説明

クラッチレリーズ軸受装置

【課題】部品点数を削減して、製造コストを低減することができ、クラッチ装置の小型化を図ることができるクラッチレリーズ軸受装置を提供する。
【解決手段】クラッチレリーズ軸受装置10は、小径のクラッチレリーズ軸受20及び大径のクラッチレリーズ軸受30を備え、ガイド軸を成すスリーブ11の外周に軸方向摺動可能に外嵌される第1保持部材40と、第1保持部材40に対して小径のクラッチレリーズ軸受20を径方向移動可能に保持する第1連結部材50と、第1保持部材40の外周に軸方向摺動可能に外嵌される第2保持部材60と、第2保持部材60に対して大径のクラッチレリーズ軸受30を径方向移動可能に保持する第2連結部材70と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチレリーズ軸受装置に関し、より詳細には、ダブルクラッチ式トランスミッションに使用されるダブルクラッチ装置用のクラッチレリーズ軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両等に搭載される摩擦板を用いたクラッチ装置は、入力部材であるシフトフォークでクラッチカバーのダイヤフラムスプリングを軸方向に押圧することによって動力伝達の接離が行なわれる。そして、車体等の固定側に配置されるシフトフォークと、エンジンのフライホイール等に取り付けられて回転するダイヤフラムスプリングとの間には、両者間の相対回転を許容するクラッチレリーズ軸受が設けられる。
【0003】
従来のダブルクラッチ装置としては、奇数段ギヤ及び偶数段ギヤのクラッチが、それぞれ大きさの異なる大径及び小径のクラッチレリーズ軸受を同一軸上に備え、この大径及び小径のクラッチレリーズ軸受がクラッチの切り替え時に軸方向に摺動移動するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2002−174262号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載のダブルクラッチ装置では、大きさの異なる大径及び小径のクラッチレリーズ軸受を備え、それぞれのクラッチレリーズ軸受がフロントカバーを有するため、構造が複雑で製造コストが増加してしまうばかりでなく、クラッチレリーズ軸受の設置スペースが多く必要となるので、クラッチ装置の小型化が困難であった。
【0006】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、部品点数を削減して、製造コストを低減することができ、クラッチ装置の小型化を図ることができるクラッチレリーズ軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1)互いに同心的に配置され且つ相対回転する内輪及び外輪を備え、一方の輪が固定され、回転する他方の輪がクラッチ装置の回転部材に当接するようになっている大径及び小径のクラッチレリーズ軸受を備えるクラッチレリーズ軸受装置であって、ガイド軸上に軸方向摺動可能に外嵌される第1保持部材と、第1保持部材に対して小径のクラッチレリーズ軸受を径方向移動可能に保持する第1連結部材と、第1保持部材の外周に軸方向摺動可能に外嵌される第2保持部材と、第2保持部材に対して大径のクラッチレリーズ軸受を径方向移動可能に保持する第2連結部材と、を備えることを特徴とするクラッチレリーズ軸受装置。
(2)第1保持部材及び第2保持部材は、合成樹脂で形成されることを特徴とする(1)に記載のクラッチレリーズ軸受装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明のクラッチレリーズ軸受装置によれば、ガイド軸上に軸方向摺動可能に外嵌される第1保持部材と、第1保持部材に対して小径のクラッチレリーズ軸受を径方向移動可能に保持する第1連結部材と、第1保持部材の外周に軸方向摺動可能に外嵌される第2保持部材と、第2保持部材に対して大径のクラッチレリーズ軸受を径方向移動可能に保持する第2連結部材と、を備えるため、従来のダブルクラッチ装置において大径及び小径のクラッチレリーズ軸受のそれぞれに必要であったカバー部材の片方を省略することができる。これにより、部品点数を削減することができるので、製造コストを低減することができる。また、片方のカバー部材の設置スペースをなくすことができるので、クラッチ装置の小型化を図ることができる。
【0009】
また、本発明のクラッチレリーズ軸受装置によれば、第1保持部材及び第2保持部材が合成樹脂で形成されるため、優れた摺動特性を得ることができ、任意形状に容易に成形することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係るクラッチレリーズ軸受装置の各実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
(第1実施形態)
まず、図1を参照して、本発明に係るクラッチレリーズ軸受装置の第1実施形態について説明する。なお、図1の下方は第2連結部材を通る位置で切断されており、上方は第2連結部材以外を通る位置で切断されている。
【0012】
本実施形態のクラッチレリーズ軸受装置10は、図1に示すように、小径のクラッチレリーズ軸受20と、大径のクラッチレリーズ軸受30と、ガイド軸を成すスリーブ11の外周に軸方向摺動可能に外嵌される第1保持部材40と、第1保持部材40に対して小径のクラッチレリーズ軸受20を径方向移動可能に保持する第1連結部材50と、第1保持部材40の外周に軸方向摺動可能に外嵌される第2保持部材60と、第2保持部材60に対して大径のクラッチレリーズ軸受30を径方向移動可能に保持する一対の第2連結部材70と、を備える。
【0013】
小径のクラッチレリーズ軸受20は、左端部に不図示のダイヤフラムスプリングとの当接部21aを有する内輪21と、外輪22と、内輪21と外輪22との間に転動可能に配置される複数の玉23と、玉23を転動可能に所定間隔で保持する保持器24と、玉23の軸方向両側で内輪21と外輪22とにより画成される軸受空間を密封するシール25,26と、を備える。
【0014】
第1保持部材40は、合成樹脂製であって、スリーブ11の外周に軸方向摺動可能に外嵌される円筒部41と、円筒部41の軸方向端部(図1の左端部)近傍の外周から径方向外方に延設されるフランジ部42と、円筒部41のフランジ部42より軸方向外側部分に形成される小径部43と、小径部43の根元部分に形成される周溝44と、を有する。
【0015】
第1連結部材50は、第1保持部材40のフランジ部42に当接するベース部51と、小径のクラッチレリーズ軸受20の外輪22に当接する押圧部52と、ベース部51と押圧部52との間を軸方向に連結する梁部53と、を有する。また、第1連結部材50は、例えば、ばね鋼板をプレスで打ち抜いた後、折り曲げ、焼入処理することによって形成される。
【0016】
そして、第1連結部材50のベース部51と第1保持部材40の周溝44との間に皿ばね54が配設されており、第1連結部材50は、この皿ばね54の付勢力によって第1保持部材40に保持される。また、小径のクラッチレリーズ軸受20を径方向移動可能とするため、第1連結部材50のベース部51の内周と第1保持部材40の小径部43の外周との間には隙間C1が設けられる。これにより、小径のクラッチレリーズ軸受20は、隙間C1分だけ径方向移動可能となる。
【0017】
従って、クラッチが作動して、内輪21の当接部21aが不図示のダイヤフラムスプリングに当接したとき、両者が偏心していると、小径のクラッチレリーズ軸受20に調心力が生じて、小径のクラッチレリーズ軸受20が径方向に移動して自動調心される。
【0018】
大径のクラッチレリーズ軸受30は、左端部に不図示のダイヤフラムスプリングとの当接部31aを有する内輪31と、外輪32と、内輪31と外輪32との間に転動可能に配置される複数の玉33と、玉33を転動可能に所定間隔で保持する保持器34と、玉33の軸方向両側で内輪31と外輪32とにより画成される軸受空間を密封するシール35,36と、を備える。なお、大径のクラッチレリーズ軸受30の内輪31の径方向内側に小径のクラッチレリーズ軸受20が配置される。
【0019】
第2保持部材60は、合成樹脂製であって、第1保持部材40の円筒部41の外周に軸方向摺動可能に外嵌される円筒部61と、円筒部61の略中央部から径方向外方に延設されるフランジ部62と、フランジ部62の外端部から軸方向に延設される外壁部63と、フランジ部62から径方向外方に突設される突起部64と、を有する。なお、第2保持部材60に、不図示のフォーク部材との当接部に不図示の金属製のアンビルを埋設して摩耗を防止するようにしてもよい。
【0020】
外壁部63は、大径のクラッチレリーズ軸受30の外方に設けられており、一対の第2連結部材70によって保持される大径のクラッチレリーズ軸受30の径方向移動を制限する。また、大径のクラッチレリーズ軸受30を径方向に移動可能とするため、外輪32の外周と外壁部63の内周との間には隙間C2が設けられる。
【0021】
一対の第2連結部材70は、互いに180°異なる位相で配置されており、図2に示すように、第2保持部材60のフランジ部62に当接するベース部71と、大径のクラッチレリーズ軸受30の外輪32に当接するばね部72と、ベース部71とばね部72との間を軸方向に連結する梁部73と、梁部73の第2保持部材60の突起部64と対応する位置に形成され、突起部64が嵌合される凹部74と、を有する。また、第2連結部材70は、例えば、ばね鋼板をプレスで打ち抜いた後、折り曲げ、焼入処理することによって形成される。
【0022】
一対の第2連結部材70は、ベース部71とばね部72との間に、第2保持部材60のフランジ部62及び大径のクラッチレリーズ軸受30の外輪32を狭持しており、大径のクラッチレリーズ軸受30が、一対の第2連結部材70の付勢力によって第2保持部材60に保持される。即ち、一対の第2連結部材70は、第2保持部材60に対して、大径のクラッチレリーズ軸受30をばね部72と外輪32との間の摩擦力のみで保持しており、大径のクラッチレリーズ軸受30は、隙間C2分だけ径方向移動可能となる。
【0023】
従って、クラッチが作動して、内輪31の当接部31aが不図示のダイヤフラムスプリングに当接したとき、両者が偏心していると、大径のクラッチレリーズ軸受30に調心力が生じて、大径のクラッチレリーズ軸受30が径方向に移動して自動調心される。
【0024】
以上説明したように、本実施形態のクラッチレリーズ軸受装置10によれば、スリーブ11の外周に軸方向摺動可能に外嵌される第1保持部材40と、第1保持部材40に対して小径のクラッチレリーズ軸受20を径方向移動可能に保持する第1連結部材50と、第1保持部材40の外周に軸方向摺動可能に外嵌される第2保持部材60と、第2保持部材60に対して大径のクラッチレリーズ軸受30を径方向移動可能に保持する一対の第2連結部材70と、を備えるため、従来のダブルクラッチ装置において大径及び小径のクラッチレリーズ軸受のそれぞれに必要であったカバー部材の片方を省略することができる。これにより、部品点数を削減することができるので、製造コストを低減することができる。また、片方のカバー部材の設置スペースをなくすことができるので、クラッチ装置の小型化を図ることができる。
【0025】
また、本実施形態のクラッチレリーズ軸受装置10によれば、第1保持部材40及び第2保持部材60が合成樹脂で形成されるため、優れた摺動特性を得ることができ、任意形状に容易に成形することができる。
【0026】
(第2実施形態)
次に、図3を参照して、本発明に係るクラッチレリーズ軸受装置の第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同一又は同等部分については、図面に同一符号を付してその説明を省略或いは簡略化する。
【0027】
本実施形態の第2保持部材80は、合成樹脂製であって、図3に示すように、第1保持部材40の円筒部41の外周に軸方向摺動可能に外嵌される円筒部81と、円筒部81の略中央部から径方向外方に延設されるフランジ部82と、を有する。
【0028】
本実施形態の第2連結部材90は、図3に示すように、第2保持部材80のフランジ部82に当接するベース部91と、大径のクラッチレリーズ軸受30の外輪32に押圧装置95を介して当接する押圧部92と、ベース部91と押圧部92との間を軸方向に連結する梁部93と、梁部93のベース部91側に形成され、フランジ部82の外端部に外嵌される凹部94と、を有する。また、第2連結部材90は、例えば、ばね鋼板をプレスで打ち抜いた後、折り曲げ、焼入処理することによって形成される。
【0029】
押圧装置95は、調心ばねであり、第2連結部材90の押圧部92と大径のクラッチレリーズ軸受30の外輪32との間に配設されており、外輪32をフランジ部82側に押圧する。これにより、大径のクラッチレリーズ軸受30が、押圧装置95の押圧力によって第2保持部材80に保持される。また、大径のクラッチレリーズ軸受30を径方向移動可能とするため、外輪32の外周と梁部93の内周との間には隙間C2が設けられる。
【0030】
以上説明したように、本実施形態のクラッチレリーズ軸受装置10によれば、スリーブ11の外周に軸方向摺動可能に外嵌される第1保持部材40と、第1保持部材40に対して小径のクラッチレリーズ軸受20を径方向移動可能に保持する第1連結部材50と、第1保持部材40の外周に軸方向摺動可能に外嵌される第2保持部材80と、第2保持部材80に対して大径のクラッチレリーズ軸受30を径方向移動可能に保持する第2連結部材90と、を備えるため、従来のダブルクラッチ装置において大径及び小径のクラッチレリーズ軸受のそれぞれに必要であったカバー部材の片方を省略することができる。これにより、部品点数を削減することができるので、製造コストを低減することができる。また、片方のカバー部材の設置スペースをなくすことができるので、クラッチ装置の小型化を図ることができる。
その他の構成及び作用効果については、上記第1実施形態と同様である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係るクラッチレリーズ軸受装置の第1実施形態を説明するための断面図である。
【図2】図1に示す第2連結部材を説明するための斜視図である。
【図3】本発明に係るクラッチレリーズ軸受装置の第2実施形態を説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0032】
10 クラッチレリーズ軸受装置
11 スリーブ(ガイド軸)
20 小径のクラッチレリーズ軸受
30 大径のクラッチレリーズ軸受
40 第1保持部材
50 第1連結部材
60 第2保持部材
70 第2連結部材
80 第2保持部材
90 第2連結部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに同心的に配置され且つ相対回転する内輪及び外輪を備え、一方の輪が固定され、回転する他方の輪がクラッチ装置の回転部材に当接するようになっている大径及び小径のクラッチレリーズ軸受を備えるクラッチレリーズ軸受装置であって、
ガイド軸上に軸方向摺動可能に外嵌される第1保持部材と、
前記第1保持部材に対して前記小径のクラッチレリーズ軸受を径方向移動可能に保持する第1連結部材と、
前記第1保持部材の外周に軸方向摺動可能に外嵌される第2保持部材と、
前記第2保持部材に対して前記大径のクラッチレリーズ軸受を径方向移動可能に保持する第2連結部材と、を備えることを特徴とするクラッチレリーズ軸受装置。
【請求項2】
前記第1保持部材及び前記第2保持部材は、合成樹脂で形成されることを特徴とする請求項1に記載のクラッチレリーズ軸受装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−156402(P2010−156402A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−334764(P2008−334764)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】