説明

クエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドを有効成分として含む医薬組成物およびクエルセチンマロニルグルコシドを含有する食品

【課題】 抗酸化作用、コレステロール低下作用、中性脂肪低下作用、および抗動脈硬化作用を有する医薬組成物、もしくは食品および飲食品を提供する。
【解決手段】 桑葉抽出物から得られたクエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドを有効成分とする医薬組成物および、クエルセチンマロニルグルコシドを添加した食品および飲食品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドを有効成分として含む、抗酸化作用、コレステロール低下作用、中性脂肪低下作用および抗動脈硬化作用を有する医薬組成物、さらに詳しくは医薬品および医薬部外品に関する。また、本発明は、同様の作用を有するクエルセチンマロニルグルコシドを含有する食品および飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活の欧米化に伴い、中性脂肪やコレステロールの増加が関与する循環器系疾患の発症率が増大している。例えば、食事脂肪の増加等により、血中における中性脂肪やコレステロール値が上昇し、高脂血症や動脈硬化症等が発症することが考えられる。そのため、日本人の死因の順位において、1981年以来第一位を占めているのは悪性新生物(癌)であるが、続く第二位、第三位には心疾患、脳血管疾患と、いわゆる「動脈硬化性疾患」が並び、両者を合計すると、第一位に肉薄する死亡率を示すほどである。それ故、増加している上記循環器疾患に対応すべく、コレステロール低下作用、中性脂肪低下作用および抗動脈硬化作用を有する医薬組成物よび食品の開発が嘱望されている。
【0003】
【非特許文献1】K. Azuma et al. J. Agric. Food Chem. 1999, 47, 3963-3966
【非特許文献2】F. Ferreres et al. J. Agric. Food Chem. 1997, 45, 4249-4254
【非特許文献3】K. Gluchoff-Fiasson et al. Phytochemistry. Vol. 45, No. 5. pp. 1063-1067, 1997
【非特許文献4】K. E. Schwinn et al. Phytochemistry. Vol. 35, No. 1. pp. 145-150, 1994
【非特許文献5】M. Veit et al. Phytochemistry. Vol. 29, No. 8. pp. 2555-2560, 1990
【非特許文献6】木村ら 日本食品科学工学会誌、49(4) 、257-266 (2002)
【非特許文献7】Hwang et al. J. Agric. Food. Chem、49、308-314 (2001)
【非特許文献8】Hodis et al. J. Lipid Res、 35、 669-677 (1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドは、フラボノールの一種として広く植物内に存在し、モロヘイヤ、レタス、キンポウゲ、キクおよびスギナなどからの単離例が報告されているが、桑葉にその化合物が含まれていることは現在まで知られていない(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5)。また、前記化合物の有する作用を利用した医薬組成物および食品も現在まで開発されていない。
【0005】
したがって、本発明は、クエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドを有効成分として含む、コレステロール低下作用、中性脂肪低下作用および抗動脈硬化作用を有する医薬組成物およびクエルセチンマロニルグルコシドを含む同様の作用を有する食品を提供することを目的とする。クエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドは、次の式、
【0006】
【化1】

【0007】
によって表すことができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の実施態様は、クエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドを有効成分として含む医薬組成物であり、該医薬組成物は、コレステロール低下作用、中性脂肪低下作用および抗動脈硬化作用を有する。
本発明の第2の実施態様は、クエルセチンマロニルグルコシドを含む食品および飲食品であり、コレステロール低下作用、中性脂肪低下作用および抗動脈硬化作用を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の医薬組成物は、クエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドを有効成分として含むことにより、優れた抗酸化作用、コレステロール低下作用、中性脂肪低下作用および抗動脈硬化作用を有する。また、本発明の食品は、クエルセチンマロニルグルコシドを含有することにより、優れた抗酸化作用、コレステロール低下作用、中性脂肪低下作用および抗動脈硬化作用を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
まず、本発明の医薬組成物の有効成分であり、かつ本発明の食品に添加されるクエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシド(クエルセチンマロニルグルコシド)の抽出法について説明する。
【0011】
本発明者らは、桑葉にクエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドが含まれることを見出し、桑葉からのクエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドの単離に成功した。したがって、桑葉を抽出材料として、クエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドを得ることも本発明の範囲内に包含される。抽出に使用する桑葉の品種は問わない。
【0012】
桑葉の状態は、生の葉でも乾燥された葉でもよい。保存性の観点から、乾燥された葉が望ましい。使用する葉の形状は問わないが、粉砕した1〜100μmのサイズの粉末状の桑葉が好ましい。粉砕した桑葉を抽出材料として用いることにより、抽出効率が増加するからである。桑葉の粉砕は、所望のサイズになるまで粉砕機にかけるなどの従来の方法を用いて行うことができる。
【0013】
本発明のクエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドを抽出する方法としては、例えば桑葉をエタノールあるいは水または熱水などに浸漬する方法を採用することができるが、これに制約されるものではない。抽出効率の観点から、エタノールによる抽出法が好ましい。
【0014】
エタノールによる抽出法は、適宜の条件下で行うことができる。例えば、乾燥した桑葉にエタノールを加え、1週間程度攪拌処理することによって行うことができる。抽出に用いられるエタノールの濃度は、20%〜100%である。好ましくは、20〜80%、さらに好ましくは40〜70%、最も好ましくは60%エタノール水溶液である。
【0015】
水による抽出法は、室温の水から沸騰水まで種々の温度の水で抽出することであるが、抽出効率の観点から沸騰水による抽出が好ましい。この水抽出法は、適宜の条件下で行うことができるが、一般的には、例えば、乾燥した桑葉に水を加え、15分間程度煮沸処理することによって行うことができる。以上の方法により、クエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドを含む桑葉抽出液を得ることができる。
【0016】
上記の処理で得られた桑葉抽出液を、さらに分離・精製することにより、クエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドを得ることができる。分離・精製方法は、通常の天然物からの分離・精製手段に準じて行うことができる。具体的には、前述のエタノール水溶液あるいは、沸騰水による抽出終了後、濾過、遠心分離等の通常の分離手段により固体と液体とを分離する。次に、得られる溶液を減圧下で濃縮後、その沈澱物中より水溶性成分を溶出させる。この水溶性成分を、カラムクロマトグラフィー(例えば、ODS樹脂(東ソー製)を用いたカラムクロマトグラフィー等)に充填する。以上の工程を経ることにより、水溶性のクエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドを得ることができる。
【0017】
上記工程を経ることにより得られたクエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドは、抗酸化作用を有しており、動脈硬化症、心筋梗塞症、脳卒中、脳出血、脳梗塞、脳血栓、白内障、炎症および自己免疫疾患等の治療にも有効である。したがって、それを有効成分とする医薬組成物或いは食品に添加した食品として利用することができる。上記抽出方法により得られたクエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドを食品に利用する場合には、最終精製物のみならず、上記クエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシド抽出工程における途中段階の抽出物も使用することが可能である。この意味で、本発明の有効成分を食品に使用する場合は、クエルセチンマロニルグルコシドと広く定義され、特定の化合物に限定するものではない。また、本発明によれば、医薬品を投与することなしに、本発明のクエルセチンマロニルグルコシドを含む食品の摂取により、血中のコレステロール濃度および中性脂肪を低下させることができるとともに、動脈硬化を抑制できるので、糖尿病、肥満、高脂血症、高血圧、動脈硬化などの生活習慣病を予防することができる。クエルセチンマロニルグルコシドを添加する食品としては、食物および飲食物として摂取できるものであれば、その種類には制限されるものではない。
【0018】
本発明のクエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドを有効成分とする医薬組成物の投与量は、年令、体重、症状、投与経路および投与回数などにより異なり、広範囲に変えることができる。例えば、成人(約60kgとして)が投与されるクエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドの有効量は、0.5μg〜50mg/kg体重/日であり、一日一回から数回に分けて投与することが可能である。
【0019】
投与する方法は、経口又は非経口投与による製剤のいずれをも選択することができる。具体的な製剤としては、注射剤(例えば、静脈注射、筋肉注射、皮下注射、点滴等)、座薬、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、クリーム剤、パップ剤等を挙げることができる。また、これら製剤に用いられる担体としては、経口、非経口に適した有機又は無機の不活性な担体が用いられる。具体的には、例えば乳糖、でんぷん、植物性又は動物性の脂肪及び油脂等が挙げられる。製剤中の担体に対する本発明のクエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドの配合量は、製剤の形態などによっても変動するが、製剤全体に対して、約0.1〜100重量%、好ましくは約1〜50重量%、さらに好ましくは5〜20重量%程度である。また、この医薬組成物中には、製剤上一般に使用される結合剤、賦形剤、滑沢剤、崩壊剤、湿潤剤、増粘剤、分散剤、再吸収促進剤、緩衝剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤またはpH調整剤等の添加剤を含有させることができる。これらの添加剤は、適宜適当な割合で配合されるが、通常医薬組成物全体に対して、約10〜99.9重量%、好ましくは約10〜80重量%程度である。
【0020】
経口用液体製剤としては、内用水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤等のいずれの形態であってもよく、またその組成物中には添加剤、保存剤を含有することができる。
【0021】
また、クエルセチンマロニルグルコシドおよびその各種精製段階品を食品に添加することにより食品とすることも可能である。本発明において、食品とは、各種食品、例えば、紅茶、清涼飲料水、ジュースなどの飲料食品、あめ、澱粉質食品、各種加工食品等にクエルセチンマロニルグルコシドを添加することにより、抗酸化作用、コレステロール低下作用、中性脂肪低下作用、および抗動脈硬化作用が付加された食品である。クエルセチンマロニルグルコシドの添加量は、添加する食品の種類によって適宜変更する。一般的に0.01mg〜100mg/g、好ましくは0.1mg〜10mg/g、さらに好ましくは0.5mg〜2mg/gである。成人(約60kgとして)一日当たりのクエルセチンマロニルグルコシドの摂取量は、0.5μg〜50mg/kg体重/日であり、一日一回から数回に分けて投与することが可能である。
【実施例1】
【0022】
桑葉抽出液の作製
乾燥した桑葉(品種名一ノ瀬、島根県桜江町にて採取。桜江町桑茶生産組合から入手)2gに各エタノール水溶液(0(水抽出)、20、40、60、70、80、100%)50mlを加え、3時間攪拌抽出した。次に、この抽出液をNo.2ろ紙(東洋濾紙社製)を用いて濾過し、固・液を分離し、エタノール水溶液による桑葉抽出液を得た。桑葉抽出液は、抽出に用いたものと同じ濃度のエタノール水溶液を用いて50mlに定容した。また、乾燥桑葉2gを沸騰水50ml中で20分間抽出した。次に、この抽出液をNo.2ろ紙(東洋濾紙社製)を用いて濾過し、固・液を分離し、沸騰水による桑葉抽出液を得た。沸騰水による桑葉抽出液は、水を用いて50mlに定容した。
【実施例2】
【0023】
桑葉抽出液の抗酸化活性測定
前記実施例1で得られた各桑葉抽出液の抗酸化活性を、非特許文献6に記載のDPPHラジカル消去活性法に準じて測定した。
【0024】
各桑葉抽出液を希釈したものを、96穴マイクロプレート(イワキ社製)に10μl加え、50%エタノールに溶解した200μMのDPPH(1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl、和光純薬社製)を185μl加え、室温で5分間振とうした。マイクロプレートリーダー(ワラック社製)で560nmにおける吸光度を測定し、DPPHラジカルの退色を測定した。抗酸化作用(ラジカル消去活性)は、吸光度を半減させる濃度をエピガロカテキンガレート(EGCG、和光純薬社製)相当量として、乾燥重量当たりのモル数(nmol/g)で表示した。
【0025】
前記実施例1で得られた、各桑葉抽出液を用いて、本実施例に基づきDPPHラジカル消去活性を測定した結果を、縦軸にEGCG相当量、横軸に各桑葉抽出液をとって図1に示した。
【0026】
図1によれば、各桑葉抽出液の抗酸化(ラジカル消去)活性は、用いる溶媒によって異なることがわかる。0%エタノール、つまり水抽出では、抗酸化活性は低いが、沸騰水抽出では、水抽出よりも抗酸化活性が高い抽出物が得られている。したがって、水を溶媒とした場合には、高い温度での抽出により、高抗酸化活性の抽出液が得られることがわかる。エタノールによる桑葉抽出では、40〜80%エタノール水溶液を溶媒とした場合に抗酸化活性が高い桑葉抽出物が得られることがわかる。また、70〜80%エタノール水溶液を溶媒として用いた場合に、最も高い抗酸化活性を有する桑葉抽出液が得られることがわかる。
【実施例3】
【0027】
桑葉抽出液のクエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシド量の測定
実施例1で得られた各桑葉抽出液に含まれるクエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシド量を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて測定した。HPLC装置は、AKTA purifier(アマシャムバイオテクノロジー社製)を用い、カラムはC18(アマシャムバイオテクノロジー社製)を用いた。溶離液は、アセトニトリル:0.1%ギ酸=20:80を用い、流速は1ml/分で行った。各桑葉抽出液は、0.45μmのメンブレンフィルター(アドバンテック社製)を用いて濾過し、10μlをHPLCへかけた。ピークの検出は、370nmの紫外吸収により行った。クエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドピークの同定と定量は、先に述べる桑葉から精製したクエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドを標準品として作成した検量線を用いて行った。
【0028】
前記実施例1で得られた各桑葉抽出液中のクエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシド含量を、本実施例に基づき測定した結果を、縦軸に含量、横軸に桑葉抽出に用いた各溶媒をとって、図2に示した。
【0029】
図2によれば、クエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドの抽出効率は、40〜80%エタノール水溶液で高く、中でも60%エタノール水溶液が最も高い抽出効率を示した。一方、エタノールが全く含まれていない水(0%エタノール)もしくは100%エタノールでは、抽出効率が低いことが分かる。また、沸騰水中で20分間抽出を行った場合には、室温の水により抽出した場合よりも高い効率でクエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドが抽出されている。したがって、水を溶媒とした場合には、高温で抽出することが好ましいことがわかる。
【実施例4】
【0030】
桑葉からのクエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドの製造
乾燥した桑葉(品種名一ノ瀬、島根県桜江町にて採取。桜江町桑茶生産組合から入手)200gに、70%エタノール水溶液2lを加え、1時間攪拌抽出を行った。次に、この抽出液をNo.2ろ紙(東洋濾紙社製)を用いて濾過し、固・液を分離し、桑葉抽出液を得た。得られた溶液を減圧下で濃縮し、溶媒を乾固した後、各500mlの水と酢酸エチルを加え、分液ロートにて液・液分離した。水画分をダイアイオンHP20樹脂充填カラム(260mm×400mm)にチャージし、水10lで洗浄した後、溶出液としてメタノールにより溶出した。メタノール溶出液を減圧乾固した後、水に溶解した。この画分を、分取用HPLCである、AKTA purifier(アマシャムバイオテクノロジー社製)にかけた。カラムは、ODS−80Ts(21.5×300mm、東ソー社製)を用い、溶離液はアセトニトリル:0.1%ギ酸=20:80を用い、流速は10ml/分で行った。フラクションコレクターを用いて、各ピークを分取し、クエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドに相当するフラクションを集めた。減圧乾燥にて溶媒を除去し、メタノールから再結晶して黄色粉末126mgを得た(FAB−MS:m/z551([M+1]+))。
【0031】
得られた化合物の構造を以下に示す。
【0032】
【化2】

【0033】
桑葉より精製した、クエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドの1H NMR、13C NMRデータを示す。1H NMRデータ(400MHz、DMSO−d6): δ7.52 (1H, d, J = 2 Hz, H-2’), 7.49 (1H, dd, J = 2 and 9 Hz, H-2’), 6.84 (1H, d, J = 9 Hz, H-5’), 6.40 (1H, d, J = 2 Hz, H-8), 6.20 (1H, d, J = 2 Hz, H-6), 5.38 (1H, d, J = 7 Hz, H-1 glucose), 4.21 (1H, d, J = 11 Hz, H-6A of glucose), 4.02 (1H, dd, J = 11 and 5 Hz, H-6B of glucose), 3.08 (2H, s, CH2 malonyl). 13Cデータ: δ 177.2 (C4), 167.7 (CO malonyl) 166.6 (CO malonyl), 164.0 (C7), 161.1 (C5), 156.5 (C2), 156.2 (C9), 148.4 (C-4’), 144.7 (C-3’), 133.0 (C3), 121.3 (C-1’), 120.9 (C-6’), 116.1 (C-5’), 115.0 (C-2’), 103.8 (C-10), 101.0 (C-1 glucose), 98.6 (C-6), 93.4 (C-8), 76.1 (C-3 glucose), 73.8 (C-2 and C-5 glucose), 69.4 (C-4 glucose), 63.4 (C-6 glucose), 41.2 (CH2 malonyl)
【実施例5】
【0034】
桑葉から調製したクエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドの抗酸化活性
実施例4に基づいて桑葉から抽出したクエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドのヒトLDL酸化抑制活性を、非特許文献7に記載の方法に準じて測定した。
【0035】
ヒトLDLは、健康なヒトボランティアから採血した血液から分離した血清から、非特許文献8に記載の方法に準じて超遠心分離により行った。PBS溶液(pH7.4)中20・g/ml のヒトLDLに、各濃度のクエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドを加えた後、最終濃度5・M のCuSOを加えることでLDL酸化を誘導した。酸化反応は、37℃で行い、LDL酸化に伴う紫外吸収の増加を、吸光度計(UV−1700、島津社製)を用いて7時間連続的に測定した。
【0036】
桑葉から調製したクエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドの、ヒトLDL酸化抑制活性を測定した結果を、縦軸に紫外吸収(測定波長234nm)、横軸に時間をとって図3に示した。
【0037】
図3によれば、クエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドの濃度依存的に、紫外吸収の急激な増加が起こるまでの時間(ラグタイム)が増加しており、ヒトLDLの酸化が抑制されることが分かる。LDLが酸化されると、血管内壁に沈着し動脈硬化の原因となることが推定されている。クエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドは、本実施例の通り、LDLの酸化を抑制するため、動脈硬化を予防する働きがあることが推測された。
【実施例6】
【0038】
桑葉から調製したクエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドのマウスを使った抗酸化活性の解析
C57BL/6Jを遺伝的背景に持つLDL受容体欠損マウスのオス、8週齡を使用し、高脂肪食投与により動脈硬化を発症させたマウスを対照に、クエルセチンを陽性対照として、桑葉、桑葉から抽出精製したポリフェノールをマウスに投与して、抗糖尿病作用、抗動脈硬化作用、抗酸化作用を検討した。
【0039】
8週齡(体重20g前後)のLDL受容体欠損マウスを対照群(n=10)、クエルセチン群(n=10)、桑葉群(n=10)、桑葉調製クエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシド群(n=8)の4群に無作為に分けた。高脂肪食投与期間中の毎日の摂餌量、および週ごとの体重を記録した。8週間の特別食投与の後、屠殺の前夜にマウスを絶食状態におき、ペントバルビタール麻酔下で心採血を行い、心臓・胸部大動脈・腹部大動脈の剥離を行なった。対照群には3.0%コレステロール、15.0%無塩バターを含む高脂肪食(船橋農場)、クエルセチン群には0.05%(w/w)クエルセチン(和光純薬)を含む高脂肪食、桑葉群には3.0%(w/w)桑葉乾燥粉末(桜江町桑茶生産組合)を含む高脂肪食、クエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシド群には0.05%(w/w)クエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドを含む高脂肪食を8週間連続投与した。血液には抗凝固剤としてEDTA(最終濃度1mg/ml)を加え、3,000×g、4℃、15分間の遠心分離を行い、血漿を採取した。血液生化学検査にはこの血漿を用い、総コレステロール(コレステロールE-テストワコー、和光純薬社製)、遊離コレステロール(遊離コレステロールE-テストワコー、和光純薬社製)、中性脂肪(トリグリセライドE−テストワコー、和光純薬社製)、リン脂質(リン脂質C−テストワコー、和光純薬社製)、遊離脂肪酸(NEFA−C−テストワコー)、蛋白質(プロテインアッセイラピッドワコー、和光純薬社製)、インスリン(Ultrasensitive mouse insulin ELISA、Mercodia)、血糖(グルコースCIIテストワコー、和光純薬社製)、カルシウム(カルシウムE−テストワコー、和光純薬社製)を測定した。心採血の後、冷却したPBSで灌流を行い、心臓・胸部大動脈・腹部大動脈を剥離した。大動脈腹側を切開し、採取した心臓とともに10%ホルマリンに浸漬固定した。組織を蒸留水により洗浄し、70%エタノール中でアルコール浸漬後、脂質の染色剤であるSudan IVで染色を行い、エタノールで非特異染色部位を洗浄した。80%グリセロール中で透明化を行なった後、顕微鏡下で写真撮影を行なった。大動脈の動脈硬化部位はPhotoshop 6.0LE (Adobe社製)を用いて脂肪染色された動脈硬化部位を計測し、大動脈面積に対する脂肪沈着面積の割合(%)を示した。
【0040】
実験終了時のマウスの体格および血清生化学値を、表1に示した。血清総コレステロール濃度において、対照群は976.9±182.8mg/dl、クエルセチン群は992.0±270.2mg/dl、桑葉群は724.2±342.7mg/dl、クエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシド群は729.0±208.0mg/dlとなり、クエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドを投与することにより、コレステロール濃度が低下することが明らかとなった。中性脂肪、遊離コレステロール、リン脂質はいずれも有意な相違は見られなかったが、対照群に比べて、クエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシド群で低下する傾向が明らかとなった。
【0041】
【表1】

【0042】
高脂肪食投与によって発生・伸展した動脈硬化巣の面積を、表2に示した。大動脈に占める動脈硬化部位の割合は、対照群で4.8±1.0%、クエルセチン群で4.3±2.2%、桑葉群で2.3±1.3%、クエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシド群で2.3±0.9%であった。この結果から、クエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドに動脈硬化予防効果があることが分かった。
【0043】
【表2】

【実施例7】
【0044】
市販の紅茶葉を粉砕し、この粉砕物に対して前記実施例4で得られた精製クエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドを、3重量%になるように添加してよく混合した。この混合物をティーバックに詰め、クエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドが添加されたティーバックを得た。このティーバックを熱湯で滲出することによって、クエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドが紅茶に溶出混合し、抗酸化作用、コレステロール低下作用、中性脂肪低下作用、および抗動脈硬化作用を有する紅茶を得た。
【実施例8】
【0045】
市販のオレンジジュース1Kgに対して前記実施例4で得られたクエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドを3重量%になるように添加してよく混合し、抗酸化作用、コレステロール低下作用、中性脂肪低下作用、および抗動脈硬化作用を有するオレンジジュースを得た。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明による桑葉抽出物から得られたクエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドは、優れた抗酸化作用、コレステロール低下作用、中性脂肪低下作用、および抗動脈硬化作用を有する。この物質は、摂取許容量が高く、医薬組成物、もしくは前記物質が添加された食品および飲食品として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】抽出溶媒と桑葉抽出物の抗酸化活性の関係を示す図である。
【図2】抽出溶媒と桑葉抽出物のクエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシド抽出効率を示す図である。
【図3】クエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドの濃度とヒトLDL酸化抑制活性の関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の式:
【化1】

で表される、クエルセチン3−o−(6−o−マロニル)グルコシドを有効成分として含む医薬組成物。
【請求項2】
コレステロール低下作用を有する請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
中性脂肪低下作用を有する請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
抗動脈硬化作用を有する請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
クエルセチンマロニルグルコシドを含有する食品。
【請求項6】
クエルセチンマロニルグルコシドを含有する飲食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−28086(P2006−28086A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−209138(P2004−209138)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(591282205)島根県 (122)
【出願人】(504155293)国立大学法人島根大学 (113)
【Fターム(参考)】