説明

キャリッジ搬送用ベルト

【課題】キャリッジ搬送用ベルトの帯電に起因するキャリッジの誘電帯電を抑制することのできるキャリッジ搬送用ベルトを提供する。
【解決手段】キャリッジ搬送用ベルト3は、インクジェットヘッドが搭載された合成樹脂製のキャリッジ2が取り付けられているとともに、1対のプーリ4に懸架されて、キャリッジ2を搬送するものである。キャリッジ搬送用ベルト3は、少なくとも1対のプーリ4に接する側の表面電気抵抗値が、1.0×10Ω〜1.0×10Ωに設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1対のプーリに懸架されて、インクジェットヘッドが搭載された合成樹脂製のキャリッジを搬送するキャリッジ搬送用ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、インクジェット方式のプリンタとしては、インクジェットヘッドが搭載されたキャリッジを往復移動させつつ、インクジェットヘッドからインクを吐出させて記録用紙に印刷を行うものが知られている。
【0003】
キャリッジの往復移動は、キャリッジが取り付けられたキャリッジ搬送用ベルトを1対のプーリに懸架して、このプーリを正転又は反転させて、キャリッジ搬送用ベルトを走行させることにより行われている。
【0004】
キャリッジ搬送用ベルトとしては、平ベルトやVベルト等の摩擦伝動ベルトや、歯付ベルトが用いられており、またその材質はゴム製やポリウレタン製のものが用いられている(例えば、特許文献1、2参照)。また、通常、キャリッジは合成樹脂材料で形成されている。
【0005】
ところで、従来から、精密機器等に用いられるゴム製やポリウレタン製の伝動ベルトでは、ベルトの帯電による誤作動や故障を防止するために、ベルトを形成するゴムやポリウレタンに、カーボンブラックやイオン導電剤を添加する技術が知られている(例えば、特許文献3参照)。なお、カーボンブラックは、ベルトの強度を高める目的でも添加されるものである。
【0006】
【特許文献1】特開2003―120757号公報
【特許文献2】特開2006―9810号公報
【特許文献3】特開平3―74652号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したようにキャリッジ搬送用ベルトによりキャリッジを搬送する際、ベルトとプーリとが接触することにより、キャリッジ搬送用ベルトとプーリに静電気が発生する。プーリの材質としては、従来から金属が使用されているが、近年ではコスト削減のため樹脂が用いられる場合があり、この場合には、帯電がより発生しやすく、帯電量も多くなる。
【0008】
ここで、一般的に、帯電した物体に誘電体を近づけると、誘電体内で分極(誘電分極)が生じて、誘電体が帯電する。このような帯電を誘電帯電という。誘電帯電現象は、物体間の距離に応じてその効果が変化する。
【0009】
キャリッジは、キャリッジ搬送用ベルトとの連結部と、インクジェットヘッドが搭載されている部分(以下、キャリッジ本体という)とから構成されており、連結部はキャリッジ本体に比べて小さいため、キャリッジ本体はキャリッジ搬送用ベルトに近接している。
そのため、キャリッジ搬送用ベルトに蓄積された静電気が、キャリッジ本体に誘電帯電を生じさせる場合があった。
【0010】
キャリッジ本体が帯電すると、インクジェットヘッドから吐出されるインクが用紙に付着するまでの軌道が、キャリッジ本体に引き寄せられ、もしくは反発して、インクの着弾位置がずれてしまい、印字品質が低下するという問題が生じる。また、圧電素子を用いたインクジェットヘッドの場合、圧電素子を制御するための制御回路が静電気によって誤作動を起こして、インクが誤って吐出されてしまう場合がある。
【0011】
また、キャリッジの位置情報を得るためにリニアエンコーダが用いられているが、このリニアエンコーダもキャリッジ搬送用ベルトに近接して配置される場合がある。この場合も、キャリッジ搬送用ベルトに蓄積された静電気により、リニアエンコーダに誘電帯電が生じる。その結果、リニアエンコーダに汚れが付着して、キャリッジの位置情報を正確に得ることができなくなるという不具合があった。
【0012】
上述したようにベルト周辺部品の誘電帯電は印字品質の低下の要因となるが、印字品質の低下の要因は、誘電帯電以外にも多く存在するため(例えば、記録用紙の搬送位置のずれによるインクの着弾位置のずれや、インクの変質など)、従来、ベルト周辺部品の誘電帯電に着目した対策は特に採られていなかった。
【0013】
また、一般的な精密機器等で用いられる伝動ベルトは、プーリ間で回転力を伝達するためのものであって、キャリッジ搬送用ベルトのように部品が取り付けられてその部品を搬送するものではない。従って、伝動ベルトの周囲には、キャリッジ本体のような必然的に伝動ベルトに近接してしまう部品は存在せず、伝動ベルトとその周囲の部品との距離はある程度離れていたため、上述したような誘電帯電はあまり発生していなかった。また、たとえ発生したとしても印字品質の低下のような重要な問題を引き起こすことがなかった。
そのため、上述したように、従来から伝動ベルトの帯電防止のためにカーボンブラック等を添加して伝動ベルトの電気抵抗を下げる技術は存在していたものの、特に伝動ベルトの帯電に起因する誘電帯電の発生を防止するのに効果の高い電気抵抗の範囲を特定した伝動ベルトは存在していなかった。
【0014】
そこで、本発明は、キャリッジ搬送用ベルトの帯電に起因するキャリッジの誘電帯電を抑制することのできるキャリッジ搬送用ベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0015】
第1発明のキャリッジ搬送用ベルトは、インクジェットヘッドが搭載された合成樹脂製のキャリッジが取り付けられるとともに、1対のプーリに懸架され、前記キャリッジを搬送するキャリッジ搬送用ベルトであって、少なくとも前記1対のプーリに接する側の表面電気抵抗値が、1.0×10Ω〜1.0×10Ωであることを特徴とする。
【0016】
キャリッジ搬送用ベルトのプーリに接する側の表面電気抵抗値を1.0×10Ω〜1.0×10Ωの範囲内に設定することにより、走行中のキャリッジ搬送用ベルトのプーリとの接触に起因する帯電量を低減させて、キャリッジの誘電帯電を抑制することができる。
【0017】
前記キャリッジ搬送用ベルトは、ポリウレタン100質量部に対して、カーボンブラックが0.5〜3.75質量部添加されたポリウレタン組成物で構成されていてもよい(第2の発明)。
【0018】
キャリッジ搬送用ベルトのカーボンブラックの添加量が多いほど、表面電気抵抗値を低減させることができるが、ポリウレタン100質量部に対するカーボンブラックの添加量が3.75質量部よりも多すぎると、ポリウレタン組成物を硬化させる前の液状の状態での粘度が高くなりすぎて、成形加工することが困難となる。また、成形物の機械物性も低下してしまう。
逆に、ポリウレタン100質量部に対するカーボンブラックの添加量が、0.5質量部よりも少なすぎると、電気抵抗値が高くなりすぎて、キャリッジ搬送用ベルトの帯電を抑制するのが困難となる。
【0019】
前記キャリッジ搬送用ベルトは、摩擦伝動ベルトであってもよく(第3の発明)、また、ベルト長手方向に沿って所定間隔で配置された複数の歯部を有する歯付ベルトであってもよい(第4の発明)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本実施形態のキャリッジ搬送用ベルト3は、図示しないインクジェットプリンタの一部を構成するキャリッジ搬送装置1に適用されている。インクジェットプリンタは、インクジェットヘッド(図示省略)が搭載されたキャリッジ2をキャリッジ搬送装置1によって往復移動させつつ、記録用紙を搬送し、これらの動きと連動させて、インクジェットヘッドからインクを吐出させて、記録用紙に文字や記号を印刷する装置である。
【0021】
図1(a)及び(b)に示すように、キャリッジ搬送装置1は、1対のプーリ4と、キャリッジ2が取り付けられるとともに、1対のプーリ4に懸架されるキャリッジ搬送用ベルト3と、リニアエンコーダ10とを備えている。以下、キャリッジ搬送装置1の説明において、図1(a)中の上下方向を上下方向、左右方向を左右方向と定義する。
【0022】
キャリッジ搬送用ベルト3は、平ベルトが用いられている。平ベルトは、プーリとベルトとの摩擦を利用して動力を伝達する摩擦伝動ベルトの1種である。キャリッジ搬送用ベルト3は、例えば、幅方向長さが10mm程度であり、厚さが1mm程度である。
【0023】
キャリッジ搬送用ベルト3は、ポリウレタン組成物で形成されたベルト本体を有しており、このベルト本体内にはベルト長手方向(周方向)に沿って複数の心線が埋設されている。また、キャリッジ搬送用ベルト3の表面(1対のプーリ4に接する側の面)3a及び裏面3bの表面電気抵抗値は1.0×10Ω〜1.0×10Ωである。
【0024】
上記ベルト本体を構成するポリウレタン硬化物は、液状のポリウレタン樹脂の組成物を注型して加熱・硬化させることによって得られる。一般的な成形法としては、ポリオール、触媒、硬化剤、顔料等を混合したプレミックス液と、イソシアネート成分を含有する溶液とを混合し、これを注型して硬化反応させるワンショット法と、予めイソシアネートとポリオールを反応させ、イソシアネートの一部をポリオールで変性したプレポリマーを用い、これに触媒が入った硬化剤を加えて注型し、硬化反応させるプレポリマー法とがある。本実施形態では、プレポリマー法を用いることが好ましい。
【0025】
イソシアネートとしては限定されるものではないが、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート、またそれらの変性体を用いることができる。具体的には、トルエンジイソシアネート(TDI)、メチレンジイソシアネート(MDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)そしてイソホロンジイソシアネート(IPDI)などが例示できるが、中でもTDI及びMDIが好適に用いられる。
【0026】
ポリオールとしては、エステル系ポリオール、エーテル系ポリオール、アクリルポリオール、ポリブタジエンポリオール、及びこれらの混合ポリオール等が挙げられる。エーテル系ポリオールとしては、ポリエチレンエーテルグリコール(PPG)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)などが有り、またエステル系ポリオールとしては、ポリエチレンアジペート(PEA)、ポリブチレンアジペート(PBA)、ポリヘキサメチレンアジペート(PHA)、ポリ−ε−カプロラクトン(PCL)などが例示できる。中でも、耐湿性や耐水性に優れると共に強靭な物性とヒステリシスロスの小さい特性を有する成形品が得られるポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)が好適に用いられる。
【0027】
また、硬化剤としては、アミン系硬化剤が用いられる。具体的には、1,4−フェニレンジアミン、2,6−ジアミノトルエン、1,5−ナフタレンジアミン、4,4´−ジアミノジフェニルメタン、3,3´−ジクロロ−4,4´−ジアミノジフェニルメタン(MOCA)、3,3´−ジメチル−4,4´−ジアミノジフェニルメタン、1−メチル−3,5−ビス(メチルチオ)−2,6−ジアミノベンゼン、1−メチル−3,5´−ジエチル−2,6−ジアミノベンゼン、4,4´−メチレン−ビス−(3−クロロ−2,6−ジエチルアニリン)、4,4´−メチレン−ビス−(3−クロロ−2,6−ジエチルアニリン)、4,4´−メチレン−ビス−(オルト−クロロアニリン)、4,4´−メチレン−ビス−(2,3−ジクロロアニリン)、トリメチレングリコール−ジ―パラ−アミノベンゾエート、4,4´−メチレン−ビス−(2,6−ジエチルアニリン)、4,4´−メチレン−ビス−(2,6−ジイソプロピルアニリン)、4,4´−ジアミノジフェニルスルホンなど、1級アミン、2級アミン、3級アミンのアミン化合物が挙げられる。
【0028】
アミン系硬化剤の配合量は、アミン系硬化剤中のNHのモル数とイソシアネート中のNCOのモル数の比であるα値(NH/NCO)が1付近になるように、好ましくは0.90〜1.10の範囲になるように設定するのがよい。一般的にα値は0.95付近が硬化物の物性が最も良好であり、α値が上記の範囲から外れると、ポリウレタン硬化物の物性が低下する傾向が見られる。
【0029】
また、上記ポリウレタン組成物には、カーボンブラックが添加されている。カーボンブラックを添加することにより、ポリウレタン組成物の導電性と強度が高められる。カーボンブラックの添加量は、ポリウレタン100質量部に対して0.5〜3.75質量部の範囲内とすることが好ましい。
【0030】
また、上記ポリウレタン組成物には、上記した各成分の他に、添加剤として、可塑剤、消泡剤、安定剤等を配合することができる。可塑剤としては、フタル酸ジオクチル(DOP)、フタル酸ジブチル(DBP)等のフタル酸エステル系可塑剤や、アジピン酸ジオクチル(DOA)、リン酸トリクレジル(TCP)、塩素系パラフィン、フタル酸ジアルキルなどを用いることができる。
【0031】
また、心線は、ガラス繊維及びアラミド繊維が使用される。また、ポリベンゾオキサゾール、ポリパラフェニレンナフタレート、ポリエステル、アクリル、カーボン、スチールなどを組成とする撚コードの何れでも使用できる。ガラス繊維の組成は、Eガラス、Sガラス(高強度ガラス)の何れでもよく、フィラメントの太さ及びフィラメントの集束本数及びストランド本数に制限されない。
【0032】
このようなキャリッジ搬送用ベルト3の製造方法としては、円筒状の内型に心線を所定のテンションで巻き付け、その上から円筒状の外型を覆い、内型と外型の間に空間に、ウレタンプレポリマーと硬化剤と混合したウレタン液を注入する。ウレタン液を一定時間所定の温度条件下で硬化させ、ベルトスリーブを得る。その後内型と外型を分離し、成形されたベルトスリーブを脱型して所定幅でカットし、キャリッジ搬送用ベルト3とする。
【0033】
1対のプーリ4は、駆動プーリ5と、テンション調整用プーリ6とから構成される。駆動プーリ5及びテンション調整用プーリ6は、その外周面がフラットな平プーリが用いられ、一般的には鉄製であり、切削や焼結により形成される。非鉄金属も使用される場合がある。また、コスト低減や軽量化のために、合成樹脂材料も用いられる。合成樹脂材料としては、例えばポリアセタール樹脂やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂等の摺動性が高い樹脂や、ABS樹脂やPET樹脂等が用いられるが、特に限定されるものではない。
【0034】
駆動プーリ5の軸5aは、図示しない駆動モータに連結されている。この駆動モータによって駆動プーリ5を回転させることにより、キャリッジ搬送用ベルト3が走行するとともに、テンション調整用プーリ6が回転する。
【0035】
テンション調整用プーリ6の軸6aは、支持部材7に回転自在に支持されている。支持部材7は、バネ8を介して、プリンタ本体9に固定されている。バネ8によって、キャリッジ搬送用ベルト3に適度な張力が付与されるようになっている。
【0036】
キャリッジ2は、キャリッジ本体2aと、連結部2bとから構成されている。キャリッジ本体2a及び連結部2bは、例えばABS樹脂やPET樹脂等の合成樹脂材料で形成されている。また、これらの合成樹脂材料にガラスファイバー等が添加されて補強されていてもよい。
【0037】
キャリッジ本体2aは、左右方向に延在するガイド軸(図示省略)に装着されており、このガイド軸に沿って左右方向に移動可能となっている。また、キャリッジ本体2aには、インクジェットヘッド(図示省略)が搭載されている。インクジェットヘッドには、図示しないインクタンクからインクが供給されるとともに、印刷を制御するための図示しないケーブルとが接続されており、図1の下方向にインクが吐出されるようになっている。
【0038】
さらに、キャリッジ本体2aには、リニアエンコーダ10に形成された目盛りを光学的に読み取る光学センサ(図示省略)が搭載されている。これらリニアエンコーダ10と光学センサとによって、キャリッジ2の位置情報が得られる。
【0039】
連結部2bは、キャリッジ搬送用ベルト3のベルト長手方向における一部分を両面側から挟持している。これにより、キャリッジ2はキャリッジ搬送用ベルト3に取り付けられている。
【0040】
連結部2bの上下方向長さ及び左右方向長さは、キャリッジ本体2aの上下方向長さ及び左右方向長さに対してかなり小さい。そのため、キャリッジ本体2aの連結部2b側の側面2cは、キャリッジ搬送用ベルト3に近接している。側面2cとキャリッジ搬送用ベルト3との距離は、例えば2mm程度である。
【0041】
リニアエンコーダ10は、キャリッジの位置情報を得るためのものである。リニアエンコーダ10は、合成樹脂材料からなる薄板状の部材であって、1対のプーリ4に懸架されたキャリッジ搬送用ベルト3のスパン部と平行に配置されている。本実施形態では、リニアエンコーダ10とキャリッジ搬送用ベルト3とは近接しており、その距離は例えば3mm〜10mm程度である。なお、リニアエンコーダ10とキャリッジ搬送用ベルト3とは近接していなくてもよい。
【0042】
以上説明した構成のキャリッジ搬送用装置1では、駆動プーリ5を正転又は反転させて、キャリッジ搬送用ベルト3を走行させることにより、キャリッジ2をガイド軸(図示省略)に沿って左右方向に往復移動させるようになっている。
【0043】
ここで、表面電気抵抗値が大きいキャリッジ搬送用ベルトを用いた場合、走行中のキャリッジ搬送用ベルト3がプーリ5、6の外周面に対して接触と離間とを繰り返すことにより、剥離帯電が生じる。さらに、キャリッジ搬送用ベルト3が、プーリ5、6の外周面にスリップしつつ走行するため、摩擦帯電が生じる。キャリッジ搬送用ベルト3に蓄積された静電気は、キャリッジ搬送用ベルト3に近接しているキャリッジ本体2aに誘電帯電を生じさせる。その結果、キャリッジ2が帯電して、インクジェットヘッドによるインクの吐出に不具合が生じる。
【0044】
一方、本実施形態では、キャリッジ搬送用ベルト3の表面電気抵抗値を、1.0×10Ω以下に設定している。これにより、上述した剥離帯電及び摩擦帯電によるキャリッジ搬送用ベルト3の帯電を抑制して、キャリッジ本体2aの誘電帯電を抑制することができ、その結果、印字不良を防止できる。
【0045】
また、キャリッジ搬送用ベルト3の帯電を防止することにより、リニアエンコーダ10の誘電帯電も防止することができ、その結果、リニアエンコーダ10が汚れ等によって読み取れなくなるのを防止できる。
【0046】
キャリッジ搬送用ベルト3のカーボンブラックの添加量が多いほど、表面電気抵抗値を低減させることができるが、ポリウレタン100質量部に対するカーボンブラックの添加量が3.75質量部よりも多すぎると、ポリウレタン組成物を硬化させる前の液状の状態での粘度が高くなりすぎて、成形加工することが困難となる。また、成形物の機械物性も低下してしまう。
従って、成形加工性と強度を考慮すると、カーボンブラックの添加量は、100質量部のポリウレタンに対して、3.75質量部以下が好ましい。また、このカーボンブラックの添加量の上限値から、キャリッジ搬送用ベルト3の表面電気抵抗値は、1.0×104Ω以上が好ましい。
【0047】
逆に、ポリウレタン100質量部に対するカーボンブラックの添加量が、0.5質量部よりも少なすぎると、表面電気抵抗値が1.0×10Ωよりも高くなりすぎて、キャリッジ搬送用ベルトの帯電を抑制するのが困難となる。
従って、電気抵抗値を考慮すると、カーボンブラックの添加量は、100質量部のポリウレタンに対して、0.5質量部以上が好ましい。
【0048】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、キャリッジ搬送用ベルト3としては、平ベルト以外の摩擦伝動ベルトを用いてもよい。例えば、長手方向に直交する断面がV字状のVベルトや、ベルト長手方向に延びる複数のリブ部が形成されるVリブドベルトを用いてもよい。
【0049】
また、キャリッジ搬送用ベルト3としては、ベルト長手方向に沿って所定間隔で配置された複数の歯部を有する歯付ベルトを用いてもよい。この場合、1対のプーリ4としては歯付プーリが用いられ、キャリッジ搬送用ベルトを走行させると、ベルトとプーリの歯部の噛み合いにより剥離帯電が生じることとなる。
【0050】
前記実施形態では、キャリッジ搬送用ベルト3は、単一層で構成されているが、複数層で構成されていてもよい。この場合、少なくとも1対のプーリ4に接する側の表面電気抵抗値が1.0×10Ω〜1.0×10Ωであればよい。この場合であっても、走行中のキャリッジ搬送用ベルト3と1対のプーリ4との接触によるキャリッジ搬送用ベルト3の帯電を抑制することができ、その結果、キャリッジ本体2aの誘電帯電を抑制することができる。
【0051】
以下、本発明の具体的な実施例を比較例と合わせて説明する。
【0052】
表1に示す仕様の実施例1〜3及び比較例1、2の平ベルトを作製し、表面電気抵抗値を測定したところ、表1に示す結果を得た。
なお、各実施例及び各比較例の成形にはプレポリマー法を採用し、ポリオールがPTMGであって、イソシアネートがTDIであるプレポリマー(Chemtura Corporation製、Adiprene、L-100)を使用し、硬化剤はMOCA(イハラケミカル工業株式会社製、キュアミンMT)を使用し、可塑剤は、DOP(DIC株式会社製)を使用した。また、後述する実施例4〜6及び比較例3、4の平ベルト又は歯付ベルトも同様の材料を用いて、プレポリマー法で作製した。
【0053】
【表1】

【0054】
上記実施例1〜3及び比較例1、2について、図2に示す試験装置51を用いて、帯電圧測定試験を行った。その結果も表1に示す。また、試験装置51の構成を以下に説明する。
【0055】
図2に示すように、各実施例及び各比較例のベルト52を駆動プーリ53と従動プーリ54に懸架した。駆動プーリ53及び従動プーリ54は、ともに直径20mmの平プーリであって、ステンレス鋼(SUS303)で形成されている。駆動プーリ53の回転数は1200r/minであり、従動プーリ54の負荷は30cN・mとした。
【0056】
また、キャリッジを模した樹脂板55(PET樹脂製、板厚1.5mm、ベルト長手方向の長さ30mm、板幅100mm)を、ベルト背面52bから2mm程度離して設置した。
【0057】
さらに、株式会社キーエンス製の高精度静電気センサ(SK-030/200)56を、ベルト背面52bから10mm離れた位置、及び、樹脂板55のベルト52の反対側から50mm遠ざかる位置にそれぞれ配置して、ベルト背面52b及び樹脂板55の帯電圧を測定できるようにした。そして、ベルト52を90秒間走行させて、走行開始から停止後までのベルト背面52b及び樹脂板55の帯電圧をそれぞれ測定した。表1には、走行中の帯電圧の平均値を示している。
【0058】
表1の結果から、表面電気抵抗値が0.65〜86MΩの実施例1〜3のベルト背面52bの帯電圧及び樹脂板55の帯電圧は、表面電気抵抗値が27000MΩの比較例2に比べて明らかに低減している。
【0059】
また、実施例1〜3及び比較例2とも、樹脂板55の帯電圧がベルト背面52bの帯電圧よりも高くなっている。但し、実施例1〜3の樹脂板55の帯電圧は、全て160V以下であって許容範囲内に収まっている。
【0060】
図3は、実施例1及び比較例2の走行開始から停止後の帯電圧の変化を示すグラフである。このグラフを用いて、樹脂板55の帯電圧がベルト52の帯電圧よりも高くなる現象を詳細に確認した。
【0061】
図3に示すように、比較例2では、走行開始直後は、ベルト背面52bの帯電圧が走行樹脂板55の帯電圧よりも高くなっているが、その後、逆に、樹脂板55の帯電圧がベルト背面52bの帯電圧よりも高くなっている。
これは、走行によりベルト52に発生した静電気が、継続的に樹脂板55に対して誘電帯電を生じさせたためと考えられる。
【0062】
また、図3に示すように、比較例2では、走行中のベルト背面52bの帯電圧が、停止後に比べて明らかに高くなっているのに対して、実施例1では、走行中のベルト背面52bの帯電圧は、停止後とほとんど差異がない。従って、実施例1では、走行による帯電が十分に抑制され、そのため、誘電帯電による樹脂板55の帯電も抑制されていると考えられる。
【0063】
また、表1の結果から明らかなように、実施例1〜3のベルト背面52bの帯電圧及び樹脂板55の帯電圧は、あまり差異がない。
実施例1〜3のうち最も表面電気抵抗値の高い実施例3の表面電気抵抗値が86MΩ(0.86×10Ω)であることから、ベルト52の表面電気抵抗値は1.0×108Ω以下であれば、ベルト52及び樹脂板55の帯電を抑制する効果が十分に高いことがわかった。
【0064】
次に、表2に示す仕様の実施例1、4、5と比較例3の平ベルトを作製し、その成形加工性を調べるとともに、表面電気抵抗値を測定した。これらの結果も表2に示す。
【0065】
【表2】

【0066】
その結果、カーボンブラックの添加量が4.0質量部の比較例3では、原料粘度が高すぎて、金型内に十分に充填できず成形加工ができなかった。カーボンブラックの添加量が3.75質量部の実施例5では成形加工が可能であった。これにより、ポリウレタン100質量部に対するカーボンブラックの添加量は3.75質量部以下が好ましいことが分かった。
実施例5の表面電気抵抗値が3.4×10Ωであることから、成形加工性を考慮すると、表面電気抵抗値は1.0×10Ω以上が好ましいことがわかった。
【0067】
次に、表3に示す仕様の実施例6及び比較例4の歯付ベルトを作製し、表面電気抵抗値を測定した。その結果も表3に示す。
【0068】
【表3】

【0069】
上記実施例6及び比較例4の歯付ベルトについて、実施例1〜3及び比較例1、2の平ベルトと同様に、帯電圧測定試験を行い、表3に示す結果を得た。プーリ53、54としては、平プーリに代えて、歯数が30歯の歯付プーリを用い、それ以外の試験条件は上記と同様とした。
【0070】
表3の結果から明らかなように、実施例6のベルト背面52bの帯電圧及び樹脂板55の帯電圧は、比較例4に比べて明らかに低減している。
【0071】
また、表1及び表3の結果から、実施例6及び比較例4のベルト背面52bの帯電圧及び樹脂板55の帯電圧は、表面電気抵抗値がそれぞれ同じ実施例1及び比較例1と比べるとほぼ半分の値に低減している。
これは、歯付ベルトの場合、ベルトとプーリの歯部の噛み合いにより剥離帯電が生じるが、摩擦帯電はほとんど生じていないため、ベルトに生じる静電気が少ないためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】(a)は本発明の実施の形態に係るキャリッジ搬送装置の構成を示す正面断面図であり、(b)は(a)のX―X線断面図である。
【図2】実施例で用いた試験装置の構成を示す図である。
【図3】実施例1及び比較例2について、表面電気抵抗値と帯電圧との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0073】
1 キャリッジ搬送装置
2 キャリッジ
2a キャリッジ本体
2b 連結部
2c 側面
3 キャリッジ搬送用ベルト
3a ベルト表面
3b ベルト背面
4 1対のプーリ
5 駆動プーリ
6 従動プーリ
10 リニアエンコーダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェットヘッドが搭載された合成樹脂製のキャリッジが取り付けられるとともに、1対のプーリに懸架され、前記キャリッジを搬送するキャリッジ搬送用ベルトであって、
少なくとも前記1対のプーリに接する側の表面電気抵抗値が、1.0×10Ω〜1.0×10Ωであることを特徴とするキャリッジ搬送用ベルト。
【請求項2】
ポリウレタン100質量部に対して、カーボンブラックが0.5〜3.75質量部添加されたポリウレタン組成物からなることを特徴とする請求項1に記載のキャリッジ搬送用ベルト。
【請求項3】
前記キャリッジ搬送用ベルトが、摩擦伝動ベルトであることを特徴とする請求項1又は2に記載のキャリッジ搬送用ベルト。
【請求項4】
前記キャリッジ搬送用ベルトが、ベルト長手方向に沿って所定間隔で配置された複数の歯部を有する歯付ベルトであることを特徴とする請求項1又は2に記載のキャリッジ搬送用ベルト。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−29834(P2010−29834A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−197681(P2008−197681)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】