説明

キャリッジ制御装置、液体噴射装置、キャリッジ制御プログラム

【課題】 液体貯留部からキャリッジへ液体を供給する液体供給管が、熱可塑性を有し、キャリッジの往復動に追従して弾性変形する液体噴射装置において、高温環境に長時間放置等した後に常温に戻したときに液体噴射精度が低下してしまうことを防止する。
【解決手段】 往路方向XLの動負荷ZLを測定する(ステップS11)。復路方向XRの動負荷ZRを測定する(ステップS12)。往路方向XLの動負荷ZLと復路方向XRの動負荷ZRとの動負荷差が予め設定した動負荷差のしきい値Zdより大きいか否かを判定する(ステップS13)。往路方向XLの動負荷ZLと復路方向XRの動負荷ZRとの動負荷差が予め設定した動負荷差のしきい値Zdより大きい場合には(ステップS13でYes)、高温環境に長時間放置等することによる湾曲形状の曲げ癖がインクチューブ11に付いていると判定し、所定のエージング制御(ステップS14)を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被噴射材へ液体を噴射する液体噴射ヘッドを搭載したキャリッジが所定方向へ往復動可能に支持され、液体貯留部からキャリッジへ液体を供給する液体供給管が、熱可塑性を有し、キャリッジの往復動に追従して弾性変形する液体噴射装置におけるキャリッジの往復動制御に関する。
【背景技術】
【0002】
被噴射材へ液体を噴射する液体噴射ヘッドを搭載したキャリッジが所定方向へ往復動可能に支持され、キャリッジを往復動させながら液体噴射ヘッドから被噴射材へ液体を噴射する液体噴射装置の一例としては、いわゆるインクジェットプリンタが公知である(例えば、特許文献1を参照)。このようなインクジェットプリンタにおいては、インクが充填されたインクカートリッジがキャリッジに搭載されたオンキャリッジのインクジェットプリンタの他、キャリッジの往復動に追従して柔軟に弾性変形可能なインクチューブがU字状の湾曲姿勢で配設され、そのインクチューブを介して、プリンタ本体に配設されたインクカートリッジ等からキャリッジへインクが供給されるオフキャリッジのインクジェットプリンタが公知である(例えば、特許文献2を参照)。
【特許文献1】特開2006−255899号公報
【特許文献2】特開2006−231837号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
オフキャリッジのインクジェットプリンタ等に使用されるインクチューブは、キャリッジの往復動に追従して柔軟に弾性変形可能であることが必要であり、一般的には、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリスチレンなどの熱可塑性を有する汎用プラスチック等で形成されたものが使用される。一般に熱可塑性を有する素材は、加熱によって素材全体が軟化して成形可能な流動性を持つようになり、成形後に冷却することによって流動性を失い硬化する。また、再度加熱すれば再び軟化し、冷却すれば再び硬化する。つまり軟化と硬化が可逆反応である。
【0004】
このようなことから、オフキャリッジのインクジェットプリンタ等においては、プリンタを例えば室温60度前後の高温環境に長時間放置等した場合に、インクチューブは、成形可能な流動性を持つには至らないものの、U字状に湾曲させられた状態のまま常温時より多少軟化した状態となる。そして、その後に常温に戻すと、インクチューブは、U字状に湾曲させられた状態のまま硬化することになる。つまり、インクチューブに湾曲形状の曲げ癖が付いたような状態となる。
【0005】
それによって、キャリッジを往復動させる際の動負荷が増大するとともに、往路方向と復路方向との動負荷差がより大きくなってしまうという現象が生ずる。そのため、オフキャリッジのインクジェットプリンタ等においては、プリンタを高温環境に長時間放置等した後に常温に戻したときに、キャリッジの往復動作の精度が低下し、インクの噴射精度が低下してしまう虞があった。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑み成されたものであり、その課題は、液体貯留部からキャリッジへ液体を供給する液体供給管が、熱可塑性を有し、キャリッジの往復動に追従して弾性変形する液体噴射装置において、高温環境に長時間放置等した後に常温に戻したときに液体噴射精度が低下してしまうことを防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するため、本発明の第1の態様は、被噴射材へ液体を噴射する液体噴射ヘッドを搭載したキャリッジが所定方向へ往復動可能に支持され、液体貯留部から前記キャリッジへ液体を供給する液体供給管が、熱可塑性を有し、前記キャリッジの往復動に追従して弾性変形する液体噴射装置における前記キャリッジの往復動制御を実行するキャリッジ制御装置であって、所定のタイミングで前記キャリッジの動負荷を測定し、測定した動負荷に基づいて、前記液体噴射ヘッドからの液体噴射を伴わない前記キャリッジの往復動作を所定回数繰り返す制御を実行する、ことを特徴としたキャリッジ制御装置である。
【0008】
前述したように、熱可塑性を有する液体供給管は、当該液体噴射装置を高温環境に長時間放置等した後に常温に戻したような場合に、湾曲形状の曲げ癖が付いたような状態となる。それによって、当該液体噴射装置は、キャリッジを往復動させる際の動負荷が増大するとともに、往路方向と復路方向との動負荷差がより大きくなるという現象が生ずる。すなわち、キャリッジの動負荷を測定すれば、その測定した動負荷に基づいて、高温環境に放置等した後に常温に戻した等によって液体供給管に湾曲形状の曲げ癖が付いたような状態となっているか否かを特定することができる。
【0009】
そして、この湾曲形状の曲げ癖が付いたような状態は、あくまでも表面的なものであり、液体供給管の形状が根本的に変形した状態ではない。したがって、液体噴射を伴わないキャリッジの往復動作による液体供給管の曲げ伸ばしを所定回数繰り返すことによって、湾曲形状の曲げ癖を矯正することができる。より具体的には、湾曲形状の曲げ癖の付いた部分の曲げ伸ばしを所定回数繰り返すことで、液体供給管の湾曲形状で硬化した部分の表面組織が破壊されるようにほぐされて軟化し、それによって、湾曲形状の曲げ癖を矯正することができると考えられる。
【0010】
これにより、本発明の第1の態様に記載のキャリッジ制御装置によれば、液体貯留部からキャリッジへ液体を供給する液体供給管が、熱可塑性を有し、キャリッジの往復動に追従して弾性変形する液体噴射装置において、液体噴射装置を高温環境に長時間放置等した後に常温に戻したことによって液体供給管に付いた湾曲形状の癖を矯正することができるので、液体噴射装置を高温環境に長時間放置等した後に常温に戻したときに液体噴射精度が低下してしまうことを防止することができるという作用効果が得られる。
【0011】
本発明の第2の態様は、前述した第1の態様に記載のキャリッジ制御装置において、測定した動負荷がしきい値より大きい場合には、前記液体噴射ヘッドからの液体噴射を伴わない前記キャリッジの往復動作を所定回数繰り返す制御を実行する、ことを特徴としたキャリッジ制御装置である。
【0012】
前述したように、当該液体噴射装置を高温環境に長時間放置等した後に常温に戻したような場合には、液体供給管に湾曲形状の曲げ癖が付いたような状態となることによって、キャリッジを往復動させる際の動負荷が増大するという現象が生ずる。したがって、所定のタイミングで測定した動負荷が一定のしきい値より大きいか否かによって、高温環境に放置等した後に常温に戻した等によって液体供給管に湾曲形状の曲げ癖が付いたような状態となっているか否かを特定することができる。
【0013】
本発明の第3の態様は、前述した第1の態様又は第2の態様に記載のキャリッジ制御装置において、測定した往路方向の動負荷と復路方向の動負荷との差がしきい値より大きい場合には、前記液体噴射ヘッドからの液体噴射を伴わない前記キャリッジの往復動作を所定回数繰り返す制御を実行する、ことを特徴としたキャリッジ制御装置である。
【0014】
前述したように、当該液体噴射装置を高温環境に長時間放置等した後に常温に戻したような場合には、液体供給管に湾曲形状の曲げ癖が付いたような状態となることによって、キャリッジを往復動させる際の往路方向と復路方向との動負荷差がより大きくなるという現象が生ずる。したがって、所定のタイミングで測定した往路方向の動負荷と復路方向の動負荷との差が一定のしきい値より大きいか否かによって、高温環境に放置等した後に常温に戻した等によって液体供給管に湾曲形状の曲げ癖が付いたような状態となっているか否かを特定することができる。
【0015】
本発明の第4の態様は、前述した第1〜第3の態様のいずれかに記載のキャリッジ制御装置において、前記液体噴射ヘッドからの液体噴射を伴わない前記キャリッジの往復動作を所定回数繰り返す制御を実行した後、前記キャリッジの動負荷を再度測定する、ことを特徴としたキャリッジ制御装置である。
【0016】
液体供給管に付いた湾曲形状の癖を矯正するために、液体噴射を伴わないキャリッジの往復動作による液体供給管の曲げ伸ばしを所定回数繰り返した後、キャリッジの動負荷を再度測定することによって、液体供給管に付いた湾曲形状の癖がそのキャリッジの往復動作によって矯正されたかどうかを確認することができる。そして、液体供給管に付いた湾曲形状の癖が充分に矯正されていなかった場合には、液体噴射を伴わないキャリッジの往復動作による液体供給管の曲げ伸ばしを再度実行することができる。したがって、本発明の第4の態様に記載のキャリッジ制御装置によれば、液体供給管に付いた湾曲形状の癖をより確実に矯正することができるという作用効果が得られる。
【0017】
本発明の第5の態様は、前述した第1〜第4の態様のいずれかに記載のキャリッジ制御装置において、前記所定のタイミングには、前記液体噴射装置の電源ON直後が含まれる、ことを特徴としたキャリッジ制御装置である。
【0018】
このように、液体噴射装置の電源ON直後にキャリッジの動負荷を測定することによって、例えば、電源をOFFした状態で液体噴射装置が高温環境に長時間放置等されたかどうかを、液体噴射装置の電源をONした後、液体噴射を実行する前に検出することができる。したがって、電源をOFFした状態のままで液体噴射装置が長時間放置等された場合に、液体噴射精度が低下している状態で被噴射材に対する液体噴射を実行してしまうことを未然に防止することができる。また、電源ON直後にキャリッジの動負荷を測定することによって、キャリッジ制御の初期設定のための動負荷の測定も同時に行うことが可能であり、液体噴射装置の電源ON時の初期設定に要する時間への影響もほとんど生じない。
【0019】
本発明の第6の態様は、前述した第1〜第5の態様のいずれかに記載のキャリッジ制御装置において、前記所定のタイミングには、前記キャリッジの往復動作が実行されない状態で所定時間以上経過したときが含まれる、ことを特徴としたキャリッジ制御装置である。
【0020】
このように、キャリッジの往復動作が実行されない状態で所定時間以上経過したときにキャリッジの動負荷を測定することによって、例えば、電源ON状態で液体噴射装置を長時間放置した場合に、その間に高温環境に放置等されたかどうかを検出することができる。したがって、電源をONした状態のままで液体噴射装置が長時間放置等された場合に、液体噴射精度が低下している状態で被噴射材に対する液体噴射を実行してしまうことを未然に防止することができる。
【0021】
本発明の第7の態様は、被噴射材へ液体を噴射する液体噴射ヘッドを搭載したキャリッジが所定方向へ往復動可能に支持され、液体貯留部から前記キャリッジへ液体を供給する液体供給管が、熱可塑性を有し、前記キャリッジの往復動に追従して弾性変形する液体噴射装置であって、前述した第1〜第6の態様のいずれかに記載のキャリッジ制御装置を備えている、ことを特徴とした液体噴射装置である。
本発明の第7の態様に記載の液体噴射装置によれば、被噴射材へ液体を噴射する液体噴射ヘッドを搭載したキャリッジが所定方向へ往復動可能に支持され、液体貯留部から前記キャリッジへ液体を供給する液体供給管が、熱可塑性を有し、前記キャリッジの往復動に追従して弾性変形する液体噴射装置において、前述した第1〜第6の態様のいずれかに記載の発明による作用効果を得ることができる。
【0022】
本発明の第8の態様は、前述した第7の態様に記載の液体噴射装置において、前記キャリッジの移動量を検出可能なキャリッジ検出手段と、前記キャリッジを往復動させるキャリッジ駆動手段とを備え、前記キャリッジ制御装置は、前記キャリッジ検出手段が出力する検出信号に基づいて前記キャリッジ駆動手段を制御する、ことを特徴とした液体噴射装置である。
このように、キャリッジの移動量を検出可能なキャリッジ検出手段を備えた液体噴射装置においては、キャリッジを往復動させたときのキャリッジ駆動手段の制御量に対するキャリッジの移動量及び移動速度等から、キャリッジが往復動する際の動負荷を特定することができる。
【0023】
本発明の第9の態様は、被噴射材へ液体を噴射する液体噴射ヘッドを搭載したキャリッジが所定方向へ往復動可能に支持され、液体貯留部から前記キャリッジへ液体を供給する液体供給管が、熱可塑性を有し、前記キャリッジの往復動に追従して弾性変形する液体噴射装置における前記キャリッジの往復動制御をコンピュータに実行させるキャリッジ制御プログラムであって、所定のタイミングで前記キャリッジの動負荷を測定する手順と、測定した動負荷に基づいて、前記液体噴射ヘッドからの液体噴射を伴わない前記キャリッジの往復動作を所定回数繰り返す手順とを有する、ことを特徴としたキャリッジ制御プログラムである。
本発明の第9の態様に記載のキャリッジ制御プログラムによれば、前述した第1の態様に記載の発明と同様の作用効果を得ることができるとともに、このキャリッジ制御プログラムを実行することができる任意の液体噴射装置に、前述した第1の態様に記載の発明と同様の作用効果をもたらすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
まず、本発明に係る「液体噴射装置」の一例としてのインクジェットプリンタの概略構成について説明する。
【0025】
<インクジェットプリンタの概略構成>
図1は、インクジェットプリンタ50の要部平面図であり、図2はその側面図である。図3は、インクジェットプリンタ50の概略のブロック図である。
インクジェットプリンタ50は、「被噴射材」としての記録紙Pの自動給送手段として、給送用トレイ71及び給送用ローラ72を備えている。給送用トレイ71に積重された記録紙Pは、給送用ローラ72の駆動回転によりインクジェットプリンタ50の内部へ1枚ずつ自動給送される。このとき、図示していない分離パッド等の公知の分離手段によって、複数の記録紙Pが重なった状態で同時に給送されてしまうことが防止される。
【0026】
給送用ローラ72の副走査方向Yの下流側には、記録紙Pを副走査方向Yへ搬送する手段として、外周面に高摩擦抵抗を有する皮膜が施された搬送駆動ローラ51及び複数の搬送従動ローラ52が配設されている。搬送駆動ローラ51は、PFモータ56(図3)の回転駆動力が歯車伝達されて回転する。搬送従動ローラ52は、従動回転可能に軸支され、搬送駆動ローラ51の外周面に当接するように付勢されている。給送用ローラ72と搬送駆動ローラ51との間には、記録紙Pの先端及び後端を検出可能な公知の紙検出器33が配設されている。給送用ローラ72の駆動回転により自動給送された記録紙Pは、搬送駆動ローラ51と搬送従動ローラ52とで挟持された状態で、搬送駆動ローラ51の駆動回転によって副走査方向Yへ搬送される。
【0027】
インクジェットプリンタ50には、搬送駆動ローラ51の回転状態を検出する公知のロータリエンコーダ31が配設されている。ロータリエンコーダ31は、搬送駆動ローラ51の回転に連動して回転するロータリスケール311と、ロータリスケール311の外周に沿って等間隔に形成されているスリットを検出するロータリスケールセンサ312とを有している。ロータリエンコーダ31からは、搬送駆動ローラ51の回転速度に比例した周期のパルス信号が出力される。
【0028】
搬送駆動ローラ51の副走査方向Yの下流側には、記録紙Pを裏面側から支持するプラテン53が配設されている。プラテン53の上方には、主走査方向Xへ往復動可能にキャリッジガイド軸61に軸支されたキャリッジ62が配設されている。キャリッジ62の底部には、記録紙Pに「液体」としてのインクを噴射するための「液体噴射ヘッド」としての記録ヘッド63及びプラテン53上の記録紙Pを非接触で検出可能な光学式センサ等からなるPWセンサ34が配設されている。
【0029】
キャリッジ62は、CRモータ64(図3)の回転駆動力が図示していない無端ベルトによるベルト伝達機構によって伝達されて主走査方向Xに往復動する。キャリッジ62の移動量を検出可能な「キャリッジ検出手段」としての公知のリニアエンコーダ32は、キャリッジ62の近傍に主走査方向Xと略平行に配置されたリニアスケール321と、キャリッジ62に搭載されたリニアスケール321に等間隔に形成されているスリットを検出するリニアスケールセンサ322とを有している(図2)。
【0030】
キャリッジ62の主走査方向Xへの往復動領域の一端側の外側には、公知のキャッピング装置57が設けられている。記録を実行しない待機状態においては、キャリッジ62がキャッピング装置57の上まで移動して停止し、キャッピング装置57に配設されているキャップCPによって記録ヘッド63のヘッド面が封止される。このキャリッジ62の停止位置は、ホームポジションHPとして規定される。プラテン53の副走査方向Yの下流側には、記録が実行された後の記録紙Pを排出する排出駆動ローラ54及び排出従動ローラ55が配設されている。排出従動ローラ55は、従動回転可能に軸支され、排出駆動ローラ54の外周面に当接するように付勢されている。記録実行後の記録紙Pは、排出駆動ローラ54と排出従動ローラ55とで挟持された状態で、排出駆動ローラ54の駆動回転によって排出される。
【0031】
このような構成のインクジェットプリンタ50は、搬送駆動ローラ51の駆動回転により副走査方向Yへ記録紙Pを所定の搬送量で搬送する動作と、記録ヘッド63のヘッド面から記録紙Pへインクを噴射しながらキャリッジ62を主走査方向Xへ往復動させる動作とを交互に繰り返すことによって、記録紙Pの記録面にドットが形成されて記録が実行され、排出駆動ローラ54の駆動回転によって排出される。給送用ローラ72、搬送駆動ローラ53及び排出駆動ローラ54を回転駆動するPFモータ56(図3)並びにキャリッジ62を主走査方向に駆動するCRモータ64(図3)は、記録制御部100により制御される。また、記録ヘッド63も同様に、記録制御部100により制御される。
【0032】
<記録制御部100の概略構成>
引き続き図1〜図3を参照しながら記録制御部100の概略構成について説明する。
【0033】
記録制御部100のシステムバスには、ROM101、RAM102、ASIC103、MPU104及び不揮発性メモリ105が接続されている。MPU104には、ASIC103を介してロータリエンコーダ31、リニアエンコーダ32、紙検出器33、PWセンサ34及びインクジェットプリンタ50の電源をON/OFFするための電源スイッチ35の出力信号が入力される。MPU104は、紙検出器33及びPWセンサ34の出力信号等に基づいて、インクジェットプリンタ50の記録制御を実行するための演算処理やその他必要な演算処理を行う。ROM101には、MPU104によるインクジェットプリンタ50の制御に必要な記録制御プログラム(ファームウェア)等が格納されており、記録制御プログラムの処理に必要な各種データ等は不揮発性メモリ105に記憶されている。RAM102は、MPU104の作業領域や記録データ等の一時格納領域として使用される。
【0034】
ASIC103は、DCモータであるPFモータ56及びCRモータ64の回転制御並びに記録ヘッド63の駆動制御を行うための制御回路を有している。ASIC103は、MPU104から送られてくる制御命令、ロータリエンコーダ31の出力信号及びリニアエンコーダ32の出力信号に基づいて、PFモータ56及びCRモータ64の回転制御を行うための各種演算を行い、その演算結果に基づくモータ制御信号をPFモータドライバ106及びCRモータドライバ107へ送出する。また、ASIC103は、MPU104から送出される記録データ等に基づいて、記録ヘッド63の制御信号を演算生成してヘッドドライバ107へ送出し、記録ヘッド63を駆動制御する。ASIC103は、「情報処理装置」としてのパーソナルコンピュータ301等との情報伝送を実現するホストIF112を有している。
【0035】
<キャリッジの駆動機構>
つづいて、図4を参照しながら、キャリッジ62を往復動させる「キャリッジ駆動手段」としての駆動機構について説明する。
【0036】
図4は、キャリッジ62の駆動機構を模式的に図示したブロック図である。
キャリッジ62は、軸受け部621においてキャリッジガイド軸61に軸支されている。CRモータ64の回転軸に配設された駆動プーリ65と図示していない従動プーリとの間には、無端ベルト64が掛架されている。無端ベルト64の一部は、キャリッジ62に連結されており、CRモータ64の双方向の回転駆動力が無端ベルト64を介してキャリッジ62に伝達されてキャリッジ62が主走査方向Xへ往復動する。
【0037】
CRモータ64は、CRモータドライバ107を介して直流定電圧電源装置20の出力電圧が印可される。CRモータドライバ107は、直流定電圧電源装置20の出力電圧から生成される定電圧で一定周期(PWM基本周期)のパルスをCRモータ64に印可し、パルスのON時間(制御デューティ)を調節することによって、CRモータ64への供給電力を調節するPWM制御を実行する。キャリッジ62の往復動制御を実行する「キャリッジ制御装置」としての記録制御部100は、リニアエンコーダ32のリニアスケールセンサ322の出力信号からキャリッジ62の移動量及び移動速度をCPU104で演算し、そのキャリッジ62の移動量及び移動速度に基づいて、キャリッジ62の駆動力源であるCRモータ64の制御信号をCRモータドライバ107へ出力する。
【0038】
記録ヘッド63から噴射される各色のインクは、インクジェットプリンタ50の本体に着脱可能に配設された「液体貯留部」としてのインクカートリッジ(図示せず)に個々に貯留されている。インクカートリッジ内の各色のインクは、「液体供給管」としてのインクチューブ11を介してキャリッジ62へ供給され、記録ヘッド63から噴射される。つまり、インクジェットプリンタ50は、いわゆるオフキャリッジのインクジェットプリンタである。図示の如くU字状に湾曲した状態で配設されたインクチューブ11は、各色のインクの供給路を備え、熱可塑性を有する弾性素材で形成されており、主走査方向Xへのキャリッジ62の往復動に追従して弾性変形する。
尚、熱可塑性を有する素材としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等の汎用プラスチック等がある。また、インクジェットプリンタ50のインクチューブ11に適した柔軟性や耐久性を有する熱可塑性素材としては、例えば、ブリヂストン社製のムンクス等が挙げられる。
【0039】
<インクチューブのエージング制御>
つづいて、本発明に係る「キャリッジ制御装置」としての記録制御部100によるインクチューブ11のエージング制御について、図5を参照しながら説明する。
【0040】
図5は、主走査方向Xへのキャリッジ62の往復動作を模式的に図示した平面図である。
熱可塑性を有する弾性素材で形成されたインクチューブ11は、一端側が図示していないインクカートリッジに接続され、図示の如く主走査方向Xと略平行な経路で配設されており、途中でU字状に湾曲させられた状態で他端側がキャリッジ62に接続されている。インクチューブ11は、図示の如く、主走査方向Xへのキャリッジ62の往復動に追従して、そのU字状の湾曲位置が遷移するように弾性変形する。
【0041】
キャリッジ62をホームポジションHPから往路方向XLへ移動させる場合には、インクチューブ11は、U字状に湾曲変形させられていた部分11Aが符号Aで示したように直線状に伸ばされた状態となり、直線状に伸ばされていた部分11Bが符号Bで示したようにU字状に湾曲変形させられた状態となる。つまり、キャリッジ62に対して、部分11Aにおいては、U字状に湾曲変形させられていたインクチューブ11が直線状に戻ろうとする弾性復帰力によって、動負荷を減少させる方向の力が作用する。逆に、部分11Bにおいては、直線状のインクチューブ11が弾性力に抗してU字状に湾曲変形させられることによって、動負荷を増加させる方向の力が作用する。
【0042】
他方、キャリッジ62をホームポジションHPへ向けて復路方向XRへ移動させる場合には、インクチューブ11は、直線状に伸ばされていた部分11AがU字状に湾曲変形させられた状態となり、U字状に湾曲変形させられていた部分11Bが直線状に伸ばされた状態なる。つまり、キャリッジ62に対して、部分11Aにおいては、直線状のインクチューブ11が弾性力に抗してU字状に湾曲変形させられることによって、動負荷を増加させる方向の力が作用する。逆に、部分11Bにおいては、U字状に湾曲変形させられていたインクチューブ11が直線状に戻ろうとする弾性復帰力によって、動負荷を減少させる方向の力が作用する。
【0043】
このように、キャリッジ62を往路方向XLへ移動させる場合も復路方向XRへ移動させる場合も、インクチューブ11からキャリッジ62に対して、動負荷を増加させる方向の力と動負荷を減少させる方向の力とが略相殺されるように作用する。したがって、キャリッジ62の動負荷は、キャリッジ62が往復動範囲のどの位置にあっても略一定となる。また、インクチューブ11の一部が常にU字状に湾曲させられた状態でキャリッジ62が往復動するため、キャリッジ62は、インクチューブ11の弾性復帰力によって復路方向XRへ移動させる方向の力が常に作用する。したがって、キャリッジ62の動負荷は、往路方向XLへ移動させる場合より、復路方向XRへ移動させる場合の方が相対的に小さくなり、その差は略一定となる。
【0044】
ところが、例えば室温60度前後の高温環境にインクジェットプリンタ50を長時間放置等した場合には、インクチューブ11は、成形可能な流動性を持つには至らないものの、キャリッジ62がホームポジションHPに停止している状態で、図示の如く部分11AがU字状に湾曲変形させられた状態のまま常温時より多少軟化した状態となる。そして、その後に常温に戻すと、インクチューブ11は、部分11AがU字状に湾曲変形させられた状態のまま硬化することになる。つまり、インクチューブ11の部分11Aに湾曲形状の曲げ癖が付いたような状態となる。それによって、キャリッジ62が主走査方向Xへ往復動する際の動負荷には、以下のような変化が生ずることになる。
【0045】
まず、キャリッジ62をホームポジションHPから往路方向XLへ移動させる場合には、キャリッジ62に対して、部分11Aにおいては、U字湾曲形状の曲げ癖が付いたインクチューブ11が弾性力に抗して直線状に変形させられることによって、動負荷を増加させる方向の力が作用する。また、部分11Bにおいては、直線状のインクチューブ11が弾性力に抗してU字状に湾曲変形させられることによって、やはり動負荷を増加させる方向の力が作用する。つまり、インクチューブ11の部分11A及び部分11Bのいずれにおいても、キャリッジ62に対して動負荷を増加させる方向の力が作用する。そのため、キャリッジ62を往路方向XLへ移動させる場合の動負荷は、通常時よりも増大することとなる。
【0046】
他方、キャリッジ62をホームポジションHPへ向けて復路方向XRへ移動させる場合には、キャリッジ62に対して、部分11Aにおいては、直線状に伸ばされた状態のインクチューブ11がU字湾曲形状の曲げ癖が付いた状態に戻ろうとする弾性復帰力によって、動負荷を減少させる方向の力が作用する。また、部分11Bにおいては、U字状に湾曲変形させられていたインクチューブ11が直線状に戻ろうとする弾性復帰力によって、やはり動負荷を減少させる方向の力が作用する。つまり、インクチューブ11の部分11A及び部分11Bのいずれにおいても、キャリッジ62に対して動負荷を減少させる方向の力が作用する。そのため、キャリッジ62を復路方向XRへ移動させる場合の動負荷は、通常時よりも減少することとなる。
【0047】
すなわち、インクジェットプリンタ50を高温環境に長時間放置等したことによって、インクチューブ11に湾曲形状の曲げ癖が付いたような状態となると、キャリッジ62を往路方向XLへ移動させる場合の動負荷は増大し、キャリッジ62を往路方向XLへ移動させる場合の動負荷は減少する。したがって、キャリッジ62を主走査方向Xへ往復動させる際の最大動負荷が通常時より増大するとともに、往路方向XLの動負荷と復路方向XRの動負荷との動負荷差が通常時より増大することになる。
【0048】
以下、このような動負荷の変化からインクチューブ11の曲げ癖を検出する手順及びその曲げ癖を矯正するエージング制御手順について、図6〜図8を参照しながら説明する。
【0049】
<キャリッジ制御手順の第1実施例>
図6は、本発明に係るキャリッジ制御手順の第1実施例を図示したフローチャートである。
まず、インクジェットプリンタ50の電源がONされた時点で、ホームポジションHPにあるキャリッジ62を往路方向XLへ移動させて、往路方向XLの動負荷ZLを測定する(ステップS1)。キャリッジ62の動負荷は、CRモータドライバ107によるCRモータ64の制御量(制御デューティ等)に対するリニアエンコーダ32の出力信号から演算したキャリッジ62の移動量及び移動速度との関係から特定することができる。
【0050】
次に、往路方向XLの動負荷ZLが予め設定した動負荷のしきい値Zより大きいか否かを判定する(ステップS2)。前記のように、インクジェットプリンタ50を高温環境に長時間放置等したことによって、インクチューブ11に湾曲形状の曲げ癖が付いたような状態となると、キャリッジ62を往路方向XLへ移動させる場合の動負荷XLは増大する。したがって、往路方向XLの動負荷ZLが予め設定した動負荷のしきい値Zより大きいか否かによって、インクチューブ11に湾曲形状の曲げ癖が付いたような状態か否かを判定することができる。
尚、このしきい値Zは、例えば、インクジェットプリンタ50を高温環境に長時間放置等してインクチューブ11に湾曲形状の曲げ癖が付いたような状態を実験的に再現し、そのときの往路方向XLの動負荷を測定する実験等を行うことによって、通常時の動負荷との関係から適切な値に設定することができる。
【0051】
往路方向XLの動負荷ZLが予め設定した動負荷のしきい値Z以下の場合には(ステップS2でNo)、高温環境に長時間放置等することによる湾曲形状の曲げ癖がインクチューブ11に付いていないと判定し、そのまま当該手順を終了する。そして、往路方向XLの動負荷ZLが予め設定した動負荷のしきい値Zより大きい場合には(ステップS2でYes)、高温環境に長時間放置等することによる湾曲形状の曲げ癖がインクチューブ11に付いていると判定し、所定のエージング制御(ステップS3)を実行した後、当該手順を終了する。
【0052】
ここで、所定のエージング制御(ステップS3)とは、記録ヘッド63からのインク噴射を伴わないキャリッジ62往復動作を所定回数繰り返す制御をいう。前述したように、インクチューブ11を湾曲させた状態で高温環境に長時間放置等することで付いたインクチューブ11の湾曲形状の曲げ癖は、あくまでも表面的なものであり、インクチューブ11の形状が根本的に変形した状態ではない。したがって、インク噴射を伴わないキャリッジ62の往復動作によるインクチューブ11の曲げ伸ばしを所定回数繰り返すことによって、その湾曲形状の曲げ癖を矯正することができる。
【0053】
尚、記録ヘッド63からのインク噴射を伴わないキャリッジ62往復動作を実行する回数は、例えば、インクジェットプリンタ50を高温環境に長時間放置等してインクチューブ11に湾曲形状の曲げ癖が付いたような状態を再現し、キャリッジ62を往復動させながら動負荷を測定する実験等から適当な回数を決定することができる。適当な往復動作の回数は、インクチューブ11の材質や形状等により異なってくるが、例えば20〜30回程度の往復動で曲げ癖を略矯正することができる。
【0054】
このようにして、本発明によれば、インクジェットプリンタ50を高温環境に長時間放置等した後に常温に戻したときにインク噴射精度が低下してしまうことを防止することができる。
【0055】
また、インクジェットプリンタ50の電源ON直後にキャリッジ62の動負荷を測定することによって、例えば、電源をOFFした状態でインクジェットプリンタ50が高温環境に長時間放置等されたかどうかを、インクジェットプリンタ50の電源をONした後、使用する前に検出することができる。したがって、電源をOFFした状態でインクジェットプリンタ50を長時間放置した後に使用する際に、インク噴射精度が低下している状態で記録紙Pに対するインク噴射を実行してしまうことを未然に防止することができる。さらに、電源ON直後にキャリッジ62の動負荷を測定することによって、キャリッジ62の制御に必要な初期設定のための動負荷の測定も同時に行うことができるので、電源ON時の初期設定時間の増加もほとんど生じない。
【0056】
そして、この往路方向XLの動負荷ZLを測定するタイミングは、インクジェットプリンタ50の電源がONされた時点に特に限定されるものではなく、どのようなタイミングであっても本発明の実施は可能である。例えば、インクジェットプリンタ50の電源がONされた状態において、キャリッジ62の往復動作が実行されない状態で所定時間以上経過したタイミングとすることもできる。それによって、例えば、電源がONされた状態でインクジェットプリンタ50を長時間放置した場合に、その間に高温環境に放置等されたかどうかを検出することができる。したがって、電源をONした状態のままでインクジェットプリンタ50を長時間放置した後に使用する際に、インク噴射精度が低下している状態で記録紙Pに対するインク噴射を実行してしまうことを未然に防止することができる。
【0057】
<キャリッジ制御手順の第2実施例>
図7は、本発明に係るキャリッジ制御手順の第2実施例を図示したフローチャートである。
まず、インクジェットプリンタ50の電源がONされた時点で、ホームポジションHPにあるキャリッジ62を往路方向XLへ移動させて、往路方向XLの動負荷ZLを測定する(ステップS11)。次に、キャリッジ62を復路方向XRへ移動させて、復路方向XRの動負荷ZRを測定する(ステップS12)。つづいて、往路方向XLの動負荷ZLと復路方向XRの動負荷ZRとの動負荷差が予め設定した動負荷差のしきい値Zdより大きいか否かを判定する(ステップS13)。
【0058】
前記のように、インクジェットプリンタ50を高温環境に長時間放置等したことによって、インクチューブ11に湾曲形状の曲げ癖が付いたような状態となると、往路方向XLの動負荷ZLと復路方向XRの動負荷ZRとの動負荷差が通常時より増大する。したがって、往路方向XLの動負荷ZLと復路方向XRの動負荷ZRとの動負荷差が予め設定した動負荷差のしきい値Zdより大きいか否かによって、インクチューブ11に湾曲形状の曲げ癖が付いたような状態か否かを判定することができる。
尚、このしきい値Zdは、例えば、インクジェットプリンタ50を高温環境に長時間放置等してインクチューブ11に湾曲形状の曲げ癖が付いたような状態を実験的に再現し、そのときの往路方向XLの動負荷ZLと復路方向XRの動負荷ZRとの動負荷差を測定する実験等を行うことによって、通常時の往路方向XLと復路方向XRとの動負荷差との関係から適切な値に設定することができる。
【0059】
往路方向XLの動負荷ZLと復路方向XRの動負荷ZRとの動負荷差が予め設定した動負荷差のしきい値Zd以下の場合には(ステップS13でNo)、高温環境に長時間放置等することによる湾曲形状の曲げ癖がインクチューブ11に付いていないと判定し、そのまま当該手順を終了する。そして、往路方向XLの動負荷ZLと復路方向XRの動負荷ZRとの動負荷差が予め設定した動負荷差のしきい値Zdより大きい場合には(ステップS13でYes)、高温環境に長時間放置等することによる湾曲形状の曲げ癖がインクチューブ11に付いていると判定し、所定のエージング制御(ステップS14)を実行した後、当該手順を終了する。尚、第2実施例におけるエージング制御(ステップS14)は、第1実施例におけるエージング制御(図6のステップS3)と同様の制御であるため、説明は省略する。
【0060】
<キャリッジ制御手順の第3実施例>
図8は、本発明に係るキャリッジ制御手順の第3実施例を図示したフローチャートである。
ステップS21〜S24は、第2実施例におけるステップS11〜S14と同様なので、各ステップの詳細な説明は省略する。第3実施例においては、往路方向XLの動負荷ZL及び復路方向XRの動負荷ZRを測定し(ステップS21及びS22)、測定した往路方向XLの動負荷ZLと復路方向XRの動負荷ZRとの動負荷差が予め設定した動負荷差のしきい値Zdより大きい場合には(ステップS23でYes)、所定のエージング制御(ステップS24)を実行した後、ステップS21に戻る。そして、再度往路方向XLの動負荷ZL及び復路方向XRの動負荷ZRを測定し(ステップS21及びS22)、再度測定した往路方向XLの動負荷ZLと復路方向XRの動負荷ZRとの動負荷差が予め設定した動負荷差のしきい値Zdより大きいか否かを判定する(ステップS23)。
【0061】
往路方向XLの動負荷ZLと復路方向XRの動負荷ZRとの動負荷差が予め設定した動負荷差のしきい値Zd以下の場合には(ステップS23でNo)、インクチューブ11の湾曲形状の曲げ癖がエージング制御により矯正することができたと判定して当該手順を終了する。他方、再度測定した往路方向XLの動負荷ZLと復路方向XRの動負荷ZRとの動負荷差が予め設定した動負荷差のしきい値Zdより大きい場合には(ステップS23でYes)、インクチューブ11の湾曲形状の曲げ癖がエージング制御により充分に矯正することができなかったと判定し、再度エージング制御を実行する(ステップS24)。
【0062】
このように、本発明に係るキャリッジ制御手手順の第3実施例においては、インクチューブ11に付いた湾曲形状の癖を矯正するために、エージング制御を実行した後(ステップS24)、キャリッジ62の動負荷差を再度測定することによって、インクチューブ11に付いた湾曲形状の癖がエージング制御によって矯正されたかどうかを確認することができる(ステップS23)。そして、インクチューブ11に付いた湾曲形状の癖が充分に矯正されていなかった場合には(ステップS23でYes)、再度エージング制御を実行する(ステップS24)。それによって、インクチューブ11に付いた湾曲形状の癖をより確実に矯正することができる。
【0063】
尚、図6に図示したフローチャートと図8に図示したフローチャートとを組み合わせた制御手順とすることも可能である。それによって、曲げ癖による初期の動作負荷を適正値に戻すとともに、往路方向XLの動負荷ZLと復路方向XRの動負荷ZRとの動負荷差を適正値に戻すことができるので、より確実な曲げ癖の矯正及びより高いインク噴射精度を実現することができる。そして、本発明は上記実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で、種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれるものであることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】インクジェットプリンタの要部平面図である。
【図2】インクジェットプリンタの要部側面図である。
【図3】インクジェットプリンタの概略のブロック図である。
【図4】キャリッジの駆動機構を模式的に図示したブロック図である。
【図5】主走査方向へのキャリッジの往復動作を模式的に図示した平面図である。
【図6】キャリッジ制御手順の第1実施例を図示したフローチャートである。
【図7】キャリッジ制御手順の第2実施例を図示したフローチャートである。
【図8】キャリッジ制御手順の第3実施例を図示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0065】
11 インクチューブ、50 インクジェットプリンタ、51 搬送駆動ローラ、52 搬送従動ローラ、53 プラテン、54 排出駆動ローラ、55 排出従動ローラ、56 PFモータ、61 キャリッジガイド軸、62 キャリッジ、63 記録ヘッド、64 CRモータ、100 記録制御部、101 ROM、102 RAM、103 ASIC、104 MPU、105 不揮発性メモリ、106 PFモータドライバ、107 CRモータドライバ、108 ヘッドドライバ、P 記録紙、X 主走査方向、XL 往路方向、XR 復路方向、Y 副走査方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被噴射材へ液体を噴射する液体噴射ヘッドを搭載したキャリッジが所定方向へ往復動可能に支持され、液体貯留部から前記キャリッジへ液体を供給する液体供給管が、熱可塑性を有し、前記キャリッジの往復動に追従して弾性変形する液体噴射装置における前記キャリッジの往復動制御を実行するキャリッジ制御装置であって、
所定のタイミングで前記キャリッジの動負荷を測定し、測定した動負荷に基づいて、前記液体噴射ヘッドからの液体噴射を伴わない前記キャリッジの往復動作を所定回数繰り返す制御を実行する、ことを特徴としたキャリッジ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のキャリッジ制御装置において、測定した動負荷がしきい値より大きい場合には、前記液体噴射ヘッドからの液体噴射を伴わない前記キャリッジの往復動作を所定回数繰り返す制御を実行する、ことを特徴としたキャリッジ制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のキャリッジ制御装置において、測定した往路方向の動負荷と復路方向の動負荷との差がしきい値より大きい場合には、前記液体噴射ヘッドからの液体噴射を伴わない前記キャリッジの往復動作を所定回数繰り返す制御を実行する、ことを特徴としたキャリッジ制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のキャリッジ制御装置において、前記液体噴射ヘッドからの液体噴射を伴わない前記キャリッジの往復動作を所定回数繰り返す制御を実行した後、前記キャリッジの動負荷を再度測定する、ことを特徴としたキャリッジ制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のキャリッジ制御装置において、前記所定のタイミングには、前記液体噴射装置の電源ON直後が含まれる、ことを特徴としたキャリッジ制御装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のキャリッジ制御装置において、前記所定のタイミングには、前記キャリッジの往復動作が実行されない状態で所定時間以上経過したときが含まれる、ことを特徴としたキャリッジ制御装置。
【請求項7】
被噴射材へ液体を噴射する液体噴射ヘッドを搭載したキャリッジが所定方向へ往復動可能に支持され、液体貯留部から前記キャリッジへ液体を供給する液体供給管が、熱可塑性を有し、前記キャリッジの往復動に追従して弾性変形する液体噴射装置であって、請求項1〜6のいずれか1項に記載のキャリッジ制御装置を備えている、ことを特徴とした液体噴射装置。
【請求項8】
請求項7に記載の液体噴射装置において、前記キャリッジの移動量を検出可能なキャリッジ検出手段と、前記キャリッジを往復動させるキャリッジ駆動手段とを備え、前記キャリッジ制御装置は、前記キャリッジ検出手段が出力する検出信号に基づいて前記キャリッジ駆動手段を制御する、ことを特徴とした液体噴射装置。
【請求項9】
被噴射材へ液体を噴射する液体噴射ヘッドを搭載したキャリッジが所定方向へ往復動可能に支持され、液体貯留部から前記キャリッジへ液体を供給する液体供給管が、熱可塑性を有し、前記キャリッジの往復動に追従して弾性変形する液体噴射装置における前記キャリッジの往復動制御をコンピュータに実行させるキャリッジ制御プログラムであって、
所定のタイミングで前記キャリッジの動負荷を測定する手順と、
測定した動負荷に基づいて、前記液体噴射ヘッドからの液体噴射を伴わない前記キャリッジの往復動作を所定回数繰り返す手順とを有する、ことを特徴としたキャリッジ制御プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−307810(P2008−307810A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−158564(P2007−158564)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】