説明

キャップ、および液体噴射装置

【課題】低温時においても液体噴射ヘッドに位置ずれすることなく当接できるキャップを実現する。
【解決手段】液体噴射ヘッドに当接するキャッピング部材31a,31b,31c,31d,31eと、キャッピング部材を液体噴射ヘッドに対して当接及び離間する方向に移動させるとともに、該液体噴射ヘッドに対してキャッピング部材を当接する方向と反対方向とに相対移動可能な状態で保持する保持部材41と、キャッピング部材に設けられ、液体噴射ヘッドに対して定められた電位差を有する電圧が供給される第1電極端子51a,51b,51c,51d,51eと、保持部材に設けられ、該電圧が供給される第2電極端子80と、第1電極端子と第2電極端子とを接続し、第2電極端子側に供給された電圧を第1電極端子側に供給する被覆を有さない裸線73a,73b,73c,73d,73eと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッドに当接するキャッピング部材を有するキャップ、およびこのキャップを備えた液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、液体噴射装置の一種として、液体噴射ヘッドのノズル形成面に開口したノズルから液体としてのインクを用紙などの媒体に噴射して印刷を行うインクジェット式プリンターが広く知られている。
【0003】
こうしたインクジェット式プリンターでは、ノズル内に滞留したインクの水分や揮発成分が蒸発してインクの粘度が上昇することによってノズルの目詰まりが生じたり、ノズル内に気泡や金属粒子等の異物が混入したりすることがある。そして、そうした目詰まりや異物等の混入がノズルに生じると、インクをノズルから噴射することができなくなり、印刷不良を招くことになる。
【0004】
そこで、インクジェット式プリンターにおいて、ノズルをクリーニングするためのクリーニング処理が行われている。例えば、有底箱状のキャッピング部材を、その開口部側においてノズル形成面に当接させ、形成したキャッピング部材の内部とノズル形成面との間の密閉空間を、吸引ポンプを駆動することによって減圧して、目詰まりの原因となるノズル内のインクをキャッピング部材内に吸引する。そして、吸引したインクをキャッピング部材に設けられた廃液口から吸引ポンプを経由して外部に排出する。
【0005】
加えて、近年は、クリーニングすべきノズルを特定するため、どのノズルがインクを正しく噴射できないのかを予め電気的に検出する技術が、例えば特許文献1に提案されている。この技術は、液体噴射ヘッドとキャッピング部材に設けられた電極部材との間に定められた電位差すなわち定められた電圧を発生させ、ノズルからインクが噴射したときに生ずるその電圧の変化を検出することによって、ノズルからのインクの噴射の有無を検出するものである。従って、液体噴射ヘッドおよびキャッピング部材に設けられた電極部材のそれぞれに対して、定められた電位差を有する異なる電圧がそれぞれ供給されるように、電圧の供給側と電気的に接続されるように導電部材を接続する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−94808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような導電部材の接続方法として、導電性を有する金属製の板金を用いて電圧の供給側との導通を行う方法が考えられる。しかしながら、板金と電極部材との電気的な接続を安定化させるためには、板金を電極部材に強く押し付けて接点圧を確保しなければならない。このため、キャッピング部材に設けられた電極部材との間の電気的な接続方法としては好ましくない。なぜなら、板金がキャッピング部材を押し付ける方向と、キャッピンング部材が液体噴射ヘッドに当接する方向とは、互いに異なる方向(例えば当接する方向と直交する方向)になる確率が高いので、そのような場合、キャッピング部材は液体噴射ヘッドに対して傾いて接近することになる。そのために、液体噴射ヘッドに正しく当接することが出来なくなる虞があるからである。また、電圧の供給側との電気的な接続構造も複雑になる。
【0008】
そこで、導通部材として電線を用いる方法が考えられる。電線は、例えば、ねじ固定によって、キャップに力を作用させない状態で電極部材との電気的な接続を容易に成立させることができる。しかしながら、一般的に電線は低温時において被覆が硬くなりやすいという性質を有している。従って、低温時は被覆が硬くなった電線がキャッピング部材の動きを妨げてキャッピング部材が正常に液体噴射ヘッド(ノズル形成面)に当接できなくなる虞がある。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、低温時においても液体噴射ヘッドに位置ずれすることなく当接できるキャッピング部材を有するキャップを実現することを主な目的とする。さらに、このようなキャップを備えた液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明のキャップは、液体を噴射する液体噴射ヘッドに当接するキャッピング部材と、前記キャッピング部材を前記液体噴射ヘッドに対して当接及び離間する方向に移動させるとともに、前記キャッピング部材が前記液体噴射ヘッドに当接する際に、該液体噴射ヘッドに対して前記キャッピング部材を前記当接する方向と反対方向とに相対移動可能な状態で保持する保持部材と、前記キャッピング部材に設けられ、前記液体噴射ヘッドに対して定められた電位差を有する電圧が供給される第1電極端子と、前記保持部材に設けられ、前記電圧が供給される第2電極端子と、前記第1電極端子と前記第2電極端子とを接続し、前記第2電極端子側に供給された前記電圧を前記第1電極端子側に供給する被覆を有さない裸線と、を備える。
【0011】
この構成によれば、液体噴射ヘッドに当接するキャッピング部材に設けられた第1電極端子と、キャッピング部材を保持する保持部材に設けられた第2電極端子との間が、被覆のない裸線で電気的に接続される。従って、例えば低温時においても、キャッピング部材が液体噴射ヘッドに対して当接する際に、被覆が硬くなった配線によってキャッピング部材が保持部材に対して相対移動し難くなるという現象が抑制される。この結果、キャッピング部材は、低温時においても液体噴射ヘッドに対して位置ずれすることなく正しく当接することができる。
【0012】
本発明のキャップにおいて、前記保持部材は複数の前記キャッピング部材を前記当接及び離間する方向と交差する一方向に並べた状態で保持し、前記一方向の並びにおいて隣り合う前記キャッピング部材にそれぞれ設けられている前記第1電極端子同士が、前記裸線によって電気的に接続されている。
【0013】
この構成によれば、隣り合うキャッピング部材の第1電極端子間が裸線で接続されているので、隣り合うキャッピング部材間の配線が低温時において被覆が硬くなるという状態が発生しない。従って、それぞれのキャッピング部材は、隣り合うキャッピング部材の移動に影響されることなく液体噴射ヘッドに対して当接するように移動することができる。また隣り合うキャッピング部材の第1電極端子間を裸線で繋ぐので、裸線の露出長さが短くなり、裸線が他の部品との間で電気的に導通することが抑制される。
【0014】
本発明のキャップにおいて、前記第2電極端子と前記複数のキャッピング部材のそれぞれの前記第1電極端子とは、一本の前記裸線で電気的に接続されている。
この構成によれば、第2電極端子とキャッピング部材の複数の第1電極端子との間の電気的な接続を一本の裸線によって行うことが出来るので、夫々の電極端子間の結線構造が容易となる。
【0015】
本発明のキャップにおいて、前記裸線は複数の線が撚られた可撓性を有する撚線である。
この構成によれば、単線に比べて屈曲による断線が抑制されるので、第2電極端子と第1電極端子間、あるいは前記第1電極端子間での電気的な接続の信頼性が向上する。また、キャッピング部材が液体噴射ヘッドに当接する際に、保持部材に対して相対移動を伴う場合において、第2電極端子と第1電極端子との間の裸線、あるいは第1電極端子間の裸線において張力の発生が抑制される。従ってキャッピング部材は、位置ずれすることなく液体噴射ヘッドに正しく当接することができる。
【0016】
本発明の液体噴射装置は、媒体に液体を噴射する液体噴射ヘッドと、上記構成を有するキャップと、を備えた。
この構成によれば、上記構成を有する本発明のキャップと同様の効果を奏する液体噴射装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る実施形態のキャップを有するプリンターの概略構成を示す斜視図。
【図2】実施形態のキャップの構成を模式的に示す断面図で、(a)は液体噴射ヘッドから離間した状態を、(b)は液体噴射ヘッドに当接した状態を示す図。
【図3】実施形態においてインクの噴射検出を電気的に行うための回路配線図。
【図4】回路配線が行われた実施形態のキャップを示す斜視図。
【図5】インクの噴射検出を電気的に行う回路配線を行う際に使用される配線部品を示す部品図。
【図6】変形例の回路配線の構成を示す斜視図。
【図7】(a)(b)とも、変形例の裸線の接続方法を模式的に示す配線図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を、液体噴射ヘッドに当接するキャップを備えた液体噴射装置の一種であるインクジェット式プリンターにおいて具体化した実施形態について、以下、図を参照して説明する。なお、以降の説明を容易にするため、図1に示したように、鉛直方向における重力方向を下方向、反重力方向を上方向とする。また、これと交差する方向であって、プリンターに給送された用紙Pが画像の形成時において搬送される搬送方向を前方向、搬送方向と反対方向を後方向とする。さらに重力方向および搬送方向の双方と交差する方向であってキャリッジ16が往復移動する方向すなわち走査方向を、前方から見て、それぞれ右方向、左方向と呼ぶことにする。
【0019】
さて、図1に示すように、インクジェット式プリンター(以下、単に「プリンター」ともいう。)11における略矩形箱状をなすフレーム12内の下部には、その長手方向である左右方向に沿って支持台13が延設されている。また、フレーム12の後方面の下部には紙送りモーター14が設けられている。そして、この紙送りモーター14の駆動を通じて図示しない紙送り機構により、支持台13上にその後方側から用紙Pが給送されるようになっている。
【0020】
フレーム12内における支持台13の上方には、該支持台13の長手方向である左右方向に沿ってガイド軸15が架設されている。このガイド軸15にはその軸線方向において往復移動可能にキャリッジ16が支持されている。詳しくは、キャリッジ16に左右方向において貫通する支持孔16aが形成されるとともに、この支持孔16aにガイド軸15が挿通されている。
【0021】
フレーム12の後壁内面において上記ガイド軸15の両端の近傍にあたる位置には、駆動プーリー17aと従動プーリー17bとがそれぞれ回転自在に支持されている。駆動プーリー17aにはキャリッジモーター18の出力軸が連結されるとともに、駆動プーリー17aと従動プーリー17bとの間には一部がキャリッジ16に連結された無端状のタイミングベルト17が巻き掛けられている。上記プリンター11は、キャリッジモーター18を駆動することにより、タイミングベルト17を介してキャリッジ16をガイド軸15によってガイドしつつ左右方向において往復移動させることの可能な構造になっている。
【0022】
上記キャリッジ16の下面には液体噴射ヘッド19が設けられている。この液体噴射ヘッド19にはインク噴射用のノズル20(図2(a)参照)が複数設けられている。また、液体噴射ヘッド19の下方端にはノズルプレート19a(図2(a)参照)が取り付けられている。このノズルプレート19aには、各ノズル20の開口孔が形成され、その下面がノズル形成面となっている。一方、キャリッジ16には液体噴射ヘッド19に対してインクを供給するためのインクカートリッジ22が着脱可能に装着されている。
【0023】
そして、プリンター11では、液体噴射ヘッド19において例えば圧電素子を有する圧力発生機構21(図2(a)参照)が設けられている。この圧力発生機構21を駆動することにより、インクカートリッジ22内のインクが液体噴射ヘッド19内に供給されるとともに同液体噴射ヘッド19の各ノズル20から支持台13上に給送された用紙Pに噴射されるといったように印刷が行われる。
【0024】
また、フレーム12の内部における上記支持台13よりも右側の領域、すなわち印刷時において使用されない領域(ホームポジション領域)には、液体噴射ヘッド19のクリーニング等のメンテナンスを行うためのキャップ30を有するメンテナンス機構23が設けられている。プリンター11では、液体噴射ヘッド19をホームポジション領域に移動させるとともにメンテナンス機構23を動作させることによって、キャップ30が有するキャッピング部材31を液体噴射ヘッド19(ノズル形成面)に当接させてノズル20をクリーニングする処理(クリーニング処理)が実行される。また、キャップ30が有するキャッピング部材31に対してインクを強制的に噴射させることで、ノズル20から実際にインクが噴射されたか否かを電気的に検出するインク噴射検査が行われる。
【0025】
次に、上記メンテナンス機構23において行われるクリーニング処理およびインク噴射検査に関わる構成部品であるキャップ30について、その概略構成を図2(a)(b)を参照して説明する。なお、本実施形態では、液体噴射ヘッド19には前後方向に複数のノズル20が配列されたノズル列が、左右方向において5つ形成されている。そして、各ノズル列における複数のノズル20を囲むように覆う有底箱状のキャッピング部材31が5つ左右方向に並んで設けられている。
【0026】
図2(a)に示すように、キャップ30は、液体噴射ヘッド19に当接する5つのキャッピング部材31と、このキャッピング部材31を相対移動可能な状態で保持する略直方体形状を呈する保持部材41と、コイルばねなどの付勢手段60と、を有している。なお、キャッピング部材31を区別して説明する場合は、左から順にキャッピング部材31a,31b,31c,31d,31eと呼ぶ。
【0027】
キャッピング部材31は、保持部材41との間に挿入された付勢手段60によって常に上方向に付勢されるようになっている。そして、キャッピング部材31の下側において左右両側に張り出すように形成された張出部34と、保持部材41の上面側においてキャッピング部材31の左右両側面において隣り合うように形成された庇部42とが、上下方向において係合するように形成されている。従って、キャッピング部材31は、保持部材41(庇部42)によって、上方向への移動が規制されるとともに、付勢手段60が圧縮変形することによって保持部材41に対して下方に相対移動するようになっている。
【0028】
またキャッピング部材31は、上側に開口を有する樹脂製のキャッピング枠体33と、このキャッピング枠体33において液体噴射ヘッド19と当接する上方側となる開口部に、キャッピング枠体33より軟質な材料(ゴム材料やエラストマーなど)で四角環状に形成されたキャップシール部32と、を有している。また、ノズル20からインクが噴射されたか否かを電気的に検出するインク噴射検査を行うための電極部材50が開口部側に配設されている。ここで、このインク噴射検査に関する回路配線について、図3を参照して説明する。
【0029】
図3に示すように、インク噴射検査は、液体噴射ヘッド19とそれぞれのキャッピング部材31に配設された電極部材50との間に定められた電圧を印加する。そして、液体噴射ヘッド19からインクが噴射されたときに生ずる電荷の移動に伴う電圧変動を検出装置55によって検出することによって、ノズル20から実際にインクが噴射したか否かを検査するようになっている。従って、本実施形態では図3に示すように、液体噴射ヘッド19に定められた電圧を形成する一方の電圧である第1電圧V1が供給されるように配線される。また各キャッピング部材31に配設された電極部材50には定められた電圧を形成する他方の電圧となる第2電圧V2が供給されるように配線が行われる。具体的には、キャッピング部材31a,31b,31c,31d,31eにおいて各電極部材50と電気的に接続されて設けられた第1電極端子としての電極端子51a,51b,51c,51d,51eに、第2電圧V2の供給側が配線によって電気的に接続されるようになっている。この結果、液体噴射ヘッド19と電極部材50との間には、液体噴射ヘッド19に対して第1電圧V1と第2電圧V2との差分電圧が、定められた電圧として印加されるようになっている。なお、以降、電極端子51a,51b,51c,51d,51eを総称して電極端子51と呼ぶこともある。
【0030】
図2に戻り、このようにインク噴射検査に関する回路配線が形成された5つのキャッピング部材31を保持する保持部材41は、移動機構によって全体が上下方向に移動するように構成されている。本実施形態では、図2(a)に示すように、不図示の駆動手段(例えばモーター)によって回転駆動される回転軸62の回転と一体で回転(揺動)するカム61によって移動機構が構成されている。そして、図2(b)に示すように、カム61が回転することによって保持部材41は上方向に寸法L1に相当する距離だけ上昇するようになっている。
【0031】
この保持部材41の上昇によって、5つのキャッピング部材31は、それぞれ液体噴射ヘッド19に当接するとともに、それぞれが個別に保持部材41に対して相対的に寸法L2に相当する距離だけ、保持部材41の上昇と反対方向となる下方に移動するようになっている。このキャッピング部材31の下方への移動において、実際にはキャッピング部材31の移動量(寸法L2)がそれぞれにおいて異なる場合が存在する。例えば、キャッピング部材31aにおいてキャップシール部32の弾性変形量が異なったり、張出部34の上下方向の位置が製造に起因する形成ばらつきによって異なったりする。また、保持部材41において庇部42の上下方向の位置が製造に起因する形成ばらつきによって異なったり、付勢手段60の付勢力が異なっていたりする。このため、各キャッピング部材31において下方への移動距離(寸法L2)が異なることになる。
【0032】
従って、換言すれば、各キャッピング部材31は、それぞれ上下方向において相対的に変位するように相対移動することになる。このとき、隣り合うキャッピング部材31間において生ずる相対的な移動量は、最大で寸法L2の距離が生ずることになる。ちなみに、本実施形態では寸法L2は2ミリメートルとなっており、保持部材41の上方移動の寸法L1(例えば15ミリメートル)よりも小さい寸法になっている。
【0033】
そこで、本実施形態におけるインク噴射検査に関する回路配線において、このように互に上下方向において相対的に変位する各キャッピング部材31の相対移動を妨げないように、各電極端子51a,51b,51c,51d,51eに対する配線が行われている。この配線について、図4を参照して説明する。
【0034】
図4に示すように、本実施形態のキャップ30では、インク噴射検査用に印加される第2電圧V2を供給する配線82の端末に設けられた接続端子81が、保持部材41の前方左側の角部下側において固定ねじ69によって固定されるようになっている。さらに、この接続端子81と上下方向において重なるように接続端子75が固定ねじ69によって固定されることによって、第2電極端子としての中継端子80が保持部材41において形成されるようになっている。なお、配線82は、供給する第2電圧V2が短絡しないように、被覆を有する電線となっている。
【0035】
接続端子75には所定の長さを有する被覆のない裸線73aの一端側が接続されるとともに、その裸線73aの他端側には接続端子71aが接続されている。この接続端子71aは、電極端子51aと前後方向において重なるようにして固定ねじ69によってキャッピング部材31a(キャッピング枠体33)に固定される。この結果、キャッピング部材31aの電極部材50に対して第2電圧V2が電気的に接続されて供給される。
【0036】
更に、接続端子71aには所定の長さを有する被覆のない裸線73bの一端側が接続されるとともに、その裸線73bの他端側には接続端子71bが接続されている。この接続端子71bは、電極端子51bと前後方向において重なるようにして固定ねじ69によってキャッピング部材31bに固定される。この結果、キャッピング部材31bの電極部材50に対して第2電圧V2が電気的に接続されて供給される。
【0037】
以降、同様に、接続端子71bには所定の長さを有する被覆のない裸線73c一端側が接続されるとともに、その裸線73cの他端側には接続端子71cが接続されている。また、接続端子71cには所定の長さを有する被覆のない裸線73dの一端側が接続されるとともに、その裸線73dの他端側には接続端子71dが接続されている。更に接続端子71dには所定の長さを有する被覆のない裸線73eの一端側が接続されるとともに、その裸線73eの他端側には接続端子71eが接続されている。そして、各接続端子71c,71d,71eは、電極端子51c,51d,51eと前後方向においてそれぞれ重なるようにして固定ねじ69によってキャッピング部材31c,31d,31eにそれぞれ固定される。この結果、キャッピング部材31c,31d,31eの電極部材50に対して第2電圧V2が電気的に接続されて供給される。
【0038】
本実施形態では、図4に示すように、各接続端子71a,71b,71c,71d,71eは、保持部材41の前方において左右方向に並んで形成された上下方向に貫通する5つの開口部44の下側からそれぞれ挿入される。そして、固定ねじ69が露出する保持部材41の前方上側部分において前方から挿入される器具(例えばドライバー)によって、固定ねじ69が回されて各接続端子71a,71b,71c,71d,71eが各キャッピング部材31に固定されるようになっている。従って、各接続端子71a,71b,71c,71d,71eが各キャッピング部材31に固定された状態において、保持部材41の前方に設けられた側壁部41aによって各裸線73a,73b,73c,73d,73eが露出しないように覆われるようになっている。
【0039】
このように、キャップ30において、中継端子80までは、第2電圧V2が短絡を防止する被覆を有する配線(電線)82によって供給される。一方、中継端子80以降は、保持部材41(側壁部41a)に覆われることによって短絡が抑制された裸線73a,73b,73c,73d,73eによって、各電極端子51を介して各電極部材50に第2電圧V2が供給されるようになっている。
【0040】
ところで、本実施形態では、各裸線73a,73b,73c,73d,73eと各接続端子71a,71b,71c,71d,71e、および接続端子75は、それぞれ相互に接続された一つの配線部品を構成している。この配線部品について、これを後方から見た状態で示した図5を参照して説明する。なお、以降の説明において、裸線73a,73b,73c,73d,73eを総称して裸線73と呼ぶこともある。また、接続端子71a,71b,71c,71d,71eを総称して接続端子71と呼ぶこともある。
【0041】
図5に示すように、配線部品は裸線73b,73c,73d,73eが、各接続端子71間においてそれぞれ半径が寸法Rの半円形状となるように長さが設定されている。また、裸線73aは、接続端子71aと接続端子75との各接続部分間の直線長さが寸法Lに設定されている。なお、本実施形態では、中継端子80の形成位置の関係から接続端子75についてのみ裸線73aの接続方向が異なっている。また、各接続端子71および接続端子75の接続部分では圧着によって裸線73と電気的な接続が行われるようになっている。従って、本実施形態では接続端子71,75は所謂圧着端子となっている。
【0042】
本実施形態では、寸法Rおよび寸法Lは、接続端子75、及び各接続端子71が固定された状態において、各裸線73に張力が発生することなく緩んだ状態となるようにそれぞれの寸法が設定されている。さらに、前述するように、各キャッピング部材31がそれぞれ保持部材41に対して下方に寸法L2に相当する距離だけ移動したとき、各キャッピング部材31に対して各裸線73において張力が発生しない寸法となっている。
【0043】
もとより、この寸法Rおよび寸法Lは、各裸線73として用いられる電線の態様に応じて、各接続端子71および接続端子75との間において張力が発生しない範囲であって最も短い寸法に設定されるようになっている。ちなみに、本実施形態では各裸線73は、可撓性を有する軟銅の複合撚線を採用している。そして、一例として素線径0.05ミリメートル、素線数34本、本数3本を用いた場合において、裸線73b,73c,73d,73eの長さは約30ミリメートルとなるように寸法Rが設定されている。また、裸線73aの長さ、すなわち寸法Lは約20ミリメートルで設定されている。
【0044】
更に、本実施形態では、裸線73a,73b,73c,73d,73eが一本の電線で形成されている。すなわち、図5における一点鎖線の円形部分に一部拡大断面で示したように、一例として接続端子71dにおいて裸線73dと裸線73eとは一本の電線(撚線)が折り曲げられることによって形成されている。そして、この折り曲げられた電線部分が、例えば半田付けの場合において発生するような接続部分における電線の硬化が発生しないように、接続端子71dの接続部分に設けられた圧着部71dfによって圧着されて接続端子71に接続されている。
【0045】
このようにインクの噴射検査に関する回路配線が施されたキャップ30における作用について説明する。
図2(a)(b)に示したように、保持部材41が上昇してキャッピング部材31が液体噴射ヘッド19に当接すると、各キャッピング部材31は、保持部材41に対して相対的に下方に移動する。そして、前述するように、各キャッピング部材31において、この下方への移動に際して、隣のキャッピング部材31との間において相対移動が生じる。このとき、各キャッピング部材31の電極端子51間の電気的な接続において、配線が裸線73で行われているので、例えば低温時において被覆が硬くなる現象が生じることもなく配線は容易に撓むことになる。
【0046】
また、中継端子80とキャッピング部材31の電極端子51(ここではキャッピング部材31aの電極端子51a)との間の電気的な接続においても、配線が裸線73(73a)によって行われている。従って、例えば低温時において被覆が硬くなる現象が生じることもなく配線が容易に撓むことになる。
【0047】
上記説明した実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)液体噴射ヘッド19に当接するキャッピング部材31に設けられた電極端子51と、キャッピング部材31を保持する保持部材41に設けられた中継端子80との間が、被覆のない裸線73aで電気的に接続される。従って、例えば低温時においても、キャッピング部材31が液体噴射ヘッド19に対して当接する際に、被覆が硬くなった配線によってキャッピング部材31が保持部材41に対して相対移動し難くなるという現象が抑制される。この結果、キャッピング部材31は、低温時においても液体噴射ヘッド19に対して位置ずれすることなく正しく当接することができる。
【0048】
(2)隣り合うキャッピング部材31の電極端子51間が裸線73b,73c,73d,73eで接続されているので、隣り合うキャッピング部材31間の配線が低温時において被覆が硬くなるという状態が発生しない。従って、それぞれのキャッピング部材31は、隣り合うキャッピング部材31の移動に影響されることなく液体噴射ヘッド19に対して当接するように移動することができる。また隣り合うキャッピング部材31の電極端子51間を裸線73b,73c,73d,73eで繋ぐので、裸線73b,73c,73d,73eの露出長さが短くなり、裸線73b,73c,73d,73eが他の部品との間で電気的に導通することが抑制される。
【0049】
(3)中継端子80とキャッピング部材31の複数の電極端子51との間の電気的な接続を一本の裸線73によって行うことが出来るので、それぞれの電極端子51間の結線構造が容易となる。
【0050】
(4)単線に比べて屈曲による断線が抑制されるので、中継端子80と電極端子51間、あるいは電極端子51間での電気的な接続の信頼性が向上する。また、キャッピング部材31が液体噴射ヘッド19に当接する際に、保持部材41に対して相対移動を伴う場合において、中継端子80と電極端子51との間の裸線73、あるいは電極端子51間の裸線73において張力の発生が抑制される。従ってキャッピング部材31は、位置ずれすることなく液体噴射ヘッド19に正しく当接することができる。
【0051】
なお、上記各実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・上記実施形態において、隣り合うキャッピング部材31の電極端子51間の裸線73による電気的な接続方法以外の方法で、中継端子80に供給された第2電圧V2を各キャッピング部材31の電極端子51に供給するようにしてもよい。本変形例について図6を参照して説明する。
【0052】
図6に示すように、本変形例のキャップ30Aは、保持部材41の前方において左右方向に延設された側壁部41bが形成されている。この側壁部41bの前面には、左右方向に長手方向を有する略矩形の導電性の金属板85が固着されている。そしてこの金属板85の左端部分において、被覆を有する配線82の端末に設けられた接続端子81が、固定ねじ69によって固定されるようになっている。配線82は、この接続端子81の固定によって配線82と金属板85とが電気的に接続されるので、金属板85はインクの噴射検査用に印加される第2電圧V2が供給される第2電極端子としての中継端子80として機能することになる。
【0053】
そして、本変形例では、各キャッピング部材31の各電極端子51は、隣り合うキャッピング部材31間ではなく、中継端子80すなわち金属板85と、それぞれ同じ線材と同じ長さを有する裸線74a,74b,74c,74d,74e)によって接続されるようになっている。
【0054】
例えば、キャッピング部材31aの電極端子51aは、裸線74aによって金属板85と電気的に接続される。すなわち、裸線74aには、その両端に接続端子71aと接続端子72aが圧着によって接続されている。そして接続端子71aが開口部44の下側から挿入され固定ねじ69によって電極端子51aに対して固定される一方、接続端子72aが固定ねじ69によって金属板85に対して固定されることによって、金属板85と電極端子51aとが電気的に接続される。この結果、配線82から供給される第2電圧V2は金属板85(中継端子80)を経由して電極端子51aに供給される。
【0055】
他の裸線74b,74c,74d,74eにおいても同様に、両端に接続された接続端子71b,71c,71d,71eおよび接続端子72b,72c,72d,72eが、それぞれ固定ねじ69によって電極端子51および金属板85に固定される。
【0056】
本変形例によれば、上記実施形態における効果(1)〜(4)に加えて、以下の効果を奏する。
(5)隣り合うキャッピング部材31間において、電極端子51間を接続する配線(図4における裸線73b,73c,73d,73e)が存在しない。従って、各キャッピング部材31は、保持部材41に対する下方向への移動に際して、隣りのキャッピング部材31との間において相対移動が生じても、これによって裸線の状態が変化することがない。また、全てのキャッピング部材31において電極端子51に接続される裸線は一本で済むので、各キャッピング部材31の移動が円滑になる。従ってキャッピング部材31は、液体噴射ヘッド19の当接に際して位置ずれが抑制される。
【0057】
(6)また、金属板85は導電性が高い金属で形成されることによって電圧降下が抑制されるので、ほぼ金属板85の形状全域において第2電圧V2とすることができる。そして、各電極端子51は、同じ線材と同じ長さを有する裸線によって金属板85と電気的に接続されるので、各キャッピング部材31における電極部材50に供給される電圧は、それぞれ等しい電圧(凡そ第2電圧V2)を有する確率が高くなる。この結果、各キャッピング部材31においてインクの噴射検査を安定して行うことが出来る。
【0058】
・上記実施形態において、中継端子80を設ける位置は、保持部材41の前方左側に限らない。例えば保持部材41の前方右側であってもよい。あるいは、保持部材41の後方に設けられていてもよい。
【0059】
例えば、図7(a)に示すように保持部材41の後方左側において、第2電圧V2を供給する配線82と裸線73aを電気的に接続する中継端子80を設けるようにしてもよい。こうすれば、中継端子80から電極端子51aまでの距離が上記実施形態に比べて長くなる。従って、これに応じて裸線73aが長くなることによって、裸線73aに容易に撓みを設けることができる。この結果、原理的に裸線73aに張力が発生する確率が低くなるので、キャッピング部材31aは、位置ずれすることなく液体噴射ヘッド19に正しく当接することができる。
【0060】
・上記実施形態において、各電極端子51と裸線73との接続位置は、全てがキャッピング部材31の前方に位置するとは限らない。例えば、図7(b)に示すように、キャッピング部材31a,31c,31eについては、電極端子51a,51c,51eを後側に設けるようにしてもよい。こうすれば、上記実施形態に比べて、各裸線73(73a,73b,73c,73d,73e)を長くすることができる。従って各裸線73が長くなることによって、それぞれの裸線73において容易に撓みを設けることができる。この結果、原理的に各裸線73に張力が発生する確率が低くなるので、各キャッピング部材31は、位置ずれすることなく液体噴射ヘッド19に正しく当接することができる。
【0061】
・上記実施形態において、前記裸線73は、各接続端子71間の少なくとも一つにおいて両端が切断された電線であってもよい。更に、裸線73(73a)は、接続端子75と接続端子71(71a)との間において、両端が切断された電線であってもよい。
【0062】
・上記実施形態において、裸線73は撚線でなく単線であってもよい。例えば、隣り合うキャッピング部材31間の相対的な移動量が少ない場合や、電線が単線であっても可撓性を有する銅線(例えば細い軟銅線)である場合は、このように単線を用いることができる。
【0063】
・上記実施形態において、キャッピング部材31には、必要に応じて図示しないインクを吸収する多孔質材料で形成されたインク吸収材が、キャッピング枠体33の内部空間に挿入されていてもよい。また、キャッピング枠体33の内部に受容されたインクを吸引する吸引口が設けられていてもよい。さらには、吸引口を介して受容されたインクを吸引する吸引ポンプなどといった吸引装置がメンテナンス機構23において備えられていてもよい。
【0064】
・上記実施形態では、液体噴射装置をインクジェット式のプリンター11に具体化したが、インク以外の他の液体を噴射したり吐出したりする液体噴射装置に具体化してもよい。微小量の液滴を吐出させる液体噴射ヘッド等を備える各種の液体噴射装置に流用可能である。なお、液滴とは、上記液体噴射装置から吐出される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう液体とは、液体噴射装置が噴射させることができるような材料であればよい。例えば、物質が液相であるときの状態のものであればよく、粘性の高い又は低い液状体、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状態、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散又は混合されたものなどを含む。また、液体の代表的な例としては上記実施形態で説明したようなインクや液晶等が挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インク及び油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。液体噴射装置の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルタの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散又は溶解のかたちで含む液体を噴射する液体噴射装置がある。あるいは、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置、捺染装置やマイクロディスペンサー等であってもよい。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置を採用してもよい。そして、これらのうちいずれか一種の液体噴射装置に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0065】
11…液体噴射装置としてのプリンター、19…液体噴射ヘッド、30,30A…キャップ、31,31a,31b,31c,31d,31e…キャッピング部材、41…保持部材、51,51a,51b,51c,51d,51e…第1電極端子、73,73a,73b,73c,73d,73e,74a,74b,74c,74d,74e…裸線、80…第2電極端子としての中継端子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射する液体噴射ヘッドに当接するキャッピング部材と、
前記キャッピング部材を前記液体噴射ヘッドに対して当接及び離間する方向に移動させるとともに、前記キャッピング部材が前記液体噴射ヘッドに当接する際に、該液体噴射ヘッドに対して前記キャッピング部材を前記当接する方向と反対方向とに相対移動可能な状態で保持する保持部材と、
前記キャッピング部材に設けられ、前記液体噴射ヘッドに対して定められた電位差を有する電圧が供給される第1電極端子と、
前記保持部材に設けられ、前記電圧が供給される第2電極端子と、
前記第1電極端子と前記第2電極端子とを接続し、前記第2電極端子側に供給された前記電圧を前記第1電極端子側に供給する被覆を有さない裸線と、
を備えるキャップ。
【請求項2】
請求項1に記載のキャップにおいて、
前記保持部材は複数の前記キャッピング部材を前記当接及び離間する方向と交差する一方向に並べた状態で保持し、
前記一方向の並びにおいて隣り合う前記キャッピング部材にそれぞれ設けられている前記第1電極端子同士が、前記裸線によって電気的に接続されていることを特徴とするキャップ。
【請求項3】
請求項2に記載のキャップにおいて、
前記第2電極端子と前記複数のキャッピング部材のそれぞれの前記第1電極端子とは、一本の前記裸線で電気的に接続されていることを特徴とするキャップ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載のキャップにおいて、
前記裸線は複数の線が撚られた可撓性を有する撚線であることを特徴とするキャップ。
【請求項5】
媒体に液体を噴射する液体噴射ヘッドと、
請求項1ないし4のいずれか一項に記載のキャップと、
を備えたことを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−143905(P2012−143905A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2360(P2011−2360)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】