説明

キャブオーバトラックの遮音構造

【課題】非チルト時のチルトステーの後端部が前タイヤとシャシフレームとの間に位置する場合であっても、エンジン音を充分に遮音することが可能な遮音構造の提供。
【解決手段】キャブ側カバー10は、キャブ1に対して固定され、シャシ側カバー13は、サイドメンバ2に対して固定される。チルトステー7の後端部7aは、キャブ1が非チルト状態のとき、前タイヤ5とサイドメンバ2との間に位置する。キャブ側カバー10はキャブ側前カバー部12を有し、シャシ側カバー13はシャシ側前カバー部15を有する。キャブ側前カバー部12は、キャブ1が非チルト状態のとき、チルトステー7よりも車幅方向外側に位置し、チルトステー7の後端部7aよりも前方へ延びる。シャシ側後カバー部13は、キャブ1が非チルト状態のとき、チルトステー7よりも車幅方向内側に位置し、キャブ側前カバー部12の前下端よりも前下方へ延びる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チルト可能なキャブを備えたキャブオーバトラックの遮音構造に関する。
【背景技術】
【0002】
キャブとシャシフレームとの隙間から車外に洩れるエンジン音を遮蔽する遮音構造として、特開2003−220900号公報には、キャブが非チルト状態のときにキャブとシャシフレームとの間で弾性変形するシール部材を設けた構造が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−220900号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エンジン音の遮蔽効果を奏する他の構造として、キャブに対してキャブ側カバーを固定し、シャシフレームに対してシャシ側カバーを固定し、非チルト時にこれらのカバーによってエンジンルームを車幅方向外側から覆う構造が考えられる。
【0005】
しかし、キャブ側カバーとシャシ側カバーとは、非チルト時に相互に干渉せず、且つ操舵時の前タイヤと干渉しないように配置する必要がある。このため、例えば、非チルト時のチルトステーの後端部が前タイヤとシャシフレームとの間に位置する場合、チルトステーの後端部の前方近傍領域を車幅方向外側から覆うことが難しく、十分な遮音性能が得られない可能性があった。
【0006】
そこで、本発明は、非チルト時のチルトステーの後端部が前タイヤとシャシフレームとの間に位置する場合であっても、エンジン音を充分に遮音することが可能な遮音構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の遮音構造は、シャシフレームと前タイヤとキャブとチルトステーとエンジンルームとキャブ側カバーとシャシ側カバーとを備える。シャシフレームは、車両前後方向に延び、前タイヤは、シャシフレームの車幅方向外側に配置される。キャブは、その前端側及び他端側がシャシフレームに支持される非チルト状態と前端側を中心として他端側が上方へ回転移動したチルト状態とに設定可能である。チルトステーは、キャブをチルト状態に保持する。エンジンルームは、シャシフレームの車幅方向内側で且つ非チルト状態のキャブの下方に配置される。キャブ側カバーは、キャブに対して固定され、シャシ側カバーは、シャシフレームに対して固定される。チルトステーの後端部は、キャブが非チルト状態のとき、前タイヤとシャシフレームとの間に位置する。
【0008】
キャブ側カバーはキャブ側前カバー部を有し、シャシ側カバーはシャシ側前カバー部を有する。キャブ側前カバー部は、キャブが非チルト状態のとき、チルトステーよりも車幅方向外側に位置し、チルトステーの後端部よりも前方へ延びる。シャシ側前カバー部は、キャブが非チルト状態のとき、チルトステーよりも車幅方向内側に位置し、キャブ側前カバー部の前下端よりも前下方へ延びる。
【0009】
上記構成では、キャブ非チルト時において、キャブ側前カバー部は、チルトステーの後端部の車幅方向外側の前方に位置するため、その下端縁を、サスペンション機構の作動によりキャブが最下方に位置する状態で前タイヤの操舵範囲と干渉しない高さに設定する必要がある。これに対し、シャシ側前カバー部は、チルトステーの車幅方向内側に位置する。このチルトステーは、前タイヤの操舵範囲と干渉しないようにその車幅方向の位置が設定されているため、シャシ側前カバー部は、前タイヤとの干渉を考慮する必要がない。すなわち、キャブ側前カバー部の下縁位置は、前タイヤの切れ角の制限を受けるが、シャシ側前カバー部の下縁位置は、前タイヤの切れ角の制限を受けない。
【0010】
従って、キャブ側前カバー部については、前タイヤの操舵範囲と干渉しない位置(高さ)まで下方に延ばすことができる。また、シャシ側前カバー部については、他の車載部品と干渉しない位置(前方位置及び高さ)まで前方に延ばすことができる。このため、非チルト時のチルトステーの後端部の前方近傍領域のうち、キャブ側前カバー部とシャシ側前カバー部とが車幅方向で重なる部分については、これら2つのカバー部によって二重に車幅方向から覆うことができ、キャブ側前カバー部の前下端よりも前下方の部分については、シャシ側前カバー部によって車幅方向外側から覆うことができる。すなわち、キャブ側前カバー部とシャシ側前カバー部とによって、非チルト時のチルトステーの後端部の前方近傍領域を車幅方向外側から覆うことができ、エンジン音を充分に遮音することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、非チルト時のチルトステーの後端部が前タイヤとシャシフレームとの間に位置する場合であっても、エンジン音を充分に遮音することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
図1は本実施形態の遮音構造を示す側面図、図2は図1のII−II矢視断面図、図3は図1の要部拡大図、図4はキャブ側カバーのみを取り付けた状態を示す側面図、図5は図4の平面図、図6はキャブ側カバーの側面図、図7はシャシ側カバーの側面図である。なお、図中において、FRは車両前方を、UPは車両上方を、INは車幅方向内側をそれぞれ示している。また、以下の説明において、前後方向は車両の前後方向を意味する。
【0014】
図1に示すように、キャブオーバトラックのキャブ1の前端部は、前後方向に延びるサイドメンバ(シャシフレーム)2に対し、チルト軸3を中心として回転自在に支持されている。また、サイドメンバ2には、キャブ1の後端部を下方から支持するキャブマウント4が固定されている。非チルト状態のキャブ1は、その前端部がチルト軸3に支持され、後端部がキャブマウント4に支持される。非チルト状態のキャブ1は、チルト軸3を中心として後端側が上方へ回転移動することにより、チルト状態に設定される。
【0015】
サイドメンバ2の車幅方向外側には操舵可能な前輪の前タイヤ5が配置され、前タイヤ5はサイドメンバ2に支持されている。また、サイドメンバ2の車幅方向内側で且つ非チルト状態のキャブ1の下方には、エンジンルーム6が区画されている。
【0016】
前タイヤ5の車幅方向内側の前方には、キャブ1をチルト状態に保持するチルトステー7が配置されている。チルトステー7は、上リンク8と下リンク9とを備える。上リンク8の一端部は、キャブ1に対して回転自在に連結され、下リンク9の一端部は、サイドメンバ2の車幅方向外側面に対して回転自在に連結される。上リンク8の他端部と下リンク9の他端部とは回転自在に連結されている。チルト時には、上リンク8及び下リンク9が起立して、キャブ1をチルト状態に保持する。キャブ1がチルト状態から非チルト状態へ移行すると、上リンク8及び下リンク9の他端部が後方へ移動する。すなわち、キャブ1が非チルト状態のとき(非チルト時)、上リンク8及び下リンク9の他端部がチルトステー7の後端部7aとなり、この後端部7aが前タイヤ5とサイドメンバ2との間に位置する。チルトステー7は、前タイヤ5の操舵範囲と干渉しないようにその車幅方向の位置が設定されている。
【0017】
図1〜図7に示すように、キャブ1の下端部のうち非チルト時(キャブ1が非チルト状態のとき)に前タイヤ5の車幅方向内側上方に位置する部分には、キャブ側カバー10が取り付けられている。
【0018】
キャブ側カバー10は、非チルト時に、前タイヤ5の車幅方向内側で且つチルトステー7の車幅方向外側の領域に前後方向に沿って配置されている。キャブ側カバー10は、キャブ側後カバー部11と、このキャブ側後カバー部11から前方へ一体的に延びるキャブ側前カバー部12とを有する。キャブ側後カバー部11は、前タイヤ5の中央部及び後部の車幅方向内側に、キャブ側前カバー部12は、前タイヤ5の前部の車幅方向内側にそれぞれ配置される。キャブ側後カバー部11は、キャブ1の下端部から車幅方向内側下方へ延びる。キャブ側前カバー部12は、キャブ1の下端部からチルトステー7の後端部7aの車幅方向外側の前方に延びる。
【0019】
サイドメンバ2のうち前タイヤ5の車幅方向内側の車幅方向外面には、シャシ側カバー13が取り付けられている。
【0020】
シャシ側カバー13は、シャシ側後カバー部14と、このシャシ側後カバー部14から前方へ一体的に延びるシャシ側前カバー部15とを有する。シャシ側後カバー部14は、前タイヤ5の中央部及び後部の車幅方向内側に、シャシ側前カバー部15は、前タイヤ5の前部の車幅方向内側にそれぞれ配置される。シャシ側後カバー部14は、サイドメンバ2の車幅方向外側面の上端から上方へ延びた後、チルトステー7の上方で車幅方向外側の斜め上方に曲折して延びる。シャシ側前カバー部15は、非チルト時に、チルトステー7の車幅方向内側でキャブ側前カバー部12の前下端よりも前下方へ延びる。シャシ側前カバー部15の下端縁は、サイドメンバ2の車幅方向外側面の上端縁よりも下方に位置する。
【0021】
シャシ側カバー13の上端縁は、車幅方向から視た状態で、非チルト時のキャブ側カバー10の下端縁よりも上方に位置する。すなわち、非チルト時に車幅方向外側から視で前タイヤ5の車幅方向内側に形成されるキャブ1とサイドメンバ2との隙間のほぼ全域は、キャブ側カバー10とシャシ側カバー13とによって覆われる。
【0022】
また、キャブ側カバー10(キャブ側後カバー部11及びキャブ側前カバー部12)は、チルトステー7よりも車幅方向外側に配置される。このため、キャブ側カバー10の下端縁は、サスペンション機構の作動によりキャブ1が最下方に位置する状態で前タイヤ5の操舵範囲と干渉しない高さに設定されている。
【0023】
これに対し、シャシ側後カバー部14のうちサイドメンバ2の車幅方向外側面の上端縁から上方に延びる部分とシャシ側前カバー部15とは、チルトステー7よりも車幅方向内側に配置される。このチルトステー7は、前タイヤ5の操舵範囲と干渉しないようにその車幅方向の位置が設定されている。このため、シャシ側後カバー部14については、サイドメンバ2の車幅方向外側面の上端縁から上方に延びる部分の上端縁を前タイヤ5と干渉しない高さまで延ばせばよい。また、シャシ側前カバー部15については、前タイヤ5との干渉を考慮する必要がない。すなわち、キャブ側前カバー部12の下縁位置は、前タイヤ5の切れ角の制限を受けるが、シャシ側前カバー部15の下縁位置は、前タイヤ5の切れ角の制限を受けない。
【0024】
従って、キャブ側前カバー部12については、その下端縁を、前タイヤ5の操舵範囲と干渉しない位置(高さ)まで延ばすことができる。また、シャシ側前カバー部15については、他の車載部品と干渉しない位置(前方位置及び高さ)まで前方に延ばすことができる。このため、非チルト時のチルトステー7の後端部7aの前方近傍領域のうち、キャブ側前カバー部12とシャシ側前カバー部15とが車幅方向で重なる部分については、これら2つのカバー部12,15によって二重に車幅方向から覆うことができ、キャブ側前カバー部12の前下端よりも前下方の部分については、シャシ側前カバー部15によって車幅方向外側から覆うことができる。すなわち、キャブ側前カバー部12とシャシ側前カバー部15とによって、非チルト時のチルトステー7の後端部7aの前方近傍領域を車幅方向外側から覆うことができ、エンジン音を充分に遮音することができる。
【0025】
なお、上述の実施形態は本発明の一例である。このため、本発明は上述の実施形態に限定されることはなく、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、上述の実施形態以外であっても種々の変更が可能であることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、チルト可能なキャブを備えたキャブオーバトラックの遮音構造に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本実施形態の遮音構造を示す側面図である。
【図2】図1のII−II矢視断面図である。
【図3】図1の要部拡大図である。
【図4】キャブ側カバーのみを取り付けた状態を示す側面図である。
【図5】図4の平面図である。
【図6】キャブ側カバーの側面図である。
【図7】シャシ側カバーの側面図である。
【符号の説明】
【0028】
1:キャブ
2:サイドメンバ(シャシフレーム)
3:チルト軸
4:キャブマウント
5:前タイヤ
6:エンジンルーム
7:チルトステー
7a:チルトステーの後端部
10:キャブ側カバー
11:キャブ側後カバー部
12:キャブ側前カバー部
13:シャシ側カバー
14:シャシ側後カバー部
15:シャシ側前カバー部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向に延びるシャシフレームと、
前記シャシフレームの車幅方向外側に配置される前タイヤと、
前端側及び他端側が前記シャシフレームに支持される非チルト状態と前記前端側を中心として前記他端側が上方へ回転移動したチルト状態とに設定可能なキャブと、
前記キャブを前記チルト状態に保持するチルトステーと、
前記シャシフレームの車幅方向内側で且つ前記非チルト状態の前記キャブの下方に配置されるエンジンルームと、
前記キャブに対して固定されるキャブ側カバーと、
前記シャシフレームに対して固定されるシャシ側カバーと、を備え、
前記チルトステーの後端部は、前記キャブが前記非チルト状態のとき、前記前タイヤと前記シャシフレームとの間に位置し、
前記キャブ側カバーは、前記キャブが前記非チルト状態のとき、前記チルトステーよりも車幅方向外側に位置し、前記チルトステーの後端部よりも前方へ延びるキャブ側前カバー部を有し、
前記シャシ側カバーは、前記キャブが前記非チルト状態のとき、前記チルトステーよりも車幅方向内側に位置し、前記キャブ側前カバー部の前下端よりも前下方へ延びるシャシ側前カバー部を有する
ことを特徴とするキャブオーバトラックの遮音構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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