましい。この構成によれば、溶融ガラス中に泡が発生することをより効果的に抑制することができる。
【0050】
本発明において、ガラス製造容器用焼成被膜は、容器本体の表面の上に、複数積層されて形成されていてもよいが、1層のみ形成されていることが好ましい。例えば、主として水素を遮蔽する膜と、その膜の構造を維持する膜とを積層して形成することも考えられる。しかしながら、複数種類の膜を形成した場合、隣接する膜間の界面での反応などによる組成変化等を考慮する必要がある。よって、焼成被膜の構成が非常に複雑となる。それに対して、本発明のガラス製造容器用焼成被膜は、水素を遮蔽する機能を有しつつ、高い構造安定性を有しているため、1層のみ形成した場合であっても長期間にわたって水素を効果的に遮蔽できる。従って、本発明のガラス製造容器用焼成被膜を容器本体の表面上に形成する場合は、1層のみ形成することが好ましい。
【0051】
なお、本発明において、「ガラス製造容器」とは、ガラス融液と接触する内表面と、ガラス融液と接触しない外表面とを有し、ガラス融液を保持できる部材のことを意味する。「ガラス製造容器」には、ガラス融液を保持できる容器、ガラス融液を搬送できるパイプ、成形用部材等が含まれる。ここで、「成形用部材」とは、ガラス融液を所定の形状を有する部材に成形するために用いられる部材をいう。従って、「成形用部材」には、成形用スリーブ、オーバーフローダウンドロー法に用いられる樋状の成形用部材、ノズルなどが含まれるものとする。
【0052】
本発明において、容器本体は、貴金属または貴金属を含む合金からなるものである限りにおいて、特に限定されない。但し、本発明のガラス製造容器は、高温雰囲気下において使用されるものであるため、容器本体は、高温雰囲気下においてある程度以上の剛性を有するものであることが好ましい。容器本体は、例えば、Pt若しくはPtを含む合金からなることが好ましい。Ptを含む合金の具体例としては、Pt/Rh合金、Pt/Au合金、Pt/Pd合金及びPt/Ir合金などが挙げられる。
【0053】
また、容器本体には、容器本体の剛性を向上するため、例えば、Zr、Tiなどの他の金属がドープされていても良い。すなわち、本発明において、容器本体には、貴金属または貴金属を含む合金に他の元素がドープされていてもよい。
【0054】
本発明に係るガラス製造装置は、上記本発明に係るガラス製造容器を備えるものである。従って、本発明に係るガラス製造装置を用いることにより、ガラス内部に残存する泡が少ないガラスを製造することができる。
【0055】
本発明のガラス製造装置は、ガラス原料の溶解を行うための溶融用容器と、溶融されたガラスを清澄するための清澄用容器と、清澄したガラス融液を攪拌するための攪拌用容器と、ガラス融液を成形するための成形用部材と、溶融用容器と清澄用容器とを接続する接続通路が形成されている第1の接続部材と、清澄用容器と攪拌用容器とを接続する接続通路が形成されている第2の接続部材と、攪拌用容器と成形用部材とを接続する接続通路が形成されている第3の接続部材とを備え、溶融用容器、清澄用容器、攪拌用容器、成形用部材及び第1〜第3の接続部材のうちの少なくともひとつが上記本発明のガラス製造容器により構成されているものであってもよい。中でも、溶融用容器及び第1の接続部材を除いた、清澄用容器、攪拌用容器、成形用部材並びに第2及び第3の接続部材のそれぞれが上記本発明のガラス製造容器により構成されていることが好ましい。この構成によれば、ガラス内に泡が残存することをより効果的に抑制することができる。
【0056】
本発明に係るガラスの製造方法は、上記本発明に係るガラス製造装置を用いるものである。従って、本発明に係るガラスの製造方法によれば、ガラス内部に残存する泡が少ないガラスを製造することができる。
【0057】
本発明において、製造対象となるガラスは特に限定されないが、本発明は、泡がガラス中に残存していないことがより強く望まれるディスプレイ用ガラス基板の製造により好適に適用される。
【発明の効果】
【0058】
本発明によれば、ガラス融液中に存在する水に起因する泡の発生を十分に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】第1の実施形態のガラス溶融用容器の略図的断面図である。
【図2】第2の実施形態のガラス融液搬送用パイプの略図的横断面図である。
【図3】第3の実施形態のガラス溶融装置の略図的構成図である。
【図4】実施例2におけるガラス溶融用容器内の写真である。
【図5】実施例5におけるガラス溶融用容器内の写真である。
【図6】実施例7におけるガラス溶融用容器内の写真である。
【図7】実施例8におけるガラス溶融用容器内の写真である。
【図8】実施例9におけるガラス溶融用容器内の写真である。
【図9】実施例7において、発泡試験終了後、室温にまで冷却したガラス溶融用容器の底部の写真である。
【図10】実施例8において、発泡試験終了後、室温にまで冷却したガラス溶融用容器の底部の写真である。
【図11】実施例9において、発泡試験終了後、室温にまで冷却したガラス溶融用容器の底部の写真である。
【図12】実施例5において、焼成日数が1日のときのガラス溶融用容器内の写真である。
【図13】実施例5において、焼成日数が3日のときのガラス溶融用容器内の写真である。
【図14】実施例5において、焼成日数が5日のときのガラス溶融用容器内の写真である。
【図15】実施例5において、焼成日数が30日のときのガラス溶融用容器内の写真である。
【図16】実施例5における焼成前のコーティング材のX線の測定結果を示すグラフである。
【図17】実施例5におけるリボイル試験後の焼成被膜のX線の測定結果を示すグラフである。
【図18】比較例1におけるガラス溶融用容器内の写真である。
【図19】比較例3におけるガラス溶融用容器内の写真である。
【図20】実施例11におけるガラス溶融用容器内の写真である。
【図21】実施例12におけるガラス溶融用容器内の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0060】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明するが、本発明は、下記の実施形態に何ら限定されるものではない。
【0061】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態のガラス溶融用容器の略図的断面図である。本実施形態では、図1を参照して、ガラス製造容器の一種であるガラス溶融用容器10について説明する。
【0062】
図1に示すように、ガラス溶融用容器10は、容器本体11を備えている。容器本体11は、貴金属または貴金属を含む合金からなる。貴金属の具体例としては、例えば、Pt、Au、Pd、Rh、Irなどが挙げられる。貴金属を含む合金の例としては、Ptを含む合金などが挙げられる。中でも、容器本体11は、PtまたはPtを含む合金により形成されていることが好ましい。PtまたはPtを含む合金は高温下における強度が比較的高いためである。Ptを含む合金の具体例としては、Pt/Rh合金、Pt/Au合金、Pt/Pd合金及びPt/Ir合金などが挙げられる。
【0063】
また、容器本体11には、剛性や強度を向上することなどを目的として、Zr、Tiなどの他の元素をドープしてもよい。例えば、容器本体11は、Zr及びTiのうちの少なくとも一方がドープされたPtからなるものであってもよい。
【0064】
本実施形態では、容器本体11は、碗状に形成されており、容器本体11には、ガラス融液14が溜められる凹部11aが形成されている。すなわち、容器本体11は、凹部11aの表面を構成しており、ガラス融液14と接触する内表面11bと、ガラス融液14とは接触しない外表面11cとを有している。
【0065】
容器本体11の外表面11cの上には、焼成被膜12が形成されている。本実施形態では、容器本体11の外表面11cの全体が焼成被膜12により覆われている。この焼成被膜12は、ガラス融液中の水素がガラス溶融用容器10を透過して外部に放出することを抑制するための膜である。
【0066】
焼成被膜12は、コーティング材を容器表面11の外表面11cに塗布し、その後焼成することにより得られる膜である。
【0067】
本実施形態では、焼成被膜12を形成するためのコーティング材は、ガラス成分、平均粒子径が5nm〜50nmの範囲内にあるアルミナ微粒子、平均粒子径が1μm〜100μmの範囲内にあるアルミナ粒子、アルミナファイバー及びコロイダルシリカを含んでいる。また、ガラス成分には、Si成分が含まれている。すなわち、ガラス成分は、硼珪酸塩系ガラス成分または珪酸塩系ガラス成分である。
【0068】
このため、コーティング材に含まれるアルミナ微粒子と、コロイダルシリカ及びガラス成分に含まれるSi成分とが反応し、耐熱性に優れるムライトが効果的に析出する。よって、本実施形態の焼成被膜12は、耐熱性に優れる。このため、焼成被膜12は、高温雰囲気中においても、ガラス製造容器用焼成被膜から、水素の透過を抑制するガラス成分の脱落や流出が生じ難い。よって、焼成被膜12により外表面が覆われているガラス溶融用容器10を用いることにより、溶融ガラス中の水素が容器の外側に透過することに起因して溶融ガラス中に泡が発生することを、長期間にわたって効果的に抑制することができる。その結果、残存する泡の少ないガラスを長期間にわたって製造し続けることができる。
【0069】
なお、コーティング材に含ませるアルミナ微粒子の平均粒子径が5nmを下回ると、アルミナ微粒子が凝集しやすくなり、小さな粒子径のアルミナ微粒子の存在がかえって少なくなるため、ムライトが効率的に生成しなくなる。また、膜の厚み方向において、焼成被膜12中に水素の透過を抑制するガラス成分があまり存在しない部分が生じ、水素の遮蔽能力が低下する場合がある。
【0070】
アルミナ微粒子の平均粒子径が50nmを超えた場合も、小さな粒子径のアルミナ微粒子の存在が少なくなるため、ムライトが効率的に生成しなくなる。
【0071】
ムライトを効果的に発生させる観点からは、コーティング材におけるアルミナ微粒子の含有量を多くした方が好ましい。但し、コーティング材におけるアルミナ微粒子の含有量を多くしすぎると、水素を遮蔽する効果を有するガラス成分の含有量が少なくなる傾向にある。従って、コーティング材におけるアルミナ微粒子の含有量は、0.1質量%〜20質量%であることが好ましく、1質量%〜15質量%であることがより好ましく、3質量%〜15質量%であることがさらに好ましい。
【0072】
ムライトを効果的に発生させる観点からは、コーティング材には、モル比で、アルミナ微粒子に含まれるAlの1/6倍以上のSiが含まれていることが好ましい。
【0073】
Si成分は、ガラス成分に由来のもののみにより構成されていてもよいし、Si成分をガラス成分とは別に添加してもよいし、またはガラス成分に由来のものと、ガラス成分とは別に添加したものとの両方により構成されていてもよい。
【0074】
コーティング材に対して、Si成分をガラス成分とは別に添加する場合、シリカとして添加することが好ましい。添加するシリカ成分の具体例としては、例えば、シリカ粒子やコロイダルシリカが挙げられる。ムライトを効果的に発生させる観点からは、添加するシリカの平均粒子径は小さい方が好ましい。従って、例えば、平均粒子径が10μm以下のシリカ粒子を添加することが好ましく、平均粒子径が1μm以下のシリカ粒子を添加することがより好ましく、コロイダルシリカを添加することがより好ましい。
【0075】
また、コロイダルシリカは無機バインダーとしても機能するため、コーティング材にコロイダルシリカを添加することにより、緻密な焼成被膜12が得られると共に、容器本体11に対する焼成被膜12の密着性及び密着強度を高めることができる。従って、容器本体11から焼成被膜12が剥離したり、脱落したりすることを効果的に抑制することができる。
【0076】
コーティング材に含まれるガラス成分は、水素の透過を抑制する成分である。このため、より高い水素の透過抑制効果を得る観点からは、コーティング材におけるガラス成分の含有量が高い方が好ましい。しかしながら、ガラス成分の含有量が多すぎると、耐火成分の含有量が少なくなる傾向にある。従って、ガラス製造容器用焼成被膜の耐熱性や耐久性を高める観点からは、ガラス成分の含有量は少ない方が好ましい。
【0077】
従って、コーティング材におけるガラス成分の含有量は、通常、10質量%〜80質量%の範囲内であることが好ましい。コーティング材におけるガラス成分の含有量は、上記好ましい範囲内において、用いるガラス成分の軟化温度などの特性、用いる耐火成分の種類や特性、使用される温度範囲などに応じて適宜設定されるべきものである。例えば、ガラス製造容器用焼成被膜の使用温度が、1000℃〜1250℃の範囲内にあるときの好ましいガラス成分の含有量は、通常、35質量%〜80質量%である。ガラス製造容器用焼成被膜の使用温度が、1250℃〜1450℃の範囲内にあるときの好ましいガラス成分の含有量は、通常、20質量%〜60質量%である。ガラス製造容器用焼成被膜の使用温度が、1450℃〜1600℃の範囲内にあるときの好ましいガラス成分の含有量は、通常、10質量%〜40質量%である。
【0078】
ガラス成分の種類は特に限定されないが、上述のように、ガラス成分の脱落や流出を効果的に抑制する観点からは、軟化温度が高いガラス成分を用いることが好ましい。詳細には、軟化温度が800℃以上のガラス成分を用いることが好ましく、850℃以上のガラス成分を用いることがより好ましく、900℃以上のガラス成分を用いることがさらに好ましい。高い軟化温度を有するガラス成分としては、具体的には、硼珪酸塩系ガラスや珪酸塩系ガラスなどが挙げられる。なかでも、Na、K、Liなどのアルカリ成分、Ba、Sr、Caなどのアルカリ土類成分などの含有量が少ない硼珪酸塩系ガラスや珪酸塩系ガラスをガラス成分として用いることがより好ましい。さらには、Na、K、Liなどのアルカリ成分、Ba、Sr、Caなどのアルカリ土類成分などの含有量が少ない珪酸塩系ガラスをガラス成分として用いることがより好ましく、アルカリ成分を実質的に含まない所謂アルカリフリーのガラス成分を用いることがさらに好ましい。
【0079】
例えば、ガラス製造容器用焼成被膜の使用温度が、1000℃〜1250℃の範囲内にあるときの好ましいガラス成分の組成範囲は、SiO 40〜70質量%、Al 1〜30質量%、B 1〜30質量%である。
【0080】
例えば、ガラス製造容器用焼成被膜の使用温度が、1250℃〜1450℃の範囲内にあるときの好ましいガラス成分の組成範囲は、SiO 50〜75質量%、Al 5〜30質量%、B 1〜20質量%である。
【0081】
例えば、ガラス製造容器用焼成被膜の使用温度が、1450℃〜1600℃の範囲内にあるときの好ましいガラス成分の組成範囲は、SiO 50〜75質量%、Al 10〜30質量%、B 5〜20質量%である。
【0082】
また、本実施形態では、上述のように、ガラス成分の脱落や流出を抑制するとともに、変形やタレを防ぎ、長期的に安定した高耐熱性を有する焼成被膜を得るため、アルミナ微粒子に加えて、平均粒子径が比較的大きな酸化物材料がコーティング材に添加されている。具体的には、平均粒子径が1μm〜100μmの範囲内にあるアルミナ粒子や、アルミナファイバーが添加されている。このため、焼成被膜の変形やタレをより効果的に抑制できる。その結果、長期間にわたって溶融ガラス中に泡が発生することを効果的に抑制することができる。
【0083】
なお、アルミナファイバーの好ましい平均粒子径は、20μm〜1mmであり、より好ましくは、20μm〜500μmである。アルミナファイバーの平均粒子径が小さすぎると焼成被膜の変形やタレを抑制する効果の増大が小さくなる傾向にある。一方、アルミナファイバーの平均粒子径が大きすぎると、アルミナファイバーをコーティング材に均一に混合しがたくなるため、均一な焼成被膜が得られない場合がある。
【0084】
アルミナファイバーの好ましい直径は、0.5μm〜50μmであり、より好ましくは、0.5μm〜10μmである。アルミナファイバーの直径が小さすぎると、アルミナファイバーがガラス成分中に溶け込み、繊維として存在するアルミナファイバーが少なくなり、焼成被膜の変形やタレを抑制する効果の向上効果が十分に得られなくなる場合がある。一方、アルミナファイバーの直径が大きすぎると、均一な焼成被膜が得られない場合がある。
【0085】
なお、アルミナファイバーは、アルミナのみからなるものである必要は必ずしもない。アルミナファイバーは、アルミナを60質量%以上含むものであることが好ましく、アルミナを90質量%以上含むものであることが好ましい。アルミナファイバーが、アルミナ含有量の少なすぎるものである場合は、アルミナファイバーの耐熱性が低下するため、ガラス製造容器用焼成被膜12の耐熱性が低くなる場合がある。
【0086】
ガラス製造容器用焼成被膜12の膜厚は、特に限定されないが、例えば、100μm〜1500μm程度とすることができ、200μm〜1500μmの範囲内にあることが好ましい。ガラス製造容器用焼成被膜12の膜厚が薄すぎると、水素の遮断性が低くなる場合がある。一方、ガラス製造容器用焼成被膜12の膜厚が厚すぎると、膜の形成が煩雑になると共に、膜の形成に要する時間が長くなる。また、ガラス製造容器用焼成被膜12が損傷しやすくなる傾向にある。
【0087】
なお、本実施形態のガラス溶融用容器10は、どのような種類のガラスの溶融にも好適に用いられるが、なかでも、泡がガラス中に残存していないことがより強く望まれるディスプレイ用ガラス基板を製造する場合に特に好適に用いられる。
【0088】
本実施形態のガラス溶融用容器10の作製方法は特に限定されないが、例えば、以下の要領で作製することができる。
【0089】
まず、容器本体11を用意する。次に、容器本体11の外表面11cの上にコーティング材からなる層を形成する。コーティング材からなる層の形成方法は特に限定されず、例えば、スプレーにより塗布することにより形成してもよいし、コーティング材のスラリーから形成されたグリーンシートを貼り付けることにより形成してもよい。
【0090】
次に、コーティング材からなる層が形成された容器本体11を加熱し、コーティング材からなる層を焼成し、焼成被膜12を形成する。
【0091】
なお、この焼成工程は、ガラスの製造を開始する際に、ガラスの製造に先立って容器本体11を加熱するときに同時に行うことが好ましい。そうすることにより、焼成被膜12の温度が大きく変化することを抑制できる。その結果、焼成被膜12が破損したり、脱落したりすることを抑制することができる。
【0092】
また、アルミナ微粒子の凝集粒子がコーティング材に混ざることを抑制するために、まず、アルミナ微粒子を液体中に分散させ、さらに、篩を用いて濾過することにより凝集粒子を取り除いた液体をコーティング材の調製に使用することが好ましい。使用する篩の目開きは、100μm〜500μmの範囲内にあることが好ましく、200μm〜350μmの範囲内にあることがより好ましい。使用する篩の目開きが小さすぎると、アルミナ微粒子を分散させた液体が篩を通過しにくくなる傾向にある。一方、使用する篩の目開きが大きすぎると、凝集粒子を十分に除去できない場合がある。
【0093】
(第2の実施形態)
上記第1の実施形態では、本発明を実施したガラス製造容器の例として、ガラス溶融用容器10を例に挙げて説明した。但し、本発明において、ガラス製造容器は、ガラス溶融用容器10に限定されない。ガラス製造容器は、例えば、ガラス融液搬送用のパイプであってもよい。本実施形態では、ガラス製造容器の一種であるガラス融液搬送用パイプについて、図2を参照しながら説明する。
【0094】
なお、本実施形態の説明において、上記第1の実施形態と実質的に同様の機能を有する部材を同じ符号で参照し、説明を省略する。
【0095】
図2は、第2の実施形態のガラス融液搬送用パイプの略図的横断面図である。図2に示すように、本実施形態のガラス融液搬送用パイプ20では、容器本体11は、筒状に形成されている。そして、容器本体11の外表面11cが焼成被膜12により覆われている。
【0096】
本実施形態においても、上記第1の実施形態と同様に、容器本体11の外表面11cが焼成被膜12により覆われているため、ガラス融液中の水やOHイオンに起因する酸素ガスの発生を効果的に抑制することができる。
【0097】
(第3の実施形態)
本実施形態では、第1及び第2の実施形態で説明したガラス溶融用容器10及びガラス融液搬送用パイプ20を用いたガラス製造装置について、図3を参照しつつ説明する。なお、本実施形態のガラス製造装置は、オーバーフローダウンドロー法によりディスプレイ用のガラス基板を成形するための装置である。
【0098】
図3に示すように、ガラス製造装置1は、溶融用容器31と、清澄用容器32と、攪拌用容器33と、ポット34と、成形用部材35と、図示しない発熱体とを備えている。溶融用容器31は、投入されたガラス原料(バッチ)の溶解を行うための容器である。溶融用容器31は、第1の接続部材36の内部に形成されている第1の接続通路36aによって、清澄用容器32に接続されている。清澄用容器32は、溶融用容器31から共有されたガラス融液を清澄するための容器である。清澄用容器32は、第2の接続部材37の内部に形成されている第2の接続通路37aによって、攪拌用容器33に接続されている。攪拌用容器33は、清澄されたガラス融液を攪拌し、均一化させるための容器である。攪拌用容器33は、第3の接続部材38の内部に形成されている第3の接続通路38aと、ポット34と、パイプ39とによって成形用部材35に接続されている。
【0099】
本実施形態では、上記容器31〜33、ポット34、接続部材36〜38、パイプ39及び成形用部材35のうちの少なくともひとつが上記ガラス溶融用容器10またはガラス融液搬送用パイプ20により構成されている。具体的には、溶融用容器31及び成形用部材35が耐火物からなる耐火物炉により構成されており、清澄用容器32,攪拌用容器33、ポット34、接続部材36〜38及びパイプ39のそれぞれが上記ガラス溶融用容器10またはガラス融液搬送用パイプ20により構成されている。このため、本実施形態のガラス製造装置1によれば、ガラス中に泡が残存することが抑制されたガラスを製造することができる。
【0100】
なお、溶融用容器31も上記ガラス溶融用容器10により構成してもよいが、清澄用容器32よりも上流側の容器に関しては、本発明を実施したガラス製造容器を適用する必要は必ずしもない。
【0101】
以下、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0102】
(実施例1)
上記第1の実施形態に示したガラス溶融用容器10を、下記の条件で作製し、下記の条件で発泡試験を行った。
【0103】
容器本体11:表面にブラスト処理を施した直径46mm、高さ40mmのPt/Rh合金(Rhの含有量:10質量%)製の坩堝
【0104】
コーティング材の組成:ガラス粉末:50質量%、アルミナファイバー(デンカアルセン製BULK(Al/SiO=97/3)をアルミナ乳鉢にて粉砕したもの、平均粒子径:約27μm):10質量%、アルミナ微粒子(平均粒子径:約13nm):1質量%、アルミナ粒子(平均粒子径:約50μm):14質量%、コロイダルシリカ(グレース社製ルドックス):25質量%、ガラス粉末:日本電気硝子株式会社製OA−10
【0105】
焼成被膜12の膜厚:850μm
【0106】
焼成被膜12の作製及び発泡実験の要領:ガラス溶融用容器10をホットエアガンで約80℃〜95℃に加熱した状態で、スプレー法によりコーティング材のスラリーを少量ずつ塗布した。その後、80℃で約1日間乾燥させた。コーティング膜付きのガラス溶融用容器10を昇温速度10℃/分にてガラス溶融時の温度(1300℃)まで昇温し、その温度で3日間焼成した。次に、その焼成被膜付きのガラス溶融用容器10内に、ガラス(日本電気硝子株式会社社製OA−10)を投入し、さらに、その温度で2時間保持し、その後、ガラス溶融用容器10内の泡の状態を目視により確認した。結果を下記の表1に示す。
【0107】
なお、表1において、「◎(二重丸)」は、白金界面発泡が観察されず、泡面積比率が大凡3%未満である場合を示す。「○(丸)」は、白金界面発泡がほとんど観察されず、泡面積比率が大凡3%以上10%未満である場合を示す。「×(ばつ)」は、白金界面発泡が観察され、泡面積比率が大凡10%以上である場合を示す。
【0108】
(実施例2〜9)
下記の表1に示す組成及びアルミナファイバーの平均粒子径のコーティング材を用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして発泡試験を行った。結果を下記の表1に示す。また、図4〜図8に、実施例2,5,7〜9におけるガラス溶融用容器10内の写真を示す。図9〜図11に実施例7〜9において、発泡試験終了後、室温にまで冷却したガラス溶融用容器10の底部(コーティング膜)の写真を示す。
【0109】
また、実施例5においては、1300℃でコーティング材の焼成日数を変化させてリボイル試験を行った。図12〜図15のそれぞれに、焼成日数が1,3,5,30日のときのガラス溶融用容器10内の写真を示す。
【0110】
また、図16に、実施例5における焼成前のコーティング材のX線の測定結果を示す。図16において、三角(△)がアルミナ由来のピークであり、×がシリカ由来のピークである。図17に、実施例5におけるリボイル試験後の焼成被膜12のX線の測定結果を示す。図17において、丸(○)がムライト由来のピークである。
【0111】
図16と図17との比較から、焼成前のコーティング材にはムライトが含まれておらず、焼成することにより、ムライトが生成していることが分かる。
【0112】
(比較例1)
下記の表2に示すように、焼成被膜を設けなかったこと以外は、上記実施例1と同様にして発泡試験を行った。結果を下記の表2に示す。また、図18に、比較例1におけるガラス溶融用容器10内の写真を示す。
【0113】
(比較例2)
下記の表2に示す組成及びアルミナファイバーの平均粒子径のコーティング材を用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして発泡試験を行った。結果を下記の表2に示す。また、図19に、比較例2におけるガラス溶融用容器10内の写真を示す。
【0114】
【表1】

【0115】
【表2】

【0116】
表1〜表2及び図4〜図15,18、19に示すように、焼成被膜を設けなかった比較例1及びコーティング材にアルミナ微粒子を添加しなかった比較例2では、発泡試験において、多数の泡が確認された。一方、コーティング材にアルミナ微粒子を添加し、焼成被膜を設けた実施例1〜9では、いずれも発泡試験において良好な結果が得られた。この結果から、アルミナ微粒子が添加されたコーティング材を焼成することにより得られ、ムライトを含む焼成被膜を設けることによって、泡の発生を効果的に抑制できることが分かる。この理由は、既述の通り、ムライト結晶を含有するガラス製造容器用焼成被膜は耐熱性に優れ、また、高温雰囲気中においても、ガラス製造容器用焼成被膜から、水素の透過を抑制するガラス成分の脱落や流出を効果的に抑制することができるからである。
【0117】
(実施例10〜12)
下記の表1に示す組成のコーティング材を用いたこと以外は、上記実施例1と同様にしてガラス溶融用容器10を作製した。また、ガラスの溶融温度を1550℃としたこと以外は、上記実施例1と同様にして発泡試験を行った。結果を下記の表3に示す。また、図20及び図21に、実施例11,12におけるガラス溶融用容器10内の写真を示す。
【0118】
(比較例3)
下記の表3に示す組成のコーティング材を用いたこと以外は、上記実施例10と同様にしてガラス溶融用容器10を作製し、発泡試験を行った。結果を下記の表3に示す。
【0119】
【表3】

【0120】
上記表3及び図20,21に示すように、ガラスの溶融温度を1550℃にした場合も、ガラスの溶融温度が1300℃である場合と同様に、コーティング材にアルミナ微粒子を添加しなかった比較例3では、発泡試験において、多数の泡が確認された。一方、コーティング材にアルミナ微粒子を添加し、焼成被膜を設けた実施例10〜12では、いずれも発泡試験において良好な結果が得られた。この結果から、ガラス溶融温度に関わらず、アルミナ微粒子が添加されたコーティング材を焼成することにより得られ、ムライトを含む焼成被膜を設けることによって、泡の発生を効果的に抑制できることが分かる。
【符号の説明】
【0121】
1…ガラス製造装置
10…ガラス溶融用容器
11…容器本体
11a…凹部
11b…容器本体の内表面
11c…容器本体の外表面
12…焼成被膜
14…ガラス融液
20…ガラス融液搬送用パイプ
31…溶融用容器
32…清澄用容器
33…攪拌用容器
34…ポット
35…成形用部材
36…第1の接続部材
36a…第1の接続通路
37…第2の接続部材
37a…第2の接続通路
38…第3の接続部材
38a…第3の接続通路
39…パイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属または貴金属を含む合金からなる容器本体と、前記容器本体の表面上に形成されている焼成被膜とを備えるガラス製造容器の前記焼成被膜を形成するためのガラス製造容器用コーティング材であって、
ガラス成分と、
平均粒径が5nm〜50nmの範囲内にあるアルミナ微粒子とを含み、
Si成分を含有するガラス製造容器用コーティング材。
【請求項2】
前記Si成分として、シリカをさらに含む請求項1に記載のガラス製造容器用コーティング材。
【請求項3】
前記ガラス成分が前記Si成分の少なくとも一部を含む請求項1または2に記載のガラス製造容器用コーティング材。
【請求項4】
平均粒径が1μm〜100μmの範囲内にあるアルミナ粒子をさらに含む請求項1〜3のいずれか一項に記載のガラス製造容器用コーティング材。
【請求項5】
アルミナファイバーをさらに含む請求項1〜4のいずれか一項に記載のガラス製造容器用コーティング材。
【請求項6】
シリカが、コロイダルシリカである請求項2〜5のいずれか一項に記載のガラス製造容器用コーティング材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のガラス製造容器用コーティング材が焼成されてなるガラス製造容器用焼成被膜。
【請求項8】
ムライト結晶を含む請求項7に記載のガラス製造容器用焼成被膜。
【請求項9】
請求項7または8に記載のガラス製造容器用焼成被膜と、前記ガラス製造容器用焼成被膜が表面に形成されており、貴金属または貴金属を含む合金からなる容器本体とを備えるガラス製造容器。
【請求項10】
前記容器本体は、ガラス融液と接触する内表面と、ガラス融液と接触しない外表面とを有し、
前記ガラス製造容器用焼成被膜は、前記容器本体の外表面の少なくとも一部を被覆している請求項9に記載のガラス製造容器。
【請求項11】
前記容器本体は、Pt若しくはPtを含む合金からなる請求項9または10に記載のガラス製造容器。
【請求項12】
前記ガラス製造容器用焼成被膜が、前記容器本体の表面上に1層形成されている請求項9〜11のいずれか一項に記載のガラス製造容器。
【請求項13】
請求項9〜12のいずれか一項に記載のガラス製造容器を備えるガラス製造装置。
【請求項14】
ガラス原料の溶解を行うための溶融用容器と、
前記溶融されたガラスを清澄するための清澄用容器と、
前記清澄したガラス融液を攪拌するための攪拌用容器と、
前記ガラス融液を成形するための成形用部材と、
前記溶融用容器と前記清澄用容器とを接続する接続通路が形成されている第1の接続部材と、
前記清澄用容器と前記攪拌用容器とを接続する接続通路が形成されている第2の接続部材と、
前記攪拌用容器と前記成形用部材とを接続する接続通路が形成されている第3の接続部材とを備え、
前記溶融用容器、前記清澄用容器、前記攪拌用容器、前記成形用部材及び前記第1〜第3の接続部材のうちの少なくともひとつが前記ガラス製造容器により構成されている請求項13に記載のガラス製造装置。
【請求項15】
前記清澄用容器、前記攪拌用容器、前記成形用部材並びに前記第2及び第3の接続部材のそれぞれが前記ガラス製造容器により構成されている請求項14に記載のガラス製造装置。
【請求項16】
請求項13〜15のいずれか一項に記載のガラス製造装置を用いたガラスの製造方法。
【請求項17】
前記ガラスは、ディスプレイ用ガラス基板である請求項16に記載のガラスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図16】
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【図17】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2011−79685(P2011−79685A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−231393(P2009−231393)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】