説明

キャブ補強構造および作業機械用キャブ

【課題】例えば、支柱部材と中空状の梁部材との間に設けられるガセットの梁部材へのめり込みを防止することのできるキャブ補強構造および作業機械用キャブを提供する。
【解決手段】右リアピラー9と、この右リアピラー9に接合される中空状の後横梁部材15との交わりの角部にガセット22を設けてキャブ1を補強するキャブ補強構造において、ガセット22側からの荷重を受け止めるガセット受け部材31を、ガセット22の後横梁部材側端部22dに対応させて後横梁部材15の内部に設ける。ガセット受け部材31は、ガセット22の後横梁部材側端部22dに対応する位置において後横梁部材15の内部を塞ぐ板状部材よりなるものとする。かかるキャブ補強構造を具備するキャブ1は、ガセット22による補強効果を十二分に得てその強度が向上され、作業機械用のキャブとして好適に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばブルドーザ等の作業機械に搭載されるキャブをガセットを用いて補強するキャブ補強構造および作業機械用キャブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばブルドーザに搭載されるキャブは、フロアフレーム上にキャブ本体が一体的に設けられて構成され、キャブ本体は、フロアフレームの前端部において立設される左フロントピラーおよび右フロントピラーと、同フロアフレームの前後方向中間部において立設される左センタピラーおよび右センタピラーと、同フロアフレームの後端部において立設される左リアピラーおよび右リアピラーとを備え、これらピラーの上端部が、当該キャブ本体の頂部位置において縦横斜めに配される所要の梁部材によって結合されて構成されている。ここで、各ピラー(支柱部材)および各梁部材は、断面四角筒状のパイプ材で構成されている。
【0003】
図14(a)に示されるように、キャブ本体101において、左リアピラー102および右リアピラー103と、これらリアピラー102,103の各上端部を繋ぐ梁部材104(以下、「後横梁部材104」という。)とが略直角に交わる二つの角部には、それぞれガセット105,106が接合される一方、左リアピラー102および右リアピラー103と、フロアフレーム107とが略直角に交わる二つの角部にも、それぞれガセット108,109が接合されている。ここで、各ガセット105,106,108,109は、比較的厚肉の板状部材で構成されている。
【0004】
例えば、キャブ本体101の頂部に左側からある側方荷重Fが作用した場合に、左リアピラー102が右側に傾くと同時に右リアピラー103が後横梁部材104により押されて右側に傾き、後横梁部材104と右リアピラー103との成す角度が狭まるような変形が生じるが、このときガセット106がその変形を抑える補強部材として機能する。なお、ガセットを用いてキャブを補強するといったことは、例えば特許文献1にても開示されているように、広く一般的に行われている。
【0005】
ところで、キャブ本体101の頂部に側方荷重Fが作用したときには、結果としてガセット106側から後横梁部材104に対しその後横梁部材104を押し潰すような荷重が作用し、この荷重は、後横梁部材104における、ガセット106の後横梁部材側端部106aに対応する部位において集中する。ガセット106を用いた従来のキャブ補強構造では、その集中荷重をパイプ材で構成される後横梁部材104で受け止めるようにされているため、図14(b)に示されるように、ガセット106が後横梁部材104にめり込んでしまい、ガセット106による補強効果を十分に得ることができないという問題点がある。なお、このような側方荷重Fの作用に伴うガセット106のめり込み現象と同様のめり込み現象は、右リアピラー103とガセット106との間でも、また左リアピラー102とガセット108との間でも起こり得るものである。また、同様のめり込み現象は、フロアフレーム107の上縁外周部がパイプ材で構成されている場合、このパイプ材とガセット108との間でも起こり得るものである。
【0006】
そこで、ガセットの接合相手である中空状の支柱部材や中空状の梁部材を補強することが考えられる。このような補強に関する先行技術として、例えば特許文献2にて提案されているものがある。この特許文献2に係る技術では、図14(c)に示されるように、互いに接合されたインナパネル111とアウタパネル112とにより形成される中空状ピラー部110の内部空間を分割するように挿設される断面コの字形状の縦補強材113を備えるものとされている。
【0007】
しかしながら、前記特許文献2に係る技術において中空状ピラー部110の補強部材として用いられている縦補強材113は、中空状ピラー部110に作用する曲げ荷重に対しての補強部材としては有効に機能するものの、中空状ピラー部110に対しその中空状ピラー部110を局所的に押し潰すような荷重を受け止めることのできる補強部材としては機能しない。このため、上述のガセットを用いたキャブ補強構造に、特許文献2に係る技術を適用したとしても、前記問題点を解消するには至らない。
【0008】
【特許文献1】特開2004−338686号公報
【特許文献2】特開平11−166247号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような問題点等に鑑みてなされたもので、第1に、支柱部材と中空状の梁部材との間に設けられるガセットの梁部材へのめり込みを防止することのできるキャブ補強構造および作業機械用キャブを提供することを目的とし、第2に、中空状の支柱部材と梁部材との間に設けられるガセットの支柱部材へのめり込みを防止することのできるキャブ補強構造および作業機械用キャブを提供することを目的とし、第3に、フロアフレームと中空状の支柱部材との間に設けられるガセットの支柱部材へのめり込みを防止することのできるキャブ補強構造および作業機械用キャブを提供することを目的とし、第4に、フロアフレームを構成するパイプ材と支柱部材との間に設けられるガセットのパイプ材へのめり込みを防止することのできるキャブ補強構造および作業機械用キャブを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記第1の目的を達成するために、本発明によるキャブ補強構造は、
支柱部材と、この支柱部材に接合される中空状の梁部材との交わりの角部にガセットを設けてキャブを補強するキャブ補強構造において、
前記梁部材の内部に前記ガセットに対応するように設けられ、そのガセット側からの荷重を受け止めるガセット受け部材を備えることを特徴とするものである(第1発明)。
【0011】
第1発明において、前記ガセット受け部材は、前記ガセットの端部に対応する位置において前記梁部材の内部を塞ぐ板状部材よりなるものであるのが好ましい(第2発明)。
【0012】
次に、前記第2の目的を達成するために、本発明によるキャブ補強構造は、
中空状の支柱部材と、この支柱部材に接合される梁部材との交わりの角部にガセットを設けてキャブを補強するキャブ補強構造において、
前記支柱部材の内部に前記ガセットに対応するように設けられ、そのガセット側からの荷重を受け止めるガセット受け部材を備えることを特徴とするものである(第3発明)。
【0013】
また、前記第3の目的を達成するために、本発明によるキャブ補強構造は、
フロアフレームと、このフロアフレームに立設される中空状の支柱部材との交わりの角部にガセットを設けてキャブを補強するキャブ補強構造において、
前記支柱部材の内部に前記ガセットに対応するように設けられ、そのガセット側からの荷重を受け止めるガセット受け部材を備えることを特徴とするものである(第4発明)。
【0014】
第3発明または第4発明において、前記ガセット受け部材は、前記ガセットの端部に対応する位置において前記支柱部材の内部を塞ぐ板状部材よりなるものであるのが好ましい(第5発明)。
【0015】
また、前記第4の目的を達成するために、本発明によるキャブ補強構造は、
フロアフレームを構成するパイプ材と、このパイプ材に立設される支柱部材との交わりの角部にガセットを設けてキャブを補強するキャブ補強構造において、
前記パイプ材の内部に前記ガセットに対応するように設けられ、そのガセット側からの荷重を受け止めるガセット受け部材を備えることを特徴とするものである(第6発明)。
【0016】
第6発明において、前記ガセット受け部材は、前記ガセットの端部に対応する位置において前記パイプ材の内部を塞ぐ板状部材よりなるものであるのが好ましい(第7発明)。
【0017】
次に、第8発明による作業機械用キャブは、
第1発明〜第7発明のいずれかの発明に係るキャブ補強構造を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
第1発明によれば、ガセット側から梁部材に対しその梁部材を押し潰すような荷重が作用したときに、この荷重がガセット受け部材によって受け止められるので、ガセットの梁部材へのめり込みを防止することができる。
【0019】
第3発明および第4発明によれば、ガセット側から支柱部材に対しその支柱部材を押し潰すような荷重が作用したときに、この荷重がガセット受け部材によって受け止められるので、ガセットの支柱部材へのめり込みを防止することができる。
【0020】
第6発明によれば、ガセット側からフロアフレームを構成するパイプ材に対しそのパイプ材を押し潰すような荷重が作用したときに、この荷重がガセット受け部材によって受け止められるので、ガセットのパイプ材へのめり込みを防止することができる。
【0021】
ところで、キャブに対し側方荷重が作用したときにガセット側から梁部材、支柱部材またはフロアフレームを構成するパイプ材(以下、「梁部材等」という。)に対しその梁部材等を押し潰すように作用する荷重は、梁部材等における、ガセットの端部に対応する部位において集中する。そこで、ガセット受け部材は、ガセットの端部に対応する位置において梁部材等の内部を塞ぐ板状部材よりなるものとすることにより、その集中荷重がガセット受け部材によって確実に受け止められ、ガセットの梁部材等へのめり込みを確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、本発明によるキャブ補強構造および作業機械用キャブの具体的な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下に述べる実施の形態は、ブルドーザに搭載されるキャブに本発明が適用されたものであるが、勿論これに限定されるものではなく、油圧ショベルやホイールローダ等の作業機械に搭載されるキャブに対しても本発明を適用することができる。
【0023】
〔第1の実施形態〕
図1には、本発明の第1の実施形態に係るキャブ補強構造を具備するキャブの背面側を左下方より見た斜視図が示されている。
【0024】
図1に示されるキャブ1は、板金箱型構造のフロアフレーム2上にキャブ本体3が一体的に設けられて構成され、上方から見てその前部が先細りの台形状でその後部が矩形状を呈し、全体として截頭六角錐状に形成されている。
【0025】
キャブ本体3は、フロアフレーム2の前端部において立設される左フロントピラー4および右フロントピラー5と、同フロアフレーム2の前後方向中間部において立設される左センタピラー6および右センタピラー7と、同フロアフレーム2の後端部において立設される左リアピラー8および右リアピラー9とを備え、これらピラー4〜9の上端部が、当該キャブ本体3の頂部位置において縦横斜めに配される所要の梁部材11,12;13,14,15;16,17によって結合されて構成されている。ここで、各ピラー(支柱部材)4〜9および各梁部材11〜17は、断面四角筒状のパイプ材で構成されている。
【0026】
図2に示されるように、キャブ本体3において、左リアピラー8および右リアピラー9と、これらリアピラー8,9の各上端部を繋ぐ梁部材15(以下、「後横梁部材15」という。)とが略直角に交わる二つの角部には、それぞれガセット21,22が接合される一方、左リアピラー8および右リアピラー9と、フロアフレーム2とが略直角に交わる二つの角部にも、それぞれガセット23,24が接合されている。これらガセット21〜24は、基本的に同一形状のものであり、いずれのものも比較的厚肉の板状部材で構成されている。代表として、右リアピラー9と後横梁部材15との間のガセット22について説明すると、ガセット22は、図3に示されるように、互いに略直角を成す二辺22a,22bによって形成される角部22cと、角部22cに一体的に設けられ、右リアピラー9から離れる方向に尖った形状の後横梁部材側端部22dと、角部22cに一体的に設けられ、後横梁部材15から離れる方向に尖った形状の右リアピラー側端部22eとを有してなり、後横梁部材15側の辺22aの縁部が、図4(a)に示されるように、後横梁部材15における下側壁板15aの前後方向中央部位に溶接により固着されるとともに、右リアピラー9側の辺22bの縁部が、図4(c)に示されるように、右リアピラー9における左側壁板9aの前後方向中央部位に溶接により固着されている。
【0027】
図3に示されるように、後横梁部材15の内部には、ガセット22側からの荷重を受け止めるガセット受け部材31が設けられている。このガセット受け部材31は、ガセット22の後横梁部材側端部22dに対応する位置において後横梁部材15の内部を塞ぐ板状部材よりなり、図4(a)(b)に示されるように、後横梁部材15の前側壁板15bに設けられた挿入孔41から挿入され、前側壁板15bから外側に突き出た部分が溶接により前側壁板15bに接合されることで後横梁部材15に固着されている。なお、このガセット受け部材31と同様のガセット受け部材31′が、ガセット21の後横梁部材側端部21dに対応させて後横梁部材15の内部に設けられている(図2参照)。
【0028】
また、図3に示されるように、右リアピラー9の内部には、ガセット22側からの荷重を受け止めるガセット受け部材32が設けられている。このガセット受け部材32は、ガセット22の右リアピラー側端部22eに対応する位置において右リアピラー9の内部を塞ぐ板状部材よりなり、図4(c)(d)に示されるように、右リアピラー9の前側壁板9bに設けられた挿入孔42から挿入され、前側壁板9bから外側に突き出た部分が溶接により前側壁板9bに接合されることで右リアピラー9に固着されている。なお、このガセット受け部材32と同様のガセット受け部材32′が、ガセット21の左リアピラー側端部21eに対応させて左リアピラー8の内部に設けられている(図2参照)。
【0029】
さらに、図5に示されるように、右リアピラー9の内部には、ガセット24側からの荷重を受け止めるガセット受け部材33が設けられている。このガセット受け部材33は、ガセット24の右リアピラー側端部24eに対応する位置において右リアピラー9の内部を塞ぐ板状部材よりなり、右リアピラー9の前側壁板9bに設けられた挿入孔43から挿入され、前側壁板9bから外側に突き出た部分が溶接により前側壁板9bに接合されることで右リアピラー9に固着されている。なお、このガセット受け部材33と同様のガセット受け部材33′が、ガセット23の左リアピラー側端部23eに対応させて左リアピラー8の内部に設けられている(図2参照)。
【0030】
以上に述べたように構成されるキャブ1において、図2に示されるようにキャブ本体3の頂部に左側からある側方荷重Fが作用した場合、左リアピラー8が右側に傾くと同時に右リアピラー9が後横梁部材15により押されて右側に傾き、後横梁部材15と右リアピラー9との成す角度が狭まるような変形と、フロアフレーム2と左リアピラー8との成す角度が狭まるような変形とが生じるが、このとき主としてガセット22,23がその変形を抑える補強部材として機能する。これとは逆に、キャブ本体3の頂部に右側からある側方荷重F′が作用した場合、右リアピラー9が左側に傾くと同時に左リアピラー8が後横梁部材15により押されて左側に傾き、後横梁部材15と左リアピラー8との成す角度が狭まるような変形と、フロアフレーム2と右リアピラー9との成す角度が狭まるような変形とが生じるが、このとき主としてガセット21,24がその変形を抑える補強部材として機能する。
【0031】
キャブ本体3の頂部に左側から側方荷重Fが作用したときには、結果として、図2に示されるように、(a)ガセット22側から後横梁部材15に対しその後横梁部材15を押し潰すような荷重fと、(b)ガセット22側から右リアピラー9に対しその右リアピラー9を押し潰すような荷重fと、(c)ガセット23側から左リアピラー8に対しその左リアピラー8を押し潰すような荷重fとがそれぞれ作用し、荷重fは、後横梁部材15におけるガセット22の後横梁部材側端部22dに対応する部位において集中し、荷重fは、右リアピラー9におけるガセット22の右リアピラー側端部22eに対応する部位において集中し、荷重fは、左リアピラー8におけるガセット23の左リアピラー側端部23eに対応する部位において集中する。
【0032】
これとは逆に、キャブ本体3の頂部に右側から側方荷重F′が作用したときには、結果として、図2に示されるように、(d)ガセット21側から後横梁部材15に対しその後横梁部材15を押し潰すような荷重fと、(e)ガセット21側から左リアピラー8に対しその左リアピラー8を押し潰すような荷重fと、(f)ガセット24側から右リアピラー9に対しその右リアピラー9を押し潰すような荷重fとがそれぞれ作用し、荷重fは、後横梁部材15におけるガセット21の後横梁部材側端部21dに対応する部位において集中し、荷重fは、左リアピラー8におけるガセット21の左リアピラー側端部21eに対応する部位において集中し、荷重fは、右リアピラー9におけるガセット24の右リアピラー側端部24eに対応する部位において集中する。
【0033】
本実施形態のキャブ補強構造によれば、側方荷重Fの作用に伴う集中荷重fはガセット受け部材31によって、集中荷重fはガセット受け部材32によって、集中荷重fはガセット受け部材33′によってそれぞれ確実に受け止められるので、ガセット22の横梁部材15へのめり込み、ガセット22の右リアピラー9へのめり込み、およびガセット23の左リアピラー8へのめり込みをそれぞれ確実に防止することができる。また、側方荷重F′の作用に伴う集中荷重fはガセット受け部材31′によって、集中荷重fはガセット受け部材32′によって、集中荷重fはガセット受け部材33によってそれぞれ確実に受け止められるので、ガセット21の横梁部材15へのめり込み、ガセット21の左リアピラー8へのめり込み、およびガセット24の右リアピラー9へのめり込みをそれぞれ確実に防止することができる。したがって、左右いずれの方向から側方荷重F,F′が作用しても、ガセット21〜24による補強効果を十二分に得ることができ、キャブ1の強度をガセット21〜24によって確実に向上させることができる。
【0034】
〔第1の実施形態の変形例1,2〕
図6には、第1の実施形態の変形例1の説明図(a)および変形例2の説明図(b)がそれぞれ示されている。
【0035】
図6(a)に示される変形例1において、ガセット受け部材31は、ガセット22の右リアピラー9側の辺22bと、ガセット22の後横梁部材側先端22fとの間の略中央位置に対応させて配置されている。一方、同図(b)に示される変形例2において、ガセット受け部材31は、ガセット22の後横梁部材側先端22fの近傍位置に対応させて配置されている。ガセット受け部材31は、ガセット22の後横梁部材側端部22dに対応する位置に配置するのが、ガセット22の後横梁部材15へのめり込みを防止する上で最も効果的であるが、本変形例1,2のような配置にても、ガセット22の後横梁部材15へのめり込みをある一定以上防止することができる。なお、その他のガセット受け部材31′,32,32′,33,33′についても、変形例1,2の趣旨を適用することができるのは言うまでもない。
【0036】
以下において、本発明のキャブ補強構造のその他の実施形態として第3の実施形態および第4の実施形態を順次に説明するが、以下に述べる第3の実施形態および第4の実施形態おいては、後横梁部材15の内部に設けられてガセット22からの荷重を受け止めるガセット受け部材を中心に本発明のキャブ補強構造の実施の形態を説明することとする。なお、以下の説明の主旨は、ガセット22に対応させて後横梁部材15の内部に設けられるガセット受け部材以外のガセット受け部材についても同様に適用することができるものである。
【0037】
〔第2の実施形態〕
図7には、本発明の第2の実施形態に係るキャブ補強構造の説明図が示されている。なお、本実施形態において、前記第1の実施形態と同一または同様のものについては図に同一符号を付すに留めてその詳細な説明を省略することとし、以下においては前記第1の実施形態と異なる点を中心に説明することとする(後述する第3の実施形態および第4の実施形態についても同様)。
【0038】
本実施形態においては、第1の実施形態におけるガセット受け部材31に代えて、図7に示されるようなガセット受け部材51が用いられている。図7において、後横梁部材15の内部に設けられてガセット22側からの荷重を受け止めるガセット受け部材51は、ガセット22の後横梁部材側端部22dに対応する位置で、後横梁部材15の長手方向に直交するように配され、ガセット22が溶接接合される後横梁部材15の下側壁板15aの裏面に接触される一方で、その下側壁板15aに対向する上側壁板15cとの間に所定の隙間Sを存する板状部材よりなるものである。このガセット受け部材51においては、後横梁部材15の前側壁板15bに設けられた挿入孔44から挿入され、前側壁板15bから外側に突き出た部分が溶接により前側壁板15bに接合されることで後横梁部材15に固着されている。本実施形態においては、ガセット22側から後横梁部材15に対しその後横梁部材15を押し潰すような荷重が作用したときに、隙間Sが無くなるまではガセット22の後横梁部材15へのめり込みを許容し、隙間Sが無くなってガセット受け部材51が上側壁板15cに当接された後にはガセット22の後横梁部材15へのめり込みを止めるようにされている。ここで、隙間Sは、ガセット受け部材51が上側壁板15cに当接されたときに、DLV(deflection−limiting−volume:たわみ限界領域)が確保されるという条件を満足する範囲で適宜に設定される。
【0039】
〔第3の実施形態〕
図8には、本発明の第3の実施形態に係るキャブ補強構造の説明図が示されている。
【0040】
本実施形態においては、第1の実施形態におけるガセット22およびガセット受け部材31に代えて、図8に示されるようなガセット受け部材付きガセット55が用いられている。このガセット受け部材付きガセット55は、第1の実施形態におけるガセット22と同形状のガセット22Aと、後横梁部材15の内部に設けられてガセット22A側からの荷重を受け止めるガセット受け部材56とが一体形成されてなるものである。ここで、ガセット受け部材56は、ガセット22Aの後横梁部材側端部22dに対応する位置で、後横梁部材15の長手方向に沿うように配され、ガセット22Aが溶接接合される後横梁部材15の下側壁板15aを貫通する一方で、その下側壁板15aに対向する上側壁板15cに当接する板状部材よりなるものである。本実施形態によれば、ガセット22A側から後横梁部材15に対しその後横梁部材15を押し潰すような荷重が作用したときに、この荷重がガセット受け部材56によって確実に受け止められるので、ガセット22Aの横梁部材15へのめり込みを確実に防止することができる。
【0041】
〔第3の実施形態の変形例〕
図9には、第3の実施形態の変形例の説明図が示されている。
【0042】
第3の実施形態におけるガセット受け部材付きガセット55においては、ガセット受け部材56が後横梁部材15の下側壁板15aのみを貫通するようにされているが、本変形例におけるガセット受け部材付きガセット55Aおいては、ガセット受け部材56Aが後横梁部材15の下側壁板15aおよび上側壁板15cの両方を貫通するようにされている。なお、ガセット受け部材56Aにおいて、後横梁部材15の上側壁板15cから外側に突き出た部分は溶接によりその上側壁板15cに接合されている。本変形例によっても、第3の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0043】
〔第4の実施形態〕
図10には、第4の実施形態に係るキャブ補強構造の説明図が示されている。
【0044】
本実施形態においては、第1の実施形態におけるガセット受け部材31に代えて、図10に示されるようなガセット受け部材61が用いられている。図10において、後横梁部材15の内部に設けられてガセット22側からの荷重を受け止めるガセット受け部材61は、ガセット22の右リアピラー9側の辺22b寄りの位置と、ガセット22の後横梁部材側先端22fの近傍位置との間の区間に対応させて配され、後横梁部材15の内部にぴったりと嵌り込むパイプ状部材よりなるものである。このガセット受け部材61においては、右リアピラー9側の端面が隅肉溶接によって後横梁部材15に接合されることで、またその側面がプラグ溶接によって後横梁部材15に接合されることで、後横梁部材15に固着されている。本実施形態によれば、ガセット22側から後横梁部材15に対しその後横梁部材15を押し潰すような荷重が作用したときに、この荷重がガセット受け部材61によって確実に受け止められるので、ガセット22の横梁部材15へのめり込みを確実に防止することができる。
【0045】
〔第5の実施形態〕
図11には、本発明の第5の実施形態に係るキャブ補強構造を具備するキャブの背面図が示されている。なお、本実施形態において、前記第1の実施形態と同一または同様のものについては図に同一符号を付すに留めてその詳細な説明を省略することとし、以下においては前記第1の実施形態と異なる点を中心に説明することとする。
【0046】
本実施形態に係るキャブ1Aにおいて、フロアフレーム2Aは、上縁外周部がパイプ材よりなる左右の縦部材(図示省略)および後横部材65で構成され、その他の部分が前記第1の実施形態におけるフロアフレーム2と同様に板金箱型構造とされている。そして、後横部材65の左側端部および右側端部にそれぞれ左リアピラー8および右リアピラー9が立設され、左リアピラー8および右リアピラー9と、後横部材65とが略直角に交わる二つの角部にそれぞれガセット23およびガセット24が接合されている。
【0047】
後横部材65の内部には、ガセット24側からの荷重を受け止めるガセット受け部材34が設けられている。このガセット受け部材34は、ガセット24の後横部材側端部24dに対応する位置において後横部材65の内部を塞ぐ板状部材よりなり、図12(a)(b)に示されるように、後横部材65の下側壁板65aに設けられた挿入孔66から挿入され、下側壁板65aから外側に突き出た部分が溶接により下側壁板65aに接合されることで後横部材65に固着されている。なお、このガセット受け部材34と同様のガセット受け部材34′が、ガセット23の後横部材側端部23dに対応させて後横部材65の内部に設けられている(図11参照)。
【0048】
本実施形態のキャブ1Aにおいて、図11に示されるようにキャブ本体3の頂部に左側からある側方荷重Fが作用した場合、左リアピラー8が右側に傾くと同時に右リアピラー9が後横梁部材15により押されて右側に傾き、後横梁部材15と右リアピラー9との成す角度が狭まるような変形と、フロアフレーム2Aにおける後横部材65と左リアピラー8との成す角度が狭まるような変形とが生じるが、このとき主としてガセット22,23がその変形を抑える補強部材として機能する。これとは逆に、キャブ本体3の頂部に右側からある側方荷重F′が作用した場合、右リアピラー9が左側に傾くと同時に左リアピラー8が後横梁部材15により押されて左側に傾き、後横梁部材15と左リアピラー8との成す角度が狭まるような変形と、フロアフレーム2Aにおける後横部材65と右リアピラー9との成す角度が狭まるような変形とが生じるが、このとき主としてガセット21,24がその変形を抑える補強部材として機能する。
【0049】
キャブ本体3の頂部に左側から側方荷重Fが作用したときには、結果として、図11に示されるように、(a)ガセット22側から後横梁部材15に対しその後横梁部材15を押し潰すような荷重fと、(b)ガセット22側から右リアピラー9に対しその右リアピラー9を押し潰すような荷重fと、(c)ガセット23側から左リアピラー8に対しその左リアピラー8を押し潰すような荷重fと、(d)ガセット23側から後横部材65に対しその後横部材65を押し潰すような荷重fとがそれぞれ作用し、荷重fは、後横梁部材15におけるガセット22の後横梁部材側端部22dに対応する部位において集中し、荷重fは、右リアピラー9におけるガセット22の右リアピラー側端部22eに対応する部位において集中し、荷重fは、左リアピラー8におけるガセット23の左リアピラー側端部23eに対応する部位において集中し、荷重fは、後横部材65におけるガセット23の後横部材側端部23dに対応する部位において集中する。
【0050】
これとは逆に、キャブ本体3の頂部に右側から側方荷重F′が作用したときには、結果として、図11に示されるように、(e)ガセット21側から後横梁部材15に対しその後横梁部材15を押し潰すような荷重fと、(f)ガセット21側から左リアピラー8に対しその左リアピラー8を押し潰すような荷重fと、(g)ガセット24側から右リアピラー9に対しその右リアピラー9を押し潰すような荷重fと、(h)ガセット24側から後横部材65に対しその後横部材65にを押し潰すような荷重fとがそれぞれ作用し、荷重fは、後横梁部材15におけるガセット21の後横梁部材側端部21dに対応する部位において集中し、荷重fは、左リアピラー8におけるガセット21の左リアピラー側端部21eに対応する部位において集中し、荷重fは、右リアピラー9におけるガセット24の右リアピラー側端部24eに対応する部位において集中し、荷重fは、後横部材65におけるガセット24の後横部材側端部24dに対応する部位において集中する。
【0051】
本実施形態のキャブ補強構造によれば、側方荷重Fの作用に伴う集中荷重fはガセット受け部材31によって、集中荷重fはガセット受け部材32によって、集中荷重fはガセット受け部材33′によって、集中荷重fはガセット受け部材34′によってそれぞれ確実に受け止められるので、ガセット22の横梁部材15へのめり込み、ガセット22の右リアピラー9へのめり込み、ガセット23の左リアピラー8へのめり込み、およびガセット23の後横部材65へのめり込みをそれぞれ確実に防止することができる。また、側方荷重F′の作用に伴う集中荷重fはガセット受け部材31′によって、集中荷重fはガセット受け部材32′によって、集中荷重fはガセット受け部材33によって、集中荷重fはガセット受け部材34によってそれぞれ確実に受け止められるので、ガセット21の横梁部材15へのめり込み、ガセット21の左リアピラー8へのめり込み、ガセット24の右リアピラー9へのめり込み、およびガセット24の後横部材65へのめり込みをそれぞれ確実に防止することができる。したがって、左右いずれの方向から側方荷重F,F′が作用しても、ガセット21〜24による補強効果を十二分に得ることができ、キャブ1Aの強度をガセット21〜24によって確実に向上させることができる。
【0052】
前記各実施形態において、ガセット22(代表例として述べる)は比較的厚肉の板状部材で構成されているが、これに限定されるものではなく、図13(a)(b)に示されるような板金折曲構造のガセット22Bであってもよい。また、前記各実施形態においては、左右のリアピラー8,9、後横梁部材15および後横部材65がそれぞれ一体成形のパイプ材で構成されているが、これに限定されるものではなく、左右のリアピラー8,9、後横梁部材15および後横部材65を構成するパイプ材として、同図(c)に示されるような、二つのパイプ構成部片71,72を溶接接合により一体化してなるパイプ材を採用してもよい。代表例として、後横梁部材15がかかるパイプ材で構成されている場合を説明すると、二つのパイプ構成部片71,72のうち、一方のパイプ構成部片71に予めガセット受け部材31を溶接接合しておき、その後、他方のパイプ構成部片72を一方のパイプ構成部片71に溶接接合することにより、後横梁部材15の内部にガセット受け部材31が組み込まれる。
【0053】
また、前記各実施形態においては、リアピラー8,9と後横梁部材15との間のガセット21,22、およびリアピラー8,9とフロアフレーム2,2Aとの間のガセット23,24に対して本発明に係るガセット受け部材を適用した例を示したが、以下の(1)〜(8)の各ガセットに対しても本発明に係るガセット受け部材を適用することができるのは言うまでもない。
(1)センタピラー6,7と梁部材14との間のガセット
(2)センタピラー6,7とフロアフレーム2,2Aとの間のガセット
(3)フロントピラー4,5と梁部材13との間のガセット
(4)フロントピラー4,5とフロアフレーム2,2Aとの間のガセット
(5)リアピラー8,9と梁部材11,12との間のガセット
(6)センタピラー6,7と梁部材11,12との間のガセット
(7)センタピラー6,7と梁部材16,17との間のガセット
(8)フロントピラー4,5と梁部材16,17との間のガセット
【0054】
以上、本発明のキャブ補強構造およびその補強構造を具備する作業機械用キャブについて、複数の実施形態および変形例に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態および変形例に記載した構成に限定されるものではなく、各実施例および各変形例に記載した構成を適宜組み合わせる等、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るキャブ補強構造を具備するキャブの背面側を左下方より見た斜視図
【図2】第1の実施形態に係るキャブ補強構造を具備するキャブの背面図
【図3】図2のA部拡大一部破断図
【図4】図3のC−C線断面図(a)、(a)のE−E線断面図(b)、図3のD−D線断面図(c)および(c)のF−F線断面図(d)
【図5】図2のB部拡大一部破断図(a)、(a)のG−G線断面図(b)および(b)のH−H線断面図(c)
【図6】第1の実施形態の変形例1の説明図(a)および変形例2の説明図(b)
【図7】本発明の第2の実施形態に係るキャブ補強構造の説明図
【図8】本発明の第3の実施形態に係るキャブ補強構造の説明図
【図9】第3の実施形態の変形例の説明図
【図10】本発明の第4の実施形態に係るキャブ補強構造の説明図
【図11】第5の実施形態に係るキャブ補強構造を具備するキャブの背面図
【図12】図11のR部拡大一部破断図(a)および(a)のS−S線断面図(b)
【図13】ガセットの他の態様例を説明する図(a)(b)および後横梁部材の他の態様例を説明する図(c)
【図14】従来技術の説明図
【符号の説明】
【0056】
1,1A キャブ
2,2A フロアフレーム
3 キャブ本体
8 左リアピラー(支柱部材)
9 右リアピラー(支柱部材)
15 後横梁部材
21〜24 ガセット
22A,22B ガセット
31〜34,31′〜34′ ガセット受け部材
51,56,56A,61 ガセット受け部材
55,55A ガセット受け部材付きガセット
65 後横部材(フロアフレームを構成するパイプ材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支柱部材と、この支柱部材に接合される中空状の梁部材との交わりの角部にガセットを設けてキャブを補強するキャブ補強構造において、
前記梁部材の内部に前記ガセットに対応するように設けられ、そのガセット側からの荷重を受け止めるガセット受け部材を備えることを特徴とするキャブ補強構造。
【請求項2】
前記ガセット受け部材は、前記ガセットの端部に対応する位置において前記梁部材の内部を塞ぐ板状部材よりなるものである請求項1に記載のキャブ補強構造。
【請求項3】
中空状の支柱部材と、この支柱部材に接合される梁部材との交わりの角部にガセットを設けてキャブを補強するキャブ補強構造において、
前記支柱部材の内部に前記ガセットに対応するように設けられ、そのガセット側からの荷重を受け止めるガセット受け部材を備えることを特徴とするキャブ補強構造。
【請求項4】
フロアフレームと、このフロアフレームに立設される中空状の支柱部材との交わりの角部にガセットを設けてキャブを補強するキャブ補強構造において、
前記支柱部材の内部に前記ガセットに対応するように設けられ、そのガセット側からの荷重を受け止めるガセット受け部材を備えることを特徴とするキャブ補強構造。
【請求項5】
前記ガセット受け部材は、前記ガセットの端部に対応する位置において前記支柱部材の内部を塞ぐ板状部材よりなるものである請求項3または4に記載のキャブ補強構造。
【請求項6】
フロアフレームを構成するパイプ材と、このパイプ材に立設される支柱部材との交わりの角部にガセットを設けてキャブを補強するキャブ補強構造において、
前記パイプ材の内部に前記ガセットに対応するように設けられ、そのガセット側からの荷重を受け止めるガセット受け部材を備えることを特徴とするキャブ補強構造。
【請求項7】
前記ガセット受け部材は、前記ガセットの端部に対応する位置において前記パイプ材の内部を塞ぐ板状部材よりなるものである請求項6に記載のキャブ補強構造。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のキャブ補強構造を有することを特徴とする作業機械用キャブ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2008−238876(P2008−238876A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−79688(P2007−79688)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】