説明

キセノンランプ点灯装置及びキセノンランプの点灯方法

【課題】キセノンランプ点灯装置において、使用照度到達前の無駄な電力損失が防止し、長い安定点灯時間を確保し、さらにランプの長寿命化を図る。
【解決手段】充電回路(200)及び充電回路の充電電圧を電源としてランプ電流設定値に従ってキセノンランプに電流を投入する電流制御回路(300)を備えたキセノンランプ点灯装置において、電流制御回路がランプ電流設定値を制御する制御部(26)を有し、制御部は、点灯開始時から使用照度到達時までの間にランプ電流設定値を、使用照度におけるランプ電流設定値(i1)よりも低いランプ電流設定値から使用照度におけるランプ電流設定値まで上昇させるように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は擬似太陽光を照射する擬似太陽光照射装置に用いられるキセノンランプ点灯装置に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池の光電変換特性などの各種太陽エネルギー利用機器の性能測定のために、自然太陽光のスペクトル分布を再現する擬似太陽光を被照射体に照射する擬似太陽光照射装置が知られている。この種の擬似太陽光照射装置においては、キセノンランプからなる光源が箱体内に設置され、光源からの光が光学フィルタを介して照射されることで放射面から擬似太陽光が放射される。
【0003】
本装置では、例えば、発光長が1000mm以上のキセノンランプ(以下、「ランプ」という)が用いられ、直流のランプ電流が通電され、そのランプ電流値を点灯装置によって調整することにより照射面の照度が制御される。一般的には、点灯時のランプ電流は数十アンペア(例えば70A)、ランプ電圧は数百ボルト(例えば500V)程度であり、このランプ電流/電圧が、1回の点灯あたり数十mSecから数百mSecにわたって通電/印加される。この出力状態が定電流又は定電力で制御され、点灯期間中に被照射体の性能が測定される。
【0004】
上記の場合、ランプ電力が35kWとなり、瞬時(例えば100mSec)とはいえ、この電力を商用電源から直接供給すると、同じ商用電源の系統の周辺機器に障害を及ぼすことや、商用電源と照射装置の間に容量の大きい接点及び配線が必要となることが問題となる。そこで一般には、照射装置内に点灯装置を設け、点灯装置において電力を蓄積し、点灯指令に応じてその蓄積された電力をランプに供給する構成が採用される。
【0005】
図4に従来の点灯装置を示す。整流器2及び平滑コンデンサ3で構成される直流電源回路100で交流電源1が直流電圧に変換され、その直流電圧が充電回路200に供給される。充電回路200はトランジスタ4、5、6及び7からなるインバータを含む。充電回路200への充電指令に応じて、PWM制御回路8によってトランジスタ4、7及びトランジスタ5、6の導通時間が制御され、高周波で交互に導通される。これによりトランス9の1次巻線に交流電圧が発生するとともに、トランス9の2次巻線に昇圧比に応じた電圧が発生する。トランス9の2次巻線に発生した電圧は整流器10で整流され、コイル11で平滑されて大容量の電解コンデンサ(充電コンデンサ)13に充電される。ここで、電流検出抵抗12で検出される充電電流に比例した電圧(即ち、B−G間の電圧)と基準電圧15とが誤差増幅器14に入力され、両者が等しくなるようにPWM制御回路8によってトランジスタ4〜7の導通時間がPWM制御される。これにより、大容量の充電コンデンサ13は所定の電流値で定電流充電されていく。充電コンデンサ13がランプ電圧よりも充分に高い電圧(例えば、1000V)に充電されると、PWM制御回路8はインバータの動作を一旦停止(又は充電電圧を保持)し、スタンバイ状態となる。
【0006】
次に、ランプ点灯指令に応じて電流制御回路300が動作を開始する。電流制御回路300は降圧チョッパ回路からなり、降圧チョッパ回路は、IGBT等の半導体スイッチ16、ダイオード17、コイル18、コンデンサ19、電流検出抵抗20、半導体スイッチ16の導通時間を制御するPWM制御回路21、誤差増幅器22、基準電圧23及び帰還素子27で構成される。この時点で、ランプ25の両端に充電コンデンサ13の電圧とほぼ等しい直流電圧(1000V)が直ちに印加される。その後、イグナイタ(不図示)のパルストランス24によってパルス電圧が上記直流電圧に重畳され、ランプ25の絶縁破壊が起こる。
【0007】
ランプ25が絶縁破壊を起こすと、コンデンサ13の充電電圧を電源として電流制御回路300からの制限された電流がランプ25に投入される。電流制御回路300において、ランプ電流に比例する電圧信号(検出電圧)と、ランプ電流設定値に比例する基準電圧23からの電圧信号(基準電圧)が誤差増幅器22に入力され、両者が等しくなるように、PWM制御回路21によって半導体スイッチ16の導通時間がPWM制御される。これにより、コンデンサ13を電源とするランプ25の直流点灯がランプ電流設定値に従って定電流制御される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、ランプが点灯開始してから使用照度に到達するまでの動作はこれまであまり注目されてこなかった。図5に上記従来例のランプ電流設定値(太い点線)、ランプ電流及び照度を示す。なお、図の右側の縦軸(SUN)は各値についての使用照度時の値に対する比を表す。図示するように、ランプ電流設定値はi1で一定であるが、点灯開始から数mSec遅れて(t1で)ランプ電流がランプ電流設定値に到達して一定となり、ランプ電流が一定となってからさらに数mSec遅れて(t2で)照度が上昇して使用照度に達する。即ち、ランプ電流がランプ電流設定値に一定になっても照度が素早く追従しないことが分かる。
【0009】
しかし、この使用照度到達前の過剰なランプ電流によって無駄な電力損失が発生してしまうことが問題となる。また、この過剰なランプ電流のために充電コンデンサのエネルギーが無駄に放電してしまうため、その後の使用照度で安定点灯が可能な時間が短縮されてしまい、擬似太陽光照射装置としての性能が損なわれる。さらに、過剰なランプ電流はランプに対するストレスとなり、ランプが短寿命となってしまうという問題もある。なお、使用照度到達前にランプ電流を大幅に高くしたからといって照度の上昇速度が大幅に増すものでもないことが実験によって分かっている。
【0010】
そこで、本発明は、使用照度到達前の過剰なランプ電流を抑制して上記問題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の側面は、充電回路(200)及び充電回路の充電電圧を電源としてランプ電流設定値に従ってキセノンランプに電流を投入する電流制御回路(300)を備えたキセノンランプ点灯装置であって、電流制御回路がランプ電流設定値を制御する制御部(26)を有し、制御部が、点灯開始時から使用照度到達時までの間にランプ電流設定値を、使用照度におけるランプ電流設定値(i1)よりも低いランプ電流設定値から使用照度におけるランプ電流設定値まで上昇させるように構成されたキセノンランプ点灯装置である。
【0012】
本発明の第2の側面は、充電回路の充電電圧を電源として、電流制御回路によってランプ電流設定値に従ってキセノンランプに電流を投入するキセノンランプの点灯方法であって、電流制御回路において、(A)キセノンランプの点灯開始後、ランプ電流設定値を、使用照度におけるランプ電流設定値(i1)よりも低いランプ電流設定値とするステップ、及び(B)キセノンランプの照度が使用照度に到達するまでに、ランプ電流設定値を上昇させて使用照度におけるランプ電流設定値とするステップを備える点灯方法である。
【0013】
上記第1及び第2の側面において、制御部はランプ電流設定値を照度の追従速度に合わせて上昇させるようにすることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例によるキセノンランプ点灯装置を示す図である。
【図2】本発明の実施例を説明する図である。
【図3A】本発明の変形例を示す図である。
【図3B】本発明の変形例を示す図である。
【図4】従来のキセノンランプ点灯装置を示す図である。
【図5】従来例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1に本発明の実施例によるキセノンランプ点灯装置を示す。図において、直流電源回路100、充電回路200、及び不図示のイグナイタ回路は、図4に示す従来例と同様であるので説明を省略する。本発明は電流制御回路300にCPU(制御部)26を備えた点が従来例と異なる。なお、CPUは電流制御回路300の内部にあっても外部にあってもよい。
【0016】
より詳細には、図1の回路では、誤差増幅器22の基準電圧側に固定電圧の電源ではなく、電圧制御が可能なCPUが接続されている。即ち、電流制御回路300において、点灯指令に応じて、ランプ電流に比例する電圧信号と、ランプ電流の設定値に比例するCPU26からの可変の電圧信号が誤差増幅器22に入力され、両者が等しくなるようにPWM制御回路21によって半導体スイッチ16の導通時間がPWM制御される。これにより、コンデンサ13を電源として、制御可能なランプ電流設定値に従ってランプ電流が定電流制御される。本実施例では、CPU26がこのランプ電流設定値をランプ照度の追従速度に合わせて上昇させる。
【0017】
図2に、本実施例におけるランプ電流設定値(太い点線)、ランプ電流、及び照度を示す。
点灯開始時に、ランプ電流設定値は使用照度における設定値i1(本実施例ではi1=70A)よりも低い設定値i0(例えば、i0=46.5A、SUN=0.66)に設定される。点灯開始後約1mSec程度でランプ電流が電流値i0で一定となる。点灯開始後約5mSec程度(t1´)で照度がSUN0.66まで追従すると、ランプ電流設定値がi0からi1に引き上げられる。そして、t2で照度が使用照度(SUN=1.00)まで追従する。なお、照度の追従速度は実験等により事前に分かっているものとする。
【0018】
このように、図2の本実施例と図5の従来例を比較すると、点灯開始から使用照度到達までの時間t2は両者とも同様であっても、それまでのランプ電流値(積分値)は本実施例の方が少なく、使用照度到達前の過剰なランプ電流が低減されることが分かる。
【0019】
以上の構成により、使用照度到達前の無駄な電力損失を防止できる。また、充電コンデンサのエネルギーを無駄に放電することがないために(t2以降に)、使用照度における点灯時間をより長く確保することができる。さらに、ランプへのストレスが少ないのでランプの長寿命化を図ることができる。これにより、高効率、高性能かつ信頼性の高い擬似太陽光照射装置を提供することができる。
【0020】
なお、上記実施例では、ランプ電流設定値が段階的に上昇するものを示したが、図3Aに示すように連続的に上昇するものであってもよい。また、実施例ではランプ電流設定値の上昇が2段階のものと示したが、図3Bに示すように3段階以上としてもよい。またさらに、図2の実施例ではランプ電流設定値が単調増加するものを示したが、図3A又は3Bに示すように、点灯開始から使用照度到達までにランプ電流設定値が増減するものであってもよい。
【0021】
また、上記実施例では、電流制御回路300において、誤差増幅器を用いたフィードバック回路を構成したが、強制的にPWM制御を行うフィードフォワードの構成としてもよい。この場合には、CPU26からのランプ電流設定値に関する信号はPWM制御回路21に直接的に入力される。
【符号の説明】
【0022】
16.半導体スイッチ
17.ダイオード
18.コイル
19.コンデンサ
20.検出抵抗
21.PWM制御回路
22.誤差増幅器
26.CPU(制御部)
100.直流電源回路
200.充電回路
300.電流制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電回路(200)及び該充電回路の充電電圧を電源としてランプ電流設定値に従ってキセノンランプに電流を投入する電流制御回路(300)を備えたキセノンランプ点灯装置であって、
前記電流制御回路が前記ランプ電流設定値を制御する制御部(26)を有し、該制御部が、点灯開始時から使用照度到達時までの間に該ランプ電流設定値を、使用照度におけるランプ電流設定値(i1)よりも低いランプ電流設定値から該使用照度におけるランプ電流設定値まで上昇させるように構成されたキセノンランプ点灯装置。
【請求項2】
請求項1のキセノンランプ点灯装置において、前記制御部が、前記ランプ電流設定値を前記照度の追従速度に合わせて上昇させることを特徴とするキセノンランプ点灯装置。
【請求項3】
充電回路の充電電圧を電源として、電流制御回路によってランプ電流設定値に従ってキセノンランプに電流を投入するキセノンランプの点灯方法であって、
前記電流制御回路において、
(A)前記キセノンランプの点灯開始後、前記ランプ電流設定値を使用照度におけるランプ電流設定値(i1)よりも低いランプ電流設定値とするステップ、及び
(B)前記キセノンランプの照度が使用照度に到達するまでに、前記ランプ電流設定値を上昇させて前記使用照度におけるランプ電流設定値とするステップ
を備える点灯方法。
【請求項4】
請求項3の点灯方法であって、前記ステップ(B)において、前記ランプ電流設定値を前記照度の追従速度に合わせて上昇させることを特徴とする点灯方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−243393(P2011−243393A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114080(P2010−114080)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(000000192)岩崎電気株式会社 (533)
【Fターム(参考)】