説明

キレート形成基含有吸着材料の製造方法

【課題】溶液中に存在する金属イオンやホウ素・ゲルマニウム等の半金属を効率的に吸着除去及び回収することが出来る吸着材の製造方法を提供する。
【解決手段】高分子成型体の表面に重合性単量体を放射線グラフト重合法により導入した後、得られたグラフト重合体の側鎖にキレート形成基を導入する。本発明の好ましい態様においては、重合性単量体は、グリシジルメタクリレート又はグリシジルアクリレートであり、キレート形成基は、イミノジ酢酸基、N−メチルグルカミン基、ポリオールと窒素から構成されるキレート形成基またはジオール基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はキレート形成基含有吸着材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属イオン、ホウ素などの除去・回収法としてキレート樹脂吸着法が知られている。
【0003】
しかしながら、キレート樹脂は、三次元架橋構造を有している高分子母体にキレート形成基が導入された構造であることから、キレート形成基密度が低く、また、樹脂内部へのイオンの拡散移動に長時間を要し、吸着速度が遅いという問題ある。更に、高流速で流すと差圧が大きくなるという通液特性上の欠点もある。
【0004】
一方、放射線グラフト重合技術を応用した各種機能性材料に関する技術が報告されており(例えば、非特許文献1参照)、本技術を応用して既存の基材に新たな機能を導入する研究が行われている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「グラフト重合のおいしいレシピ」(斎藤恭一、須郷高信共著、丸善株式会社 2008年2月15日発行)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、グラフト(接ぎ木)重合を利用し、市販のキレート樹脂の有する欠点を排除した新規なキレート形成基含有吸着材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、例えば不織布や繊維の高分子成型体の表面にキレート形成機能を有するグラフト(接ぎ木)高分子鎖を高密度に付与することにより、上記の目的を達成し得るとの知見を得た。
【0008】
本発明は、上記の知見に基づき達成されたものであり、その要旨は、高分子成型体の表面に重合性単量体を放射線グラフト重合法により導入した後、得られたグラフト重合体の側鎖にキレート形成基を導入することを特徴とするキレート形成基含有吸着材料の製造方法に存する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、市販のキレート樹脂に比べ、高い液体透過性を有し、金属イオンやホウ素等の半金属除去・回収能に優れた吸着材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、実施例2のキレート繊維による塩水中のCa除去試験の結果を示すグラフである。
【図2】図2は、市販のキレート樹脂(ダイヤイオンCR11)による塩水中のCa除去試験の結果を示すグラフである。
【図3】図3は、実施例3のキレート繊維と市販のキレート樹脂(ダイヤイオンCRB05)によるホウ素の捕集効率の比較試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明において、吸着材料の基材として使用される高分子成型体としては、その表面に重合性単量体を放射線グラフト重合法により導入し得る限り特に制限されず、例えば、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。勿論、共重合体であってもよい。また、高分子成型体の形態についても、特に制限されず、例えば、既存の繊維や不織布やそれらの加工品を使用することが出来る。
【0013】
高分子成型体の表面に放射線グラフト重合法により導入する重合性単量体(官能基を有する重合性単量体)としては、特にエポキシ基を有する重合性単量体が好適に使用される。エポキシ基を有する重合性単量体の具体例としては、グリシジルメタクリレートやグリシジルアクリレートが挙げられる。また、目的とする吸着材料の用途や機能に応じ、親水性基を有する重合性単量体、例えば、ヒドロキシエチルメタクリレート、ビニルピロリドン、ジメチルアクリルアミド、エチレングリコールジメタクリレート等を混合して使用することも出来る。
【0014】
先ず、本発明においては、高分子成型体の表面に重合性単量体を放射線グラフト重合法により導入する。
【0015】
放射線グラフト重合法は公知の方法に従って行うことが出来る。電離性放射線としては、紫外線、電子線、X線、α線、β線、γ線などを使用することが出来る。また、放射線の照射方法としては、(1)基材と重合性単量体とを共存下に放射線を照射する同時照射法と、(2)予め基材のみに放射線を照射した後に基材と重合性単量体とを接触させる前照射法の何れも可能である。前照射法は、グラフト重合以外の副反応が生じ難いため好適に使用される。照射条件は、吸着材料の物理的・化学的性能の観点から適宜選択される。高分子成型体の表面に放射線グラフト重合法により導入する重合性単量体の割合(グラフト率)は、任意に選択することが出来る。グラフト率は、通常30〜200%、好ましくは60〜100%である。
【0016】
次いで、本発明においては、上記で得られたグラフト重合体の側鎖(官能基)にキレート形成基を導入する。キレート形成基としては、イミノジ酢酸基、N−メチルグルカミン基、ポリオールと窒素から構成されるキレート形成基またはジオール基官能基が挙げられる。キレート形成基は1種に限定されず2種以上でもよい。
【0017】
放射線グラフト重合法により導入する重合性単量体としてエポキシ基を有する重合性単量体は次の利点がある。すなわ、エポキシ基の高い反応性を利用することにより、適当な試薬との反応により容易にキレート形成基に変換することが出来る。例えば、エポキシ基と、N−メチルグルカミン、2−アミノ−2ヒドロキシルメチル1,3プロパンジオール、イミノジ酢酸などの1種又はそれ以上とを反応させることにより、金属イオンやホウ素などの半金属に対して吸着機能を有する官能基を形成することが出来る。更に、残存エポキシ基を希薄な酸溶液で開環してジオール基に変換することも出来る。
【0018】
本発明の製造方法で得られたキレート形成基含有吸着材料は、モール状繊維、ワインドタイプフィルター、フィルター状など種々の形態で使用可能である。本発明の製造方法で得られた吸着材料は次のような特徴を有する。すなわち、市販のキレート樹脂と異なり、グラフト重合法を採用したことによって架橋高分子構造を有しておらず、立体障害が少ないため、キレート形成基が高密度に導入されており、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、水銀、銅、ニッケル、コバルト、カドミウム、鉄等の金属イオンやホウ素、ゲルマニウム、砒素、セレン等の半金属を含む溶液から、金属イオンや半金属の除去・回収を高速かつ高容量で行い得る。
【0019】
従って、本発明の製造方法で得られた吸着材料は、IT分野、製薬分野、金属分野、メッキ分野、電力分野、海水淡水化分野などにおける用水や排水中からの金属イオンや半金属の除去・回収処理に好適に利用することが出来る。具体的には、超純水中に微量含まれる金属イオンの除去、イオン交換膜法食塩電解に使用される飽和食塩水中に含まれる微量カルシウムイオンやストロンチウムイオンの除去(塩水二次精製)、耐火レンガの材料であるマグネシア中の微量ホウ素の除去・回収、石炭火力発電所や電子部品工場などからの排水に含まれるホウ素の除去・回収、RO膜による海水淡水化処理水中の微量ホウ素除去などに好適に利用することが出来る。なお、吸着材料に吸着された金属イオンや半金属の溶離・回収は、希薄な酸溶液などにより容易に行うことができ、また、吸着材料の繰り返し利用も可能である。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0021】
実施例1:
窒素雰囲気下、市販のポリプロピレン(PP)繊維の表面に25kGyの電子線を照射した後、グリシジルメタクリレート20重量%のメタノール溶液に40℃で6時間浸漬し、PP繊維にグラフト鎖を付与した。以下の式(1)により定義されるグラフト率は116%であった。
【0022】
[数1]
グラフト率[(w/w)%]=100×(付与したグラフト鎖の重量)/(基材の重量) 式(1)
【0023】
次いで、上記のグラフト重合繊維を0.4Mイミノジ酢酸溶液(ジオキサン:水=4:6)に80℃で48時間浸漬した。得られたキレート繊維には1キログラム当り1.1モルのイミノジ酢酸基が導入された。
【0024】
次いで、得られたキレート繊維をカラムに充填し、このカラムにニッケルイオンを含む水溶液(10mM硫酸ニッケル/酢酸バッファー(pH5))をSV=156[−/h]で通液した。カラム出口からの液を連続的に採取し、ニッケルイオン濃度を吸光光度計で測定した。以下の各式(2)〜(4)により、平衡吸着容量、動的吸着容量、捕集効率をそれぞれ算出した。
【0025】
【数2】

【0026】
キレート繊維のニッケル捕集効率は26%であった。また、SV=64[−/h]で通液した場合の市販のイミノジ酢酸基が導入されたスチレン系キレート樹脂(三菱化学株式会社製「ダイヤイオンCR11」)のニッケル捕集効率は11%であった。このように、本発明の製造方法で得られたキレート繊維は、市販のイミノジ酢酸基が導入されたキレート樹脂に比べ、2.4倍の高流速で通液しても高い捕集効率を示した。
【0027】
実施例2:
窒素雰囲気下、市販のナイロン(Ny)繊維の表面に200kGyの電子線を照射した後、グリシジルメタクリレート10重量%メタノール溶液に40℃で10分浸漬し、Ny繊維にグラフト鎖を付与した。前記の式(1)で定義されるグラフト率は78%であった。
【0028】
次いで、上記のグラフト重合繊維を0.4Mイミノジ酢酸溶液(ジオキサン:水=4:6)に80℃で12時間浸漬した。得られたキレート繊維には1キログラム当り1.2モルのイミノジ酢酸基が導入された。
【0029】
次いで、得られたキレート繊維をカラムに充填し、このカラムにニッケルイオンを含む水溶液(7mM硫酸ニッケル/酢酸バッファー(pH5))をSV30〜300[−/h]で通液した。カラム出口からの液を連続的に採取し、ニッケルイオン濃度を吸光光度計で測定し、前記の式(4)で定義された捕集効率を算出した。その結果を市販のイミノジ酢酸基が導入されたスチレン系キレート樹脂(三菱化学株式会社製「ダイヤイオンCR11」)について同様の測定・算出を行った結果と共に表1に示した。このキレート繊維のニッケル捕集効率は全てのSVにおいて70%を超えており、市販のイミノジ酢酸基が導入されたキレート樹脂の捕集効率42%を上回っていた。
【0030】
【表1】

【0031】
実施例2のキレート繊維をカラムに充填し、このカラムに1.5ppmのカルシウムイオンを含む飽和食塩水溶液(pH9)をSV120[−/h]で通液した。カラム出口からの液を連続的に採取し、カルシウムイオン濃度を誘導結合プラズマ質量分析計で測定した。その結果を図1に、また、市販のキレート樹脂(ダイヤイオンCR11)について、SVのみ30に変更した条件で行った試験結果を図2に示した。図1及び図2において、横軸は、流出液体積/吸着材体積を示し、縦軸は、C/C0=(流出液濃度/供給液濃度)を示す。
【0032】
キレート繊維の場合は、カラム体積の500倍量の供給液を流しても出口液中にカルシウムイオンの漏出は認められなかった。一方、市販のイミノジ酢酸基が導入されたキレート樹脂の場合は、SVを1/4に落とした低流速にも拘わらず、カラム体積の100倍量しか処理できなかった。
【0033】
実施例3:
窒素雰囲気下、市販のナイロン(Ny)繊維の表面に200kGyの電子線を照射した後、グリシジルメタクリレート10重量%メタノール溶液に40℃で13分間浸漬し、Ny繊維にグラフト鎖を付与した。前記の式(1)で定義されるグラフト率は73%であった。
【0034】
次いで、上記のグラフト重合繊維を0.2MのN−メチルグルカミン溶液(水:ジオキサン=4:6の混合溶媒)に80℃で5時間浸した。得られたキレート繊維には1キログラム当り1.5モルのキレート形成基(N−メチルグルカミン基)が導入された。
【0035】
次いで、得られたキレート繊維をカラムに充填し、このカラムに150ppmのホウ素溶液(pH7の0.2Mリン酸緩衝液)をSV20[−/h]で通液した。カラム出口からの液を連続的に採取し、発色試薬で呈色させた後、吸光度(波長415nm)を測定することによりホウ素濃度を求めた。前記の式(4)で定義されるホウ素の捕集効率はキレート繊維の場合は、60%であった。一方、市販のN−メチルグルカミン基が導入されたキレート樹脂(三菱化学株式会社製「ダイヤイオンCRB05」)の場合は、23%であった。このように、本発明の製造方法で得られたキレート繊維は、市販のN−メチルグルカミン基が導入されたキレート樹脂に比べ、捕集効率は2.6倍、高い値を示した。上記のホウ素の捕集効率の比較試験の結果を図3に示した。図3において、横軸は、流出液体積/吸着材体積を示し、縦軸は、C/C0=(流出液濃度/供給液濃度)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子成型体の表面に重合性単量体を放射線グラフト重合法により導入した後、得られたグラフト重合体の側鎖にキレート形成基を導入することを特徴とするキレート形成基含有吸着材料の製造方法。
【請求項2】
重合性単量体がグリシジルメタクリレート又はグリシジルアクリレートである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
キレート形成基が、イミノジ酢酸基、N−メチルグルカミン基、ポリオールと窒素から構成されるキレート形成基またはジオール基である請求項1又は2に記載の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−167606(P2011−167606A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32441(P2010−32441)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(000232863)日本錬水株式会社 (75)
【出願人】(502017364)株式会社 環境浄化研究所 (4)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】