説明

クラッチ機構、クラッチ付減速機、および減速機付モータ

【課題】安定した動作を実現できると共に、外力による従動回転体の回転を確実に阻止できるクラッチ機構、クラッチ付減速機、および減速機付モータを提供する。
【解決手段】電動モータの回転が入力されるウォームホイール16と、電動モータの回転を出力するドライブプレート41と、ケーシング11とドライブプレート41との間に配置されたロックプレート38とを備え、ウォームホイール16が回転するとき、ウォームホイール16によってドライブプレート41とロックプレート38とが同時に回転される一方、ウォームホイール16よりも先にドライブプレート41が回転するとき、ドライブプレート41によって、ロックプレート38がケーシング11側に向かってドライブプレート41の軸方向に沿って押圧され、これによって生じるロックプレート38とケーシング11との間の摩擦力がドライブプレート41の回転を阻止するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両等に搭載されるクラッチ機構、クラッチ付減速機、および減速機付モータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される減速機付モータとしては、例えば、自動車のパワーウインド装置に用いられるものがある。この種の減速機付モータは、ウォーム減速機と電動モータとが連結されている。ウォーム減速機は、電動モータの回転軸に連結されるウォームと、このウォームに噛合されるウォームホイールとを備えている。そして、このウォームホイールをパワーウインド装置の出力軸に連結することにより、ウインドガラスの開閉動作を行うことができるようになっている。
【0003】
ところで、電動モータの回転軸にウインドガラスの自重や車両走行時の振動等の外力による回転力が作用し、ウインドガラスが開いてしまう場合がある。そこで、外力による回転力によって電動モータの回転軸が回転してしまうことを防止するために、ウォーム減速機にクラッチを内装する技術が提案されている。
クラッチとしては、例えば、ウォームホイールと一体的に回転する駆動回転体と、駆動回転体に係合すると共に出力軸に連結される従動回転体と、これら駆動回転体と従動回転体とを収容する外輪と、従動回転体と外輪との間に設けられた円柱状のコロとを備えたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この種のクラッチは、電動モータによって駆動回転体が回転したとき、コロはフリー状態に維持されつつ駆動回転体の軸心の周りで周回する。このため、従動回転体と駆動回転体とが一体となって回転し、ウインドガラスの開閉動作が行われる。
一方、ウインドガラスの自重や車両走行時の振動等の外力により従動回転体が回転すると、コロは従動回転体と外輪との間に挟持された状態になり、これによって従動回転体の回転が阻止される。このため、ウインドガラスが自重や車両走行時の振動等によって開いてしまうことを防止できる。
【特許文献1】国際公開第2000/08349号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の従来技術にあっては、コロが不安定な円柱状に形成されているのでコロの姿勢を維持し難い。このため、コロの姿勢が崩れて従動回転体、コロ、および外輪がかじってしまうおそれがある。
また、コロを従動回転体と外輪との間で挟持することによって従動回転体の回転を阻止するので、コロと従動回転体、およびコロと外輪がそれぞれ線接触となる。このため、大きな摩擦力を付与することができず、従動回転体の回転を阻止する力を大きくし難い。よって、大きな外力がかかるとウインドガラスが開いてしまうおそれがあるという課題がある。
【0006】
そこで、この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、安定した動作を実現できると共に、外力による従動回転体の回転を確実に阻止できるクラッチ機構、クラッチ付減速機、および減速機付モータを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載した発明は、電動モータの回転が入力される駆動回転体と、前記駆動回転体と係合し、前記電動モータの回転を出力する従動回転体と、これら駆動回転体と従動回転体とを収容するケーシングと、前記ケーシングと前記従動回転体との間に配置されたロックプレートとを備え、前記電動モータの回転によって前記駆動回転体が回転するとき、該駆動回転体によって前記従動回転体と前記ロックプレートとが同時に回転される一方、前記駆動回転体よりも先に前記従動回転体が回転するとき、該従動回転体によって、前記ロックプレートが前記ケーシング側に向かって前記従動回転体の軸方向に沿って押圧され、これによって生じる前記ロックプレートと前記ケーシングとの間の摩擦力が前記従動回転体の回転を阻止するように構成されていることを特徴とする。
このように構成することで、従来のようにコロを用いずに、ロックプレートをケーシングに押し当てることで外力による従動回転体の回転を阻止することができる。
また、ロックプレートとケーシング、およびロックプレートと従動回転体との接触面積を従来のコロと外輪、およびコロと従動回転体との接触面積よりも大きく設定することができるので、従来よりも大きな摩擦力をロックプレートに付与することができる。
【0008】
請求項2に記載した発明は、前記駆動回転体に、軸方向に貫通する複数の係合孔を周方向に沿って形成し、前記駆動回転体の軸方向一端面に前記従動回転体を配置し、この従動回転体に、前記係合孔に挿入される第一凸部を形成し、前記駆動回転体の軸方向他端面に前記ロックプレートを配置し、このロックプレートに、前記係合孔に挿入される第二凸部を形成し、前記従動回転体の回転によって、前記第一凸部が前記第二凸部に対して周方向に移動すると、前記第一凸部と前記第二凸部とが互いに干渉し、前記第二凸部が前記ケーシング側に押圧されることを特徴とする。
このように構成することで、簡単な構造で外力による従動回転体の回転を阻止できる。
【0009】
請求項3に記載した発明は、前記第一凸部の第一先端面と前記第二凸部の第二先端面とは、相互に対向配置され、前記第一先端面、および前記第二先端面のうち何れか一方は、周方向中央から両端にかけて高さが減少する傾斜面を有し、前記第一先端面、および前記第二先端面のうち何れか他方は、周方向中央から両端にかけて高さが増加する傾斜面を有することを特徴とする。
このように構成することで、簡単な構造で確実にロックプレートをケーシング側に向かって従動回転体の軸方向に沿って押圧させることができる。
【0010】
請求項4に記載した発明は、前記第一先端面の傾斜面、および前記第二先端面の傾斜面の傾斜角度をα、前記ケーシングと前記ロックプレートとの間の摩擦係数をμとしたとき、傾斜角度αは、
α≦tan−1μ
を満たすように設定されていることを特徴とする。
このように構成することで、外力による従動回転体の回転をより確実に阻止できる。
【0011】
請求項5に記載した発明は、前記第一先端面の傾斜面、および前記第二先端面の傾斜面の少なくとも一方は、径方向に沿って高さが同一に設定されていることを特徴とする。
このように構成することで、従動回転体の第一凸部とロックプレートの第二凸部とが互いに局所的に当接してしまうことを防止でき、相互の軸方向の位置が変化しても面接触させることができる。
【0012】
請求項6に記載した発明は、前記第一先端面の傾斜面、および前記第二先端面の傾斜面は、これら傾斜面の傾斜角度αが径方向の中央で
α≦tan−1μ
を満たすように形成されていることを特徴とする。
このように構成することで、第一先端面、および第二先端面を径方向に沿って高さが同一となるように形成した場合であっても、傾斜面全体の平均で
α≦tan−1μ
を満たすことが可能になる。
【0013】
請求項7に記載した発明は、前記ロックプレートと前記ケーシングとの間に、前記ケーシングより摩擦係数の大きい材料からなる摩擦部材を配置したことを特徴とする。
このように構成することで、ロックプレートに十分な摩擦力を容易に付与することができる。
【0014】
請求項8に記載した発明は、前記ロックプレートと前記ケーシングとの摺動部分をテーパ状に形成したことを特徴とする。
このように構成することで、摩擦部材を設けることなく、ロックプレートに十分な摩擦力を付与することができる。
【0015】
請求項9に記載した発明は、請求項1〜請求項8の何れかに記載のクラッチ機構の駆動回転体をウォームホイールとし、このウォームホイールに噛合い、かつ前記電動モータに連結されるウォーム軸を設けたことを特徴とするクラッチ付減速機とした。
このように構成することで、従来のように駆動回転体を別途設ける必要がなく、部品点数を減少させることができる。
【0016】
請求項10に記載した発明は、請求項9に記載のクラッチ付減速機に前記電動モータを取り付け、前記電動モータの回転軸と前記ウォーム軸とを相対回転不能に連結したことを特徴とする減速機付モータとした。
このように構成することで、安定した動作を実現できると共に、外力による従動回転体の回転を確実に阻止できる減速機付モータを提供できる。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載した発明によれば、従来のようにコロを用いずに、ロックプレートをケーシングに押し当てることで外力による従動回転体の回転を阻止することができる。ロックプレートは、コロのように不安定な姿勢になることがないので、ロックプレートがかじるおそれがなく、クラッチ機構の動作を安定させることができる。
また、ロックプレートとケーシング、およびロックプレートと従動回転体との接触面積を従来のコロと外輪、およびコロと従動回転体との接触面積よりも大きく設定することができるので、従来よりも大きな摩擦力をロックプレートに付与することができる。このため、外力による従動回転体の回転を確実に阻止できる。
【0018】
請求項2に記載した発明によれば、簡単な構造で外力による従動回転体の回転を阻止できる。このため、製造コストを抑えたクラッチ機構を提供できる。
【0019】
請求項3に記載した発明によれば、簡単な構造で確実にロックプレートをケーシング側に向かって従動回転体の軸方向に沿って押圧させることができる。このため、製造コストの増大を抑えつつクラッチ機構の動作を安定させることが可能になる。
【0020】
請求項4に記載した発明によれば、外力による従動回転体の回転をより確実に阻止できる。このため、信頼性の高いクラッチ機構を提供できる。
【0021】
請求項5に記載した発明によれば、従動回転体の第一凸部とロックプレートの第二凸部とが互いに局所的に当接してしまうことを防止でき、相互の軸方向の位置が変化しても面接触させることができる。このため、第一凸部、および第二凸部に局所的な付加がかかるのを防止することが可能になり、これによる従動回転体、およびロックプレートの損傷を防止できる。また、第一凸部と第二凸部とを面接触させることで外力による従動回転体の回転を確実にロックプレートに伝達することができる。
【0022】
請求項6に記載した発明によれば、第一先端面、および第二先端面を径方向に沿って高さが同一となるように形成した場合であっても、傾斜面全体の平均で
α≦tan−1μ
を満たすことが可能になる。このため、より信頼性の高いクラッチ機構を提供できる。
【0023】
請求項7に記載した発明によれば、ロックプレートに十分な摩擦力を容易に付与することができる。このため、より確実に外力による従動回転体の回転を阻止することが可能になる。
【0024】
請求項8に記載した発明によれば、摩擦部材を設けることなく、ロックプレートに十分な摩擦力を付与することができる。このため、より製造コストを抑えたクラッチ機構を提供できる。
【0025】
請求項9に記載した発明によれば、従来のように駆動回転体を別途設ける必要がなく、部品点数を減少させることができる。このため、低コスト、かつ確実に外力による従動回転体の回転を確実に阻止できるクラッチ付減速機を提供できる。
【0026】
請求項10に記載した発明によれば、安定した動作を実現できると共に、外力による従動回転体の回転を確実に阻止できる減速機付モータを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
(第一実施形態)
次に、この発明の第一実施形態を図1〜図11に基づいて説明する。
図1に示すように、減速機付モータ1は、例えば、車両のパワーウインド装置等に用いられるものであって、電動モータ2と電動モータ2に連結されたウォーム減速機3とを備え、ウォーム減速機3にクラッチ機構4が内装されている。
電動モータ2としては、例えば、ブラシ付直流モータなどが用いられるものであって、複数の永久磁石(例えば、6極)が配設されている有底筒状のヨーク5と、ヨーク5の内側に回転自在に設けられたアーマチュア6とを備えている。アーマチュア6は、回転軸7と、回転軸7に外嵌固定されているアーマチュアコア(不図示)と、回転軸7の一端側に設けられるコンミテータ(不図示)とを有している。アーマチュアコアには、巻線を巻装するための複数のスロット(例えば、9スロット)が形成されている。回転軸7の一端には、ウォーム減速機3が連結されている。
【0028】
図1、図2に示すように、ウォーム減速機3は、アーマチュア6の一端側を受け入れるホルダ部8と、ウォームギア9、およびクラッチ機構4を収納するギア収納部10とが一体成形されたケーシング11を有している。
ホルダ部8は電動モータ2側に開口部8aを有する箱状に形成されたものであって、アーマチュア6に設けられている不図示のコンミテータや、このコンミテータに摺接するブラシを収納するようになっている。
【0029】
電動モータ2は、ホルダ部8の開口部8aをヨーク5で閉塞するように設けられている。ホルダ部8の周壁8bにはボルト座20が3箇所突設されており、ここに雌ネジ部21が刻設されている。一方、電動モータ2のヨーク5には、開口縁にホルダ部8のボルト座20に対応するように外フランジ部22が形成されている。この外フランジ部22にボルト12を挿通し、このボルト12をボルト座20の雌ネジ部21に螺入することによって、ホルダ部8にヨーク5が締結固定される。
【0030】
また、ホルダ部8の周壁8bには、不図示の外部電源と接続可能なコネクタ13が設けられている。コネクタ13の端子14は、ホルダ部8に収納されている不図示のブラシと電気的に接続されており、これによって外部電源の電力を電動モータ2のアーマチュア6に供給できるようになっている。
【0031】
ケーシング11のギア収納部10は、ウォームギア9の一方を構成するウォーム軸15を収納するウォーム軸収納部17と、ウォームギア9の他方を構成するウォームホイール16を収納すると共に、クラッチ機構4を収納するクラッチ収納部18とが一体成形されたものである。ウォーム軸収納部17は略円筒状に形成されており、外周面のクラッチ収納部18とは反対側に、ボルト座23が外側に向かって突設されている。
ここで、電動モータ2の回転軸7は、ホルダ部8を貫通してウォーム軸収納部17内に突出している。そして、回転軸7は、ウォーム軸収納部17に収納されているウォーム軸15と相対回転不能に連結されており、回転軸7とウォーム軸15とが一体となって回転するようになっている。
【0032】
クラッチ収納部18は有底筒状に形成されており、外周面に径方向外側に向かって突出する2つのボルト座24,24が設けられている。これらウォーム軸収納部17のボルト座23とクラッチ収納部18のボルト座24には、それぞれ貫通孔25が形成されている。各貫通孔25には、それぞれインサートナット26が設けられている。インサートナット26は、減速機付モータ1を外部機器に取り付けるために用いられる。
【0033】
ウォームホイール16、およびクラッチ機構4は、クラッチ収納部18に突設されているセンターシャフト28によって回転自在に支持されている。クラッチ収納部18のエンド部(底部)18aには、径方向略中央に貫通孔29が形成されており、ここにセンターシャフト28がOリング58を介して挿入されている。センターシャフト28の基端側には、外フランジ部30が形成されている。
【0034】
この外フランジ部30がクラッチ収納部18のエンド部18aに当接することによって、センターシャフト28の軸方向の位置決めが行われる。センターシャフト28の先端側には、段差により縮径された縮径部31が設けられ、ここに雄ネジ部32が刻設されている。雄ネジ部32には、ウォームホイール16、およびクラッチ機構4のセンターシャフト28からの抜けを規制するためのナット33が螺入される。
【0035】
図2、図3に示すように、ウォームホイール16は、略円板状に形成されたものであって、外周面にウォーム軸15に噛合う歯部34が形成されている。
ウォームホイール16の径方向中央には、センターシャフト28を挿通するための挿通孔35が形成されている。この挿通孔35の周囲には、軸方向平面視で略扇状に形成された3つの係合孔36が周方向に等間隔で形成されている。
【0036】
係合孔36は段付状に形成されたものであって、ウォームホイール16の軸方向上端側(図2における上端側)に形成された第一孔36aと、ウォームホイール16の軸方向下端側、つまり、ウォームホイール16のクラッチ収納部18のエンド部18a側に形成された第二孔36bとが連通している。第二孔36bは、第一孔36aよりも周方向に幅広に形成されている。
また、ウォームホイール16のクラッチ収納部18のエンド部18a側には、中央の大部分に軸方向平面視で略円形状の収納凹部39が形成されている。この収納凹部39には、後述するロックプレート38が収納される。
【0037】
ここで、ウォームホイール16は、ウォームギア9の他方を構成していると共に、クラッチ機構4の一部を構成している。
クラッチ機構4は、フェーシング材37、ロックプレート38、ウェイブワッシャ40、ウォームホイール16、およびドライブプレート41を備えている。そして、この順でクラッチ収納部18に収納され、ロックプレート38、ウォームホイール16、およびドライブプレート41がセンターシャフト28に回転自在に支持されている。
【0038】
フェーシング材37は平面視略円環状に形成されたものであって、ロックプレート38に摩擦力を付勢するための摩擦板としての役割を有する。フェーシング材37は硬質ゴムなどで形成することが望ましい。樹脂などを用いると摩耗粉が多量に発生し、クラッチ機構4が正常に動作しなくなるおそれがある。
クラッチ収納部18のエンド部18aには、フェーシング材37に対応する部位に、フェーシング材37が載置される平面視円環状の溝42が形成されている。この溝42にフェーシング材37を載置することによって、フェーシング材37のずれを防止するようになっている。溝42の溝深さは、フェーシング材37の一端面がクラッチ収納部18のエンド部18aからやや突出可能な深さに設定されている(図6参照)。
【0039】
また、クラッチ収納部18のエンド部18aには、溝42を含む径方向中央の大部分に、ロックプレート38を受け入れる凹部49が形成されている。すなわち、溝42は、凹部49上に形成されていることになる。凹部49には、ロックプレート38が載置されている。
【0040】
図2、図4に示すように、ロックプレート38は、略円板状に形成されたプレート本体43を有している。プレート本体43の外径は、ウォームホイール16の収納凹部39の直径よりもやや小さく設定されている。これにより、ロックプレート38は、ウォームホイール16の収納凹部39に埋没した状態になっている。プレート本体43の径方向略中央には、ウォームホイール16側の面にウェイブワッシャ40を受け入れる平面視略円形状の凹部45が形成されている。さらに、凹部45の径方向中央には、センターシャフト28を挿通するための挿通孔44が形成されている。
【0041】
また、プレート本体43のウォームホイール16側の面には、ウォームホイール16の係合孔36に対応する部位に、軸方向平面視略扇状の凸部46が3箇所設けられている。この凸部46は係合孔36の第二孔36bに挿入された状態になっている。すなわち、ウォームホイール16が回転すると係合孔36の第二孔36bと凸部46とが係合し、ロックプレート38とウォームホイール16とが共回りするようになっている。各凸部46の端面には、後述するドライブプレート41の楔部52aを受入れ可能な凹部47が形成されている。
【0042】
この凹部47は、周方向中央から両端にかけて軸方向の高さが増加するように楔状に形成され、傾斜面47aを有している。これは、凹部47が形成されている凸部46の軸方向の高さが周方向中央に向かうに従って徐々に低くなっているといえる。
また、凹部47の周方向中央には、径方向全体に亘って溝48が形成されている。
【0043】
図2、図5に示すように、ウォームホイール16のロックプレート38とは反対側の面には、ドライブプレート41が設けられている。
ドライブプレート41は、略円板状に形成されたプレート本体50を有している。プレート本体50の径方向略中央には、センターシャフト28を挿通するための挿通孔51が形成されている。
【0044】
プレート本体50のウォームホイール16側の面には、ウォームホイール16の係合孔36に対応する部位に、軸方向平面視略扇状の凸部52が3箇所設けられている。凸部52は係合孔36の第一孔36aに挿入された状態になっており、凸部52の周方向の幅はロックプレート38の凸部46の周方向の幅よりもやや小さく設定されている。
ウォームホイール16の第一孔36aにドライブプレート41の凸部52が挿入されているので、ロックプレート38は、ウォームホイール16とクラッチ収納部18との間に配置された状態になると共に、ドライブプレート41とクラッチ収納部18との間に配置された状態になる。
【0045】
ドライブプレート41の凸部46は、ウォームホイール16が回転すると係合孔36の第一孔36aと係合し、ドライブプレート41とウォームホイール16とが共回りするようになっている。各凸部52の端面には、周方向中央から両端にかけて軸方向の高さが減少するように形成された楔部52aが設けられている。楔部52aは、傾斜面52a’を有している。
【0046】
プレート本体50の凸部52とは反対側の面には、略立方体状に形成された接続部53が設けられている。接続部53は、例えば、パワーウインド装置等に連結される部分であって、中央にプレート本体50の挿通孔51が連通されている。
すなわち、クラッチ機構4のうち、ウォームホイール16は、電動モータ2の回転軸7の回転がウォーム軸15を介して入力される駆動回転体の役割を有している。一方、ドライブプレート41は、駆動回転体であるウォームホイール16の回転をパワーウインド装置に出力する従動回転体の役割を有している。
【0047】
このようなクラッチ機構4のフェーシング材37、ロックプレート38、ウェイブワッシャ40、ウォームホイール16、およびドライブプレート41を貫通しているセンターシャフト28の先端は、ドライブプレート41の接続部53から突出した状態になっている。このセンターシャフト28の先端には、スラストプレート54、およびOリング55が挿入される。
【0048】
そして、センターシャフト28の雄ネジ部32にナット33が締結固定されることによって、フェーシング材37、ロックプレート38、ウェイブワッシャ40、ウォームホイール16、およびドライブプレート41のセンターシャフト28からの抜けが規制されると共に、それぞれセンターシャフト28に回転可能に軸支された状態になる。
また、ケーシング11のクラッチ収納部18には、開口部を閉塞する略円環状のボトムカバー56が設けられている。ボトムカバー56は、クラッチ収納部18内への塵埃の浸入を防止するためのものである。
【0049】
図2、図6に示すように、ボトムカバー56の中央からは、ドライブプレート41のみ突出した状態になっている。
したがって、フェーシング材37、ロックプレート38、ウェイブワッシャ40、およびウォームホイール16は、それぞれケーシング11のクラッチ収納部18内に完全に収納された状態になる。一方、ドライブプレート41は、プレート本体50の軸方向略中央から先端側がボトムカバー56から突出した状態になる。
【0050】
ボトムカバー56の内周縁には、クラッチ収納部18の内部の密閉性を高めるためにゴム製のシール部材57が設けられている。ドライブプレート41のプレート本体50は、シール部材57と摺動する。
この他に、ケーシング11には、内部に侵入した水を排水するためのブリザーキャップ59が設けられている。
【0051】
ここで、クラッチ機構4をケーシング11に組み付けた際、ウォームホイール16の係合孔36内において、ロックプレート38の凸部46とドライブプレート41の凸部52は、僅かにクリアランスを確保しつつ互いに軸方向で対向配置された状態になっている。すなわち、ロックプレート38の凸部46の端面に設けられている楔状の凹部47に、ドライブプレート41の凸部52の端面に設けられている楔部52aが臨まされている。このため、ロックプレート38、またはドライブプレート41の何れか一方のみが回転した場合、ロックプレート38の凹部47とドライブプレート41の楔部52aとが当接することになる。
【0052】
ウォームホイール16に形成されている第一孔36aの周方向の幅は、ドライブプレート41の凸部52がロックプレート38に対して周方向に移動した際、楔部52aとロックプレート38の凹部47とが当接可能な幅に設定されている。すなわち、ドライブプレート41は、ウォームホイール16の第一孔36a内において、楔部52aと凹部47とが当接するまで回転移動することができる。
一方、ウォームホイール16に形成されている第二孔36bは、第一孔36aよりも段差により周方向に幅広に形成されている。このため、ウォームホイール16が回転した際、第一孔36a、および第二孔36bの壁面がそれぞれドライブプレート41の凸部52とロックプレートの凸部46とに同時に当接するようになっている。
【0053】
(作用)
次に、図7(a)、図7(b)、図7(c)に基づいて、クラッチ機構4の作用について説明する。なお、以下の説明において、減速機付モータ1を車両に搭載されているパワーウインド装置に用いた場合について説明する。
まず、図7(a)に示すように、減速機付モータ1の電動モータ2を停止させた状態にあっては、ウォームホイール16の係合孔36内でロックプレート38の凸部46、およびドライブプレート41の凸部52がフリーな状態になっている。また、ロックプレート38は、ウェイブワッシャ40によってややフェーシング材37側に向かって押圧された状態になっている(図2参照)。
【0054】
図7(b)に示すように、電動モータ2を駆動させると、回転軸7、およびウォーム軸15を介してウォームホイール16が回転する(図7(b)の矢印参照)。すると、ウォームホイール16の係合孔36のうち、第一孔36aの壁面はドライブプレート41の凸部52に当接する。これと同時に係合孔36の第二孔36bの壁面はロックプレート38の凸部46に当接する。
【0055】
そして、このままの状態で、ウォームホイール16、ロックプレート38、およびドライブプレート41が共回りする。ドライブプレート41が回転すると、ドライブプレート41の接続部53に連結されているパワーウインド装置(不図示)に電動モータ2の回転が出力される。これによってパワーウインド装置が駆動し、車両のウインドガラスの開閉動作が行われる。
【0056】
一方、ウインドガラスの自重や車両走行時の振動等の外力によりウインドガラスが開こうとすると、パワーウインド装置を介してドライブプレート41に回転力が作用する。
図7(c)に示すように、電動モータ2が停止状態であって、かつドライブプレート41に回転力が作用すると、ウォームホイール16、およびロックプレート38は停止したままの状態でドライブプレート41のみが回転し始める(図7(c)の矢印参照)。
すると、ロックプレート38が停止したままであるので、ドライブプレート41の凸部52に設けられている楔部52aとロックプレート38の凸部46に設けられている凹部47とが当接する。
【0057】
ドライブプレート41は、楔部52aがロックプレート38の凹部47に当接した後、さらに回転しようとする。ここで、楔部52aが周方向中央から両端にかけて軸方向の高さが減少するように形成されていると共に、凹部47がこれを受入れ可能なように周方向中央から両端にかけて軸方向の高さが増加するように楔状に形成されていることから、ロックプレート38にフェーシング材37側に向かう力が作用する。すると、ロックプレート38がフェーシング材37を押圧することにより両者38,37の間の摩擦力がドライブプレート41の回転力よりも大きくなる。これによって、ロックプレート38の回転が阻止される。
【0058】
ここで、ドライブプレート41の回転力よりもロックプレート38とフェーシング材37との間の摩擦力を大きくするためには、フェーシング材37が有する摩擦係数に基づいてドライブプレート41の楔部52aの楔角を決定する必要がある。
より具体的に、図8、図9に基づいて説明する。
ドライブプレート41の楔部52aの傾斜面52a’に直交する方向と鉛直方向との間の角度を楔角α、フェーシング材37が有する摩擦係数をμ、ウインドガラスの自重や車両走行時の振動等の外力により生じるドライブプレート41の回転力をFとしたとき、ドライブプレート41が回転することによってロックプレート38に作用するフェーシング材37側に向かう力Pは、
P=F×cotα
となる。
したがって、ロックプレート38とフェーシング材37との間に生じる摩擦力(逆転力)Mは、
M=μ×P
となる。
このとき、摩擦力Mがドライブプレート41の回転力F以上になればよいので、
F≦M=μ×P
F=P×tanα
を満たせばよいことになる。
すなわち、楔角αは、
α≦tan−1μ
を満たすように決定すればよい。
【0059】
なお、ロックプレート38は、ウェイブワッシャ40によってややフェーシング材37側に向かって押圧された状態になっている(図8における矢印W参照)。しかしながら、このウェイブワッシャ40による押圧力は、ドライブプレート41が回転することによってロックプレート38に作用する力Pと比較して無視できる程度に小さく設定されている。すなわち、ウェイブワッシャ40は、ロックプレート38にフェーシング材37側に向かう予圧を付与することによって、楔部52aとロックプレート38の凹部47とが当接した際のロックプレート38のフェーシング材37への食い付きをよくする機能を有している。
【0060】
図9は、摩擦係数μと、これに基づいて決定した楔角αの最大角度の一例を示す表である。同図に示すように、フェーシング材37が有する摩擦係数μに基づいて楔角αの最大角度を決定することで、ウインドガラスの自重や車両走行時の振動等の外力によるドライブプレート41の回転をロックプレート38によって確実に阻止することが可能になる。
【0061】
ここで、摩擦係数μ=0.10である場合は、フェーシング材37を用いない場合の摩擦係数μとほぼ一致する。すなわち、ケーシング11において、クラッチ収納部18のエンド部18aは、0.10の摩擦係数μを有していることになる。したがって、ドライブプレート41の楔部52aの楔角αを最大5.7°に設定することにより、フェーシング材37を用いなくてもウインドガラスの自重や車両走行時の振動等の外力によるドライブプレート41の回転をロックプレート38によって阻止することが可能になる。
【0062】
なお、摩擦係数μが小さい場合、例えば、摩擦係数μ=0.10の場合に決定した楔角α(例えば、楔角α=5.7°)を有する楔部52aであれば摩擦係数μが0.10よりも大きい場合にも使用できると考えられる。しかしながら、楔角αが小さくなればなるほど加工が難しくなる。また、楔角αを小さくすればするほどドライブプレート41の楔部52aとロックプレート38の凹部47との軸方向のクリアランスを精度よく管理しなければ、両者52a,47が互いに当接し難くなってしまう。このクリアランスの大きさは、クラッチ機構4を構成する各部品の加工精度の公差によって決定されるので、必要以上に楔角αを小さくすると加工コストが増大してしまう。よって、これらを考慮しつつ楔部52aの楔角αを決定することが望ましい。
【0063】
さらに、ドライブプレート41の楔部52aの楔角α、および楔部52aとロックプレート38の凹部47との軸方向のクリアランスの大きさが変化することによって、ドライブプレート41の楔部52aとロックプレート38の凹部47との周方向の当接位置も変化することになる。
そこで、組み付け時の軸方向のクリアランスの大きさが変化することによってドライブプレート41の楔部52aとロックプレート38の凹部47との相互の軸方向の位置関係が変化しても楔部52aと凹部47とをできるだけ面接触させることが望ましい。このため、ロックプレート38の凹部47の傾斜面47aは、弓状に形成されている。
【0064】
より詳しく、図10、図11に基づいて説明する。
図10に示すように、ロックプレート38の凹部47は、これが形成されている凸部46の軸方向の高さが周方向中央に向かうに従って徐々に低くなるように楔状に形成されている。ここで、凸部46の軸方向の高さは、任意の径方向で同一となるように形成されている。
【0065】
すなわち、凸部46の周方向中央側の高さH1は、この部分の径方向において(図10における直線X部参照)、内周面側と外周面側とで高さが同一に設定されている。一方、凸部46の周方向外側の高さH2は、この部分の径方向において(図10における直線Y部参照)、内周面側と外周面側とで高さが同一に設定されている。凸部46は、軸方向平面視略扇状に形成されているので、内周面側の周長よりも外周面側の周長が長い。したがって、任意の径方向で軸方向の高さを同一にするとういことは、凹部47の傾斜勾配は、内周面側よりも外周面側が緩くなる。
【0066】
図11に示すように、凸部46の周方向外側の高さH2と周方向中央側の高さH1との高さ差H3は、ドライブプレート41の楔部52aの楔角α、ロックプレート38の凹部47の径方向中央部分の円弧距離L1、およびフェーシング材37が有する摩擦係数μに基づいて決定される。
すなわち、高さ差H3は、
μ≧tanα・・・(1)
α=tan−1(H3/L1)
より、
μ≧H3/L1
を満たすように決定する。
【0067】
ここで、凹部47の傾斜面47aは、弓状に形成されていることから、任意の周方向の位置によって楔角αが微小に変化することになる。しかしながら、この楔角αの微小変化を無視して高さ差H3を求める。
すなわち、まず、フェーシング材37が有する摩擦係数μに基づいてドライブプレート41の楔部52aの楔角αを決定する。続いて、この楔角αと、フェーシング材37の摩擦係数μと、ロックプレート38の凹部47の径方向中央部分の円弧距離L1とに基づいて高さ差H3を決定する。そして、この高さ差H3に基づいて凹部47の傾斜面47aを形成するようにする。これによって、径方向中央において(1)式を満たすことになる。つまり、径方向内側で(1)式を満たさなくても、面全体の平均では(1)式を満たすことになる。
【0068】
したがって、上述の第一実施形態によれば、ウインドガラスの自重や車両走行時の振動等の外力によりドライブプレート41に回転力が作用した場合であっても従来のようにコロを用いずにロックプレート38をケーシング11に押し当てる、つまり、ロックプレート38をフェーシング材37側に向かって押し当てることでドライブプレート41の回転を阻止することができる。ロックプレート38は、略円板状に形成されたプレート本体43を有しているので、従来のコロのようにケーシング11内で不安定な姿勢になることがない。このため、ロックプレート38がかじるおそれがなく、クラッチ機構4の動作を安定させることができる。
【0069】
また、ロックプレート38とケーシング11、つまり、クラッチ収納部18のエンド部18aとの接触面積を従来のコロを用いた場合と比較して大きく設定することができる。このため、ドライブプレート41の回転時に従来よりも大きな摩擦力をロックプレート38に付与することができるので、ドライブプレート41の回転を確実に阻止することができる。
【0070】
さらに、ロックプレート38に楔部52aが形成された凸部46を3箇所設けると共に、ドライブプレート41に凹部47が形成された凸部46を3箇所設け、これら楔部52aと凹部47とを互いに当接させてロックプレート38にフェーシング材37側に向かう力を付与している。このため、簡単な構造で、かつ動作の安定したクラッチ機構4とすることができ、製造コストを抑えることができる。
【0071】
そして、フェーシング材37が有する摩擦係数をμとしたとき、楔部52aの楔角αを
α≦tan−1μ
を満たすように決定しているので、外力によるドライブプレート41の回転をより確実に阻止できる。このため、信頼性の高いクラッチ機構4を提供できる。
【0072】
また、ロックプレート38の楔状の凹部47の軸方向の高さ、つまり、凸部46の軸方向の高さは、任意の径方向で同一となるように形成され、これによって凹部47の傾斜面47aが弓状になっている。このため、ドライブプレート41の凸部52に設けられている楔部52aと、ロックプレート38の凸部46に形成されている凹部47とが互いに局所的に当接してしまうことを防止でき、相互の軸方向の位置が変化しても面接触させることができる。よって、局所的な付加による楔部52aや凹部47の損傷を防止できる。また、凸部52の楔部52aと凹部47とを面接触させることで、できるだけ大きく確保することで外力によるドライブプレート41の回転を確実にロックプレート38に伝達することが可能になる。
【0073】
さらに、ロックプレート38の凹部47の傾斜面47aを形成するにあたって、凹部47の径方向中央で
μ≧tanα・・・(2)
を満たすように形成している。このため、径方向内側で(2)式を満たさなくても、面全体の平均では(2)式を満たすことになり、より確実にドライブプレート41の回転を阻止できる。
そして、フェーシング材37をロックプレート38とクラッチ収納部18のエンド部18aとの間に設けることによって、ロックプレート38に十分な摩擦力を容易に付与することができる。このため、より確実に外力によるドライブプレート41の回転を阻止することが可能になる。
また、ウォームホイール16を電動モータ2の回転軸7の回転がウォーム軸15を介して入力されるクラッチ機構4の駆動回転体として機能させている。このため、従来のように駆動回転体を別途設ける必要がなく、部品点数を減少させることができる。
【0074】
(第二実施形態)
次に、この発明の第二実施形態を図1を援用し、図12、図13に基づいて説明する。なお、第一実施形態と同一態様には、同一符号を付して説明を省略する。
この第二実施形態において、減速機付モータ1は、電動モータ2と電動モータ2に連結されたウォーム減速機3とを備え、ウォーム減速機3にクラッチ機構64が内装されている点、ウォーム減速機3は、ケーシング61と、このケーシング61に収納されたウォームギア9とを有している点、ウォームギア9のウォームホイール16は、ウォームギア9の他方を構成していると共に、クラッチ機構64の一部を構成している点、ウォームホイール16を挟んでこの軸方向両端にドライブプレート41とロックプレート68が配置されている点、ロックプレート68の凸部46とドライブプレート41の凸部52とがウォームホイール16の係合孔36内で互いに僅かに軸方向にクリアランスを確保しつつ対向配置された状態になっている点等の基本的構成は、上述の第一実施形態と同様である。
【0075】
ここで、この第二実施形態のクラッチ機構64は、フェーシング材37が設けられておらず、かつロックプレート68とケーシング61のクラッチ収納部62との間の摩擦力を増大させるために、ロックプレート68とクラッチ収納部62とがテーパ嵌合されている。
【0076】
クラッチ収納部62のエンド部62aには、ロックプレート68を受け入れる凹部49の周縁に、エンド部62aから立ち上がるように形成されたリング状の嵌合部69が設けられている。嵌合部69の内周面には、基端側から先端側に向かうに従って徐々に拡径されるように斜面(テーパ面)69aが形成されている。
一方、ロックプレート68のプレート本体43には、外周面に嵌合部69の斜面69aに対応するように、クラッチ収納部62のエンド部62a側に向かうに従って先細りに形成された斜面(テーパ面)68aが設けられている。すなわち、嵌合部69の斜面69a、およびロックプレート68の斜面68aは、ロックプレート68とケーシング61との摺動部分として設定されている。
【0077】
(作用)
次に、図12に基づいて、クラッチ機構64の作用について説明する。
ここで、車両のウインドガラスの開閉動作を行うために、電動モータ2を駆動させる場合のクラッチ機構64の作用については前述の第一実施形態と同様である。
一方、ウインドガラスの自重や車両走行時の振動等の外力によりドライブプレート41が回転した場合、ドライブプレート41の凸部52に設けられている楔部52aとロックプレート68の凸部46に設けられている凹部47とが当接する。そして、ロックプレート68にクラッチ収納部62のエンド部62a側に向かう力が作用する。
【0078】
このとき、ロックプレート68の斜面68aが嵌合部69の斜面69aを径方向外側に押し広げようと押圧し、両者68a,69aの間の摩擦係数μ’が増幅する。そして、摩擦係数μ’が増幅するに伴って増幅した摩擦力Mがドライブプレート41の回転力Fよりも大きくなり、ロックプレート68の回転が阻止される。これによって、外力によるドライブプレート41の回転が防止される。
【0079】
ここで、ロックプレート68の斜面68aと嵌合部69の斜面69aとの間の摩擦係数μ’の増幅率は、各斜面68a,69aの軸方向に対する傾斜角度α’に基づいて決定される。
すなわち、ロックプレート68に作用するエンド部62a側に向かう力をP、各斜面68a,69aが有する摩擦係数をμ、ロックプレート68の斜面68aが嵌合部69の斜面69aに対して垂直に押圧する力をQ
としたとき、摩擦力Mは、
M=μQ
となる。
Qは、
Q=P/sinα’
により求めることができるので、摩擦力Mは、
M=μ×P/sinα’・・・(3)
となる。
一方、Pに対して作用する摩擦係数をμ’としたとき、摩擦力Mは、
M=μ’P・・・(4)
となる。
【0080】
ここで、(3)式と(4)式とを比較すると、
μ’=μ/sinα’
が求められる。
このため、傾斜角度α’が変化することによって摩擦係数μ’が変化することが確認できる。つまり、摩擦係数μ’の摩擦係数μに対する増幅率(×)をXとすると、増幅率Xは、
X=μ’/μ=1/sinα’
により求めることができる。
したがって、傾斜角度α’が小さくなればなるほど、増幅率Xが増大することが確認できる。また、傾斜角度α’は、
F≦M
を満たすように決定すればよい。
【0081】
図13は、傾斜角度α’(°)と増幅率Xとの関係の一例を示す表である。
なお、傾斜角度α’が小さくなればなるほど加工が難しくなるので、ドライブプレート41の楔部52aとロックプレート68の凹部47との軸方向のクリアランス、および外力によるドライブプレート41の回転力Fを考慮しつつ、傾斜角度α’を決定することが望ましい。この第二実施形態においては、傾斜角度α’=15°程度が望ましい。
【0082】
したがって、上述の第二実施形態によれば、嵌合部69の内周面に、基端側から先端側に向かうに従って徐々に拡径されるように斜面(テーパ面)69aが形成されているので、前述した第一実施形態と同様の効果に加え、第一実施形態に対して、フェーシング材37を設けることなく確実にドライブプレート41の回転を阻止することができる。このため、部品点数を減少させることができ、低コストで安定した動作を行うことができるクラッチ機構64を提供することができる。
【0083】
なお、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述の実施形態に種々の変更を加えたものを含む。
また、上述の第一実施形態では、ロックプレート38の凹部47の傾斜面47aを形成するにあたって、まず、楔角αを決定し、この楔角αと、フェーシング材37の摩擦係数μと、凹部47の径方向中央部分の円弧距離L1とに基づいて高さ差H3を決定した後、この高さ差H3に基づいて凹部47の傾斜面47aを形成する場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、凹部47の内周面側であって、かつ周方向中央側の傾斜角度を所定の条件のもと決定される楔角αの最大角度に設定してもよい。この場合もロックプレート38に設けられている凸部46の周方向外側の高さH2と周方向中央側の高さH1との高さ差がH3となるように凹部47の傾斜面47aを弓状に形成する。このように形成することにより、凹部47の傾斜勾配は、内周面側よりも外周面側が緩くなるので、ロックプレート38とフェーシング材37との間の摩擦力を最大限に発揮させることが可能になる。
さらに、ロックプレート38の凹部47に代わって、ドライブプレート41の楔部52aの傾斜面52a’を弓状に形成してもよいし、楔部52aの傾斜面52a’、および凹部47の傾斜面47aの両者52a’,47a共に弓状に形成してもよい。
【0084】
そして、上述の実施形態では、ドライブプレート41の凸部52に楔部52aを設ける一方、ロックプレート38,68の凸部46に楔状の凹部47を設けた場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、ロックプレート38,68の凸部46に楔部52aを設ける一方、ドライブプレート41の凸部52に楔状の凹部47を設けてもよい。
【0085】
また、上述の実施形態では、ウォームホイール16に3つの係合孔36を形成する一方、ロックプレート38に3つの凸部46を設けると共に、ドライブプレート41に3つの凸部52を設けた場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、係合孔36、および凸部46,52をそれぞれ少なくとも1つ設けてあればよく、また3つ以上設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の実施形態における減速機付モータの斜視図である。
【図2】本発明の第一実施形態におけるウォーム減速機の分解斜視図である。
【図3】本発明の実施形態におけるウォームホイールの斜視図である。
【図4】本発明の第一実施形態におけるロックプレートの斜視図である。
【図5】本発明の実施形態におけるドライブプレートの斜視図である。
【図6】図1のA−A線に沿う断面図である。
【図7】本発明の第一実施形態におけるクラッチ機構の作用説明図であって、(a)は電動モータ停止時を示し、(b)は電動モータ駆動時を示し、(c)はドライブプレート回転時を示す。
【図8】本発明の第一実施形態におけるクラッチ機構の説明図である。
【図9】本発明の第一実施形態における摩擦係数と楔角との関係の一例を示す表である。
【図10】本発明の実施形態におけるロックプレートの一部拡大斜視図である。
【図11】本発明の実施形態におけるロックプレートの説明図である。
【図12】本発明の第二実施形態におけるクラッチ機構の縦断面図である。
【図13】本発明の第二実施形態における傾斜角度α’と摩擦係数μ’の摩擦係数μに対する増幅率との関係の一例を示す表である。
【符号の説明】
【0087】
1 減速機付モータ
2 電動モータ
3 ウォーム減速機(クラッチ付減速機)
4,64 クラッチ機構
7 回転軸
11,61 ケーシング
15 ウォーム軸
16 ウォームホイール(駆動回転体)
17 ウォーム軸収納部
18,62 クラッチ収納部
28 センターシャフト
36 係合孔
37 フェーシング材(摩擦部材)
38,68 ロックプレート
41 ドライブプレート(従動回転体)
46 凸部(第二凸部)
47 凹部(第二先端面)
47a 傾斜面
52 凸部(第一凸部)
52a 楔部(第一先端面)
52a’ 傾斜面
68a,69a 斜面(摺動部分)
69 嵌合部
α 楔角(傾斜角度)
μ 摩擦係数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータの回転が入力される駆動回転体と、
前記駆動回転体と係合し、前記電動モータの回転を出力する従動回転体と、
これら駆動回転体と従動回転体とを収容するケーシングと、
前記ケーシングと前記従動回転体との間に配置されたロックプレートとを備え、
前記電動モータの回転によって前記駆動回転体が回転するとき、該駆動回転体によって前記従動回転体と前記ロックプレートとが同時に回転される一方、
前記駆動回転体よりも先に前記従動回転体が回転するとき、該従動回転体によって、前記ロックプレートが前記ケーシング側に向かって前記従動回転体の軸方向に沿って押圧され、これによって生じる前記ロックプレートと前記ケーシングとの間の摩擦力が前記従動回転体の回転を阻止するように構成されていることを特徴とするクラッチ機構。
【請求項2】
前記駆動回転体に、軸方向に貫通する複数の係合孔を周方向に沿って形成し、
前記駆動回転体の軸方向一端面に前記従動回転体を配置し、この従動回転体に、前記係合孔に挿入される第一凸部を形成し、
前記駆動回転体の軸方向他端面に前記ロックプレートを配置し、このロックプレートに、前記係合孔に挿入される第二凸部を形成し、
前記従動回転体の回転によって、前記第一凸部が前記第二凸部に対して周方向に移動すると、前記第一凸部と前記第二凸部とが互いに干渉し、前記第二凸部が前記ケーシング側に押圧されることを特徴とする請求項1に記載のクラッチ機構。
【請求項3】
前記第一凸部の第一先端面と前記第二凸部の第二先端面とは、相互に対向配置され、
前記第一先端面、および前記第二先端面のうち何れか一方は、周方向中央から両端にかけて高さが減少する傾斜面を有し、
前記第一先端面、および前記第二先端面のうち何れか他方は、周方向中央から両端にかけて高さが増加する傾斜面を有することを特徴とする請求項2に記載のクラッチ機構。
【請求項4】
前記第一先端面の傾斜面、および前記第二先端面の傾斜面の傾斜角度をα、前記ケーシングと前記ロックプレートとの間の摩擦係数をμとしたとき、
傾斜角度αは、
α≦tan−1μ
を満たすように設定されていることを特徴とする請求項3に記載のクラッチ機構。
【請求項5】
前記第一先端面の傾斜面、および前記第二先端面の傾斜面の少なくとも一方は、径方向に沿って高さが同一に設定されていることを特徴とする請求項3または請求項4に記載のクラッチ機構。
【請求項6】
前記第一先端面の傾斜面、および前記第二先端面の傾斜面は、
これら傾斜面の傾斜角度αが径方向の中央で
α≦tan−1μ
を満たすように形成されていることを特徴とする請求項5に記載のクラッチ機構。
【請求項7】
前記ロックプレートと前記ケーシングとの間に、前記ケーシングより摩擦係数の大きい材料からなる摩擦部材を配置したことを特徴とする請求項1〜請求項6の何れかに記載のクラッチ機構。
【請求項8】
前記ロックプレートと前記ケーシングとの摺動部分をテーパ状に形成したことを特徴とする請求項1〜請求項6の何れかに記載のクラッチ機構。
【請求項9】
請求項1〜請求項8の何れかに記載のクラッチ機構の駆動回転体をウォームホイールとし、
このウォームホイールに噛合い、かつ前記電動モータに連結されるウォーム軸を設けたことを特徴とするクラッチ付減速機。
【請求項10】
請求項9に記載のクラッチ付減速機に前記電動モータを取り付け、
前記電動モータの回転軸と前記ウォーム軸とを相対回転不能に連結したことを特徴とする減速機付モータ。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−48353(P2010−48353A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−213958(P2008−213958)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【出願人】(000144027)株式会社ミツバ (2,083)
【Fターム(参考)】