説明

クライオポンプ及び真空排気方法

【課題】輻射熱の影響を抑えつつ高い排気性能を実現するクライオポンプを提供する。
【解決手段】クライオポンプ10は、排気されるべき気体が進入する吸気口20を有するクライオポンプ容器12と、クライオポンプ容器12の内部に配設される第2冷却ステージ22を備える冷凍機14と、第2冷却ステージ22に熱的に接続される中間部材28と、第2冷却ステージ22よりも気体進入方向Aに関して吸気口20から離れた位置に中間部材28との接続部32を有し、接続部32から吸気口20に向けて延在するクライオパネル24と、を備える。例えば、吊り下げ型のパネル構造体16を有するクライオポンプ10が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クライオポンプ及び真空排気方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クライオポンプは、極低温に冷却されたクライオパネルに気体分子を凝縮または吸着により捕捉して排気する真空ポンプである。クライオポンプは半導体回路製造プロセス等に要求される清浄な真空環境を実現するために一般に利用される。
【0003】
例えば特許文献1には、ガス侵入方向に関して熱シールドパネルの背面側に放射状に取り付けられ、熱シールドパネルから背面方向に延びる複数の細長板状パネルを有するクライオポンプが記載されている。
【特許文献1】特開平2−308985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述のクライオポンプにおいては、排気されるべき気体が進入する開口に近接かつ対向して熱シールドパネルが設けられている。このため、熱シールドパネルにより下部のクライオパネルへの気体の流れが阻害され、クライオポンプの排気速度が低くなる。また、クライオポンプ断面の大半を占める比較的大面積の熱シールドパネルがクライオポンプの開口に近接して配置されているから、外部からの輻射による熱入力が大きくなる。このためクライオパネルを充分に冷却するために必要な消費エネルギーが大きくなってしまう。またクライオパネル温度が上昇して、排気性能に悪影響を与えるおそれもある。
【0005】
そこで、本発明は、輻射熱の影響を抑えつつ高い排気性能を実現するクライオポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、クライオポンプに関する。このクライオポンプは、排気されるべき気体が進入する吸気口を有するクライオポンプ容器と、クライオポンプ容器内部に配設される冷却ステージを備える冷凍機と、冷却ステージに熱的に接続される中間部材と、冷却ステージよりも気体進入方向に関して吸気口から離れた位置に中間部材との接続部を有し、接続部から吸気口に向けて延在するクライオパネルと、を備える。
【0007】
この態様によれば、クライオパネルは、吸気口に向けて延在し、吸気口から離れた位置で冷凍機の冷却ステージへと接続される。このため、吸気口から進入する気体分子流をクライオパネル表面へとより効率的に到達させることができる。その結果、高い排気速度を実現することができる。また、クライオパネルは、冷却ステージに熱的に接続するための中間部材に吸気口から離れた位置で接続される。これにより、吸気口外部から中間部材へと入射する輻射熱を低減することができる。よって、クライオパネルへの外部からの輻射熱の影響を低減することができる。
【0008】
本発明の他の態様は、クライオポンプに関する。このクライオポンプは、冷凍機と、排気されるべき気体が進入する開口を有する熱シールドと、熱シールドの中心部よりも開口から離れた位置に冷凍機へと熱的に接続するための接続部を有し、接続部から開口に向けて延在するクライオパネルと、を備える。
【0009】
この態様によれば、クライオパネルは、熱シールドの開口に向けて延在し、その開口から離れた位置で冷凍機へと接続される。よって、外部から進入する気体分子流がクライオパネル表面へとより効率的に到達可能となり、高い排気速度を実現することができる。また、クライオパネルは、開口から離れた位置で冷凍機に接続されるので、接続部を通じてクライオパネルに入射する輻射熱を低減することもできる。
【0010】
本発明の他の態様は、クライオポンプに関する。このクライオポンプは、クライオポンプ内部容積において所定のレイアウトに配置されるクライオパネルと、クライオパネルが取り付けられるパネル取付面を有し、クライオパネルを前記レイアウトに支持するパネル取付部材と、を備えてもよい。パネル取付部材は、パネル取付面から所定の外部熱源を見たときの形態係数を最小とするように配置されていていもよい。
【0011】
本発明の他の態様は、真空排気方法に関する。この方法においては、冷凍機と、排気されるべき気体が進入する開口を有する熱シールドと、熱シールドに包囲されて配設され冷凍機へと熱的に接続されているクライオパネルと、を備えるクライオポンプが使用される。この方法は、熱シールドの中心部を越えて延在するクライオパネルを熱シールドの中心部よりも開口から離れた位置で冷凍機に熱的に接続し、冷凍機を駆動してクライオパネルを冷却し、クライオパネルのうち少なくとも熱シールドの中心部よりも開口に近接する端部で気体分子を捕捉する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、排気性能に優れるクライオポンプが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
まず、以下に説明する本発明に係る実施形態の概要を説明する。一実施形態においては、重心位置を低くした吊り下げ型のクライオパネルを有するクライオポンプが提供される。例えば冷凍機の冷却ステージよりも下側にクライオパネルの重心位置を設ける。または、クライオポンプ容器または熱シールドの内部空間の中心部よりも下側にクライオパネルの重心位置を設けてもよい。このようにクライオパネルをクライオポンプ容器の下方に配置するために、冷却ステージからクライオポンプ容器下方へと延びるパネル取付部材または中間部材が、クライオパネルを機械的に支持しかつ冷凍機に熱的に接続するために設けられてもよい。このパネル取付部材によってクライオパネルは冷却ステージに吊り下げられた構成となる。
【0014】
本明細書では便宜上、クライオポンプ内部容積において吸気口近傍を上部または上方と呼び、その反対側すなわちクライオポンプ内部容積深部を下部または下方と呼ぶ。同様に、クライオポンプ容器内部から吸気口に向かう向きを上向きと呼び、逆に吸気口からクライオポンプ容器内部へと向かう向きを下向きと呼ぶ。
【0015】
クライオポンプは、第1の冷却温度レベルに冷却される第1のクライオパネルと、第1の冷却温度レベルよりも低温の第2の冷却温度レベルに冷却される第2のクライオパネルと、を備えてもよい。第1のクライオパネルには、第1の冷却温度レベルにおいて蒸気圧が低い気体が凝縮により捕捉されて排気される。例えば基準蒸気圧(例えば10^−8Pa)よりも蒸気圧が低い気体が排気される。第2のクライオパネルには、第2の冷却温度レベルにおいて蒸気圧が低い気体が凝縮により捕捉されて排気される。第2のクライオパネルには、蒸気圧が高いために第2の温度レベルにおいても凝縮しない非凝縮性気体を捕捉するために表面に吸着領域が形成される。吸着領域は例えばパネル表面に吸着剤を設けることにより形成される。非凝縮性気体は、第2の温度レベルに冷却された吸着領域に吸着されて排気される。
【0016】
凝縮された凝縮性気体により吸着領域が覆われた場合には非凝縮性気体の吸着領域への接触が妨げられることになる。そうすると非凝縮性気体の吸着性能が低下し、ひいては非凝縮性気体の排気性能が低下する。例えば気体の排気速度も低下するし、吸蔵量も低下する。よって、非凝縮性気体の排気性能を維持するためには、吸着領域を吸気口に露出しないように配置して凝縮性気体が吸着領域に到達しにくくすることが望ましい。よって、吸着領域は、例えば第1のクライオパネル、第2のクライオパネルの吸着領域以外の部分、またはクライオパネルと冷凍機とを接続する接続部材等により吸気口に対して遮蔽されることが望ましい。吸着領域を吸気口に対し遮蔽することにより、外部の熱源から入射する輻射熱の吸着性能への影響を低減することもできる。
【0017】
ところが、クライオポンプの用途によっては吸着領域への凝縮性気体の凝縮があまり問題とはならない場合もある。例えばイオン注入装置用のクライオポンプが挙げられる。この用途においては第2のクライオパネルに凝縮される気体の使用量は少なく、クライオポンプの主目的は非凝縮性気体(例えば水素)の排気となる。よって、むしろ吸着領域を吸入口に向けて露出することによって非凝縮性気体を吸着領域に到達しやすくすることが望ましい。これにより高い排気速度を実現することができる。
【0018】
しかし、単にクライオパネルを吸気口に向けて露出した場合には、外部の熱源からの輻射熱の影響を受けることになる。特に、第2のクライオパネルは例えば10K乃至20K程度の極低温に冷却されるので、たとえクライオポンプ外部が常温であったとしても輻射熱の影響が大きい。特に、露出されているクライオパネル表面に吸着剤(例えば活性炭)が貼り付けられている場合には、パネル表面の輻射率(即ち吸収率)が高くなり、いっそう輻射熱の影響を受ける。輻射の熱入力により、吸着されていた気体分子が再放出され得る。また、輻射熱入力に抗して第2のクライオパネルを必要な温度レベルに冷却し維持するために、高い冷凍能力を有する冷凍機を要することになる。あるいは冷凍機の消費エネルギが大きくなる。
【0019】
そこで、本発明の一実施形態に係るクライオポンプは、吊り下げ型のクライオパネルを有する。これにより、クライオパネルを吸気口に露出させつつクライオポンプ内部容積の深部に配置して吸気口からの距離を大きくとることが可能となる。よって、露出されたクライオパネル吸着領域への輻射熱の影響を抑えつつ、非凝縮性気体に対する高い排気性能を実現することが可能となる。
【0020】
クライオパネルの露出による排気速度の向上は、要求される排気速度を実現する吸着領域面積の低減に寄与する。パネルの露出により気体の流れ性が良好となり、吸着領域の単位面積当たりの排気速度が高くなるからである。つまり、要求排気速度を実現するために必要な吸着領域面積が少なくて済む。その結果、必要なパネル面積も低減される。それとともにクライオパネル構造体の重量も低減される。
【0021】
パネル重量の低減により、クライオポンプの再生処理の所要時間が短縮される。クライオポンプはいわゆるため込み式の真空ポンプであるから、内部に蓄積された気体を適宜の頻度で外部に排出する再生処理が実行される。再生は、クライオパネルとしての動作温度よりも高温(例えば常温)にクライオパネルを昇温し、パネル表面に凝縮または吸着されている気体を再放出させて外部に排出し、再度クライオパネルの動作温度に冷却する処理である。再生時間を決める1つの大きな要因は、再冷却に要する時間である。再冷却時間は、パネル構造体重量に相関する。よって、本実施形態によればパネル構造体の重量が低減されるので、再冷却時間が短縮され、再生時間も短縮される。
【0022】
上述の設計コンセプトの一具体例に係るクライオポンプは、クライオポンプ容器と、冷凍機と、中間部材と、クライオパネルと、を備える。クライオポンプ容器は、排気されるべき気体が進入する吸気口を有する。冷凍機は、クライオポンプ容器内部に配設される冷却ステージを備える。中間部材は、クライオパネルと冷却ステージとを熱的に接続する。クライオパネルは、冷却ステージよりも下方に中間部材との接続部を有し、接続部から上向きに延在する。
【0023】
他の具体例に係るクライオポンプは、冷凍機と、クライオパネルと、を備える。クライオパネルは、クライオポンプ内部容積の中心部よりも下方に冷凍機へと熱的に接続するための接続部を有し、接続部から上向きに延在する。
【0024】
他の具体例に係るクライオポンプは、クライオパネルと、パネル取付部材と、を備える。クライオパネルは、クライオポンプ内部容積において所定のレイアウトに配置される。パネル取付部材は、クライオパネルが取り付けられるパネル取付面を有し、クライオパネルを既定のレイアウトに支持する。パネル取付部材は、パネル取付面から所定の外部熱源を見たときの形態係数を実質的に最小とするように配置される。パネル取付面は例えばクライオポンプ開口に対向する平面であってもよい。この場合、パネル取付部材は、パネル取付面から所定の外部熱源を見たときの形態係数を実質的に最小とするようパネル取付面の法線方向の位置が定められていてもよい。
【0025】
クライオパネルの表面には気体を凝縮または吸着により捕捉して排気するための極低温面が形成される。クライオパネル表面の少なくとも一部には気体を吸着するための吸着剤が取り付けられて吸着領域が形成される。吸着領域の少なくとも一部は、クライオポンプ開口面に露出される。吸着剤としては、例えば活性炭が使用される。クライオパネルの両面の全域に粒状の活性炭が接着され、パネルの全表面が吸着領域とされていてもよい。
【0026】
図1及び図2は、本発明の第1の実施形態に係るクライオポンプ10の一部を模式的に示す図である。クライオポンプ10は、例えばイオン注入装置やスパッタリング装置等の高真空環境を要する装置の真空チャンバに取り付けられて、真空チャンバ内部の真空度を所望のプロセスに要求されるレベルにまで高めるために使用される。例えば10^−5Pa乃至10^−8Pa程度の高い真空度が実現される。
【0027】
クライオポンプ10は、ポンプ容器12と、冷凍機14と、パネル構造体16と、熱シールド18とを含んで構成される。図1に示されるクライオポンプ10は、いわゆる横型のクライオポンプである。横型のクライオポンプ10とは一般に、筒状の熱シールド18の軸方向に交差する方向(通常は直交方向)に沿って冷凍機14の第2冷却ステージ22が熱シールド18の内部に挿入され配置されているクライオポンプ10である。
【0028】
なお、本発明はいわゆる縦型のクライオポンプにも同様に適用することができる。縦型のクライオポンプとは、熱シールド18の軸方向に沿って冷凍機14が挿入されて配置されているクライオポンプである。
【0029】
図1は、ポンプ容器12及び熱シールド18の中心軸を含み、冷凍機14の中心軸に直交する平面による断面を模式的に示す図である。図1では、真空チャンバからクライオポンプ内部への気体の進入方向を矢印Aで表している。また、図2は、気体進入方向Aから見たときのパネル構造体16を模式的に示す図である。
【0030】
なお、気体進入方向Aは、クライオポンプ外部から内部に向かう方向と理解すべきである。図において気体進入方向Aがクライオポンプ10の軸方向に平行とされているのは、便宜上説明をわかりやすくするためにすぎない。クライオポンピング処理においてクライオポンプ内部へと進入する気体分子の実際の進入方向は、当然、図示される気体進入方向Aに厳密に一致するものではなく、むしろ気体進入方向Aに交差する方向であることが普通である。
【0031】
ポンプ容器12は、一端に開口20を有し他端が閉塞されている円筒状の形状に形成された部位を有する。ポンプ容器12の内部にパネル構造体16及び熱シールド18が配設されている。開口20は、排気されるべき気体が進入する吸気口として設けられている。開口20はポンプ容器12の筒状側面の上端部内面により画定される。ポンプ容器12の上端部には径方向外側に向けて取付フランジ30が延びている。クライオポンプ10は、排気対象容積であるイオン注入装置等の真空チャンバに取付フランジ30を用いて取り付けられる。なおポンプ容器12の断面は円形状には限られず、他の形状例えば楕円形状や多角形形状であってもよい。
【0032】
冷凍機14は、例えばギフォード・マクマホン式冷凍機(いわゆるGM冷凍機)である。また冷凍機14は2段式の冷凍機であり、第1冷却ステージ(図示せず)及び第2冷却ステージ22を有する。第2冷却ステージ22は、ポンプ容器12及び熱シールド18に包囲され、ポンプ容器12及び熱シールド18の内部空間の中心部に配置されている。第1冷却ステージは第1の冷却温度レベルに冷却され、第2冷却ステージ22は第1の冷却温度レベルよりも低温の第2の冷却温度レベルに冷却される。第2冷却ステージ22は例えば10K乃至20K程度に冷却され、第1冷却ステージは例えば80K乃至100K程度に冷却される。なお、第1の実施形態に係るクライオポンプ10において、図6を参照して後述する第2の実施形態に係るクライオポンプ10の冷凍機14を用いることも可能である。
【0033】
熱シールド18は、冷凍機14の第1冷却ステージに熱的に接続された状態で固定され、第1冷却ステージと同程度の温度に冷却される。熱シールド18は、パネル構造体16及び第2冷却ステージ22を周囲の輻射熱から保護する輻射シールドとして設けられている。熱シールド18もポンプ容器12と同様に、一端に開口を有し他端が閉塞されている円筒状の形状に形成されている。熱シールド18はカップ状の形状に形成されている。ポンプ容器12及び熱シールド18はともに略円筒状に形成されており、同軸に配設されている。ポンプ容器12の内径が熱シールド18の外径を若干上回っており、熱シールド18はポンプ容器12の内面との間に若干の間隔をもってポンプ容器12とは非接触の状態で配置される。
【0034】
熱シールド18の内部空間の中心部に冷凍機14の第2冷却ステージ22が配置されている。冷凍機14は熱シールド18の側面の開口から挿入され、その開口部に第1冷却ステージが取り付けられる。よって、冷凍機14の第2冷却ステージ22は、熱シールド18の中心軸上において開口20と最深部との中間に配置される。
【0035】
なお熱シールド18の形状は、円筒形状には限られず、角筒形状や楕円筒形状などいかなる断面の筒形状でもよい。典型的には熱シールド18の形状はポンプ容器12の内面形状に相似する形状とされる。また、熱シールド18は図示されるような一体の筒状に構成されていなくてもよく、複数のパーツにより全体として筒状の形状をなすように構成されていてもよい。これら複数のパーツは互いに間隙を有して配設されていてもよい。
【0036】
また熱シールド18の開口にはバッフル23が設けられている。本実施形態ではバッフル23は、ルーバーである。ルーバー23は、パネル構造体16とは熱シールド18の中心軸方向に間隔をおいて設けられている。ルーバー23は、熱シールド18の開口側の端部に取り付けられており、熱シールド18と同程度の温度に冷却される。ルーバー23は、気体進入方向Aから見たときに例えば同心円状に形成されていてもよいし、あるいは格子状等他の形状に形成されていてもよい。なお、ルーバー23と真空チャンバとの間にはゲートバルブ(図示せず)が設けられている。このゲートバルブは例えばクライオポンプ10を再生するときに閉とされ、クライオポンプ10により真空チャンバを排気するときに開とされる。
【0037】
パネル構造体16は、冷凍機14の第2冷却ステージ22に熱的に接続された状態で固定されており、第2冷却ステージ22と同程度の温度に冷却される。パネル構造体16は、複数のクライオパネル24と、接続部材26と、中間部材28と、を備える。冷凍機14の第2冷却ステージ22に接続部材26が取り付けられ、接続部材26に中間部材28が取り付けられ、中間部材28に複数のクライオパネル24が取り付けられる。クライオパネル24、接続部材26、及び中間部材28はともに例えば銅などの材質で形成される。銅を基材として表面をニッケルでメッキしたものを用いてもよい。また、銅に代えて、アルミニウムでクライオパネル24等を形成してもよい。熱伝導度を重視する場合には銅を用いればよいし、軽量化ひいては再生時間の短縮を重視する場合にはアルミニウムを用いてもよい。
【0038】
接続部材26は、パネル構造体16を第2冷却ステージ22に熱的に接続しかつ機械的に支持するための連結部材として設けられている。中間部材28は、接続部材26を介して複数のクライオパネル24を第2冷却ステージ22へと熱的に接続し、かつクライオパネル24を支持するパネル取付部材として設けられている。また、接続部材26及び中間部材28を併せてパネル取付部材であるとみなすこともできる。接続部材26と中間部材28とは、別体の部材として形成されていてもよいし、一体に形成されていてもよい。クライオパネル24は、中間部材28及び接続部材26を介して冷凍機14の第2冷却ステージ22に熱的に接続され、第2冷却ステージ22と同程度の温度に冷却される。中間部材28及び接続部材26も同様に第2冷却ステージ22と同程度の温度に冷却される。
【0039】
パネル構造体16は全体として、冷凍機14の第2冷却ステージ22から下方または熱シールド18の深部に向けて接続部材26によって吊り下げられた構成を有する。接続部材26は、パネル構造体16を冷凍機14に吊り下げて支持する吊下部材である。このため、パネル構造体16を開口20から離して配置することができる。その結果、開口20を通じてパネル構造体16に入射する輻射熱を低減することができる。また、パネル構造体16と開口20との間の空間を利用してクライオパネル面積を比較的大きくすることも可能となり、クライオポンプの排気性能の向上にも寄与する。
【0040】
接続部材26は、中間部材28を第2冷却ステージ22に吊り下げて支持する。中間部材28は、第2冷却ステージ22よりも気体進入方向Aに関して開口20から離れた位置に配置される。中間部材28は、複数のクライオパネル24の末端部を支持する。クライオパネル24は中間部材28から上方または熱シールド18の開口20に向けて延在する。
【0041】
よって、冷凍機14の第2冷却ステージ22からクライオパネル24の先端への伝熱経路は、熱シールド18内部において蛇行する。すなわち、冷凍機14からクライオパネル24の先端への伝熱経路は、第2冷却ステージ22から熱シールド18の深部へと延び、折り返して熱シールド18の開口20に向けて延びる。伝熱経路は中間部材28において折り返す。パネル構造体16をこのような折り返し構造とすることにより、クライオパネル面積を大きくすることができる。これにより、クライオポンプ10に高い排気性能を実現することが可能となる。
【0042】
クライオパネル表面の少なくとも一部には気体を吸着するための吸着剤を設置するための吸着剤貼付面が形成される。本実施形態では、クライオパネル24の両面の全域が吸着剤貼付面とされる。本実施形態では、クライオパネル24の両面の全域に吸着剤25が接着されて全表面が吸着領域とされている。吸着剤25は例えば、粒状の活性炭である。すべての吸着剤貼付面が開口20に露出されている。
【0043】
クライオパネル24は、中間部材28に接続される末端部である接続部32と、開口20に最も近接する先端部34と、接続部32と先端部34とを接続する中間部36とを有する。本実施形態では、接続部32と先端部34と中間部36とは1枚のプレートにより形成されている。接続部32と先端部34と中間部36とはそれぞれが別体に形成され、互いに連結されて1枚のクライオパネル24が形成されてもよい。クライオパネル24は、接続部32が中間部材28に取り付けられる。例えば接続部32の末端にフランジが形成され、ボルト及びナット等の適宜の固定手段によりそのフランジが中間部材28に取り付けられる。なお、クライオパネル24と中間部材28とが一体の部材として形成されていてもよい。
【0044】
中間部材28が第2冷却ステージ22よりも気体進入方向Aに関して開口20から離れた位置に配置されているので、クライオパネル24の接続部32も同様に第2冷却ステージ22よりも開口20から離れた位置に配置される。クライオパネル24は、接続部32から開口20に向けて延在する。クライオパネル24の先端部34は、熱シールド18の中心部及び第2冷却ステージ22よりも気体進入方向Aに関して開口20に近接する位置に配置される。クライオパネル24の中間部36は、気体進入方向Aに関して熱シールド18の中心部及び第2冷却ステージ22に相当する位置に配置される。クライオパネル24は、熱シールド18の内部空間の中心部を越えて接続部32から先端部34へと気体進入方向Aに沿って延在する。
【0045】
本実施形態では熱シールド18とポンプ容器12とはほぼ相似形状であるので、クライオパネル24の接続部32は、ポンプ容器12の中心部よりも気体進入方向Aに関して開口20から離れている。また、クライオパネル24の先端部34は、ポンプ容器12の中心部よりも気体進入方向Aに関して開口20に近接している。このように、クライオパネル24が気体進入方向Aに関して熱シールド18またはポンプ容器12の中心部を越えて延在されていることにより、気体進入方向Aに沿って配置されるクライオパネル面積を大きくすることができる。これにより、クライオポンプ10に高い排気性能を実現することが可能となる。
【0046】
なお、クライオパネル24は、先端部34が熱シールド18またはポンプ容器12の中心部よりも下方または深部に配置されていてもよい。同様に、クライオパネル24の先端部34は、冷凍機14の第2冷却ステージ22よりも下方に配置されていてもよい。この場合、クライオパネル24は、先端部34において折り返し構造を有し、クライオポンプ下方に向けて再度延在するようにしてもよい。つまり、クライオパネル24は、接続部32から先端部34へと延び、先端部34においてクライオポンプ下方に向けて折り返されるように形成されていてもよい。このようにすれば、気体進入方向Aにおけるクライオパネル24の長さを抑えつつパネル面積を大きくすることができる。また、輻射熱を避けるべくパネル構造体16をポンプ底部にコンパクトに設けることも可能となる。クライオパネル24の先端部34の位置及び形状等は例えば、クライオポンプ10への要求排気性能と外部からの輻射熱の影響とを考慮して定めればよい。
【0047】
クライオパネル24は、開口20またはルーバー23から間隔をあけて熱シールド18の内部に配置され、開口20またはルーバー23に対して露出されている。クライオパネル24と開口20またはルーバー23との間には上部空間38が形成される。上部空間38には、ポンプ外部から見たときにクライオパネル24を遮蔽する遮蔽部材が設けられていない。このため、上部空間38は、外部からの進入気体のクライオパネル24への流れ性の向上に寄与する。よって、クライオパネル24の単位面積当たりの排気速度が向上される。
【0048】
クライオパネル24は、少なくとも接続部32が開口20に向けて露出される。本実施形態では、クライオパネル24の先端部34及び中間部36も開口20に向けて露出される。このため、クライオパネル24の全体が開口20に向けて露出されている。よって、クライオパネル24は、外部から熱シールド18の内部空間に進入した気体分子を表面全域で直接的に受けることができる。クライオパネル24の吸着剤貼付面の全体が気体分子を直接的に受けることができる。よって、吸着剤25が開口20に対して遮蔽されている構成とは異なり、効率的に気体を処理することができる。本実施形態ではクライオパネル24の全表面が吸着領域とされているので、水素等の非凝縮性気体を効率的に排気することができる。このようなパネル構成は、非凝縮性気体を主たる排気気体とする例えばイオン注入装置用のクライオポンプとして好ましい。
【0049】
また、クライオパネル24は、気体進入方向Aに平行に配置されている。本実施形態ではクライオパネル24は中間部材28に垂直に立設されている。よってクライオパネル24は開口20に対して垂直に配置されている。クライオパネル24の両面を均等に排気に利用することができるので、効率的に気体を排気することができる。しかし、気体の流れ性及び外部からの輻射熱等を総合的に考慮して、気体進入方向Aに交差するようクライオパネル24を傾斜させて配置してもよい。
【0050】
本実施形態では図2に示されるように、クライオパネル24はそれぞれ放射状に配置される。冷凍機14の挿入に必要となる部位を除いて、クライオパネル24は等間隔に配置されている。例えば10度乃至20度の等角度間隔にクライオパネル24は配置されている。クライオパネル24は円板状の中間部材28の径方向外周側に設けられており、中間部材28の中心部にはパネルに包囲される円柱状空間が形成される。クライオパネル24の幅は中間部材28の径方向において例えば最外周部から中間部材28の半径の半分程度の位置までを占めるように設定されている。この場合中間部材28の中心部には中間部材28の直径の半分程度の直径を有する円柱状空間が形成される。このように、クライオパネル24を中間部材28の表面で放射状に配置する場合にはパネルを中間部材表面の外周側に設け中心部に開放空間を形成することが好ましい。これにより中心部でのパネルの密集を避けることができるので気体の流れ性を良好にすることができる。
【0051】
なお上述の実施形態とは異なるパネル配置を採用してもよい。例えば、放射状のパネル配置ではなく、各パネルを平行に配列したり、格子状に配置してもよい。各パネルの間隔は共通であってもよいし、異ならせてもよい。あるいは、中間部材28の最外周部に中間部材28と同径の円筒状外周パネルを設けてもよい。外周パネルに加えて小径の同心円筒パネルをさらに設けてもよい。
【0052】
図1に示されるように、クライオパネル24は、接続部32から先端部34に向けて連続的に幅が拡張された台形形状を有する。クライオパネル24の外周側の側端部は気体進入方向Aに平行とされ、内周側の側端部は気体進入方向Aに交差する方向に延びている。クライオパネル24の形状は、図1に示される台形形状には限られず、矩形形状であってもよいし、他の形状であってもよい。また、各クライオパネル24の形状は、互いに異なっていてもよく、例えば複数種類の形状のクライオパネルを混在させてもよい。例えば、大型のクライオパネルと小型のクライオパネルとを混在させて配置してもよい。
【0053】
中間部材28は、例えば円板状の形状を有する平板状の部材である。中間部材28の上面すなわち開口20を向く面がパネル取付面となる。パネル取付面は円形の平面である。なお、中間部材28は円板状の平板部材でなくてもよく、他の形状の平板部材であってもよい。あるいは中間部材28は湾曲形状または屈曲形状を有していてもよく、例えば中心部に近づくほど開口20に向けて近接するようなドーム状の形状であってもよい。この場合、パネル取付面は、ドーム状の湾曲面となる。
【0054】
なお、中間部材28の下面にもパネル取付面を形成して複数のクライオパネル24を取り付けてもよい。この場合、隣接するパネル間において、気体の流通を促進させるためのスリットを中間部材28に形成してもよい。このようにすればクライオポンプ底部側に向けて立設されているパネルへの気体流通を促進させることができる。
【0055】
接続部材26は、例えば第2冷却ステージ22を包囲するように形成されている。接続部材26は、開口20側の一端に冷凍機14の第2冷却ステージ22に取り付けられる冷凍機取付部を有し、ポンプ底部側の他端に中間部材28に取り付けるためのフランジが形成されている。冷凍機取付部の周囲から吊下部がポンプ下方に向けて延び、吊下部の末端にフランジが形成される。接続部材26のフランジは、ボルト及びナット等の適宜の固定手段により中間部材28に取り付けられる。
【0056】
接続部材26とクライオパネル24とは中間部材28を介して間接的に接続される。しかし、クライオパネル24の先端部34への熱伝導性を向上させるために、クライオパネル24の先端部34に接続部材26を直接に接続する伝熱経路を設けてもよい。この伝熱経路は、気体の流れ性への影響を最小化するように形成されることが好ましく、例えば気体進入方向Aに平行に配置される面で構成されることが望ましい。
【0057】
上述のように本実施形態においては、クライオパネル24は例えば放射状かつ等間隔のレイアウトに配置される。パネル取付面を有するパネル取付部材としての中間部材28は、パネル取付面から所定の外部熱源を見たときの形態係数を最小とするように配置される。パネル取付面は例えばクライオポンプ10の開口20に対向しかつ平行に配置される円形の平面であり、パネル取付面から所定の外部熱源を見たときの形態係数を最小とするように気体進入方向Aに関する中間部材28の位置が設定される。形態係数を最小化するようにパネル取付面の位置が定められることにより、パネル取付面への外部からの輻射熱入力を最小化することができる。よって、パネル構造体16に入射する輻射熱を低減することができる。
【0058】
一般に、2つの面A及び面Aの間の輻射熱Qは、面Aから面Aを見たときの形態係数(geometric factor)φ12を用いて、次式で表される。
Q=εσ(T−T)Aφ12
【0059】
すなわち、輻射熱Qは形態係数φ12に依存する。形態係数φ12が大きいほど輻射熱Qが大きくなる。ここで、εは輻射率(すなわち吸収率)であり、σはシュテファン・ボルツマン定数であり、T及びTはそれぞれ面A及び面Aの温度であり、Aは面Aの面積である。
【0060】
輻射熱Qは輻射率εに比例する。輻射率εは黒体の場合ε=1である。銅の表面にニッケルめっきがされている場合には、輻射率εは表面温度が例えば20Kのとき0.027である。これに対して、活性炭は黒体であると考えられるから、金属のパネル表面に比べて輻射率εがきわめて大きい。また吸着剤として活性炭以外のものを使用するとしても、輻射率εは金属面に比べると相当大きくなる。よって、吸着剤がクライオポンプ開口面に露出されている場合には、吸着剤を通じてクライオパネルに入射する輻射熱が大きくなる。
【0061】
形態係数φ12は、一般に次式で表される。
【数1】


ここで、Ai(i=1,2)は、面Aiの面積であり、lはdAdA間の距離であり、βiはdAi(i=1,2)の法線方向とlのなす角度である。
【0062】
したがって、クライオポンプ10の中心軸上でパネル取付面を向く微小外部熱源を仮定すれば、パネル取付面の向き、パネル取付面の面積、及びクライオポンプ10の中心軸上でのパネル取付面の位置を定めることにより形態係数が与えられる。上述のようにパネル取付面が例えばクライオポンプ10の開口20に対向し平行に配置される円形の平面である場合には、パネル取付面の径を小さくするとともにクライオポンプ10の中心軸上において(つまり気体進入方向Aにおいて)パネル取付面をポンプ底部に近接させることにより形態係数を小さくすることができる。距離lの形態係数への寄与が相対的に大きいと考えられるから、ポンプ中心軸上でのパネル取付面の位置のみを変数として形態係数を最小化してもよい。
【0063】
本実施形態における放射状クライオパネル配置においてパネル取付面の形態係数を最小化するには、クライオパネル24のポンプ下方の端部(すなわち接続部32)に相当する位置にパネル取付面を形成すればよいことになる。外部熱源とパネル取付面との距離が最大化されるからである。
【0064】
このように本実施形態によれば、所望の排気性能を実現するクライオパネルレイアウトが、最小の形態係数となるパネル取付面によって支持される。このため、要求排気性能の実現と輻射熱入力の低減との両立を図ることができる。
【0065】
なお、パネル取付面及びパネル取付部材が熱シールド18の最深部または側部に近接する場合には、熱シールド18からの輻射も加味してパネル取付面の配置及び形状を設計してもよい。
【0066】
上述のクライオポンプ10の作動に際しては、まずその作動前に他の適当な粗引きポンプを用いて排気対象容積例えばイオン注入装置の真空チャンバ内部を1Pa程度にまで粗引きする。その後クライオポンプ10を作動させる。冷凍機14の駆動により第1冷却ステージ及び第2冷却ステージ22が冷却され、熱シールド18、ルーバー23、及びパネル構造体16も接続先の冷却ステージの冷却温度レベルに冷却される。クライオパネル24は、第2冷却ステージ22によって、接続部材26及び中間部材28含む蛇行伝熱経路を通じて冷却される。
【0067】
冷却されたルーバー23は、排気対象容積からクライオポンプ10内部へ向かって飛来する気体分子を冷却し、その冷却温度で蒸気圧が充分に低くなる気体(例えば水分など)を表面に凝縮させて排気する。ルーバー23の冷却温度では蒸気圧が充分に低くならない気体はルーバー23を通過して熱シールド18内部へと進入する。進入した気体分子のうちパネル構造体16の冷却温度で蒸気圧が充分に低くなる気体(例えばアルゴンなど)は、パネル構造体16の表面に凝縮されて排気される。その冷却温度でも蒸気圧が充分に低くならない気体(例えば水素など)は、パネル構造体16の表面の吸着剤により吸着されて排気される。
【0068】
イオン注入装置の真空チャンバを排気する場合には気体の大半が水素である。クライオパネル24の先端部34はクライオポンプ開口面に対し露出されており、先端部34に設けられている吸着剤25により水素ガスは特に効率的に吸着され排気される。クライオパネル24の中間部36及び接続部32もクライオポンプ開口面に対して露出されているので、これらの部位でも進入気体が効率的に排気される。このようにしてクライオポンプ10は真空チャンバ内部の真空度を所望のレベルに到達させることができる。
【0069】
ここで、図3に示されるクライオポンプ100と比較して、本実施形態における排気効率の向上及び再生時間の短縮について説明する。図3に示されるクライオポンプ100は、パネル構造体116の構成を除き、図1に示されるクライオポンプ10と同様の構成を有する。クライオポンプ100は、ポンプ容器112、冷凍機114、パネル構造体116、熱シールド118を備える。クライオポンプ100は横型のクライオポンプであり、熱シールド118の中心軸に垂直に冷凍機114が挿入され、冷凍機114の第2冷却ステージ122が熱シールド118の中心に配置されている。吸気口となる熱シールド118の開口120にはルーバー123が設けられている。
【0070】
パネル構造体116は、クライオパネル130、パネル取付部材132、及び冷凍機取付部材134を備える。クライオパネル130は、開口120の近傍の末端でパネル取付部材132の下面に取り付けられ、ポンプ下方に向けて延びている。パネル取付部材132は、冷凍機114の第2冷却ステージ122とルーバー123との間において開口120に平行に配置されている円板状部材である。パネル取付部材132は、外部からクライオパネル130への輻射熱を低減する輻射シールドである。パネル取付部材132の下面中心部と第2冷却ステージ122とを冷凍機取付部材134が接続している。クライオパネル130は、パネル取付部材132及び冷凍機取付部材134を介して冷凍機114の第2冷却ステージ122に熱的に接続されている。クライオパネル130は、例えば台形形状の平板であり、ポンプ下方に延びるにつれて幅が拡張されるように配置されている。クライオパネル130の両面の全体に吸着剤貼付面が形成され、吸着材125としての例えば活性炭が接着されている。
【0071】
図4は、パネル取付部材132を開口120側から見た図である。図4においては、パネル取付部材132の下面に取り付けられているクライオパネル130及び冷凍機取付部材134を破線で示している。クライオパネル130は、放射状かつ等角度間隔例えば15度間隔に設けられている。冷凍機114の取付空間を確保するためにパネル取付部材132の下面の一部(図4においては右方)にはクライオパネル130は設けられていない。このため、パネル取付部材132には例えば合計19枚のクライオパネル130が密集して設置されている。
【0072】
また、パネル取付部材132には、貫通孔138が形成されている。貫通孔138は、開口120からクライオパネル130への気体の流れ性を良好にするために設けられている。貫通孔138は、パネル取付部材132の径方向においてクライオパネル130と冷凍機取付部材134との間に複数箇所例えば4箇所設けられている。パネル取付部材132は、クライオパネル130が取り付けられる外周部142と冷凍機取付部材134が取り付けられる中心部144との間の大半が貫通孔138により開放されている。外周部142と中心部144とは連結部140により接続されている。連結部140は直線状に形成されており、放射状に等間隔に例えば90度間隔に4箇所設けられている。なお、気体の流れ性向上のために、パネル取付部材132は、2つの隣接するクライオパネル130間にスリットが設けられていてもよい。
【0073】
このようにパネル取付部材132の外周部142と中心部144との間が開放されていることにより、気体の流れ性が向上されてパネル構造体116の中心部に気体分子が到達しやすくなる。このため、良好な排気性能を実現することができる。例えば、良好な排気速度及び吸蔵量を実現することができる。
【0074】
本発明の第1の実施形態によれば、図3に示されるタコ足型のクライオポンプ100と同等の排気速度を小さいパネル面積で実現することができる。一例として、タコ足型のクライオポンプ100では11000L/s乃至12000L/sの水素ガス排気速度を実現することができる。比較のため、本実施形態に係る吊り下げ型クライオポンプ10において、タコ足型クライオポンプ100と同様に合計19枚の放射状パネルレイアウトを採用した場合を説明する。この場合、吊り下げ型クライオポンプ10は、タコ足型クライオポンプ100よりもパネル長さを20%短くして活性炭貼付面積を24%低減させても、同様に11000L/s乃至12000L/sの水素ガス排気速度を達成することが実験により確認された。
【0075】
このように、本実施形態によれば、活性炭設置領域の単位面積あたりの排気速度が大きく向上され、高い排気効率が実現される。また、要求排気速度を達成することが、よりコンパクトなパネル構造体16によって可能となるので、パネル構造体16をクライオポンプ10の深部に配置して開口20との間隔を大きく取ることができる。これにより、外部からクライオパネル24への輻射熱も低減することができる。
【0076】
また、このとき吊り下げ型クライオポンプ10のクライオパネル24の総重量は、タコ足型クライオポンプ100に比べて20%低減される。その結果、再生処理におけるクライオパネル24及び表面の活性炭の再冷却時間が低減される。吊り下げ型クライオポンプ10とタコ足型クライオポンプ100とで同量の水素ガスを吸着により排気したときの再生時間は、タコ足型クライオポンプ100では例えば168分間であるのに対し、吊り下げ型クライオポンプ10では例えば132分間に短縮されることが実験により確認された。この26分間の短縮は、再冷却時間の短縮によるものである。
【0077】
このように、本実施形態によれば、吊り下げ型という新たなコンセプトを採用することにより、きわめて実用性に優れるクライオポンプを実現することができる。まず、クライオパネルへの輻射熱の影響軽減と高い排気効率の実現との両立を図ることができる。また、実用上充分な排気性能をコンパクトなクライオパネル構造体で達成することができる。さらに、再生時間を大きく短縮することもできる。
【0078】
図5は、第1の実施形態の変形例を示す図である。上述の第1の実施形態に係るクライオポンプ10においては、開口20とクライオパネル24の先端部34との間隔は、熱シールド18の最深部とパネル構造体最下部(すなわち中間部材28)との間隔と同程度とされている。パネル構造体16の上方及び下方の空間の中心軸方向の長さが同程度とされている。しかし、パネル構造体16の上部空間38は、パネル構造体16の下方の空間に比べてより広くされてもよいし、狭くされてもよい。
【0079】
例えば図5に示されるように、パネル構造体16は、その重心位置がクライオポンプ内部空間の中心部よりも下方に位置するように設けられてもよい。この場合、パネル構造体16の上部空間38は、パネル構造体16の下部空間40よりも広くされている。より具体的に言えば、開口20とクライオパネル24の先端部34との間隔が、ポンプ容器12または熱シールド18の最深部とクライオパネル24の接続部32との間隔よりも大きい。また、各クライオパネル24の重心位置は、ポンプ内部空間の中心部または冷凍機14の第2冷却ステージ22よりも気体進入方向Aに関して開口20から離れた位置に設けられている。このように上部空間38を広くすることにより、外部からの輻射熱によるパネル構造体16への影響を低減することができる。
【0080】
また、パネル構造体16をポンプ底部に設けることにより気体進入方向Aのクライオパネル長さを長くすることが可能となるため、クライオパネル面積を大きくすることも可能となる。よって、排気性能の向上も図ることができる。
【0081】
次に図6を参照して本発明の第2の実施形態に係るクライオポンプ10を説明する。第2の実施形態に係るクライオポンプ10は、冷凍機14及びクライオパネル24の位置関係に関して第1の実施形態とは異なる。第1の実施形態においてはクライオパネル24がポンプ底部から開口20に向けて第2冷却ステージ22を越えて延びているのに対し、第2の実施形態においてはクライオパネル24は冷凍機14よりも開口20に近接して配置されている。第2の実施形態では、パネル構造体16の重心位置を低くするために冷凍機14の取付位置がポンプ底部近傍とされている。
【0082】
なお以下の説明では第1の実施形態と同様の箇所については冗長を避けるため説明を適宜省略する。第1の実施形態及びこれに付随して説明された各変形例は、第2の実施形態及びこれに付随して説明される各変形例に適宜組み合わせることも可能である。
【0083】
図6は、本発明の第2の実施形態に係るクライオポンプ10の断面を模式的に示す図である。このクライオポンプ10は、第1の実施形態と同様にいわゆる横型のクライオポンプである。
【0084】
図6に示されるように冷凍機14は、第1段シリンダ6、第2段シリンダ7、及びモータ(図示せず)を含む。第1段シリンダ6と第2段シリンダ7とは直列に接続されており、互いに連結される第1段ディスプレーサ8及び第2段ディスプレーサ9がそれぞれ内蔵されている。第1段ディスプレーサ8及び第2段ディスプレーサ9がモータによって第1段シリンダ6及び第2段シリンダ7の内部を往復動することにより、内部を流通するヘリウムガス等の冷媒が断熱膨張され寒冷が発生される。圧縮機5は、冷凍機14の冷媒ガスを昇圧して冷凍機14へと送出し、冷凍機14で断熱膨張した冷媒ガスを回収して再び昇圧する。
【0085】
第1段シリンダ6の第2段シリンダ7側の端部に第1冷却ステージ21が設けられている。また、第2段シリンダ7の末端に第2冷却ステージ22が設けられている。第1冷却ステージ21及び第2冷却ステージ22はそれぞれ第1段シリンダ6及び第2段シリンダ7に例えばろう付けで固定される。
【0086】
カップ状の部材に形成されている熱シールド18の開口20にはバッフル23が取り付けられている。バッフル23はシェブロン形状とされている。ポンプ容器12は、熱シールド及び冷凍機14の第1段シリンダ6及び第2段シリンダ7を気密に収容するように形成されている。
【0087】
熱シールド18の側面において中心部よりもポンプ底部側に冷凍機取付孔42が形成されている。冷凍機取付孔42は熱シールド18側面のポンプ底部近傍に形成されている。冷凍機14の第2段シリンダ7及び第2冷却ステージ22は冷凍機取付孔42から熱シールド18の中心軸方向に垂直な方向に沿って挿入されている。熱シールド18は、冷凍機取付孔42において第1冷却ステージ21に熱的に接続された状態で固定される。このように第2の実施形態においては、冷凍機14の第2冷却ステージ22は、気体進入方向Aに関して熱シールド18の中心部よりも開口20から離れた位置に配置されている。同様に第2冷却ステージ22は気体進入方向Aに関してポンプ容器12の中心部よりも開口20から離れた位置に配置されている。また第2冷却ステージ22は、クライオパネル24の接続部32よりも開口20から離れてポンプ内部空間に配置されている。
【0088】
第2冷却ステージ22には、パネル構造体16が熱的に接続された状態で固定される。第2冷却ステージ22に接続部材26が取り付けられ、接続部材26に中間部材28が取り付けられ、中間部材28にクライオパネル24が立設されている。中間部材28は、例えば矩形の平板部材であり、中間部材28の開口20側の面にクライオパネル24が垂直に立設されている。クライオパネル24の両面の全体に吸着剤貼付面が形成され、吸着剤25としての例えば活性炭が接着されている。
【0089】
クライオパネル24は例えば矩形の平板部材であり、気体進入方向Aに関して長さの異なる2種類の寸法のクライオパネルが交互に設けられている。気体進入方向Aに関する長さが大きいクライオパネルと長さが小さいクライオパネルとを混在させることにより、ポンプ内部空間において単位体積当たりの吸着領域の密度を開口20からの距離に応じて調整することができる。図示されるように、開口20の近傍では比較的クライオパネル24が疎に配設され、開口20から離れて中間部材28近傍では比較的クライオパネル24が密に配設される。その結果、開口20近傍での気体の流れ性を良好にすることができる。それとともに中間部材28近傍ではパネルが密集配置され大きなパネル面積を確保することができる。
【0090】
第2の実施形態においては、ポンプ底部から開口20に向けて、接続部材26、中間部材28、クライオパネル24の順に配置されている。クライオパネル24の接続部32はポンプ容器12または熱シールド18の中心部よりも開口20から離れた位置に設けられ、クライオパネル24はポンプ容器12または熱シールド18の中心部よりも開口20に近接する位置まで延在している。このようにしても、ポンプ内部空間の比較的下方にパネル構造体16を設置することができるので、外部からの輻射熱を低減することができる。また、パネル構造体16の上部に空間をとることができるので、気体の流れ性が向上され排気性能も向上される。また、パネル構造体16の上部空間を利用して比較的大面積のクライオパネル24を設置することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るクライオポンプの一部を模式的に示す図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るクライオポンプの一部を模式的に示す図である。
【図3】第1の実施形態の比較例のクライオポンプの一部を模式的に示す図である。
【図4】第1の実施形態の比較例のクライオポンプの一部を模式的に示す図である。
【図5】第1の実施形態の変形例を示す図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係るクライオポンプの断面を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0092】
10 クライオポンプ、 12 ポンプ容器、 14 冷凍機、 16 パネル構造体、 18 熱シールド、 20 開口、 21 第1冷却ステージ、 22 第2冷却ステージ、 23 バッフル、 24 クライオパネル、 25 吸着剤、 26 接続部材、 28 中間部材、 32 接続部、 34 先端部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気されるべき気体が進入する吸気口を有するクライオポンプ容器と、
前記クライオポンプ容器内部に配設される冷却ステージを備える冷凍機と、
前記冷却ステージに熱的に接続される中間部材と、
前記冷却ステージよりも気体進入方向に関して前記吸気口から離れた位置に前記中間部材との接続部を有し、該接続部から前記吸気口に向けて延在するクライオパネルと、
を備えることを特徴とするクライオポンプ。
【請求項2】
前記接続部は、前記吸気口に露出されていることを特徴とする請求項1に記載のクライオポンプ。
【請求項3】
前記クライオパネルは、前記冷却ステージよりも前記気体進入方向に関して前記吸気口に近接する位置に先端部を有することを特徴とする請求項1に記載のクライオポンプ。
【請求項4】
前記クライオパネルは、前記冷却ステージよりも前記気体進入方向に前記吸気口から離れた位置に重心を有することを特徴とする請求項1に記載のクライオポンプ。
【請求項5】
前記クライオパネルは、前記接続部から前記先端部へと前記クライオポンプ容器の中心部を越えて前記気体進入方向に沿って延在することを特徴とする請求項3に記載のクライオポンプ。
【請求項6】
前記クライオポンプ容器の内部に配設され、前記冷却ステージ、前記中間部材、及び前記クライオパネルを包囲し、前記吸気口に対応する位置に開口を有する熱シールドをさらに備え、
前記クライオパネルは、前記接続部から前記先端部へと前記熱シールドの中心部を越えて前記気体進入方向に沿って延在することを特徴とする請求項3に記載のクライオポンプ。
【請求項7】
前記吸気口と前記先端部との間隔が、前記クライオポンプ容器の最深部と前記接続部との間隔よりも大きくされていることを特徴とする請求項3に記載のクライオポンプ。
【請求項8】
前記クライオパネルは、前記気体進入方向に平行に配置されるプレートを含むことを特徴とする請求項1に記載のクライオポンプ。
【請求項9】
冷凍機と、
排気されるべき気体が進入する開口を有する熱シールドと、
前記熱シールドの中心部よりも前記開口から離れた位置に前記冷凍機へと熱的に接続するための接続部を有し、該接続部から前記開口に向けて延在するクライオパネルと、
を備えることを特徴とするクライオポンプ。
【請求項10】
前記冷凍機は前記熱シールドに包囲されて配設される冷却ステージを備え、該冷却ステージは前記接続部よりも前記開口から離れて配置されることを特徴とする請求項9に記載のクライオポンプ。
【請求項11】
クライオポンプ内部容積において所定のレイアウトに配置されるクライオパネルと、
前記クライオパネルが取り付けられるパネル取付面を有し、前記クライオパネルを前記レイアウトに支持するパネル取付部材と、を備えるクライオポンプであって、
前記パネル取付部材は、前記パネル取付面から所定の外部熱源を見たときの形態係数を最小とするように配置されていることを特徴とするクライオポンプ。
【請求項12】
前記パネル取付面はクライオポンプ開口に対向する平面であり、
前記パネル取付部材は、前記パネル取付面の法線方向の位置が前記形態係数を最小とするよう設定されていることを特徴とする請求項11に記載のクライオポンプ。
【請求項13】
冷凍機と、排気されるべき気体が進入する開口を有する熱シールドと、前記熱シールドに包囲されて配設され前記冷凍機へと熱的に接続されているクライオパネルと、を備えるクライオポンプを使用する真空排気方法であって、
前記熱シールドの中心部を越えて延在するクライオパネルを前記熱シールドの中心部よりも前記開口から離れた位置で前記冷凍機に熱的に接続し、
前記冷凍機を駆動して前記クライオパネルを冷却し、
前記クライオパネルのうち少なくとも、前記熱シールドの中心部よりも前記開口に近接する端部で気体分子を捕捉することを特徴とする真空排気方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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