説明

ギヤ油組成物

【課題】 低粘度化することによる省燃費効果とベアリング疲労寿命特性を両立させた自動車用駆動系ギヤ油組成物、特に終減速ギヤ油として有効な潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】
基油と該基油に配合した少なくとも一種のギヤ油用添加剤とからなるギヤ油組成物であって、
前記基油が、
(A)100℃における動粘度3.5〜7mm2/sの鉱油および/または
炭化水素系合成油と、
(B)100℃における動粘度20〜52mm2/sの鉱油および/または
炭化水素系合成油とを含有してなり、
前記組成物の40℃における動粘度が80mm2/s以下である
ことを特徴とするギヤ油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギヤ油組成物に関するものであり、さらに詳しくは自動車用駆動系ギヤ油組成物、特に終減速ギヤ油組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境の保全対策が不可避な課題となるに伴ない、自動車その他の動力機関から排出される地球環境負荷物質の低減ならびに燃料消費量の減少につながる省燃費化技術の開発およびその確立が一層重要なものとなり、自動車に使用される各種潤滑油に対しては低粘度化および低摩擦化による燃費向上への取り組みが強力に進められている。
【0003】
かかる燃費向上への取り組みにおいては、たとえ低粘度化した潤滑油であっても潤滑油としての既存性能を確保することが重要な前提事項である。例えば、自動車用駆動系潤滑油のうちでも自動車用ギヤ油、特に終減速機に用いられる潤滑油としては、極圧性、耐摩耗性をはじめ耐荷重性を維持することが当然ながら不可欠な事項として要求されている。
【0004】
すなわち、具体的には、自動車の駆動系に変速機(ミッション)と共に搭載されている終減速機(ディファレンシャル)は、(1)変速機で減速された動力を、さらに減速し、かつ方向を直角に変更する機能と、(2)車両が旋回する際に左右の駆動輪に回転差が生じても、円滑な運転を確保する差動機能とを有しているが、かかる終減速機に用いられる歯車伝達機構のハイポイドギヤは、高速回転/高荷重という潤滑条件が厳しく、過酷な条件にさらされるため、耐荷重能(焼付防止性や摩耗防止性等)に優れたギヤ油が必要であり、低粘度化してもギヤ油として歯面間における油膜形成能力を保持できることが前提条件として要求されるのである。
【0005】
従って、低粘度化により燃費向上を達成するには、高温条件下においても従来と同様の性能が保証されなければならず、高温下での油膜の形成と維持に必要な一定の粘度を保持する必要がある。
【0006】
高温条件下において一定の粘度を確保するには、従来から一般に粘度指数向上剤が配合されているが、高剪断条件下においては、粘度指数向上成分として使用される高分子ポリマーが配向するため、期待以上には油膜厚さが確保できないという問題点が包蔵されている。
【0007】
かかる事情から、従前には、市販の終減速機用潤滑油として、低粘度化されたものが開発されておらず、そのほとんどが40℃における動粘度が85mm2/s以上のものであり、40℃動粘度が80mm2/s以下に低粘度化された終減速機用潤滑油が実用化されていないという実状にあった。
【0008】
かかる状況に鑑み、粘度指数向上剤を用いるマルチグレード油の永久粘度低下を防止することができ、高温下で一定の粘度を保持すると共に低温でも粘度の小さい温度特性改良潤滑油を狙ったものとして、(A)100℃動粘度が1.5〜50cSt、流動点−30℃以下の低温流動性を有する鉱油系基油、(B)数平均分子量2000〜8000のエチレン−α−オレフィン共重合体0.5〜20重量%および(C)極圧剤、耐摩耗剤、油性剤および清浄分散剤からなる潤滑油組成物が提案されている(特許文献1(特許第2555284号公報)参照。)。
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載された潤滑油組成物は、その成分(B)のエチレン−α−オレフィン共重合体の数平均分子量が2000〜8000と大きく、実施例で示しているように数平均分子量3600の100℃動粘度が2000mm2/s以上のものである。かかる高分子量のエチレン−α−オレフィン共重合体を用いた潤滑油組成物は、油膜形成能力に劣るためベアリング疲労寿命特性が確保できないという問題点があった。
【0010】
一方、モリブデン系摩擦調整剤とポリメタアクリレート系粘度指数向上剤の使用により酸化劣化後においても摩擦低減が可能であることに着目し、省燃費化も検討されているが(特許文献2(特許第2906024号公報)参照。)、摩擦調整剤の耐久性に難点を有するものが多く、摩擦調整剤の利用による省燃費化には、未だ残された解決課題は多いものといえる。
【0011】
以上の状況において、省燃費化には潤滑油の低粘度化が最も有効な手段の一つであることから、低粘度化油であっても、高温下での油膜の形成が確保でき、ベアリング疲労寿命特性が維持可能な自動車用駆動系ギヤ油組成物、特に終減速ギヤ油組成物の開発が切望されてきた。
【特許文献1】特許第2555284号公報
【特許文献2】特許第2906024号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の課題は、低粘度化により省燃費効果の向上を図ると共に、ベアリング疲労寿命特性を両立させることができる組成を有するギヤ油組成物、具体的には自動車用駆動系ギヤ油組成物、特に終減速ギヤ油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで、本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、各粘度が互いに相違する二種以上の基油、すなわち、100℃動粘度が3.5〜7mm2/sに特定された鉱油および/または炭化水素系合成油からなる低粘度基油と100℃動粘度が20〜52mm2/sに特定された炭化水素系合成油からなる高粘度基油を含有してなり、特定の40℃動粘度を有するギヤ油組成物が、前記の課題とする低粘度化による省燃費性とベアリング疲労寿命特性とを両立させ得ることに想到し、かかる知見に基いて本発明の完成に到達した。
【0014】
かくして、本発明によれば、
基油と該基油に配合した少なくとも一種のギヤ油用添加剤とからなるギヤ油組成物であって、
前記基油が、
(A)100℃における動粘度3.5〜7mm2/sの鉱油および/
または炭化水素系合成油と、
(B)100℃における動粘度20〜52mm2/sの鉱油および/
または炭化水素系合成油とを含有してなり、
前記組成物の40℃における動粘度が80mm2/s以下である
ことを特徴とするギヤ油組成物
が提供される。
【0015】
また、本発明によれば、前記ギヤ油組成物に用いられる基油であって、(A)100℃における動粘度3.5〜7mm2/sの鉱油および/または炭化水素系合成油と、(B)100℃における動粘度20〜52mm2/sの鉱油および/または炭化水素系合成油とを含有してなることを特徴とするギヤ油組成物用基油
が提供される。
【0016】
さらに、本発明によれば、
基油と該基油に配合した少なくとも一種のギヤ油用添加剤とからなるギヤ油組成物であって、前記基油が、(A)100℃における動粘度3.5〜7mm2/sの鉱油および/または炭化水素系合成油と、(B)100℃における動粘度20〜52mm2/sの鉱油および/または炭化水素系合成油とを含有してなり、前記組成物の40℃における動粘度が80mm2/s以下であるギヤ油組成物
を自動車の終減速ギヤの潤滑に用いることを特徴とする自動車用終減速ギヤの燃費低減方法
が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るギヤ油組成物は、自動車用ギヤ油組成物、特に終減速ギヤ油組成物として、前記の如き特定の粘度範囲を有する少なくとも二種の基油を組み合せて構成され、組成物の40℃動粘度が80mm2/s以下に低粘度化されたものであり、省燃費効果の向上および省燃費効果の向上とは二律相反するベアリング疲労寿命特性にも優れた効果を併せて奏することができる。
【0018】
本発明によれば、炭化水素系合成油からなる高粘度基油を用いることにより、特定の高粘度成分を含有させ、かつ鉱油および/または炭化水素系合成油からなる低粘度基油を併用することにより、分子量分布範囲が拡大すると共に、高温においても高粘度を維持できる高粘度指数効果を奏するので低粘度化による省燃費化を達成し、併せて十分な油膜厚さを形成・維持することができ、摩擦面をいわゆる流体潤滑状態にしたものである。
【0019】
そして、油膜厚さを十分増大させることができれば、これにより摩擦面の損傷も生じることがなく、ベアリング疲労寿命特性を著しく改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、前記のように特定の動粘度を有する高粘度基油をギヤ油組成物の40℃動粘度が80mm2/s以下になるように低粘度基油で希釈してなる潤滑油基油を含有する低粘度化されたギヤ油組成物を提供するものであるが、さらに好ましい実施の形態として次の1)〜8)に掲げるものを包含する。
【0021】
1)前記低粘度基油の100℃動粘度と前記高粘度基油の100℃動粘度との差が、
13mm2/s以上である前記ギヤ油組成物。
2)前記低粘度基油が、100℃動粘度3.5〜7mm2/sの範囲内の一種または二種
以上の鉱油および/またはポリ−α−オレフィンもしくはエチレン−α−オレ
フィン共重合体からなる炭化水素系合成油である前記ギヤ油組成物。
3)高粘度基油が、100℃動粘度20〜52mm2/s の範囲内の一種または二種以
上のポリ−α−オレフィンおよび/またはエチレン−α−オレフィン共重合体
からなる炭化水素系合成油である前記ギヤ油組成物。
4)硫黄系添加剤、リン系添加剤、無灰系分散剤、流動点降下剤、消泡剤、酸化防
止剤、防錆剤および摩擦調整剤からなる群より選択される少なくとも一種の添
加剤を配合してなる前記ギヤ油組成物。
5)硫黄系添加剤およびリン系添加剤からなる群から選択された少なくとも一種の
極圧剤と、無灰系分散剤、流動点降下剤、消泡剤、酸化防止剤、防錆剤、腐蝕
防止剤および摩擦調整剤からなる群より選択される少なくとも一種の添加剤と
を含有してなる前記ギヤ油組成物。
6)前記硫黄系添加剤が、硫化オレフィンであり、リン系添加剤が、酸性リン酸エ
ステルおよび/または酸性亜リン酸エステルのアルキルアミン塩である前記ギ
ヤ油組成物。
7)さらに、エステルからなる相溶化剤が配合されてなる前記ギヤ油組成物。
8)前記ギヤ油組成物が、自動車用終減速ギヤ油組成物である前記ギヤ油組成物。
【0022】
以下、本発明に係るギヤ油組成物の構成成分について詳細に説明する。
本発明に係るギヤ油組成物は、(A)低粘度基油と(B)高粘度基油を混合してなるものであり、さらに、必要に応じて(C)ギヤ油用添加剤を混合してなり、各成分(A)、(B)および(C)を、該ギヤ油組成物の40℃動粘度が80mm2/sを超えないように制御された割合で混合されてなるものである。かかるギヤ油組成物は、省燃費性改善の観点から40℃動粘度が80mm2/s 以下に制御されたものであり、好ましくは、40℃動粘度が70〜80mm2/s、特に好ましくは、70〜76mm2/sの範囲に制御されたものである。
【0023】
本発明に係るギヤ油組成物用基油は、前記(A)(B)および(C)からなるギヤ油組成物の40℃動粘度が80mm2/s以下に制御されるように、(B)100℃における動粘度20〜52mm2/sの高粘度基油を100℃における動粘度が20mm2/s未満、好ましくは3.5〜7mm2/sの低粘度基油で希釈してなるものである。
【0024】
本発明に係るギヤ油組成物によれば、後記の如く、添加剤の組成物への粘度の影響は大きくないので、(A)低粘度基油と(B)高粘度基油の各粘度に応じて基油の各混合割合を通常の潤滑油混合方法により決定すれば所望の組成物を完成することができる。
【0025】
本発明に係るギヤ油組成物は、100℃動粘度が互いに異なる低粘度基油と高粘度基油を組合せることにより、得られる混合油の分子量分布の範囲を拡大すると共に高温において高粘度を発揮し高粘度指数効果をもたらし、かつ十分な油膜が形成されるので、流体潤滑状態となり、摩擦面の損傷を防止できることに着目した点に基いて完成したものである。低粘度基油の100℃動粘度と高粘度基油の100℃動粘度の差は、13〜48.5mm2/s、好ましくは、13.5〜43.5 の範囲に設定されたものであることが粘度指数の改善およびベアリング疲労寿命特性の改善の観点から好適であり、100℃動粘度差が50mm2/s 以上の場合においては粘度指数には影響がないが、ベアリング疲労寿命特性の低下が観察されている。
【0026】
前記低粘度基油と組合せる高粘度基油が、従来の技術では予期し得ない特定範囲の100℃動粘度を有するものであり、高粘度指数の発現と油膜厚さの増大により、省燃費化とベアリング疲労寿命特性を両立させたものである。
【0027】
また、流体潤滑状態における油膜厚さの増大は、摩擦面の損傷を回避し、ベアリング疲労寿命特性を改善でき、ギヤ油に要求される極圧性能、耐摩耗性等の耐荷重性能を改善できることも見出した。
【0028】
低粘度基油は、100℃動粘度が7mm2/s 以下、特に、3.5〜7mm2/sの鉱油および/または炭化水素系合成油が好適である。100℃動粘度が7mm2/s を超えるとギヤ油組成物の省燃費性を低下させるおそれがあり、一方、3.5mm2/s に達しないと、高温での粘度を低下させ十分な粘度指数が得られないので高粘度基油との混合効果が現われず、ベアリング疲労寿命特性を低下させるおそれが生ずる。
【0029】
また、高粘度基油は、100℃動粘度が20〜52mm2/s 、好ましくは20〜40mm2/s の炭化水素系合成油であり、特にポリ−α−オレフィンおよびエチレン−α−オレフィン共重合体からなる炭化水素系合成油が好適である。高粘度基油の100℃動粘度が20mm2/s に達しないと、ギヤ油組成物の油膜厚さが十分形成されずベアリング疲労寿命特性が十分発現されないおそれがあり、一方、100℃動粘度が52mm2/s を超えると、予想に反して油膜形成能力を低下させ、ベアリング疲労寿命特性を確保できないおそれがある。
【0030】
以下に、低粘度基油および高粘度基油の調製に用いられる各種基材について説明する。
前記低粘度基油および高粘度基油として用いられる鉱油系基油(GTL系基油を含む。)は、基材として、パラフィン系、中間基系またはナフテン系原油の常圧蒸留装置残渣油の減圧蒸留による留出油として得られる潤滑油留分を溶剤精製、水素化分解、水素化処理、水素化精製、溶剤脱蝋、接触脱蝋、白土処理等の各種精製工程を任意に選択して用いることにより処理して得られる溶剤精製鉱油または水素化処理油等の鉱油、減圧蒸留残渣油の溶剤脱瀝処理により得られる脱瀝油を前記の精製工程により処理して得られる鉱油、またはワックス分の異性化により得られる鉱油等またはこれらの混合油を挙げることができる。
【0031】
また、GTL系基油としては、GTLプロセスにより天然ガス等を原料として得られる液体生成物から分離される潤滑油留分、または生成ワックスの水素化分解により得られる潤滑油留分等を挙げることができる。さらには、アスファルト等の重質残油成分を原料とするATL(Asphalt to Liquid)プロセスにより得られる液状生成油から分離される潤滑油留分等も基油基材として用いることができる。
【0032】
前記の溶剤精製においては、フェノール、フルフラール、N−メチル−2−ピロリドン等の芳香族抽出溶剤が用いられ、また、溶剤脱蝋の溶剤としては、液化プロパン、MEK(メチルエチルケトン)/トルエン等が用いられる。一方、接触脱蝋においては、例えば形状選択性ゼオライト等が脱蝋触媒として用いられる。
【0033】
前記の如き鉱油系基油の基材は、粘度レベルにより軽質ニュートラル油、中質ニュートラル油、重質ニュートラル油、ブライトストック等として提供される。
【0034】
一方、合成油系基油としては、炭化水素系合成油、例えば、次に挙げる炭化水素重合体および炭化水素共重合体の群より選択することができる。
ポリ−α−オレフィン;
ポリ−α−オレフィンとしては、例えば、ポリ−1−ヘキセン、
ポリ−1−オクテン、ポリ−1−デセン等およびこれらの混合物
を挙げることができる。かかるポリ−α−オレフィンのオレフィ
ンモノマーは、ここに記載のものに限定されるものではなく、通
常C〜C10のオレフィンを単独または混合したものが重合原料
として用いられる。
ポリブテン;
エチレン−アルキレンコポリマー;
エチレン−α−オレフィン共重合体としては、例えば、エチレン
と炭素数3〜20のα−オレフィン共重合体、具体的にはエチレ
ンとプロピレン、1−ブテン、1−オクテン、1−デセン等のα
−オレフィンの一種または二種以上の混合物との共重合体等を挙
げることとができる。
【0035】
かかる合成油は、炭化水素系低重合油であり、重合度の制御により各種の粘度を有するものを製造することができるが、市販品においても100℃動粘度が10mm2/s程度のものから3000mm2/s程度のものが提供されているので本発明に係るギヤ油組成物の低粘度基油および高粘度基油として所定粘度に適合するものを選択することができる。
【0036】
また、合成系基油の基材としては、アルキルベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジ(2−エチルヘキシル)ベンゼン、ジノニルベンゼン等。);ポリフェニル(例えば、ビフェニル、アルキル化ポリフェニル等。);アルキル化ジフェニルエーテルおよびアルキル化ジフェニルスルフィドおよびこれらの誘導体を挙げることもできる。
【0037】
本発明に係るギヤ油組成物の構成成分として特に好適な低粘度基油は、100℃動粘度3.5〜7mm2/s の溶剤精製鉱油または水素化処理鉱油等からなる鉱油系基油、ポリ−α−オレフィン(略称;PAO)、エチレン−α−オレフィン共重合体(略称;EAO)等からなる炭化水素系合成油系基油が挙げられるが、かかる基油のなかでも特に鉱油系基油が経済性の観点から好適である。
【0038】
また、前記高粘度基油は、鉱油系基油および炭化水素系合成油系基油のいずれでもよいが、特に炭化水素系合成油が好適であり、前記の基油の基材から一種または二種以上を選択し、高粘度基油として必要な粘度、すなわち、100℃動粘度が20mm2/s〜52mm2/s 、好ましくは20〜40mm2/s になるように適宜混合することにより調製される。高粘度基油としては、炭化水素系合成油、特にエチレン−α−オレフィン共重合体、ポリ−α−オレフィンが好ましい。
【0039】
次に、本発明に係るギヤ油組成物に用いられる各種添加剤について説明する。
本発明に係るギヤ油組成物は、自動車駆動系のギヤ油として耐荷重能が高いことが重要である。特に終減速機のハイポイドギヤ用として歯面間における厚い油膜の形成・維持が要求されるので、極圧性能を保持することにより、耐荷重能をさらに改善するため極圧剤として硫黄系添加剤、耐摩耗剤としてリン系添加剤が配合される。
【0040】
前記硫黄系添加剤としては、硫化オレフィンで代表される炭化水素サルファイド化合物および硫化油脂からなる群より選択される少なくとも一種の硫黄化合物を含有する添加剤を挙げることができる。
【0041】
該炭化水素サルファイド化合物としては、例えば、
次の一般式(1)
【0042】
【化1】

で表される硫黄化合物が包含される。
【0043】
前記一般式(1)において、R1 およびR2 は、鎖状または環状の炭化水素基であり、互いに同一でもまたは異なるものでもよく、炭素数1〜20の直鎖状または分岐状アルキル基、炭素数2〜20の直鎖状または分岐状アルケニル基、炭素数6〜26の芳香族基、炭素数3〜26の脂環族基等を挙げることができる。また、該芳香族基は、炭素数4〜12のアルキル基またはアルケニル基で置換されたものでもよい。好ましい炭化水素基は、炭素数4〜12のアルキル基またはアルケニル基であり、具体的には、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基およびこれらの各分岐状異性体であり、アルケニル基として、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基およびこれらの各分岐状異性体を挙げることができる。
【0044】
また、前記一般式(1)において、xは1以上、好ましくは2以上の整数であり、モノサルファイド化合物、ジサルファイド化合物、トリサルファイド化合物、ポリサルファイド化合物を包含する。
【0045】
従って、一般式(1)で表される好ましい化合物は、ジアルキルポリサルファイドおよびジアルケニルポリサルファイドであり、具体例として、例えば、ジイソブチルジサルファイド、ジイソブチルポリサルファイド、ジヘキシルポリサルファイド、ジオクチルポリサルファイド、ジ−t−ノニルポリサルファイド、ジデシルポリサルファイド、ジドデシルポリサルファイド、ジイソブチレンポリサルファイド、ジオクテニルポリサルファイド、さらに、ジベンジルポリサルファイド等を挙げることができるが、特に好適なポリサルファイド化合物は、硫化オレフィン(ジイソブチレンポリサルファイド)である。硫化オレフィンとしては、ポリイソブチレン等のオレフィン類を硫化剤により硫化して得られるものを用いることができ、本発明に係るギヤ油組成物には硫黄元素として1〜5重量%、特に15〜3重量%のポリサルファイドが好適である。
【0046】
また、硫化油脂としては、油脂類と硫黄との反応生成物を挙げることができ、硫黄元素含有量が5〜20重量%のものが用いられる。
【0047】
かかる硫黄系添加剤は、ギヤ油組成物の全重量を基準として硫黄元素量として、1〜5重量%の範囲で配合され、特に好ましい配合量は、1.5〜3重量%である。
【0048】
また、リン系添加剤としては、リン酸エステル、亜リン酸エステル、酸性リン酸エステル、酸性亜リン酸エステルまたはこれらの各アミン塩からなる群より選択される少なくとも一種のリン含有化合物を挙げることができる。
【0049】
前記リン酸エステルは、例えば、
一般式(2)
【0050】
【化2】

で表すことができ、
また、亜リン酸エステルは、
一般式(3)
【0051】
【化3】

で表すことができる。
【0052】
前記各式中のR1、R2 は、それぞれ炭化水素基であり、炭素数1以上、好ましくは炭素数4以上、特に4〜20のアルキル基、アルケニル基、アリール基、またはアルキルアリール基であり、互いに同一でもまたは異なるものでもよい。アルキル基およびアルケニル基は直鎖状または分岐状のいずれでも差し支えがない。mおよびnはそれぞれ1、2または3であり、式中、複数のR、Rは、それぞれ同一でもまたは異なるものでもよい。
【0053】
これらの酸性リン酸エステルおよび酸性亜リン酸エステルのなかで代表的なものとしてオレイルアシッドホスフェート [(C18H35O)P(OH)2O と (C18H35O)2P(OH)O の混合物]、ジオレイルハイドロゲンホスファイト [(C18H35O)2P(OH)] 等を挙げることができる。
【0054】
一方、酸性リン酸エステルのアルキルアミン塩は、酸性リン酸エステルとアルキルアミンとの反応生成物であり、例えば、
一般式(4)
【0055】
【化4】

で表される。
また、酸性亜リン酸エステルのアルキルアミン塩は、例えば、
一般式(5)
【0056】
【化5】

で表すことができる。
【0057】
前記一般式(4)、(5)において、R、Rは、それぞれ炭化水素基であり、好ましくは、炭素数1以上、特に4〜20のアルキル基、アルケニル基、アリール基またはアルキルアリール基である。アルキル基およびアルケニル基は、直鎖状、分岐状または環状のいずれでもよい。また、R、Rは、それぞれ炭化水素基であり、炭素数1以上、特に4〜20のアルキル基、アルケニル基、アリール基またはアルキルアリール基であり、アルキル基およびアルケニル基は、直鎖状、分岐状または環状のいずれでもよい。
m、n、pは、それぞれ1または2である。また、当該式中、それぞれ複数のR〜Rが存在する場合は、それぞれ同一でもまたは異なるものでもよい。
【0058】
前記一般式(4)、(5)において、R〜Rとしては、例えば、それぞれブチル基、ヘキシル基、シクロへキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、デシル基、ラウリル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基、オレイル基、エイコシル基等を挙げることができる。
【0059】
本発明に係るギヤ油組成物にとって酸性リン酸エステルおよび酸性リン酸エステルアミン塩が特に好ましい。
【0060】
酸性リン酸エステルのアルキルアミン塩の代表例として、ジイソオクチルアシッドホスフェート・オレイルアミン塩 [(i-C8H17O)2P(OH)O と (C18H35)NH との反応生成物]、ジ−9−オクタデセニルアシッドホスフェート・オレイルアミン塩等を挙げることができる。
【0061】
これらのリン系添加剤は、1種または2種以上を用いることができ、その配合量は、ギヤ油組成物全重量基準でリン量として0.05〜0.3重量%、好ましくは0.1〜0.25重量%の範囲で用いられる。
【0062】
リン系添加剤は、摩耗防止効果が大きく、硫黄系添加剤の極圧剤としての効果を増進する助剤としての作用も有しており、酸性リン酸エステル、酸性亜リン酸エステルのアミン塩は、特にギヤの摩耗防止性に優れたものである。
【0063】
本発明に係るギヤ油組成物には相溶化剤としてエステルを配合することができる。エステルとしては、二塩基酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スペリン酸、セバチン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸ダイマー等。)と各種アルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール等。)とのエステル;炭素数5〜18のモノカルボン酸とポリオール(例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール等。)とのエステル;その他、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコールエステル、ポリオキシアルキレングリコールエーテル、リン酸エステル等も挙げることができる。これらの相溶化剤の含有量は、ギヤ油組成物全重量基準で10〜25重量%、好ましくは14〜22重量%である。
【0064】
また、本発明に係るギヤ油組成物には、本発明の目的が損なわれない限りにおいて、必要に応じて従来慣用されている各種添加剤を適宜配合することができる。
【0065】
すなわち、自動車用ギヤ油として、すでに述べてきた粘度特性のほか、摩擦特性、酸化安定性、清浄性、消泡性等の多面的な性能を充足させるため、必要に応じて無灰系分散剤、流動点降下剤、消泡剤、酸化防止剤、防錆剤および摩擦調整剤等を適宜選択して使用することができる。なお、粘度指数向上剤については配合の必要がないことが本発明に係るギヤ油組成物の特異性であるが、ベアリング疲労寿命を悪化させない、剪断安定性の良いものについては適量配合してもよい。
【0066】
無灰系分散剤としては、例えば、ポリブテニルコハク酸イミド系、ポリブテニルコハク酸アミド系、ベンジルアミン系、コハク酸エステル系、コハク酸エステル−アミド系およびそれらのホウ素誘導体等を含有するものが挙げられ、これらは、通常0.05〜7重量%の割合で使用される。
【0067】
金属系清浄剤としては、例えば、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のスルホネート、フェネート、サリシレート、カルボキシレートから選択される化合物を含むものが挙げられ、過塩基性塩、塩基性塩、中性塩等の塩基価の異なるものを任意に選択して用いることができる。これらは、通常0.05〜5重量%の範囲で使用することが好ましい。
【0068】
流動点降下剤としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化パラフィンとナフタレンとの縮合物、塩素化パラフィンとフェノールとの縮合物、ポリメタクリレート、ポリアルキルスチレン等が挙げられ、これらは、通常0.1〜10重量%の割合で使用される。
【0069】
消泡剤としては、例えば、ジメチルポリシロキサン、ポリアクリレートおよびそれらのフッ素誘導体、パーフルオロポリエーテル等が挙げられ、これらは通常10〜100ppmの範囲で使用すればよい。
【0070】
また、酸化防止剤を使用する場合は、例えば、アルキル化ジフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキル化フェニル−α−ナフチルアミン等のアミン系酸化防止剤、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、4,4’−メチレンビス−(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、イソオクチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のフェノール系酸化防止剤、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート等の硫黄系酸化防止剤、さらに、ジチオリン酸亜鉛等を挙げることができ、これらは、通常0.05〜5重量%の割合で使用される。
【0071】
防錆剤としては、例えば、脂肪酸、アルケニルコハク酸ハーフエステル、脂肪酸セッケン、アルキルスルホン酸塩、多価アルコール脂肪酸エステル、脂肪酸アミン、酸化パラフィン、アルキルポリオキシエチレンエーテル等が挙げられ、これらは、通常0〜3重量%の割合で使用される。
【0072】
摩擦調整剤としては、例えば、有機モリブデン系化合物、脂肪酸、高級アルコール、脂肪酸エステル、油脂類、アミン、ポリアミド、硫化エステル、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステルアミン塩等が挙げられる。これらは、通常0.05〜5重量%の割合で使用される。
【0073】
本発明に係るギヤ油組成物によれば、添加剤の合計配合量は、特に限定されるものではないが、前記相溶剤を含め、10〜30重量%、好ましくは15〜25重量%の範囲で適宜調整して用いることができる。
【0074】
以上説明してきたように、本発明に係るギヤ油組成物は、構成成分として前記(A)低粘度基油と(B)高粘度基油と、必要に応じ(C)ギヤ油用添加剤とからなり、各成分(A)、(B)および(C)を該ギヤ油組成物の40℃動粘度が80mm2/sを超えないように制御された割合で混合してなるものである。
【0075】
また、本発明によれば、ギヤ油組成物、特に終減速ギヤ油組成物を提供するものであるが、自動車の駆動系潤滑油としてマニュアルトランスミッション(MT)のほか、マニュアルトランスアクスル(MTX)等にも使用することができるので、MT、MTXと終減速機との共通潤滑にも用いることができる。
【実施例】
【0076】
以下、本発明について実施例および比較例によりさらに具体的に説明する。もっとも、本発明はこれらの実施例等により限定されるものではない。
なお、実施例等において、基油としてのエチレン−α−オレフィン共重合体(EAO)は、エチレン−プロピレンコオリゴマーを、ポリ−α−オレフィン(PAO)はデセンを主体とするα−オレフィンオリゴマーを用いた。実施例等中、「%」は「重量%」を示す。
【0077】
また、動粘度の測定方法およびベアリング疲労寿命特性の評価方法を次に示す。
動粘度の測定方法
40℃における動粘度(KV40℃)および100℃における動粘度(KV100℃)の測定は、ASTM D445の方法に依った。
ベアリング疲労寿命特性評価
トライボロジー・トランスアクションズ(Tribology Transactions), 39, (3), 720-725 (1996) に記載された流体膜の測定装置および測定方法に準じて、図1に示す要領にて下記条件下でディスクとローラー間に形成された油膜を光干渉法で測定した。
油膜;23℃
周速;0.2m/s
面圧(平均ベルツ圧);0.6GPa
燃費試験
SUV車を用いたLA♯4+highwayモードを採用した。
【0078】
[実施例1]
100℃動粘度6.5mm2/sの精製鉱油11%、100℃動粘度20mm2/sのエチレン−α−オレフィン共重合体(EAO)61%を混合し、これに、ジイソデシルジアジペート(DIDA)18%、硫化オレフィン5%、酸性リン酸エステルアミン塩3%およびその他の添加剤2%を配合し、試作油aを調製した。試作油aの40℃動粘度が73.4mm2/sであり、省燃費性については合格であった。また、試作油aをベアリング疲労寿命特性の測定に供したところ、油膜厚さ138μmであり、合格であった。
【0079】
[実施例2]
100℃動粘度4.1mm2/sのポリ−α−オレフィン(PAO)26%、100℃動粘度40mm2/sのエチレン−α−オレフィン共重合体(EAO)46%、ジイソデシルアジペート(DIDA)18%、硫化オレフィン5%、酸性リン酸エステルアミン塩3%およびその他の添加剤2%配合し、試作油bを得た。試作油bの省燃費性およびベアリング疲労寿命特性に関する評価結果を表1に示す。
【0080】
[実施例3]
100℃動粘度5.8mm2/sのポリ−α−オレフィン(PAO)30%、100℃動粘度40mm2/sのポリ−α−オレフィン(PAO)42%を混合し、これに、ジイソデシルジアジペート(DIDA)18%、硫化オレフィン5%、酸性リン酸エステルアミン塩3%およびその他の添加剤2%を配合し、試作油cを調製した。試作油cの省燃費性およびベアリング疲労寿命特性を評価し、評価結果を表1に示す。
【0081】
[実施例4]
100℃動粘度6.5mm2/sの精製鉱油35%、100℃動粘度40mm2/sのポリ−α−オレフィン(PAO)37%を混合し、これに、ジイソデシルジアジペート(DIDA)18%硫化オレフィン5%、酸性リン酸エステルアミン塩3%およびその他の添加剤2%を配合し、試作油dを調製した。試作油dの省燃費性およびベアリング疲労寿命特性を評価し、評価結果を表1に示す。
【0082】
[実施例5]
100℃動粘度6.5mm2/sの精製鉱油39%、100℃動粘度50mm2/sのポリ−α−オレフィン(PAO)33%を混合し、これに、ジイソデシルジアジペート(DIDA)18%、硫化オレフィン5%、酸性リン酸エステルアミン塩3%およびその他の添加剤2%配合し、試作油eを調製した。試作油eの省燃費性およびベアリング疲労寿命特性を評価し、評価結果を表1に示す。
【0083】
[実施例6]
代表例として、実施例4で得られた試作油dと市販ギヤ油(トヨタ純正ハイポイドギヤオイルSX)(85W90)をそれぞれ前記燃費試験に供し省燃費性を評価したところ、試作油dは、前記市販ギヤ油に比較して1.0%以上の燃費向上を示すことを確認した。
【0084】
[比較例1]
100℃動粘度6.5mm2/sの精製鉱油41%、100℃動粘度60mm2/sのエチレン−α−オレフィン共重合体(EAO)とポリ−α−オレフィン(PAO)との混合油31%を混合し、これに、ジイソデシルジアジペート(DIDA)18%、硫化オレフィン5%、酸性リン酸エステルアミン塩3%およびその他の添加剤2%配合し、試作油aaを調製した。試作油aaの省燃費性およびベアリング疲労寿命特性を評価し、評価結果を表1に示す。
【0085】
[比較例2]
100℃動粘度6.5mm2/sの精製鉱油45%、100℃動粘度103mm2/sのポリ−α−オレフィン(PAO)27%を混合し、これに、ジイソデシルジアジペート(DIDA)18%、硫化オレフィン5%、酸性リン酸エステルアミン塩3%およびその他の添加剤2%配合し、試作油bbを調製した。試作油bbの省燃費性およびベアリング疲労寿命特性を評価し、評価結果を表1に示す。
【0086】
[比較例3]
100℃動粘度16mm2/sのポリ−α−オレフィン(PAO)72%、ジイソデシルジアジペート(DIDA)18%、硫化オレフィン5%、酸性リン酸エステルアミン塩3%およびその他の添加剤2%配合し、試作油ccを調製した。試作油ccの省燃費性およびベアリング疲労寿命特性を評価し、評価結果を表1に示す。
【0087】
[比較例4]
市販終減速機用ギヤ油(APIサービス分類;GL−5、SAE粘度グレード;75W90)を入手し、省燃費性およびベアリング疲労寿命特性について評価した。評価結果を表1に示す。
【0088】
以上の実施例1、4および5において、試作油a、dおよびeは、低粘度基油の100℃動粘度が、いずれも6.5mm2/sであり、高粘度基油の100℃動粘度が、それぞれ20mm2/s(試作油a)、40mm2/s(試作油d)、50mm2/s(試作油e)であり、省燃費性およびベアリング疲労寿命特性は、すべて合格であった。
【0089】
さらに、試作油a(実施例1)の高粘度基油(EAO)は、有効粘度範囲の下限レベル(20mm2/s@100℃)のものであり、試作油e(実施例5)の高粘度基油(PAO)は、上限レベルのものである。
【0090】
比較例1〜2に示す試作油aaおよび試作油bbの高粘度基油の100℃動粘度が、それぞれ60mm2/sおよび103mm2/sであり、本発明における高粘度基油の特定粘度範囲(20〜52mm2/s)を逸脱したものである。これらのケースでは省燃費性は合格であったが、ベアリング疲労寿命特性は不合格であった。100℃動粘度が特定範囲を超えるとベアリング疲労寿命特性が低下するという特異な現象が示されている。
【0091】
比較例3(試作油cc)は、基油として、100℃動粘度が16mm2/ のポリ−α−オレフィン1種類のみを用いたケースを示すものであり、低粘度基油と高粘度基油との少なくとも二種の基油を用いることを特徴とする本発明の技術思想を逸脱したものである。
【0092】
かかる事例は、一種の基油のみを用いたものと二種の基油を混合したものとが、40℃動粘度が同一レベルであっても一種の基油のみでは二種の基油を混合した場合に得られる十分な効果が得られないことを示唆したものである。
【0093】
なお、市販油は、省燃費性が不合格であり、ベアリング疲労寿命特性も必ずしも十分なものではなかった。
【0094】
前記の如く、特定の粘度を有する低粘度基油および特定の粘度の高粘度基油を用いることにより、省燃費効果およびベアリング疲労寿命の両者を満足するギヤ油組成物を提供することができることが判明し、本発明に係るギヤ油組成物によれば、現行市販最高品が有する油膜厚さを超える132μm以上の厚さの油膜を形成させることができ、ベアリング疲労寿命特性が著しく顕著であることが明らかとされている。
【0095】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】光干渉法による油膜の測定システムを示す図である。
【符号の説明】
【0097】
1 ローラー
2 ディスク
3 油膜厚さ
4 入射光
5 ディスク表面での反射光
6 ローラー表面での反射光
7 供試油

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と該基油に配合した少なくとも一種のギヤ油用添加剤とからなるギヤ油組成物であって、
前記基油が、
(A)100℃における動粘度3.5〜7mm2/sの鉱油および/または
炭化水素系合成油と、
(B)100℃における動粘度20〜52mm2/sの鉱油および/または
炭化水素系合成油とを含有してなり、
前記組成物の40℃における動粘度が80mm2/s以下である
ことを特徴とするギヤ油組成物。
【請求項2】
前記ギヤ油用添加剤が、硫黄系添加剤およびリン系添加剤からなる群から選択された少なくとも一種の極圧剤または該極圧剤と、相溶化剤、無灰系分散剤、流動点降下剤、消泡剤、酸化防止剤、防錆剤、腐蝕防止剤および摩擦調整剤からなる群より選択される少なくとも一種の添加剤である請求項1に記載のギヤ油組成物。
【請求項3】
前記硫黄系添加剤が、硫化オレフィンであり、リン系添加剤が、酸性リン酸エステルのアミン塩および/または酸性亜リン酸エステルのアミン塩である請求項2に記載のギヤ油組成物。
【請求項4】
前記相溶化剤がエステルである請求項2に記載のギヤ油組成物。
【請求項5】
前記ギヤ油組成物が、自動車用終減速ギヤ油組成物である請求項1ないし4のいずれかの1項に記載のギヤ油組成物。
【請求項6】
請求項1に係るギヤ油組成物に用いられる基油であって、(A)100℃における動粘度3.5〜7mm2/sの鉱油および/または炭化水素系合成油と、(B)100℃における動粘度20〜52mm2/sの鉱油および/または炭化水素系合成油とを含有してなることを特徴とするギヤ油組成物用基油。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれかの1項に記載のギヤ油組成物を自動車の終減速ギヤの潤滑に用いることを特徴とする自動車用終減速ギヤの燃費低減方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−39480(P2007−39480A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−222238(P2005−222238)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(000108317)東燃ゼネラル石油株式会社 (22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】