説明

クラッチレリーズ機構

【課題】クラッチレリーズフォークの揺動に伴うフォークサポートとの摩擦抵抗を飛躍的に減少させることができ、磨耗や摺動音の発生を確実に抑制すると共に円滑なクラッチ動作を得ることができるクラッチレリーズ機構を提供する。
【解決手段】クラッチレリーズフォーク7の揺動支点となるフォークサポート8を設ける。フォークサポート8は、先端に形成された第1凹部15と、第1凹部15に当接する転動体16とを備える。クラッチレリーズフォーク7は、揺動支点に対応する位置に形成されて転動体16が当接する第2凹部17を備える。第1凹部15と第2凹部17とは、クラッチレリーズフォーク7の長手方向への移動に応じた転動体16の転動を許容すべく、クラッチレリーズフォーク7の長手方向に沿って延設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両のクラッチ装置に設けられるクラッチレリーズ機構に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のクラッチレリーズ機構は、車両の動力源と変速機構との間等に設けられるクラッチ装置の一部を構成するものである。クラッチレリーズ機構は、長手方向の一端側と他端側とが支点を介して相対方向に揺動するクラッチレリーズフォークを備えている。クラッチレリーズフォークの支点は、長手方向の一端側と他端側との間に位置して、フォークサポートにより支持される。
【0003】
クラッチレリーズフォークは、その一端部が車両のクラッチペダル操作に応じて作動するシリンダのピストンロッドにより押圧され、フォークサポートを支点として揺動する。
【0004】
この揺動により、クラッチレリーズフォークの他端部は、クラッチレリーズベアリングを押圧して移動させる。クラッチレリーズベアリングの移動はダイヤフラムスプリングを介してプレッシャープレートに伝達される。ダイヤフラムスプリングはクラッチレリーズベアリングの移動方向を反対方向に変換し、クラッチディスクに圧接状態のプレッシャープレートをクラッチディスクから離反させる。これにより、動力源から変速機構への動力伝達が解除される。
【0005】
ところで、フォークサポートは揺動支点としてクラッチレリーズフォークを支持しているため、クラッチレリーズフォークとフォークサポートとの間の摩擦抵抗が増加すると、クラッチの作動荷重の増加や摺動音が発生する場合がある。そして更に、クラッチレリーズフォークとフォークサポートとの接触部分が磨耗すると、円滑なクラッチ動作が得られなくなるおそれもある。
【0006】
そこで、従来、フォークサポートの先端部に凹部を設け、この凹部内にボールを回転自在に組み込み、ボールをクラッチレリーズフォークに当接して揺動支点とすることにより、クラッチレリーズフォークとフォークサポートとの間の摩擦抵抗を低減させたものが知られている(下記特許文献1参照)。
【0007】
しかし、このものでは、クラッチレリーズフォークに対してフォークサポートのボールが転がり接触して摺動摩擦を低減することができても、フォークサポートの凹部とボールとは摺接状態にあるため、摩擦抵抗、摺動音及び磨耗の発生を十分に軽減することができない。
【0008】
また、フォークサポートの先端部にグリス等の潤滑剤を供給することによりクラッチレリーズフォークとフォークサポートとの間の摺接抵抗の低減を図ったものも知られている(下記特許文献2及び3参照)。
【0009】
しかし、これらのものでは、クラッチレリーズフォークとフォークサポートとは摺接状態にある以上、両者間に供給される潤滑剤の劣化や供給不良が生じた場合に摩擦抵抗が増加するおそれがあり、摺動音や磨耗の発生を軽減するには不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】実開昭62−82430号公報
【特許文献2】特開2009−30759号公報
【特許文献3】特開2009−144766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の点に鑑み、本発明は、クラッチレリーズフォークの揺動に伴うフォークサポートとの摩擦抵抗を飛躍的に減少させることができ、磨耗や摺動音の発生を確実に抑制すると共に円滑なクラッチ動作を得ることができるクラッチレリーズ機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、長手方向の一端側と他端側とが支点を介して相対方向に揺動するクラッチレリーズフォークと、該クラッチレリーズフォークの揺動支点となるフォークサポートとを備えるクラッチレリーズ機構において、前記フォークサポートは、その先端に形成された第1凹部と、該第1凹部に当接する転動体とを備え、前記クラッチレリーズフォークは、揺動支点に対応する位置に形成されて前記転動体が当接する第2凹部を備え、前記第1凹部と前記第2凹部とは、前記クラッチレリーズフォークの長手方向への移動に応じた前記転動体の転動を許容すべく、前記クラッチレリーズフォークの長手方向に沿って延設されていることを特徴とする。
【0013】
クラッチレリーズフォークは、その長手方向の一端側を力点として所定の押圧力が付与されると、フォークサポートの転動体を支点として揺動する。このとき、転動体は、前記第1凹部と前記第2凹部との両方に転がり接触し、第1凹部と転動体との間、及び第2凹部と転動体との間における滑り摩擦の発生が極めて小さくなる。よって、本発明によれば、クラッチレリーズフォークの揺動に伴うフォークサポートとの摩擦抵抗を飛躍的に減少させることができ、磨耗や摺動音の発生を確実に抑制することができる。
【0014】
そして、本発明においては、前記クラッチレリーズフォークの揺動に伴う該クラッチレリーズフォークの長手方向への移動に応じて前記第1凹部と前記第2凹部とが相対的に変位するとき、前記転動体が前記第1凹部と前記第2凹部とに接触状態で転動し、該転動体によって形成される前記クラッチレリーズフォークの揺動支点の位置が、該クラッチレリーズフォークの長手方向に沿って移動する。
【0015】
こうすることにより、後述する実施の形態のようにクラッチレリーズフォークがその長手方向に移動しつつ揺動する場合には、転動体がそれに追従して揺動支点の位置を移動させて、円滑なクラッチ作動をえることができる。そして、このときにも、転動体が第1凹部と第2凹部とに転がり接触して転動するので、磨耗や摺動音の原因となる滑り摩擦の発生を確実に抑えることができる。
【0016】
また、本発明においては、前記第1凹部と前記第2凹部との前記クラッチレリーズフォークの長手方向に沿った夫々の両端には前記転動体の転動を規制する段差部が形成されていることが好ましい。これによれば、段差部によって規制される転動体を介してクラッチレリーズフォークの長手方向に向う移動を所定の距離で制限して過剰な移動を防止することができる。
【0017】
また、本発明における前記転動体は転がり抵抗の小さい形状であることが好ましく、前記転動体の具体的な態様として、球形状、又は、前記第1凹部及び前記第2凹部の延設方向に回転軸線が直交するローラ形状に形成されていることが挙げられる。
【0018】
また、本発明においては、前記フォークサポートが、複数の前記第1凹部と、夫々の第1凹部に当接する複数の前記転動体とを備え、前記クラッチレリーズフォークが、各第1凹部に対向して各転動体が当接する複数の第2凹部を備える構成を採用してもよい。こうすることにより、前記クラッチレリーズフォークの揺動時に転動体にかかる負荷を分散して軽減することができ、クラッチレリーズ機構の耐久性を向上させることができる。
【0019】
また、本発明においては、前記フォークサポートの前記第1凹部を、前記クラッチレリーズフォークが収容されるクラッチハウジングの内壁に一体に形成してもよい。これによれば、前記第1凹部を形成したフォークサポートを別部品として用意する必要がなくなるので、部品点数が削減できるだけでなくクラッチ装置の組み付け作業を軽減することができ、コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態のクラッチレリーズ機構を採用するクラッチ装置の概略構成を示す説明的断面図。
【図2】クラッチレリーズフォークの形状を示す説明図。
【図3】クラッチレリーズフォークの作動を模式的に示す説明図。
【図4】クラッチレリーズフォーク及びフォークサポートの要部を示す説明的断面図。
【図5】第1凹部及び第2凹部の形状を示す説明的断面図。
【図6】クラッチレリーズフォークの他の形状を示す説明図。
【図7】第1凹部及び第2凹部の他の形状を示す説明的断面図。
【図8】クラッチレリーズフォークの他の例を示す説明図。
【図9】フォークサポートの他の例を示す説明的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1に概略断面を示す本実施形態のクラッチレリーズ機構1は、自動車等の車両において、エンジン等の動力源と変速機構との間に設けられるクラッチ装置2の一部を構成するもので、車両の運転者による図外のクラッチペダルの操作に応じて作動する。
【0022】
クラッチレリーズ機構1は、クラッチハウジング3に収容され、クラッチレリーズベアリング4を変速機構の入力軸5が貫通するクラッチハウジング3のレリーズベアリング摺動用ボス3aに沿ってスライドさせることにより、ダイヤフラムスプリング6に当接させるクラッチレリーズフォーク7と、クラッチレリーズフォーク7の揺動支点となるフォークサポート8とを備えている。
【0023】
クラッチレリーズフォーク7は、その長手方向の一端部にクラッチレリーズシリンダ9のピストンロッド10が当接しており、他端部には、クラッチレリーズベアリング4が当接している。
【0024】
クラッチレリーズフォーク7は、レリーズスプリング(図示省略)によってクラッチハウジング3の内面壁、もしくはフォークサポート8に係止されている。クラッチレリーズシリンダ9により押圧されたクラッチレリーズフォーク7は、フォークサポート8を揺動支点として揺動する。クラッチレリーズフォーク7が揺動することで、クラッチレリーズベアリング4が移動する。
【0025】
クラッチレリーズベアリング4がダイヤフラムスプリング6の内周部を押圧すると、ダイヤフラムスプリング6の外周部はクラッチレリーズベアリング4による押圧方向と反対方向に変位する。これにより、ダイヤフラムスプリング6によるプレッシャプレート11の付勢が解除され、入力軸5への動力伝達が解除される。
【0026】
このように、クラッチレリーズベアリング4の移動は、クラッチレリーズフォーク7の動作により行われる。クラッチレリーズフォーク7は、その揺動支点となるフォークサポート8に当接支持されている。
【0027】
クラッチレリーズフォーク7は、図2及び図3(a)に示すように、長手方向の一端部(図2において下端部)にクラッチレリーズシリンダ9のピストンロッド10が当接する凹球面状の力点部12が形成され、他端部(図2において上端部)がクラッチレリーズベアリング4に当接する作用点部13となっている。
【0028】
フォークサポート8は、図4(a)に示すように、クラッチハウジング3の内壁に螺着されるボルト軸14と、ボルト軸14の先端に形成されたサポート凹部15(第1凹部)と、サポート凹部15に転動自在に当接するボール16(転動体)とを備えている。
【0029】
クラッチレリーズフォーク7の力点部12と作用点部13との間には、フォーク凹部17(第2凹部)が形成されている。フォーク凹部17は、フォークサポート8のサポート凹部15と対向してフォークサポート8のボール16が転動自在に当接する。
【0030】
図5はクラッチレリーズフォーク7の長手方向に直角の断面形状であり、図5に示すように、サポート凹部15とフォーク凹部17とは互いに拡開側を対向させたV溝状に形成されており、ボール16は、サポート凹部15とフォーク凹部17とに当接挟持された状態となっている。
【0031】
更に、サポート凹部15とフォーク凹部17とは、図4(a)に示すように、クラッチレリーズフォーク7の長手方向に沿ってボール16が所定の距離を転動可能な長さに形成されている。
【0032】
また、図4(a)にのみ示すが、サポート凹部15の長手方向の両端位置と、フォーク凹部17の長手方向の両端位置とには、段差部15a,15b,17a,17bが形成されており、この段差部15a,15b,17a,17bによりサポート凹部15とフォーク凹部17との両端でボール16の転動が規制されるようになっている。
【0033】
段差部15a,15b,17a,17bによるボール16の規制により、ボール16を介してクラッチレリーズフォーク7の長手方向に沿った移動も制限され、例えば、クラッチレリーズフォーク7が過剰に上動してクラッチレリーズフォーク7の二股に延びる両作用点部13の間に位置する内底縁にクラッチレリーズベアリング4が干渉したり、クラッチレリーズフォーク7が過剰に下動して脱落するといったことを確実に防止できる。
【0034】
以上の構成により、クラッチレリーズフォーク7が揺動するとき、ボール16との当接位置が支点となる。ボール16はサポート凹部15とフォーク凹部17との両方に転がり接触するので、クラッチレリーズフォーク7が揺動しても、サポート凹部15とボール16との間、及びフォーク凹部17とボール16との間での摩擦抵抗が極めて小さい。従って、クラッチレリーズフォーク7の揺動に伴う磨耗や摺動音の発生が抑えられる。
【0035】
また、図3(a)の状態から、クラッチレリーズフォーク7の力点部12側が円弧状の軌道をもって揺動し、作用点部13側がクラッチレリーズベアリング4の移動方向に沿って直線状の軌道で揺動するような挙動を示す場合、図3(b)に示すように、クラッチレリーズフォーク7の長手方向に沿ってサポート凹部15とフォーク凹部17との対向位置が変位することが考えられる。こうしたクラッチレリーズフォーク7の挙動に対しても、図4(a)の状態からのクラッチレリーズフォーク7の揺動に伴って、ボール16が転動してサポート凹部15とフォーク凹部17との変位に追従し、図4(b)に示すように、サポート凹部15とフォーク凹部17との変位に応じて支点位置が円滑に変化する。これにより、クラッチレリーズフォーク7のスムーズな揺動が得られる。
【0036】
なお、上記の実施形態においては、サポート凹部15とフォーク凹部17とに接して転動するボール16を転動体として採用したが、転動体はこれに限るものではなく、図6に示すように、クラッチレリーズフォーク18の長手方向に回転軸線xが直交するローラ19を転動体として採用してもよい。この場合には、図7に示すように、クラッチレリーズフォーク18のフォーク凹部20とフォークサポート21のサポート凹部22とをローラ19の形状に対応する角溝状としてクラッチレリーズフォーク18の長手方向に沿って延設する。
【0037】
また、上記の実施形態においては、図2に示すように、単一のボール16を用いた構成を示したが、例えば、図8に示すように、複数(図8では2つ)のボール16,16を用いてもよい。この場合には、各ボール16,16に対応するフォーク凹部23,23をクラッチレリーズフォーク24に設け、図示しないが、フォークサポートにも各ボール16,16に対応する複数のサポート凹部を設ける。これによれば、クラッチレリーズフォーク24の揺動時の支点にかかる負荷を各ボール16,16で分散することができるので、クラッチレリーズ機構の耐久性が向上する。
【0038】
また、上記の実施形態においては、フォークサポート8がボルト軸14を備えてクラッチハウジング3の内壁に螺着されるものを示したが、これに替えて、図9に示すようなフォークサポート25を設けてもよい。このフォークサポート25は、サポート凹部26をクラッチハウジング3の内壁に一体に形成し、このサポート凹部26にボール16を接触させることにより構成したものである。これによれば、部品点数が削減できコスト低減を図ることができる。
【符号の説明】
【0039】
1…クラッチレリーズ機構、3…クラッチハウジング、7,18,23…クラッチレリーズフォーク、8,21,25…フォークサポート、15,22,26…サポート凹部(第1凹部)、15a,15b,17a,17b…段差部、16…ボール(転動体)、17,20,23…フォーク凹部(第2凹部)、19…ローラ(転動体)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向の一端側と他端側とが支点を介して相対方向に揺動するクラッチレリーズフォークと、該クラッチレリーズフォークの揺動支点となるフォークサポートとを備えるクラッチレリーズ機構において、
前記フォークサポートは、その先端に形成された第1凹部と、該第1凹部に当接する転動体とを備え、
前記クラッチレリーズフォークは、揺動支点に対応する位置に形成されて前記転動体が当接する第2凹部を備え、
前記第1凹部と前記第2凹部とは、前記クラッチレリーズフォークの長手方向への移動に応じた前記転動体の転動を許容すべく、前記クラッチレリーズフォークの長手方向に沿って延設されていることを特徴とするクラッチレリーズ機構。
【請求項2】
前記クラッチレリーズフォークの揺動に伴う該クラッチレリーズフォークの長手方向への移動に応じて前記第1凹部と前記第2凹部とが相対的に変位するとき、
前記転動体が前記第1凹部と前記第2凹部とに接触状態で転動し、該転動体によって形成される前記クラッチレリーズフォークの揺動支点の位置が、該クラッチレリーズフォークの長手方向に沿って移動することを特徴とする請求項1記載のクラッチレリーズ機構。
【請求項3】
前記第1凹部と前記第2凹部との前記クラッチレリーズフォークの長手方向に沿った夫々の両端には前記転動体の転動を規制する段差部が形成されていることを特徴とする請求項1または2記載のクラッチレリーズ機構。
【請求項4】
前記転動体は、球形状、又は、前記第1凹部及び前記第2凹部の延設方向に回転軸線が直交するローラ形状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載のクラッチレリーズ機構。
【請求項5】
前記フォークサポートは、複数の前記第1凹部と、夫々の第1凹部に当接する複数の前記転動体とを備え、
前記クラッチレリーズフォークは、各第1凹部に対向して各転動体が当接する複数の第2凹部を備えることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1記載のクラッチレリーズ機構。
【請求項6】
前記フォークサポートの前記第1凹部は、前記クラッチレリーズフォークが収容されるクラッチハウジングの内壁に一体に形成されていることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1記載のクラッチレリーズ機構。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−76458(P2013−76458A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223836(P2011−223836)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】