説明

クラッチレリーズ軸受装置

【課題】部品点数を削減して、製造コストを低減することができ、クラッチ装置の小型化を図ることができるクラッチレリーズ軸受装置を提供することにある。
【解決手段】小径のクラッチレリーズ軸受20及び大径のクラッチレリーズ軸受30の外輪22,32が磁性材料で形成され、ガイド軸を成すスリーブ11の外周に軸方向摺動可能に外嵌され、磁石44を有する第1保持部材40と、第1保持部材40の外周に軸方向摺動可能に外嵌され、磁石54を有する第2保持部材50と、を備え、小径のクラッチレリーズ軸受20は、その外輪22が第1保持部材40の磁石44の磁力で吸着されることによって、第1保持部材40に対して径方向移動可能に保持され、大径のクラッチレリーズ軸受30は、その外輪32が第2保持部材50の磁石54の磁力で吸着されることによって、第2保持部材50に対して径方向移動可能に保持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチレリーズ軸受装置に関し、より詳細には、ダブルクラッチ式トランスミッションに使用されるダブルクラッチ装置用のクラッチレリーズ軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両等に搭載される摩擦板を用いたクラッチ装置は、入力部材であるシフトフォークでクラッチカバーのダイヤフラムスプリングを軸方向に押圧することによって動力伝達の接離が行なわれる。そして、車体等の固定側に配置されるシフトフォークと、エンジンのフライホイール等に取り付けられて回転するダイヤフラムスプリングとの間には、両者間の相対回転を許容するクラッチレリーズ軸受が設けられる。
【0003】
従来のダブルクラッチ装置としては、奇数段ギヤ及び偶数段ギヤのクラッチが、それぞれ大きさの異なる大径及び小径のクラッチレリーズ軸受を同一軸上に備え、この大径及び小径のクラッチレリーズ軸受がクラッチの切り替え時に軸方向に摺動移動するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2002−174262号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載のダブルクラッチ装置では、大きさの異なる大径及び小径のクラッチレリーズ軸受を備え、それぞれのクラッチレリーズ軸受がフロントカバーを有するため、構造が複雑で製造コストが増加してしまうばかりでなく、クラッチレリーズ軸受の設置スペースが多く必要となるので、クラッチ装置の小型化が困難であった。
【0006】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、部品点数を削減して、製造コストを低減することができ、クラッチ装置の小型化を図ることができるクラッチレリーズ軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1)互いに同心的に配置され且つ相対回転する内輪及び外輪を備え、一方の輪が固定され、回転する他方の輪がクラッチ装置の回転部材に当接するようになっている大径及び小径のクラッチレリーズ軸受を備えるクラッチレリーズ軸受装置であって、小径のクラッチレリーズ軸受及び大径のクラッチレリーズ軸受の外輪は、磁性材料で形成され、ガイド軸上に軸方向摺動可能に外嵌され、磁石を有する第1保持部材と、第1保持部材の外周に軸方向摺動可能に外嵌され、磁石を有する第2保持部材と、を備え、小径のクラッチレリーズ軸受は、小径のクラッチレリーズ軸受の外輪が第1保持部材の磁石の磁力で吸着されることによって、第1保持部材に対して径方向移動可能に保持され、大径のクラッチレリーズ軸受は、大径のクラッチレリーズ軸受の外輪が第2保持部材の磁石の磁力で吸着されることによって、第2保持部材に対して径方向移動可能に保持されることを特徴とするクラッチレリーズ軸受装置。
(2)第1保持部材及び第2保持部材は、合成樹脂で形成され、第1保持部材の磁石は、第1保持部材にインサート成形され、第2保持部材の磁石は、第2保持部材にインサート成形されることを特徴とする(1)に記載のクラッチレリーズ軸受装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明のクラッチレリーズ軸受装置によれば、小径のクラッチレリーズ軸受及び大径のクラッチレリーズ軸受の外輪は、磁性材料で形成され、ガイド軸上に軸方向摺動可能に外嵌され、磁石を有する第1保持部材と、第1保持部材の外周に軸方向摺動可能に外嵌され、磁石を有する第2保持部材と、を備え、小径のクラッチレリーズ軸受は、小径のクラッチレリーズ軸受の外輪が第1保持部材の磁石の磁力で吸着されることによって、第1保持部材に対して径方向移動可能に保持され、大径のクラッチレリーズ軸受は、大径のクラッチレリーズ軸受の外輪が第2保持部材の磁石の磁力で吸着されることによって、第2保持部材に対して径方向移動可能に保持されるため、従来のダブルクラッチ装置において大径及び小径のクラッチレリーズ軸受のそれぞれに必要であったカバー部材の片方を省略することができる。これにより、部品点数を削減することができるので、製造コストを低減することができる。また、片方のカバー部材の設置スペースをなくすことができるので、クラッチ装置の小型化を図ることができる。
【0009】
また、本発明のクラッチレリーズ軸受装置によれば、第1保持部材及び第2保持部材は、合成樹脂で形成され、第1保持部材の磁石は、第1保持部材にインサート成形され、第2保持部材の磁石は、第2保持部材にインサート成形されるため、所定の位置に磁石が配置された任意形状の第1保持部材及び第2保持部材を容易に成形することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係るクラッチレリーズ軸受装置の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
本実施形態のクラッチレリーズ軸受装置10は、図1に示すように、小径のクラッチレリーズ軸受20と、大径のクラッチレリーズ軸受30と、ガイド軸を成すスリーブ11の外周に軸方向摺動可能に外嵌される第1保持部材40と、第1保持部材40の外周に軸方向摺動可能に外嵌される第2保持部材50と、を備える。
【0012】
小径のクラッチレリーズ軸受20は、左端部に不図示のダイヤフラムスプリングとの当接部21aを有する内輪21と、当接部21aに対して反対側の端部にフランジ部22aを有する外輪22と、内輪21と外輪22との間に転動可能に配置される複数の玉23と、玉23を転動可能に所定間隔で保持する保持器24と、玉23の当接部21a側で内輪21と外輪22とにより画成される軸受空間を密封するシール25と、を備える。また、本実施形態では、外輪22は、磁性金属板(磁性材料)をプレス加工することによって成形されたプレス外輪である。また、フランジ部22aは、その内周側端部が対向する内輪21の外周面近傍まで延設されており、シール25と共に軸受空間を密閉するシールを構成する。
【0013】
第1保持部材40は、合成樹脂製であって、スリーブ11の外周に軸方向摺動可能に外嵌される円筒部41と、円筒部41の軸方向端部(図1の左端部)近傍の外周から径方向外方に延設されるフランジ部42と、円筒部41のフランジ部42より軸方向外側部分に形成される小径部43と、フランジ部42の小径部43側の面にインサート成形により埋設されるリング状の第1磁石44と、を有する。
【0014】
そして、小径のクラッチレリーズ軸受20は、その外輪22のフランジ部22aが、第1保持部材40の第1磁石44の磁力で吸着されることによって、第1保持部材40のフランジ部42に径方向移動可能に保持される。また、小径のクラッチレリーズ軸受20を径方向移動可能とするため、小径のクラッチレリーズ軸受20の内輪21の内周と第1保持部材40の小径部43の外周との間には隙間C1が設けられる。これにより、小径のクラッチレリーズ軸受20は、隙間C1分だけ径方向移動可能となる。
【0015】
従って、クラッチが作動して、内輪21の当接部21aが不図示のダイヤフラムスプリングに当接したとき、両者が偏心していると、小径のクラッチレリーズ軸受20に調心力が生じて、小径のクラッチレリーズ軸受20が第1磁石44の磁力で吸着されたまま、径方向に移動して自動調心される。
【0016】
大径のクラッチレリーズ軸受30は、左端部に不図示のダイヤフラムスプリングとの当接部31aを有する内輪31と、当接部31aに対して反対側の端部にフランジ部32aを有する外輪32と、内輪31と外輪32との間に転動可能に配置される複数の玉33と、玉33を転動可能に所定間隔で保持する保持器34と、玉33の当接部31a側で内輪31と外輪32とにより画成される軸受空間を密封するシール35と、を備える。また、本実施形態では、外輪32は、磁性金属板(磁性材料)をプレス加工することによって成形されたプレス外輪である。また、フランジ部32aは、その内周側端部が対向する内輪31の外周面近傍まで延設されており、シール35と共に軸受空間を密閉するシールを構成する。なお、大径のクラッチレリーズ軸受30の内輪31の径方向内側に小径のクラッチレリーズ軸受20が配置される。
【0017】
第2保持部材50は、合成樹脂製であって、第1保持部材40の円筒部41の外周に軸方向摺動可能に外嵌される円筒部51と、円筒部51の略中央部から径方向外方に延設されるフランジ部52と、円筒部51のフランジ部52より軸方向外側部分に形成される小径部53と、フランジ部52の小径部53側の面にインサート成形により埋設されるリング状の第2磁石54と、を有する。
【0018】
そして、大径のクラッチレリーズ軸受30は、その外輪32のフランジ部32aが、第2保持部材50の第2磁石54の磁力で吸着されることによって、第2保持部材50のフランジ部52に径方向移動可能に保持される。また、大径のクラッチレリーズ軸受30を径方向移動可能とするため、大径のクラッチレリーズ軸受30の内輪31の内周と第2保持部材50の小径部53の外周との間には隙間C2が設けられる。これにより、大径のクラッチレリーズ軸受30は、隙間C2分だけ径方向移動可能となる。
【0019】
従って、クラッチが作動して、内輪31の当接部31aが不図示のダイヤフラムスプリングに当接したとき、両者が偏心していると、大径のクラッチレリーズ軸受30に調心力が生じて、大径のクラッチレリーズ軸受30が第2磁石54の磁力で吸着されたまま、径方向に移動して自動調心される。
【0020】
以上説明したように、本実施形態のクラッチレリーズ軸受装置10によれば、小径のクラッチレリーズ軸受20及び大径のクラッチレリーズ軸受30の外輪22,32は、磁性材料で形成され、スリーブ11の外周に軸方向摺動可能に外嵌され、第1磁石44を有する第1保持部材40と、第1保持部材40の円筒部41の外周に軸方向摺動可能に外嵌され、第2磁石54を有する第2保持部材50と、を備え、小径のクラッチレリーズ軸受20は、その外輪22のフランジ部22aが第1保持部材40の第1磁石44の磁力で吸着されることによって、第1保持部材40に対して径方向移動可能に保持され、大径のクラッチレリーズ軸受30は、その外輪32のフランジ部32aが第2保持部材50の第2磁石54の磁力で吸着されることによって、第2保持部材50に対して径方向移動可能に保持されるため、従来のダブルクラッチ装置において大径及び小径のクラッチレリーズ軸受のそれぞれに必要であったカバー部材の片方を省略することができる。これにより、部品点数を削減することができるので、製造コストを低減することができる。また、片方のカバー部材の設置スペースをなくすことができるので、クラッチ装置の小型化を図ることができる。
【0021】
また、本実施形態のクラッチレリーズ軸受装置10によれば、第1保持部材40及び第2保持部材50は、合成樹脂で形成され、第1磁石44は、第1保持部材40のフランジ部42にインサート成形され、第2磁石54は、第2保持部材50のフランジ部52にインサート成形されるため、所定の位置に第1磁石44及び第2磁石54が配置された任意形状の第1保持部材40及び第2保持部材50を容易に成形することができる。
【0022】
なお、本発明は、上記実施形態に例示したものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
例えば、第1保持部材40及び第2保持部材50の不図示のフォーク部材との当接部に金属製のアンビルを埋設して、第1保持部材40及び第2保持部材50の不図示のフォーク部材との接触による摩耗を防止するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るクラッチレリーズ軸受装置の一実施形態を説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0024】
10 クラッチレリーズ軸受装置
11 スリーブ(ガイド軸)
20 小径のクラッチレリーズ軸受
21 内輪
22 外輪
30 大径のクラッチレリーズ軸受
31 内輪
32 外輪
40 第1保持部材
44 第1磁石
50 第2保持部材
54 第2磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに同心的に配置され且つ相対回転する内輪及び外輪を備え、一方の輪が固定され、回転する他方の輪がクラッチ装置の回転部材に当接するようになっている大径及び小径のクラッチレリーズ軸受を備えるクラッチレリーズ軸受装置であって、
前記小径のクラッチレリーズ軸受及び前記大径のクラッチレリーズ軸受の外輪は、磁性材料で形成され、
ガイド軸上に軸方向摺動可能に外嵌され、磁石を有する第1保持部材と、
前記第1保持部材の外周に軸方向摺動可能に外嵌され、磁石を有する第2保持部材と、を備え、
前記小径のクラッチレリーズ軸受は、前記小径のクラッチレリーズ軸受の前記外輪が前記第1保持部材の前記磁石の磁力で吸着されることによって、前記第1保持部材に対して径方向移動可能に保持され、
前記大径のクラッチレリーズ軸受は、前記大径のクラッチレリーズ軸受の前記外輪が前記第2保持部材の前記磁石の磁力で吸着されることによって、前記第2保持部材に対して径方向移動可能に保持されることを特徴とするクラッチレリーズ軸受装置。
【請求項2】
前記第1保持部材及び前記第2保持部材は、合成樹脂で形成され、
前記第1保持部材の前記磁石は、前記第1保持部材にインサート成形され、
前記第2保持部材の前記磁石は、前記第2保持部材にインサート成形されることを特徴とする請求項1に記載のクラッチレリーズ軸受装置。

【図1】
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【公開番号】特開2010−156404(P2010−156404A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−334768(P2008−334768)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】